平成23年5月25日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官 川内裕之
平成22年(行ウ)第99号 住民訴訟不当利得請求事件
口頭弁論終結の日 平成23年4月11日
判 決
○○○○○○
原 告 金 子 吉 晴
○○○○○○
原 告 永 井 清 之
横浜市中区日本大通1
被 告 神奈川県知事 黒岩祐治
同訴訟代理人弁護士 北 田 幸 三
同訴訟復代理人弁護士 島 崎 友 樹
同 武 藤 一 久
同 櫻 庭 史 子
被告指定代理人 目 黒 節 子
同 千 葉 剛
同 小 宮 山 忠 和
同 佐 藤 宏
同 望 月 大 造
主 文
1 本件訴えのうち,被告が平成21年6月30日に学校法人神奈川朝鮮学園に対して支出した平成21年度私立学校経常費補助金合計2133万円の返還請求をするよう求める部分を却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第l 請求
被告は,学校法人神奈川朝鮮学園に対し,7247万6000円の金員を請求せよ。
第2 事案の概要
1 事案の骨子
本件は,原告らが,被告が平成21年度内に学佼法人神奈川朝鮮学園(以下「神奈川朝鮮学園」という。)に対し同学園が設置する朝鮮学校5校を対象とする私立学校経常費補助金を交付した行為が,憲法89条後段にいう「公の支配」に属する私立学校に対するものとはいえず違憲であり,地方自治法232条の2の「公益上の必要がある場合」にあたらず,しかも,公序良俗に反し,同法2条16項の法令違反の事務処理禁止に反するとして,同法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,同学園に対する同補助金7247万6000円の不当利得返還請求をするよう求める住民訴訟である。
2 基礎となる事実(当事者問に争いのない事実,公知の事実,当裁判所に顕著な事実並びに各項末尾の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(l) 神奈川朝鮮学園は,昭和40年9月21日付けで私立学校法(昭和24年法律第270号)64条4項が規定する「専修学校又は各種学校の設置のみを目的とする法人」として神奈川県知事の認可を受け,私立学校経常費補助金交付要綱2条1号に定めのある各種学校である鶴見朝鮮初級学校,神奈川朝鮮中高級学校,横浜朝鮮初級学校,川崎朝鮮初中級学校及び南武朝鮮初級学校(以下併せて「本件各朝鮮学校」という。)を設置する学校法人である。
(2) 被告は,私立学校法64条5項が準用する同法59条,私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)16条,10条,神奈川県の補功金の交付等に関する規則(昭和45年3月31日神奈川県規則41号),私立学校経常費補助金交付要綱2条1号,3条及び私立学校経常費補助金交什要領第2に基づき,神奈川朝鮮学園に対し,平成21年6月5日付け及び同年11月l1日付けの「平成21年度私立学校経常費補功金(一般補助)交付申請書」による中請と当該年度における収支予算書に基づく具体的な内訳を記載した積算書の提出を受け,次のとおり,補助金を交付した(甲1ないし5,乙lないし3。以下,平成21年6月30日の交付を「第1回補助金交付」といい,同年12月10日の交付を「第2回補助金交付」といい,平成22年3月15日の交付を「第3回補助全交付」という。)。
補助対象学校 回数 決定日 交付日 交付金額(円)
鶴見朝鮮 第l回 平成21年6月18日 平成21年6月30日 l,680,000
初級学校 第2回 平成21年11月27日 平成21年12月10日 2,634,000
第3回 平成21年11月27日 平成22年3月15日 1,438,000
神奈川朝鮮 第1回 平成21年6月18日 平成21年6月30日 6,180,000
中高級学校 第2回 平成21年11月27日 平成21年12月10日 9,261,000
第3回 平成21年11月27日 平成22年3月15日 5,146,000
横浜朝鮮 第l回 平成21年6月18日 平成21年6月30日 4,140,000
初級学校 第2回 平成21年11月27日 平成21年12月10日 5,860,000
第3回 平成21年11月27日 平成22年3月15日 3,333,000
川崎朝鮮 第l回 平成21年6月18日 平成21年6月30日 4,540,000
初中級学校 第2回 平成21年11月27日 平成21年12月10日 6,607,000
第3回 平成21年11月27日 平成22年3月15日 3,715,000
南武朝鮮 第1回 平成21年6月18日 平成21年6月30日 4,790,000
初級学校 第2回 平成21年11月27日 平成21年12月10日 8,667,000
第3回 平成21年11月27日 平成22年3月15日 4,485,000
第1回補功金交付計 21,330,000
第2回補助金交付計 33,029,000
