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[14021] カラカラメグル(空白期突入 なのは×ユーノ)
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2011/05/25 08:14
 その日の私、高町なのはの朝は、たまたま休みを取れて遊びに来ていたユーノくんと、一緒に朝ご飯を食べることから始まりました。

 それから私は仕事があるのでヴィヴィオをユーノくんに任せて仕事に行きます。

「行ってくるねヴィヴィオ、ユーノくん」

 私は玄関まで見送りに来てくれた二人に振り向きます。

「いってらっしゃいなのは」

「なのはママいってらっしゃい!」

 二人に見送られて私は家を出て仕事場に向かいました。

 それがユーノくんとの最後の会話になるとは知らずに……。






 急ぐ。急ぐ。ただ急ぐ。

 飛行魔法を限界まで使って飛ぶ。その目的地は病院。仕事の途中で入ってきた報告を強く嘘だと願いながら。

 病院に降り立ち、すぐティアナが待っていた。彼女は私を見ると悲しそうに、そして申し訳なさそうな表情になる。

 お願い、ティアナ。そんな顔しないで。だって、そんな顔をするってことは……

 彼女はこっちですと言って案内する場所は病室じゃなかった。手術室。そこに赴くまでの廊下は冷たく、まるでこれからの運命を暗示するよう。そしてその部屋はランプが付いて使用中だとわかる。その前の椅子にはフェイトちゃん。

 フェイトちゃんは私に気づくと泣きそうな顔でごめんね。ごめんね間に合わなかった。と謝ってきた。フェイトちゃんは謝る必要なんてないのに。

 そして、ランプが消えると、中から真っ赤に染まった医者が出てきた。そして、たった一言。残念ですが……。そう言った。






 霊安室。そこで私は彼と再び対面した。今朝、何気ないことで笑い合った相手。幼馴染であり魔法のお師匠様であり、たぶん……一番仲の良かった異性。

 ユーノくん……

 その身体はもう冷たい。当然だ。だって、もうユーノくんは……

「いや……」

 認めたくない。でも目の前に突きつけられたのが真実。そう、ユーノくんは、

「いやァァァァァァァ!!」

 死んでしまったのだから。






 死因は全身の切り傷による出血多量。病院に担ぎ込まれた時にはすでに手遅れだったらしい。

 犯人は聖王教会の過激派のテロ組織。聖王教会からも異端視されている連中で、その目的は……ヴィヴィオ。復活した聖王として祭り上げるつもりであったと思われている。

 そして、ヴィヴィオを浚うため押しかけてきた二人は邪魔なユーノくんを排除してヴィヴィオを手に入れようとしたが、Aランクの魔道師であるユーノくんに手間取りその間に駆け付けた捜査官たちによって一人が逮捕。下手人である一人は逃亡の身。

 そう、逃亡……まだ捕まっていない。

 一方のヴィヴィオは駆け付けた捜査官たちに保護されている。私が面会に行った時にはショックで何もしゃべれない状態で、表情も虚ろ。あんなに元気だったのに大切な娘がこうなってしまったことは非常に悲しい。

 私は上司から与えられた臨時の休暇の間、出来うる限りヴィヴィオと一緒にいてあげた。

 だけど……






「ここ……だね」

 私はある古びた倉庫の前にいた。

 私が独自に調べたところ、今過激派の実行部隊がここに潜伏していることが分かっている。

 私はレイジングハートを握りしめる。ここにユーノくんをあんな目に合わせた人が……

『……マスター』

 レイジングハートは心配そうに問いかけてくる。大丈夫と私は答える。

「いくよレイジングハート」

 今から私がするのは最低の行動。ユーノくんも決して喜ばないこと。だけど、

『……了解しましたマイマスター』

 若干遅れてレイジングハートは答えてくれた。

 ありがとうレイジングハート。小さく、聞こえないくらい小さく大切なパートナーに呟いた。



 突然の襲撃に実行部隊は驚愕し恐怖した。

 襲撃者はたったの一人。だが、そのたった一人は一騎当千と名高い管理局のエースオブエース、高町なのは。

 そしてその戦いは戦闘などではなかった。一方的な虐殺である。

 使用される魔法は噂に聞く桜色の光を放たず、暴徒鎮圧用の非殺傷設定ですらなかった。血のように紅く染まった魔力光を放つその魔法全てには必殺の意志が籠められていた。

「くそ! ちくしょう!」

 男は悪態をつきながら次々と仲間が倒される中で逃走を図った。


 彼とて非公式ながらAAランクだったが、相手はそんな自分でも手には負えないと理解できる相手。それ以外に手はなかった。

 すでに聖王奪取という重要任務を失敗してしまった彼にはもう後がなく、この襲撃で組織からも見放されるであろうと考え、逃亡生活を覚悟していた。

 だが、逃げる彼の前に壁を壊して立ちふさがったのは、マガジンが取り付けられた杖を握りその純白の衣を返り血で真っ赤に染めた女性だった。

 そして彼を見た彼女はただ一言呟いた。

「見つけた」

 そう、この男こそが彼女から大切なものを奪った存在だった。

 男は恐怖した。そこにいたのは美しい見た目とは全く違うどす黒い何かを纏う地獄の悪鬼。

 彼女は静かにその杖の先端を突きつけた。ひっと小さく悲鳴を上げる男。

 男は這い蹲るように頭を下げた。

「お、俺が悪かった! た、頼む! 自首するからゆ、許してくれ!!」

 ひたすら頭を下げる男に、だけども彼女は僅かに首を傾げ、

「許す?」

 不思議そうに問い返した。

「あ、ああ! 組織についてもなんでも話すから! なあ!?」

 男は顔を上げる。だが、その表情は固まった。目の前に立つ彼女に表情はない。だが、その無表情こそ彼女の滾る怒りと憎しみを表現するのにふさわしかった。

「私からユーノくんを奪っておきながら? 許して? すごく勝手だよね」

 彼女はそう言って、予備のカートリッジを交換する。

 そして……地獄の閻魔のような声でただ一言、

「絶対許さない」

 判決を下した。





 まずはバスターで逃げられないよう足を撃ち抜きました。

 片足がちぎれてもう一方の足が曲がります。絶叫が上がり、男が身もだえます。

 そして、身動きが効かなくなったところでストライクフレームで、ユーノくんがされたように体中を切り刻みます。

 痛みにもだえながらまだ許しを請う男。まだそんなこと言ってるの? でも、あなたはユーノくんにそうしたんだよ?

 だから許さない。そして、絶対にすぐに殺したりしない。ゆっくりと時間をかけて私からユーノくんを奪ったことを後悔させてあげる。







 フェイト・T・ハラオウンは全力で現場に向かっていた。その速度たるや彼女の手にしがみついている補佐であるティアナすらも意識を手放しかけるほど。

 彼女たちが急ぐ理由は、彼女たちの調査によって、テロリストの隠れ家と目星を付けたエリアの様子を伺っていた捜査官からの定時報告が突然切れたこと。

 さらに悪い報告は続く。彼女の端末への不正アクセス、同時に消えた親友、定時報告が切れた捜査官の「たかま」までの言葉。

 そして……そのエリアで観測されたS+ランクの魔力反応。

 ここから想定される事態はもしかしたら起こるんではないかと危惧していたことでもあった。だけどそんなことあるわけがないと信じていたことであった。

 だが願いは届かず、その危惧は正しく、現場は彼女にとって最も起きてほしくなかった事態となっていた。

 フェイトたちが降り立った場所には廃工場はなく、瓦礫の山が広がり、そしてかつては人間だったものは物言わぬ屍となって転がっていた。

 そして、その中心に虚ろな笑顔で笑い続ける親友の姿をフェイトは見てしまったのだ。

「あっ、フェイトちゃん遅かったね? みーんな終わっちゃったよ」

 そう言って振り向いた彼女はどこまでも深い奈落のような瞳でワラッテいた。





 その後、高町なのはは教導隊から除名。彼女は管理局を去り、養女ヴィヴィオと共に第97管理外世界『地球』へ渡る。

 なお、ヴィヴィオを管理外世界に連れて行くことには聖王教会から強い反発があったものの、現在の心理的なダメージとそれによる魔法への拒否反応から魔法のない管理外世界での生活が望ましいという結論に至る。

 この決定にはクロノ提督と騎士カリムの発言も大きかったという。

 フェイトとはやては親友の様子を心配し、幾度か地球に赴くのだが、それでも彼女たちは親友の心に未だ燻る狂気の炎に気づくことはできなかった。



~~~~
思いつきで作りました。
ものすごく暗いスタートです。そして、すでに引き返せない領域に来てしまったなのはさん
次回、彼女が見つけた一つの答えです。
おかしな所がありましたらびしばしお願いいたします。



[14021] カラカラメグル 第二話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:33
「ヴィヴィオー! どう?」

 調整を終えて顔を出すとヴィヴィオはモニターをチェックしてくれました。

「ママ、ぜんぶ緑だよ!」

 ヴィヴィオの言葉に私は満足げに頷きます。

 ヴィヴィオもこの三年でだいぶ元に戻ってくれました。魔法を忌避してしまうところは完全には無理でしたが、

「これでよし、かな」

 そして私は蓋を閉め、三年の研究の末に完成したそれを眺めます。

 私はずっと考えていました。どうすればなくしたものを取り返せるのか。

 新しく作り出す? ううん、それはできません。既に死者を蘇らすことができないのは、プロジェクトFで証明されています。

 ならどうすればいいのか。答えは簡単でした。なかったことにしちゃえばいいんです。

 そのために管理局を出る前に無限書庫で出来る限り情報を集め、三年かけて研究を重ねて実用に漕ぎ着けました。

 タイムマシン。それで私は過去に行って大切なものを取り返すことを決めました。

 そのマシンは、辛うじて原型の車のデザインは留めているけど、ボンネットはなく中の機関は丸見えで、後部も特徴的なパーツがシルエットを変えています。

 動力源はプルトニウムじゃなくてジュエルシードです。

 すでに強奪した四つのジュエルシードはエンジンの中に入れてあるので、これでいつでも旅に出られます。

 そして、私たちは今日旅立ちます。大切なものを取り戻す旅に。

「じゃあ、行こうかヴィヴィオ」

「うん……」

 ヴィヴィオは小さく頷いて私とマシンに乗り込もうとします。でも、

「なのは!!」

「なのはちゃん!!」

 突然の、でも多分来るであろうと思っていた呼びかけに、私たちは足を止めました。









「フェイトちゃん、はやてちゃん……」

 振り向けばそこに私の大切な二人の友達がいました。

 そして、フェイトちゃんが聞いてきます。

「ジュエルシードを強奪したのはなのはなの?」

「うん。私がやろうとしていることに、必要なものだから」

 私は隠さないで答えました。先日行われた定期健診とレイジングハートの整備の為にミッドに行った時に奪ったものです。

 事前に下調べはよくして、嘘の犯行予告で誤魔化しましたけどさすがに限界だったみたいです。

「なのはちゃん、なにをするつもり?」

「取られたものを取り返しにかな」

 はやてちゃんの質問もちゃんと答えました。はやてちゃんは押し黙ります。

 二人が黙っているその間に私たちはマシンに乗り込もうとしました。

「待ってえな、なのはちゃん! それはあかんことなんやよ!」

「そうだよなのは! ヴィヴィオ! 何が起こるかわからない!!」

 二人は必死に私を止めようとします。でも、もう遅いんです。目的に必要なものは目の前にあるのだから。

「ごめんなさいフェイトママ、はやてさん」

 ヴィヴィオが悲しそうに謝ります。

「ごめんね。フェイトちゃん、はやてちゃん。でもね、もう遅いんだ」

 私もそう言って二人に背を向けます。完全な決別の意思を見せるために。

「なのは! そんなことないよ! もっと一杯話そう! そしたらきっと」

 フェイトちゃんの叫びに近い呼びかけに胸が締められます。でも、

「ごめんね。フェイトちゃん。でも今ならプレシアさんの気持ちがわかる気がするの」

 後ろでフェイトちゃんが息を飲んだ気配を感じました。

 ごめんね。フェイトちゃんには言っちゃいけないことなのに。

「なのはちゃん!」

 はやてちゃんの言葉を振り切ってマシンに乗り込みました。そして、エンジンをかけてマシンを起動させます。

「ごめんね。二人とも……さようなら」

「ばいばい」

 私たちのその言葉は二人に届いたかわかりません。なぜなら言い終わる直前にマシンが光に包まれてしまったのだから。






 マシンはどこともいえない空間を漂っていました。

「ママ……」

 不安そうにヴィヴィオが私の袖をぐっと握ります。私は大丈夫だよ、と頭を撫でてあげます。

「い、いけるかな?」

 なにぶん、人間を飛ばすのは初めてのことだから不安が大きいです。

 だけど、そのどこともいえない空間を出た時、突然強い光が世界を私たちを包みました。思わず目を閉じてしまいます。

 そして、再び目を開けた時、その空間の中で私はそれを垣間見ました。

 ある世界ではクロノくんと結婚して翠屋を継いだ私がいました。

 また別の世界ではユーノくんと一緒になって幸せそうに暮らしている私がいます。

 さらに別の世界では知らない世界に私が呼び出されて永遠神剣『不屈』を手に戦っていました。

 そして、閉じた世界でなぜか貧乏探偵となった私がユーノくんと一緒に最強の幻想を駆って悪の組織と戦っています。

 さらに違う世界ではレイジングハートに出会わないで普通に暮らしている私が。そして、御神の技を修めてボディーガードになった私も。

 たくさんの私が存在してました。戦っていました。歩んでいました。

 そして、私は垣間見ました。無限の宇宙に存在する、鎖のように連なる無限の時の中で、
 多くの『もしもの世界』が目の前に広がっていました。

「ママ……これ」

 ヴィヴィオが呟くけど私は答えられません。

 それを見て私は、私は…………






 そして、『高町なのは』と『高町ヴィヴィオ』いう存在はタイムマシンと共にそ
の世界の狭間に融けて消えることとなった。だけど……


 私、高町なのはは夜中に突然目を醒ましてしまいました。

 夢を、夢を見てました。何かとても悲しく苦しい夢を見ていた気がします。でも、起きた今はその中身が全く思い出せません。

「あれ?」

 気づくと涙がこぼれていました。どうして?

 私は自分がなんで泣いているのかわかりません。

 こぼれる涙を拭って布団に潜り込みました。明日は小学校の入学式です。寝坊する訳にはいきません。

 でも……

「まもらなくちゃ」

 ただそのことだけが私の中に浮かんだのでした。






~~~~
なのはさん過去に向かうい消滅、そして、その記憶と思いはかつてのなのはさんに受け継がれました。
この後、彼女がなにを選択するのか、そしてともに消えたヴィヴィオはどうなったか、少しお待ちください。
ドラちゃんのタイムマシンにするか悩みましたが、タイムマシンのデザインはデ■リアンです。
ついに逆行です。だけど……



[14021] カラカラメグル 第三話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:08
 次の日、入学式を終えた私は御夕飯の時、意を決してお父さんに頼みました。

「お父さん! なのはに剣を教えて!!」

『は?』

「あらら」

 お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんは私が何を言ったのかよく理解できなかったみたいです。

 お母さんは分かったみたいだけど驚いて口に手を当てています。

 それから理解が追いついたのか少し経つとお父さんはこほんと咳払いをして私を見ます。

「なのは、なのはも剣に興味を持ってくれたのはお父さんも嬉しいが、生半可な気持ちじゃ教えられないぞ?」

「だ、大丈夫だよ! お稽古ちゃんとがんばるよ!」

 私は真剣な目でお父さんの目を見ます。

 昨日の夢を見てからたくさん考えました。何を護りたいのか分からないけど、護るにはどうすればいいのか。

 簡単です強くなればいいんです。その何かを護れるくらいに強く。

 しばらくの間じーっとお父さんの目を見続けると、お父さんはふうっと息を吐き出しました。

「わかった。明日から道場に来なさい」

「ありがとうお父さん!!」

 私はお父さんのOKに喜びました。だけど、

「とーさん!?」

「お父さん!?」

 お姉ちゃんとお兄ちゃんが大声で反対しました。

「なに考えてるんだよ!? なのはに剣を教えるだなんて」

「そうだよ、なのはに教えるだなんて!! それになのはは運動が苦手なんだよ!? 」

 すごい勢いでお父さんに反対します。そ、そこまで反対しなくてもいいと思うのー!!

「まあ待て、なのはの目をよく見ろ」

 そう言われて二人とも私の目を覗きこみます。えっと、ちょっと怖いです。

「真剣な目だ。例え今反対しても自分でなんとかしようとしてしまうだろう。だったら俺たちがちゃんと導いてやるほうがいいだろう?」

 そう言ってお父さんは笑いました。

「とーさん……」

「お父さん……」

 二人は尊敬の混じった目でお父さんを見ます。だけど、

「本音は?」

「なのはも御神を継いでくれるつもりなんて嬉しいじゃないか!!」

「とーさん!!」

「お父さん!!」

 お母さんの一言で本音が出てしまいました。




 
 それから、お父さんたちの指導の元、私も御神の技を習いだしました。

 お父さんたちから言わせると私には剣の才能はあまりないそうです。でも、そのかわりもの覚えは非常にいいと言ってくれました。

 特に飛針と鋼糸の使い方が上手らしいです。こちらは剣に比べてはるかに才能があったそうです。

 一年が経つ頃には身体の動かし方とかも分かるようになってきて、運動もできる方になりました。

 それでも友達になったすずかちゃんには体育で敵いませんが……

 そして、二年が経ちました。


~~~~
なのはさん下準備の巻。
武装隊で教導官してたし、スバルたちの攻撃を素手で受けたりできたからやればできると思うのでこんな感じに。
それに誘導弾とか得意なんだから飛針と鋼糸も得意になれるんじゃないかなと思ってこの設定です。
そして、次からいよいよPT事件序章です。
さて、彼女は彼に出会った時、何を選択するでしょうか?



[14021] カラカラメグル 第四話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:09
「なんか変な夢見ちゃった……」

 おかしな夢でした。見知らぬはずなのに懐かしい感じがする男の子がなにかと戦う夢です。

 私はなんでその男の子が懐かしく思えたのかよくわかりません。

 でも、なにか大切なものだった筈でした。でもなんで思い出せないのかな?






 そして、学校でアリサちゃんとすずかちゃんとお昼を食べている時でした。授業にあった『将来やりたいこと』について話しました。

 アリサちゃんはお父さんとお母さんの後を継ぐことで、すずかちゃんは工学系の道に進むそうです。

「そっかあ、二人ともすごいよねえ」

 思わず呟いてしまいます。二人ともはっきりとしたヴィジョンがあって、対して私は曖昧です。

「なのはは? 喫茶翠屋の二代目じゃないの?」

「うん、それも将来のヴィジョンの一つでもあるんだけど」

 私は一度そこで区切って言うべきかどうか考えてから言いました。

「護れる人になりたいんだ」

 二人とも首を捻ってしまいます。曖昧すぎるよね? でも、それが二年前から私が思っていたことです。

「護れる人?」

「うん。何かを護れる人」

 アリサちゃんの問いに頷きます。あまりに抽象的すぎる言葉にアリサちゃんが唸って考え込んでしまいます。

「あ、だからお父さんたちに剣の使い方習ってるの?」

 すずかちゃんの質問にも頷きます。

「うん。そうなの」

 二人はふーんと言ってなれるといいねと言ってくれました。

 本当になれたらいいな。■■■くんを護れるくらいに……

 あれ? 今なんか変な言葉が浮かばなかったかな? よく思い出せないの。






「二人ともこっちが近道よ」

 帰り道、アリサちゃんが近道をして塾に行こうと言いました。ちょっと不安だけどアリサちゃんを信じて着いていきます。

 でも、少し進むと何かおかしいものを感じます。まるで巻き戻した映像を見ているような……

 そこでピーンと来ました。ここ、昨夜夢で見た場所? でもそんなはずないよね。

 突然止まった私に不思議そうに二人が振り返ります。私はなんでもないと言ってまた一緒に歩き出しました。だけど、

《助けて……》

「っ!?」

 私はその声を聞いて弾かれるように走り出しました。

「なのは!?」

「なのはちゃん!?」

 二人が突然の私の行動に驚くけど私はただ急ぎました。

 早く、早く行かないと! なんで自分がこんなに慌ててるのか分かりません。

 まだ神速はできませんけどそれでもかなり足は早いと思っています。そしてそのおかげで、すぐに見つけることができました。

 見つけたのは傷だらけのフェレットさん。なぜか分からないけどすぐにその子が私を呼んだのだと分かりました。

 そして、もう一つ。フェレットさんを見つけた時に感じたのは、あの夢と同じとても懐かしくとても悲しい思いでした。

「なのはどうしたのよ!?」

 遅れて駆け付けたアリサちゃんが私に聞いてきます。

「なのはちゃん? それフェレット?」

 すずかちゃんが私の手の中のフェレットさんを覗き込みました。

「うん、怪我してるみたいなの」

「じゃ、じゃあ病院つれてかないと!!」

「びょ、病院じゃなくて動物病院かな?」

 二人が慌てる中、私はそっとフェレットさんを抱き締めました。そして、

「大丈夫だから。今度は護るから……」

 そう呟いてユ■■くんを……あれ? 私、今なにか言ったかな? 不思議な感覚に囚われながらも私はアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に動物病院に向かいました。





 その後、フェレットさんは動物病院に一晩だけ預かってもらうことになりました。

 それから塾で三人で誰の家でなら預かれるか相談して私が預かると言って、家に帰ったらすぐお母さんたちに頼んでみました。

 みんなは快く預かる許可を出してくれました。もしダメって言われても押し通すつもりだったから本当に助かりました。

 そして私は寝る前に二人にメールで私が引き取ることを伝えました。そしたら、

『助けて!!』

 突然、声が聞こえました。





 私はそれを聞いた瞬間、強く頷きました。

「うん! すぐに行くよ!」

『よかった! お願いします! もうそこまで……』

 そこで声が途切れてしまいます。強い魔力で念話が妨害されてるみたい。私はすぐに飛針と鋼糸を持って家を飛び出しました。

 早く、早く! 速くユー■くんのところに!

 私は全力で、自分でも驚くくらい速く駆け抜けます。

 そして、動物病院に着くと、夢に出てきた黒い謎の毛玉お化けとフェレットさんがいました。私は迷わずフェレットさんに襲いかかろうとした毛玉に、飛針を投げつけます。

 飛針に怯む毛玉お化け。その間にフェレットさんが私に飛びついてきました。

「来て……くれたの?」

 突然フェレットさんが言葉を話しましたが、私はなぜかすんなりそれを受け入れられました。

 そして、目の前にいる毛玉お化けに目を向けます。

「何が、起きてるのか、何がどうなってるのかわからないけど……」

 私は飛針をまだ動く毛玉に投げました。

「こっちがさきなの!」

 さらに鋼糸を抜きます。手首の返しで上手く鋼糸を操って雁字搦めにして飛針を次々と投げます。悶える毛玉お化け。

 ふふふ、痛い? 痛いよね? でもあなたのおかげでユー■くんは大怪我したの。

 ……だからね、万倍にして返してあげるの。

 私はさらに残りの飛針を全て投げつけようとして……

「……せん……ませ……」

 近いけど遠い声で気が付きました。あれ? 私……どうしたの?

「すいません! それではそれは倒せません!」

 耳元でフェレットさんが大声を上げました。

「あっ! ごめんね。よく聞こえなかったの。もう一回お願い」

 フェレットさんは頷くと、毛玉お化けのことを教えてくれました。

 あれの中心に核になっているものがあり、それを封印しないと意味がないこと。また、それには物理的な攻撃が聞かないことを教えてくれました。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「これを使ってください!」

 そう言ってフェレットさんが差し出してきたのは赤い宝石でした。

 あれ? これってどっかで見た気がするの。

 でも今はそんなことを考えている場合じゃありません。私はその宝石を受け取りました。

 それはほんのりと暖かい。そして、それを手に取った瞬間、なぜかあるべきものが戻った気がしました。

「それを手に目を閉じて、心を澄まして! 僕言う通りに繰り返して! あなたの魔法の資質が解放されます!!」

 えっと、魔法の資質? よくわからないけど言われた通りにその宝石を握りしめます。

「いい、いくよ?」

「うん」

 私は頷きます。

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命をうけし者なり」

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て!」

 あれ? これ……知ってる。

「風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天にっ!」

 そう、やっぱり知っているの。その後も、わかる。でも、違う。私が欲しいものは……

「そして、不屈の心は!」

 勝手に思い描く言葉で続きを呟きます。

 え? っとフェレットさんが呟きますが、もう止まりません。

「この胸に! この手に力を!! レイジングハート、セットアップ!!」

 私の叫びと共に宝石から、レイジングハートから声が聞こえました。

『スタンバイ・レディ、セットアップ』

 そして、膨大な魔力が空を突き抜けました。



~~~~
ついに再び出会うなのは。そして、唯一無二の相棒と再会です。はたして彼女の運命は?
とりあえず、最初の毛玉は鎧袖一触かな?
感想お待ちしております。あえて言おう、感想は私の大好物。



[14021] おまけ嘘予告
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2009/11/23 06:44
現在制作中の作品の嘘予告です。

ただ、一部はかなり無茶です。悪ノリです。



1.例えばこんな永遠神剣の世界

高町なのはとユーノとフェイトは友人である高嶺佳織とその兄、高嶺 悠人と彼の友人である碧 光陰と岬 今日子と共に神社に訪れた。

だが、その神社の巫女、倉橋時深と出会ったことで運命が変わる。

突然、異世界の国ラキオスに召喚され悠人とともに友人である佳織を救うため四神剣とは別に存在した第五位永遠神剣『心』のエトランジェとして戦うことを余儀なくされる。

スピリットを撃つことに心を痛めながらも仲間を守るため立ち向かうなのは。

だが、その最中、第四位永遠神剣『轟雷』と第五位永遠神剣『遺産』に精神を喰われたフェイトとユーノと対峙することになる。

なのははユーノとフェイトを救うことはできるのか? そして、ファンタズマゴリアの運命は?


『不屈のなのは』来春発売未定。

どう続けろと?




2.例えばこんなディシディアな世界

高町なのははコスモスとカオス二つの勢力が戦う世界にコスモス側として召喚される。

そして、フェイト・テスタロッサはカオス側に召喚される。

ぶつかりあう二人、だが、なのはの言葉はフェイトに届かない。

そして、仲間たちとの交流でなのはは決意を固める。

「友達に、なりたいんだ」

投げかけるは正しき歴史で交した約束。そして、コスモスとカオスの戦いの結末は……


『ディシディア・ファイナルマジカル』鋭意制作してません。




3.例えばこんな斬魔大聖な世界

貧乏探偵高町なのはは毎度のように親友であるシスター、フェイトのところに転がりこんで食事にありついていた。

なんで自分がこんなことしているのか? もう喫茶店でも開こうかと思った時、依頼が舞い込む。

街の実質的支配者『ハラオウン財閥』総帥クロノ・ハラオウンからデバイスの捜索依頼。

本来魔法に関係することは忌避していたなのはだったものの、町に蔓延るブラックロッジに対抗するために依頼を受け入れる。

その探索の中、彼女は一つのデバイスにであう。別の世界では唯一無二のパートナーであるレイジングハートとその管制人格ユーノと。

そして、彼らは最強の幻想と共に巨悪に立ち向かう。



怪作『撃魔大聖リリカルマジカル』始まりません。




4.例えばこんな運命の夜

はやてはこれから始まるであろう聖杯戦争に参加するためにサーヴァントの召喚を実行する。

狙いは最良のサーヴァント、セイバー。だが、彼女が召喚したのは剣を好んで使うアーチャーだった。

聖杯戦争の為に町を探索していた二人は学校で槍を持った小柄な少年、ランサーとぶつかりあう。

だが、その現場を同級生のユーノ・スクライアに目撃されてしまう。

ユーノを謝りながら処分するランサー。対してはやてはユーノを蘇生する。

その後、ユーノは何が起きたのかよく分からず家に帰るが再びランサーの襲撃に合う。

とっさに逃げたのは魔法の練習に使う蔵。そして、追い詰められたユーノの腕に複雑な紋様が浮かぶ。

現れるは最後のサーヴァント、赤い宝石が埋め込まれた杖を持つ純白の衣を纏う女性、キャスター。

「あの、あなたが私のマスターですか?」

ここに聖杯をめぐるマスターとサーヴァントの戦いが始まる。


運命の戦争『フェイト・ステイ・マジカル』ここに開幕……しません!





5.例えばこんな祝福の風

リインフォースは困惑していた。自分は主の為に消滅する道を選んだはずである。なのに、気づけば見知らぬ部屋に放り出され、目の前には見知らぬ青年。

見知らぬ青年『白銀武』によってリインフォースはこの世界が地球外生命体BETAの侵略を受けていることを知る。

再び存在できるのはきっとこれまでの贖罪の為と考え武と契約し人類を守る戦いに身を投じるリインフォース。

武と共に訓練を受けるリインフォース。そして武はいくつもの苦難を乗り越え、鑑純夏と再会する。

祝福するもののリインフォースは自分の存在に疑問を持つ。

「私はタケルのそばにいられないのか?」

リインフォースは武に問う。そして、

「私、分かってるんだ。今のタケルちゃんが本当に好きなのは誰なのか」

純夏は武の本心を見抜く。そして武は決意する。

「いくぞリイン!」

「ああ、タケル!」

今、あいとゆうきのおとぎばなしに祝福の風が吹く!

「これが! 俺の!!」

「私の!!」

『自慢の拳だぁぁぁぁぁ!!!』


『あいとゆうきとしゅくふくのおとぎばなし』鋭意制作中。
これは割とノリノリ

~~~~
これらただいま構想中。
たぶん最初にできるのは5番かなあ? あ、最後のは声優ネタです。
まあ、一番の問題かカラカラメグルの完結だな……
それでは失礼します。



[14021] カラカラメグル 第五話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:13
 真っ赤な魔力が空を突きぬけ雲を払いました。

 わわわ、自分で言うのもあれだけどす、すごいの。あの時は慌ててたから……あれ? あの時っていつ?

「す、すごい魔力だ……」

 フェレットさんは呆けたように呟いてから、すぐにこっちに駆け寄ってきました。

「落ち着いてイメージして。君の魔法を制御する魔法の杖の姿を。そして、君を守る衣服の姿を!」

 言われてすぐ思いつく杖の姿。でも……それだけじゃダメなの!

 イメージを変更します。杖として以外にもう一つの、今の私が握るべきもの。それは!

 できたのは剣のイメージ。片刃の、真ん中に紅い宝石がある剣の姿。そして、服もイメージを変えます。もっと、動きやすく、戦いやすいものに。

 そして、それは起きました。

 服が一瞬で分解されて消えました。そして、白いジャケットが現れると、インナーが現れます。腰の当たりに金属パーツ、そして、胸元につなぎのパーツ。

 続いてスカート。タイトスカートが現れて、続いて腰を囲むような前開きのスカートが装着されます。さらにニーソックスとシューズが装着されてリボンで髪を結んで完了です。

 そして、現れた剣を執りました。

 途端に頭に数々のイメージがかけぬけます。

 フェイトちゃん、アルフさん、クロノくん、エイミィさん、リンディさん、プレシアさん。

 はやてちゃん、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラ、リインフォースさん、リイン。

 スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、ゲンヤさん、カリムさん、スカリエッティ、ディエチたちナンバーズ、そして……ユーノくんとヴィヴィオ。

 全てが頭の中を駆け抜けて、思い出しました。そう、全てを……私がなんで護りたいと思い始めた理由も。『私』の記憶と思いと共に。

 そっと、一筋だけ涙を流しました。

 それは全てを取り戻そうと抗った『私』への涙。

 それは、『私』が失った大切なものへの涙。

 それは、消えてしまった『私』への誓いの涙。

 私と『私』は違う存在です。だけど……『私』のかわりに今度こそは、

「護ってみせます」

 私はそう呟いてレイジングハートを振るいました。そして、紅い魔力の刃が現れます。

 刃が紅い? ああ、そういえば紅くなっちゃったんだっけ私の魔力。

 あまり気にせず、私は何も知らないフリをしながらユーノくんに目を向けます。

「ねえユー……フェレットさん。どうすればいいの?」

 あ、危ない危ない。ユーノくんって呼ぶところだったの。

 少ししてユーノくんははいと答えてくれました。

「呪文を使って封印してください。呪文はあなたの中に自然と出てくるはずです」

 思い浮かべる必要もなくやり方はわかります。でも、その前に毛玉おばけが鋼糸の戒めを解いてこちらに突っ込んできました。

 「危ない!」とユーノくんは叫びますが大丈夫です。動きが遅すぎます。

 一刀。お父さんたちに教わった通りに剣を振りました。すぱんと毛玉おばけは両断されます。

 その中心に見覚えのある輝き。ジュエルシード。それを認識した瞬間、レイジングハートが、

『シーリングフォーム』

 とまた姿を変えました。それは昔のシーリングフォームそのまま。少し懐かしく思えます。

 さて、ジュエルシード封印しないと。

「リリカル・マジカル! 封印すべきは忌まわしき器 ジュエルシード封印!」

 毛玉お化けに紅い魔力を放出、外殻を取り除いた上でジュエルシードを封印しました。

 ふう、とりあえず終わったの。

 私はレイジングハートを下げてジュエルシードを格納しました。






「改めて『はじめまして』私、高町なのは。なのはって呼んで」

 現場をある程度離れた公園で事後説明をしようとしたらなのはと名乗った女の子が微笑みました。

 ああ、こんな笑顔ができるんだと僕はそれを見て安心しました。

 正直、さっき見た禍々しいサディスティックな笑みの印象が強かった分、安心する笑顔です。

「僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だからユーノが名前です」

「ユーノくんか、いい名前だね」

 彼女にそう言われてから改めて頭を下げました。

「すいません。あなたを」

「なのはだよ?」

 僕が謝ろうとすると、なのはさんは僕を持ち上げてじっと目を見ながら訂正してきました。

 正直、その眼が怖いです。さっきの思念体に向けていた目に似ている気がして……

「その、なのはさんを巻き込んでしまいました」

 少しだけ目を逸らしていいました。直視するのには慣れが必要そうです。

「ううん、そんなことどうでもいいの。それより色々説明してほしいな。君がなんなのかあれがなんなのかとか。あと、さんもいらないからね」

 なのはに言われて僕は別の世界から来たことを教えて、世界はこの世界以外にもたくさんあって、次元世界と呼ばれてること。そこでは魔法は割と一般的で僕も魔法が使えること。を簡単に説明しました。

「ふーん、そうだったんだ」

 説明が終わるとあっさり彼女は納得します。普通もう少し驚くと思うんだけど……

「で、なんでユーノくんはこの世界に来たの? それにさっきのお化けはなんなのかな?」

 なのはの質問に僕は頷きます。それはもっとも重要なことだから。

 僕の部族は遺跡発掘を生業にしていること。ここに来る前の世界でさっきの思念体の核になっていたジュエルシードを発掘してしまったこと。

 それが移送中に事故でこの世界に散らばってしまったことを話しました。

「だいたいわかったの」

 なのはが頷くのを見て僕は頭を下げました。

「勝手なのはわかってます! でもジュエルシードは危険で、僕だけじゃ、どうしようもないんです。だから、お願いします! 力を貸してください。お礼は僕ができることならなんでもします!!」

 深々と頭を下げます。だけど返事がありません。

 おかしいと思って頭を上げると、そこに、クネクネと悶えるなのはがいたのでした。





~~~~
なのはさん全てを思い出すの回。

毛玉お化けは一蹴です。そして、ユーノの説明はなのはは知ってるので怪しまれないよう聞いた振りです。

このなのはさんのバリアジャケットはアグレッサーモードとエクシードを足して割った感じです。
レイハさんはフェイトさんのライオットブレードに似た姿です。ただ、こっちの方が柄が長く流線型です。
それではまた。



[14021] カラカラメグル 第六話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/20 21:22
 私はユーノくんの言葉にクネクネします。なんでも? なんでもする?

 私自身はまだ九歳ですが、大人の『私』の知識も少しだけありました。そこからいろいろ考えてしまいます。

 はう~。おもちかえり~~。



 ~~とある時間のずれた世界にて~~



 スバルとティアナを機動六課にスカウトするため会いに来たのですが……

「不躾な質問ですが、なのはさん」

 対面に座ったティアナが真面目な顔で突然聞いてきました。

「なにかな?」

 少し悩んでから意を決したようにティアナが聞いてきます。

「あの、以前私の言うべきセリフを言ったことありませんか?」

 へ? 質問の意図がまったくよめないの。

 一方のティアナも「いいんです。気にしないでください」と、すごすご引きさがってしまった。なんだったの?


