2011年5月27日0時38分
関西電力の原発がある福井県若狭地方での過去の津波被害をめぐり、関電が被害を記述する文献の存在を把握しながら、「文献記録はない」と地元などに説明してきたことが26日、分かった。
文献に記述があったのは1586年に発生した「天正大地震」。敦賀短大の外岡慎一郎(とのおか・しんいちろう)教授(日本中世史)によると、京都の神社に伝わる「兼見卿記(かねみきょうき)」と、ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスの「日本史」の二つの文献に、若狭地方が地震にともなう大津波に襲われ、多数の人が死亡したとする記述があった。
一方、これまで関電は地元への広報誌などで、「文献などからも周辺で津波による大きな被害記録はありません」と説明してきた。
関電によると、1975年発行の「日本被害地震総覧」(東京大学出版会)が天正大地震は岐阜県付近を震源とする内陸地震だったとしていることから、同社は「津波は起こらなかったと判断した」(広報)という。兼見卿記など二つの文献の内容は81年に把握していたが、「総覧は過去の被害を網羅したもので、より信用性が高いと判断した」という。
ただ、都合の良い記述だけをもとにした説明との批判が起こる可能性もあり、今後、関電の説明責任が問われそうだ。夏の電力供給のカギを握る福井県内の原発の運転再開を認めるかどうか、地元の判断にも影響する可能性がある。(清井聡、溝呂木佐季)