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[27934] CLI-MAX【VRFPS?→ファンタジー異世界へ】
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/25 21:36
【利用上の注意】
・本作品はVRFPSをプレイ中に異世界に召喚されると言う良くあるパターンの物語です。
・毎度の事ながらプロットは存在しません。その場のノリで進みます。
・ご都合主義満載です。
・毎度の事ながら、登場人物が死にまくります。
・誤字脱字、その他用語間違いがありましたらご一報下さい。


【更新履歴】

5月22日 Episode:01投稿
5月23日 Episode:01修正 今までシミュレーターをシュミレーターだと思ってた俺は、やっぱり通知表には”人の話はちゃんと聞きましょう”って書いてあったりorz
5月23日 Episode:02投稿
5月23日 Episode:03投稿 何故か筆が進む。やっぱり休みの日だと進むねぇ
5月24日 Episode:04投稿
5月25日 Episode:05投稿 文章がどんどん短くなってゆく……日刊更新から出来次第に変更するかもしれません。



[27934] Episode:01
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/23 16:27

VRゲームが世に登場して二年。ヴァーチャル・リアリティの魅力は既存のゲームに飽きてきていた人々をとことん魅了した。
なんせ、本来ならば御伽噺として諦めていた事を体感出来るんだ。ヒットしないはずが無いだろ?
ファンタジー世界を題材にしたRPGは当然として、現実なら眼玉がトータル・リコールのシュワちゃん並に飛び出るふざけた価格であるスーパーカーを自由にぶっ壊せ――もとい、乗り回せるドライブゲーム。
それに、実機と全く同じ!と、言うのを売りにした結果、稼動直後は墜落者を大量生産したフライト・シミュレーター。
・・・・・・もっとも、直後にはそれに対抗する形でフライトシューティングとして有名な某ゲームが世に出たからあっと言う間に廃れたんだがな?
まぁ、そんな訳でVRゲームってのはファミコンも真っ青になるほどの勢いで世の中に復旧した訳だ。


星の如く様々な種類があるVRゲームだが、2年も経てばある程度の方向性が決まってくるもんだ。
その殆どは、MMOであり現実では味わえない物ばかり。
生物学的に有りえねぇ巨大さを誇るドラゴンを狩るゲームとか、魔法至上主義のゲームとか。
・・・・・・ちなみに、ホラー系はあまりのリアルさに発狂者が続出し発売禁止と相成った。
バイオとか、サイレントヒルとかVRでやるゲームじゃなかったね。あ、あと絶体絶命都市もか?
まぁ、そんなこんなで殆どがMMORPGとかギャルゲーとかライフゲームとかに固定されちまったんだ。

だが、何事にも例外がある。それが、【CLI-MAX】と言うタイトルのVRMMOFPSである。
キャッチコピーは"総ての兵士(プレイヤー)に告ぐ。戦場へ集結せよ"。
このゲーム、マジでヤバイ。何がヤバイかって?
五感の実装、スキルやレベル概念の撤廃(但し階級制度は有り)、実銃や実機と全く操作方法、反動が同じ兵器郡。
アバター?そんなもん、現実世界に生きる俺達をスキャンしてそのまま。つまり、イケメンはイケメンでブサメンはブサメンのまま。介入の余地無しである。要するに、リアルのまま仮想現実にぶち込まれる。
FPSのクセに徹底的にリアル差を求めて"ゲーム"って事を忘れているクリエーター達が作り出した究極の"ミリタリー・シミュレーター"。
それが、CLI-MAXである。

殆どのメーカーが例の大量発狂事件により避けていた中、唯一発表されたFPSとあってゲーマー達は大いに期待した。
で、製作陣営はその期待に答えようとして空回りしちまったんだな、これが。
ログイン直後は良かったさ。FPSなんてアバターは大した要素にならねぇし。プレイヤー達は本物そのままの銃や戦車、ヘリを操縦できる事に祭り状態だった――実際にゲームが始まるまでは。
ゲームが始まった直後、戦場(バトル・フィールド)は阿吽絶叫の地獄絵図と化した。
ヘリを飛ばそうとすれば、操縦方が分からず分厚いマニュアルを読む羽目になり。
厨房が適当に操縦する戦車には兵士が大量虐殺されるわ、銃口除いて自分の頭吹き飛ばすわ、その近くに居た女性プレイヤーはぶちまけられた脳みそを浴びて失神するわの大騒ぎ。

「FPSに五感実装するんじゃねぇクソ運営!」

とか

「確かにリアル系にして欲しいって言ったけど、誰がここまで徹底しろといった馬鹿野郎!」

との絶叫が戦場のあちらこちらで響き渡ったのである。
え?試合結果はどうなったかって?