~~戻ります~~



「あの、なのは……さん?」

 っと、ユーノくんがおかしいものを見る目で私を見てました。とと。そろそろ気を引き締めないと。

「えっと、お礼はユー……特に気にしなくていいよ。私もあんな危険なものをほったらかしにできないし」

 お礼はユーノくんと言いかけて直すとユーノくんはありがとうございます。とまた頭を下げてきました。と、そこで

「あれ? なのはちゃん?」

 いきなり後ろから声をかけられました。

 びくっと、背筋がまっすぐになります。

「あ、と、時音さん。こんばんわ」

 振り向くと、ご近所様の柔らかい笑顔と銀に近い灰色の髪を海のように深い蒼い瞳が魅力的なお姉さん黒野時音さんがそこにいました。あれ? 前の記憶に時音さんの記憶なんてないの。

「こんばんわなのはちゃん」

 それから時音さんは周りを見回します。

「あれえ? おかしいなあ。誰かとしゃべってると思ってたんだけど?」

 時音さんが首を傾げますと、ユーノくんがそっぽを向きます。い、言えないのそこにいるフェレットさんとおしゃべりしてただなんて。

「あ、あの、時音さんはどうしてここにいるの?」

 私は話題を変えるため突然現れた理由を聞いてみました。

「あ、買い物だよお」

 そう言って時音さんは紙袋を見せてくれました。

「近くにあるお店は全滅でね~。仕方ないから少し遠くまで買いに行ってたの」

 そ、そうなんだ。も、もしかして、前より早い段階で終わったから鉢合わせちゃったのかな?

「でも、なのはちゃん、こんな時間に外を歩くのはダメだよ?」

 めっと、指一本立てて真剣な顔になった時音さんに注意されました。私は小学三年生です。こんな時間に外に出てたら注意されて当然です。

「はい……」

 私は頭を下げます。「よし」と満足そうに頷く時音さん。それから、あら? っと首を傾げてユーノくんを見て、

「あ~、フェレット!」

 ぱああああっと、目を輝かせました。そ、そういえば時音さん小動物とかが大好きだったの。

「なのはちゃんフェレット飼ってたんだ! ねね、名前は?」

「ゆ、ユーノくんです」

 私が答えると時音さんはさらに目を輝かせます。

「ユーノくんか~、かわいいねえ。抱いていいかな?」

「ど、どうぞ」

 時音さんの迫力に押されて私は頷きます。本当なら、美人な時音さんとユーノくんを引きあわせたくなかったけどこれは仕方ないの。

 やーん! と、ユーノくんに頬ずりする時音さん……ふふ、私もとおってもしてあげたいの。ふふふふ。

 そんな感じで私は二人を見守っているのでした。






 さて、時音さんと別れて、家に帰ってきました。

 ですが、このまままっすぐ入るとお兄ちゃんとお姉ちゃんに捕まってしまいます。かといって、鋼糸とかを使ってこっそり部屋に戻ってもばれてしまうでしょうし……

 意を決してまっすぐ家にあがりました。やっぱり待ち構えていたお兄ちゃんたちに捕まって注意されてしまいます。

 それからお母さんたちにユーノくんを見せると、前みたいにユーノくんを非常に気に入ってくれたみたいです。

 特にお母さんがかわいいと気に入ってしまって……

 ここにライバルがいたの……何か対策考えておかないと。ユーノくんがリンディさんとか年上好きになっても困るの。

 それから少しだけユーノくんとお話してからベッドに入ってこれからのことを考え始めました。

 『私』の記憶は断片的にしかないけどこれからのことを知っています。フェイトちゃん……できたらプレシアさんも助けたいけど、私はどうすればいいんでしょう?

 そうして色々考えているうちに私は眠ってしまいました。






 なのはが眠ったころに俺はまだリビングにいるとーさんに会いに行った。

「とーさん」

「ああ、恭也どうした?」

 そして、少しためらってからとーさんに聞いてみた。

「さっきのなのはの目……」

「お前も気づいてたか」

 すっと、とーさんの目が細くなる。現役時代と遜色ない気配が生まれる。

 やっぱりとーさんも気づいてたか。

「ああ。なのはの目、今までと全然違った」

 あの目、なにかを覚悟したかのような目。とてもじゃないが、まだ小学三年のなのはが灯せるような光とは思えなかった。

 厳しい人生を歩んできたような……少なくともなのはには十年ほど早すぎると思う。

「最初に剣を教えてほしいと言いだした目にそっくりだったな。光の強さがまったく違ったが」

 とーさんは考え込んでからさっきまでの雰囲気を払って笑う。

「ま、そのうちわかるだろ」

 俺はそんなとーさんの一言に脱力してしまう。まったく、さっきまで真面目に話していたのに。

 まあ、とーさんの言うことも一理ある。今日は保留にして様子をみることにしておくか。






 翌日、学校でアリサちゃんとすずかちゃんに昨日のことを真実をぼかして説明しすると、二人はよかったと安心して今度うちに様子を見に来ると言ってくれました。

 そして帰り道。記憶の通りにジュエルシードが発動するのを感じました。

『なのは! 気づいた?』

 うん。わかってるの。



オリジナルキャラ
黒野 時音
高町家の近所に住む女子学生。美由希とはクラスメート。
性格はおっとりしているが、実家は古武術の分家筋であり、たまに美由希と手合わせをしているためなのはとも顔見知り。


~~~~
なのは妄想&オリキャラ登場、そして恭也、なのはに違和感を感じるの回。の回。
彼女はとりあえず、逆行前との差別化の為のキャラ。(アリサ、すずかが突然公園に現れるわけないので)
これ以降彼女が出てくるかは……見守っててください。

一応明言しておきますが、なのはの思考の中に入ってる『私』は逆行前のなのはさんのことです。
次回は神社に出る犬にとり憑いたジュエルシードです。



[14021] カラカラメグル 第七話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:16
 現場の神社に到着するとそこには魔犬というべき怪獣がいました。

 なんというか、フリードとか、ヴォルテールとか、もっとそれっぽい怪獣(キャロが聞いたら抗議するだろうな)を見たことあるからあまり迫力ないの。

 そんなことを考えてるうちに、こっちに気づいた魔犬がこっちに突っ込んできます。

「えっと、レイジングハート、お願い!」

『セットアップ』

 一瞬でレイジングハートがデバイスになってバリアジャケットに換装しました。

 ユーノくんが「よ、呼びかけだけで!?」驚いています。

 そして、前回同様、レイジングハートの魔力刃でダメージを与えてからジュエルシードを回収しました。

 ふう、これで二個目、ユーノくんと合わせて三個なの。

 だけど、これが思わぬ斑紋を呼びました。





 そして、家に帰る途中、ユーノくんが言いました。

「なんか、こういうと悪いけど、なのはって戦い馴れしてるように見えるね」

 どき!

 ユーノくんの言葉に私は固まってしまいます。

 い、言えないの。記憶だけだけど、実は前に同じことしたことがあっただなんて!!

「そ、そっかなあ? た、たぶんお父さんたちに鍛えられたからだと思うの」

 なんとかそう弁明しました。だけど、

「それでもだよ。普通なら見たことない怪物だなんて、腰が引けるだろうし」

 ごめん。実は見たことあるの。それに、それより迫力のあるものだって見たからあの程度じゃ驚けないの。

 ううう、ならあれを引き合いにだすの。

「あのね、ユーノくん」

 私が薄く笑いながら振り返ると、とたんにユーノくんの背筋がぴんとなりました。

「な、なに?」

「……前ね、お父さんたちの山籠りの修行に付き合った時に野犬の群れに襲われかけてね」

「…………ごめんなさい」

 ユーノくんが謝りました。

 ふ、ふふ、あれは、お兄ちゃんたちが駆け付けてくれなかったら本当に命の危機だったの。






 でも、もう一つ。お風呂に入っていた時でした。

『マスター、質問があります』

「なに? レイジングハート?」

 レイジングハートの呼びかけに答えます。質問? なんなのかな?

『マスターは本当に魔法と関わりのない人間だったのですか?』

「ぼふ!!」

 私は湯船に顔を突っ込みました。

 し、しまったの! ユーノくんは私の才能だと思って深く気にしてないみたいだけど、レイジングハートは気づいちゃってる!!

 研究とかで五年分のブランクがあるとはいえ、初めてにしてはあんなにスムーズに魔法を使えるなんておかしいと思うはず……

「そ、そんなことないよ? 私は普通の小学三年生だったんだよ?」

『……そうですか。構築に戸惑っていること以外は特には問題ないので気になっただけです。申し訳ございません』

 ま、まあなんとか誤魔化せた。これから気を付けないと……

 でも、『私』から受け継いだ魔法の知識や運用法とかはだいぶ抜け落ちているし、そういったわからない部分で誤魔化せるかな?

 薄く、そういう期待をしていました。


~~~~
レイハさんなのはさんの実力に疑念を生じるの回。
次回は番外な予定。
それでは!



[14021] 外伝 オカシナオカシナユメ
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2009/12/03 22:24
 夢を、夢を見ていました。歯車がズレた夢を……






 私はヴィータちゃんにレイジングハートを突きつけていました。前は落とされたけど、今回は別なの。

 フェイトちゃんも駆けつけてくれたし、これから……

 だけど、フェイトちゃんが突然飛んできた人影に弾き飛ばされました。

 さらにその人物は私にも剣を振るったのでなんとか受けました。

 視界に流れるのは紫色の髪、シグナ、ム…………さん?

 …………えっと、私の知るシグナムさんと同じ凛々しいお顔ですが、色々違いました。

 どう違うと言うとレヴァンティがデザイン全然違います。なんというか、フレームのような印象?

 さらにシグナムさんの背中には五振りの剣があります。さしずめシックスソード?

 そして、バリアジャケットも違います。

 騎士の衣装を残しつつ動きやすそうだったバリアジャケットは、裾の長い黒い服でした。

 なにより驚くことに、あの羨ましいまでに服の下から主張してた豊かな膨らみがペッタンコでした。

 そう、ペッタンコ……

 私が呆然としていたらヴィータちゃんが一言。

「遅いぞ……父さん」

 え?

「すまんな。母さんと買い物だったからな」

「あー、相変わらず新婚気分ですね。羨ましいですな、こん畜生」

 …………今の聞かなかったことにできないかな〜?

 私は視線を逸らそうとしたら、シグナムさん? がこっちに向きました。

「済まないが……我が妻のためだ。倒されてくれ」

 主じゃなくて?!






 その後、前回のように私が結界を破ろうとしてリンカーコアを蒐集されてしまいました。

 そして、数日後、学校に訪れた時のことでした。






 明日、フェイトちゃんが転入してくることを話した後、

「そういえばね、この前に図書館で面白い人と知り合ったの」

 とすずかちゃんが切り出しました。

「面白い人?」

 ピクッと私の眉が動きます。だって、すずかちゃんがこの時期に知り合うとなると……

「八神はやてさんていうお姉さん」

 私は盛大に机にヘッドバッドをしてしまいました。

「どうしたのなのは?」

「なのはちゃんどうしたの?」

 心配する二人になんでもないよと言いながら顔を上げました。

「で、その八神さんがどうしたの?」

「うん、車椅子だったから本を取ってあげたら少しお話してね、今度家に遊びに行く約束したの」

 嬉しそうにすずかちゃんが話しますが嫌な予感がヒシヒシするの。それからすずかちゃんが八神さんについて話すと、ふーんとアリサちゃんが相槌を打って、

「いい人そうでよかったわね」

「うん。八神さんの旦那さんも素敵な人だったよ。確か……シグナムさん」

 私はひっくり返りました。





 それからしばらくしてすずかちゃんと一緒八神さんに会いに行きました。

「あ~、あなたがなのはちゃん? すずかちゃんからよくお話きかせてもろうてたよ」

 と、そばにカジュアルな服装のシグナムさんが立っているおよそ、二十歳くらいのはやてちゃんとご対面しました。

 そのはやてちゃんは私に握手と、手を伸ばそうとして……




「ゆ、夢でよかったの……」

 私は額の汗を拭きながら呟きました。
 
 でも……どうか私の歴史改編でそんなことが起きませんように!!

 その願いは聞き届けられたような届けられなかったような……

~~~~
なのはおかしな夢を見るの巻き
とりあえず、これは夢の中だけの話ですので大丈夫ですよなのはさん。
次は本編です。



[14021] カラカラメグル 第八話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:17
 数日後、私はお父さんがコーチを務めているサッカーチームの応援に来ました。

 さて、目当ての男の子は……いたいた。

 すぐに見つかりました。例のジュエルシードを持った男の子です。

 あの子が悪いわけではないけど、持っていたジュエルシードのせいでたくさんの人が傷つくことになるはずです。見過ごせません。

 その前に回収しないと……

 試合終了後、少しつけて男の子がポケットにジュエルシードを入れたことを確認、鋼糸をうまく使って穴を開けました。レイジングハートの補助もありましたが、間違って男の子を斬らないように気をつけるのにとても神経使ったの。

 そして穴から落ちたジュエルシードを拾って完了です。

 しめしめなの。

「これで見つけたジュエルシードは五個目だね」

 私は物陰でレイジングハートにジュエルシードを格納します。

『順調ですね』

「そうだね。むしろ、順調過ぎて怖いくらいだよ」

 ユーノくんの言葉に私は苦笑を返します。実際その通りだからあまり笑えないの……







 それから、家に帰ってくると時音さんが家にいました。どうやらお姉ちゃんと手合わせのようです。あれ? あれの後に時音さんうちに来ていたっけ?

 不思議に思いながらも、とりあえずは二人の戦いを見学させてもらいました。なんかお兄ちゃんからの視線が厳しい気がするのは気のせいなの?

 時音さんのご実家、黒野家は『木霊流』(本来はもう少し長いそうです)という古武術を受け継ぐ一族の分家筋らしく、よくお姉ちゃんと手合わせをしているのです。だから、私とも顔見知りだったの。

 時音さんは主に一本の太刀を好んで使う人ですが、『御神流』と同じように速さが命の流派だそうです。もしかしたら、レイジングハート一本で戦う私は時音さんにアドバイスをもらった方がいいかもしれません。

 そして、二人はすごい速さで打ち合い始めました。

 偶にお姉ちゃんが牽制の為に練習用の飛針や鋼糸を投げますが、時音さんは飛針を袖に隠していたクナイで打ち落として、腰に差した予備の木刀で絡ませて防ぎます。

 やっぱり二人ともすごいの。

『二人ともすごいね……』

 ユーノくんの言葉に頷きます。でも、その時にいきなり時音さんの動きが止まり
ました。あれ? どうかしたの?

「どうしたの時音?」

「う~ん、今、知らない男の子の声がした気がしたんだけど……」

 どっきい!!

 私とユーノくんの額に汗が浮きます。

「ん? なのはどうした? 具合でも悪いのか?」

 そばで審判をしていたお兄ちゃんが聞いてきましたが、なんでもないのと答えました。

「知らない男の子の?」

「うん。この前も、似たような声を聞いたような……」

 時音さんの言葉に私とユーノくんはさらにだらだら汗を流します。

 ね、念話が聞こえるって、もしかして時音さん、魔導師の適正ある? …………これからは時音さんにも注意しないと。

 でも、すぐに気のせいだねと時音さんが納得して再び始まりました。最終的にお姉ちゃんの勝ちでした。

 その後、時音さんが帰ってからもお兄ちゃんはずっと難しい顔をしていました。いったいどうしたんだろ?


~~~~
例のジュエルシード暴走事件未遂に終わる。これで被害は相当小さくなりましたね。
そして、時音の魔道師適性疑惑。さて、どうなることやら。
次回やっと、フェイト登場か……




[14021] カラカラメグル 第九話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:18
 その数後日のことです。すずかちゃんにお茶会のお誘いを受けました。

 …………あれ? お茶会って、なにか重要なことがあったような……そうです! フェイトちゃんと初めて会う日です!!

 あ、危なかったの。覚悟がなかったらまずかったです。

 と、とりあえず、普通にお茶会の途中で抜け出してジュエルシードを取りに行けばいいのですが、問題がいくつかあります。

 まず、今の私はフェイトちゃんを捕まえても色々問題があります。

 例えば、捕まえておく場所。そしてその場にいなかったアルフさん。何より、フェイトちゃんを捕まえてしまうとプレシアさんが何をするのかまったく予想がつきません。

 となると、ある程度ジュエルシードを回収させて様子見しないとまずいと思われます。

 ベストなのは管理局が介入する時です。その段階なら管理局の戦力も揃って、たぶんプレシアさんが何かしようとしてもクロノくんも、リンディさんもいるから何とかなるはずです。

 それに……フェイトちゃんをここで倒すと余計にユーノくんに怖がられるかもしれないし……
 
 私はそう考えて一人頷きました。






 そして、ネコと戯れながらお茶をしていると、予想通り、ジュエルシードが発動しました。

 すぐにユーノくんが勝手にどこかにいったのを探す振りをして、現場に急行しました。

 で、またあれを見ることになりました。そう、大きくなってしまったネコを。

「あ、あれは?」

 私は努めて驚いた風を装います。でも、何度見てもインパクトがすごいの。

「た、たぶんあの猫の大きくなりたいって思いが正しく叶えられたんじゃないかな?」

 ユーノくんはそう言うけど、でも、これって本当に正しい願いの叶え方なのかな? と少し疑問に思ったりしつつも、ふ~んと相槌を打ってからレイジングハートを取りだします。

「じゃあ、とりあえず封印しよっか」

 そして、(あくまでポーズですが)封印しようとして……






 私たちの横を魔力の塊が通り過ぎました。

 とても懐かしい色の……フェイトちゃんのフォトンランサー。

 私は振り向き、すぐに飛びあがってプロテクションを展開。フォトンランサーを受けます。とても懐かしい光が目の前で散りました。

 見れば、遠くの電柱の上にたつフェイトちゃんは少し驚いたようです。

 そして、すぐにフェイトちゃんがこっちに飛んできて、枝の上に降り立ちます。

 私はまっすぐその眼を見ました。とてもきれいで、そして、とても寂しそうな光を湛えたあの眼を。

「同系の魔導師……ロストロギアの探索者か」

 その声を聞いた瞬間、思わず涙を流してしまいそうになりましたが、ぐっとこらえます。

「バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス」

 ちらりとレイジングハートを見る仕草もとても懐かしく、デバイスを構えるのも、思わず何もせずに見続けました。

「申し訳ないけど……ロストロギア、ジュエルシード、頂いていきます」

 そう言って斬りかかってきたフェイトちゃんに対して、

『フライヤーフィン』

 レイジングハートが自動で魔法を発動してくれました。私が空中に逃げます。

 すぐにフェイトちゃんはその刃を飛ばしました。その攻撃すら懐かしさを覚えます。

 でも、私はそれを空中で避けました。そして、フェイトちゃんが斬りかかってくるのをレイジングハートで受けます。

 魔力で出来た刃同士がぶつかって、火花を散らします。

 相変わらず早くて鋭い攻撃。『私』なら大丈夫でしょうが、今の私には手加減するのが難しそうです。

「な、なんで急にこんな……?」

 私は『私』の記憶にある問いかけと同じことを聞きます。

「答えても……たぶん意味がない」

 それを聞いてとても悲しくなりました。話さなきゃなにもわからないのに、 それを意味がないって決めつけている行動をフェイトちゃんがしていることに。

 でも、それが隙を作ってしまったみたいです。そっとお腹に手を当てられました。

「ごめんね」

 そして、フェイトちゃんの手から、直接電撃が流されました。







 私が目を覚ましたのは空が夕暮れを迎えた頃でした。元から隙を作って気絶するつもりだった為、前ほど怪我はなかったです。 

 それから、みんなには前と同じ嘘を私はついて、誤魔化して、ちょっと申し訳ない思いで家に帰りました。

 この時の私の胸にあったのは、またフェイトちゃんと会えた嬉しさと、そして当然だけど、私のことを知らないことの、寂しさでした。



~~~~
なのはさん、フェイトさんと再会
でも一方的に(計画的に?)落とされるの巻き。
次回は温泉編。はてさて、二人の戦いの行方は?



[14021] カラカラメグル 第十話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2011/01/14 23:23
 さて、皆様あれから一週間がたちました。ユーノくんに頼んで管理局(それとなくユーノくんに聞くことで名前を知った振りをしました)へフェイトちゃんという怪しい魔導師について連絡してもらったため、前回よりは早く着くと思います。

 そして、今日から一泊二日の温泉です。そう、温泉。ユーノくんがみんなと女湯に入って、アルフさんの現れるあの。

 私は色々考えていました。ユーノくんと一緒に温泉に入りたい。だけど、だからと言ってみんなと一緒に入れるのは……

 ……く、く……くっくく、はは……あーっはっはっは! あーーっはっはっは!!

 ……論外に決まってるの。

 ……少しだけ、困っているユーノくんを見たい気もしましたが、今回は諦めましょう。目的を見失うわけにはいきません。

 というわけでユーノくんはお兄ちゃんたちに任せました。

 『ユーノくんは男の子だから!』と言ってみたら、ユーノくんはすぐにお兄ちゃんの肩に登りました。うん、いい子いい子。

 お姉ちゃんたちはユーノくんの行動にえらく感心していました。お陰でユーノくんは男湯逝きです。ふう、これで第一段階クリアなの。

 そして私たちが上がるとアルフさんに会いました。すごく懐かしいです。なにせ大人バージョンは十年振りくらいですから。

 今回はそのアルフさんに怯えずにしっかり見返して上げるとアルフさんはひゅうっと口笛を吹きました、

 で、その後、適当に理由を付けてもう一度温泉へ。今度はユーノくんと一緒です♪

 だけど……







「いいお湯だねユーノくん♪」

「そ、そうだねなのは……」

 極力こっちを見ないようにするユーノくん。

 なんかそういう姿がかわいいの。私はその毛をいじったり頬ずりしたりします。温泉の効果なのか、いつもよりつるつるしている気がします。

 ん~。こっそり頬ずりしながらちょんと背中にキスしてみたりもします。

 はあ、二人っきりのお風呂〜、とても気持ちいいのです〜。

 と、ユーノくんを抱きながら笑顔でのんびりしてたのですが……誰かが入ってきました。

 ちっ、誰なの?

「わ~、広いね~」

 …………とても聞き覚えのある声なの。声のした方を見ると……

「あ、なのはちゃん?」

 そこに、首を傾げた時音さんがいました。






 その後、時音さんも、お姉ちゃんから一緒に温泉に来ないかとお誘いをうけたのですが、一緒に来れなくて、後から来たことがわかりました。

 それで、たまたまお風呂で鉢合わせしたみたいです。で、しかたなく一緒にお風呂入ってるんですが……

 ちらりと、時音さんを見ます。いつお姉ちゃんと剣で競ってるのに、傷が見えない肌理が細かく雪のように白い肌。プロポーションも非常によく、胸はシグナムさんとタメが張れそうなくらいあります。

 腰は細くくびれ、キュッとしまったお尻のバランスは秀逸。羨ましいです。

 ……いいもんいいもん。胸は将来ユーノくんに揉んでもらって大きくするもん!!

「ユーノって、毛艶がいいよね? 毎日なのはちゃんに洗ってもらってるからかな?」

 時音さんが楽しそうにユーノくんの毛いじっています。真っ赤になるユーノくん。

 ふ、ふふ。時音さん。どうしても私の邪魔をしたいみたいなの。

 私はこっそり二人に近づいてユーノくんを奪います。

「ユーノくん、私も洗ってあげるよ~?」

 ユーノくんはただひたすらコクコク頷くのでした。





 その晩、ジュエルシードの反応にすぐ起き上がりました。

『なのは!』

『うん!』

 私とユーノくんは旅館を抜け出しました。





 そして、現場に到着すると、そこにはフェイトちゃんとアルフさん。

 アルフさんは「ガブッといくよ」と狼に変身してから攻撃してきたところをユーノくんが強制転移で連れていってくれました。

 あれ? てことは今ユーノくんとアルフさんは二人ぼっち?

 ……マズいの。拳を交わしたもの同士のシンパシーなんて生まれたらとても困るの。うん。

 出来る限り早めに駆け付けたいけど、だからと言ってフェイトちゃんにあっさり勝つというのも……

「結界に強制転移魔法、いい使い魔を持っている」

 私が思案していたら、フェイトちゃんがユーノくんをそう評価してくれましたが……

「ユーノくんは使い魔ってやつじゃないよ!! 私の大切な人!!」

 思わず大声で否定するとフェイトちゃんがたじろぎます。あ、声デカすぎたの。

「……で、どうするの?」

 フェイトちゃんが汗をかきながら聞いてきます。

 私も少し汗をかきながら静かにいいます。

「できるなら、話し合いでどうにかできることってない? って言いたいところだけど……」

 私は軽く息を吐いて続けます。

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ変わらない、伝わらないこともあるから」

 それはかつてフェイトちゃんが言った言葉。軽くフェイトちゃんの眉が動きました。

「だから今は、戦って、それから話を聞いてもらうの」

 私はレイジングハートの刃をそっとフェイトちゃんに向ける。

「……なら、賭けて。お互いが持つジュエルシードを」

 私は頷いて、走り出しました。







 私が間合いを詰めようとしたら、一瞬でフェイトちゃんは私の後ろに回り込みました。

 早い! でも……お兄ちゃんたち程じゃない!

 振り向いてレイジングハートでバルディッシュの刃を受けます。

 フェイトちゃんはすかさず後ろに離れ、フォトンランサーを撃ってきますがそれを飛んで避けます。

 一直線の弾なんて避けてって言ってるようなもの。そして、その考えは正しくフェイント。

 こっちより早く、高く飛んだフェイトちゃんが斬りかかってくるのをレイジングハートでまた受けます。

 押し返そうと踏ん張って……







 足元を透かしました。

 ……あれ?

 バランスが崩れて均衡が崩れました。そばを黄色い魔力の刃が通り過ぎます。

 ……今、とてつもなくヤバい発見をした気がします。





 再び黄色い閃光と紅い輝きが瞬く。

「恭ちゃんあれ!」

 美由希の言葉に頷く。

 なのはが旅館を抜け出したのにたまたま気づいて旅館を出たところに、なのはが去った方向からおかしな光が立ち上った。

 なのはの身になにかが?

 いてもたってもいられず、俺はすぐに旅館を出た。美由希も気づいていたようで一緒にここまで来たのだが……

「あれ? 美由希?」

 かけられた声は……





「サンダー・スマッシャー」

「ディバイン・バスター!」

 砲撃魔法の競り合いをして、私が勝ちました。でも!

 フェイトちゃんは砲撃を囮に間合いを詰めてました。いつものフェイトちゃんの必勝パターンです。

 私はその間合いから離れようとして……また足元が滑りました。

 もう確信が持てました。今の私はとてつもない問題を抱えています。

 体制を立て直しながらレイジングハートを構えなおして……ディバインバスターを撃とうとして、

 ……って、違う! この距離ならアクセルシューターだよ!?

 私は自身の選択に戸惑いました。しかも……

『なのは!』

「なのはちゃん!?」

 えっ?

 振り返ると、そこにお兄ちゃんとお姉ちゃんに時音さんがいました。

 気を取られたのは一瞬、だけどフェイトちゃんには十分な時間でした。あの時と同じく、私の首にバルディッシュが突きつけられました。

 負けちゃった……

『Put out』

 私が構えを解くと、レイジングハートがジュエルシードを排出しました。

「主人思いのいい子だね」

 そう言ってフェイトちゃんはジュエルシードを取って地面に降り立ち去ろうとします。

「待って!」

 だけど、私の呼びかけに立ち止まってくれました。

「私、なのは。高町なのは! あなたの名前は?」

 問い掛けはすぐに帰ってきました。

「フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 フェイトちゃんは、答えるとすぐに行ってしまいました。私はしばらくの間、その背中を見送っていました。

 そして、振り返ると怖い顔をしたお兄ちゃんがそこにいました。

「なのは……一体どういうことか話してくれないか?」

 私は口を開こうとして、

「なら僕がお話します」

 ユーノくんが切り出しました。で、お姉ちゃんと時音さんは目を点にしてじっとユーノくんを見ると、

『ユーノがしゃべったあ!?』

 とワンテンポ遅れて叫びました。よ、よく考えればこのリアクションは当然かも……あれ? でもお兄ちゃん驚いてない?

「きょ、恭ちゃんは驚かないんだね?」

「ま、前見たし」

 と、お兄ちゃんがいいました。

『え?』

 今度は私たちの目が点になる番でした。


~~~~
温泉編フェイト戦第二ラウンド。ただし、なのはの負け。
敗因は所々で出ましたが、数話経ったらちゃんと語るつもりです。
それでは、ここまで読んでいただいてくれた人に感謝を。




[14021] カラカラメグル 第十一話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:24
~~恭也回想シーン~~





 サッカーの試合の後、なのはがチームの一員の少年から鋼糸を使ってなにかを盗るのを見てしまった。

 御神の技をそんなことに使うこと以上に、人から物を奪うという行為を注意しようと思い、なのはが去っていった路地裏に追いかけていったのだが……

「これで見つけたジュエルシード、五個目だね」

 なのはがそんなことを呟いたのを聞いた。ジュエルシード? なにかの名前か? だが、一緒に問い詰めればいいことと気にせず近づこうとして……

 なのはが剣を持っているのに気づいた。まるでアニメに出るような紅い光でできた刀身を持つ機械の剣を。

 そして、なのはは、手に持っていた宝石のようななにかを剣に埋め込まれた赤い宝石に入れた。な……どうなっている?

『順調ですね』

 その剣から声が出た。な、に? さらに、

「そうだね。むしろ、順調過ぎて怖いくらいだよ」

 …………今、ユーノがしゃべらなかったか? 思わず声を出しそうになったが、なんとか飲み込む。

 俺は混乱した。確かにユーノは頭がいいとは思ってたが、しゃべるフェレットなんてついぞ聞いたことがない。

 なにが起きているのかよくわからない。だが、なのははユーノとあの剣と一緒になにかをしていることだけはわかった。

 …………今、問い詰めるべきか? いや、もう少し、それこそ決定的な瞬間でなければはぐらかされる恐れもある。

 ここはなのはを信じてもう少しだけ待ってみるか。







「というわけだ」

 しまったの。もう少し周りに注意するべきだったの。

「じゃあ、話してもらおうか。なのはたちが何をしているのか」

 私とユーノくんは頷きあってから話しました。

 ユーノくんが別の世界からやってきた魔法使いだということ。そして、その目的はこの世界に散らばってしまったジュエルシードの回収なのだけど、途中で力尽きてしまって、私が協力していたことを。

「なるほど、だいたいわかった」

 お兄ちゃんは頷いてから私に近づくと……拳骨で私の頭を殴りました。

「にゃ!?」

 目から火花が散ります。うう、覚悟してたけど痛い……

 そう言ってからお兄ちゃんは私の目をまっすぐに見ます。

「いいか、なのは。誰かを助けようとするのは構わないし、今回のも悪いことじゃない」

 それからお兄ちゃんは一度区切ります。

「次からはちゃんと話せ。俺や美由希、それにとーさんやかーさんにも」

 そう言ってお兄ちゃんは笑いかけてくれます。

「なにせ、俺たちは家族なんだからな」

 お、お兄ちゃん……私は痛みではなく感動で目が潤みそうになります。

 そう、だよね。なんでも一人でしようとしなくてもいいんだよね。そうすれば、みんなが少しでも幸せな未来を手繰り寄せることができるのかも……

 私はうんと頷きました。

「今回はこの程度だが……次もし黙ってたらもっとキツイの行くからな?」

 ぐっと拳を握って見せるお兄ちゃん。うう、これからは気をつけるの。

「まーまー恭ちゃん。なのはも反省してるみたいだし」

 と、お姉ちゃんが割って入ってくれますが、

「まあ、でも私からはこれね?」

 そう言って軽くデコピンされました。

「じゃ、私はこれ~」

 で、時音さんにはほっぺを引っ張られてしまいます。

 その後、家に帰ってからお父さんたちも入れてみんなで話し合うことと決めて私たちは旅館に戻りました。

 たぶん、ユーノくん人間形態もその時に話すのかなあ? ……ふふふ、うふふふ、今までできなかったあんなことやこんなことがもうすぐ……







 そして帰りの車の中、私の中にあったのは既にこれから起きる話し合いではなく、もっと先のことでした。

 フェイトちゃんとの戦い。そして、プレシアさんの問題。これはお兄ちゃん達の助けがあるけど、きっと前より大変になるでしょう。

 なぜなら、これから私は昨日の戦いでわかった、あのハンデを背負いながらも少しでもいい未来を掴むために頑張るのですから……






 そして、温泉から帰ってきた次の日、家族みんなが揃う夕食の時でした。

「あの、お父さん、お母さん。少しお話があるの」

 私はそう切り出しました。見ればお兄ちゃんとお姉ちゃんが頷いています。よしなの。

「ん? なんだなのは?」

「どうしたのなのは?」

 お父さんとお母さんがこっちを向きます。私はユーノくんを見て頷きあいます。そして、ユーノくんがテーブルに下りて、ぺこりとお辞儀をします。

「士郎さん、桃子さん。改めて自己紹介させてもらいます。僕はユーノ・スクライア。よろしくお願いします」

 と、ユーノくんが挨拶をしました。

 私たちの作成はこうです。まずユーノくんが挨拶するというインパクトある印象を二人に与えてから魔法について、そしてジュエルシードのことを話すというものです。

 さあしゃべるフェレットに二人はどういう反応を返すでしょうか!?

 お母さんは目を丸くしてからにっこりユーノくんに頭を下げました。

「あら、ご丁寧にありがとうねユーノくん。でも、できたらもう少し早く挨拶してほしかったかな?」

 一方お父さんは……口をパクパクさせて、

「ほら、とーさんお茶」

 お兄ちゃんから渡されたお茶を飲みます。それからふーっと一息ついてから、

「ユーノがしゃべったあ!?」

 耳がきーんとなりそうなほど大きな声で驚きました。

 うん、それが普通の反応、お母さんの順応性すごいの……







 それから呼び鈴がなって「やっほ〜」と時音さんも合流してお話が始まりました。

「なるほど。魔法か……」

 ユーノくんの説明が終わって復活したお父さんが頷きます。
「で、なのはにはその素質があったから手伝ってもらってたと、そう言うことだね?」

 お父さんがユーノくんに問いかけるとユーノくんは、はいと頷きます。

「勝手とはわかってましたが僕だけじゃどうしようもなく、なのはに手伝ってもらってました」

 ユーノくんがうなだれます。

「まあ、仕方ないとはいえできたら話してもらいたかったな」

 お父さんが私に視線を向けます。うう、ごめんなさい。

「まあまあ、あなた。ユーノくんも大変だったわね。こんなことになっちゃって」

「はい、おかげでずっとこの姿ですし……」

 ユーノくんがそう零してうなだれるとみんなが首を捻ります。

『この姿?』

「はい。あ、だいぶ回復したので一度お見せしますね」

 そう言ってユーノくんは地面に降り立つと緑色の光を放ちます。

 収まる頃にはそこに一人の男の子がいました。短く切った髪に緑色の目をした民族風の服を着た男の子、ユーノくんです。

 思わず涙が出そうになりますが我慢です。そう言えば、ユーノくんって元は髪短かったんだっけ。

 みんなは少しの間固まって、

「そっか、ユーノって人間だったの」

 時音さんが頷いてあははと笑います。お姉ちゃんもポリポリ頬をかきます。

「どうりで頭がよかったんだ。あ、なのはがユーノを女湯に入れなかったのはそのせい?」

 はい、その通りです。

 それから人間バージョンのユーノくんとでお話を続けます。

「まあ、なのはが君を手伝いたいって言うなら止めないがこのメンバーの中で他に手伝えるのはいないのか? 俺も腕には自信があるんだが」

 ふるふると首をユーノくんは振ります。

「封印は強い魔力を持っている人しかできませんし、今僕たちを妨害している子は空も飛べますので、この中だと時音さんだけですね」

 えっと時音さんが驚きます。

「俺はダメなのか?」

 お兄ちゃんが聞きますがユーノくんは首を振ります。

「残念ながら恭也さんと士郎さんは最低限必要な魔力がないです。美由希さんは念話は聞こえないみたいですが、弱いけど少しあるようです」

 そうかと残念そうに呟くお兄ちゃん。

「え? 私にあるの?」

 不思議そうに首を捻るお姉ちゃん。

「はい。美由希さんは、空を飛ぶことはできるほどではありませんが、魔法を使うために必要なだけの魔力は持っているみたいです」

 すぐに答えるユーノくん、そういえば念のために家にいるみんなの魔力を調べてたもんね。

「なら私は?」

 時音さんが自分を指差しながら聞きます。

「時音さんは僕よりあると思います。なのはには少し負けますが」

 そっか〜と時音さんは嬉しそうに笑います。それからお姉ちゃんの方を向いて、

「美由希〜、私魔法少女になれるって! 千の顔を持つ英雄とかアンリミテッドブレイドワークスとか使えるかな?」

「それ、特定の人物限定の能力だよね? それに魔法少女って歳でもないでしょ?」

 ひどーい! と抗議する時音さん。それからユーノくんの方を向きます。

「ねっ、ユーノくん使えるかな?」

 うーん、とユーノくんは困ったように唸ります。

「よくわかりませんが、覚えたら使えられると思います。できたらデバイスも欲しいですが」

 デバイス? と首を捻ります。

「これのことだよ」

 と私はレイジングハートをみんなに見せます。

『初めまして皆さん。私はマスターのデバイス、レイジングハートです』

 レイジングハートが手のひらで光ながら自己紹介をします。

「簡単に言うなら持ち主の魔法を手助けする杖みたいなものです」

 ふーん? とユーノくんに頷く時音さん。

「大体いくら位かな?」

「そうですね……」

 少しユーノくんは考え込んで、ストレージとインテリジェント両方の相場を教えてくれました。

 前から思ってたけどやっぱり高いの……

 みんなもうわっとその値段に驚きます。それから時音さんが、はーいと手を上げる。

「ストレージとインテリジェントってなに?」

「ストレージデバイスは純粋に杖としての機能だけで、対してインテリジェントデバイスは術者を補助するAI入りのデバイスです。なのはのレイジングハートはインテリジェントですね」

 ユーノくんの説明に時音さんは

「うーん、インテリジェントだと貯金の四分の三は逝っちゃうかあ……でもお話できる方が楽しいし……」

 インテリジェントデバイスを買って貯金の四分の三!? 時音さんの貯金ってどのくらいなの?!

