【短期集中連載】追及!耐震偽装事件の真実 第1回「ヒューザー小嶋進はなぜ“無罪で抹殺”されたのか?[前編]

[2011年03月31日]


2005年11月、日本中を巻き込む大騒動となった耐震偽装マンション・ホテル事件が発覚した。なかでもその“首謀者”として強烈な印象を残したのが、マンション販売会社・ヒューザーの小嶋進社長だ。
当時、いかにも“悪人面”のこのオッサンを誰もが極悪人と信じて疑わなかった。だが、この小嶋氏、実は報道とは真逆の“誠実な人”のようなのだ。
となると、本当に悪いのは誰なのか? あの大騒ぎはいったいなんだったのか? その真相を本誌があらためて調査したところ、われわれが信じ込まされてきた話とはまったく違う真実が見えてきた!

■「耐震偽装」事件を覚えていますか?

今から5年ほど前、2005年11月に発覚した「耐震偽装マンション・ホテル」事件――。いったいどんな事件で、その結末がどうなったか、ご存じだろうか? 正直に告白すれば、筆者は今回の記事を書くことになるまで、この事件をすっかり忘れていた。「よく知らないうえ、興味もなかった」と言ったほうが正確かもしれない。

それでも、テレビ・新聞・雑誌、果ては国会の場にまで登場し、責任のなすり合いを繰り広げていた“疑惑の主人公”たちのことは鮮明に覚えている。

感情を表に出さずに訥々と話し、その髪型から“かつら疑惑”も浮上していた姉歯秀次・一級建築士。彼は国会での証人喚問の際、

「木村建設の篠塚氏から鉄筋の量を減らすよう相当のプレッシャーをかけられました」「私ひとりでできることではない」と証言し、関係者と共謀のうえ耐震偽装は行なわれた―――と話していた。

姉歯氏に「プレッシャーをかけていた」と名指しされ、さらには約200万円のリベートを渡した相手とされた篠塚明・木村建設元東京支店長は、広いおでこが印象的だった。

「偽装には一切関与していない」と反論したものの、リベートが事実だったことが痛手となり、「姉歯氏の共犯者」ではないかと疑われた。

そして、この事件が世間に広く知られるきっかけをつくったのが、民間の建築確認検査機関・イーホームズの藤田東吾社長である。

「巧妙な偽装を当社が見抜いたことを評価してほしい」と胸を張りつつ、マンション販売会社の社長から事件の公表を控えるよう圧力がかかったのを拒否して、正義感から事件を公表したと、お役人みたいな面持ちで主張。国会での参考人招致のときは、「もし偽装が意図的・人為的に行なわれるのであれば、一番利益を得るのはデベロッパー(開発業者)だろう」と、「耐震偽装」の主犯をヒューザーと想定し、イーホームズで調査していたことを明らかにした。

その結果、疑惑の目が一斉に向けられることになったのが、マンション販売会社・ヒューザーの小嶋進社長だ。当時、世間の注目を集めていたホリエモンこと堀江貴文氏になぞらえ、自らを“オジャマモン”と呼んでほしいと軽口を叩き、世間の反感を買っていた。

テレビで生中継された国会での参考人招致の際には、イーホームズ藤田社長の証言に対し、「何言っているんだよっ!」「ふざけんじゃないよ!」と、甲高い声で叱り飛ばし、さらなる反感を一身に集める。

耐震偽装をした姉歯氏やそれを見逃した藤田氏に対する怒りのためか、マスコミに登場するときの彼の顔は常に目つきが鋭く、見るからに“悪人面”をしていた。

このように、登場人物の面々はそれぞれ大変魅力的なキャラクターだったのである。

■大山鳴動して、「姉歯」一匹?

ところで、当時語られていた「耐震偽装のシナリオ」(以下、「偽装のシナリオ」)は、大筋でこんなものだった。

「マンション販売会社(=小嶋氏)と建設会社(=篠塚氏)、そして一級建築士(=姉歯氏)らが結託し、建設コストを下げるため、地震の耐震強度データを改竄。そうして建てた格安マンションを売りまくり、私腹を肥やしていたばかりか、その事実を隠蔽しようと政治家まで動かしていた―――」

“疑惑の主人公”たちは、豪邸や高級住宅地のマンションに住んでいたり、高級外車や自家用飛行機を乗り回していた。週刊誌からは“これが私腹を肥やしていた物的証拠”と報道され、警察の捜査も「偽装のシナリオ」に沿って進められた。「小嶋氏と関係あり」として名前の挙がった国会議員たちもまたマスコミの格好の餌食となる。

当時の新聞記事にはこう書かれている。
「『どんな手を使ってもがけを上る』。偽装発覚直後の警視庁幹部の宣言通り、捜査本部は法令を駆使し、容疑事実をあぶり出した」(『共同通信』06年4月26日配信記事)

「『目標は詐欺容疑での立件。それができなければ、世論の支持は得られない』(中略)全国約120か所の捜索が行われた昨年12月、警察幹部は強い決意を見せていた」(『読売新聞』06年4月27日付朝刊)

このように警察幹部たちは、別件逮捕であろうが「とにかく捕まえること」を優先し、「真相の解明」はそれから行なえばいいと考えていたフシがある。

そんな警察や報道陣が考える事件の本丸は、“悪人面”したヒューザー・小嶋社長であることは明白だった。そして、マスコミや世間の期待に応えるべく、警察は“疑惑の主人公”たちを次々と逮捕していく。

クライマックスは、06年5月17日の小嶋社長逮捕である。彼にかけられた容疑は、警察幹部が予告していたとおりの「詐欺」だった。だが、事件はこれにて一件落着―――とはならなかった。

(取材・文/ルポライター・明石昇二郎&ルポルタージュ研究所)

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