前回までの状況は
制御棒が入ったから大丈夫、
最悪で廃炉になるだけの話、
困るのは東電だけ。
東電は最初何をやろうとしたかというと
廃炉を回避する作戦、
でもそれは無理だったし、
へまが重なったし、
結局、廃炉を決定したけれど、
想定以上の水漏れがあちこちで発生、
冷却水を失った燃料棒の損壊で
セシウム等が漏洩するという別の問題に直面

「炉心溶融など壊滅的な状態」とか安易に書いてしまう文系

「炉心溶融」という訳語自体がアバウト。何を指すのかあいまいな用語を文系が聞きかじって使うべきではない。 「壊滅的」というのもだれにとってどう壊滅なのか。 東電にとっての壊滅的と、国民にとっての壊滅的はまったく違う。 東電が「壊滅的」とうっかり言ってしまったとしても、 それは発電所の存亡が壊滅的なのであって、国民の安全が壊滅的であるという意味で使っていない。

リーダーシップの不在

緊急時の垂直統合モードをあらかじめ用意していない。 俯瞰する能力があるジェネラリストなリーダーの不在。 これは設備の実装がとんまになる理由にもなるし、 事故後の処理がてんでばらばらで進まない理由にもなる。 専門家や学者は視野が狭いから全体を見渡せない。 各部分に筋は通しても、 それらを組み合わせたとき、全体としての筋が通っていないことに気付く能力はあるのか。 俯瞰し全体を把握する立場のジェネラリストなリーダーなり参謀がいないという組織の構造的欠陥。

コア・キャッチャーの不在

There is no core catcher. 福島第一原発には俗に言う「コア・キャッチャー」がない。 あったとしても理屈通り動くのか。 緊急冷却装置も理屈通りに動かなかった。 非常用ポンプも理屈通りに動かなかった。 なのにコア・キャッチャーだけは理屈通りに動くのか? コア・キャッチャーの役目は「溶融し落下してくる燃料」を黒鉛の皿で受け止め拡散冷却すること。 コア・キャッチャーがない格納容器は、下に水をためたプールがあり、それで受け止める。 水漏れが発生しあちこちで水位がなくなっている状況で、 このプールだけ大丈夫という保証は無い。 このプールも水位を失っていたら、 落下する溶融燃料を完全に受け止めることができない可能性がある。 福島原発の構造の旧式ぐあいが明るみに出たとき、 学者の顔色が青くなったことは想像できる。

余熱で起きることの何が問題か

最悪でもコア・キャッチャーがあれば大丈夫なんだけど、 コア・キャッチャーがあるかないかに関係なく、 できるだけ燃料棒と圧力容器の破損を避けたいのは、 修理して再開したいから。 でないと廃炉になってしまう。つまり東電の都合による話。 だから当初、東電は廃炉を避けるべく海水注入の要請を拒否した。 各部での水漏れを過小評価していたのかもしれない。 海水注入も簡単ではなかった。 圧力容器内の圧力が高く海水を注入できないほどだった。 海水注入は電力会社にとっては完全な敗北である。 電力会社の危機とは「再開できないほどのダメージを燃料棒と圧力容器が受けてしまうこと」であって、 「格納容器まで損壊なり溶融なりで穴があき、燃料が地中に流れてしまうこと」ような身もふたもない危機のことではない。 そんなことがあればそれは危機ではなく終了。

格納容器は爆発しないはず

格納容器内での水素爆発はありえない。だって酸素がないから。 格納容器は中の酸素をぬいて密閉している作りだから。 しかし圧力弁がなにかの理由で開きっぱなしなったりすることがあれば外部の空気が入ってくる可能性もある。 「格納容器に酸素はない」というのも思い込みになりうる。 問題は地震と外からの水素爆発の衝撃に耐えたかどうか。 水素爆発のエネルギーは建物を吹き飛ばし外へ逃げるので格納容器のダメージは少ない。 しかしなにがどう起きるかなんてわからない。 格納容器が壊れる場合は、溶融した燃料の熱で時間をかけて底に穴が開くことしかありえない。 爆発はないけれど、最悪の場合は、燃料を外へ漏らしてしまう。 ところが福島原発は旧式でコア・キャッチャーがない。 プールが格納容器の底にある。 水があるということは酸素もまったくないわけではない。 水素爆発が起きるほどの酸素が出る可能性はありえないけれども、 酸素を抜き密閉したコア・キャッチャー方式の格納容器なら「水素爆発はありえない」といいきれても、 水プールのある旧式の格納容器では「いっさいの爆発はありえない」とはいいきれない。 だからこの点を突いて「チェルノブイリと同じことが起きる可能性はまったくのゼロではない」という学者もいたわけ。 福島原発の格納容器のサイズが小さすぎる設計も危ないという指摘もある。 小さいからすぐ圧力が危険になり水素を抜く必要がでてくる。 格納容器の外へ水素を抜けばどうなるか。 建屋に抜けば水素が溜まり水素爆発。 屋外にぬけば水素爆発はおこらない。 構造上屋外に直接抜くダクトがなかったか、 電源喪失で建屋の排気ファンが動かなかったのかもしれない。 王手飛車取りみたいな状況。
緊急停止で制御棒は完全に入った。
ウラン崩壊は止った。
しかし制御棒を入れた後もコアでは
中間放射性生成物が崩壊し続け熱を生み続ける。
それを冷却するのが水。
水のタンクやパイプやプールに亀裂が入る。
水が抜ける。
水を送るポンプも電源アウトで動かない。
燃料棒が裸になる。