「……相変わらず無駄にあるわね〜」

「いやー、この前ツボ売って一儲けしちゃって」

 お姉ちゃんの呆れたような感想に恥ずかしそうに笑う時音さん。い、一体時音さんって何者なの?

 その後、今は次元移動ができないと言われてがっかりする時音さん。私たちは話を戻す。

「そういえば君一人なのか?」

「はい、大人たちは管理局に任せればいいって言うけど、見つけた僕にも責任がありますから」

 ユーノくんがそう言うとお父さんはピクッと眉を動かした。

「ご両親は止めなかったのか?」

 あ、まずい話題なの。

「いえ、僕は親が早く死んでしまったので、部族のみんなのお世話になってましたから」

 沈黙が走ります。お父さんは「すまない」と謝りますが、ユーノくんは「気にしないでください」と返しました。

 まあ、確かに不用意だったの。

「さて、事情はわかった。だから俺は高町家全体で協力をしたい。みんないいか?」

 お父さんがみんなを見渡すとみんな頷きます。

「俺は構わない」

「私もだよ」

「ええ、あなた」

 お兄ちゃん、お姉ちゃん、お母さんが頷く。そして私。

「私はずっとそのつもりだよ」

 お父さんが私の返事に頷きます。それから、

「時音さんは?」

「大丈夫です!」

 ぐっとサムズアップする時音さん。

 よしと頷いてユーノくんに向き直るお父さん。

「みなさんありがとうございます!」

 ユーノくんは頭を下げますが、

「なにを言ってるんだユーノ。家族なら当然だろ?」

 お父さんがそう笑うとユーノくんが不思議そうにお父さんを見返します。

「か、家族、ですか?」

「ああ、フェレットに化けてたとはいえ一緒に暮らしてたんだし、なあ?」

 お父さんがみんなに振るとみんな口々に、

「そうよねユーノくん」

 とお母さんが優しく笑って、

「私、弟が欲しかったんだよね〜」

 お姉ちゃんが嬉しそうに呟き、

「よし、ユーノ、明日から御神の技を叩き込んでやるからな」

 とユーノくんの肩をお兄ちゃんが叩きます。

 ユーノくんは少しの間ポカンとしていたけどだんだん目が潤んできて、最後は泣き出してしまいました。

「ありがとうございます……みなさんありがとう……」

 よかったねユーノくんと私はその様子を見守って……あれ? てことはユーノくんは、もしかしたら高町ユーノになる?

 …………それはそれで嬉しいの。

 と私が笑っていたら、気づきました。みんなから少し離れていた時音さんがそんなユーノくんを嬉しそうに、羨ましそうに弱い笑みで見つめているのに。

「時音さん?」

 私が声をかけると、時音さんはいつもの笑顔でなあに? と振り向きました。

 見間違いだったのかな?



~~~~
ユーノ人間形態を見せる&説明の回。
恭也がなのはを殴ったのは、とらハの美由希さんイベントのオマージュのつもり。
まあ、こちらの恭也さんの方が性格が丸いと思うのであまりきつくないですが……
時音さんは割とディープな趣味の方です。最近感動したものはマヴラブと答えるくらい。
次回、フェイトさんとの三度目の戦いです。
さて、アルフをどうしてやるか……




[14021] カラカラメグル 第十二話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:26
 数日後、私はユーノくんに結界を張ってもらって魔法の練習を始めました。時音さんはデバイスはないものの、変わりにユーノくんから基本的な魔力運用方や使い方を教わっています。

 マンツーマンで訓練? とても羨ましいの……私もできない振りしとけばよかったかな?

 まあ気を取り直して訓練します。真面目にやらないとダメです。

 なにせ、先日のフェイトちゃんとの戦いでわかりましたが、今の私は空戦においていくつかの問題を抱えていますし。

 まず、剣士としての感覚です。

 この二年間、私はお父さんたちに御神の技を教わっていました。ですが、それが空戦で一つの問題を生んでしまいました。

それは、踏み込みです。

 先日のフェイトちゃんとの戦いで、私は反射的に足場のない空中で踏み込もうとして、バランスを崩し隙を作ってしまいました。

 そして、次の問題であり一番大きい問題……ブランクです。

 『私』は三年もの間、戦場から離れて研究を続け、それから私に受け継がれました。

 しかも、研究の間、まったく訓練すらしてません。そんな暇があるならヴィヴィオに構うか、自分の理論の構築に努めていましたし。

 三年間で錆び付いた感覚、さらに私にはあくまでまだ身体が付いていかず、その経験をうまく活かせないことです。

 ……課題はたくさんありますが、一つ一つ積み上げていくしかありません。






 そうして私が空戦の訓練をしていたら……

 っ! ジュエルシード!?

『ユーノくん! 時音さん!』

 私の呼びかけに二人が頷きました。






 とりあえず飛べる私とユーノくんは先に現場に急行しました。時音さんやお兄ちゃんたちは走ってです。(時音さんは基本しか習ってないのでまだ飛べません)

 私はジュエルシードを見つけて、すぐにディバインバスターで封印しようとしますが、フェイトちゃんの封印とぶつかり合いました。あ、すっかり忘れてたの。

 そして、フェイトちゃんとまた対峙しました。

「また会ったね、フェイトちゃん」

「きみは……」

 私が声をかけるとフェイトちゃんが目を見開きました。私が微笑みかけるとフェイトちゃんはぐっと私を見つめます。

「また、来たんだ。どうして?」

「決まってるでしょ?」

 私は当然とばかりに返す。

「私は、フェイトちゃんとお話したいだけだよ」

「話を……?」

 私の言葉にフェイトちゃんが不思議そうに返します。

「そ、お話。この前も言ったけど、私の話を聞いてほしいから。それにフェイトちゃんの話を聞きたいから」

 私は寂しく笑う。

 私はフェイトちゃんを知っている。例え前の世界とは違うといってもまた友達になりたい。

 ……また一緒に笑ってほしかったから。

「それは……出来ない。私には、やることがある」

「そう。それじゃあ、仕方ないかな」

 そう言って私はレイジングハートを構える。

「なら、前も言ったけど、今は戦って私を認めてもらうから。そしたらお話しよ? なんでジュエルシードを集めるのか、フェイトちゃんはどうしたいのか、私のことも……」

 そこまで言いかけて……

「あー! グダグダ五月蝿い!」

 痺れを切らしたアルフさんが飛びかかってきました。

 くっ! 私はプロテクションで受けます。

「あたし達は忙しいんだよ! 苦労したことないお子様の戯言に付き合っている暇は無いんだ!」

 …………今、なんて言ったのかな?

「フェイト! こんなやつ放っといて、サッサとジュエルシードを確保しな! こいつは……っ!」

 がしゃっとアルフさんに私のバインドが巻き付けられます。

 頭以外見えなくなるくらい大量の……

「今、なんて言ったのかな? 『苦労したことないお子様』って言ったのかな?」

 ゆらりと動きながら私は雁字搦めになったアルフさんにレイジングハートを向けます。

 ユーノくんがガタガタ震えてるけど気になりません。

「人の話を邪魔した上にそんなことを言うんだ? どうしてかな?」

 私はゆっくり照準を合わせます。がちがちとアルフさんの歯が鳴ります。

「少し……頭、冷やそっか?」

 紅い魔力が切っ先に集まります。そして、

「ディバイン・バスター……」

 解放された紅い魔力の奔流がアルフさんを飲み込みました。






 後にアルフは語る。

 ああ、あの時の話? いや、あの時は私はまだ若かったんだよ。だからついついなのはさんにあんな暴言を吐いちゃったんだ。

 えっ? 頭冷やせたか? ああ、たっぷり冷えたよ。ついでに肝も。

 あの時のなのはさんの目、あんな暗くて深い目はこれまでになのはさん以外一度も見たことないな。







 墜落するアルフさん、追いついたけど突然の惨状に理解が追いつかないお兄ちゃんたち。

 私は一先ずそれを置いといてフェイトちゃんに向き直ります。

「お待たせ、始めよっか」

 にっこり笑いかけるとフェイトちゃんはビクッと震えました。どうしたんだろう?




~~~~
なのは様の抱える問題&魔王様降臨の回
アルフはフェイト第一のお子様なのであっさりタブーを言ってしまい、
そして、その場にいた全員がなのは様に畏敬の念を抱くことに。
それではまた次回にお会いしましょう。



[14021] カラカラメグル 第十三話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:28
 そして、再びフェイトちゃんとぶつかることになりましたが、今度は踏み込み対策ばっちりです。

 スバルのウイングロードを少し参考にして、足場を展開するための魔法を構築、それを私が踏み込むタイミングに展開するようにしてみたのです。

 シャーリーを手伝っておいてよかったの。

 まだ、タイミングがずれたりしますが、それでもこの前みたいにバランスを崩すこともなくなってきました。

 何度か打ち合ってから、フェイトちゃんによってビルの方向に弾かれます。ですが、そのビルの側面に着地、と、同時に貯めた足のバネを持って突撃、刺突。

 横に避けられますが、そこからさらに薙ぎに変化。今度は受けられます。

 距離を離し、バスターを撃とうとして……





 瞬間、フェイトちゃんが下に向って飛びました。その先にはジュエルシード。あ! 慌てて追いかけます。

 だけど、このままだとデバイス同士がぶつかってジュエルシードが暴走、またフェイトちゃんが素手で封印することになってしまいます。そ、それだけは!

 私は寸前でブレーキを踏みました。対してフェイトちゃんはジュエルシードを回収します。

 その直後、視界で何かが閃きました。お兄ちゃんの鋼糸です。

 寸前でフェイトちゃんはそれを空中に飛んで避けました。お兄ちゃんが舌打ちします。

 ほ、よかったの捕まらなくて。

「ジュエルシード回収、行こうアルフ」

「う、うん」

 アルフさんの返事。どうやらアルフさんが目を覚ますのを待っていたようです

 そして、目を覚ましたアルフさんと一緒にフェイトちゃんは飛んでいってしまいました。

 飛んでいくフェイトちゃんを追いますが、すぐに姿が見えなくなってしまいました……






「残念だったななのは」

 終わってから家に帰る途中、そう言ってお兄ちゃんがぽんと頭を叩いてきます。

「う、うん」

 ……言えないの。本当は今回逃がす予定だったなんて言えないの。

 私は曖昧な笑みを浮かべます。

「にしても、あの子の身のこなしなかなかだったな。成長すればかなりの使い手になりそうだ」

 できたら指導した人間と手合わせしてみたいなと呟くお兄ちゃん。

 うーん、そういえば、フェイトちゃんのバルディッシュって、二刀流になるはずだからお兄ちゃんたちに剣を習ったら面白いことになりそうなの。

 そして、家の前で時音さんと別れて私たちは家に上がりました。






 そして、晩御飯。人間形態のユーノくんの隣で私はご飯を食べています。

 ユーノくんが人間の姿になれることが分かってからはユーノくんの分も食卓に並ぶようになりました。

 最初、マジ泣きされた時はビックリしたの。

『や、やっと、人間らしいご飯を食べられるなんて……』

 ……そういえば、今まではペット用の缶詰とかだったしね。よかったねユーノくん。

「どう? ユーノくん?」

 お母さんがユーノくんにご飯の出来を聞きます。

「はい。おいしいです」

 そう。とお母さんが笑いました。

 ミッドチルダ出身のユーノくん。こちら側の食事、特に和食は未知なものが多いそうで、最初の頃、魚を生で食べるお刺身にとても驚いていました。

「特に、このお味噌汁おいしいですね。僕好きです」

 ふむふむ、ユーノくんはお味噌汁が好きなの。中身は、油揚げとお豆腐にわかめ。具としては定番中の定番。ここは将来の時のために記録なの。

「ユーノ、納豆はどうだ?」

「あ、いただきます」

 ユーノくんがお父さんから納豆の入ったお皿を受け取ってご飯にかけます。

 最初の頃、臭いが強いせいで恐る恐ると言った感じでしたが、一度食べてみてからユーノくんも気に入ったみたいです。

 どうやらユーノくんは大豆系食品が好きなようです。

 これからの為に好きな物の傾向と対策をたてておかないとなの。







 そして、ご飯を食べ終えてからお風呂。そう、お風呂……虎視眈眈と待っていた絶好のチャンス。

 私はユーノくんがお風呂に向った後にある程度待ってから、寝巻とタオルを持って風呂場に向いました。

 ふふふ、待っててねユーノくん。

 そして、風呂場、すぐに服を脱いで浴室に突撃します。

「ユーノくん一緒に入ろ~?」

 私はそう言ってお風呂に飛びこみました。






 はあ、お風呂はやっぱり気持ちいい。流浪の一族であるスクライアはいろんな文化を体験している。

 その中でも風呂はとても素晴らしい文化だと思っている。はあ、ゆったりゆったり……

 だけど、

「ユーノくん、一緒にお風呂入ろ~?」

 突然、浴室の入り口が開かれてなのはが入ってきた。突然のことに僕はお湯の中に顔を突っ込んでしまう。

「ユーノくん、どうしたの?」

 心底不思議そうになのはが問うてくる。

「いや、なのは……今僕が入ってるんだけど……」

「うん、知ってるよ?」

 当然とばかりに頷く。まあ、一緒に入ろと言ったんだからわかってたんだろうけど……

「……なんで?」

 一応、理由を問いただす。

「なんとなくかな? ほらほら、背中流してあげるから」

 と、なのはがぐいぐい腕を引っ張ってくる。う~、できたら一人でゆっくり入りたいけど……

「ユーノくんは私と一緒に入るの嫌なの?」

 なかなか、湯船から出ない僕になのはは悲しそうに首を傾げながら聞いてくる。

 はあ、しかたない……僕はゆっくり一人で入るのを諦めたのだった。






 風呂でのサプライズイベントでへとへとになった僕はなんとか割り当てられた部屋にたどり着く。

 あれ? 疲れをとるはずなのに余計に疲れてるよ?

 僕はベッドに倒れ込む。あ、明日なにがあるかわからないし早く寝ちゃおう。

 いそいそと布団の中に潜り込もうとして……ドアがノックされて返事もなしに開かれる。

 振り向くと、そこには寝間着のなのは。

「ユーノくん一緒に寝よ?」

 ……僕は首を横に振ることはできなかった。





 稀代の大魔道師、プレシア・テスタロッサは焦っていた。

「足りない……これではまだ……」

 薄暗い部屋で彼女は呟く。そこには彼女が『人形』と呼ぶものに集めさせた宝石型ロストロギア、ジュエルシードが浮かんでいる。

 彼女は苛立たしげに舌打ちして、咳き込み苦しげに体を曲げる。

「時間がない……早く、早く……」

 咳が収まると、そう呟いて彼女はチラッと自身の背後に視線を向けた。そこには一つのカプセルと……







 次の日のことです、休み時間、

「なんか、なのは変わったわね」

 えっ? アリサちゃんのいきなりの呟きに首を捻ります。

「そう……かな?」

「そうよそうよ!」

 アリサちゃんが勢いよく詰め寄ります。

「なんか今までより余裕があるというか、楽しそうというか」

 うう、やっぱりユーノくんにまた会えたのが知らず知らずのうちに影響出してたのかな?

 うーんとすずかちゃんも唸って、

「なんか、恭也さんと付き合い始めた時のお姉ちゃんに似てるかな?」

 ドキッ!

 す、すずかちゃんとても鋭いの。

 そして、すずかちゃんの言葉にアリサちゃんがニヤリと笑う。

「ほっほーう? 好きな子ができたんだ? だったら話しなさいよね。なのは」

 そう言ってアリサちゃんが私のお腹にトントン拳を当てる。

「にゃはは、な、何のことかな? それに話す理由も……」

「あるわよなのは。あんたはあたしに借りがあるんだから」

 借り? 何だったかな?

 私が首を捻ると、

「初めてあたしたちがあった時! なのはの平手であたしが鼻血出したこと、忘れたとは言わせないわよ?!」

 げっ、まだ覚えていたの?





 それは小学校に入ってすぐ、すずかちゃんに意地悪するアリサちゃんに私は平手打ちをした。

『痛い? でも、大切なものを奪られた人は心が……』

 そこまで言って気付きました。アリサちゃんはほっぺじゃなくて鼻を押さえています。

 そして、指は溢れ出す血流で紅くなっていました。

 慌ててすずかちゃんとアリサちゃんにティッシュを渡して鼻に詰め物をしてあげます。

 で、その後はやっぱり、私はアリサちゃんと掴み合いの喧嘩となり、すずかちゃんに止められることになりました。

 まあ、それから色々あって友達になったのですが……その時すずかちゃんが爛々とした目で血を見ていたような気が……気のせいだったのかな?







「ま、まだ覚えていたの!?」

「まだ覚えていた? ふ、馬脚を表したわねなのは! つまりあんたは覚えていながらなんのお返しをしてない。さすがは御神の剣士ね」

 鬼の首を取ったようにアリサちゃんが笑う。

 ……そこでなんで御神なのかよくわからないけど、そこまで言われたら答えなくちゃいけないの。

「えっと、内緒だけど今うちに寝泊まりしている子がいるの」

 私の言葉にへえ? と二人が呟きます。

「ねえ、なんて子なの?」

 うーん、ちゃんと言うべきだよね?

「ユーノくん」

 ……しばらくの間沈黙が走りました。そして、ぽんっとアリサちゃんが肩を叩いてきます。

「なのは、そんな苦しい嘘をつかなくていいの。本当のことを言っちゃいなさい」

 ……うう、やっぱりそうなるの?

 その後、私は頑張って二人に思いついたそれらしい嘘で説明をしました。





~~~~
フェイトさん三度目の対決。しかし次元震は起きず。
そして、なのはさんついに動く(ユーノのことで)
あと、ユーノの好みはわからないから食事の好みは適当です。あと、バトルシーンが短いのは僕がそういうの書くの苦手だからです。すいません。
あと、プレシアさん少しだけ、本当に少しだけ登場。
さて、これから歯車はどのように狂うのか、待っていてください。



[14021] カラカラメグル 第十四話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:06d145c8
Date: 2010/07/06 00:44
 その後、ユーノくんはユーノくんでもフェレットのユーノくんとは違うことを主張。今度会いにくる約束をされちゃいました。

「というわけでユーノくん、今度アリサちゃんたちと人の状態で会ってね」

 家に帰ってからユーノくんにアリサちゃんたちのことを話すとユーノくんは頷いてくれました。

「構わないけど、そうなるとフェレットの僕がどうなったのか、二人が気にするんじゃないかな?」

 あ、そうだったの。

「なにか考えないと」

「だね」

 そんな風にどうやってアリサちゃんたちを誤魔化すか二人で相談していたら……

 つっ!?

 この感じジュエルシードなの!

「なのは!」

「うん!」

 私たちは家を飛び出しました。








 ちょうど家にいたお姉ちゃんと時音さんに声をかけてから一緒に現場に向かいます。

 残念ながらちょうどバイトに行っちゃってるのでお兄ちゃんはなしです。

 そして、現場の公園に着くとユーノくんはすぐに結界を展開しました。これで余計な人は入れないの。

 そして、走りながらセットアップ、海岸沿い近くに木のお化けがいました。

 フェイトちゃんもすでにいました。なんか、私を見た瞬間アルフさんが震えたような、どうしたんだろ?

 私は首を捻りつつレイジングハートを構えます。

 そして、魔樹(魔法の木だから)が動きました。

 根っこのような触手が蠢きますが、私は飛んで逃げ、フェイトちゃんはアークセイバーで攻撃。でもバリアで封じられてしまいます。

 一方、お姉ちゃんと時音さん……余裕でひょいひょい根っこを避けています。

 あの二人をバインドで捕まえるのはきっと難しいの。

 そして、私のディバインバスターとフェイトちゃんのサンダースマッシャーによってジュエルシードを解放、封印を完了しました。

 私たちはジュエルシードを間に対峙しています。

「フェイトちゃん、お話はまだ聞かせてもらえないかな?」

 一応、問いかけて見ますがフェイトちゃんは横に首を振りました。

「まだやらなきゃいけないことは終わってないから」

 そうと私は声を漏らします。

 やっぱり戦うしかないんだ……私はレイジングハートを構える。

「じゃあ……はじめよう」

「うん」

 そして、一拍置いてから私たちは飛び出します。

 レイジングハートを袈裟に振って……

「ストップだ!」

 突然割ってはいる黒い影! だけど……

 ザクッ。

 そんな擬音とともに割って入った黒い影、クロノくんの肩にレイジングハートの刃が刺さってしまいました。

 ……あ、痛そう。

 クロノくんは額にたっぷりの冷や汗を浮かべながら、

「じ、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。せ、戦闘行為を中止して……同行してもらう」

 なんとか口上を言い切りました。声変わり前の声がなにか新鮮ですけど、その声は痛みに震えています。

 はっ! そうだ刃を消して上げれば良かったの!

 私は慌ててレイジングハートの魔力刃を消しました。そして、クロノくんに促されるまま地面に降りて、

 瞬間、アルフさんの攻撃が着弾しました。わっ、アルフさんのこと忘れてたの!

「フェイト! 今だ!!」

 アルフさんの言葉にフェイトちゃんが飛び出します。ジュエルシードに手を伸ばして、クロノくんに撃ち落とされてしまいました。

「フェイト!」

 下に落ちるフェイトちゃんをアルフさんがキャッチ。と私は安心しました。でも、さらにそこにクロノくんが……

「止めて!」

 気づけば二人に割って入っていました。あれ? ここでフェイトちゃんを捕まえてもらうはずだったのに……

 そして、私が庇っている間にアルフさんはフェイトちゃんを抱えて去っていきます。

 ふうと私がため息をつくと空中にリンディーさんが写りました。

『お疲れ様〜クロノ』

「艦長、すいません。片方は逃がしてしまいました」

『いいのよ。それよりその子たちをアースラに連れてきて欲しいのよ』

 いつの間にかユーノくんにお姉ちゃんと時音さんが揃っていました。

「了解です艦長。と言うことで君たち少し付き合ってもらいたい」

 私たちは一度、顔を合わせてから頷きました。






 そして、私たちはアースラに転送され、リンディさんに再開しました。相変わらず見た目が若いです。うちのお母さんもそうですけど。

 そして、お茶の趣味も……いや、いいんですよ? よく考えればそういう飲み方ありますし、抹茶アイスも似たような成分のはずですし。

 ただ、それを見たお姉ちゃんと時音さんはうわーと若干顔を引きつらせました。

 そして、リンディさんと一緒に待機していたエイミィさんがクロノ君の怪我に包帯を巻きながら説明をします。

「立派です」

 リンディさんはユーノくんをそう誉めてくれました。

「ですね。責任感がある子お姉さん好きだよ」

 と、エイミィさんが冗談めかして言ってくれましたが、

「だが、無謀でもある」

 クロノ君の言葉にしゅんっと、ユーノくんがうなだれます。むっ。今のヒドいの!

「ユーノくんは自分の責任を果たそうとしただけだよ! それにユーノくんがいなかったら海鳴がどうなっていたかわからないよ!」

 ついつい反論してしまいます。ユーノくんは私の言葉に嬉しそうに笑顔になってくれました。

「すまない責めるつもりではなかった」

 そういってクロノ君が頭を下げる。

「うん、クロノ君言い方がきついけどみんな気を悪くしないでね」

 そういってエイミィさんは包帯を巻き終え、ぱんとその肩を叩いてしまいました。

 悶絶するクロノくん。慌てて謝るエイミィさん。あらあらとリンディさんはその様子を見てから、

「では、話を戻しましょう」

 そういってリンディさんはぱんぱんと手を叩く。

「まだおそらくの段階ですが、ジュエルシードは彼の話とこちらの記録から、次元干渉型のエネルギー結晶体と推測されます。幾つか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物です」

「次元震?」

 リンディさんの言葉にお姉ちゃんが首を捻ります。

「簡単に言えば次元世界間で起きる地震だね。規模にもよるけど、起きれば発生源の周辺世界はただではすまないかな」

 お姉ちゃんの疑問にエイミィさんが答えました。

「実際に旧暦の462年、次元断層が起こった時、とてつもない被害がでました」

 それに続くリンディさんの言葉にごくっとお姉ちゃんが息を呑みます。

「ですので、これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」

『えっ!』

 ユーノくんとお姉ちゃんが驚きの声を上げます。時音さんはいつもと変わりません。もしかして言われること予想していたのかな?

「あなた達は今回の事を忘れ、それぞれの世界で元通りに暮らして構いません」

「で、でも!」

 ユーノくんが反論しようとします。だけど、

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルじゃない」

 クロノはそれにきっぱりと断りを入れてしまいました。

「う……」

 そう言われてしまったら、何も言い返せませんでした。ちらっと見ればお姉ちゃんも険しい顔をして、時音さんは表情を変えません。

 エイミィさんが「まあまあ、クロノくん。もう少しウェットに言おうよ」と言って、「事実だ」と返されます。

「まあ、急に言われても、気持ちの整理が付かないでしょう。今夜一晩、ゆっくり考えて、全員で話し合って、それから改めてお話をしましょう」

 その姿を見かねたのか、リンディさんが助け舟を出してくれました。

 まあ、大丈夫なの。一応方便は準備してあります。

 そして、クロノ君が立ち上がりました。

「送って行きましょう。元の場所で構いませんね?」

「はい」

 みんなを代表して時音さんが答えます。私たちはただ、黙ったままでした。






 そして、臨海公園まで戻ってきました。時音さんはふうっと、息を吐きます。

「緊張したね」

「そうだね……」

 時音さんの言葉にお姉ちゃんが頷きます。

「まあ、でも、これからのことを考えると頼もしい限りだよね~」

 と、時音さんはにへら~っと笑いました。そんな時音さんにお姉ちゃんが顔を向けます。

「時音はまだ付き合うんだ」

「うん」

 こともなげに時音さんは頷きました。

 私は驚いて時音さんの方を向きます。てっきり黙っていたのは任せるつもりだったからと思っていました。

「私はあんなことを聞いて、他人任せにする気にはなれないよ。それに、」

 時音さんがこっちを向きました。

「なのはちゃんたちはまだやるつもりだと思うからね~」

 楽しそうに時音さんはそう言いました。

「そうなの? なのは? ユーノ?」

 お姉ちゃんが確認するように私に問いかけてきたので頷きました。

「う、うん。私、まだフェイトちゃんとお話してないから……」

 と、頷き、ユーノくんも、

「僕も、できるなら最後まで付き合いたいですし」

 そう、とおねえちゃんはつぶやいてからはあ、っと息を吐きます。

「なら、私も付き合おうかな?」

 お姉ちゃんのその言葉に時音さんがうれしそうに笑みを深くしました。



~~~~
リンディさんとの会談。そして、クロノいと憐れ。まあきっと大丈夫さ。
と、エイミィさんがいるのに会話に参加しないのはおかしいのでエイミィさんの会話を追加しました。どうでしょう?


このパーティーはしばらく固定の予定です。
そろそろ時音さんはデバイス手に入れる時期かな?

アースラが介入し始めたのでなのははもう手加減する理由もなくなりました。
そろそろカラカラ歯車が回るだけでは済まなくなる……かも?



[14021] カラカラメグル 第十五話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:47
 そして、家に帰ってみんなに報告しました。時空管理局という組織がやってきたこと。私たちはそこと協力してジュエルシードを探そうと思っていること。

「そうか。がんばってな」

 お父さんが私の肩を叩いてくれます。

「俺も手伝いたいが、少し難しいみたいだな。美由紀、なのはとユーノを頼むぞ」

 お兄ちゃんは心配そうにだけどがんばれと一言。

「がんばってね」

 お母さんも微笑みながら私にそう言ってくれました。

 うん、がんばるよ。みんなの為にも。







 そして、翌日、私たちは返事を返しました。

「なので協力したいのですが」

 私がそう言うとモニターの中のリンディさんが困ったように笑う。

『協力……ですか』

 クロノ君も困ったようにぼそりと呟く。

「これまで頑張ってきたんです。だから最後まで付き合いたいんです。お願いします!」

 そう言って私は頭を下げます。

 ふふふ、責任感が強い健気な女の子みたいに行動して情を動かす作戦なの。まあ、アースラ側もクロノ君を温存するということで私たちの申し出は嬉しいはずなの。

「それと、ハラオウン艦長、少しよろしいですか?」

 そう言って時音さんがモニターを覗き込む。

『リンディでいいですよ。どうぞ』

 リンディさんの言葉にありがとうございます。と時音さんは頭を下げる。

「では、リンディ艦長、私たちとしては先日お聞きした話を聞いて、人に任せるだけなんて嫌なんです。たとえ自分が関わって何もできなかったとしても、それでも、知った以上は何か行動をしたいんです」

『そうですか……』

 時音さんは真面目な顔でそう言うと、リンディさんがそう答える。そこにすかさず、

「それに、そちらとしてはそこのクロノくん? でしたっけ。先日の怪我が治るまで私たちが代わりにもなります」

 う、痛いところ突かれたの。

「それに、私たちはすでに相手に知られた札です。そちらの切り札を隠すにはちょうどいいのでは?」

 にやりと時音さんが笑う。なんかいつもと違うの……

「本気モード……」

 お姉ちゃんがぼそりと呟きます。なんなの? 本気モードって?

 私が問いかける前に、時音さんがさらなる提案をする。

「もし、不安でしたら、そちらのクロノ君と私たちで模擬戦するというのはどうでしょう? こちらとしても私たちの命運を託すあなたたちの力を見ておきたいので」

 わ、私がいざという時に考えていた言葉を!

 そして、リンディさんは、

『いいでしょう』

 と答えてくれました。

『母さ……艦長!?』

 クロノ君が抗議の声を上げますが、リンディさんが止めます。

『今の、彼女たちなら私たちと協力しなくても自分で行動するでしょう。なら、お互い安心できるよう力を見せ合うのも必要よ』

 さすが、リンディさん! どっかの堅物執務官より話がわかるの!







「ところでお姉ちゃん。本気モードってなに?」

 アースラに行く前にこっそりお姉ちゃんに問いかけます。

「時音いわく、脳内物質を調整して、頭のキレを上げることで交渉ごとに対応する技術だって。前に学校の行事に関して生徒会と交渉した時にあれやって相手を言いくるめたんだよね」

 なんて妙な能力なの。

「ただ、副作用として使った後は、その時間分いつも以上にのんびりしたペースになるみたいだけど」

 見れば、時音さんは魔法陣の光がキレーとほんわかした顔で見ていました。





 でアースラ代表、クロノ君vs私&ユーノくん&お姉ちゃん&時音さんチームの模擬戦が決まりました。もちろん時音さんは元に戻っています。

 お姉ちゃんとしてはよってたかって一人と戦うのは不満そうでしたが、自分たちの力を見せるためと諦めてくれました。

「では、模擬戦開始!」

 リンディさんの宣言で私たちは飛び出します。

 飛び上がった私はアクセルシューターでクロノ君の頭を抑えます。お姉ちゃんたちの射程外には出さないの!

 そこにお姉ちゃんが空中のクロノ君に飛針を投げます。それを避けるクロノ君。

 すかさず、時音さんが最近覚えた飛翔魔法で飛び上がります。あくまで飛翔であって、飛行はまだです。

 上段から模造刀で斬りつけます。クロノくんはそれを受けようとして……表情が驚愕に彩られました。

 そして、次の瞬間、時音さんの拳がお腹に突き刺さります。

「ぐっ!」

 たまらず後退するクロノ君。

 今のは時音さんの流派の技『朧』というものです。上段から斬りつけると見せかけて剣から手を離し、斬りつける振りをします。

 そして、受けようとした相手の隙を付き、隠し持っていたクナイなどで相手の急所を刺すというものだそうです。

 一発限りの騙し技と本人は言っていましたが、結構えげつないと思うの。

 でもバリアジャケット持ちのクロノくんはあまり堪えた様子はないです。時音さんも始めてのバリアジャケットの感触に顔を顰めました。

 空中で放した剣をキャッチして時音さんは重力の法則に従い自由落下します。

「ブレイズキャノン!」

 すかさず砲撃が時音さんに襲い掛かります。が、割って入った私のプロテクションで防ぎます。

 くっ! やっぱりAAA+は伊達じゃないの!

 なんとか防ぎきって……バインドされてしまいました。

 しまった! でも、追撃はありませんでした。

 再び飛翔した時音さんがクロノ君に突撃。斬りかかって避けられてしまいます。

 クロノ君は時音さんにS2Uを向け……その時、しゅんと何かが閃きます。お姉ちゃんの鋼糸!

 クロノくんは鋼糸に驚きつつ後退、そこに、

「チェーンバインド!」

 ユーノくんのバインドが巻きつきました。さすがのクロノ君もこのコンボは逃げ切れなかったの。

 さらにバインドを解除した私はレイジングハートを振りかぶります。

「受けてみて! ディバイン・バスターのバリエーション!」

 それは、剣を使う私の為にレイジングハートが用意してくれておいた魔法。

 いつもの環状魔法陣がレイジングハートに巻きつきますが、その効果は若干違います。放出する魔力を収束し、長大な魔力の剣を構築します。

 クロノ君が驚きに目を丸くします。

「行くよー! ディバイン・ブレーーーード!!」

 そして、私の刃はバインドごと、クロノ君を断ち切ったのでした。







『ごめんなさい』

 私たちは土下座して謝ります。

 模擬戦の結果、クロノ君に私たちの攻撃での怪我はありませんでした。ですが、私の攻撃で気絶してしまったクロノ君はそのまま空中から落下、右肩を脱臼、上腕部の骨にひびまで入る怪我を負ってしまいました。

 ま、まさかこうなるとは思ってなかったの!