んなもん、敵に撃ち殺される前にみんな味方に殺されるか自爆したよ。




CLI-MAX
Episode:01





「こちら、チャーリー3。チェック・ポイントに到達した。指示を請う」

<<作戦司令部よりチャーリー3。敵分隊が西から接近中。殲滅せよ>>

――稼動開始から1年。CLI-MAXは多くのプレイヤーの予想に外れ、未だ稼動し続けていた。
リアルさを追求した結果、マップや兵器の少なさと一般ゲーマーには余りにも敷居が高すぎるゲームだがそれを求める層からサービスの継続を求められたのである。

そう、現役の軍人や極度のミリヲタ達である。

彼らからしてみれば、戦場を"実体験"できるこれは最高のゲームだった。
実際には死なず、安全に"戦争"を経験できる。噂では各国の政府や軍需企業の横槍もあったらしい。
それを裏付けるかのように、日が経つにつれて兵器が充実化されているのが嬉しいんだがな?

まぁ、それはさて置き一番恩恵を受けてるのは誰か?・・・・・・っつーか、サービスの継続を一番強く願った奴は誰なのか?
一人の日本人として泣けてくるのだが――それは、現役の自衛官達であった。
そう、実戦経験皆無であった彼等にとって、このゲームはまたと無い実戦を安全に経験する唯一のチャンスだったのである。
――他国では、当然の如くVRシステムを使った訓練があるにも拘らず自衛隊には国内の反発からそれが許されなかった。
当然、表立って自衛隊が介入できるはずも無く彼等は実費で"個人的に"趣味としてこのゲームで経験を積んでいた。
上は将から下は予備補まで・・・・・・この話を銃弾飛び交う中で愚痴られた時は思わず泣いたのは可笑しくないはずだ。




「オイオイ、勘弁してくれよ・・・・・・相手はデルタかよクソッたれっ!!」

粉塵舞い散る中東マップの片隅で、俺は接近してくる"敵分隊"を見るや否や撤退行動に移っていた。
当然だ。ただのしがないリーマンミリヲタであるこの俺が、常にギルドランク上位を維持する現役デルタ・フォース(米陸軍特殊部隊のひとつ)に勝てるはず無いだろボケェ!!
つーか、軍人率高すぎだぞゴルァ!いつからここは代理戦争の場になったんじゃ!
しかも普通にギルド名に某テロ組織とかゲリラとか居るし!あぁ?お陰で現実世界での紛争が減っただぁ?知るか!
俺はリアルな戦場"ゲーム"をしたいんだよ!政治とか関係無しに!

<<チャーリー3!誰が撤退しろと言った!?ブラヴォー・チームが到着するまで敵分隊を足止めせよ!>>

「出来るかボケェ!こちとら全滅してんだぞ?俺一人だぞ?頭沸いてんのか牟田口!」

<<な、だ、誰が牟田口だ!君の戦果なら可能な筈だぞ!?>>

「俺はジョン・ランボーじゃねぇ!!リアルじゃただのリーマンだタワケ!」

<<え?それマジで?ぜ、是非自衛隊に入隊――>>







――タララララララララ

「畜生っ!ブラヴォー・チームは何やってんだクソォォォォォ!!」

無線機越しに司令部の牟田口と怒鳴り合いをしてたらどうなるか?
当然の如くデルタの皆様に発見され俺は今、後方から追撃してくるデルタを振り切る為に中東の街中を疾走していた。

