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社説

君が代条例案 自治の土台が揺らぐ 5月27日(金)

 行き過ぎた対応としか思えない。

 大阪府の橋下徹知事が代表を務める「大阪維新の会」の府議団が、君が代の斉唱時に教員に起立、斉唱を義務付ける条例案を提出した。大阪府は今後、違反した教員の処分基準を定める方針も示している。

 知事は「国旗国歌を否定するなら、公務員を辞めればいい」「職務命令に関しての思想信条の自由は認められない」と繰り返し主張している。何が目的なのか、これでは説明が足りない。

 憲法は思想良心の自由を保障し、教育基本法は教育への不当な支配を禁じている。国旗国歌法が成立したのは1999年。当時の政府が「内心に立ち入ってまで強制するという趣旨ではない」と明言したことを踏まえれば、条例化は適当とは言えない。知事と府議団に再検討を求める。

 国旗国歌法の制定後、文部科学省と各地の教育委員会は事実上、教員に起立・斉唱を強制してきた。東京都など各地の教員が懲戒処分を受け、訴訟も相次いでいる。

 教員側の敗訴が目立つとはいえ、憲法違反かどうかの司法判断は分かれている。大阪府が無理に条例化すれば、教員側との衝突の激化は避けられないだろう。

 大阪府教育委員会は、条例の代案として、全教員に起立の職務命令を出す考えを知事に示していた。本来の役割は、教育現場の自由な気風を守るため、知事をいさめることではないのか。

 知事が教育委員の人事権を握っていることで独立性が保てないのなら、公選制の復活も検討するべきである。

 大阪維新の会は、統一地方選で府議会の過半数を占めるなど躍進した。知事と政策を同じくする議員が増えることには、議会の形骸化を招くとの批判も強い。

 そこにきて、今回の条例案である。過半数を盾に十分な説明と議論がないまま押し通すのでは、自治の土台が揺らいでしまう。

 大阪府内には、在日韓国・朝鮮人も多い。君が代をめぐる歴史的経緯を踏まえ、そうした人たちの思いに配慮することも首長の責務であるはずだ。

 大阪府だけの問題ではない。政府がようやく地方分権を前進させようとしている。自治体に民主的な政治ができるかどうかが、実現の前提になる。

 条例案は維新の会の公約になかった。唐突な動きを他県の首長も批判している。橋下知事には、大きな自治体の長として信頼を置ける言動を心がけてほしい。

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