「いえいえ、むしろあれでこの程度で済んだほうが驚きです」

 とリンディさんは笑ってくれますが、私たちは怖くて顔を上げられません。

「それに、あなたたちの力は見せていただけました」

 リンディさんの言葉に私たちは顔を上げます。

「えっと、では協力の件は……」

「はい、あなたたちは私たちが考えるよりもずっと力を持っていました。こちらからもぜひご協力をお願いいたします」

 リンディさんのその言葉に、私たちはハイタッチを決めるのでした。





~~~~
なのはパーティー、アースラに迎え入れられるの回
少し話がだらけて来たみたいですが見捨てず見てもらえればうれしいです。
時音、もう少し魅力あるキャラに書けれたらなあ……



[14021] カラカラメグル 第十六話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:52
 しばらく付き合うことが決まりリンディさんが私たちの家に挨拶に来ました。

 お父さんたちは頭を下げるリンディさんによろしくお願いしますと頭を下げます。

 そして、私とお姉ちゃんは荷物を用意します。飛針と鋼糸は予備を含めて多めに、着替えも数日分これでよしなの。

 後は臨海公園で時音さんが合流するだけなの。






 家に戻ってきた時音は蔵の中から刀と予備を含めたクナイを取り出す。

 そして、それらを持って自室に戻ると着替えとともにバッグに詰める。

 それから部屋を出ようとして、その一角にあるアタッシュケースを見る。彼女は少し躊躇ってからそれも取り、玄関に向かった。

 その時ふと視界に二枚の写真が入る。彼女はそれを見て、小さく笑う。

「行ってきます父さん、母さん」

 それだけ言うと彼女はドアを開けて家を出た。

 一つは幼い彼女が壮年の男性に肩車されている写真、もうひとつの写真は色がくすみボロボロ。そして、写っているのは三人の女性。

 一人は時音にそっくりな女性、もう二人は……






 そして再び来ましたアースラ! さて、これから忙しくなりそうです。

「この部屋が三人の部屋だから自由に使ってね」

 エイミィさんに案内された客室に荷物を置きます。部屋は前でも私が使っていた部屋でした。

 それからブリーフィングルームで改めてアースラのみんなに紹介されました。

 そして、お姉ちゃんと時音さんに予備のデバイスが貸し出され……

「あっ、待ってください」

 時音さんはそう言ってここに来てからずっと下げていたアタッシュケースをテーブルに置きました。

 そして、少しの逡巡の後、ロックを外しました。

「実はこれを見て欲しいんです」

 そう言って時音さんが開けたケースの中、それは……デバイスの残骸?!

 ぱっと見た感じはレヴァンティンに似た刀剣型デバイスですが細部がかなり違うのがわかります。

 片刃の刀身は柄からすぐ先から折れてボロボロ、外装もあちこちが劣化して色がくすんでいます。

 ベルカ式の特徴である、カートリッジシステムが搭載され、レヴァンティンと同じ峰に排莢部がありました。

 その排莢部も砕け、手を守るように柄頭まで伸びている鍔の装飾もあちこちが砕けてボロボロで、その中心のデバイスコアと思われる宝石も罅割れています。

 そして、変色した血の後……。その有様に持ち主の最後が伺えます。

「……これ、ベルカ式のデバイス? しかもかなり古いね」

 ようやく衝撃から立ち直ってエイミィさんが興味深げにそれを持ち上げます。パラッとひび割れた外装の一部が零れました。

『ベルカ式?』

 お姉ちゃんと時音さんが首を捻ります。

「昔ミッド式と双璧をなしていた魔法大系で、遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して対人戦闘に特化した魔法のことだよ」

 簡単にベルカ式についてエイミィさんが説明します。

 二人はふーんと頷きました。

「だいぶ前までは廃れてて一部にしか使い手がいなかったけど、最近見直されて近代ベルカ式って名前で広まり始めてるよ」

 ある程度デバイスを観察してエイミィさんはそれを元のアタッシュケースに戻しました。

「うん、資料でしか見たことない古いパーツもあるから、これはたぶん大昔のベルカで使われてたものだよ」

 そう言ってエイミィさんは時音さんに目を向けます。

「なんでこんなもの持ってるの?」

 エイミィさんの質問に時音さんはポリポリ頬をかきます。

「私もよく知らないよ。父さんからは捨てられてた私と一緒に置いてあったって聞いただけだし」

 ……あれ? 今さらっと、とんでもない告白されなかった?

「……捨てられてた、ですか?」

 一同を代表してリンディさんがなんとか口を開きます。

「はい」

 事も無げに時音さんは頷きました。少しの間その返事にみんな沈黙します。

(もしかして、実は次元漂流者? そういえば、髪の色とか日本人らしくないし)

(ですが、ベルカが滅んだのはかなり昔ですよ?)

(わからないよ。もしかしたら生き残りの子孫かも)

 ひそひそとリンディさんとクロノ君にエイミィさんが相談します。

 ユーノくんは複雑そうに時音さんを見ています。見ればお姉ちゃんはぜんぜん驚いてないです。知ってたのかな?

 い、一体何者なの時音さん?

「その、少し詳しく話してくれないか? 無理にとは言わないが……」

 クロノくんの頼みに時音さんはOKと返すのでした。






 その後、時音さんが簡単に自分の身の上を説明してくれました。

 物心が付く前、時音さんはあのデバイスと手紙の入った籠と共に山に捨てられていたところを、養父である黒野時定さんに拾われ引き取られたそうです。

 時定さんは早くに奥さんもなくしてたため引き取ることに反対する人はいなかったそうです。

 そして、十歳になった頃に拾われたことと、あのデバイスと添えられていた手紙を見せてもらったとのことでした。

「で、なのはちゃんのデバイスを見た時にもしかしたらって思ったんです」

 正解でよかったと時音さんが笑いますが私たちは笑えません。

 なにせ、幼い時音さんと一緒にあったと言うことはその持ち主が親かそれに近しい存在なのです。

 そして、デバイスはあの状態です。となれば、持ち主は……

 もちろん彼女のそばにたまたまあっただけとも言えますが手紙とデバイスは時音さんと一緒に籠に入っていたそうです。

 と、なればある程度予想できます。親が戦場で死んだかなんかした後、捨てられたのかもしれません。まあ、時音さんもちゃんとそこはわかっているでしょう。

「では、この件が終わった後はあなたの出身世界などの調査を行わせてもらいます。それでいいですか?」

「はい」

 リンディさんの言葉に時音さんはしっかりと頷くのでした。







 そして、私たちはアースラでジュエルシードが発動するのを待っていました。

 一日目、休憩時間にエイミィさんを入れて一緒にお昼を食べていたら予想通り前と同じくお姉ちゃんとエイミィさんが友達になったことでした。

 そして、時音さんもエイミィさんと仲良くなりました。まあ、お姉ちゃんと仲がいいし当然かも。

 エイミィさんは……特に注意しなくていいよね。将来のお相手決まってるし。

 で、二日目にジュエルシードが発動しました。

 鳥に取り付いたジュエルシードです。……駄洒落じゃないよ?

 これは、結構あっさり捕獲できました。お姉ちゃんが鋼糸と飛針を投げて進路を限定、ユーノくんの設置したバインドに誘導、捕獲と同時にすかさず時音さんが切り伏せ、私が封印しました。

 あっさり、終わったことにアースラのみんなは驚いていました。そんなにすごいの?

 そして、その後のことです。また発動したジュエルシードを回収した後でした。

「やっぱり、あれって修復難しいみたい」

 と、お昼にエイミィさんがいきなり言いました。

 エイミィさんの突然の言葉にみんな首を捻ります。あれってなにかな?

「ほら、時音のデバイス」

 あー、とみんなが頷きました。そういえば、時音さん修理できるかエイミィさんに預けていたの。

「刀身は作りなおさないといけないし、残りの部分もほぼ全てのパーツが経年劣化でダメになってるし、唯一使えそうなのはデバイスコアの一部とAIの基礎データくらいだけど、こっちも破損でバグだらけ。これなら一から作り直したほうが早いくらいかな」

「そう、なんだ」

 とエイミィさんが告げると時音さんは残念そうに肩を落とします。

 時音さんとしてはきっと自身の秘密に関係するあのデバイスを振るいたかったのかもしれません。でも、そうなると諦めるしかないのかも。

「今、本局の知り合いに連絡して設計と製作を頼んでるけど、今の技術も取り入れることになるから基礎設計の段階から作り直しになるし、出来上がりまで時間かかるかな」

 と、エイミィさんは漏らしました。

 うーん、やっぱりその知り合いってマリーさんなのかな?

 それからエイミィさんは後でその相手を紹介すると言ってその時はお開きになりました。

 次の日、ユーノくんと訓練してからお昼を食べに食堂に向かいました。

 お姉ちゃんたちはエイミィさんと先に食べているはずです。ですが……

「ここをこうしたらいいんじゃないかな?」

 お姉ちゃんが思いついたアイディアをマリーさんのほうに送ります。

『あ、それ面白そうですね。だったら、ここを……』

 すぐにマリーさんは自分の考えていたことを送り返してます。

「そうだね~。だったらさ、ここのプログラムをこうしておいて……」

 と、時音さんがプログラムに関して要望を出します。

「あ、そうすれば魔法の展開速くなるね! だったらさ、ここをいじれば」

 と、エイミィさんが意見を出します。

 えっと、たぶん時音さんのデバイスに関する話かな? 四人で意見を出し合っています。

 ちょっとついていけないかも……食事は別にとろうかな。

「ねえ、ユーノくん、あっちで……」

 あれ? いつの間にかユーノくんがいないの。

「僕はこうした方がいいかと思います」

「あ、そういうのもいいかもね」

『へ~、君、筋よさそうだね。よかったらうちの職員にならない?』

 いつの間にか四人に混ざって話しに参加しています。

 ……ふーん、私とご飯よりそっちがいいんだ。そっちが。

 私はつかつかとユーノくんに近づいてその肩を掴みました。

「痛い、痛い。なのは痛い!!」

 ユーノくんが悲痛な声を上げます。どうしたのかな? ちょっと肩を掴んだだけなのに。

「ね~、ユーノくん。一緒にご飯食べよ?」

 私がそう笑いかけるとユーノくんはこくこく頷いてくれました。






 そして、四日目にまた発動したジュエルシードがフェイトちゃんに奪われました。うーん、さすがなの。

「うーん、私としては三形態とも剣の形状がいいんだけどなあ」

『でも、それだと遠距離がなくて辛いと思いますよ?』

「そうだろうけど、どうしようかなあ?」

 この日も時音さんは自分のデバイスについてマリーさんと相談していました。

 それを私はユーノくんと一緒にご飯を食べながら眺めます。

 言われてみればシグナムさんのフルドライブは弓でした。となると一形態くらい遠距離タイプ入れるべきなのかな?

 でも、ヴィータちゃんやスバルは全部直接攻撃の形態だったし、一概には言えないの。

 予断ですが、時音さんの持ってきたデバイスもフォルムチェンジできるみたいですが、データの破損が酷く、どのような形状があったかわからないそうです。なのでフォルムについて相談しているみたいです。

 結局、二人の話し合いの結果、時音さんのデバイスには遠距離型の形態はオミットすることになりました。





 五日目、今日は特に何も起きなかったです。

 なので、お昼にいつも通り三人と画面越しの一人が集まってデバイス製作の相談をしているのをユーノくんと眺めてました。

『本当にこの仕様でいいんですか?』

 と、やや不満そうにマリーさんがお姉ちゃんに聞きます。

「うん。私としてはそれで十分だよ」

 と、お姉ちゃんが返します。

 現在の話はお姉ちゃんのデバイスの話です。といってもお姉ちゃんの要求仕様のもと図面を引くだけで、製作は当分先だそうです。

 そして、お姉ちゃんの要求は、言葉にするなら『質実剛健』、または『シンプルイズベスト』です。

 二刀一対の小太刀型で、フォルム変更はなし。カートリッジは左右併せて四発。余計な機能は全て切り捨てて信頼性、耐久性を重視したデバイスです。

 マリーさんとしてはいろいろ盛り込みたいみたいですが、お姉ちゃんにとって余計な機能があっても無駄なのかもしれません。

 ……ちょっと、どんな子ができるか楽しみなの。








~~~~
少し時音の正体ばらし。でも、完全にわかるのはもう少し後の予定です。
なお、時音のデバイスは趣味丸出しな代物、対して美由紀さんのはシャッハのヴィンデルシャフトに近いものになる予定です。
それではまた。



[14021] カラカラメグル 第十七話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:54
 六日目、今度も鳥でした。今回は時音さんが切り伏せる必要もなく軌道を見切ったユーノくんがバインド、即封印です。

 うーん、なんか歯ごたえないの。でも、こういう相手だと空戦の練習にはちょうどよさそうなの。

 そして、アースラに戻ります。それからいつも通り訓練してから食堂に行くと、






 ……時音さんが一人泣いてました。

 え? 時音さんが泣いてる?!

 ど、どうしたんだろ?

「と、時音さん、どうしたんだろうね?」

 ユーノくんに聞かれますが、わかりません。なのですぐに聞いてみることにしました。

「あの、時音さん、どうしたんですか?」

 私が声をかけると、時音さんはぐしぐし泣きながら、

「う、なのは、ちゃん、にユーノくん……ずず、あのね、ぐす……わたしのデバイス、ひっく…がね」

 そうして断片的に時音さんの語る情報を拾うと以上のことがわかりました。

 まず、もし時音さんの要求、というかみんなのアイディアを盛り込んだデバイスを作るとなると、構造的に弱い部分が生まれてしまい、アームドデバイスとしては不合格ということでした。

 さらに、パーツも、使うなら高級かつ繊細なものも必要となるのでこれまたアームドデバイスには不向き。

 そして、一番の問題、完全に時音さんの予算をオーバーしてしまうことだそうです。

『いや~、いざ設計してみたらそんな問題が浮上しちゃったんだよね』

 と、モニター越しにマリーさんが困ったように笑いました。

 時音さんはひっく、ひっくとしゃくり上げながら私の顔を見ます。

「だがら、最初のようぎゅう仕様で今がらもう一度設計じなおしでもらうがら、ごめんね。わたじ間に合わないがも」

 と、私たちに謝ってきました。

 ああ、時音さんが泣いてる理由がわかりました。デバイスがうまくいかなかったのが悲しいんじゃなくて、私たちの手伝いをできないことを悲しんでいたみたいです。

「いいんですよ時音さん。その気持ちだけで嬉しいから」

 私はそう言って自分より大きい時音さんを抱きしめます。

 普段、ライバル扱いしてるけど、時音さんは時音さんでいい人なんです。ぽんぽんと私は背中を叩いてあげました。

「うん、ありがとう。ごめんね」

 ぐしぐしと泣きながら時音さんも私の背中に手を回してきました。





「ところで、もしちゃんと設計できてたらすぐできたんですか?」

 と、ユーノくんがマリーさんに問いました。

『いやあ、パーツの発注とかもあるし、一ヶ月以上はかかるから、事件にはいずれにしろ間に合わなかったと思うよ?』

 そこ、うるさいの。







 八日目、またフェイトちゃんに持ってかれた後、今度こそ時音さんのデバイスの設計が終わったとマリーさんが報告してくれました。時音さんのためにがんばって設計してくれたみたいです。

『で、こんな感じですね』

 と、デバイスの概要を映してくれました。そういえば、断片的なアイディアしか聞いてないからどんなのかちゃんと知らないの。

 まず、基本デザインは片刃の剣です。刀身はレバンティンより刃が細身で刀よりは肉厚。長さは七十センチほど、これは普段時音さんが使う刀と同じ長さです。峰にカートリッジを搭載し、柄と刀身の間にデバイスコア。

 そして、鍔からは手を保護するため、柄頭まで羽のような装飾がなされています。

『これが普段の姿ですね。残りの二形態はこんな感じです』

 そう言って表示された残りの形態はセカンドフォルムは二刀流、デザインは変わりませんが二刀目が短く、小太刀に近い長さです。

 そして、フルドライブ形態……でっかい剣です。横に時音さんの身長を表示されてますが、その五倍の長さで、片刃なのはそのままに無骨な大剣となり、峰の部分にアイゼンのようなブースターがついてます。名前は斬艦刀です。

 まあ、ヴィータちゃんもギガント振り回してたし、OKかな?

『時音さんの要求の通りにアームドデバイスとしての機能を持たせつつも高度な魔力補助能力も持たせる予定です』

 ふむ、時音さんの要求はグラーフアイゼンに近いみたいです。となると闇の書事件の後はヴィータちゃんに指導してもらうといいかも。

『では、これで組み立ててみますので』

「うん、ありがとうね~」

 と、時音さんがお礼を言いました。





 
 数日後、私はユーノくんと一緒に寝ながら色々今の戦力について考えていました。

 まず私。この頃の訓練と戦闘でだいぶブランクがなくなって来たのかスムーズな戦い方ができるようになったと思います。

 以前と違って近距離と砲撃魔道師両方のスタイルですから以前よりパワーアップにはなっています。まあ、最盛期に比べるとまだ力不足は否めませんが。

 次にユーノくん。少しだけお兄ちゃんから御神の手ほどきを受けてるため若干パワーアップ。ただし、劇的ではなく一割がいいところな上、攻撃に向かないのは相変わらずですが。

 そして、アースラ。こちらには特に変わりはないです。クロノ君が負傷するという予想外事件が起きましたが、脱臼した肩はすぐにお姉ちゃんが嵌めたし、腕の怪我ももう大丈夫だそうです。

 そして、前にはないプラスαの戦力。お姉ちゃんと時音さん。

 現在、お姉ちゃんと時音さんは接近戦主体なためにベルカ式に転向、肌に合ったのか見る見るうちに魔法の技量をつけています。

 まあ、お姉ちゃんは「剣士としての純度は落ちるかもね」と少し苦笑してましたが、割と習得を楽しんでいます。

 ですが、二人が使う武器は現状では武装局員の予備デバイスと持参した刀です。性能は必要十分ですがミッド式の人が使うことを基本的に想定してるため二人と若干相性は悪い様子です。

 デバイスの完成も当分先みたいですので、ちょっと戦力としては劇的に高いわけではないです。

 そう考えるといざプレシアさんが本格的に行動するようになったら止めるのはまだ難しいかもしれません。どうしようかなの。






 こっそり、なのはの方を見る。

 寝てるように見えて何かを考えてるのがわかった。

 いったい、なのははなんでここまでがんばろうとするんだろう? 僕と約束したから? 見逃せないから? フェイトと話したいから?

 次々となのはががんばる理由が思い浮かぶけどそれでも完全には納得ができない。なにかもっと深い理由があるようにしか思えない。

 まあ、それを言えば時音さんは別として美由紀さんもなんで協力してくれるのかよくわからないけど。

 高町という家の人間は少し特殊なのかもしれないな。僕はそう考えて少し体勢を変える。

 もう少しなのはたちに付き合えばわかる日がくるかな? あと、たまに怖くなる理由も。

 僕はそれを理解できる時が来ることを祈りながら眠りに付いた。

 思えば、これが僕、ユーノ・スクライアが高町なのはという女の子を意識しだした始まりなのかもしれない。






 そして、運命の日が来ました。この世界に新しく嵌った歯車がカラカラ回る日が。






 その日、フェイトちゃんがジュエルシードを強制発動させました。

 画面の中で大嵐が吹き荒れます。

「あの~、あれかなり無茶なことしてるよねえ?」

 時音さんが驚きと、不安が半々に混じった表情で問いかけました。

「ああ、あれは、個人の出せる魔力の限界を超えている」

 そんな……と時音さんが息を呑みます。

「なら、早く行かないと!」

 お姉ちゃんがすぐに声を張り上げました。

「必要ないですよ。放っとけばあちらが自滅します。仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良いだけですから」

「見殺しにするの!」

 クロノ君の冷静な返答に時音さんが叫び声に近い声を上げました。

「彼女は犯罪者です。それが確実ですし、助ける理由もありません」

 そうです。その通りです。私の中の『私』もクロノ君の言葉に頷きます。だけど、同時に私の中の『私』はすぐにフェイトちゃんのところに行こうと叫びます。

 私はそれに苦笑します。わかっているの。私も変わらないから。ユーノくんに念話を送ります。

『ユーノくん、お願いがあるの』

『わかってるよなのは』

 すぐに苦笑交じりのユーノくんの返事が返ってきました。ああ、やっぱりユーノくんはいい人です。

 私は嬉しくなりました。

『ありがとうユーノくん』

 私が返事を返すと足元に翠色の魔法陣が展開しました。

「それは……転移魔法陣っ!?」

 クロノ君が驚きの声を上げますが、もう遅いです。私の転送は止められません。

「ごめんなさい。でも、私は見捨てたくないんです!」

 私はそう笑って、転移しました。フェイトちゃんのそばに。




~~~~
時音のデバイス決定。ただ、PT事件決着までには間に合わない予定です。
なお、そろそろこの世界のもう一つの変化を出す予定です。それでは。



[14021] カラカラメグル 第十八話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:55
 轟々と耳元で風がなります。高い空、雲を切りながら私はレイジングハートをとります。

「行くよ! レイジングハート!! 」

 嵐の中に目を向けます。そして、もう一度、誓いの言葉を上げます。
「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に!
レイジングハート、セットアップ!!」

『スタンバイ・レディ セットアップ!』

 そして、バリアジャケットを身に纏いレイジングハートを握る私は暴風の中に突っ込む。

「じゃ、邪魔するなあ! この悪魔!」

 そこに、すごい形相でアルフさんが突っ込んできました。む、女の子に悪魔なんて酷いの!

 プロテクションで阻むとアルフさんは弾かれて体勢を立て直します。

 見ればその足はがくがく揺れていました。あれ? 前は観察する余裕がなかったけど、さすがのアルフさんもこの状況が怖いのかな?

 アルフさんが突っ込んできますが、その前に翠色のシールドによって、アルフさんの突進は止められます。

「ユーノくん!」

 予想通りの援軍。でもその後ろ姿は頼もしく嬉しかったです。

「こちらは任せて、なのははあの子を!」

 追いついたユーノ君が、アルフさんと対峙してくれました。

「分かったの!」

 私は頷いてフェイトちゃんのところに向かいました。







 頼もしいパートナーのおかげですぐにフェイトちゃんのところまで飛べました。

「君は!」

 フェイトちゃんが驚きに目を見開きます。

「こんにちはフェイトちゃん。助けに来たよ」

 そういって、私は自分の魔力をフェイトちゃんに分けました。フェイトちゃんが驚いてこっちを見ます。

 バルディッシュの弱弱しかった刃が再構築されます。

「二人で半分ずつ、封印しよう。ユーノ君とアルフさんが抑えてくれているから」

「……」

 フェイトちゃんは黙ったままです。少し顔が俯いてます。

「大丈夫」

 私は笑いかけます。フェイトちゃんが顔を上げました。

「二人でならできるよ」

 私は大胆に、不敵に笑って見せました。

 それに応えるようバルディッシュが自身の意思で斧から槍のようなシーリングフォームになりました。フェイトちゃんが驚きますが、私はそっとバルデッシュにありがとうと言いました。

「行くよ!」

 ユーノくんとアルフさんによって動きを束縛された竜巻に向きレイジングハートを振り上げます。その先に長大な魔力の刃。

「ディバイン・ソード!!」

 私の刃が嵐を切り裂きます。その余波で雲が弾けました。

「フェイトちゃん!」

 見えるのは残りのジュエルシード六つ。

「行くよ! バルディッシュ!」

『Yes sir!』

 バルディッシュの返答にフェイトちゃんが頷きます。バルディッシュを振り下ろし、その先端を魔法陣に突き刺します。

「サンダァァァァァ・レイジ!!」

 そして、放たれた雷がジュエルシードを封印しました。光を反射して宙にきらきら光る六つのジュエルシード。

 それを見届け、私はフェイトちゃんのそばに向かいます。

 『私』はかつてその救いの手を振り払いました。その私がフェイトちゃんに手を差し伸べようとするのはおこがましいだけなのかもしれません。

 でも、それでも、私はまたフェイトちゃんと友達になりたい。未来を知ってるから私はみんなが幸せになる未来が欲しいんです。

 だから、万感の思いを込めて、あの言葉を伝えます。

「友達に……なりたいんだ」

 私は微笑みかけました。フェイトちゃんは戸惑うような顔になりました。
だけど、その瞬間、あたりの空気が帯電しました。そして、紫の雷が落ちます。

 こ、これって!

「か、母さん?」

 プレシアさんの魔法!

 そして、そのうちの一条が私たちに向かいました。

「レイジングハート!!」

『プロテクション』

 フェイトちゃんと雷の間に割って入って、すぐにレイジングハートがプロテクションを展開、防いでくれました。で、でも思ったよりパワーが強いの!

 プロテクションにひびが入ります。た、耐えて!

 でも、私の願いは届かず、プロテクションが砕けました。目の前に紫の雷が……

「はあっ!」

 ですが、その寸前にいつの間にか現れた時音さんが手元の刀を投擲、攻撃を直前で受けてくれました。

 さらに、視界の片隅で鋼糸が閃きます。そして、私の腕とフェイトちゃんの腕に巻きつきました。

「あっ!」

「きゃっ!」

 驚きの声とともに、フェイトちゃんと私をお姉ちゃんが自分のそばに引き寄せました。そこにはユーノくんとアルフさんの盾。

 見れば未だに雷が降り続いています。でも、なんで? これではアルフさんたちもジュエルシードを回収できない。

 プレシアさんのしたいことがわからず、悩んでいたら、

「あ、なのはあれ!」

 お姉ちゃんが指差す方、そこでジュエルシードが動いていました。

 え? どうして?!

 そして、六つのジュエルシードは暗雲の中に消えました。







 その後、駆けつけたクロノ君がフェイトちゃんとアルフさんを確保。すぐにアースラに連行されました。

 正直、安心させた後の油断を付いた感じで嫌なの。実際、アルフさんには睨まれっぱなしだったし。

 でも、それはまだ些細な問題です。一番の問題は、私の知るプレシアさんの取るはずの行動がひとつ繰り上げられたことです。

 今まででも少しずつは変化が出てました。でも、これは大きすぎます。

 そして、艦橋に連れて行かれると、プレシアさんを武装局員の皆さんが逮捕しようとするところでした。

『勝手な行動をしたことについては後で、その子に母親が逮捕される瞬間を見せるのは忍びないので、なのはさん、美由紀さん、時音さん彼女をどこか別の部屋に。』

『あ、はい』

 私はそう返事を返しますが、この後のことは知っています。だから、少し顔がこわばっていたかもしれません。

『総員玉座の間に侵入、目標を発見!!』

 武装局員がプレシアさんを囲みます。そして別行動をしていた隊もあるものを発見しました。それはカプセルの中に浮くフェイトちゃんによく似た、否うりふたつの少女。

 ……アリシアちゃん。

 そして、その後方になにかがあります。遠いし、画面が鮮明じゃないせいでなにかわからないけど……なにか気になるの。

『え!!?』

 お姉ちゃんと時音さんが声を上げる。フェイトちゃんが目を見開く。

『私のアリシアに近寄らないで!』

 いつの間に転移してきたプレシアさんが武装局員達を一掃しました、離れた場所である玉座の間にいた者たちもまとめて……相変わらずすごい魔力です。

「いけない、局員達の送還を!!」

「了解です!!」

 エイミィさんはリンディさんの指示通りに局員達の送還はじめます。一方でプレシアがカプセルにすがりつき言う。

『ふふ、十分ね。これだけあれば行けるわ』

 その手には十個のジュエルシード。そう、十個、前より一個だけ多いいだけです。それで今のプレシアさんは行けるって言った?

 それにアルハザードとも言わなかった? どうして? それに十個……なにか嫌な予感、いえ、『知識』が頭の中を走ります。ジュエルシード、時空干渉型ロストロギア、それを対価に……

『でも、もういいわ。終わりにする。この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも』

 フェイトちゃんが息をのむ。この時、私は計算を中止して黙って聞きます。そして、イライラがつのりました。でも、何も言えません。『私』はプレシアさんとなんら変わらないことをしたのだから。

『聞いていて?あなたのことよ、フェイト。折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』

 そして、フェイトちゃんのことを説明しだしました。それに私は爆発しそうになりますが耐えます。

『アリシアをよみがえらせる間に私が慰みのために使うお人形。でももう、あなたはいらないわ。どこへなりと消えなさい!』

 フェイトちゃんが涙を溜めるそれに対しプレシアさんは笑っていました。愉快に。ぎゅっと、私は拳を握り締めます。

『いいことを教えてあげるわ、フェイト、あなたを作り出してから私はあなたが……大嫌いだったのよ!!』

 そして、その一言が私を切れさせました。

『ふざけないで!!』

 私とお姉ちゃんの怒声が響きました。

「フェイトちゃんはあなたに笑ってほしくてがんばってたんだよ!? それなのになんでそんなことを言うの!?」

「勝手に生んで、勝手に捨てて、子供は親の玩具なんかじゃない! もっと、生み出した命に責任を持ってよ!」

 私とお姉ちゃんはたまった鬱憤を晴らすように大声を出しました。

 でも、プレシアさんはふんと鼻で笑った程度です。

 決めました。プレシアさんも助けるつもりでしたが、まずはそのむかつく顔面に鉄拳を叩き込んでやるの。

「局員の回収完了しました。」

 ようやく回収作業が終わった時エイミィさんが何かに気付きました。

「大変大変!!ちょっと見て。屋敷内に魔力反応多数!!」

「なんだ!?なにが起こっている!?」

 クロノくんが驚きの声を上げる。そして現れたのは無数の傀儡兵です。

「庭園敷地内に魔力反応多数……いずれもAクラス!!」

「総数60・・・80!?まだ増えています!!」

 アレックスさんとランディさんから叫びに近い報告が上がってリンディさんが腰を上げました。

「プレシア・テスタロッサ・・・いったい何をするつもり!!?」

 その問いに答えるかのようにプレシアさんはまずアリシアの入ったカプセルを浮かせ歩きだします。と同時に『知識』がまた脳裏を走り出します。

 時空に干渉し僅かな切れ目を発生、必要最低数四。九以上での干渉が望ましいもののエネルギーの余波で時空断層を発生させる可能性があるため廃案。四個のジュエルシードにより計画を実行。

『私達の旅を、邪魔されたくないのよ』

 そのカプセルの後ろ、よく見えない何かのシルエットがだんだんはっきりします。

 それは……え?

 私はありえるはずのないそれに目を見開きます。と、同時に頭の中で組み立てられていた断片的な『知識』が形を成しました。

 それは、『私』がよく知るもの。車のようなフォルム、ボンネットからはみ出した機関、後部から突き出す特徴的なパーツ。

 そ、そんな、なんで……

『私達は旅立つの。』

 そう言い所有していた十個のジュエルシードを宙に出すと、ジュエルシードはそれの周りを回りだします。

『時を遡って、在りし日に』

 お姉ちゃんと時音さんも目を丸くしています。そう、それは『私』が全てを取り戻そうとして足掻いた結果生まれたもの。

「デ、デロリアン?」

 時音さんがそれの正体を零しました。

「し、知ってるんですかあれを!?」

 リンディさんが声を上げます。

「は、はい」

 時音さんが頷きました。

「なら、あれがなんなのかわかるんですか?」

 クロノ君の問いに時音さんが頷きます。

「あれは、地球で有名なSF映画に出てくるタイムマシンです!」

「た、タイムマシン!?」

 エイミィさんが驚きの声を上げました。
『あら、知ってるの? そうよ。これは時を遡る機械。ジュエルシードを糧にしてね。
使用には四個以上のジュエルシードでいいみたいだけど、万全を期するなら十個が望ましい。まあ、おまけで次元断層が発生するみたいだけど』

 その言葉にみんなの顔が真っ青になります。

 そして、ユーノくんが「そんな……」と漏らしますが、今の私には遠い世界の話にしか感じられません。

 私の中ではぐるぐると疑念が渦巻きます。どうして、なんでと。そして、ひとつだけ気づいてしまいました。

 このプレシアさんの狂気を後押ししたのは『私』だったのだと。




~~~~
デロ○アン再登場。ここでのプレシアさんがジュエルシードを集める理由として現れてもらいました。
さて、無印ももう佳境です。年内に出せるかわかりませんのでみなさんよいお年を。



[14021] カラカラメグル 第十九話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:57
 そして、次元震が発生しました。クロノ君の表情が変わります。

「僕が行く! ゲートを開いて!」

 クロノ君の声にはっとしました。今は……そんな時じゃない!

 まずは、やることやって……それから後悔する!

「クロノ君、私も!」

 その言葉にユーノくんたちも、

「僕も行く!」

「私たちも行くよ! 時音!」

「うん!」

 少し、私たちをクロノ君はじっとみて、

「わかった、行こう」

 その言葉に頷いて、私たちはクロノくんに着いていこうと……その前に一度止まりました。

 そこにはアルフさんに支えられたフェイトちゃん。その顔には生気がかけらも感じられません。でも、

「フェイトちゃん。気持ちがわかるなんて安っぽいこと言わないよ。でも、選んで。フェイトちゃんが人形じゃなくて、フェイトちゃんとしてお母さんに立ち向かうかどうか。私は先に行くけど、後から来てくれるのを信じてるから」

 私の言葉にアルフさんが目を見開きました。

 私がそんな言葉を言っていいのかわかりませんでも、私は伝えたかったんです。私がフェイトちゃんを信じていることを。

 フェイトちゃんはどんな時も立ち上がって向かい合いました。プレシアさんの時も、闇の書の夢も、そして、スカリエッティの時も。必ず。

 『私』は、逃げてしまったけど……

「じゃあ、行って来るね」

 そういって私は先に行ったクロノ君たちの後を追っかけました。






 そして、時の庭園に侵入するメンバーは私とユーノくんにクロノ君、さらにお姉ちゃんと時音さん。

 そして庭園に突入。大量の傀儡兵がお出迎えしてくれました。

「一杯……いるね」

「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」

 と、ユーノくんの言葉にクロノ君が返します。

「あの、これって?」

 時音さんが引きつった笑みを浮かべます。まあ、確かにびっくりなの。

「近くの相手を攻撃するだけの、ただの機械です」

「なら、斬って平気だね」

 そう言ってお姉ちゃんは小太刀を抜きます。が、クロノ君が制しました。

「この程度の相手に体力を使わなくていいですよ」

 そう言って、あっさりとクロノ君が入り口の傀儡兵を瞬殺してしまいます。

 相変わらず見事な手際なの。後ろではお姉ちゃんと時音さんが「こんなに強かったんだ……」と零してました。

 まあ、あの時は実力出す前にあっさり倒せちゃったもんね。

「行きますよ!」

「あ、うん!」

 お姉ちゃんたちが頷きます。そして、クロノを先頭にして、私達は走り出した。

 奥へと進んで行くと、崩れた床の下に、虚数空間が見えます。

「黒い空間がある場所は気を付けてください!」

 クロノ君が走りながら、後ろにいる私たちに向けて呼び掛けます。

「え? なんで?」

 時音さんが問いかえるとユーノくんが説明しました。

「虚数空間です。あらゆる魔法が、一切発動しなくなる空間なんです」

「飛行魔法もデリートされるから、もしも落ちたら、重力で底まで落下します。二度と上がって来れなくなりますよ」

 クロノ君が気を付けるようにと念を押す。

「分かった。絶対落ちないようにしないとね。でも、少し動きづらいな」

「だね」

 と、お姉ちゃんが零しました。

 そして、でかい扉を発見し、すぐに飛び込みます。そこにはさっき以上の傀儡兵、さらに奥に上に続く階段と下に向かう階段です。

 でも、今回は駆動炉を使ってないのでスルーです。(タイムマシンはジュエルシードを触媒にするため、不要なんです)

「一気に突破します」

 クロノ君の言葉にみんなが強く頷きました。








 クロノ君が敵を蹴散らし、ユーノくんのバインドが敵を拘束し、お姉ちゃんの鋼糸が翻って敵を切り裂き、時音さんのクナイが間接を破壊し、私のバスターが撃ち抜きます。

 その途中でした、上から何かが来ます。その影は私たちの前にいる傀儡兵を一体破壊しました。

「あたしも手伝うよ」

 そう言った人物は……

「アルフさん!」

 私はそれがアルフさんだとわかって笑いました。すると、アルフさんは顔を少し背けながら、

「べ、別にあんたがフェイトを気にかけてくれたからじゃないよ。あたしはあくまでフェイトのために協力するんだからな!」

 そういうアルフさんにみんなは嬉しそうに笑います。

 さあ、もう一分張りなの!









 進めば進むほど敵の数が多くなって、質も上がります。くっ! やっぱり手ごわいの! あと、少しで玉座の間なのに!

「邪魔だ!」

 クロノ君のスティンガーが撃ち抜き、

「こんのお!」

 アルフさんが噛みつき、

「しっ!」

 時音さんが刺し穿ち、

「はあ!」

 お姉ちゃんが斬り裂きます。

 私はそれをディバインバスターやディバインシューターで援護します。でも、

「なのは!」

 ユーノくんの言葉に振り向くと私に向かってくる硬めの傀儡兵。ディバインバスター撃った直後だから逃げられない! クロノ君が気づいてスティンガーを向けますが、間に合わないの!

「くっ!」

 身を固めて被弾を覚悟した瞬間、

『サンダーレイジ』

 雷が傀儡兵に落ちました。綺麗な黄色い雷。

 上を向くと、そこにはフェイトちゃん!

「サンダァァァァァ・レイジ!」

 雷が弾けました。雷が傀儡兵を破壊します。

「フェイト?」

「フェイトちゃん!!」

 私は嬉しくなりました。来るのはわかっています。でも、頭でわかってるのと、実感するのではぜんぜん違いました。思わず、ほろりと涙を流してしまいました。

 でも、そこに壁を壊して大型の傀儡兵が現れます。空気呼んで~!!