<<チャーリー3!その裏道を抜ければ街道に出る!そこまで行けばアルファ・チームと合流できるからそれまでの辛抱だ!>>

「そっちがこっちに来いって伝えやがれ!クソっ、ここを出たら一瞬でミンチに早代わりだ」

咄嗟に隠れた廃墟の壁を盾に、オープン・β時代から使い続けているFA-MAS-G1を照準も碌に定めずにぶっ放す。
甲高い連謝音が鳴り響き、デルタの皆さんも俺の応戦に警戒したのか今までクソ煩いくらいに俺への鎮魂歌を奏でていた銃声は、漸く演奏を終えてくれた。

<<・・・・・・すまない、チャーリー3。悪い知らせだ>>

「アルファが殺られたか?――チッ、アホみたいにぶっ放しながら走ったから、残りは一弾倉しかねぇぜ、クソッ」

毒付きながら、使い古されたファマスから空の弾奏を抜き取り放り投げる。
・・・・・・少しも反応してくれねぇのな、デルタの皆さん。畜生、ランク上位ってのは伊達じゃねぇってか?

<<アルファ、ブラヴォー、デルタ、シグマ・・・・・・総員、殉職した>>

「何の冗談だよ、そりゃぁ!?殆どが現役の自衛官や警官で構成されたギルド員ばかりだったろ!!」

確か、一般人(笑)は俺の他に二人しか居なかったはずだぞ?
つーか、ちょっと待て。他の分隊が全滅って事は、生き残ってる戦闘要員って俺だけ?

<<相手が悪かったかぁ・・・・・・なんてったって、デルタとレンジャーだけで構成されてるもん。無理に決まってるでしょ?>>

「素に戻るなファッキン・オペレーター。つーか、ヘリ部隊寄こせ。上空からミニガン掃射すれば逃げっから」

――このクソアマめ、負けが決まったからって急に指示出すの辞めやがったぞ?
デルタのみなさんが発するプレッシャーにビビりつつ、僅かな希望を込めてヘリ部隊の救援を要請するが・・・・・・

<<無理。みんなログアウトしちゃったから。あ、司令部は一応残ってるけどみんな諦めて雑談してるから頑張って?>>

――寝返って強襲してやろうかこの馬鹿共がぁ!!
ブチ切れた俺が、無線機を引きちぎって投げた瞬間だった。
突然、周りにブロックノイズが走る。

「あ?バグでも起こったのか?」

「珍しいな、このゲームでバグるなんて」

ブロックノイズだらけでモザイク状態になった風景に、流石のデルタも驚いたようで銃を降ろして近づいてきた。

「おい、そこの日本人!ゲームは止めだ、これじゃぁ駄目だ」

「だなぁ・・・・・・どうなってんだ?」

近くのデルタに声を掛けられ、俺も銃を構える事も無く彼等の前に姿を現す。
あーでもない、こーでもないと彼らと話す事数十分――突然の閃光が俺達を包んだ。



[27934] Episode:02
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/23 16:27

「駄目です!ログアウト所か、システム画面も開けません!」

「と、言うかPDA自体がありません!」


閃光が俺達を包んで数分後。
デルタの皆さん及び俺は絶賛混乱中である。
例のブロックノイズ、閃光とこのゲームでは珍しいバグの連続に驚き、ログアウトを試みようとしたがシステム画面所か、VRハードのインターフェースすら出せないのである。
通常、VRゲームで何らかのトラブルにより操作不能に陥った場合、ログアウト不可では非常にヤヴァイ(現実世界的な意味合いで)のでそれを避ける為に本体側から操作は可能となっている。
要するに、仮想世界に閉じ込められたままってのは非常に危険だから、ちゃんと現実世界に戻れるようにしときましたって訳。
これにより、ゲーム側で操作不能に陥っても本体側でログアウト出来るようになってる訳だ。

ところがである。

ログアウトしようにも本体もゲームもシステム画面が出ない。
つーか、操作パネルも無い。腕に付いてたPDA型の操作機器から消えてやがる。

「クソっ!司令部からの連絡は?」

「駄目ですね、あちらも相当混乱しているようで・・・・・・事態が終息するまで絶対に発砲するなと」

「当然か・・・・・・ログアウト出来ん状態で死んだら、まさに本当の意味での"死"だからな」

そう、リアルな戦場を詠っているだけにこのゲームではリスポーンが無い。死んだらメニュー画面へとお帰り願うってのがこのゲームの特徴だ。
この事態が直ぐに終われば良いんだが、これが長丁場となると――何時間も只管にメニュー画面と睨めっこだぜ?チャットすら無い中で。
それだけはマジ勘弁して欲しい。

