きょうの社説 2011年5月27日

◎自然エネルギー20% ハードル高い「国際公約」
 菅直人首相が経済協力開発機構(OECD)で表明した自然エネルギー重視の政策は、 鳩山由紀夫前首相が突然、温室効果ガスを2020年に90年比で25%削減すると明言した国連演説をほうふつさせる。どちらも実現が難しい課題について、満足な国内調整を経ないうちに、首相本人が「国際公約」のごとく発表したという点で共通点がある。

 菅首相は日本の電力全体に占める自然エネルギーの発電比率を2020年代のできるだ け早い時期に20%とし、「1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置する」と述べた。太陽光パネル1000万戸の目標は、首相が演説の直前に自分で付け加えたものだという。自然エネルギーの推進というだれもが反対しにくい政策を大胆に打ち出し、内閣支持率回復につなげたいという思いが透けて見える。

 それにしても国民に重い負担を背負わせかねない問題を満足な議論もしないで、軽々に 国際社会に約束してしまう大胆さにはあきれるばかりだ。国際公約の代償は高く付くと思わねばならず、リーダーの「言葉の軽さ」がまたぞろ日本の信頼を傷付けることにならぬよう祈りたい。

 福島第1原発の事故により、原発主導の「エネルギー基本計画」を見直し、太陽光や風 力、地熱などの自然エネルギー重視の姿勢に転換していくのは自然な流れである。だが、コスト面などの課題はまだまだ多く、太陽光発電の場合、日差しの強い常夏の国に比べて、四季のある日本にはあまり向いていない。

 また、風力発電も常に偏西風が吹く欧州と異なり、日本では風向きが安定せず、台風や 落雷の多発地帯というハンディを抱える。地熱発電や洋上風力発電、バイオマス(生物資源)発電、小水力発電などさまざまなアイデアのなかから英知を結集し、北陸なら北陸に最も適した組み合わせを地域ごとに考え、長期的に取り組んでいく必要がある。

 国際社会が今、首相の口から聞きたいのは、遠い先の話ではなく、原発事故の詳細な経 過と収束へ向けた見通しである。この肝心な部分について、抽象的な表現に終始したのは残念というほかない。

◎新幹線の付帯決議 新規着工の弾みにしたい
 衆院国土交通委員会で審議中の旧国鉄長期債務処理法改正案をめぐり、与野党が、採決 にあたって整備新幹線の着実な整備を求める付帯決議を採択することで合意した。北陸新幹線金沢−敦賀など未着工3区間の扱いに関する検討を急ぐよう政府に迫る内容になるようだ。沿線の悲願である新規着工に、与野党がそろって前向きな姿勢を示す意味は小さくない。

 政府は、長野−金沢など既着工区間については、自公政権時代の計画を踏襲し、おおむ ね順調に工事を推進しているといってよいだろう。その一方で、未着工3区間は、自公政権の決定をいったん白紙に戻して新規着工の是非も含めて考え直すと「大見え」を切って見せたにもかかわらず、その後の議論は思ったようにはかどっておらず、いまだに中ぶらりんの状態が続いている。

 付帯決議に法的拘束力はないとはいえ、政府を新規着工の方向へ動かすための「圧力」 にはなり得る。政権交代以来、長く待たされてきた沿線自治体などの今後の要望活動にも、弾みがつくのは間違いない。

 未着工3区間はいずれも、完成すれば沿線活性化の起爆剤として大きな役割を果たすだ ろう。中でも金沢―敦賀は、大畠章宏国交相が26日の参院国交委での答弁で言及したように、日本の東西をつなぐ大動脈である東海道新幹線の代替ルートの一部という意味合いも持っている。ほかの2区間以上に必要性が高いといっても過言ではないのではないか。

 緊急時に、人や物資の流れが完全に断たれてしまうのを防ぐためには、バックアップ路 線を用意しておくことが大切だ。それは、東日本大震災で証明された通りである。東海道新幹線がダメージを受けた場合の備えとしては、JR東海が計画しているリニア中央新幹線で十分と指摘する向きもあるようだが、それだけでは、名古屋が災害に見舞われれば東西の行き来ができなくなってしまう。金沢―敦賀の早期整備に向け、与野党は引き続き、政府の背中を押し続けてほしい。