以上がすべての発端。
以下のシーンは同時進行している。

シーン1:
燃料棒のジルコニウムから水素が発生。
圧力容器内の圧力が異常に上昇。
水素を弁で逃がす。
逃がした水素が爆発。
格納容器は水素爆発に耐えられる。
大丈夫。

シーン2:
急激ではないにしろ燃料棒の温度は上がる。
燃料棒のジルコニウムが熱で破断溶融する。
溶けた燃料棒(コア)が落ちて圧力容器を溶かして穴を開ける。
しかし格納容器内にはコア・キャッチャーがある。
溶融したコアを受け止め、
拡散させつつ冷却し受け止める。
コアには格納容器を溶融する熱はもうない。
大丈夫。

以上が理屈。
問題なのは核分裂とかの話ではなく、 水冷という実装が地震に対して脆弱ということ。 だから原子力の専門家に話を聞くのは筋が違う。 ウランとか中性子とか核分裂の理論とかが問題なのではない。 設備と実装の話なの。

電源もってきたけどプラグが合わない

こんなミスも起きる。こんなことも想定する必要がある。

自分の頭で考えるために

正しい情報が大切。 「大丈夫だ、羊たち。大人しくしていろ」と言われてはいそうですかという問題か。 自分で考えないということは、 あきらかな頓珍漢が流したデマに流されることにもなる。 「テレビや学者の言うことと、情報から自分が判断したことを比較する」という作業は自立したヒトであればやるべき。 原発は「ヒトのやることに完璧はない、ヒトはミスをする」ということを超えたところでの戦い。 そういうレベルが要求される。 ということがわかっているのかという問題に尽きる。 原子力が悪いとは思わない。 その程度の実装力と危機管理能力で原子力をするなということ。 もっと高度なレベルでやっているかと思っていたので残念だよということ。 福島原発は設計が古くてへまな実装だからなにかあったら他の原発への信用毀損になる。 原子力の推進のためにも、あそこは早く廃止すべき、 といった判断ができないという問題。 なにかあるまでなにもできない。

水素爆発で建屋が吹き飛ぶシーンが象徴すること

もちろん巻き込まれた作業員は重傷を追うけれど、 格納容器から見たとき水素爆発はエンジニアリング的にはまったくたいしたことない。 むしろ外へ派手に爆発が逃げてくれた方がいいくらい。 しかし使用済み燃料棒の冷却プールが建屋にあったりすれば そのプールは燃料棒もろとも吹き飛ぶわけで、 たいしたことはないとはいえなくなる。 このへんの設備の構造も明るみに出たとき、 なんでそんなとこに燃料棒貯蔵プールが?と学者を青くさせもするだろう。 みためが派手な爆発シーンをまったくの素人(マスコミのこと)に見られてしまうことの意味が問題なの。 素人は「水素爆発はエンジニアリング的にはたいしたことではない」なんて思ってくれないということが問題なの。 だからこそ東電は「国民にはへんな意味に取られてしまう、マスコミにはおいしい映像を与えてしまう」水素爆発だけは絶対に避けるべきだった。 水素は建屋に放出せずに外へ放出するべきだった。 建屋に使用済み燃料棒貯蔵プールがあるならなおさら。 しかも別の建屋が密集しているという愚かな設備設計であり、隣を巻き込む恐れもある。 痛恨の判断ミス。 水素爆発はありえないという思い込みでもあったのか。 それは酸素の無い格納容器の中での話。 痛恨の設計ミスは非常用発電機の燃料タンクを津波対策していなかったこと。