「大型だ。バリアが強い」

「うん、でも」

 私は笑います。そして、フェイトちゃんが頷きました。

「二人なら」

 フェイトちゃんの言葉に暖かいものが広がります。やっぱり、フェイトちゃんも私にとってとても大切なんだとわかりました。

「行くよ、バルディッシュ」

『Get set』

 フェイトちゃんがシーリングフォームからデバイスフォームに、

「こっちもだよレイジングハート!」

『スタンバイ・レディ』

 私はレイジングハートをブレードフォームに、

 傀儡兵の砲身に魔力が溜まります。でも、不思議と心は落ち着いています。そう、二人ならなんでもできるから!

「サンダァァァァァ・スマッシャー!」

「ディバイィィィィィン・ソード!」

 そして、私たちの魔法は一緒になって傀儡兵を貫きました。








 それがここにいる最後の一体だったみたいです。ふう、と一息つくと、アルフさんがフェイトちゃんにしがみつきました。

 よかったね、アルフさん。私はそっと笑います。そしたら、フェイトちゃんがこっちを見ました。

「行こう。私たちの全てを始めるためにも」

 フェイトちゃんの言葉に私は頷きました。

 謝るのも懺悔するのも全部終わってから。




~~~~
お久しぶりです。時の庭園編前半戦です。
次でプレシアさんと決着な予定。無印はあと少し続きます。
その後は、A`sまでの半年を少し書こうかと思ってます。それでは!



[14021] カラカラメグル 第二十話(修正)
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:57
『マスター』

 そして、玉座の間に向かう途中、突然レイジングハートが声をかけてきました。

「どうしたのレイジングハート?」

 私が問いかけるとレイジングハートが『これを』と答えを返してきました。え? これって!?

 レイジングハートの教えてくれたことに驚きますが、今はそれを考えている場合じゃないの!

 私のバスターが瓦礫を吹き飛ばし、ついに玉座の間に辿り着きました。そこに、プレシアさんにアリシアちゃん、そしてタイムマシン。

 マシンを見た瞬間、後悔の念が私の中に沸きます。

「そうよ。私は取り戻す。私と……アリシアの……過去と未来を! 取り戻すのよ! こんなはずじゃなかった、世界の全てを!!」

 どうやら、ちょうどリンディさんと話していたところだったようです。

「世界はいつだってこんなはずじゃなかったことばかりだよ! ずっと、昔からいつだって誰だってそうなんだ!」

 玉座の間に突入した私たち。そして、プレシアさんの言葉に対してクロノ君の怒声が響きます。と、同時に私とお姉ちゃんが飛び出しました。

 フェイトちゃんたちが、ちょっと驚いていますが、元からクロノ君にお願いして特別に許されていたことです。

「こんなはずじゃない現実から、逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ!だけど自分の勝手な悲しみに、無関係の人間まで巻き込んで良い権利はどこの誰にもありはしない!!」 

 クロノ君の言葉を無視し、煩わしげにプレシアさんが私たちに向けてフォトンバレットの魔法を撃ちますが、私のプロテクションが阻みます。

 怯んだプレシアさんの隙をついて私の影から飛び出したお姉ちゃん。その拳が唸り、

「はっ!」

「がっ!?」

 プレシアさんを殴りました。

 手加減してるのかどうか微妙な一撃です。お姉ちゃんの拳にプレシアさんが倒れる。

「はじめまして。私は高町美由希。あなたを殴りたくてたまらない人間だよ」

 それから私も一歩前に出て、起き上がろうとするプレシアさんの頬を平手で叩きました。

「ぶっ!」

 プレシアさんの首が曲がって、再び地面に倒れます。私はその手をパンパンと叩きました。

「高町なのはです。始めまして」

 起き上がりながら驚愕と怒りの目で私たちを見るプレシアさんの目をまっすぐに見返します。

「母さん!」

 フェイトちゃんが駆け寄ろうとすると、プレシアさんはのろのろ体を起こしてフェイトちゃんの方を向きます。

「何をしに来たの。消えなさい。アナタにもう、用は無い。」

 みしっと私とお姉ちゃんの拳がなります。だけど、

「貴女に言いたい事があって来ました」

 フェイトちゃんが静かに語りだしました。

「私は……私はアリシア・テスタロッサじゃありません」

 それに私たちは黙って見守ります。

「貴女が造った唯の人形なのかもしれません。だけど、私、フェイト・テスタロッサは。貴女に生み出して貰った、育ててもらった、貴女の娘です」

 フェイトちゃんが言い切るまでプレシアさんは黙ってました。でも、

「フフ、アハハハッ。だから何?今更あんたを娘と思えと?」

 その嘲笑にフェイトちゃんは静かに答えました。

「あなたが、それを望むなら。」

 ほんの少しだけプレシアさんの表情が動きました。

「……それを望むのなら、私は、世界中の誰からも、どんな出来事からも、貴女を守る。私が貴女の娘だからじゃない。貴女が、私の母さんだから!」

 そう言いフェイトちゃんは手を伸ばします。プレシアさんに。だけど、

「くだらないわ!」

 プレシアさんはそう一蹴しました。フェイトちゃんが悲しそうに顔をゆがめます。

 私はその胸倉を掴みあげます。

「どうして、どうしてフェイトちゃんを見てあげないの!!」

 私は怒声を上げました。

「フェイトちゃんは、あんなに必死にあなたに手を差し伸べてるんだよ? それなのに、それなのに……なんで過去に囚われてフェイトちゃんと向き合ってあげないの!?」

 私は喉の奥に溜まった熱を吐き出すようにプレシアさんに訴えました。

「お前に、お前に何がわかる!!」

「わかっ……」

 プレシアさんの言葉に「わかるよ」と反論しようとして私は止まりました。

 私に、そんなこと言う資格があるの? 『私』だって、過去に囚われてフェイトちゃんからさし伸ばされた手を払ってしまった。

 その私がいまさらプレシアさんを否定していいの?

 私が葛藤して……ズシンと、今までで一番大きな揺れが私たちを揺らしました。

「マシンを止めろ!」

 クロノ君が叫びます。

「無理ね。もう、これは止まらない。あとは過去に飛ぶだけ。失われた時間を取り戻すために」

 プレシアさんは勝ち誇るように笑います。でも、まだ切り札は残ってるの! せめて、自分が作ったものの始末は自分で!

「星の名の下に命ず! 」

 私は叫びました。みんなが驚いて私の方を向きます。

「願いの宝石をもって時を渡るゆりかごよ、聖王の御前に傅け!」

 そう、これが切り札。これは、

「いきなりなにを……」

 そう嘲笑おうとして、プレシアさんの表情が凍りました。

 タイムマシンから唸るようなエンジン音がなくなっていったのです。

「なにをしたの!?」

 プレシアさんが叫びますが、正直、私は内心うまくいくかどうか不安でどきどきしていました。

 今の言葉、それは、タイムマシンの緊急停止コマンド。

 これを叫べば、タイムマシンの全てのシステムがダウンするのはわかっていましたが、いざやるとなると、プレシアさんにいじられて効かなかったりしたらどうしようと自信がありませんでした。

 でも、後は、タイムマシンが動かない今のうちに確保すればいいだけです。

「クロノ君!!」

 私の言葉に同じように唖然としてたクロノ君が頭を振ってから頷きました。

「プレシア・テスタロッサ、ロストロギア不法所持、及び騒乱罪であなたを逮捕します。抵抗しないでくださ」

 そう言ってクロノ君は踏み出そうとして、また、揺れました。しかもさっきより大きいです。

『ダメです艦長! ジュエルシードのエネルギー増大してます!! 』

 な、なんで?! マシンを止めたはずなのに……見ればさらに輝きを強めるジュエルシード。

 あ、もしかして、マシンに行くはずだったエネルギーが行き場をなくして暴走してるの!?

 これはまったく計算に入れてなかったの!! ど、どうしよう!?

 さらに振動が強くなる庭園、崩れだす足場。

『艦長! ダメです。庭園が崩れます。戻ってください! この規模なら次元断層は起こりませんから! 美由紀達も脱出して、崩壊までもう時間が無いの!』

 ……仕方ないの!!

 私はせめてプレシアさんを連れて行こうとその手を掴もうとして……

「あっ!」

 視界の角でフェイトちゃんの足元が崩れました。

「フェイト!」

「フェイトちゃん!!」

 私は、プレシアさんに伸ばした手を引っ込めて後ろに走り出しました。

 私は崩れた床から穴に向かって飛び出してフェイトちゃんに手を伸ばしました。

「フェイトちゃん! 飛んで! こっちに!!」

 ただ、必死に手を伸ばしました。だって……もう、いやなの。目の前で大切な人がいなくなるのは!

 そして、フェイトちゃんが伸ばしたその手を取りました。今度はしっかり、離れないように。

 そして、上に上がろうとしますが、だめです。虚数空間にずるずる引っ張られてしまいます。おねがい、後少し!

 私は必死になって上に向かって手を伸ばして……

「なのは!!」

 その手に、鎖状のバインドが巻きつきました。ユーノくん!

 ユーノくんのチェーンバインドをみんなが引っ張ってくれます。そして、なんとか上に上がることができました。

『みんな、早く! このままじゃ間に合わないよ!!』

 再びエイミィさんの催促の通信が入りました。

 もう、無理なんだね……私はプレシアさんの方に向くと、突然、足元に紫色の魔法陣。

『え?!』

 みんなが驚きの声を上げました。

「母さん!?」

 フェイトちゃんがプレシアさんの方を向きました。それに、プレシアさんは煩わしそうに一言呟きました。

「どいつもこいつも、邪魔なのよ。さっさと消えなさい……」

 それが、私の聞いた最後のプレシアさんの言葉でした。







 全員が転移させてからプレシアは再び咳き込む。

「ああ、アリシア。行きましょう。もう、私たちを邪魔するものはないわ」

 そう言って、プレシアは動かないタイムマシンに乗り込む。

「そう、取り返すのよ。あなたとの時間を」

 エンジンのキーを回す。マシンは動かない。

「愛しい私の娘、もう離れないわ」
 ギアを変更する。マシンは動かない。

 そして、ついにマシンが鎮座していた場所も崩れる。虚数空間に向かって落下するマシンと、プレシアとアリシアの入ったカプセル。


「一緒に……ずっと、一緒に」

 アクセルを、踏む。マシンは……応えた。

 そのエンジンが力強く吼え、ライトが光る。タイヤが回りだす。

 そして、マシンがどうなったか…………もう、誰も知ることはない。




~~~~
プレシア編決着。そして、次でもう一つの決着です。
プレシアを生存させるか悩みましたが、結局はこうしました。
彼女とマシンがどうなったかは……皆さんのご想像にお任せします。
それでは、また。



[14021] カラカラメグル 第二十一話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:59
 プレシアさんの魔法で強制的にアースラに戻ってきた私たち。フェイトちゃんは途端に崩れ落ちました。

「フェイト!」

「フェイトちゃん!」

 慌てて私とアルフさんが支えます。

「母さん、どうして……」

 弱弱しくフェイトちゃんは漏らします。

「フェイトちゃん……」

 どちらかというとプレシアさんの気持ちなら『私』の記憶があるから少しだけ理解できます。

 また出会いたいという狂おしい思い。他の何を捨ててでも再び触れ合いたいと言う願い。

 でも、私はフェイトちゃんの気持ちはわかりません。置いてかれる方の気持ちは。

 前の世界ではフェイトちゃん二度も置いてかれる気持ちを体験してるんだ……

 いまさらながら強い後悔の念が沸きます。でも、

「泣いて、いいんだよ?」

 私の言葉にフェイトちゃんは不思議そうに見返してきました。

 ごめんね、フェイトちゃん。これはただの独りよがりな偽善。

 今は、ただ、フェイトちゃんを助けたい。たとえ厚かましくても、たとえずうずうしくてもフェイトちゃんにはまた笑って欲しいから。

「辛いときや、悲しいときは我慢なんかしなくていいんだよ? 泣きたいときに泣けば、きっと、少しはすっきりするから」

 フェイトちゃんはくしゃりと顔をゆがめ、そして、

「母さん、母さん、う、う、うわああああああ!!」

 泣き出しました。私はその背中を撫でてあげました。

 ごめんね、本当にごめんねフェイトちゃん……






 

 そして、泣き終えた彼女を武装隊の人たちが連行していきました。

「やっぱり、許されないんだね」

 ぼそっと、お姉ちゃんがこぼしました。

「しかたありません。彼女はこの事件の重要参考人ですから、申し訳ないですが、しばらく隔離になります」

 お姉ちゃんのつぶやきにクロノ君が答えます。。

「今回の事件は、一歩間違えれば次元震どころか、次元断層さえ引き起こしかねなかった、重大な事件です。時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ないですから」

「そうだけど、やるせないね……」

 時音さんは残念そうにつぶやくと、リンディさんが武装隊の人たちを連れてやってきました。

 やっぱり、あれだよね? タイムマシンのことだよね?

 お姉ちゃんたちがすぐに察して身構えて、私を守るように前に出てくれました。ユーノくんも私の目の前に立ってくれます。

 ううう、ユーノくん……すごくうれしいよ。

 そして、感動していたら武装隊の奥からリンディさんが出てきました。その目はとても厳しい色を湛えています。クロノ君もすぐに武装隊の方に混じりました。

 立場上見逃せないのわかるけど、一緒に戦った仲間を見捨てるの~?!

「皆さんお疲れ様です。本当ならあなたたちに労いの言葉を贈るだけで済ませたかったのですが、そういうわけにも行きません。お話しを聞かせていただきます」

 そう、リンディさんが切り出しました。

「件のタイムマシン……まあ、本物かどうかもう確かめる術はありませんが、なのはさん? あなたはあれについてよく知ってるみたいですが?」

 知ってるも何も、あれを作ったのは未来の私です。だから、あれに使われている理論全部知ってます――なんて、言えるわけがないの。それに……

『リンディ艦長、発言許可をお願いします』

 突然、レイジングハートが声を上げました。

「レイジングハート?」

 ユーノくんが不思議そうにレイジングハートを見ます。ああ、ダメなの! レイジングハート、それを言っちゃ!

「なんですか?」

『例の停止コードを教えたのは私です』

 レイジングハートの言葉にリンディさんの眉が動きました。 

「……本当ですか?」

 リンディさんの言葉に仕方なく頷く。うう、そうなの。玉座の間に突入する前に、なぜか、あれの緊急停止コードをレイジングハートが教えてくれたのです。

 でも、何でレイジングハートは知っていたのでしょうか? 考えられるのは……今、私の持っているレイジングハートが『私』の使っていた『レイジングハート』であることです。

 『私』の『レイジングハート』は『私』の研究データの管理を行っていました。

 でも、なんでユーノくんがこのレイジングハートを持ってたんでしょうか?
もし、このレイジングハートが『私』の『レイジングハート』ならば、本来ユーノくんの持つはずだったこの世界のレイジングハートと二つあることになります。

「なんでですか?」

『わかりません』

 リンディさんの問いにレイジングハートがそう返しました。

「わからない?」

 レイジングハートの答えにリンディさんが聞き返しました。

『はい。私の中にあのマシンについてのデータがありますが、それがなぜあるのかは全くわかりません』

 リンディさんはレイジングハートの言葉に少し考え込んでからユーノくんを見ました。

「ユーノくん、あなたがなのはさんにレイジングハートを渡したそうですね」

「は、はい」

 ユーノくんがリンディさんの問いに頷きました。

「一体、あなたはどこで手に入れたんですか」

 リンディさんの問いにユーノくんは少し躊躇して、答えた。

「遺跡で……見つけたんです」

 ……うそ。もしかして、予想が当たっちゃってた? でも、『私』の『レイジングハート』ならカートリッジシステムが組み込まれているはずだし、やっぱり違う? でも、タイムマシンについて知ってたし……

「遺跡……ですか?」

 ユーノくんが頷きました。

「その、ジュエルシードを見つけた遺跡の前に発掘していた遺跡に、壊れたレイジングハートが厳重に保存されてたんです」

 えっと、なんでそんな場所に? ……もしかして、タイムマシンみたいに私より過去に到着してそこの世界の人に崇め奉られていたとか?

「それで?」

 リンディさんに促されてユーノくんは続けました。

「一族のみんなは僕が見つけたから僕が持ってたらいいって言ってくれて、だから、壊れた部分を手に入る範囲のパーツで修理したのがこのレイジングハートなんです」

 もしかして、壊れたところがちょうどカートリッジシステムとかの部分だったとか?

 もしそうだとしてすごく運がいいというかなんと言うか……エクシードやブラスターの痕跡が残ってたりするのかな? それだったらはっきりわかるかも。

 リンディさんはユーノくんの言葉に少し考え込みました。

 そして、

「では、なのはさん」

「はい」

 再びリンディさんが私に向き直ります。きっと、言い出すのは、

「あなたのデバイス、レイジングハートを預けていただけますか?」

 ああ、やっぱり言われました。まあ、予想通りです。

 でも、大丈夫かなあ? もう帰ってこないなんてことになったりしないかな? それに、もし、『私』がタイムマシンを作ってた証拠を見つけられたりしないかな?

 なにより……闇の書事件の時までに帰ってこなかったら私ヴィータちゃんにどう対抗すればいいんでしょうか?

 まあ、今回はお姉ちゃんや時音さんもいるし、大丈夫かな? でも、すごく不安です。

 でも、ここで渡さないのも問題があるだろうし、ううう、しかたないの。

「……お願いします」

 私はレイジングハートを待機状態に戻しました。そして、一歩前に出ます。

「レイジングハート、しばらくお別れだね……」

『マスター、悲しまないでください。私はいつでもあなたのそばにいます』

「レイジングハート!!」

 私はぎゅっと、レイジングハートを抱きしめました。

 後ろではお姉ちゃんがううう、と嗚咽を漏らし、時音さんが、「元気でねレイジングハート」と、涙目でハンカチを振っています。

「……で、そろそろいいかな?」

「うん。はい」

 その雰囲気にクロノ君は反応に困った顔でレイジングハートを私から受け取りました。

「安心してください。タイムマシンなどの調査が済み次第お返ししますので」

 うん、そうしてもらわないと困ります。あの鉄槌に武器なしで立ち向かう勇気なんてありませんから。

 そうして、リンディさんが武装隊の人たちと下がって、私たちはひと段落を向かえました。

「お疲れ様なのは」

「うん、ユーノくん」

 ユーノくんの言葉に私は頷きました。本当にもうくたくたなの。というわけで、

「早くお風呂に入って寝ようねユーノくん♪」

「う、うん」

 困ったようにユーノくんは苦笑するのでした。






~~~~
レイジングハートの秘密の回です。
なお、前回、プレシアさんとの戦いがあっさり終わったとご指摘を受けましたが、物語の都合上やむを得ずです。
いろいろ知ってるプレシアさんや、タイムマシンがあるとなのはもやりづらくなるので。
この世界のいろいろな謎は、闇の書事件あたりで色々判明するのでもう少し待っていてください。それでは!



[14021] カラカラメグル 第二十二話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/07/06 00:59
「しかし、かあさ、艦長、あれでよかったんですか?」

 なのはからレイジングハートを受けとった後、クロノはリンディに問いかけていた。

「よかったって?」

「彼女のことですよ。艦長も気づいてると思いますが、あれは異常です」

 クロノは出会ってからなのはに対して多くの疑問を抱いていた。

 普段の彼女もどこかその歳の少女としてはおかしいところが多々ある。だが、魔法の面では特に顕著であった。

 魔法の使い方、空戦での動き、どれも一級のエースと比べて遜色のないものであった。ところどころ、理に合わない部分や拙いところがあったりしたが、それを除いても、魔法に出会ってすぐにできることではない。

 もし誰でもすぐそうできるなら、次元世界中のエースが泣く。

「確かに、あなたの言うことも一理あります。ですが、彼女の身辺でおかしいことはありません。しいて上げるなら彼女の家が古武術を継いでいることことくらいです」

 それでだって説明できないけど、とリンディはそう漏らしてそっとため息をつく。

「もう少し、様子を見るしかないですか」

 クロノも無難な結論を出してため息をついた。

 それからエイミィの方に向き直る。

「で、エイミィそのデバイスについてなんかわかったか?」

 クロノの問いかけにエイミィはうーん、と唸る。

「わかったような、わからないような……余計に疑問が湧いてきたような」

 エイミィの曖昧な返事にクロノが眉をひそめる。

「どういう意味だ?」

「うん、レイジングハートの構造を調べてみたんだけど……」

 エイミィはいったん言葉を区切り、

「ちぐはぐなんだよ」

「ちぐはぐ?」

 エイミィの言葉にリンディは首を捻る。ちぐはぐとはなんだ? と。

「えっとですね、この前の時音のデバイスに使われていたような古いパーツがあったと思ったら、最新のものがあったり」

 エイミィの言葉にクロノは首を捻った。

「最新って、ユーノが修理した時に使ったパーツなんじゃないのか?」

「ううん、そうじゃないの。本当に新しい、それこそ、最近発表されたばかりでどこにも入荷されていないようなパーツまで入っているの。それに構成もミッドの砲撃魔法に対応したものがあれば、ベルカのような接近戦を想定したとしか思えない部分にカートリッジシステムらしきものの名残もあるんだよね」

「なんなんだそれは?」

 わけがわからないと言った感じにクロノが首を捻る。

「他にも、壊れちゃってるけど、とんでもない機能があったりするしね」

「とんでもない機能?」

 そ、っとエイミィは頷く。その表情は若干硬い。

 そして、モニターにその機能のデータを映す。

「データが壊れてるから断片的にしかわからないけど、なんとかモードっていうモードで、それが段階的に使用者、デバイス、双方の限界を超えた強化を行うって機能みたい」

「なっ!」

 正気とは思えない機構にクロノが驚きに目を見開く。リンディも若干眉を潜めた。

 今回の事件の切り札を持ち、ミッドともベルカともとれない構造とさらに正気を疑う機構。

「一体なんなんだこのデバイスは?」

 クロノの独白はその場にいる二人分の気持ちを代弁するものであった。







 さて、あれから数日がたち、やっと次元震が落ち着きました。

 これで、私たちもアースラとお別れです。そして、フェイトちゃんとも……

「クロノ君……フェイトちゃんはこれからどうなるの?」

 答えをわかってるものの前を歩いていたクロノくんに私は問いかけます。クロノ君は私たちの方に振り向き若干険しい顔で答えてくれました。

「事情があったとは言え、彼女が次元干渉犯罪の一端を担っていたのは紛れも無い事実だ……重罪だからね、数百年以上の幽閉が普通なんだが」

「そんな!?」

 時音さんが叫び声を上げます。

「なんですが!!」

 クロノ君がそれを抑えるかのごとく強く言う。そして今度はやさしく言いました。

「状況が特殊だし、彼女が自分の意思で次元犯罪に加担していなかったこともはっきりしています。言い方は悪いですけど道具として利用されただけです。あとは偉い人にその事実をどう理解させるかによるんですけど、その辺にはちょっと自信はあるので心配しなくてもいいですよ」

「クロノ君……」

 ほっとしたように時音さんが笑います。

「何も知らされず、ただ母親の願いを叶えるために一生懸命なだけだった子を罪に問うほど時空管理局は冷徹な集団じゃないですから」

 母親の願いのところで少し心が痛くなったけどそれはおくびに出さないよう勤めます。

 うーん、本当は内情を知っているだけに、クロノ君の言葉を肯定しきれないような……でも、フェイトちゃんの裁判とは関係ないし、いいかな?

 でも、なんか時音さんへの対応が丁寧だねクロノ君。

「クロノ君って、優しいんだねえ」

 時音さんがいい子いい子とクロノ君の頭を撫でます。途端にクロノ君の顔真っ赤。

 エイミィさんとユーノくんはそんなクロノ君を見て必死に笑うのをこらえていました。リンディさんはあらあらと頬に手を当てています。

「し、執務官として当然の発言です! 私情は別に入ってないですから!!」

 叫び声に近い声を上げてクロノ君が時音さんの手から逃れました。むうっと時音さんが頬を膨らませます。

「そんな照れなくてもいいのにい」

「照れてません! あと、子供扱いしないでください! 僕はこれでも十四です!!」

 あ、そういえばそうだったの。

 一方時音さんは一瞬きょとんとしてから、

「えええ! クロノ君って十四歳だったの?! な、なのはちゃんたちと同じくらいって思ってた……」

 時音さんが驚いて体を引きます。

「なんでそこまで驚くんですか!?」

 クロノ君の抗議を無視して時音さんはお姉ちゃんに向き直ります。

「ねえ、美由紀も気づいてた?」

 時音さんの質問にお姉ちゃんは苦笑いを浮かべて、

「……実は私も時音と同じ」

 お姉ちゃんがクロノ君に止めを刺しました。がくっと項垂れるクロノ君。見ればユーノくんとエイミィさんがお腹を抱えて笑っています。

 それからクロノ君の飲む牛乳の量が二倍になったとかならなかったとか。

「ともかく! フェイトの処遇は決まり次第報告しますので! 決して悪いようにはしません!」

「うん、お願いねクロノ君」

 それから私はリンディさんい向きます。

「リンディさん、フェイトちゃんをよろしくお願いします」

「ええ」

 リンディさんは笑って答えてくれました。







 そして、私たちは日常に戻ってきました。お父さんやお母さん、お兄ちゃんは私たちにお疲れ様と労ってくれました。そして、アリサちゃんとすずかちゃんも久しぶりに会ったら、二人とも暖かく迎えてくれました。

 あと、ユーノくんと会う約束も取り付けさせられました。ううう、本当にどうしようなの。

 でも、とにかくのんびりとしたいつもの日常に戻りました。

 そして、海鳴に帰ってきて数日後、一通の電話が届きました。








『もしもし、なのはさんですか?』

「はい、リンディさん。なんですか?」

 用件はわかってますが、一応聞いてみます。

『なのはさん、フェイトさんの裁判の日程が決まりました』

 リンディさんが、すぐに用件を切り出しました。

「はい」

『それで、聴取と裁判、その他諸々は、結構時間が掛かるものです。ですからその前に、一度フェイトさんと面会する事が出来そうなんです』

 よかったあ、前よりも早い段階で終わっちゃったから変わったりしないか不安だったの。

 でも、次のリンディさんの言葉に私の不安が再び鎌首をもたげました。

『ですが、フェイトさんがなのはさんに頼みたいことがあるそうで……』

「頼みたいことですか?」

 一体なんなんだろう?

 『私』の記憶ではここで、フェイトちゃんとお話して友達になってもらえました。でも、今回はお話だけじゃない?

 言い知れない不安が私を襲いました。

『実は……』

 そして、リンディさんはフェイトちゃんの頼みというのを教えてくれて、私は安心しました。ああ、よかった。フェイトちゃん……

 そして、私は快く頷いたのでした。





~~~~
なのはパーティー日常に帰るの回です。
やっと投稿できました。ストック尽きて、ここからは更新がゆっくりになりそうです。
でも、できるだけ早く投稿しますので、お付き合いのほどお願いいたします。次回、無印編ラスト……になるかなあ?

評価、感想、誤字脱字の報告なんでもいいので待っています。
あえて言います。作者は寂しがり屋のウサギです。



[14021] カラカラメグル 第二十三話~無印編終了~
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/11/23 00:07
 海鳴市臨海公園沖合い一キロ、そこで私たちは対峙していました。

 エイミィさんの用意してくれた廃ビルを建てた模擬戦用のステージ。なんとなく六課時代が懐かしく感じます。

 これから始まるのは私とフェイトちゃんの一つの決着。全力全開の戦い。

 お互いにデバイスを展開し、構える。

「じゃあ、はじめよう。初めての全力全開本気の勝負!」

「うん」

 そして、私たちは飛んだ。

 二人の戦いをクロノとリンディはモニター越しに見ていた。

 思い出すのは数日前のこと。フェイトが「あの子との決着をつけたい」と言い出したことだった。

「そんなことできるわけないだろう!」

 最初、クロノはフェイトが言い出した決着をつけたいという要求に難色を示していた。当然だ。フェイトがする分けないとわかっているが重要参考人にデバイスを渡して逃走された日には目も当てられない。

 なによりもこんなことをするには相当手間のかかる手続きも要る。だからこその発言だった。だが、

「いいでしょう」

「艦長!?」

 あっさり承諾した自身の母であり上官であるリンディに振り向く。

『ここは彼女の要求を呑んであげましょ。心残りを一つでもなくせば今後の捜査にも協力的な姿勢を見せてくれるでしょうし』

『ですが……』

 念話で会話する二人。確かにその方がいいのかもしれない。だが、そこまでメリットのあるようにも感じられない。

『それに』

『それに?』

『――なんでもないわ』





「なのは……」

 美由紀と時音にアルフとその戦いを見つめるユーノは心配そうにつぶやく。なのはの実力はそばで見ていたからよく知っている。だが、一抹の不安もあった。

 なにせ彼女はユーノから見れば天才的な魔法の使い手だけど、相手も似たようなものでありなのはよりも魔法歴が長い。

 ユーノは願った。勝てなくてもいいからなのはが無事であるようにと。







 戦いは最初の内は拮抗していました。

 フェイトちゃんがランサーを撃って私が防ぐ。私がシューターを撃ってそれをフェイトちゃんが避ける。

 そして外れたシューターはあさっての方向に飛んで建物の壁やガラスを破壊します。

 私は仕込みをしながら様子見と、割と余裕な精神状態です。フェイトちゃんはどうなのかな?

 ひらひらと避けるフェイトちゃん。その動きはほぼ私の想定通りの動き。そう、想定通り。

 まだ未熟だけど、それでも後の成長したフェイトちゃんと基本的にあまり変わらない動きに、少しおかしくなりました。

 フェイトちゃんに私の教導を受けさせたらどうなるかと教導官らしい思考も過ぎります。

 でも、私の戦い方が根本の部分で違うこと、そして、自分の新たなスタイルを確立するためにはそんな余裕がないとすぐに打ち消します。

 再び撃ちだしたシューターを避けたとき、一際高いビルに沿ってフェイトちゃんが真上に上がります。急激な方向転換に追いつかずビルに突き刺さるシューター。

 それを追いかけ、ほぼ直線にビルの屋上に向け動きます。そうしながらさらにシューターを用意。撃ちだします。ここで一つの仕込みを披露。

 今撃ったシューターは速度に変化をつけてありました。今まで単調だった速度に緩急がつけられてる。たったそれだけの変化も十分な効果が生まれます。

 フェイトちゃんが若干眉をしかめ、動きに乱れが生まれます。そこにすかさず足元に作った足場を蹴って斬りかかる。

「やああ!」

「くっ!」

 それを受けたフェイトちゃんは今度は下に向かって逃げる。だけど、そこにすかさず刺突で追撃。それもフェイトちゃんは自身の速度を持って逃げに徹する。

 でも、その方向にはもう一つの仕込みがありました。

「Go!」

 私の号令に反応してビルの中からシューターが四つ飛び出します。それは、最初の頃のビルに飛び込んだシューター。そのいくつかを待機させ、罠としていたものだでした。

「えっ!?」

 突然の事態にフェイトちゃんはなんとか四つのうち二つを避け、一つを切り落としました。さすがなの。でも、後一発残っている。

 その一発がフェイトちゃんの肩に当たる。

「きゃ!」

 その一撃に空中でバランスを崩すフェイトちゃん。すかさず速度を上げて接近、今度は横薙ぎにレイジングハートの刃を振るう。今度も受けられる。

 フェイトちゃんは接近戦は得意であるものの、使用するのは長柄の武器であるバルディッシュ。懐に入られれば御神の使う小太刀に近い間合いの私のレイジングハートの方が有利。

 間合いにいることを嫌って離れようとするけど、さらに踏み込み斬りかかって、逃がしません。もし無理に引いたとしてもこっちに有利になります。戦況は私が優勢でした。






(強い、魔力はあるけど魔法を知って少ししか経っていない子だと思ってたのに)

 フェイトはそう思っていた。だが、今は違う。完全になのはは格が上だと認識していた。なんでつい最近まで普通の女の子だったのに? という疑問を抱くが、すぐに捨てる。

 彼女の中で自身の勝率がすでに五分を切っていたから余計な思考をする暇がなかったのだ。

 肩からなのはに体当たりし、なのはのバランスを崩し強引に間合いを作る。そして、フェイトはなのはをライトニングバインドで拘束した。そこから続けて放たれるのは現時点での彼女の奥の手。

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 生成されるスフィアの数は38基。

 それを見てユーノは絶句し、美由紀は目を見開き、時音はうわ~と呟く。

 ここから毎秒7発の斉射を4秒継続することで、千を超えるフォトンランサーを目標に叩きつける、彼女の師であるリニスが考案した魔法。その名も、

「フォトンランサー・ファランクスシフト! 撃ち砕け、ファイア!!」

 宣言とともに大量のフォトンランサーがなのはに迫る。だが、なのはは慌てない。前面に強固なラウンドシールドを張る。

 次々とシールドに着弾するフォトンランサー。土煙がなのはの姿を覆う。

「なのは!」

 ユーノの叫びが響くがランサーが着弾する轟音に掻き消される。

 そして、全てのランサーを消費したフェイトは膝に手を置き、肩で息をする。

(勝った?)

 あれを食らって無事だとは思っていない。だけど、それでもなのはは立っている。そう確信するなにかがあった。

 ……それは別の世界の彼女による影響なのかもしれない。

 そして、予想通りに、でも信じられない現実が煙の晴れるとともに現れる。

 ぼろぼろになったバリアジャケットを纏って、紅い刃を持つ剣状のデバイスを携えなのはは立っていた。






 な、なんとか防げたの。

 晴れた視界の向こうフェイトちゃんが驚愕に目を見開いています。対して私はレイジングハートを構え、

「ディバインソード!」

 長大な刃を纏わせて振り下ろす。とっさにラウンドシールドで受けるフェイトちゃん。バリアジャケットに傷が走りますが防ぎきりました。

 そこにレストリクロック。フェイトちゃんを拘束しました。これで、ラストです!

 目の前に空気中に散った魔力を集めます。私の最大奥義、全てを撃ち抜く星の輝き。

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」

 魔力球が水を注ぎ込まれた風船の如くどんどん膨れ上がっていきます。私は暴発一歩手前まで溜め込み、レイジングハートを振りかぶりました。

「貫け、閃光! スターライトォォォォォォブレイカァァァァァ!!」

 そして、解き放たれた膨大な紅い魔力がフェイトちゃんを貫きました。







「はあ、はあ……」

 肩で息をしながら、着弾点を見つめます。そして、煙の向こうで、フェイトちゃんが海面に向かって落ちていくのを見ました。

「フェイトちゃん!」

 慌てて私はフェイトちゃんを追いかけました。

 海中にもぐってしまったフェイトちゃんとバルディッシュを抱えてそばのビルまで跳びます。

 少し待つと、フェイトちゃんが目を開けました。

「君は……」

「よかった、フェイトちゃん目を覚ましたんだ」

 フェイトちゃんはまだぼんやりしているのか、焦点の合わない目で私を見ていました。

「そっか、私、負けたんだ」

 フェイトちゃんはそう呟くと小さく微笑みました。

「君は強いね……」

 その言葉にずきんと心が痛みました。

 強くなんか、強くなんかないよ。もし強かったらあんなことしなかった。強かったらフェイトちゃんの手を振り払わなかった。もし、強かったら、プレシアさんを止められていた。

 言葉の意味が違うと思うけどそれでもその言葉は私にとってすごく辛いものでした。

「フェイト!」

「なのは!」

 そして、ユーノくんとアルフさんが飛んでくるのをみて、その思考を振り払いました。






 私たちはバリアジャケットを解除して臨海公園に戻ります。お姉ちゃんとユーノにフェイトちゃんを見てもらいましたが、魔力が尽きている以外に異常はないようです。よかったの。

「ありがとう。まっすぐ向き合ってくれて嬉しかった」

「うん、いいの。友達になれたらいいなと思ったの」

 私はフェイトちゃんに微笑みかけます。

「あの、今日戦ってもらったのは、決着をつけたかったのもあるけど、返事をするため」

「え?」

 返事? なんのことだったかな?

「君が言ってくれた言葉、友達になりたいって」

 あ、忘れてたの。

「その、私ができるなら私でいいなら。だけど、私どうすればいいのかわからない」

 そこで少し言葉を切って、

「だから、教えてほしいんだ。どうしたら友達になれるのか」

 その言葉に私は微笑みました。お姉ちゃんも時音さんもほほえましそうにフェイトちゃんを見ます。

「簡単だよ。友達になるのはすごく簡単。名前を呼んで。最初はそれだけでいいの」

「名前?」

 不思議そうにフェイトちゃんが呟きます。

「うん! 君とかあなたとかそういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見てはっきり相手の名前を呼ぶの」

 私は自分を指差して、右手を差し出します。

「私、高町なのは。なのはだよ!」

 フェイトちゃんは少しためらって、

「な、のは」

 私の名前を呼んでくれました。うん、そう、そう!