「日本人、お前さんの方はどうだ?」

「こっちもお手上げさ。司令部の方からも発砲すんな、人殺すなってさ」

「そっちも同じか・・・・・・そろそろ夕食の時間だがログアウト出来るんだろうか?」

「運営の素早い対応を願うしかないだろうなぁ・・・・・・」

二人そろってため息を付きながら、燃え尽きてガラクタと化したハーフ・トラックのボンネットに腰を降ろした。




CLI-MAX
Episode:02





――1時間後

<<司令部よりチャーリー3へ。聞こえますか?>>

「こちらチャーリー3。感度良好、運営から連絡が?」

あれから約一時間。デルタの皆さんと和気藹々と話をしながら連絡を待っていた所に漸く無線が入った。
俺がリアルじゃただのリーマンだと知ってデルタの分隊長さん(黒人でデンゼル・ワシントン似)は大層驚いてたね。
しかし、デルタの人が近くに居て良かったよ。イヤホン引きちぎっちまったから実は焦ってたんだよね?うん。

<<いえ、外部との連絡は一向に付きません。今回の事態を収束すべく、我々は米軍側と共同で情報収集を行いました>>

米軍って言っちゃって良いのかよ?


<<チャーリー3、落ち着いて聞いて下さい。事態は非常に混乱を極めている為、私達は米軍の指揮下に入る事に決定しました>>

「米軍の指揮下に?・・・・・・そんなにヤバイ状況なのかよ、ヲイ」

<<申し訳有りませんが、現段階でこれ以上の情報をお伝えする事は出来ません。米軍との協議の結果、貴方にはデルタ・フォースの保護下に入って頂きます>>

「保護下に?どういう事だ?」

<<・・・・・・事態は緊迫してる、そう言う事よ。民間人である貴方にはこれ以上の情報は伝えられないの>>

「日本人!いや、チャーリー3か?まぁ、良い。司令部から命令が来た。ここからだとそちらの基地の方が近いから、そこまで俺達が護衛する」

オペレーターとの会話が終わると同時に、分隊長が方耳を押さえながらそう言った。
どうやら、あちらからも命令が下ったらしい。

「護衛って・・・・・・既に戦闘は終了してるんだろ?だったら、大丈夫さ。基地までは2km程しかないから俺一人でOKだ」

「事態は急変した。君一人では危険だ――行くぞ」

『Sir,Yes,Sir!』

「はぁ?いや、ちょっと待て――って、腕引っ張るな!ちょ、ま、俺はグレイじゃねぇって!」

抗議の声も空しく、俺は両脇を屈強なデルタの隊員にグレイの如く抱えられ、そのまま連行される。
――畜生、基地に付いたら遺憾の意を表明してやるから覚悟しやがれ。



――タタタタタタタタ・・・・・・

「止まれ。聞こえたか?」

「はい、既に他の部隊は交戦中のようですね?」

「チッ・・・・・・レンジャーが敵と交戦してるみたいだな。ケビン、カール!お前達はそこのグレイ――じゃなかった、日本人を護れ!いいな?」

おい、今グレイって言ったろ。
まぁ、そんな事はどうでも良い。それよりも気になるのは、今間違いなく"レンジャー"が"交戦中"って言ったよね?
一体、誰とだよ?こっちは戦闘要員は俺だけだし、司令部は米軍の指揮下に入ったんだろ?
第三の敵?BOTか?そんなのが実装されてるなんて聞いたことねぇぞ?

「お前さん、よく聞いてくれ。俺の指示無く動かないでくれよ?頼むから」

カールと呼ばれたブラッドピットそっくりのデルタ隊員がM4を構えながらそう言うが・・・・・・
畜生、どうなってやがんだ一体!?バグってログアウト出来なくなっただけじゃねぇのかよ?

