■当時の国交省住宅局長を直撃!
耐震偽装事件が発覚したときの国交省住宅局長は、山本繁太郎氏だ。彼は現在、国交省を勇退し、次期国政選挙に自民党から出馬予定の政治家に転身していた。筆者は、山本氏の地盤である山口県柳井市へと飛んだ。
そこで筆者は山本元局長の目前に一冊の本を差し出す。本のタイトルは『国家の偽装 これでも小嶋進は有罪か』(講談社)。小嶋氏の友人だったことで事件に巻き込まれ、大田区議会議員を辞職していた有川靖夫氏の著書だ。本を手に取りながら、それまで柔和だった山本氏の顔つきが突如、険しくなる。筆者は山本元局長に、小嶋氏の逮捕・勾留は冤罪ではないかと疑っていることを伝えた。
山本氏は早口で語り始めた。
「そういう観点からの取材ということはよくわかりました。要するに小嶋さんは、白か黒かを最終的に判断するのは『建築確認』であり、建築確認検査機関を指定した(国交省の)大臣に責任があると誤解しておられた。だけど、法律における最終責任者は建築主であり、ヒューザーの小嶋さんが最終責任者なんですね。自分が選んだ建築士が自分をだましたとしても、建築確認をしたおまえ(=国交省)の責任だ、という話にはならないんです」
――でも、山本さんの部下だった建築指導課長は、小嶋さんに対して「国の責任」であることを認めていたようですし、「国にも責任があるなら建て直すのを助けてほしい」と、小嶋さんは国に低利融資を要望していたそうじゃないですか。それがかなわないなら国家賠償請求の裁判を起こすと、当時の小嶋さんは考えていたそうです。
「残念ながら小嶋さんは、建築主の責任を負い切れなかったから、会社(ヒューザー)が潰れたんです」と言った後に、山本氏は衝撃的な事実を明かした。
「実は、建築確認が通ったヤツで違法な建築物になってしまったケースがすごくたくさんあるんですよ。故意ではなく懈怠(怠慢して責任を果たしていないこと)で。そうした判例もすごくあるんです」
どうやら国交省では、違法な建築物が建ってしまうことなど“いつものよくある話”であり、建築確認が有名無実化している実態もしっかりと把握していたようだ。
その証拠に、イーホームズの藤田社長が耐震偽装の発覚を国交省に電子メールで通報した際、担当は、「本件につきましては、当方(=国交省)に対して特にご報告いただく必要はございません」と、大変ツレない返事をしている。
藤田氏の著書『完全版 月に響く笛 耐震偽装』(講談社)のなかで藤田氏は、この返事を受け取った際の心境を次のように書いている(カッコ内は筆者)。
「なぜここで(国交省は)突き放したのか考えざるをえなかった。『建築主、ヒューザーとの間で問題を黙殺せよ』という意味だったのか。それが、このメールの合理的な解かもしれない。今となって思えば、そう考えるべきだろう。隠蔽せよという意味であり、指示だったのだ」
だが、その読みはまったく的外れだった。国交省にしてみれば、姉歯氏の偽装の仕方と偽装が発覚した建物の数が前代未聞だっただけで、基本的には“いつものよくある話”のひとつにすぎなかった。イーホームズ同様、姉歯氏の耐震偽装を見逃していた日本ERIや神奈川県藤沢市などの「検査機関」は、「その後の対処を誤らなかった」ため、今も健在である。
そう、藤田氏は「耐震偽装を公にする」だけならまだしも、国の建築確認制度が有名無実化している実態まで公にするという“誤った対処”をしたために潰されてしまったのだ。
そして、それはヒューザーの小嶋社長にしても同様だった。彼も対処の仕方を誤り、国交省に「国の責任」を認めるようケンカを売ってしまったのだ。
昨年末、小嶋氏を初めて取材した際、彼はこう語っていた。
「僕はウチのマンションを買ってくれたお客さんを守ろうと思い、いきり立ったんですが、守りきれなかった……。僕を信用してくれたお客さんを裏切ってしまった。多大な二重ローンを組ませて、本当につらい思いをさせてしまっています。短絡的に僕が国交省に責任を認めるよう要求したことが反省点です。国に対して正義感を求めたのが稚拙だった。バカだった。本当に反省しなければならない」
姉歯氏の耐震偽装発覚によって破産に追い込まれたマンション販売会社はヒューザーだけである。「国の責任」を追及しようなどと思わなければ、今なおヒューザーは存続していた可能性さえある。
しかし……藤田氏や小嶋氏がとった行動は、会社を潰されなければならないほど悪いことや間違ったことなのだろうか? 国交省がなんの責任も問われないままでいいのだろうか?
とにかく、小嶋氏は国交省の責任追及に失敗した。その小嶋氏に次の災難が降りかかる。自身の「逮捕」だ。
最終回の次回は、小嶋氏逮捕の理由とされた「詐欺」の検証と、マスコミの犯した「罪」にメスを入れる。
(取材・文/ルポライター・明石昇二郎とルポルタージュ研究所)