「なのは」

 私はフェイトちゃんの手を掴みました。

「これで、私とフェイトちゃんは友達だよ」

「うん……」

 フェイトちゃんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷いてくれました。アルフさんはそんなフェイトちゃんに涙を流しながらしきりによかった。よかったよ。と呟いています。

「で、こっちが私の大切な友達のユーノくん。こっちがお姉ちゃんの高町美由紀さん、で、こちらがお姉ちゃんの一番の親友の黒野時音さん」

 私はユーノくんを押し出します。

「よろしく、フェイト」

「よろしくねフェイトちゃん」

「フェイトちゃん、よろしくねえ」

 ユーノくんが微笑み、お姉ちゃんが笑いかけ、時音さんがほんわかした笑顔を浮かべます。

「うん、よろしくユーノ、美由紀さん、時音さん」

 フェイトちゃんがユーノくんたちの名前を呼びます。

 う~ん、フェイトちゃんがユーノくんを好きになることはないはずだけど、念のため今のうちに。

 ユーノくんには聞こえないよう、小声でこっそり。

「フェイトちゃん、ユーノくんには気をつけてね。ユーノくんは、フェレットの姿で女の子とお風呂に入るのが趣味だから」

「え?!」

 フェイトちゃんが驚きの声を上げます。三人が不思議そうに私たちを見ますがなんでもないと返します。

「だからフェイトちゃんも風呂場にフェレットがいないか気をつけてね」

 私は大歓迎ですが。フェイトちゃんはうんと小さく頷きました。





「時間だ、そろそろいいかい」

 そして、クロノ君が来ました。

「ううん、少し待って」

 そう返して私は髪を止めているリボンをはずしてフェイトちゃんに渡します。

「思い出にできるの、こんなのしかないけど」

「じゃあ、私も」

 そう言ってフェイトちゃんもリボンを外しまて、リボンを交換しました。

 そしたら、お姉ちゃんたちは、

「あ、じゃあ、私からはこれかな」

「フェイトちゃん、これ、ぷれぜんとふぉーゆー」

 お姉ちゃんが飛針を、時音さんがクナイを差し出します。お、お姉ちゃんたち……

 フェイトちゃんは困った表情でありがとうと、その二つを受け取りました。

「フェイトちゃん、会いたくなったら名前を呼んでね。そしたらきっと、会いに行くから」

「うん、ありがとうなのは」

 それからアルフさんに向き直ります。

「アルフさんも、元気でね」

「ああ、色々ありがとね。なのはさん、ユーノ、それから美由紀に時音」

 ……あれ、アルフさん、さん付け?

「それじゃあ、僕も」

「うん、クロノ君もまたね」

「元気でねえクロノ君、あとこの前ごめんねえ?」

 時音さんの言葉にクロノ君は少し頬を引きつらせました。

『なのはさん。時音さん、私も少しお話があるんだけど、また今度にしましょう。また会えると思って』

 と、リンディさんから通信が来ました。

「はい、リンディさんもお元気で」

 そうして、みんなとお別れの言葉を交わして、そして、手を振りながらみんなを見送りました。







 終わったの。ううん、始まったの。長い、長い私たちの戦いが。今度はどうなるかわからないけど、でも、今度は奪わせないの。大切なもの全部。

「なのは」

 隣にいるユーノくんの言葉に、大切な人の言葉に頷きました。

「うん、帰ろうユーノくん、お姉ちゃん、時音さん」

「うん、お母さんがケーキ用意してくれてるはずだからね。早く帰ろうか」

「え? 本当? うわ~、楽しみ~」

 時音さんがとろけるような笑顔を浮かべるのを見て私たちは笑ったのでした。




~~~~
お久しぶりです。空の狐です。戦闘描写が苦手なために少々手間取りました。
これにて無印編終了、間にいくつか話を入れてからA's編に入りますので、なにとぞ見守っていていただければ嬉しいです。
どんな感想でもお待ちしております。



[14021] お正月外伝 時音のお雑煮
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:4f8d3c75
Date: 2010/01/01 20:34
 それは、ある年のお正月でした。

 その日、高町家には私、お姉ちゃんとお兄ちゃんに、お父さんとお母さん、そして時音さんにユーノくん、そして、フェイトちゃんたちテスタロッサ家と、はやてちゃんたち八神家もそろっていました。

 そしてその日、

「みなさん、お待ちかね~! お雑煮ですよ~」

 時音さんが張り切ってお雑煮を作ってくれました。

 この時、正直に言うと初めて食べる時音さんの料理に少しわくわくしていました。お兄ちゃんもお姉ちゃんも少し期待しているように見えました。

 なにせ、時音さんは現在一人暮らしです。しかもお父さんと同居していたときは家事のほとんどを一人でこなしていたそうです。

 となると、時音さんはきっと、料理が上手なのだろうとみんな思っていたのでした。そう、思っていました。

 差し出されたお椀の中は綺麗な澄まし汁に、具はもちろんお餅が入ってあって、後は鶏肉の肉団子に、人参と小松菜に三つ葉です。

 それはいたってオーソドックスなお雑煮でした。

 でも、だからこそおいしそうでした。

 見た目は……

「じゃあ、さっそく」

 ぱんとお父さんが手を合わせます。みんなも手を合わせました。

『いただきま~す!』

 そして、ぱくっと一口目を……









 うん、なんていうべきなんでしょうかこの味は。 人外魔境と評すべきなのか、それてとも複雑怪奇というべきでしょうか……

 思わず吐き出しそうになることはありませんが、これを食べ物と呼ぶのは世の食べ物に対して失礼な気がします。

 そう、あえてこの味を表現するのにいいこ言葉は一言……マズイです。

 すっぱいわけでもなく、辛いわけでもなく、だからといって苦いわけでもなく、ただ一言で表すとするなら、マズイ、この言葉しかありません。

 むしろどうやったらこんな味が出せるのかといった感じです。

 唯一の救いはシャマルさんレベルではないことだけです。

 周りを見るとみんな同じような顔をしています。やっぱりみんなも同意見みたいなの。

 唯一、シャマルさんだけ平気そうにぱくぱくとお雑煮を食べていました。流石なの……

「どうかな?」

 わくわくと、時音さんが期待に満ちた顔で私たちを見ます。うう、その顔を見るとマズイなんて言えないの……

「おいしいですよ」

 シャマルさんだけがそう答えました。うん、シャマルさんの舌はロストロギアクラスにわからないものなの。

 すると、時音さんはほっと、息を吐きました。

「よかったあ、誰かに食べてもらうのお父さん以来だから緊張してたんだあ」

 そう言って、時音さんはずずっと自分の分のお雑煮を食べます。

「うん、我ながらなかなかのでき」

 そう言ってうれしそうに笑いました。えっと……

「ちなみに、お父さんはなんて?」

 少し興味を惹かれました。お父さんはなんてこの味を評したのでしょうか? この複雑怪奇な味を。

 私の質問に不思議そうに時音さんが首を傾げました。

「? 『うまい』って言ってくれてたけど?」

 ……今わかりました。黒野家は親子そろって味音痴だということが。

 その後、お母さんは時音さんの舌を矯正する決意をしたとかしないとか……







おまけ



「はい、あ~ん」

 私はユーノくんにあーんをしてあげます。

「な、なのは、さすがにみんなの前で……」

 と、ユーノくんは拒否しますが、私には関係ないです。むしろ、みんなに見せ付けてあげるの。

 結局、ユーノくんは折れて口をあけて食べてくれました。

「はい、あーん」

 そして、もう一度、さらにもう一度……そしてら、

「んぐっ!?」

 唐突にユーノくんが苦しみだしました。え? な、なんで?! まさか時音さんの料理って時限式だったの?!

 ユーノくんは首を押さえて床をごろごろ転がりました。それに私があたふたしていたら、

「はっ!」

 お父さんが唐突にユーノくんの背中を叩きました。お、お父さんなにを?!

 すると、ごほっとユーノくんの口から何かが吐き出されました。それは……お餅?

 そう、それは私が食べさせてあげたお餅でした。えっと、ユーノくん、お餅が喉につまっちゃってたの?

 もう! お餅はしっかり噛まないといけないのに!!

「今のって、なのはが噛む暇を与えなかったせいじゃ……」

 なんか余計な一言を言おうとしたクロノ君を笑顔を贈って止めていただきました。






~~~~
みなさんあけましておめでとうございます。さっそくお正月の番外です。
ユーノくん哀れ……
なお、この後、時音の料理の腕は並みレベルにはなりましたとさ。



[14021] カラカラメグル 第二十四話
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:c21812f6
Date: 2010/07/06 23:03
 フェイトちゃんと別れてから数日が経ちました。

 今日、私はユーノくんに食べてもらう為に、クッキーの焼き方をお母さんに教わっています! それに、フェイトちゃんにも私の手作りクッキー送ってあげたいから。

 前の『私』はお母さんに教わったのは味付けや、キャラメルミルクくらいです。だけど、今の私はもっといろんなことをお母さんから教わりたいと思っています。

「そうそう、材料はきちんと計量して、多すぎず少なすぎず」

「うん、お母さん!」

 お母さんに見てもらいながら篦を動かして生地を混ぜます。むう、やっぱり難しいの。

「そうそう、満遍なく生地は混ぜて、だまにならないように」

 でも、頑張ります。そして、私の初めての焼きたてクッキーをユーノくんに食べてもらうの!

 そして、できたクッキー生地を棒状に丸めてから、小さく切り分けてオーブンに入れました。

 早く焼き上がらないかな〜?

 私はワクワクしながらクッキーの入ったオーブンを眺めていました。

「楽しそうねなのは」

 お母さんが優しげな笑顔を浮かべます。

「うん、とっても楽しいよ!」

 ユーノくんが笑ってくれるのがすっごく楽しみ!

 私が笑顔で頷くとお母さんも嬉しそうに微笑んでくれました。

「そう、作り手の愛情が一番の調味料なんだからね」

「はい!」

 お母さんの言葉を私は深く心に刻み付けました。








 そして、できましたなのは初めての手作りクッキー!

「ユーノくーん! 焼けたよ! 食べて食べて!!」

 すぐに、焼けたクッキーを入れたバスケットを持って、居間でお父さんにコーヒーの淹れ方をレクチャーされていたユーノくんのところに持っていきます。

「うわあ、いい匂い」

 ユーノくんがくんくんと焼き立てクッキーの匂いを嗅いでくれます。そして、一つクッキーを手にとって口に入れてくれます。

「すごくおいしいよなのは」

 そう言って笑ってくれるユーノくんが私は嬉しかったです。






 

 さて、本日はクッキーをうまく焼くことができました。

 でも、そこで慢心なんてしてられません。いろいろ研究しないと。

 というわけでエイミィさんから貰った次元通信機能のある端末で色々調べています。

「うーん、爆竹入りクッキーってスゴいけど、ユーノくんには食べさせられないの」

 ページを変えます。

「痺れ薬入りクッキー? 痺れさせている間にユーノくんにあんなことやこんなことするのは魅力的だけど嫌われるかもしれないからダメなの」

 え? なにを調べてるかって? クッキーの作り方ですよ。なんで質問するの?

 またページを変えます。

「びやクッキー? おかしな名前なの」

 どんなクッキーなのかな? 詳しく内容を――な、なんですと!?

 びやクッキー、それは媚薬入りのクッキー。もちろん私だって、媚薬はエッチな気分になる薬だとはわかっています。

 もしも、これを二人っきりで食べさせられれば……








〜以下、なのはさんの妄想です〜

 子供ではなく、それなりに成長した私たち。その日、私が手作りクッキーを持参してユーノくんの家に遊びに来ていました。

「なのは、このクッキーおいしいね」

 そう言って、クッキーを食べながら笑ってくれるユーノくんの顔を見れただけでも私は十分嬉しいです。

 でも、もうすぐもっと嬉しいことが起きるの。

「ありがとユーノくん」

 美味しそうに私の焼いたクッキーを食べるユーノくん。それを頬杖をつきながら嬉しそうに見つめます。

 そろそろかな? と、考えたら、

「うっ!」

 突然胸を抑え床に手をつけるユーノくん。

 よおっしゃあ! 薬が効いたの!!

「ど、どうしたのユーノくん!」

 原因を知りながら、心配そうにユーノくんを抱きかかえます。

 抱きかかえられたユーノくんは私を血走った目で見つめています。ああ、もっと私を見て。

 こっそり持っていた目薬を使って心配そうに目を潤めます。そして、ユーノくんの視線がブラウスの隙間で止まりました。

 それが、ユーノくんの理性のタガを外したみたいです。

 突然私を押し倒すユーノくん。

「ユ、ユーノくん?」

 怯えてるように見せます。でも、本当は内心計画通りと笑っています。

「ごめん、なのは……もう我慢できない!」

 力任せにブラウスを脱がすユーノくん。

「なのは、なのはあ!!」

「ああ! ユーノくうん!」

 そして、私たちは……

〜以上、なのはさんの妄想でした。悪魔で……もといあくまで妄想です〜








 ぶほっと私の鼻から赤い情念の奔流が溢れました。

 こ、これは強烈過ぎるの。で、でも、これなら奥手なユーノくんでも……

 それに相手からっていうのも、ふ、ふふ。鼻を押さえながらも自然と笑いが零れる。既成事実があればユーノくんも逃げられない!

 すぐにその記事をメモして将来のための肥やしにするのでした。





~~~~
どうもお久しぶりです。ずいぶん遅くなりましたが、また見てくれてたら嬉しいです。
なのはさん、クッキーを作るの回。
そして、仕込みクッキー。この企みが成功するかは……みなさんのご想像におまかせします。
それでは、また!



[14021] カラカラメグル 第二十五話
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:c21812f6
Date: 2010/07/12 22:10

 ああ、平和って素晴らしいです。ユーノくんもいるから幸せすぎます。

 だけど、今日一つの事件が起きるかもしれません。

「さあ、すずか、なのは、行くわよ」

 学校が終わるといきなりアリサちゃんがそう宣言したのです。

「行くって、どこに?」

 すずかちゃんがアリサちゃんに聞き返します。今日は塾や習い事はなかったはずだよね?

「決まってるじゃない。なのはの家よ!」

 え゛っ?!

「今日こそあんたの意中の相手である『ユーノくん』とやらを紹介してもらうわよ」

 私の両肩を掴んだアリサちゃんがふっふっふと笑いました。










『というわけで今アリサちゃんたちと家に向かってるんだけど』

『い、いきなりなんだね』

 念話でユーノくんに報告すると困惑気味の念が返ってきました。

 確かに急すぎるの。こんな強行手段でくるなんて……

『どうしよっか? ユーノくんってフェイクシルエットとかフォースシルエットとか使える?』

『ごめん僕は幻影魔法は使えないし、使えても触られたらばれちゃうよ』

 だよね。どうしよっか。

 私はアリサちゃんとお話しながらうんうん考えます。

『とりあえず、なのはは時間を稼いで。その間に僕は美由紀さんたちと打ち合わせしてみるから』

『うん、お願いします』

 そうして念話を切ろうとして、

『あれ? そういえば、なのはどうして幻影魔法の名前知ってたの?』

 どき!? やばいの!

「なのはちゃんどうしたの?」

「えっ? ううん、なんでもないよ!」

 いきなり立ち止まった私にすずかちゃんが不思議そうに聞いてきました。

 慌てて二人の横に並びます。

『えっと、前に魔法の説明でユーノくんが言わなかったっけ?』

『そうだったかなあ?』

 ユーノくんはなにか引っかかっているような感じでしたが、お姉ちゃんたちと相談するためすぐに念話を切りました。

 ほっ、これ以上追求されてたらやばかったの。とりあえず、時間稼ぎです!

「あ、アリサちゃん!」

「ん? なになのは?」

「ど、どうせだったらユーノくんにお土産とか」

 そう言って私はそばにあるお菓子専門店を指差します。

「お店で買うのにもお金がないわよ」

「その前に、学校帰りにお店寄るのはダメなんじゃないかなあ」

 うう、そうだったの。こうして時間稼ぎは失敗に終わったのでした。

 でも、あ、UFOとか、あ、魔法使いとかいろいろがんばったの。二人ともひっかからなかったけど……








 そして現在、私の部屋にアリサちゃんとすずかちゃんが居ます。

 さて、ユーノくんはちゃんとやってくれるんでしょうか?

「ほら、なのは、早くしなさいよ」

 うう、そろそろ大丈夫だよね?

「う、うん。ユ、ユーノく~ん」

「はい、なのは」

 私が呼ぶとユーノくんが部屋に入ってきました。

「初めまして、ユーノ・スクライアです」

 いつもの私服の姿でユーノくんがぺこっとお辞儀します。

 アリサちゃんとすずかちゃんは足先から頭まで眺めてからこっちに向きます。

「なによなのは、勿体ぶるもんだからどんな相手か色々想像してたけど普通じゃない」

「よろしくねユーノくん」

「よろしく二人とも」

 とりあえず、ファーストコンタクトは大丈夫だったの。

 そして、少しの間四人でお話をします。

「あ、ところでフェレットのユーノは?」

 アリサちゃんの言葉と共に私たちの作戦がスタートしました。

「あ、なら僕が探してくるよ!」

 そう言ってユーノくんは部屋を出ていきます。

 そしてちょっと待つとドアをとんとんと叩く音がしました。

「きゅきゅー」

 私がドアを開けるとフェレットモードのユーノくんが入ってきました

「あ、ユーノ?」

 アリサちゃんがユーノくんを抱き上げます。

 ユーノくんはフェレットらしく抱き上げたアリサちゃんの頬を舐めます。ふっふっふ、でも私にはあまりしてくれないよねそのサービス。

 で、フェレットモードのユーノくんと私たちが戯れています。では、そろそろ……

『美由紀さんプランAお願いします』

『了解!』

 ユーノくんがお姉ちゃんに向けて念話を送るとこんこんとドアが叩かれます。

「あ、ユーノやっぱりここにいたんだ」

 そう言ってお姉ちゃんがユーノくんの首根っこを掴んで持ち上げます。

「ごめんねアリサちゃんすずかちゃん、ちょっとユーノ借りてくね」

「大丈夫です。でもどうしたんですか?」

「動物病院に連れてく用事があったから探してたんだ」

 お姉ちゃんの嘘に二人が首を捻ります。

「病院って、ユーノくん元気ですよ?」

 すずかちゃんの言葉にお姉ちゃんはとっさに、

「きょ、去勢手術だよ去勢、どうもされてないみたいだったから」

 お姉ちゃんの言葉にユーノくんはブルッと震えました。うん、嘘でもいい気がしないよね。

 それに私も嘘だとわかってるけど、ユーノくんが去勢されたら困るの。将来子供できないなんて嫌なの。

 じゃあねと言ってお姉ちゃんが部屋を出ていきます。少し待つと足音が近づいてきました。ユーノくんだね。

「フェレットのユーノ今、美由紀さんが連れてっちゃった」

 そう言ってユーノくんは部屋に入ってき……

「ふっ!」

 私はそれを見た瞬間、神速クラスの速度でアリサちゃんとすずかちゃんの後ろに回りこみました。

「ぐふ!」

「きゃん!」

 一瞬で二人に当て身を浴びせて気絶させます。

「な、なのは、なにしてるの?」

 ユーノくんがどん引きしますが、ユーノくんのためにしたのに引かれるなんて悲しいの。しかたなく私は黙って鏡を指します。

 なにも理解していないユーノくんは首を傾げながら鏡を見て、顔を青ざめました。

 ユーノくんの変身が中途半端に解かれて、フェレットの耳が頭頂部に残っていたのです!

「ご、ごめんなのは! た、たまに起こるんだよねこういう失敗」

 ユーノくんが苦笑しながら耳を消します。なんてタイミングの悪い失敗なの。

 ああ、でも……

「ユーノくん」

 私は耳をしまおうとするユーノくんに気づかれないように後ろから近づきます。

 気づきませんように。気づきませんよおに!!

「ん? なの、はあ!?」

 鏡に映って気づいた直後、その背中に抱きつきました。

「かわいい! ユーノくんかわいいよお!!」

 私は思わずその顔に頬ずりします。ああ、かわいい。頭にフェレットの耳が付いてるだけなのにすごくかわいいの!

 ああ、ユーノくん、今回の君は私を悶死させるつもりなの?

 私は二人が起きないように注意しながらユーノくんを愛でるのでした。








「うーん、途中から意識がないんだけど……」

 帰り際、アリサちゃんが不思議そうに首を捻ります。

 ま、まあ、咄嗟とはいえ当身をごまかすのは難しいです。

「き、きっと気づかないうちに疲れが溜まってたんだよ」

 すずかちゃんがフォローしてくれますが、私とユーノくんは冷や汗だらだらでした。

「そ、そうだよ!」

「でも、ユーノの頭にネズミの耳があったような」

「き、きっと幻覚。それくらい疲れてたの!!」

 そうかなあ? と不思議そうにアリサちゃんは首を傾げますが、まあ、いいやと納得して帰ろうとします。

 ほ、よかったの。

 でも、不意にすずかちゃんが私たちに近寄って、そっと耳元で囁きました。

「今度話してね。フェレットの耳」

 ば、ばれてるーー!!

 でも、すずかちゃんはそれ以上なにも言わずにアリサちゃんを連れて帰りました。

 それを私とユーノくんは硬い表情で見送るのでした。


「ど、どうしよう?」

「そのうちなんとかごまかさないとね」

 その日の晩、私はお姉ちゃんとユーノくんとどうごまかすかの相談をするのでした。




~~~~
ユーノ、すずかたちと会うの回。
妙な失敗をしてますが、そこは愛嬌ということで。
次回は時音の話な予定です。それでは!



[14021] カラカラメグル 第二十六話
Name: 空の狐◆49752e86 ID:c21812f6
Date: 2010/07/22 00:10
 今日、ユーノくんと時音さんがアースラに向かいます。

 ユーノくんはフェイトちゃんの裁判の為に、時音さんはリンディさんに出身世界の捜索に関してです。

 ああ、でも心配です。ユーノくんが判事に酷いことを言われたりしないでしょうか? 犯罪に巻き込まれたりしないかとっても不安なの。

「ユーノくん、ハンカチ持った? 知らない人に付いていっちゃダメだよ?」

「だ、大丈夫だよなのは。それにアースラの人たちはみんな知ってるでしょ?」

「なのはちゃんお母さんみたいだねー」

 時音さんがあははと笑いますが、心配なものは心配なの。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってきまーす」

 そう言って二人は転送魔法でアースラへと跳びました。

 ああ、心配なの。やっぱり付いて行くべきだったかな?









 アースラ艦内。クロノくんたちと相談する予定だったユーノくんと別れて、私は艦長室に向かいます。

「黒野時音、出頭しました」

「あら、いらっしゃい時音さん。どうぞ上がってください」

 扉が開くと、ちょうどリンディさんが緑茶を呑んでいました。

「お茶はいかがかしら?」

「おねがいします」

 そう答えるとリンディさんはお茶を注いでくれます。綺麗な入れ方でしたが、角砂糖を入れようとしたのは慌てて止めます。

 そして、お茶を一口飲んで一息。

「で、これが例の写真なんですけど」

「はい」

 私が差し出した封筒をリンディさんは受け取り、中の写真を取り出します。

 そしたら、その写真を見てリンディさんの表情が固まった。

 あれ?

「どうしたんですかリンディさん?」

 私は突然固まってしまったリンディさんの顔を覗き込む。もしかして、その写真のせい?

「……ああ、ごめんなさい。思ったより古い写真だから驚いてしまって」

 それが理由じゃないのは一目瞭然だけど、この反応、なにかあるのかな?

 でも、誤魔化したし、今は聞かない方がいいのかな。

「では、しばらくの間この写真はお預かりしてよろしいですか?」

 そして、リンディさんはいつも通りの柔和な笑みを浮かべたのでした。







 時音から写真を受け取ってから数時間後、その日の分の仕事が終わってからリンディは親友であるレティに通信を繋げた。

『あら、どうしたのリンディ?』

「レティ、この前頼んだことなのだけれど」

 そう言うと、ああ、とレティは頷いた。

『例の子ね』

「どうだったの?」

 リンディの問いに、レティはお手上げと言った感じに肩を落としてみせる。

『手がかりは全く。送られた血液からわかったのはベルカの血統、それも聖王教会でも珍しいくらいの純粋な血ってことくらいしか』

「……もし本当に純粋なベルカ人だとしたら?」

 レティはリンディの問いかけに眉を顰める。

『どういうこと?』

「こういうこと」

 そう言ってリンディが見せたものにレティは目を見開く。

 それは時音が持ってきた写真。三人の女性が被写体で、一人は時音の母と思わしき灰色に近い銀髪の女性。

 だが、二人が注目したのは他の二人のうち一人。

『これ……』

 困った顔をした一人は長い銀髪と深紅の瞳が印象的な若い女性、そして、もう一人。

「似てるでしょ?」

 明るい笑顔で二人の肩に手を廻しているのは、金色の髪を頭の後ろでシニヨンに纏めた虹彩異色の少女。

 それは、あまりに有名な王の顔だった。

『もし、これが本物なら』

「ええ、もしそうなら……彼女は聖王家縁の人間よ」






 翌日、アースラからユーノくんと時音さんが戻ってきました。

 そして、時音さんの手には宝石のついたペンダント……あっ、時音さんが頼んでたデバイスなの。

「あ、それって」

 お姉ちゃんの言葉に時音さんが頷きます。

「うん、私のデバイス」

 そう答えてから時音さんはデバイスを優しく撫でます。

「はじめまして。よろしくね、えっと……」

 時音さんがそこでいい淀みました。あ、できたばかりだから名前がないの。

『マム。私の名前をお願いします』

 デバイスの方からも名前を求めてきました。

 時音さんもその言葉にうーんと頷いて、

「なら、君の名前は『久遠』」

 時音さんは自分のデバイスに『久遠』の名を贈りました。あれ? どっかで聞いたことがあるような……どこだっけ?

『久遠ですか?』

「うん。過去と未来、永遠に連なる時の名前だよ」

 時音さんが嬉しそうに笑う。と、待機状態の『久遠』も嬉しそうにチカチカ光る。

『素敵な名前、ありがとうございますマム』

「これからよろしくね久遠」

 そして、時音さんはギュッと待機状態の久遠を握ります。






「じゃあ、早速お願い久遠」

『イエスマム』

 ばっと手を高く掲げました。

「久遠、セーットアップ!」

『レディ!』

 眩い光が当たりを包みました。




*変身シーンは心の目でお楽しみください。




 光が収まるとそこにセットアップの終えた時音さんがいました。

 まず服の基本は時音さんの魔力光に合わせて白銀色です。

 丈が膝より上のタイトミニ。その周りを囲むように丈の長い前開きのロングスカートと両腰にアーマー。そして上は基本は白で、淵が黒いインナーと袖の短いジャケット。

 両手に黒いオープンフィンガータイプのグローブに、腕にアーマーが装着されてます。アーマーは普通の鎧のような感じのシンプルなデザインです。これも白く、留め具やリング状の装飾は金色でなにか文字が掘られています。ベルトに装飾の宝石がついています。

 そして、その右手にデバイス形態の久遠。真っ白な天使の羽のような装飾がとても綺麗です。

 時音さんは自分の姿を確認し、ぐっぐっと久遠の握り心地を確かめます。

「うん、いい感じだね」

『ありがとうございますマム』

 それから、準備体操。

「じゃあ、行ってみよっか!」

 その日、時音さんは魔力が尽きるまで楽しそうに久遠との訓練を楽しみました。






 そして数日後、私たちは地球から近い無人世界に移動しました。

 わざわざ移動した理由は二つ。まず、時音さんが以前から暖めていたという必殺技の実験のため。

 そして、私のスターライトブレイカーのバリエーション実験の為です。

 前の『私』はスターライトブレイカー+で結界を壊しちゃったし、このくらいは用心していいと思うの。

「大丈夫かな時音さん」

「大丈夫だよきっと」

 ユーノくんの心配にそう返しました。

 で、一方の時音さんはむんと気合いを入れました。

 ここ数日は時音さんはその魔法の構築とデバイスとのコミュニケーションに費やしたそうです。

 学校大丈夫なのかな? まあ、マルチタスクできるなら平気かな?

 そして、時音さんは宙に飛んで久遠を両手で構えると、目を瞑って切っ先をを頭上に掲げます。

「黄昏よりも暗きもの、血の流れより紅きもの」

 いきなり唱え始めました。その刃の先端に白銀の魔力光。赤じゃなくて残念とは時音さんの談。

「時の流れに埋もれし、偉大なる汝の名において、我等ここに時に誓う」

 さらに収束する魔力。あれ? なんか嫌な予感……

「我等の前に立ち塞がる全ての愚かなるものに、我等と汝が力持て、等しく滅びを与えんことを!」

 時音さんが集めた魔力が輝きを増し……

 直感に従って前面にプロテクションを展開します。

『ドラグ・スレイブ』

 久遠の言葉とともに、

「ドラグ・スレイブ!!」

 時音さんは久遠を突き出しました。







 被害、結界大破、目標の砂丘を中心に半径百メートルほどのクレーター。

 黒野時音、魔力枯渇により回復は一週間。高町なのは及びユーノ・スクライア、余波に煽られるもののプロテクションによるガードで負傷なし。





 うーん、ベルカ式だから時音さんの砲撃魔法もあまり強くないんじゃないかと鷹をくくってましたが、予想よりずっと威力があってびっくりです。

 まあ、スターライトブレイカー+みたいなオチは笑うしかありませんが。

 おかげでピカピカの新品だった騎士甲冑がボロボロになったって時音さんが愚痴ってました。まあ、騎士甲冑はすぐに治るから大丈夫でしょう。

 うん、無理をしないのが一番なの。





ドラグ・スレイブ
時音の収束砲撃魔法。結界破壊の効果あり。
見た目は派手なものの現段階での威力はディバインバスター以上、スターライトブレイカー以下と中途半端。



~~~~
時音デバイスゲットの回。
ドラグ・スレイブはそのままはあれだし、デバイスと協力して撃つものなので、詠唱の所々を変更しました。
聖王女オリヴィエと時音の関係は……もう少し待っててください。



[14021] カラカラメグル 第二十七話 (A,s編開始)
Name: 空の狐◆49752e86 ID:e29fd50e
Date: 2010/09/29 20:37
 あれから半年、気づけばドタバタでイチャイチャな日々を送りました。そうイチャイチャ……頬が緩みます。

 ですが、半年。それはヴィータちゃんの襲撃、そこから始まる『闇の書事件』が近づいたことを意味します。

 この日のために、私は自分で少しでもいい方に世界を変える計画をずっと立てていました。

 この事件のメリットは私とフェイトちゃんのパワーアップ、そして戦うことで私たちはお互いの力を認め合うことができました。

 デメリットははやてちゃんやヴォルケンリッターのみんなが犯罪者として扱われること、リインフォースさんの消滅などです。

 これらのデメリットは一部はすでにどうにもなりませんがリインフォースさんはどうにかしたいところです。

 一応、リインフォースさんの為に色々誤魔化しながらも、エイミィさん経由で成熟したAIが入るくらいの大容量を持つストレージデバイスを用意もしてあります。

 表向きには私が自分でAIを組んでみたいからと誤魔化して。お陰でしばらくレイジングハートは不機嫌そうでした。ご、ごめんね?

 計画としてはまず、私が前のようにヴィータちゃんに負けます。

 たぶんお姉ちゃんたちが異変に気づいて駆けつけると思うけど、お姉ちゃんは飛べないし、時音さんもまだ魔法は特訓中です。シグナムさんが駆けつけたらたぶん私たちの負けです。

 それから少し待てばレイジングハートとバルディッシュにカートリッジシステムが搭載されます。

 その段階でヴォルケンリッターを捕縛。猫姉妹の方はさり気なくクロノくんに注意して、あとはお姉ちゃんも行ってくれれば大丈夫かも。秘密兵器も用意してあるの。

 後はユーノくんが調べた事実をみんなに突きつける。それでゴールです。

 もし逃げられても直接はやてちゃんのお宅に向かえばいいです。

 なんでわかったのか詮索されるかもしれませんが、もう怪しまれてるし今更ですからね。未来を知っているのは私だけ。 できる限りのことはしておきたいです。












 そして、覚悟していたようにヴィータちゃんの張った結界を感じるとともに私はあのビルの屋上でバリアジャケットを纏って待ち構えます。

 さあ、早く来てヴィータちゃん!










 そして、来ましたヴィータちゃんの鉄球。フェイトちゃんの時も感じた懐かしさを覚えます。

 右のプロテクションで受け止め、見もせずに反対にもプロテクションを張ってヴィータちゃんの攻撃を受ける。

 ちらっと見れば少し驚いているヴィータちゃんの顔。

 でも今のプロテクションではきっとすぐに破られる。

 判断は一瞬、プロテクションをバーストさせて距離を取りつつレイジングハートを構えます。

「どこの子? いきなりなにをするの?!」

 『私』と同じ言葉をヴィータちゃんに投げかけます。

 でも、ヴィータちゃんは鋭い目で私のことをを睨み、答えず舌打ち一つにそのまま襲いかかって来ました。

 攻撃を避けて、

「ディバイン」

 レイジングハートを腰だめに構えて、

「ブレード!!」

 全力で突き出した。

 極太の魔力刃がヴィータちゃんに向かうけど避けられる。でも、帽子に掠りました。

 あっ、またやっちまったの。

 落ちていく帽子、ヴィータちゃんの表情が憤怒に染められます。

 ご、ごめんなさーい!

「アイゼン!」

『Ja!』

 アイゼンがフォルムツヴァイに変形、来ます!

「ラケーテンハンマー!」

 迫るピックをプロテクションで受けます。でも、すぐに破られる。

 それをレイジングハートの刃で受けて、あっさり砕かれる。

 予想はしてたけど、こんなにあっさり砕かれるとなんか悲しいです。

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

 吹き飛ばされた私はそのまま後ろのビルに激突しました。

 か、覚悟はしてたけどやっぱり痛いの……

 刃を砕かれた反動でレイジングハートにも少し罅が入るくらいのダメージを負っています。

「大丈夫? レイジングハート」

『All right』

 若干くぐもった返事が返ってきました。

 ごめんねレイジングハート。

 とんとヴィータちゃんが開いた穴から入ってきます。

「動くな」

 私は身構えます。

 ヴィータちゃんが再びアイゼンを叩きつけてきます。プロテクションで防ぎ、砕かれ、レイジングハートで受けます。

 でも、やっぱりレイジングハートの刃はあっさり砕けて……とっさに飛針を投げました。

 ヴィータちゃんは頭を振って避けるけど体勢が崩れました。

 その隙を生かして後ろに離れます。

「悪あがきを!」

 ヴィータちゃんは吐き捨てて、私に迫り……雷光と銀色の光に阻まれました。

 来ました!

「仲間か?!」

 ヴィータちゃんに横槍を入れた三人、ユーノくんとフェイトちゃんに時音さんを睨みます。

「友達だ」

 フェイトちゃんが、

「友達だよ」

 時音さんが同時に返しました。










 なのはちゃんを襲った相手を私は睨む。

 まだ小さい、なのはちゃんと同じくらいの女の子。でも、油断はしないでデバイスを構える。

 でも、その子は私を見て、目を見開きました。

「なんで、お前がいるんだ?」

「えっ?」

 その子の言葉に私は一瞬固まってしまった。私? と自分を指差すと舌打ち一つしてから、女の子は後ろの穴から外に出ていってしまいました。

「待て!」

 すぐにフェイトちゃんが飛び出し、一拍遅れて私も飛び出します。確かめなくちゃ!

 そこから熾烈な空中戦が繰り広げられました。まだ空中戦に慣れない私だけど、なんとかついてかないと!

 そして、アルフさんのバインドで女の子は動きを止められました。

 捕縛した子にフェイトちゃんが近づくので、私もそばまで飛ぶ。そして、意を決して時音は問い掛けてみます。

「ねえ、さっきのどういう意味?」

「さっきって?」

 女の子が目を向ける。

「なんでお前がいるって」

「……わりい。間違えた。似てるけどやっぱり違う。でも、一つこっちも聞きたいんだ。なんでそのデバイスを持っている?」

 その子が見るのは私のデバイス『久遠』。

「これは母さんの」

「! 危ない!」

 瞬間、フェイトちゃんに横から突き飛ばされ、そのフェイトちゃんは上空からの一撃に眼下のビルに叩きつけられる。

「フェイトちゃん!」

「フェイト! うわ!?」

 続いてアルフさんも吹き飛ばされる。

 とっさにデバイスを構えながら新たな敵に切っ先を向けます。

 その新たな相手、片手に剣を持つ紫の髪をポニーテールに纏めた長身の女性と銀の髪の褐色の肌の男。

 彼女は女の子を庇うように立ちながら私に目を向けて、

「ソフィア殿?」

 驚いたように目を見開く。

「人違い。私は時音だよ」

 問い返したい衝動を抑えながら、私はそれだけを返しました。








「シグナムさん」

 フェイトちゃんをぶっ飛ばした相手、シグナムさん。シグナムさんは時音さんに視線を向けてからヴィータちゃんに回収した帽子を渡しました。

 遅れてザフィーラさんが駆けつけます。

 そして再び三人の前に立ちふさがるフェイトちゃん。ここからは乱戦です。

 シグナムさんをフェイトちゃんが抑え、ヴィータちゃんをユーノくんと時音さん、ザフィーラさんがアルフさんと分かれての戦いが始まりました。

 くっ、前よりダメージはないから、行けるかな?

「レイジングハート大丈夫?」

『大丈夫です』

 レイジングハートもダメージは少ない。よし!

「スターライトブレード、行けるよね」

『任せてください』

 私は構えを取ります。

 スターライトブレード、その名の通りスターライトブレイカーのブレードバージョン。

 スターライトブレイカーの威力を余さずブレードとすることで破壊力を上げ、結界も断ち切る力があります。

『ユーノくん! 私が結界を壊すから、その間に転送を!』

『無茶だよなのはちゃん! 怪我してるんでしょ!?』

 すかさず時音さんの叫びが割って入りました。

『大丈夫です! スターライトブレードで三枚に卸してみせます!』

 そう宣言して魔力を集めます。

 収束に時間がかかるけど、集まった魔力が刀身に巻きついてディバインブレードより長大で力強い刃が生まれました。よし!

「行くよ、スターライト!」

 剣を振り上げて、直感に従い横に逃げました。

 さっきまでいた場所に、にょきっと現れるシャマルさんの手。ふ、来るとわかってたら避けるくらいはできるの。

 シャマルさんの手が引っ込みます。もう少し狙った場所に出るよう修行しなさいなの!

 さあ、今度こそ……

「スターライト……ブレード!」

『スターライトブレード』

 剣を振り下ろします。真っ赤な魔力刃があっさりと結界を両断します。よし!

 私はガッツポーズを決めました。

「時音さん!」

 そこにフェイトちゃんの声が響きました。見れば落ちていく時音さん。

 な、なんで……?









 時音さんはなんとか空中でアルフさんに受け止められて事なきを得ました。

「時音さん、どうしたの?」

 時音さんはあははと笑います。

「わかんない……あの紅い子の相手をしてたらいきなり胸から腕が生えて……」

 その言葉に理解しました。シャマルさんは私に避けられてすぐに標的を時音さんに変えたんです。

 まだ空中戦に慣れてない時音さんにはシャマルさんの魔手から逃げられずに……

「大丈夫ですか?」

 遠慮がちにユーノくんが問い掛ける。

「うん、なんか力が入らないけどね、大丈夫だよ」

 時音さんがそう言って起きあがろうとしますが、崩れかけたので慌てて支えます。

「ごめんね」

 時音さんが力ない笑みで謝りますがこっちもです。せめて注意程度はするべきだったの。






~~~~
少し遅くなりましたが、A,s編開始です。
とりあえず、A,s編では時音活躍な予定。
頑張りますので、読んでくれた方はこれからも応援していただければ嬉しいです。

8/29 22:16に間違えてsageを間違えて押しました。題以外変わっていません。もうしわけございません。



[14021] カラカラメグル 第二十八話
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/10/09 00:44
 私は目を醒ましました。

「知らない天井だ……」

 ついそう呟いてからぼんやりとした意識の中でいくつか点検項目を進める。

 自分の名前、ソフィ……じゃない、私は時音、黒野時音。

 ここは……首を動かす。窓の外はアースラと同じ揺らめくような空間が広がっている。もしかしてフェイトちゃんたちがアースラに運び込んでくれたのかな。

 時間……わからない。どれくらい眠っていたんだろ?