設備の設計におけるバグ

ジルコニウムの正確な融点を知っていることと、 バグのない設備を作ることは別の話。 施設設計の愚かさが原子力研究の足をすくった。 信用毀損。偽計業務妨害。 「原子力技術」の話と「原子力施設」の話はまったく別の話。 震度9にたえる設備をつくっておいてのポカ。 津波のことは全く考えてなかった。 思い込みが強い専門家だけでやるから盲点ができる。

広報の不在

東電は状況の説明だけが求められてはいない。 状況の説明なら「正直に答えれば詳細は不明です」としか言えない。 それでは不安を煽るだけだ。 自分たちはなにをしようとしているのか説明すること。 そしてそのゴールを説明すること。 プランを説明すること。 失敗したら次のプランも迅速に説明すること。 何に成功し何に失敗しているのか説明すること。 いま東電はどこにいてどこを向いているかを説明すること。 そういうのが広報だろう。 社員は何万人要るのか。
廃炉を回避するための作戦遂行中
判断ミスで水素爆発させました
廃炉受け入れます
廃炉に向けての作戦に切り替えました
想定外の水漏れ多発中
各部で水位を喪失しました
まったく別の戦いに以降しました
という感じで、お金がかかってそうなプロジェクターやプロンプターを派手に駆使し、 知的な美人が逐次かっこよく広報していれば、 それで済んだのだ。 安心感を発信する大切なミッション。 社員はいくらでもいるだろう。 ガムテープとか黒板とか貧乏臭いことでは駄目。 風評や風説を封じるというのは最も大切なミッション。 「自分たちだけが判っていればいい、部外者はだまって見てろ」という態度は最悪だ。

祈るしかない

自分で考えることを怠けない。 この記事は私のために書いている。 自分なりにリサーチし続けた。 何が起きたかを把握できた。 最悪で何が起きるかわかった。 安心した。 安心というのは「なにが起きたか、なにが起きるかが判った」という意味だ。 「たいしたことは起きていないし、これからも起きないから安心」の安心ではまったくない。 「無知に起因する不安」を払拭できたという意味での安心だ。

こういう不安解消のメソッドはまさにハイデガー的なのだと後で気付いた。

自分で考えろ、自分でやれ、自分を未来に投げ込め。

エンジニアリング的なことでのバグやミスを完全に無くすことはできない。 しかし広報の不在。組織の腐敗。 水素爆発より広報不在と組織の腐敗が致命的で、 ほんとうになにからなにまでヘタクソでドロドロ。 なにもかも解体するしかない。

原子力安全委員会の機能不全

2007年の時点で福島原発事故回避のチャンスがあった。
班目春樹氏は委員長として不適格 交代をもとめる http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=558

問い「非常用ディーゼル発電機2台が同時に動かないということは, それ自体は,地震が発生したときに, 非常用ディーゼル発電機に寄り掛かっている, 動かさなくちゃいけないものが止まってしまうということがあり得るわけですから, 非常用発電機2台が同時に動かないという事態自体は, 大きな問題ではないですか。」

答え「非常用ディーゼル発電機2台が動かないという事例が発見された場合には, 多分, 保安院にも特別委員会ができて, この問題について真剣に考え出します。事例があったら教えてください。ですからそれが重要な事態だということは認めます。」

問い「重要な事態であれば, 非常用発電機2台が同時に止まったときに, ほかに何か, 別の重要な事態が加わって, それで事故が発生するというのは, 幾つか想定しなくてはいけないことではないんですか。先ほどから証人は, それに加えるのは小さなこと小さなことを加えなきやいけないから大変だと言って, ここは割り切るとおっしゃっていますけれども, 足す別の重大な事象ということが, 大きいことがあり得るんだということは, お認めにはならない。」

答え「我々, ある意味では非常に謙虚です。こういう事態とこういう事態とこういう事態の重ね合わせくらいは考えたほうがいいかなということについては, 聞く耳を持っております。是非こういうことについては考えてほしい, それはなるほど問題視したほうがいいということだったらば, 当然, 国の方でもそういうことについて審議を始めます。聞く耳を持たないという態度ではないんです。ただ今みたいに抽象的に,あれも起こって, これも起こって, これも起こって, だから地震だったら大変なことになるんだからという, 抽象的なことを言われた場合には, お答えのしようがありません。」

完璧なまでに突っ込んでいる。これだけ突っ込んでも駄目なんだから、お手上げですよ。 なにか起きるまでなにもできない。だったら安全委員会はなんのために存在しているのか。 人選の失敗。人災。 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110322-OYT1T00865.htm

RAGE HARD

ここで怒らなかったらいつ怒るのか。

topic:
first posted: 2011-03-18 17:22:17
last modified: 2011-04-17 10:38:47