第3回補功金交付計 18,117,000
合計 72,476,000
(3) 原告らは,次のとおり,第1回補助金交付ないし第3回補助金交付(以下併せて「本件各補助金交付」という。)について,住民監査請求をしたが(以下のうち,第1回の住民監査請求を「第1回監査請求」という。),いずれについても却下決定を受けた。
回数 請求日 決定日
第1回 平成22年9月8日 平成22年9月24日
第2回 平成22年10月8日 平成22年10月26日
第3回 平成22年11月10日 平成22年11月29日
(4) 原告らは,平成22年12月22日,本件訴えを提起した。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(l) 本件訴えのうち第1回補功金交付に係る請求は適法か否か
ア 被告の主張
住民監査請求は,「当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過.したときは,これをすることができない。」ものとされている(地方白治法242条2項本文)。そして,本件各補功金交付は,それぞれの支出毎に執行伺票及び支出命令票が作成された上で行われたものであり,互いに独立した会計行為であるから,それぞれ別個の住民監査請求の対象である。そうすると,第1回監査請求は,平成22年9月8日付けであるところ,第1回補助金交付は平成21年6月10日であるから,上記期間経過後にされた不適法なものである。したがって,本件訴えのうち,第1回補助金交付に係る請求は,適法な住民監査請求を経ておらず不適法である。
イ 原告らの主張
同項にいう「当該行為の終わつた日」とは,当該行為又はその効力が相当の期問継続性を有するものについては,当該行為又はその効力が終了した日のことを指すものと解すべきであるところ,本件各補助金の交付は,同一年度にされた交付申請に対するものであり,全3回の支出が継続性を有するので,平成21年度分全体が住民監査請求の対象であると解され,3回目の交付日である平成22年3月15日が「当該行為のあつた日又は終わつた日」である。したがって,第1回監査請求は,請求期間経過前にされたものということができるから,本件訴えのうち第l回補助金交付に係る請求は,適法な住民監査請求を経ており,適法である。
(2) 本件各補助全交付の違憲性ないし違法性の有無
ア 原告らの主張
(ア) 本件各朝鮮学校は,国又は地方公共団体による各種学校に対する監督権限がいずれも一般条項的なもので「公の支配」の名に値せず,しかも,教育の本質ともいえる教育内容を規制する学習指導要領の適用がなく(学校教育法1条),憲法89条後段にいう「公の支配」に属する私立学校とはいえないから,神奈川朝鮮学園に対する本件各補功金の交付はいずれも違憲である。
(イ) 本件各朝鮮学校は,反公益性のある朝鮮総連と財務的にも指揮命令系統的にも一体で同視すべきものである上,朝鮮総連は犯罪国家である朝鮮民主主義人民共和国と直接的に結びつき,私立学校経常費補助金交付要綱5条の「学校の設置者が法令の規定に違反している」という要件に該当するから,神奈川朝鮮学園に対する本件各補功金の交付はいずれも「公益上の必要がある場合」にあたらず,地方自治法232条の2及び同要綱に反する。
(イ) 本件各朝鮮学校は,反日教育を行っており,かつ,大阪朝鮮初級学校元校長と言われている人物が昭和55年6月ころ発生した日本人の国際移送目的拐取事件の被疑者であること,下関朝鮮初中級学校の元校長であると言われている人物が平成12年2月ころ発生した覚せい剤密輸入事件の被疑者であることから,神奈川朝鮮学園に対する本件各補助金の交付はいずれも公序良俗に反し,法合違反の事務処理の禁止(地方自治法2条16項)に反する。
イ 被告の主張
(ア) 私立学校法3条又は64条4項に規定する法人(以下「学校法人等」という。)が設置した教育施設であって,学校教育法(昭和22年法律第26号)134条1項に規定する各種学校の設立,寄付行為の変更又は合併の要件(私立学校法64条5項,30条1項,45条1項,52条2項)を満たすものとして認可されたものに対する公費の助成に関しては,学校の閉鎖命令(学校教育法134条2項,13条),法人の解散命令(私立学校法64条5項,62条),収容定員の是正命令,予算の変更勧告,役員の解職勧告等の規定(私立学校振興助成法16条,l2条)の適用があるほか,修業期間,授業時数,施設及び設備等についての各種学校規程(昭和31年12月5日文部省令)によろ規制,都道府県知事による学校の設置廃止及び設置看の変更等についての規制(学校教育法134条2項,4条1項)などを受けるから,このような国又は地方公共団体の特別の監督関係の下に置かれる教育の事業は,憲法89条後段にいう,「公の支配」に属すると解される。したがって,神奈川朝鮮学園に対する本件各補助金の交付は違憲ではない。
(イ) 被告は,私立学校法64条5項が準用する同法59条,私立学校振興助成法16条が準用する同法10条に基づき,神奈川朝鮮学園に対し,本件各補助金を交付したのであって,地方自治法に基づきこれを交付したものではない上,上記各法令は,いずれも私立学校の健全な発達を図ることなどを目的とするのであり,同目的は地方自治法232条の2でいう「公益上の必要」に内包されるから,前記ア(イ)の主張は失当である。