 あの後、どうなったの? なのはちゃんたちは無事?

 体は、ダルくて力が入らない。ただ手足はちゃんとある。指が動くし神経も繋がっている。

 胸を貫かれたはずだけど、どうやら安心していいみたい。

 まあ、あれは苦しかったけど、痛くはなかったし。

 手足を弛緩させる。誰か来ないかなあ?

 そう思ったら、ちょうど扉が開いた。

「あ、時音、目が覚めたの?」

「美由紀……」

 親友の声に少し安堵する。

「状況は?」

「あんたが倒れてだいたい一日が経ってる。で、ここは、時空管理局の本局。
あんたが寝てる間に検査したけど体は大丈夫。ただ、リンカーコアっていう魔法を使うための機関が異様に小さくなってるって。
まあ、もう回復は始まってるからしばらくすれば魔法も使えるそうだよ」

「そうなんだ」

 この、まるで半身を奪われたような脱力感はそのせいなのかな?

「で、目が覚めたところでなにか欲しいものある?」

 欲しいもの? それなら……

「ごはん。おなかすいた」








「ごめんねレイジングハート。いっぱい頑張ってくれてありがとうね」

 レイジングハートに謝ってから私たちはグレアムさんに会うことになりました。

 正直、はやてちゃんや私たちをはめようとする人にあまり会いたくはないんだけど……

 そう考えていたらなにやら慌ただしく動く人たち。見れば時音さんが休んでいるはずの部屋を何人もの人が出たり入ったり……

「まさか、時音さんの容態が?」

 フェイトちゃんの呟きに私は動きました。

 慌てて病室に飛び込みます。

「時音さん!」

 そこで私が見たのは……





「もっと食べ物じゃんじゃん持ってきて!」

 ……時音さんが大きなハンバーグを丸ごと口に放り込んで飲み込むところでした。

「もっとお肉ちょうだい! こんなんじゃ力つかないよ!!」

 ガツガツと運ばれる料理を一瞬で平らげる時音さん。

「時音、さん?」

 遅れて入ってきたフェイトちゃんが何度も目を擦ります。

 でも、残念ながら目の前のは現実です。

「あ、なのはいいところに来たね」

 お姉ちゃんが振り向きます。時音さんはスパゲッティを二つのフォークで器用に丸めて口に放り込んでました。

 って、明らかに今の塊の方が口より大きかったよね?!

「ちょっとお願いが」

「んぐっ?!」

 お姉ちゃんが言う前に時音さんが止まります。だけどお姉ちゃんは冷静に、はいっと時音さんになみなみと黒い液体、たぶんコーラの入ったコップを差し出します。

 受け取ると、時音さんはゴフゴフとその中身を飲み干し、再び運ばれる食事をその胃にかき込みます。

「ちょっと砂糖水用意してくれない?」

「さ、砂糖水?」

 私が聞き返すとお姉ちゃんは頷く。

「うん、バケツいっぱいの砂糖水。できたら果糖がいいかな」

「う、うん」

 なんとか頷いて食堂に砂糖水を調達に行きます。バケツいっぱいの砂糖水、できれば果糖と注文した時なんとも言えない顔をされました。

 苦労して砂糖水を病室に運び込むと、多くの皿を山のように積み上げた時音さんがふうっと息をついていました。

「あ、なのはちゃん、フェイトちゃんありがとう」

「あ、あの、こんなに食べて大丈夫なんですか?」

 フェイトちゃんが戸惑い気味に尋ねると、時音さんはにこっと笑います。

「十二時間あれば、ジェット機も治るんだよ」

 ……答えになってないの。

 そして、バケツを渡すと時音さんは迷うことなく中身を飲み始めました。

「黒野時音、復活! 黒野時音、復活! 黒野時音、復活!」

 お姉ちゃんがなんか応援(?)します。

 そして、砂糖水を飲み干した時音さんは再び眠りにつきました。

 ちょっと興味本位に布団をまくってみたけど、量に比べてちょっとしかお腹は膨らんでませんでした。どうなってるんだろ時音さんの体……

 というか、いいの? 怪我人がこんな暴飲暴食!!










 そして、眠り始めた時音さんを置いといて私たちはグレアムさんに会いに行きました。

 できる限り、『私』と同じ対応はできたはずです。まあ、少し険が入ってたかも……

 そして、再び時音さんの病室へ来ました。部屋に入ると……時音さんがベッドから出て元気に準備運動をしてます。

 本当にリンカーコアを盗られた直後なの? もし、私たちを心配させないためだったら……

「じゃあ、美由紀、久しぶりに手合わせしよ!」

「オーケー時音!」

 そして、元気に病室から飛び出す二人。どうやら演技じゃないみたいなの。

「……元気になってよかったね」

「……うん」

 それしか返せませんでした。とりあえず私の心配を返してなの。









 それから訓練室にいるお姉ちゃんたちの模擬戦を見学させてもらうと、二人は元気に暴れ回ってました。

 病み上がりと思えない時音さんの動き。本当にあれで復活したんだ……

 ちょっと呆れてしまいます。後で聞きましたが、その後も信じられない速度でリンカーコアが再生していたそうです。

「じゃあ時音、いくよ!」

「こっちもね美由紀!」

 次の瞬間、お姉ちゃんが神速を使いました。一瞬で私たちの視界から見えなくなります。そして、時音さんも消えました。

「えっ?!」

 目を丸くして、隣のフェイトちゃんが声を上げました。が、まあ私は驚きません。よく見る光景だし。

 そして見えない戦いは一瞬で終わりました。

「きゃあ?!」

 時音さんが地面に倒れ、お姉ちゃんが剣を突きつけます。

「はい、私の勝ちだね」

「む~、くやし~」

 そう時音さんが悔しがりますが、ただフェイトちゃんは開いた口が閉じませんでした。

 まあ、初めて見れば誰だって驚くの。

「あ、なのはちゃん! フェイトちゃん! 心配かけてごめんね~」

 私たちに気づいた時音さんが小走りに近づいてきました。

「元気になってなによりです。だよねフェイトちゃん」

「あ、うん。なのは」

 フェイトちゃんはまだどこか納得してない様子でしたが、時音さんの様子にとりあえず頷いたのでした。

「あの、二人とも消えたんだけど、どんな魔法使ったの?」

 あ、やっぱり今の魔法だって思われてる。でも、違うんだよね。

 お姉ちゃんもあははと笑っている。

「あれは、魔法じゃないよ。うちの流派に伝わる歩法の奥義『神速』っていうの」

「私のは『壊放』っていうので、まあ、美由紀のとは変わらないけど」

 始めてみた時、お父さんが御神の人間かと聞いてたもんね。

 時音さんの流派、木霊流の歩法『壊放』は、ほとんど神速と同じもの。名前は時音さん曰く、『限界を破壊し解き放つ』ということらしい。

 まあ、御神だけなんてことはないんだろうけど、でも、同じような吃驚ドッキリ剣術がそばにいるなんて……

「初めて見た時は御神の人間かって疑っちゃったよ」

「私も木霊の人間かと思っちゃった」

 と、あははと笑う二人。

 フェイトちゃんは、はあ、と頷くことしかできなかった。まあ、それが普通の反応なの。








 それから、私たちはエイミィさんと少しお話しました。

 やっぱりフェイトちゃんがハラオウンのお家に引き取られるって話です。

「フェイトちゃんはプレシア事件で天涯孤独になっちゃったからね。気持ちの整理をしながらって」

「そうなんだ、あ、うちもそろそろだよ」

 と、お姉ちゃんが笑います。

「美由紀のところもって?」

「ユーノを正式にうちが引き取るかもしれないんだ」

「そうなの?」

 エイミィさんが驚きます。

 ふっふっふっふ、そうなんです!

「お父さんが昔作ったコネで書類の偽装もしたし、後はユーノがよければなんだけどね」

「そうなんだ、どっちも変わっていくんだね」

 そう言って笑うエイミィさん。

 うん、変わって言って欲しい。あんな未来にならないためにも。そのために、使えるものは少しでも増やすために動いてるんだから。








 

 それから、アースラのメンバーが集まって今後の方針をリンディさんが話します。

 前回と同じ本局は拠点にするにはタイムラグがあるため、しばらくの間地球に臨時本部を作るということになりました。

 そして、翌日には、私の家のそばに立っていたマンションに臨時本部が準備されました。そして、前と同じくすずかちゃんとアリサちゃんが私たちを迎えに来てくれます。もちろん今回はユーノくんは人間形態です。

 そして翠屋でフェイトちゃんがうちに通うことが発表されました。チャンスなの!!

「はいはーい! リンディさん、ユーノくんも一緒に通うことも提案します!」

「えっ、なのは?!」

 私の提案にユーノくんが驚きます。

 これでユーノくんが無限書庫に入り浸りになるのを少し防ぐことができる! それに学校でも……ぐふふふふ。

「あら、それはいいわね! 早速ユーノくんの分も書類準備しないと」

「あ、それでしたらうちの人がすでに用意していますよ」

「どうだユーノ、すごいだろ」

 と、お父さんがどこからか出した書類一式を見せながら胸を張ります。確かにすごいです。私が頼んでまだ数日なのに……

「ですが艦長、ユーノにはやってもらうことが」

 そこまで言ったクロノくんの肩を掴みます。そして、まっすぐにクロノくんの目を見て、

「賛成、だよね?」

 クロノくんはガクガクと首を縦に振りました。ふっ、チョロいの。






~~~~
時音復活。そして、ユーノも学校に。

食事の元ネタは、まあ知ってる人は知ってるよね。
クロノ完全になのはちゃんたちに、ぼこられた時のことがトラウマになってます。

まあ、時音が少し強めにしてしまった気もするけど、いいですよね。瞬歩と飛廉脚、響転みたいな関係ということで……

それでは、また。



[14021] カラカラメグル 第二十九話
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/10/10 10:01
 そして……ついに来ました! ユーノくんとフェイトちゃんが聖祥に転入してくる日が!

「さて、皆さん実は先週、急に決まったのですが、。今日からこのクラスに新しいお友達がやってきます!」

 先生の言葉にみんながざわめく。どんな子? とか、いきなりだねとか。

「海外からの留学生さんです。フェイトさん、ユーノくん、どうぞ」

『失礼します』

 そして、先生に呼ばれ、フェイトちゃんとユーノくんが教室に入ってきました。途端に、「かわいい」や「髪きれい」、「女の子? いや、男の子?」などという声があがりました。

「あの、フェイト・テスタロッサといいます。よろしくお願いします」

「ユーノ・スクライアです。よろしくお願いします」

 二人が壇上に上がって頭を下げると、みんなが拍手で歓迎します。

 そう、今日から始まるの。素敵な学校生活が!









 休み時間になると私はいの一番にユーノくんに抱きつきました。

「ユーノくーん!!」

「わ! なのは!?」

 ユーノくんが真っ赤になるけど気にしません。

「にゃはは、今日からユーノくんとフェイトちゃんも一緒に学校なんだね! 嬉しいな!」

 私は嬉しくて嬉しくて仕方ありません。だってユーノくんの席は私のお隣さんなのです!

 ああ、夢みたいです。まだ、ユーノくんのことを思い出せなかった頃、席替えの時になんとなく隣がいない位置にして本当によかったの!

「な、なのは落ち着いて……」

 フェイトちゃんが小さく言いますが気にしません。さらにぐりぐりと頬ずりして、校門で別れた時から、今までに失ったユーノくん分を補給します。

 えへへ、これで学校でもユーノくん分補給できるよ~。と喜んでいたのですが、

「ユーノも困ってるわよ! 離れなさい!!」

 と、アリサちゃんに力づくで引き剥がされてしまいました。

「うう、アリサちゃん酷い……」

 ただ私は有り余るユーノくんへの思いを表現していただけだというのに……

「なのはちゃん、落ち着いて。みんな驚いてるから」

 と、周りを見ればみんな遠巻きに私たちを見つめながらひそひそと話していました。

 にゃあ、そうなのですか。ならば!

「ユーノくんともっとイチャついて、みんなに見せつけてあげるの!」

 私は大空にはばたく鳥のように両腕を広げて、ユーノくんにまた抱きつこうとして……

「止めなさいこのバカチン!!」

 アリサちゃんに叩かれたのでした。痛いよアリサちゃん……







 それから、転校生への質問タイムが始まりました。

「ねえ、向こうの学校ってどんな感じ?」

「すごく急な転校だよな? なんで?」

「日本語上手だね、どこで習ったの?」

「前に住んでたのってどんなところ?」

 と、矢継ぎ早に質問がユーノくんとフェイトちゃんに浴びせられます。

 しどろもどろに答える二人をもう少し見ていたかったのですが……

「人気者だねユーノくんとフェイトちゃん」

 とすずかちゃんが呟きます。

「にゃはは、でも、これは少し大変だね」

 見れば二人は私たちに助けを求めるようにこちらを見ています。

 しかたないとアリサちゃんが立ち上がって、

「ねえ、さっき高町さんに抱きつかれてたけど、どういう関係?」

 その言葉を聞いた瞬間、私は『神速』を使ってアリサちゃんを追い抜いていました。

 そして、ユーノくんの前に立ち、

「ユーノくんは私の、大事な、大事な人なのーーーー!!」

 私の叫びにみんなが固まりました。ふう、これでユーノくんに手を出そうなんて人は出ることは……

 っは! 今、ずっとできなかった神速が容易く?! 自分でも、びっくりです。なるほど、ユーノくんのことを思えれば私はあっさり限界突破でき……

「あんたは、時と場所というものを考えなさーい!!」

 そこまで考えてアリサちゃんに叩かれたのでした。








時音side

 学校帰り、私は本を返しに図書館に来ていました。

 リンディさんがしばらくは魔力の回復を待つ必要があるから、それまでは好きにしてていいって言ってたからね。

 一応、そばにはエイミィ特製のサーチャーもあるそうだから、私自身警戒はしてるけど、たぶん大丈夫。

 カウンターで本を返してから、好きなジャンルの書棚を見ながら何を読むか思案します。

 うーん、『妖精と一緒』はもう全巻読んだし、次はSFにしようかな?

「久遠はなんかあるかな?」

『私はフルメタルマーチの続きを読みたいです』

 チカチカと首にかけた久遠が光る。

 あはは、久遠もあれ気に入ってくれて嬉しいなあ。

 私はフルメタルマーチの三巻を取ろうとして、気づいた。車椅子の子が手を伸ばして本を取ろうとしているのを。

 年は多分なのはちゃんたちと同じくらいかな? 綺麗に切りそろえたおかっぱの髪で、ピンをクロスさせて留めている。

 私はその子にそっと近づいて本を取った。女の子が驚いて私を見上げる。

「はい、この本で合ってるかな?」

「あ、ありがとうございます!」

 女の子はぺこっと頭を下げる。

 その様子がかわいくてクスッと笑ってしまった。

 そして、その子が本を受け取った時に、




 腕の中の子をあやしていたら、

『ソフィ』

 私は『彼女』に呼び掛けられて振り返った。

『どう、具合は?』

『大丈夫ですよ。シャマルは、後一週間もあれば退院できると言ってましたので』

『そう、でも無理しないでよ? あなた一人の身体じゃなくなったんだから』

 心配そうな『彼女』にくすっと笑ってしまう。自分のことになると無鉄砲になる癖に、私や、仲間に対してはいつも心配性なのよね。

 シグナムも無理するなって言ってきたけど、彼女に言われるのはなんか複雑。

『で、この子が?』

『あ、はい』

 私は腕の中で眠っていた子を抱き直して、彼女から見やすくする。

『あは、かわいい寝顔だね』

 『彼女』は微笑む。

『名前はどうするの?』

『そうですね、あの人の名前がいいかとも思ったのですが、女の子ですからね……』

 私は少し悩む。

『できたら、-----、あなたが名付けていただけませんか?』

 え? と、彼女は眼を丸くする。

『名付け親、私でいいの?』

『はい』

 そして、「なの……ダメ。……ト……却下、うーん」と、悩みだす。そして、

『なら、この子の名前は――』









「あ! はやてちゃん! あれ、時音さん?」

 呼ばれてはっとした。なんだったんだろ。今のは……

 こめかみを押さえながら、声の方に振り向くと、なのはちゃんのお友達で、忍さんの妹さんであるすずかちゃんが現れた。

 すずかちゃんと車椅子の女の子が声を上げる。

「あ、すずかちゃんのお友達なんだ?」

「あ、はい! 私は八神はやてと言います! お姉さんは?」

 とはやてちゃんに尋ねられた時には私の疑問はどこかに消えていた。

「黒野時音だよ。よろしくね」

 それが、私と八神はやてちゃんの出会いだった。








 それから、私たちはすずかちゃんを交えて図書館の一角でお話をしていた。

「へえ、はやてちゃんも本好きなんだねえ」

 すずかちゃんという共通の知り合いがいたおかげか、会話も弾む。

 にしても、最近はなんか年下の知り合いばかりが増えてるような……うん、気にするな私。

「はい、時音さんはどんなジャンルが好きなんですか?」

 へ? うーん、私は興味持てばジャンル関係なく読むしなあ。それこそ、参考書や学術系の本まで読むし。

 一時期、仮面ライダーを見て、私も改造人間を作りたい! なんて考えて人体に関する本やらなんやらを読み漁ったのはいい思い出。

 すいません、自分でも恥ずかしいと思いました。てか、女の子ぽくないよねそんな行動。

「私はなんでも読むかな。それこそ、気にいる本はなんでも」

「へえ、あ、なら今度お勧めの本を紹介してもらえませんか?」

「それくらい、おやすいごようだよ」

 私が笑うと、釣られて二人も笑う。

 ----ん?

 私はばっと振り向く。今、誰かがこっちを見ていたような……

「どうしたんですか?」

 すずかちゃんに問いかけられてしまう。

「いや、なんか誰かに見られてたような……」

 気のせいだったかなあ?

「時音さん、美人さんやから、誰かがこっそり見てたのかもしれへんですな」

 とはやてちゃんが笑う。

「あはは、おだててもなにも出ないよお?」

 私も笑うと、はやてちゃんは鋭い目で私を見る。

「いえいえ、謙遜する必要なんてないですよ? 特に、そのおっぱい、私が知る中でもトップに入ります!!」

 力説するはやてちゃん。あう、気にしてるのに……

 ブラのサイズがなかなか無いから苦労するし、動くのにも邪魔だし……

 きっと、あのラベンダーの髪の人も苦労してるんだろうなあ……と、この前、刃を交えた女騎士を思い出す。

 と、時計を見れば、そろそろユーノくん魔法の講座を頼んでいた時間に差し掛かる。

「じゃあ、また今度会ったら、いろいろお勧めしてあげるねえ」

 私は椅子から腰を上げる。

「はい、その時はよろしゅうお願いします」

「ははは、じゃあね」

 私は、そう言って図書館を出た。

 さてと、遅れないように急がないと。




~~~~
時音、はやてと邂逅の回。
これが、どういう結果をもたらすかは少し待っていてください。
なお、時音を見ていたのはシャマルです。



[14021] 第三十話 わ、私大胆なの!
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/11/08 00:37
 今日は、僕はなのはと同じベッドで寝ています。最近はフェイトの裁判やらでアースラに行ってばかりだから、なんか久しぶり。

 だから、そばにあるなのはの暖かさも久しぶりで……

 心頭滅却、心頭滅却。

 翌日の恭也さんの指導がただでさえ怖くなるのだから、早く眠らなければ!

 僕は息を整えて眠ることに意識を集中していたら、なのはに抱きつかれた!

「にゃー、ユーノくん……」

 幸せそうな寝顔で僕の腕に体を擦りつけるなのは。多分僕の顔は茹で上がっている。

 お、お、落ち着け僕! 落ち着いて素数を数えるんだ!

 素数を数える僕。だが、

「ユーノ……くん」

 なんかいつもと違う悲しい響きの呟き。僕は顔をなのはに向けて……

「ああああああ!!」

 突然、なのはが泣きながら跳ね起きた。い、一体どうしたんだ!

 なのはは泣きながら頭を抱える。

「いや、いやあ……嫌だ、嫌だよ。ユーノくん置いてかないで……一人はいや……いやああああああ!!」

 泣きながら、下ろした髪を振り乱すなのは。そういえば、ここ最近なのはが突然夜中に泣きだすって士郎さんが言ってたけど……

「なのは!」

 突然錯乱し始めたなのはを抱きしめる。なぜかはわからないけど、そうしないといけない。そう思った。

「大丈夫、大丈夫だから」

 ポンポンとなのはの背中を叩きながら言い聞かせる。

 泣き続けるなのは。でもだんだん落ち着いてくる。そして、

「ユーノ、くん」

 しゃくりあげながら僕を呼ぶ。

「うん」

 なのはの呼びかけに頷く。

「ユーノくんは私を置いてかない?」

「うん、僕がなのはを置いてったりしないよ」

 なのはの言葉に頷く。

「私を一人にしない?」

「なのはは一人じゃないよ」

 アリサやすずかにフェイト、みんながいる。そして、僕の言葉になのははまたくしゃっと表情を歪ませる。

「ありがと……ありがとう。ユーノくん、う、ひっく」

 僕に抱きつきながら、小さく泣き始めるなのは。

 僕は黙って背中を撫でる。

「なのは、もう大丈夫?」

「うん。ごめんね。こんな遅くに」

 落ち着いたなのはが謝ってくる。僕はそんななのはに笑いかける。

「気にしなくていいよ。これくらいならお安い御用だから」

 そう答えるとなのははじっと僕の顔を見つめる。

「? なの」

 はと言う前に僕は何も言えなくなった。

 だって、気づくと僕の口はなのはに塞がれていた。

 具体的には、その……キスされていた。

 なんで、どうして? と、疑問が湧きおこるが、想像よりもずっと柔らかいなのはの唇が気持ち良くって……

 その時気づいた。気づいてしまった。

 なのはが背中を向けてて気づいてないんだろうけど、ドアが開いて、隙間から誰かがこっちを見ていた。

 うわあああああああ! 見られた! な、なのは、離れて……ああ、でも、やっぱり気持ちいい……って、なに考えてるのさ僕!!


 それと同時になのはが離れた。少しだけ口元がさびしく感じてしまって、慌てて頭を振った。落ち着け僕!

「じゃ、じゃあお休み!」

 そう言って僕と同じように真っ赤になったなのはは布団にもぐってしまう。

 そして、ちらっと見るとドアも閉まっていた。

 僕も布団にもぐる。だけど、さっきまでの唇の感触やらなにやらでしばらくは眠れそうにないなあ。

 なのは、一体どうしたんだろう?








 朝、ユーノくんが学校に通うようになって、私がし始めたこと。それは、

「お母さんこれでいいのかな?」

「うん。なのはも上手になったね」

 お弁当作りです! と言っても自分とユーノくんの分のおかずを一品程度ですが……

 でもでも、頑張ってます! ソーセージでたこさんやいかさんとか玉子焼きとか!

 でも、そこでふわっと小さく欠伸します。うう、ただでさえ早く起きないといけないのに、昨日夜中に目が覚めちゃったから……

 ぼんと私は紅くなりました。

 あわわわわ、よ、よく考えると私大胆……

 『私』はユーノくんとキスなんてしたことないのに。

 うう、できたらあんなんじゃなくてもっとロマンチックなファーストキスがよかった……こう、夜の浜辺で愛を囁きながら、

「なのは」

 お母さんに呼ばれて現実に戻ります。

「なあにお母さん?」

 私がお母さんに向き直るとにっこりとお母さんが笑います。

「頑張ってね」

 お母さんの言葉に胸が暖かくなります。はい、頑張ります。

 なお、朝練をしていたユーノくんがぶっ倒れていて、思わず私はお兄ちゃんに大っ嫌いと言ってしまいました。

 なんかお兄ちゃん食卓で背中にダークな雰囲気背負ってたけど、大丈夫かなあ……










『と言うわけでできましたよ。美由紀さんとユーノくんのデバイス!』

 放課後、フェイトちゃんのお宅に集まると、マリーさんがそう宣言しました。

「えっ? ユーノくん、デバイス頼んでたの?!」

「うん、もしもの時、なのはだけ戦わせたくないからリンディさんに頼んだんだ」

 ああ、ユーノくん……このユーノくんはいったいどれだけ私のハートをときめかせるの……

 横で時音さんが暑い暑いって言ってるけど気にしないの。

「でも、レイジングハートとバルディッシュの修理もあったのに大丈夫だったんですか?」

 フェイトちゃんが首を捻ります。あ、確かに。おざなりになってないよね?

『まだパーツが届いてないからね。それに、二人とも機構そのものは単純だったし、組み立ては前からこっちが勝手にやってたからね』

 なるほど。確かにお姉ちゃんのはシンプルなの。って、二人とも?

「と言うわけで二人とも、はい」

 そう言ってエイミィさんが二人に待機状態のデバイスを渡します。

 ……あれえ? 私の目がおかしいのかな。二つとも同じに見えるなあ?

「二人とも美由紀の考えた仕様で、AI非搭載のアームドデバイス。ユーノくんはどちらかというと魔法補助を優先して調整してあるから」

 ふーん、姉妹機なんだねー。いいなあおねーちゃん。

「じゃあ、さっそく起動させてみようか」

「うん」

「はい」

 エイミィさんの言葉に二人は頷いてデバイスを展開する。

 お姉ちゃんはなんかお父さんたちがたまに着る黒い服ににた感じのバリアジャケット。

 デバイスは刀身は普通の小太刀と変わりません。ただその柄が少し長く、シスターシャッハのヴィンデルシャフトに近いイメージ。

 そして、ユーノくんは……なんと!

 基本的にお姉ちゃんと変わりません。ただ、鍔の部分がレイジングハートに似たデザインになってました。心憎い配慮なの。

 お姉ちゃんとユーノくんが素振りしてみます。

『どうですか? 送られてきた資料を元に調整したんですけど』

「うん、いい感じだよ」

「ありがとうございますマリエルさん」

 二人の言葉にマリエルさんはいえいえと首を振ります。

「で、二人は名前はなんてするの?」

 エイミィさんの問いにお姉ちゃんがうーんと考えます。

「そうだね……『不破』……ううん『永全』と『不動』かな」

 あ、うちの流派の名前からとったの。

「僕は『不屈』……なんか、問題ある気がするから、やっぱり『求道』」

 ああ、『私』が消える寸前に見た世界で、それに関わっていたのがあった気がするの。

『レイジングハートとバルディッシュはもう少しかかるから待っててね』

 はーいなの。










 それから数日後、私たちがレイジングハートを受け取りに本局に来ていた間にヴィータちゃんを補足することに成功しました。

 よっし! クロノ君率いる武装隊の皆さんと、ユーノくんにお姉ちゃん、時音さんが先行します。

 私たちはデバイスを受け取ってすぐに転送ポートに向かいました。早くいかないと!!









 私は紅い子と刃を交える。真っ直ぐ振られる鉄槌を受け流し、斬り込む。が、なかなか捉えられない。

 危ないところはユーノくんがフォローしてくれるけど、やっぱりまだ空中戦は慣れないな!

 美由紀は飛べないから、空中の敵に苦労してるみたいだから贅沢は言えない。

「ぶっとべえ!!」

「うわ!」

 そんなことを考えていたらユーノくんがシールドごとブッ飛ばされる。

「ユーノくん!!」

 振り返れば、ユーノくんは剣で身体を支えながら立ち上がっている。

 そんなに怪我はないみたいで少し安心。私はすぐに目の前の相手に向き直る。

「てめえ、なんで邪魔する!」

 紅い子がかわいい顔を歪ませながら私を睨む。うー、なんかこれじゃあこっちが悪役みたいだよ。

 でも私がいる理由はある。

「友達が襲われたのと、危険物があるって聞いたからかな?」

 まあ、これはおまけ。本当の理由は、

「あなたたちが、なにか知ってるみたいだからね」

 私のルーツを知るかもしれない相手。それが一番の理由だ。

 久遠を構え直す。

「できたらお話したいけど」

「は! 話すことはねえ!」

 そう言って紅い子が突っ込んでくる。

 戦場で悠長に話すわけないのはわかってるしね。だから、

「捕まえて聞き出すよ!」

「やってみろ!」

 再び刃を交えて、

『全員離れろ!』

 クロノくんの念話に慌てて離脱する。

 次の瞬間、刃の雨が降り注ぐ。うわ、クロノくんやりすぎ……

 だけど、煙が晴れるとそこに、数本だけ刃の刺さった狼さん。クロノくんがあれだけ撃ったのに……

 と、そこで二つに気配がそばに現れる。よく知った気配。

「真打ち登場ね」

 私はぽそっと呟いて振り向けば、そこになのはちゃんとフェイトちゃんがいた。

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

『セーット・アップ!!』

 二人は待機中のデバイスを掲げて叫ぶ。だが二人は光の柱に包まれ宙へと浮かんだ、いつもと違う雰囲気に驚く二人。あれ? もしかして、マリーなにか失敗したの?

 だが、私の心配は杞憂だった。二人はその手にデバイスを持って―――って、あれ? よく見れば細部が違う。

 もしかしてパワーアップ!? いいなあそういうイベント。とりあえず、ここからは二人の出番だよねきっと。









 パワーアップしたレイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトを持って私たちは地面に降り立ちます。

 今回のエクセリオンはブレード形態が基本で、ちょっと柄が長くて鍔の当たりにカートリッジが搭載されてますが、振りやすいようデザインは考慮されています。

 なにより腰に鞘があるのはいいかも。一刀だけだけど御神の奥義に近いものもこれでできるますし。

 って、あれ、ユーノくんは? きょろきょろ周りを見ればユーノくんがあちこち傷だらけで身体を支えています。

 ……ほう? 

