岩手県陸前高田市の避難所となっている「和野会館」が31日に閉鎖される。もともとは地区の集会所だが震災で地区外の住民も身を寄せ、ボランティアで運営してきた少数の地元住民の疲労が限界に達したという。避難者の減少や学校の再開などに伴う統廃合はあるが、こうしたケースは珍しい。住民は「行政は市民に運営を丸投げせず、責任を持ってもらいたい」と話す。【岡大介、松本光央】
木造平屋の和野会館は上和野地区の集会所。震災直後の約120人からは大幅に減ったが、28日現在23人が避難している。地区の自主防災会を中心に50人いた運営スタッフも、農繁期に入ったことなどから5、6人に減った。
防災会事務局長、千葉浩一さん(68)は震災直後から毎日午前9時ごろ、無事だった自宅から通ってきて、物資の搬入・配給や希望数のとりまとめなどをこなす。知人や親戚の家に逃れた500人以上いる地区の在宅避難者数の増減も、市に報告している。
休んだのは1日だけ。盛岡市のかかりつけ医に心臓病の薬をもらいに行くためだった。いとこを津波で亡くし、親戚も病死したが、葬儀に行けなかった。体重も8キロ減ったという。看護師資格を持つ女性3人も4月までは休み無しで、今も交代で通う。
当初は4月末で避難所としては閉鎖する予定で、市に避難者の移動や意向調査を求めた。しかし、反応が鈍く、しびれをきらして一方的に閉鎖を宣告。市や避難者と話し合った結果、延長が決まった。その後は避難者が夜勤などを担当するようになるなど助け合いが始まったが、疲労は積み重なった。
避難者は別の施設などに移る。会館に母、妻、娘と孫の家族8人で暮らす男性(56)は「新しい場所へ行くのは不安だが、いつまでも世話になってはいられない」と話す。
26日夜、スタッフと避難者は「解散会」と称して食事をともにした。千葉さんは「せっかく分かり合えたのに出てもらうのはつらい。目の前に困る人がいれば助けたいが、限界なんだ」とつぶやく。
厚生労働省によると、避難所は災害対策基本法に基づき市町村が設置、運営や人員配置についての規定はない。市内には現在46カ所の避難所があり、避難者や住民が自主運営している。避難所担当の細川文規・市農林水産部長は「地元住民には頭が下がる思いだ。運営が厳しくなったという声があれば、今後は迅速に対応したい」と話している。
毎日新聞 2011年5月28日 19時52分(最終更新 5月28日 19時56分)