(ウ) 前記ア(ウ)の主張は,争う。本件各補助金の交付は,私立学校法等の目的に合致するものであり,公序良俗に反するものではなく,法令違反行為ではないから,地方自治法2条16項に反するものではない。
第3 争点に対する判断
1 本件訴えのうち第1回補助金交付に係る請求は不適法か否かについて
地方公共団体の行為に対する住民監査請求が,「当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは,これをすることができない。」(地方自治法242条2項本文)とされたのは,請求の対象となる行為が普通地方公共団体の機関又は職員の行為であってその公益に対する影響が大きいものである以上,これをいつまでも争いうる状態にしておくことは法的安定性の見地から、見て好ましくなく,可能な限り早期にその適香を確定させる必要があるからである。そうすると,地方公共団体の一連の行為が同じ制度に基づく同一の請求に対するものであったとしても,それらが可分ないし独立の行為であるときには,個々の行為ごとに早期にその適否を確定すべきであるところ,弁論の全趣旨によると,第1回補助金交付ないし第3回補助金交付が,それぞれの支出ごとに執行何票及び支出命令票が作成された上で行われる,互いに独立した会計行為であることが認められる。そうすると,上記1年の監査請求期問の起算日は,それぞれ,上記各補助金の交付日と解されるべきであるところ,第1回補助金交付が平成21年6月30日であったことは前記第2の2(2)のとおりであるのに対し,第1回監査請求が平成22年9月8日付けでされたことは同(3)のとおりである。したがって,第1回補助金交付に係る第ュ回監査請求は,上記期間の経過後にされた不適法なものであると解される。よって,本件訴えのうち,第1回補助金交付に係る請求は,適法な住民監査請求を前置しないものであって,不適法といわねばならない。
2 本件各補助金交付の違憲性ないし違法性の有無について
(1) 私立学校の教育事業に対する公的助成は,その教育事業が憲法89条の規定する「公の支配」に属することを要するが,その程度は,当該教育事業の運営,存立に影響を及ぼすことにより,同事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうろ途が確保され,公の財産が濫費されることを防止し得ることをもって足り,必ずしも,当該事業の人事,予算等に公権力が直接的に関与することまでをも要するものではないと解される。そして,被告が各種学校である本件各朝鮮学校を設置する学校法人であることは前記第2の2(l)のとおりであり,同3(2)イ(ア)の各法的規制を受けることも自明である。そうすると,神奈川朝鮮学園のように国及び地方公共団体の特別の監督関係の下に置かれる教育の事業は,憲法89条後段にいう、「公の支配」に属すると解される。
これに対し,原告は,本件各朝鮮学校には教育の本質ともいえる教育内容を規制する学習指導要領の適用がないから,これを設置する神奈川朝鮮学園が憲法89条後段にいう「公の支配」に属する学校法人とはいえないと主張するが,神奈川朝鮮学園が各種学校のみを設置するものである以上、学習指導要領の適用がないことは当然であり,前記第2の3(2)イ(ア)の各法的規制が神奈川朝鮮学園に及ぶことで,当該教育事業の運営,存立に影響を及ぼし得るのであるから,その事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され,公の財産が濫費されることを十分に防止し得るというべきであって,原告の上記主張を採用することはできない。したがって,神奈川朝鮮学園に対する本件各補助金の交付が違憲であるとはいえない。
(2) 本件各補助金の交付が私立学校の健全な発達を図ることなどを目的とする関係法令に基づき実施されたことは,前記第2の2(2)のとおりである反面,原告が主張する朝鮮民主主義人民共和国又は朝鮮総連と本件各朝鮮学校との関係並びにその教育内容及び神奈川朝鮮学園と諸事件との関連性は甚だ抽象的なものにとどまり,それらをもってしても,本件各補助金の交付が公益又は公序良俗に反し違法であるとまで到底いうことはできない。
3 結論
以上によれば,本件訴えのうち,被告が神奈川朝鮮学園に対して平成21年6月30日に支出した平成21年度私立学校経常費補助金合計2133万円の返還請求を求める部分は,不適法であるからこれを却下することとし,その余の部分は,失当であるからこれらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官 佐 村 浩 之
裁判宮 日 下 部 克 通
裁判官 小 林 麻 子
- 2011/05/28(土) 06:55:57|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0