えんため大賞ラストスパートレクチャー!! 第2回
①えんため大賞への質問
私はいつも小説を書く際、1人称で書くか3人称で書くか迷ってしまいます。
ライトノベルを書く上で、1人称と3人称、どちらが良いということはありますか?
ラノベ的視点から、これらの違いや特徴について教えてください。(ヨクイニン)
初めてのご質問ありがとうございます。
人称って、結構難しい問題ですよね。それによって物語の見え方が180度変わってしまいますからね。
まず、人称というものついて簡単にご説明します。
1人称とは、物語をある特定の人物(主人公であることが多い)の視点、かつその人物の主観で語っていくものです。つまり、《わたしは〜》《僕は〜》などと地の文が綴られるもので、描かれる物語は当然視点人物の視覚に入っているもの、見聞きして知っている範囲に限定されます。しかし、語り手の主観が強く反映されるため、キャラクターの心情を伝えやすく、読者の共感を呼びたいときなどには効果的です。
また3人称とは、呼称が「彼」「彼女」「***(キャラ名)」となるものですが、語り手への主観の入れ方で、物語と語り手の距離感がまったく異なってきます。
たとえば、俗に言う"神の視点" とは、かなり物語を俯瞰して見ているもので、視点人物の主観がほとんど入らないので、いろんな方面からみた状況描写を中心に、淡々と描いていくことになります。この場合は、キャラクターたちの気持ちや心情などは地の文で表現することは難しいですので「 」書きのセリフなどで表現することになります。
また、主観を強めに入れた場合は(1人称寄りの3人称)、セリフだけでなく地の文でもキャラクターの心情を豊かに見せることができます。(セリフとして)言っていることと人物が心の中で思っていることが実は違うなんていうことも表現できます。
ラノベに適した人称となると「作品による」と言うことになりますね。
これはラノベに限らず小説全般に言えることですが、作者自身がどういったドラマを描きたいのか、キャラクターを通して何を伝えようとするのか、によって手法は異なる、ということになります。
主人公(キャラクター)の熱い、一途な思い、悲しみ、憤怒など感情をリアルに描き、それを物語を通して読者に共感して欲しいと思うのであれば、1人称が良いでしょう。
また、状況描写などの文字要素によってミスリードをさせたり、謎をかけたりするミステリー、ファンタジーなどの複雑な世界観(国の情勢、勢力地図、風俗など物語を楽し
むために必要な情報量が多いので)の作品、キャラクター同士の絡みや掛け合いを客観的に見て楽しむシチュエーションコメディなどは、もしかしたら3人称のほうが、書きやすいかもしれません。
もちろん作者自身の得手不得手もあります。プロの作家さんの中にも、1人称だとキャラが生き生きとして見えよく動くのに、3人称では今ひとつ弾けられない、なんて方もいらっしゃいます。
おそらく、そういった人称による描写の限界を打ち破るためでしょうか。最近は、1人称に近い3人称で書かれている作品が多いように思います。おそらく書き易いのでしょうね(笑)。
本当は小説作法としてはセオリーにないのでしょうが、1人称と3人称をシーンによって使い分けている場合もあります。作中に誰の心理描写かわからない謎のシーンをいれ、ドラマに陰影をつけていく(意味深にしていく)なんてこともできますからね。
ライトノベルは、あくまでも読者がどれだけ楽しめるかというエンターテイメント小説であるので、読みやすさ、分かり易さというものが最優先事項だと思っています。ですので、正直、「それは邪道じゃね?」みたいに言われるかもしれませんが、作者の思う、ドラマやキャラクターの魅力を十二分に伝えられる手法であればそれでも良いのではないでしょうか。
ただ、絶対に避けておくべきことは、同シーン内(もしくは一段落内)で視点人物がころころを変わり過ぎて、さらには主語欠如により視点人物を見失う、という書き方ですね。これは読者を混乱させ、フラストレーションを増大させるだけですので気をつけましょう。
いずれの手法にせよ、作者の描こうとしたものがストレートに読み手に伝わってくる物語がベストです。自分の書こうとしているものが何か、よく理解したうえでベストな手法を選んでみてはいかがでしょうか。
②えんため大賞への質問
応募要項のところに、『物語が完結していること』とあるのですが、
つまり続きがあるような書き方をしてはいけないということなのでしょうか?
