福島第一原発 動作モデル
Fukushima
nuclear power plant
Model
behavior
自己紹介します
。
ぼくは沸騰水型原子炉、BWRとも呼ばれています(Boiling Water Reactor)。このたびのこと、大変悲しい思いで一杯です。でもぼくの構造や働く仕組みを多くの人に知っていただくことが今は大切な役割と思い、ここに登場しました。よろしくお願いします
発電の仕組みは蒸気機関車とおなじ:熱エネルギー→水を蒸気に→運動エネルギー
ぼくたち原子炉は、炉心の核分裂で多量の熱エネルギーを作ります。この熱は炉内に満たされた多量の水を温め、さらに高圧蒸気を発生させ主蒸気管で発電棟に送られます。ここで蒸気はタービンを回して電気を発電します。
水を温めて蒸気に変える、そして様々な仕事をさせる。ワットの蒸気機関車はマキを燃やしますが、その後は現代の最新鋭の原子力電所まで全く同じ原理です。
原子力発電所はマキの替わりに核分裂の熱を使う:水のもうひとつの役割
ところで、原子炉内の水はもう一つの役割があります。
熱エレルギーを得るためには、中性子をウランに当てて核分裂させる必要があるのですが、核分裂時に発生する中性子は高速すぎてうまくウランに命中できないのです。
そこで中性子をいったん水の分子に衝突させて減速させます。すると高速中性子は熱中性子にかわり、今度はうまくウランと衝突して核分裂を続ける(臨界状態という)ことができます。このように水は核分裂のさいの中性子の減速材としても使われます。
また、逆に中性子が増えすぎても困ります。こんなとき中性子を吸収する物質で出来た制御棒を炉内の核分裂が進行中のウラン燃料の間に出し入れして原子炉の起動や停止、出力を調節させることができます。
炉内の水は終身刑、蒸気になっても自由はない!
タービンで発電機を回して役目を終えた蒸気は、海水で冷やされた復水器を通って元の水に戻ります。そしてポンプで再び炉心に帰ります。
このように炉内の水は必ず循環して使用されます。他の動力機関と原子力発電とは蒸気を利用する原理は同じでも、原子力発電ではこの循環サイクルは絶対に守らなければなりません。放射能で直接に汚染された水や蒸気を外に出すことはできないからです。
汽船や蒸気機関車が蒸気を出して汽笛を鳴らすカッコいい場面なんて私にはとてもマネできません。
台所の圧力釜が圧力を下げるため、時々弁を開いて蒸気を逃がす、なんて聞いたらもう気絶してしまいます。
ぼくは体全体が巨大な圧力釜みないな構造ですが、そのような弁を使わずに圧力を調節(例えば蒸気を強制的に圧力制御室のプールに送って水に戻すと体積は約1240分の1に減少します。減圧といいます)しています。
シモの、誰にもいえない恥ずかしい悩み
体の仕組みが複雑なので、体調が悪いときには隠れてオナラしたいときもあるのですがそれは重大な犯罪なんです。トホホ。(図中にウワサのかくし弁が記載されていますが使用できないように封印?されています)
実は放射能を除去したり、その物質を処分するという技術はまだ充分に確立していません。これもウン命、核物質を燃料としているための、厳しい宿便、いや宿命です。
トイレの神様、どうかぼくにも自由に使えるトイレを作ってください!
水を閉じ込めるための壮絶なたたかい
炉内の水は蒸気になって、その配管はそのまま発電棟まで伸びています。炉心だけでなく高速で回転するタービン内や多くの配管内も高温、高圧状態は続きます。
とりわけ復水器や熱交換機は炉内の高温、高圧蒸気と炉外の低温、低圧の海水が熱交換のために出会う「面会室」です。しかし、(刑事ドラマでもお馴染み?のように)この2人が面会室で勝手に行き来することは決して許されません。なのに可能な限り(熱効率を上げるため)薄い合金や細管をはさんで接するよう作らなければいけません。ほくはこの40年間、放射能を外に漏らさないようこれら合金の金属疲労や腐食、減肉、わずかなピンホールなどの監視と、気の遠くなりそうな作業に日々たたかっていたのです。
安全性はこうして決められています
非常用の機能だけでなく高温、高圧に何十年も耐える炉心の溶接など、すべてが安全上とても重要です。これらを製造するのはもっとも高い技術が必要です。しかし「発電」という事業は一つの経済活動なのでどこかで(会社としてはなるべく安く)基準と計画を決めなければ作れません。そして国民の不安や危険を防ぐため、電力会社の計画は国が事前に安全性をチェックして認可するという建前になっています。
でも両者が同じことを考えていたら、この機能はうまく働きません。
ぼくら原子力に加えて石油、天然ガス、自然、バイオなどの発電事業各社の申請を
国が中立の立場から安全性を基準に判断、認可すれば
一挙解決ですね。1社で供給力が不安なら複数を認可すればさらにグッドです。
そうなれば、死にかけたといわれる日本経済ですが国中の名のある会社は惜しみなく投資に走り、それぞれが得意な技術開発に没頭するに違いありません。こんなチャンスを逃したら株主も黙っていません。年間何兆円が確実なビジネスなんてそんなにないのですから。そして5年後にはエネルギー技術大国、もしかしたらエネルギー大国も不可能ではありません。
でも、最後に自分のことでお願いが一つ。長年つとめたぼくのお葬式です。そしてお墓。みなさんやまわりの日本有数の水田、豊かな漁場に迷惑かけずに、最終処分されるまでどうか忘れず見守ってください。
今回の壊滅的な地震と津波の被災をこうむられた皆様におきましては一日も早い復興をお祈り申しあげます。また直後に発生した原発事故はその後の経緯から単なる自然災害ではないことが明らかになりつつありますが、関係機関や現場の人々の尽力で安全かつ速やかに終息することを願ってやみません。多くの人がこの図版から得られる情報によって、日々の発表や報道を理解したり、これらのエネルギーのメリットとリスクを考える一助になれば幸いです。
なお、図版作成についてはその時点まで公開されました多くの資料を参照しましたが、制作者の限られた能力の問題で間違った記述や適当でない表現が含まれているかも知れません。もし気づかれましたら下記メールで指摘いただければ幸いです。また、内容についてのご質問も可能な範囲でサイト上での返答を試みたいと存じます。
dmcity@tokyo80.com
BWR(ぼくは劣等生)まで。