「病院運営はぎりぎりの状態が続いている。明るい見通しはない」。鰺ケ沢町立中央病院の佐藤薫事務長は険しい表情で言い切る。
同病院は「へき地医療拠点病院」だが、常勤の医師は内科1人、外科2人しかいない。診療科は内科、外科を含めて合計8科。昨年度の外来患者は1日平均251人。弘前大からの派遣など、非常勤医師25人で何とか回している状態だが、整形外科や耳鼻科は週2回午後のみ、婦人科は週1回だけだ。
ひざや腰の痛みで長年、整形外科に通っている同町舞戸町、無職、斉藤スヱさん(84)は「1人暮らしだし、急に激痛があった時には困ってしまう。五所川原市まで行ければいいけど、それも無理なので」と訴える。
09年度の同病院の不良債務は約2億4000万円。常勤医が9人いた02年度は黒字だったが、7人に減った06年度には不良債務が発生した。
病院経営では、入院患者の病床稼働率が70%を超えないと採算が合わないとされる。同病院では病床数100床のうち、入院患者は現在40人弱で稼働率はかなり低い。佐藤事務長は「常勤医が少ないと、多くの入院患者を診ることができない。常勤医の確保が経営上は最も重要だ」と説明する。
医師不足にあえぐこの地域の6市町は「つがる西北五広域連合」をつくり、ひとつにまとまって自治体病院の機能再編に取り組んでいる。五所川原市に中核病院を新たに整備し、鰺ケ沢町立中央病院と公立金木病院は後方支援として、中核病院からの急性期後の患者を受け入れる、などといった構想だ。
広域連合の寺田建夫事務局次長は「現在はこの地域の自治体病院はどこも常勤医が足りず、余裕のない運営が続いている。このままでは患者へのサービスも低下してしまう。奈落の底に落ち込んでいく事態に歯止めをかけたい」と期待する。
県は医師会などと協力して04年から、医師不足の要因を分析。その結果、(1)県内出身の医学部進学者が少ない(2)へき地が多く若い医師が勤務を嫌がる(3)卒後の臨床研修先の自由化で大学の医師派遣機能が低下している--などの実態が分かった。県は卒業後に一定期間県内で勤務すれば返済を免除する医学生の修学資金制度を設けるなど、さまざまな施策を行ってはいるが、医師不足解消にはまだ時間がかかりそうだ。
一方で、高齢化は猛スピードで進み、県西部の過疎地域は待ったなしの状況に追い込まれている。即効性のある対策が切望されている。【吉田勝】=つづく
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■ことば
県医療薬務課によると、鰺ケ沢町を含む西北五地域の人口10万人当たりの医師数は97・5人で、全国平均212・9人の半分にも満たない。他の青森、下北、上十三、八戸の各地域も全国平均を下回っているが、西北五地域は県内でも医師不足が際立っている。弘前大のある津軽地域だけが267・8人で全国平均を上回っており、県全体では、08年12月末現在で全国ワースト5位となっている。
毎日新聞 2011年5月28日 地方版