2011年4月1日 20時48分 更新:4月1日 23時49分
東日本大震災の復旧・復興対策事業費の財源確保策として、民主党内で「復興税」の導入や、国が発行する「震災国債」を日銀に直接引き受けさせる案が浮上している。10兆円を超えると見込まれる被災地の復旧・復興費への支出を賄うため、あらゆる手段で財源をかき集めたいとの思惑が背景にある。ただ、増税には震災の影響で落ち込む景気への影響を懸念する声がある。また、戦前の軍事費膨張やインフレの苦い経験から「禁じ手」にされた国債の日銀引き受けを認めれば、かえって市場の不信を買うリスクがあり、政府内でも慎重論が根強い。【坂井隆之】
復興税と日銀引き受け構想は、民主党の特別立法チーム(中川正春座長)がまとめた「復旧復興対策基本法案」の素案に盛り込まれた。有権者の不興を買うとして本来、慎重論が強い増税論議が与党から出てきたのは、復興費用の全額を借金である国債に依存すれば、先進国中で最悪の財政悪化に拍車がかかる懸念があるからだ。また「被災者への国民の連帯意識が高まっている今なら、一定の負担に応じてもらえる」(財務省政務三役)との期待感もある。
ただ、復興税導入には「大震災で消費者マインドが落ち込む中、増税のタイミングが難しい」(与党幹部)と景気への打撃を懸念する声が根強い。このため、政府・与党内では、当面は復旧費用の財源として「震災国債」を発行、復興需要による景気浮揚が見込まれる12年度以降に増税して、国債の償還に回す案が検討されている。
一方、国債を日銀に直接引き受けさせる案は、与野党内で以前からくすぶっていた。日銀が直接引き受ければ市場での国債の需給悪化を招かないとの見方のほか、日銀が国債を引き受けた分、市中に出回るお金の量が増え「デフレ対策としても効果がある」(自民党議員)との見方もある。
しかし、日銀の国債直接引き受けは戦前、膨張する軍事費を賄うために実施され、急激なインフレなどで国民生活を混乱させた経緯がある。戦後、財政法で原則禁止されたのは、この反省に立ったものだ。
このため、日銀は「中央銀行が国債引き受けを行わないのは世界で確立された考え方。異例の政策は通貨の信認を失墜させる」(白川方明総裁)と反対しているほか、野田佳彦財務相も「財政法は過去の歴史の教訓を踏まえた大変重たい規定」と否定的な立場だ。
実際、3月末に「日銀引き受け」構想が報道された際、市場では「財政規律の喪失」が想起され、長期金利が上昇する場面があった。そんな市場の動向も踏まえ、与謝野馨経済財政担当相は「日銀引き受けはあり得ないし、絶対にさせない」と民主党の動きを強くけん制している。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「(震災を受けた)危機対応策が、新たな危機(財政危機)を生むことは避けるべきだ」と、賢明な財源論議の必要性を指摘する。