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きょうの社説 2011年5月29日
◎工場の土日操業 自動車以外にも広げたい
平日よりも電力需要の少ない土日に工場を動かし、平日を休みにする自動車業界の節電
対策が北陸にも広がる兆しが出てきたのは心強い。大量の電力を消費する工場の生産力を落とさずに、ピーク時の電力消費を減らすことができれば、夏場の電力不足解消に役立つ。北陸の場合、夏場の土日の電力消費量は平日より3割程度少なく、土日操業は特に有効だ。電機や機械、アルミなど自動車関連以外のメーカーも積極的に導入を検討してほしい。日本自動車工業会は既に7〜9月の3カ月間、加盟各社の工場が木、金を休業日とし、 代わりに土日を稼働日とすることを決めた。土日操業となれば、企業側は休日手当の支給で経費がかさみ、労働組合の協力を得る必要もあるが、電力消費量が一瞬でも供給量を上回ると、予測不能な大規模停電が起こり、大混乱に陥るのは避けられない。国民生活や経済活動への影響は計り知れないだろう。 東京電力管内では、大手各社がサマータイムの導入や操業の夜間シフト、LED照明の 導入、輪番制の店舗休業などに取り組んでいる。多くの企業の場合、平日を休みにすると業務に支障が出るため、休日の振り替えは難しいが、生産工場ならば、土日の操業は比較的問題が少ない。サービスや営業部門はこれまで通り土日を休みとし、生産部門だけを土日操業とする企業や、通年は旧盆時期に設定されている夏季休暇を分散化するところもある。 志賀原発1、2号機が停止中の北陸電力管内では夏場、526万キロワットの需要が見 込まれるのに対し、志賀原発を除く供給力は現在、最大で497万キロワットしかない。北電は定期検査時期をずらすなどして電力確保に努める考えだが、十分な予備率を確保するのはかなりの困難を伴うだろう。 ただし、節電の努力は必要だが、多くの企業が一斉に生産力を減らしてしまうと経済活 動が縮小し、「震災不況」を引き起こす恐れがある。生産力を維持して節電を可能にするために、企業側の努力が欠かせない。北電は節電への協力を求める一方、8月の電力消費のピークに向けて供給量の引き上げに全力を挙げてほしい。
◎可視化の導入 検証重ねて範囲拡大を
検察、警察を問わず、取り調べ可視化(録音・録画)拡大の流れはもはや避けられない
だろう。東京地検特捜部が特別背任事件で初めて取り調べ全過程の可視化に踏み切ったのも、捜査の在り方を変える大きな一歩である。無期懲役になった男性2人が再審で無罪が言い渡された布川事件は44年前の発生だが 、同じような見込み捜査や自白の強要は今も後を絶たず、埼玉県警では選挙違反事件で、飲食接待されたとされる支持者らに虚偽の証言を強要した疑惑が新たに浮上している。 裁判で自白の任意性、信用性が争われる事例が多いのは、取り調べに問題を抱えている からだろう。可視化は適正な取り調べを促すとともに、自白の証拠価値を高めるなど捜査側にとっても利点がある。物証が極めて乏しい事件ではとりわけ大きな意味をもつ。 一方で、現場では自白が得られにくくなるとして抵抗感も根強く、組織犯罪や暴力団が 絡む事件などでは関係者の証言が引き出せないとの懸念も出ている。このように功罪が相半ばする現状では、いきなり全面可視化に移行するのは難しいだろう。捜査機能が損なわれるとしたら、事例を重ねてそれを実証していく必要がある。 可視化論議で大事な視点は、捜査全体のなかで取り調べの役割を位置づけ、刑事司法改 革の議論を加速させることである。 警察庁の有識者研究会が海外の制度を調査した中間報告では、可視化に向けた新たな捜 査手法として、通信傍受の対象拡大や会話傍受制度の導入、DNAのデータベース拡充、司法取引などが検討課題に挙げられた。海外では有罪確定者からの強制的なDNA採取や性犯罪者のGPS監視、容疑者の黙秘権制限、捜査員が身分を隠す潜入捜査の制度化など取り調べを補う多様な捜査手法がみられる。 日本も自白偏重捜査の是正を機に、客観的な証拠を集めやすくする捜査の在り方を考え る必要がある。取り調べ以外の場面で容疑者の言動を把握する仕組みも検討課題である。各国の状況も参考に、日本の土壌に合った制度設計を進めたい。
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