出版されている小説は、ひとつの物語を多くの巻で完結させていますが、
応募する時にはそれをすべてまとめなくてはいけないのでしょうか。(グラビティ)
ご質問ありがとうございます。
おっしゃる通り、《完結している》とはどこまでのことを言うのか気になりますよね。
これは、簡単に言うと、「とりあえずの話の決着が付いていること」もしくは「作品のスタート時点の目的が果たされてる」ということですね。
これは本当にある話ですが、時々応募原稿の最後にはっきりと「つづく」と書いてあることもあるんですよ(笑)。
だいたいの作品は、主人公に何かしら目的があるはずです。「旅に出る」「誰かを探す」「恋をしたい」「魔王を倒す」「殺された両親の復讐をする」などなど。もちろん「平穏な生活を送りたい」でも良いのです。物語のスタートラインで主人公に付与された"目的"があり、その"目的"のために作中であれやこれやのドラマが繰り広げられ、結果"目的"を果たせる、もしくは"目的"に一歩近づき、主人公はその結果についてなんらかの納得をしている、また読者に対して結論が提示されている、という状況が物語にオチが付いた状態となります。
ですので、上で言っている《完結している》というのは『主人公が当初の目的を完遂・達成できなくても、主人公自身の成長ドラマとしてその目的に対する結論が出ていること』となります。
ご質問にあるように、実際に出版されている作品の多くは巻数を重ねてドラマを構築させていっています。応募原稿で、そういった何巻にわたる壮大なドラマの完結をさせて欲しい、と言っているわけではありません。おそらく、そういった作品の多くは、1巻でなんらかの主人公の結論が提示されているはずです。そういった作品を参考に、どこまで主人公のドラマを掘り下げ、描けば読者も満足するのか、を考え書いてみてください。
また欲を言えば、もっとこのキャラクターのドラマを読みたいという余韻があるとより魅力的ですね。
ドラマとしてきちんと起承転結の《結》の部分を意識しながら、ぜひ面白い作品を書いてみてください。
と今回は、どちらかと言うとドラマ作りの手法的なことに少し偏りましたが、いずれも基本的なことではありますので、良ければ参考にしていただければと思います。
また、他にも『前回の落選原稿を書き直して再応募するのは良いのか』というご質問をいただきました。レギュレーションにもあるとおり、同一原稿の複数賞への同時応募というのはこれはNGですが、落選原稿を改めて書き直し再度応募するというのは、NGではありません。ただし、この場合の注意点があります。
・あくまでも全面書き直した原稿であること(タイトル変えて再応募とかはすぐバレます)。
・落選経歴をできればエントリーシートに記載する(きちんと改稿したという前提であればそれほど敬遠されるものではありません)。
本来は、応募時に新規に書き下ろした原稿のほうがフレッシュで勢いもあって良いのですが、本人の思い入れやこだわりのある話の場合、どうしてもその作品で受賞したい、という気持ちは良く分かります。でも、そういう場合ほど、客観的な視点が持てないことが多いですので、このえんためレクチャーの第1回にある、自分の落選段階での問題点をきちんと分析、認識した上で、新たな物語をイチから書くつもりで改稿をしたものでなければ、なかなか再応募でも受賞できないということを肝に命じて挑んでください。
以上で今回の回答は終わります。他にも質問をいただいていますが、全部ご紹介できなくて申し訳ありません。引き続き、ご質問は受け付けていますので、どしどしお送りください。
お待ちしております!
(ファミ通文庫編集長)