「来るぞ!前方、2時の方向から団体さんだ!構えろ!」

分隊長の声に反応し、隊の面々が一斉にM4を構える。
俺も混乱しながらもファマスを指示された方向に向けるが・・・・・・マジで?なんじゃありゃぁぁぁぁぁぁ!!!

「俺が発砲したら続け!奴等を決して近づけさせるな!――チャーリー3!貴様は下がってろ!」

「こっちだ!早く隠れろ!」

分隊長に怒鳴られ、近くに居たカールに手荒く物陰に放り込まれる。

「嘘だろ・・・・・・どうなってやがんだ、クソっ!」

俺が眼にしたのは――

鎧を纏った"騎士"の集団に"魔法"で吹き飛ばされるレンジャー達の姿だった。



[27934] Episode:03
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/23 21:23

「撃て!撃ち続けろ!奴等に攻撃の機会を与えるな!」

「クソがぁ!続々と沸いてきやがるぜ!レンジャーの連中はどうしたんだ!?あぁ!!」

「司令部っ!聞こえますか、司令部っ!増援を願います!このままでは全滅する!」

「畜生っ!なんなんだアイツ等!弾はじいてやがるぞ!」

途切れぬ銃声。
雄叫びが木霊し、デルタ・フォースが繰り広げる戦闘に飲み込まれる。
廃墟の物陰にしゃがみ込み、噛み鳴る歯を食いしばる。
ファマスを握る手は震え、血と肉片に塗れた顔を汗と涙が流れる。

――隣に横たわるのはカールと呼ばれていたデルタの隊員。

消えない死体。
消えない血痕。
消えない血の臭い。

今更ながらに襲い掛かる、”実戦”の恐怖。
これは、ゲームじゃない。




――現実だ。





CLI-MAX
Episode:03





どうして、こうなった?
まだ暖かいカールの亡骸を前に、何をして良いのか分からずにいた。

「あの騎士の連中、あれだよなぁ・・・・・・ライジング・サンに出てくる騎士にそっくりだよなぁ?」

ライジング・サン――CLI-MAXと同じ会社が運営するVRMMORPG。
良くある中世ファンタジー。剣と魔法とモンスターと言えば簡単に想像できる良くあるゲームだ。
俺も試しにやったが、馴染めずに直ぐに辞めたんだっけ。

「オイ、大丈夫か!?しっかりしやがれ!」

あぁ、連中の使ってる魔法ってあれだよな?初期スキルで使えるバリアみたいな奴。
名前忘れたけど、確か物理ダメージを軽減するんだったっけ?

「日本人!聞いてんのかテメェ!呆けてんじゃねぇぞ!良いか、そいつはもう死んでる!死んだんだ!」

突然、デルタの一人に胸倉を捕まれ無理矢理立ち上がらされた。
クソっ、痛ぇじゃねぇか!

「いい加減に眼ぇ覚ませクソ野郎っ!」

「痛ぇよ馬鹿野郎がぁ!あぁ?カールが死んだ?これはゲームだろうが!現実じゃピンピンしてるよ!」

胸倉を掴んでいた手を振り払い、僅かな希望を込めて”こいつはゲームの続きだ”と叫ぶ。
何の考えもなしに、ひたすらに口が勝手にこれを否定する言葉を吐き出し続ける。
その間、彼はじっと此方を見続けていた。



「・・・・・・気ぃ済んだか、若造」

吐き出す言葉も無くなり、体中にこびり付いた血も乾燥し始めていた。
頭が割れるかと思うほどの銃声は、気が付けば散発的にしか聞こえなくなり――代わりに、軍靴とは違う乾いた土を踏みしめる音が大きくなってきた。

「アフガン、イラク、そしてリビア。俺ぁ色んな戦争を抜けてきた。新兵ってのぁ何時も同じ反応をしてたさ。特に、VR訓練で一端の兵士になった気でいる奴はテメェと同じで現実じゃないって否定し続けてやがった」

彼はそこで言葉を区切ると、タクティカルベストのポケットから煙草を取り出し口に咥えた。

「VRって凄ぇよなぁ?煙草の味まで再現してやがる。ま、銘柄がスポンサーのしか無いのが玉に瑕だが・・・・・・吸うか?」

無言で煙草に手を伸ばし、一本貰う。

「VRと現実じゃぁ違うのはテメェにも分かったろ?どんなにリアルだっつても、現実と仮想じゃぁ違ぇ。空気から漂う臭い、戦場特有の雰囲気。それに血と肉片とかなぁ?あのゲームじゃぁ、30秒も経てば血も死体も何もかもが消えるが、カールはどうだった?奴等の死体は?消えたか?」

「いや、分かっちゃいたんだよなぁ・・・・・・何時もと違うって」

ジリジリと燃える煙草を見つめながら、彼との会話を続ける。

「分かるか?発砲音が拳銃に変わった。もう時間がねぇってこった」

ファマスを握る手に力が入る。
残る弾倉はひとつだけ。後はサブ・ウェポンのベレッタだけだ。予備弾倉もひとつしかない。

「合図したら、俺達とあった場所に戻りな。そこから西に100mほど行けば、乗ってきたハンヴィーがある筈だぜ?ま、無事に残ってたらの話だけどなぁ?」

彼はそう言いながら肩から下げていたM4を再び構える。

「なぁ、アンタ名前は?」

「ケビン」

カールの死体を横目に、彼の後に続く。

「あぁ、アンタがケビンだったのか・・・・・・ありがとな?」

「は、隊長にテメェの面倒見ろって言われたからなぁ?覚えとけ、若造。軍人ってのはどんなクソッタレな命令にも従うもんさ」

発砲音が消え、土を踏みしめる音だけが多く聞こえる。
ケビンは廃墟を背に、タイミングを計っていた。

「3カウントだ――死ぬなよ、若造」

ケビンは煙草を咥えたまま、そう笑うとカウントし始める。





――1

「Good Luck!幸運を祈るぜぇ!行けぇ、若造っ!」

ケビンが廃墟の影から身を出すと同時に、全力で街道を駆け抜ける。
――背後からは、連続して放たれるM4の発砲音が鳴り続けていた。



[27934] Episode:04
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/24 21:59

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ――」

砂煙の舞う中、脇目も見ずにひたすら廃墟と化した町の中を走り続ける。
遠くからは、腹の底から響くような鈍い爆撃音が幾つも聴こえてくる。
こちら側――と、言っても米軍だろうが――があの連中に爆撃を加えているのだろうか?
それとも、奴等が魔法をぶっ放しているのだろうか?

――どちらにせよ、碌な事態じゃねぇ事は確かだけどな。



走り続ける事20分位だろうか?
途中からしんどくなったので、メットも防弾ベストも脱ぎ捨てた。
幾ら攻撃から俺の身を護ってくれる防弾装備といえども、奴等に追いつかれる恐怖に比べれば捨てる事に戸惑いは無かった。
今じゃ、上下黒のBDUのみ。しかも、汗を大量に吸い込んでるお陰でクソ気持ち悪ぃ。
しかも、汗と血と砂埃に塗れて全身グチャグチャだ。
畜生、絶対に戻ったら即座にシャワー浴びてやる!
・・・・・・あれ?きちにシャワールームってあったっけか?
そんなどうでも良い事を考える事で、必死にこの苦しみを誤魔化す。
その甲斐あってか、漸く俺はケビンの言っていたハンヴィーが視界に入る場所まで近づいて来ていた。

後ろには誰もいない。
あと少し、もう少しでハンヴィーまで辿り着く。
土を蹴る足に力が入り、残りの力を振り絞って前へと進む。
――残り後、100m。あと少しで俺は移動手段を手に入れられる!




ClI-MAX
Episode:04




何が起きたのかさっぱり分からんかった。
ハンヴィーに手を伸ばした瞬間、気が付けば俺は砂に埋もれてて――同時に、凄い耳鳴りでまったく周りの状況は把握できていなかった。
咳き込みながらこの状況でも手放さなかったファマスを構えようとするが、安酒を大量に飲んだ次の日並の頭痛と眩暈によりそれは断念せざるを得なかった。
仕方無しに、這い蹲ってハンヴィーへと向かおうとするが――何者かに背中を抑えられ阻止される。

「ガ・・・・・・」

「中東では狐の代わりにジャッカルを狩る。フォックス・ハウンドならぬロイヤル・ハルヒヤ・・・・・・だっかたな?」

気障ったらしい、嫌味な口調でこのクソ野郎はそうのたまいやがった。
テメェ、銀河万丈もといリキッドはそんな軽い声じゃねぇよ馬鹿野郎が!
つーか、耳鳴りが漸く収まったと思ったら聞こえてきたのがお前のその嫌らしい声だぞ?
分かるか?このガッカリ感がテメェに。

「――テメェ、誰を足蹴にしてやがる」

「ほう、僕のファイア・アローを至近距離で喰らっても尚、そんな口を利くんだ?」

背中の重圧が消えたかと思えば、次の瞬間には左から途轍もない衝撃が襲い掛かり、冗談抜きで俺は吹っ飛んだ。

「グェ・・・・・・・オエェェェ・・・・・・」

その衝撃により、内臓にダメージを受けたのか嘔吐感が込み上げてきて――その場に這い蹲ったままゲロをぶちまけた。

「ハハッ!ごめん、ごめん!忘れてたよ、君達がレベルもスキルも持ってないって事。僕としては、ちょと蹴っただけだったんだよ?そ、こんな風にさぁ!」

再び俺はあのクソ野郎に蹴り飛ばされ、ハンヴィーにぶち当たる。
あまりの痛さに悲鳴すら出せやしねぇ。

「ナイス・シュート!」

散々俺をボコりやがったクソ野郎が、漸く俺の前に姿を現した。
白い甲冑に紅いマント。
男か女かわからねぇような中性的な顔立ちに、長身・痩身で金髪と来た。
間違いねぇ、あのVRゲームで一番多かったアバターのパターンだ。

「・・・・・・テメェ、さっきロイヤル・ハルヒヤっていってたよなぁ?」

「へぇ、まだ喋れるんだ。ま、いいや?それがどうしたの?あ、もしかしてメタギア知らない?なぁんだ、あのゲームをプレイしてる位だから知ってると思ったのにさ?つまんないの」

自分の勝利が揺らがないのを確信してんのか、あのクソ野郎は余裕綽々で両手を広げながら近づいてきやがった。
ハリウッド・スターにでもなったつもりか?ファザー・ファッカー。

「知ってるさ、なんせ中坊の頃にPV見て一目惚れしてな?それ以来ずっと新作出る度に徹夜してやったからなぁ?ま、それはさて置きさっきの台詞だがな?」

「ん?」

不思議そうな顔で俺を見る金髪イケメンにファマスを向ける。
――こんだけボコられても尚、ファマスを手放さなかった俺に拍手。

「ロイヤル・ハルヒヤじゃなくて、ロイヤル・ハリヒヤだ馬鹿野郎っ!」

引き金を引くと同時に、ファマス特有の甲高い発砲音が鳴り響く。
この至近距離では流石にダメージを消し切れなかったのか、放たれた5.56mm弾は障壁を付きぬけ男へと着弾した。


弾倉内に残っていた弾薬を撃ち切ったファマスをその場に捨て、ハンヴィーに掴まりながら立ち上がる。
――畜生、肋骨の2,3本は間違いなく逝っちまいやがった。
激痛に顔を歪めながら、地面に倒れ伏せた男の方へと視線を向けた。

「・・・・・・流石に死んだか?」





[27934] Episode:05
Name: デルタ・リーダー◆6f09abd5 ID:c63f9001
Date: 2011/05/25 21:34

<<ガ……ガ……ピィー……ガガ……>>

「無線、逝っちまったか」

横たわる男の首に手を当て、脈が無い事に安心したのも束の間。
敵がこいつだけじゃねぇ事を思い出し、存在自体を忘れていた無線機を取り出すが、やっぱりと言うか何と言うか……ぶっ壊れてた。
連絡する事は諦め、ぶっ壊れた無線機を放り捨ててケビンから貰った煙草を口に咥える。

「あー……ライター貰うの忘れてたわ」

周りに誰も居ないにも関わらず、何口に出してんだ?
あれか、人間パニックになると独り言が多くなるというのは本当らしい。
兎に角、今は煙草に火ぃつける事を優先しよう。うん、ガチで人殺したっぽいから一服して冷静にならねば。

「あ、無線機あるじゃん」

ハンヴィーの扉開けたら普通に無線機が備え付けてあった。
気付けよ、俺。




「あー……こちらチャーリー3。司令部、聞こえるか?」

<<ガガ……こちら司令部。チャーリー3、現在当基地は敵部隊と交戦中である。手短に現況を報告せよ>>

「基地に帰還中に敵部隊と遭遇、デルタの分隊が交戦するも俺のミスで分隊は全滅した。生き残りは俺だけだが、交戦した為に負傷した。現在、町の西にある噴水広場にて待機中。指示を請う」

<<了解、上空を飛行中のブラックホークに救援要請を出しておく。以降は彼等の指示に従え――チャーリー3、気に病む事は無いわ。貴方は民間人、彼等は軍人だった。彼等にとって、民間人の貴方を護って死ぬ事は義務であり、誇り。勿論、私達自衛官もそう。貴方は絶対に見捨てない。必ず救い出すわ>>

「――了解。以降はブラックホークの指示に従う」

受話器代わりのヘッドセットを取り外し、助手席に置く。
――民間人を護って死ぬのが、軍人の義務であり誇り、か。

「畜生……情けねぇ……何やってんだ、俺は……」



CLI-MAX
Episode:05




<<チャーリー3、聞こえるか?こちら、エコー1。救援要請を受けて来た。現在位置を報告せよ>>

待つこと数十分。涙も乾き始めた頃に、漸く待望の無線が入る。
どうやら、パイロットは女性らしい。何処と無くブラック・ラグーンのレヴィに似てる気がする。口調は全然違うが。

「こちら、チャーリー3。エコー1、そこからハンヴィーが見えるか?俺はその中に居る!」

<<了解した。直ぐに降下するが、当機は単独飛行中である。チャーリー3、その間周辺警戒を頼めるか?>>

「了解した。合図したら降りてきてくれ」

エコー1との通信を一旦終え、ヘッドセットを付けたままハンヴィーの屋根に設置されているM2ブローニングへと向かう。
ハッチから身を乗り出し、周囲を警戒する。
右方向良し。
前方良し。
左方向――クソッ、マジか!?

「エコー1!降下中止!降下中止せよ!」

慌てて降下を中止するように叫ぶが、放たれたファイヤ・アローは高度を下げていたブラックホークのテイルローターに直撃した。

<<クソッ!攻撃を受けた!エコー1、攻撃を受けた!駄目だ、制御不能!墜落する――>>

制御不能に陥っエコー1は、テイルローターから白煙を上げながら頭上を掠め――

「ハッハッハァ!見たか!これが本当の"ブラックホーク・ダウン"さ!」

死んだはずのクソ野郎の歓声と同時に、墜落した。



「素直に死にさらせ、ダボがぁ!」

ブローニングの照準を奴に向け、引き金を引き続ける。
ドドド、とファマスとは違う重い発砲音と共に12.7mm弾が放たれる。
しかし――

「無駄さぁ!Lv.893の僕にそんな物は通用しないっ!」

「さっきはファマスの掃射喰らって死んでたろうが!さっさと地獄に帰れ!それと無駄にレベル高ぇんだよ、どんなけ廃プレイしてんだタワケ!」

「う、ウルサイぞ!さっきのは油断してただけだ!――ライトニングっ!」


奴が叫んだと同時に、衝撃が走った。
ハッチから放り出され、地面へと転げ落ちる。
慌てて立ち上がろうとするも、突然沸いて出てきたクソ野郎に踏みつけられそれは叶わなかった。

「ガハッ――」

「僕を!甘く見るなぁ!弱い僕はもう居ないんだ!これが、僕の本当の姿!分かったか低脳がぁぁぁぁぁ!!」

奴が激昂すればする程、踏みつける足の力が強くなる。
それから逃れるべく、足を掴むがビクともしない。

畜生、苦しい――息ができねぇ……


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