「私たちはあなたたちと戦いに来たわけじゃない。まずは話をきかせて」

 フェイトちゃんが静かに語りだします。本当は続きに私がヴィータちゃんたちに問いかけるんだけど、私は黙っています。

「あのさ、ベルカのことわざにこういうのがあんだよ」

 ヴィータちゃんが静かに語りだします。そして、顔を伏せながら私も口を開ける。

『和平の使者なら槍を持たない』

 沈黙、みんなの視線が私に集まります。

「でしょ? それに、それ小話のオチだよね?」

 ヴィータちゃんが顔を真っ赤にしてます。

「てめえ!」

 ヴィータちゃんが怒声を上げて、私が顔を上げると口をつぐみました。

「ユーノくんをよくもあんな目にあわせてくれたよね。覚悟できてるかな?」

 うん? と私が小首を傾げて尋ねると、ヴィータちゃんが少し身を引きました。ザフィーラさんも冷や汗をかいて、アルフさんが頭を抱えてガクガク震えていますが気にしません。

 その時、結界を破り、激しい轟音とともに紫の閃光が向かいのビルに落ちてきました。

「シグナム」

 さて、役者はそろったの。後はお姉ちゃんがうまくやってくれれば……

 まあ、そんなことより、ヴィータちゃんにお仕置きするのが優先なの。

『マスター、『カートリッジロード』を命じてください』

「うん・・・レイジングハート、カトリッジロード!!」

 がしゃんとレイジングハートにカートリッジがロードされ、魔力刃がより強く輝きます。

 さて、準備は完了です。

「行くよ!」

「はっ! きやがれ!!」

 私たちは飛び出しました。




~~~~
なのは過去(未来?)の夢を見るとユーノのデバイスの回です。
とりあえず、ヴィータご愁傷様。
コメントお待ちしております。



[14021] 第三十一話 お仕置きしちゃうの!
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/11/23 00:02
 ヴィータちゃんの鉄球が迫る。前はシールドで防いだけど……

 今回は私は御神の技を習っているから、このくらいの速度なら鉄球の動きが見える。

 レイジングハートを振るい、全ての鉄球を両断する。

「なに!?」

 ヴィータちゃんは驚くけど、誘導弾の使い方はよく知ってるし、なによりヴィータちゃんのことはよく知ってるから朝飯前なの。

 さらに、接近するヴィータちゃんの振るうラケーテンハンマーをレイジングハートで受け止めます。

 でも刃こぼれ一つも起きてない。思ってたより強くなってる。


「この程度でなに驚いてるの?」

 私の言葉にヴィータちゃんが顔を紅くする。剣を振ってヴィータちゃんを弾く。

『マスター、アクセルシューターを』

 うんレイジングハート。今度は私たちだね。

「アクセルシューター!」

 八つの誘導弾を展開する。

「多い?! だけどその数は制御しきれねえだろ!?」

『できます。私のマスターなら』

 楽勝なの。あと四個は行けるよ。

 アクセルシューターを飛ばすと、すぐにヴィータちゃんがバリアで防ぐ。だけど……

 私のシューターが何度もバリアを叩いてピシッと罅が入る。

「そこ!」

 すかさず罅に飛針を投げる。飛針が罅に突き刺さり、それをシューターで押し込んでバリアを砕く。

「なあっ?!」

 ヴィータちゃんはバリアが砕けると、驚きながら距離を取ろうとします。でもまだシューターは活きてるの。

 シューターの半分はまっすぐ、もう半分はバラバラに弧を描いて追いかける。

「ちっ!?」

 ヴィータちゃんが必死に避け、いくつかのを鉄球で相殺。そこに……

「しっ!!」

 切り込む。

「くっ!」

 私の剣を受けて弾くヴィータちゃん、私はその勢いを殺さずに後ろに動く。そして、ヴィータちゃんが追撃しようとしたところで、重力に逆らわずに下に落ちる。

 と、同時に私の背後から回り込ませたシューターが頭の上を通ってヴィータちゃんに向かう。

「この!」

 ヴィータちゃんはアイゼンでシューターを砕き、さらに、後ろから迫る最後の一発も避ける。

 私にまっすぐ迫るシューター。

「は、自分の魔法でやられやが」

 甘いの。私は剣を振りかぶり……

「ホームラン!!」

 剣の腹でシューターを撃ち返す。

「ウソだろお?!」

 勢いをましたシューターを避けきれず、肩に当たるヴィータちゃん。

 バランスが崩れた!!

「ディバイン……ソード!!」

 すかさず、私は光の大剣を振るう。

「ちいい!!」

 避けきれないと悟ったヴィータちゃんはカートリッジを消費して、バリアでなんとか受け止めるものの、光の圧力に押される。

 びしびしバリアに罅が入る。

「ぐううう!」

 ヴィータちゃんはなんとか私のディバインソードを防ぐ。流石は鉄槌の騎士。

 でも、まだ。まだ私の気は済んでない!

「ヴィータちゃんの……ばかああああああ!!」

 ソードを目暗ましに一気に接近した私は、魔力で強化した拳をバリアに叩きつける。

 そして、バリアは砕けて、私の拳はヴィータちゃんの顔に叩きこまれました。

「ぶっ!!」

 後ろに吹っ飛ぶヴィータちゃん。

 ユーノくんをブッ飛ばしたお礼は、剣や魔法なんかじゃなくて、自分でしなきゃ気が済まないの。

 まあ、三割はすっきりしたかな? さてと、あと七割しっかり償ってもらうの。








 時音Side

 私はクロノくんに頼まれて闇の書を持つ他のヴォルケンリッターのメンバー、または主自身を探しています。

 でも、それらしき人物は……

『時音、いた怪しい相手!』

 美由希の念話に急ブレーキを踏みます! いた?! どこ?

『マム、美由希さんの反応をサーチ、ここより北北西です』

 久遠の言葉に舌打ちするよりにもよって真反対か! 大慌てで結界を迂回しながら飛ぶ。

『美由希! すぐにいくから!』

『うん、こっちもクロノくんと協力して対象を捕縛……きゃっ!!』

 美由希!?

 慌ててスピードをさらに上げる。

 く! 念話が反応しない! ジャミングか、それとも出られないくらいの状況なの?!

 そして、私はビルのフェンスにめり込んだ美由希を見つけた。

「美由希!!」

 すぐに駆けつけて美由希を助け起こす。

「大丈夫美由希?!」

「あ、時音、ごめんヘマした。例のリンカーコア抜くので」

 話さないで! すぐに衛生班に……

 その時、背筋に悪寒が走った。

 咄嗟に美由希を抱えたまま『壊放』を使う。スローになる世界で私は振り返りつつ逃げる。

 色のない世界で、私たちに迫る貫き手。それを剣で弾き、回し蹴り気味のキックを叩きこむ。吹き飛ぶ相手。

 一度、壊放を解いて相手を見る。相手は仮面をつけた青年。恭也さんくらいかもう少し上の歳と当たりを付ける。

 油断なく構える男。だけど、少しふらついている感じがする。私の蹴りは急所に入ってないからそんなにダメージはないはず。

 ていうか、あれはどっちかというと酔っているようにも……

「貴様……なぜあれを使った?」

 と、突然、男が剣呑な声で私たちに問いかける。へ?

「く、誰にも我らの存在を気づかれていないと思っていたら、こんなところにイレギュラーが……」

 と男がぶつぶつとなにか呟く。

「ねえ、美由希、なにしたの?」

「わ、私はただ、なのはに『切り札』って渡されたものをばらまいただけで……」

 切り札? なにか、魔法に関する相手にダメージを与えるものでも持たせたのかな? 魔力を阻害したり、吸収したりとか……

 男は仮面越しだが、私たちに殺気のこもった目を向ける。

「本当なら、貴様らを始末したいがやむを得ん。時間もないしな……」

 そう言って男が上を向くのに釣られて上を見る。結界の上空に大きな雷雲、そこから怖いくらい強い力を感じる。

 や、やばいよね。すごく……

「美由希、しっかりしがみついててね」

「うん」

 たぶん範囲外なんだろうけど、こっちは怪我人もいるから念のため……全力で逃げる!!

「全速力!」

『OK!!』

 私はわき目もふらずにその場を離れた。









なのはSide

 上空に強い魔力反応を感じて見上げると、そこに大きな雷雲。あ、もうこんな時間。ヴィータちゃんへのお仕置きに熱中してて全然気が付かなかった。

 うう、まだ六割しかすっきりしてないのに……まあ、でも、やっとくことはやっとかないと。

「私は高町なのは! あなたの名前は?」

 私の突然の問いかけに、騎士甲冑がぼろぼろのヴィータちゃんはびくっとなる。

「て、鉄槌の騎士ヴィータだ! 次は絶対に私が勝つからな! 覚えとけ!!」

 涙目になりながらヴィータちゃんは飛んで行きました。

 さて、私も。他のみんなに合流します。そして、防御魔法で雷を防いでから、ユーノくんに向き合います。

「ユーノくん、大丈夫? これ何本に見える?」

「お、落ち着いてなのは、ちゃんと五本に見えるから!」

 ああよかったの。怪我も目立ったものはないし。って、あ。

「ユーノくん、血が……」

 額から血が少し出てました。

「あ、少し切っただけだから、ほっとけば……」

 私はその言葉の途中でユーノくんの頭を掴みました。そして、傷口に顔を近づけて……

 ぺろ。

 舐めました。舌に鉄の味が広がります。

「な、なのは?!」

 ユーノくんがバタバタ慌てますが、傷口には唾を塗るもんです!

 さらにぺろぺろ舐めます。はふう、血ってこんなにおいしんだ。忍さんがたまにお兄ちゃんの血を舐めてた気持ちもわかるの。

 フェイトちゃんは真っ赤になって手で顔を覆いながらも、ちらちら指の隙間から見てます。ふっふっふ、もっと見て。私がユーノくんに唾を付ける様をしっかり見ておくの。

「君たちはなにしているんだ?」

 呆れたようなクロノくんの声。

「なのはちゃん……消毒はアルコールじゃないと!」

「時音、つっこみどころが違う……なのは、それは流石に変態ぽいよ?」

 さらにお姉ちゃんを抱えた時音さんも来たため、ユーノくんから口を離しました。うん、もう止まってるからいいの。









 そして、私たちは駐屯地、つまりフェイトちゃんの家へと戻りました。

 リンカーコアを盗られたお姉ちゃんはすぐに救護班によって治療を受けることとなりました。大丈夫かな?

「いい? 時音の時も説明したけど、カートリッジシステムは扱いが難しいの」

 そして、私たちはエイミィさんにデバイスの諸注意を受けていました。

 二機の決意、『私』の記憶の中にもあるけど、やっぱり嬉しいです。

「ありがとう、レイジングハート」

『All Right』

 お礼を言って説明を聞きます。

「モードはそれぞれ三つずつ。レイジングハートは接近戦のブレードモードと遠距離のバスター、フルドライブはエクスカリバーモード」

 え? エクスカリバー?

「エクセリオンじゃないんですか?」

 私の問いにえ? とエイミィさんが首を傾げます。

「なんで元のモードの名前を知ってるの?」

 ま、まずい!

「え、えっと……ほら! レイジングハートの新しい名前だから、てっきりフルドライブの名前かなって!」

 ああ、とエイミィさんが納得します。

「元はなのはちゃんの言う通り、フルドライブのモード名が機体名だったみたいだけど、今回、仕様がなのはちゃんの場合、ブレードだから、名前もそれに合わせて変えようってことになったの」

 まあ、機体名はエクセリオンの方がよさそうだからそのままだけどとエイミィさんが笑って、説明に戻ります。

 が、私はそれを聞き流し、じっとレイジングハートを見つめます。

 エクスカリバー、この地球では知らない人がいないくらい有名な聖剣の名前……

 前の『私』は悲しみと憎悪に飲み込まれて復讐に走りました。その記憶を持つ私が聖剣の名を持つ力を持っていいのかと、少し躊躇います。

 でも……今回の私はそうならない、聖剣にふさわしい担い手になれるのかな?

「がんばるよ。レイジングハート」

 新たな決意を私はそっと呟きました。

 



~~~~
新モードエクスカリバー登場!
いやー、なのはがブレード使うこと決めてからやりたかったんですよ。ポータブル編ははやてのマテリアルとエクスカリバー対決かなあ。(やるかは未定)
エクセリオンと機能自体はさほど変わりません。遠距離仕様か、近距離仕様の差です。
さて、美由希のリンカーコアも取られ、これからどうなるでしょうかね?



[14021] 第三十二話 本当にそういうものだったの?
Name: 空の狐◆194a73d1 ID:b50a47bc
Date: 2010/11/21 11:49
 デバイスの説明を受けた後、クロノくんのヴィータちゃんたちがプログラムでできた疑似人格であることを説明しました。

 そして、その言葉にフェイトちゃんが反応します。

「あの、 使い魔でも人間でもない擬似生命っていうと、私みたいな……」

「違うわ!!」

 リンディさんが否定します。

「フェイトさんは産まれ方が少し違っていただけで、ちゃんと命を受けて産み出された人間でしょ?」

 と、リンディさんがフェイトちゃんに言い聞かせます。

 でも、なんかその説明は納得できません。リンディさんはそんなつもりで言ったんじゃないんだろうけど、ヴィータちゃんたちは私たちとは違う命がないみたいに言われた気がして。

 でも、その不満を今ぶちまけるわけにいかず、呑みこんで説明を続けてもらいます。

 今はそれでいいから。私は知ってる。ヴィータちゃんが不器用だけど、本当はとても優しい子なんだって。

 それから、クロノくんが説明を続けます。

「守護騎士達は、闇の書に内蔵された守護騎士プログラムが人の形をとったもの。闇の書は転生と再生を繰り返すが、この四人はずっと闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」

「意思疎通のための対話能力は過去の事件でも確認されてるんだけどね、今回みたいに感情を見せたのは初めてだよ」

 と、エイミィさんが補足します。

 まあ、今までの主が主だけにそういう感情を見せなかったっていうより、なかったんだろうね。

 そう考えるとはやてちゃんってすごいの……

『ふーん、そうだったんだ。でも、彼女たちすごく感情的な部分があるよ?』

 と、臨時の医務室にいるお姉ちゃんがモニター越しに呟きます。それにフェイトちゃんも頷きます。

「うん、私もそう思います。シグナムからもはっきり人格を感じました。なすべきことがあるって。仲間と、主の為だって……」

 そう、彼女たちは主の、はやてちゃんのために行動している。

 でも、皮肉なことに、それがはやてちゃんにとって終わりを近づけることになるなんて。なんか悲しくなります。

 そして、説明が終わった後、

「でも、闇の書って元からそうだったのかな?」

 私は一つ疑問を投げかけてみました。

「そうだったってどういうこと?」

 すぐにユーノくんが反応しました。あう、まだユーノくんの顔をちゃんと見れません。

 うう、なんでユーノくんは普通に私の顔を見れるの?

「その……スゴく危ないものってわかったけど、本当にそれが目的だったのかなって」

 みんなが私に注目します。

 えっと、なんかしゃべりづらいの。

「ジュエルシードの時も思ったんだけど、本当はもっと人の為に創られたんじゃないのかなって」

 それは、闇の書が元は夜天の書という別のものであることを暗に伝えたいという思いと、前から私が抱いていた疑問でもあります。

 ジュエルシード、次元干渉型エネルギー結晶体であり願いを叶える宝石。だけど、叶える願いは本来のものからねじ曲がってしまいます。

 でも、それは創った人はあんな風になるなんて思いもしなかったんじゃないかって。本当はもっと純粋に人の望みを叶えるために創ったんじゃないかって。

「今は危なくても、本当は人の善意が籠もってたものじゃないかって思ったんです」

 みんなは黙って私の話を聞いてくれました。

 そう、信じたい。『私』の作ったタイムマシンと違って利己的な目的じゃないと。

 少なくとも闇の書、ううん、夜天の書は元は多くの人の魔法を記録するためのものだったのだから。

「そうだとしても、今は危険なものであるのは変わらない」

 クロノくんが静かに口を開きます。

 そうだね。元が何であれ、止めなきゃいけないのは変わらない。ユーノくんに私の言いたいことが少しでも伝わればいいから。

「それにしても、闇の書についてもう少し詳しいデータが欲しいな」

 そう言ってクロノ君は私の隣にいたユーノ君に近づいて言います。

「ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」

 明日って……学校いきなり休ませるんだ。

「ん? 学校あるけど、まあ大丈夫かな」

 と、ユーノくんが頷きます。

 もう無限書庫かあ。ユーノくんが闇の書が本来は夜天の書ってことを調べてくれたら、もう遠慮せずにヴィータちゃんたちの本拠地を教えられるし、もう少しの辛抱なの。

 まあ、私は別の用事もあるし、ちょうどいいかな。

「時音さん」

 私は時音さんに声をかけます。

「なあに、なのはちゃん?」

 私はふうっと息を吐きます。

「明日から少し練習に付き合ってくれませんか?」

 私の頼みに時音さんが目をぱちくりします。

「へ? いいけど、魔法はなのはちゃんの方が先輩でしょ?」

 まあ、確かに魔法に関してはそうだけど、今度のレイジングハートは近接戦仕様、それにカートリッジのパワーが加わると意外とパワーに振りまわされて扱いづらかったです。よくフェイトちゃんはあっさり順応できたの。

 というわけで、ここは剣術家であり、カートリッジを搭載した久遠を使う時音さんにみっちり鍛えていただきます!

 そして、帰り道でメールが届きました、開けるとすずかちゃんが新しい友達とはやてちゃんを紹介するものでした。

 はやてちゃん、もう少し待っててね。きっと何とかするから。

 まあ、『私』の友達ということを除いても、はやてちゃんにはこれからもいてもらわなくちゃ困るしね。










<美由希Side>

 検査を終えた私は臨時の医務室(ハラオウン家の空き寝室)でのんびりしていた。

 元から私のリンカーコアはなのはや時音に比べて小さい分、身体への負担は小さいらしい。

 まあ、それでもちゃんとしばらくは安静にしておくように言われてるけど……身体動かせないのは少し辛いなあ。

 と、そこで誰かがドアをノックした。

「ん? 誰?」

『クロノです。今いいですか?』

 クロノくんか。たぶんあの事だね。

 いいよと言うとクロノくんが部屋に入ってきた。

「すいません。あの時の襲撃者のことなんですけど」

 やっぱりね。予想通りのクロノくんの言葉に私は頷いた。

「あの襲撃者はあなたが振りまいたもので動きが鈍りました。あなたはいったい何を使ったんですか?」

「はいこれ」

 私は棚に置いといた袋を渡す。

「これは?」

「なのはにもらった切り札だよ。これを振りまいたらいきなり動きが鈍ったんだ。まあ、二人がかりだったから結局やられちゃったけど」

 事前になのはが『変な人に襲われたらこれ使って』って手渡してきたんだよね。半信半疑だったけど、効果は覿面。いったい何の粉かな?

「二人?」

 ああ、気づいてなかったんだ。

「うん、クロノくんを蹴り飛ばした奴以外にももう一人いたんだ。私それに気づかなくて後ろからの攻撃でやられちゃった」

 同じ姿だったけどはっきりわかっている。一人を相手していたらいきなり後ろから攻撃受けたんだもん。

 リンカーコアを抜かれるって思ったよりもきつかったなあ。私よりも大きいっていう時音が倒れたのもなんか納得。

 と、そこでクロノくんが顎に手を当てて考え込んでいることに気が付いた。

「どうしたの?」

「いえ、ありがとうございました。僕はここで失礼します」

 そう言ってクロノくんは部屋を出る。

 なんというか、歳に反して本当にしっかりしてるよね。さすが管理職。エイミィもがんばって彼を支えてあげてね。

 ふうっと息を吐く。相手がいなくなった私はベッドに再び倒れ込んで眠りに付いた。










<シグナムSide>

 帰還するとヴィータが目じりに涙を溜めながら震えていた。

 はあ、とため息をつく。

「どうしたヴィータ? 鉄槌の騎士ともあろうものが情けない」

「うるせえ! あいつの相手をしたあたし以外にわかってたまるか……」

 大声で反論され、少し面食らう。

「あいつの攻撃ほとんど急所狙いだし、変な針みたいなので目を狙って、外れたら舌打ちして、その上バリアの上からでもダメージを通すし、ていうか、何だよあの目! あの歳で、なんであんな目できるんだよ!? 今まで見た誰よりもこええよ!!」

 叫びながら震えるヴィータ。

 あのヴィータがここまで怯えるとは……あの高町という少女はそんなに恐ろしい相手なのか?

「そういえば、俺の相手をしていた守護獣も頻りに『なのはさんを怒らせるなんて』とお前のことを心配してたな」

 ザフィーラが渋面で唸る。確かその守護獣の主であるテスタロッサも「あの子、大丈夫かな?」と言っていたが……仲間内でも恐れられているのか?

 少々だが今後のことが不安だな。

「えっと、とりあえずご飯にしましょ? せっかくはやてちゃんが用意してくれたんだから」

 と、シャマルが沈みかける私たちを見咎めて提案した。

 ただ、ヴィータだけはあまり箸が進まなかったことだけ記しておこう。










 食事を終え、思い思いに身体を休める中、私は庭に出ていた。

「ソフィア、いやトキネか……」

 思い出すのは先の戦いにいた友にそっくりな一人の少女。

「シグナム」

 声をかけられ振り向くと、シャマルも庭に出てきた。

 そして、私の隣に並ぶ。

「やっぱり彼女のことを考えてるの?」

 シャマルが心配げに私の顔を覗きこむ。

 やはりお見通しか。小さく笑う。

「ああ、ソフィア殿とそっくりだったからな。つい気にかけてしまう」

 かつて同じ主に仕えていた友の面影を重ねてしまう自分がいる。

 まったく、テスタロッサといい今回の相手はどうもやりづらい。

 そう、とシャマルは笑う。

「でも、彼女なわけはないんだから、そこはあなたも」

「わかってる」

 そう、わかっている。なにせ彼女の最後は我々がちゃんと看取ったのだから。そして、あの戦いの結末も。

 夜空を見る。綺麗な夜天が広がっている。

「懐かしいな。ソフィア殿と共に戦場を駆けた頃が」

 それは遥かな昔。それこそベルカ戦乱の時代まで戻ることとなる。

「そうね。私もあの時のことは鮮明に思い出せるわ。なにせはやてちゃん以外で本当に仕えたいと思えた主だったもの」

 シャマルの言葉に頷く。

 ああ、懐かしい。彼女の元で戦った日々が。

 彼女は我々を道具扱いしなかった。我々を仲間として扱った。共に戦場を駆け、共に喜んだ。

 最初は我々を信用しなかったソフィア殿もいつしか我らを仲間と、友と呼んでくれた。

 主はやてと過ごした日々とはまた違う、騎士として充実した日々があった。だが、その彼女も……

 頭を振り、その思考を払う。今度はそうはならない。いや、させない。

「今度こそ、今度こそは私たちは最後まで主を護る」

「ええ、今度こそはね」

 私の決意にシャマルは頷いた。そうだ、もうあの時のような思いはしたくないのだから。

 そのためなら私は、たとえ泥の中で果てようとも構わぬのだから。





~~~~
なのは疑問を投げかける&ぬこ正体バレフラグ&守護騎士たちのお話。
だいぶオリジナル色が強くなってきたかもです。
とりあえず、みなさんがご想像の通り美由希が使ったのは粉末にしたマタタビです。
酔いはしなくても少しだけは影響受けるかなあと。
でも、ぬこ捕まったらこれからどうしようかな?



[14021] 第三十三話 思い出して!
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:b50a47bc
Date: 2010/12/09 22:07

 ユーノくんが無限書庫に言ってしまい、私は時音さんと特訓をしていました。

「レイジングハート、カートリッジロード!」

『All right!』

 カートリッジをロードして私はレイジングハートを振ります。

「ディバインソード!」

『ディバインソードEX』

 カートリッジに強化され、普段より長大な刃が伸びますが、時音さんはあっさり避けます。

「ほらほら、またパワーに振り回されてるよ?」

 そう指摘しながら時音さんは一気に間合いを詰めます。

 閃く久遠、私はレイジングハートで受けます。

 やっぱり時音さんは強いです。接近戦ではちょっとかなわないかも。その証拠に時音さんは手加減のつもりか、片手で剣を振っていますし。

 うう、自分の未熟さが悲しいです。でも!

 私はこの前の感覚を思い出します。うん、いける!

 神速!

 周りの動きがスローになります。やった、できました!

 私は時音さんの剣をかいくぐり懐に入ろうとして、時音さんの動きが元の速さに戻りました。時音さん壊放を使ったの!?

 そして、時音さんは一歩下がってレイジングハートに久遠を絡めて、レイジングハートを弾きました。

 さらに時音さんのフリーだった左手が動いて……

 ぱちん!

 音が聞こえない世界で確かに聞こえました。

「にゃっ?!」

 デコピンされた額を抑えます。うう、痛いです。そういえば、最近、徹を覚えたって言ってたけど、もしかして籠めてませんか?

「はい、しゅーりょー、魔法は出力に振り回されるのが課題ね。あと、その年で神速を使えるのはちょっと驚いたけど、体ができてないうちの多様は控えることね」

 と、時音さんが笑います。うう、驚かせたかったのに……

「じゃあ、練習はここまで。そろそろ定期報告の時間だし、いったん家に戻ろうか?」

 はーい。








 で、家に帰ればユーノくんの報告がありました。

『なのはの言ってた通りだったよ。闇の書はもともとあんなものじゃなかった』

 無限書庫で周りに多くの本を漂わせながらユーノくんが話します。

『本来の名前は『夜天の魔導書』、本来の目的は主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージデバイスだったみたいだけど、歴代の主の改変のためにああなったみたいだね』

 うーん、聞くのは二度目だけど、それって……

「改変って言うより改悪なんじゃ……」

 ユーノくんの言葉に時音さんがボソッと呟きます。

 確かに制御できないんじゃあねえ。それにしても、元は研究道具がよくあんな破壊兵器に変貌したの。

 と、その時警報がなりました。

『ヴォルケンリッター発見! 至急対策チームは……』

 その報告に私は時音さんと頷きあって、転送ポートに向かいました。






 時音さんと一緒に現場に向かう途中、

「時音さん、フェイトちゃんの方をお願いできますか?」

 と、頼んでみます。

「えっ? 一人であの子のところに行くの?」

 私は頷きます。

 フェイトちゃんはシグナムさんとの戦いで不意を打たれてリンカーコアを抜かれてしまいます。

 だけど、それは困ります。ここで猫の片方を生け捕りにしてから、私たちははやてちゃんのところに行くんだから!

 というわけで、時音さんにはフェイトちゃんの救出に向かっていただきます。

「だ、大丈夫だよね?」

 時音さんが心配そうに聞いてきます。

「大丈夫です! お話するだけですから!」

 私はぐっと大丈夫だとアピールします。だけど時音さんは、

「あ、その……なのはちゃんも心配だけど、私が心配なのはヴィータちゃんの方なんだ」

 時音さん、それってどういう意味で……よしましょう。答えを聞いたら、なんとなく悲しくなると思いますから。

 というか、最近の私の扱いが酷いの……

 そして、私たちは二手に別れました。

 待っててヴィータちゃん! そしてぬこは、

「お姉ちゃんの分も敵討ちなの!!」

 天から私を見ててね。お姉ちゃん!

『私、まだ死んでないよ?!』

 モニター越しにお姉ちゃんが叫びました。

 あ、聞いてたの?







 そして、なんとか前の『私』と同じくヴィータちゃんと会えました。

「お、お前、確か高町あくま!」

 ええっ?!

「私はなのはだよ! な、の、は!!」

 ひ、ヒドいよヴィータちゃん! 悪魔って呼ぶのはもっと後でしょ?!

 うう、傷ついたの。だからユーノくん、帰ったら慰めてね。

 まあ、気を取り直します。

「こ、この前の続きか? う、受けて立ってやる!」

 がちゃっとアイゼンを向けるヴィータちゃん。

「違うよ? 今日はお話に来たの」

 私はデバイスを鞘に納めます。和平の使者は槍を持たないんだもんね?

「……話?」

 訝しげにヴィータちゃんは構えを緩めます。

「うん、お話。ねえヴィータちゃん、なんでヴィータちゃんたちは闇の書を闇の書って呼ぶの?」

 私の言葉にヴィータちゃんがいぶかしげに眉をひそめます。

「はっ? それが名前だからに決まってるだろ?」

 私は首を振ります。

「ヴィータちゃんは忘れてるよ。闇の書が本当はなんだったか。本当の名前を」

「なに?」

 ヴィータちゃんのアイゼンが降ります。

「闇の書の本当の名前は」

「それ以上言わなくていい」

 その声にとっさに攻撃を防ぎます。やっぱり出てきたのリーゼ姉妹!

 私とヴィータちゃんとの距離が離れます。

「早く行け」

「お、おう」

 戸惑いながらもヴィータちゃんは転移魔法を使います。

「思い出してヴィータちゃん! あなたたちは本当は夜天の守護騎士だったことを!」

 私の声が届いたかわかりません。ヴィータちゃんの姿と魔法陣は消えていたから。

 まあ、いいです。私の目的は最初からこっち。

「これ以上邪魔しないでもらおうか」

 敵意を隠さずにリーゼさんが私を睨みます。

「邪魔なのはそっちでしょ?」

 まったく、あまり場を荒らさないでほしいなあ。あなたたちがいなければもう少しスマートに終わったかもしれないのに。

 まあ、『私』も同じ。復讐のために周りの人を振りまわしたから、人のことはあまり言えないけど。

「あなたは敵だ」

 私は飛び出しました。








時音side

 なのはちゃんと別れてからだいぶ飛んでいます。砂漠って遠近感がなくなりそうだね。それにしても、いくつもの星が空に浮かんでるって、いかにも異世界って感じで、もうちょっとゆっくり見たかったかも。

 まあ、そんな感想は置いといて、たぶんフェイトちゃんたちがいるのはここら辺のはずなんだけど……

 そこで見つけました。シグナムと仮面の男と……胸から腕の生えたフェイトちゃんを。

 あれって、蒐集? やばい!!

「必殺! 天槌!!」

 アドリブで名前を付けながら突撃する。

「ちっ!?」

 仮面の男がフェイトちゃんの胸から手を引く。

 どしゃあ! っと私を中心に砂が撒きあがります。うー、口ん中に砂入ったよお。じゃりじゃりして気持ち悪。

「ぺっぺ、フェイトちゃん大丈夫?」

 助け出したフェイトちゃんに声をかけます。

「は、はい……」

 フェイトちゃんが弱々しく頷く。

 むう、私もわかるけど、リンカーコア取られるの辛いもんねえ。

 私はフェイトちゃんを抱きかかえる。

「シグナム、あなたがそんなことをする人間とは思いませんでした」

 明らかにあの状況は二対一もしくは不意打ちを食らった相手に蒐集をしたとしか見えない。

 シグナムが視線を逸らす。やっぱりそういうのは本位じゃなかったんだね。でもまあ、

「そんなことしてあの子になんて言うの? きっと、「シグナム、私を言い訳にしないでね」ってまた言われるよ?」

 私は呆れながら肩を竦めて……あれ? なに今のセリフ。なんか自然と出てきたんだけど。

「ソフィ、殿?」

 シグナムも目を見開いて私を見ます。その時、仮面の男が動きました。

「貴様はやはり消す!」

 咄嗟に、ばっと私はクロノくんがくれた秘密兵器をバラまく。

「必殺! マタタビアタック!!」

 マタタビの粉末がばらまかれる。

「はっ! 何度も効くと思うな!!」

 仮面の男が粉を払う。

 まあ、そりゃそうだよね。でも……

「やっぱりマタタビなんですね?」

 今の発言はサーチャーを通してクロノくんに回っている。

 マタタビが聞くか試してほしいって言われたときは首を捻っちゃったよ。

 まあ、容疑者を搾りたいって言った時はずいぶん苦しそうだったし、なにかあるんだろうね。

「久遠!」

『イエスマム!』

 カートリッジが、がちゃんとロードされる。

「ドラグ・スレイブ!」

 カートリッジをロードした抜き打ちのドラグ・スレイブを地面に撃ち込み、大きな土煙が上げます。

 二対一で勝てると思わないし、フェイトちゃんもお医者さんに見せないといけないしね。

 私は、ばんと地面を蹴って空中に浮かぶ。本当はもう少しシグナムと話したかったけど……

「全力で逃がしてーー!!」

 私はなんか、最近私活躍ないなあと哀しくなりながらも、全力で逃げました。






 

なのはside

 私はリーゼさんに斬りかかる。が、身を逸らしてリーゼさんが避ける。

「戦うつもりはない!」

「なら、大人しく出頭してください!」

 私はステップを踏みながらシューターを撃つ。

「それは、できん!」

 迫る拳を弾いて、再び一歩踏み込んで斬り込む。

 近接戦はあまり得意じゃなさそうだから、たぶんリーゼアリアさんの方かな?

「だが、もうすぐ闇の書は封印される!」

 ええ、あなたたちの予定ならそうなるんでしょうね。それも、

「女の子一人犠牲にしてですか?!」

 私の言葉にリーゼさんの動きが止まる。

 チャンス!

 神速を使って飛び出す。体がみしみし言うけど、無視する。

 見よう見まねの……

「奥義之壱 虎切!」

 私の剣がリーゼさんを打ちすえました。






 気絶したリーゼさんをバインドでぐるぐるにした状態でみんなと合流します。

「捕まえたよー」

 私の一言にみんなが驚きました。

「本当か?! 怪我は?」

 クロノくんが大慌てでリーゼさんに駆け寄って怪我を確認……ってそっちなの?!

 それから、時音さんが、

「なーのはちゃーん」

「あ、時音、ざば!!」

 またデコピンされました。うう、やっぱり徹こもってるよね?

「また、神速使ったでしょ?」

 めっ! っと時音さんが私を叱ります。

 な、なんでわかったのかなあ……恐るべし時音さん。 

 そして、クロノくんが仮面を取ると、自然とリーゼさんの変身魔法が解けました。

 長い髪……やっぱりアリアさんの方だったんだね。

「リーゼ……やっぱり」

 クロノ君が苦虫を噛み潰したような表情で呟きました。

 そうだよね、クロノ君にとってお師匠さまなんだっけ。

 つらそうにアリアさんを見つめるクロノくんに私は声をかけられませんでした。







 それから、リーゼアリアさんはアースラまで護送され、尋問を受けることになりました。

 蒐集を受けたフェイトちゃんの方は、途中で時音さんが割って入ってくれたおかげですぐにでも回復できるそうです。よかったあ。

 そして、私はフェイトちゃんの看病をしながら、後はアリアさんが口を割ってくれればと思ってました。

 まあ、アリアさんからなんか言われるかもしれないけど、ごく自然に闇の書の所在わかるもんね。

 そう、期待していたら、

『大変、大変! 時音のシグナルがロストしちゃった!!』

 エイミィさんの叫びが響き渡りました。



~~~~
アリア逮捕です。
ちょっとずつ変わり始めたA,s
次回は時音がメインです。



[14021] 第三十四話  見つけちゃった……
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/01/15 10:26
時音side

――こっち……

 リンディさんたちがリーゼさんの事情聴取をしている間に外に出たら、ふと、声が聞こえた気がした。

 なに? なんだろうこの声、どっかで聞いた気がする。

 私は自然とその声に導かれて歩き出した。






 導かれ進むと、少しずつ声が強くなっていく。

−−こっちだ。こっちに来てくれ。

 念話に似たそれ。いったい何なんだろう?

−−ここだ。

 そして、私はある家の前まで来た。なかなか立派な家で、表札には『八神』とある。

 えっ? 八神?

 私は戸惑う。私には一人だけ八神の名の知り合いがいる。

 八神はやてちゃん。まさか彼女の家……そこまで考えて頭を振る。そんなわけないよ。

――入れ。

 それだけ言ってその不思議な声は消えた。あ、ちょっと!

 もう、なんだったの?

 私は少しの間悩んでから、インターホンを押す。

 少し待つとスピーカー越しに声が戻ってきた。

『はーい、どちら様ですか?』

 あれ、なんか聞き覚えがあるんだけど……

「あ、ここ八神はやてちゃんのお宅ですか? 友達の黒野時音です」

 間違っていてと願いながら訪ねる。少しして、

『……少々お待ちください』

 少し堅くなった声が返ってきた。

 ドアが開くとそこに……えっ?

「よくここがわかったな」

「シグ……ナム?」

 とラベンダーのきれいな髪と鋭利な美貌の女性、シグナムがそこにいた。









 入れとシグナムに言われて家に入ると、はやてちゃんが笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは時音さん! なんでうちがわかったの?」

「あ、たまたま……そう、たまたま八神の表札があったからもしかしてと思ってねえ!」

 なんとか言い訳を言うけど、ぶっちゃけ怪しいよねえ? 知ってる名前だからって普通上がらないでしょ~?

 ほ、本気モードならもっとマトモな言い訳できるもん!

「そうなんですか。ささ、上がってください。突然ですけど、お茶くらい用意しますよ?」

 あ、信じてくれた? よかったあ。








 そしてリビングにまで案内されて、私は突き刺さる視線に必死に耐えながらお茶を飲んでいた。

 はやてちゃん以外の歴戦の騎士たち全員が私を睨んでいるのだ。お茶が喉を通るだけでも自分を誉めたい。

 狼さん足元にこないで。噛まれるんじゃないかってすっごい怖いから……

「あ、そうだはやてちゃん約束のお勧め本。気に入ってくれるかわからないけど」

 とっさに、また会った時のためにと、携帯していたお気に入りの本をカバンから取り出す。

「え? 覚えとってくれてたの? ありがとうございます」

 はあ、はやてちゃんの笑顔に癒される。

 でも、

「あの、睨むの止めてくれないかなあ?」

「睨んでねーですよ。これが普通なんですよ」

 つっけんどんなヴィータちゃん。うう、やっぱり私悪役……

 そしたらヴィータちゃんがはやてちゃんに怒られた。

「こら、ヴィータ。お客様になんて態度とっとるんや」

 だけど、と言うヴィータちゃんにめっ! と言うはやてちゃん。

『で、なにしに来た?』

『私の結界が反応しなかったけど、どんな手品使ったの?』

 シグナムと……えっと、そう言えば名前知らない。とりあえずリンカーコア取られたから、ぶちまけさんとしておこう。

 二人が私に念話で問いかけてくる。

『何しにって……変な声に呼ばれて、それで来たんだけど……結界は知らないよ。バグでも起こしてたんじゃないの?』

 シグナムたちが黙り込み、

『ふざけてるのか?』

 シグナムの目が細くなり、叩きつけられる気がより鋭敏化する。

『な訳ないよ! こんな状況でふざけられるわけないでしょ?!』

 必死に返す。実際わからないことばかりだし。

 ふう……

 お茶を飲んで落ち着いてから、意を決して聞く。

『この子が君たちの主なんだね』

『……』

 沈黙が返ってくる。それが雄弁に答えを語っていた。

『そっか、この子の為だったんだ』

 はやてちゃんを見つめる。はやてちゃんは優しいから、そんな命令をするわけがない。足が動かないという現実に苦しめられても、それでも、前を向いて生きている。

 きっと彼女は蒐集をすることすら許さない。だって、優しいから。

 そして、なにがあったか知らないけど騎士たちはきっと、主のために、はやてちゃんのために、主の意向を反故したんだ。

 黙ってあの子のために。主への背信行為に心を痛めながら。

『優しいんだね』

 私はシグナムとぶちまけさんに微笑む。

 二人は、居心地が悪そうにそっぽを向いた。










「じゃあね時音さん」

「うん、またねはやてちゃん」

 はやてちゃんに見送られ家を出る。

 そして、はやてちゃんの家が見えなくなる距離で止まる。

「このまま……ってわけにはいかないんだよね」

 私は目の前にいる三人の守護騎士に悲しく微笑んだ。








 隔離結界が展開し、お互いにデバイスと騎士甲冑を纏う。

「こんな形でなければ、よき友になれたのだがな」

 シグナムがレヴァンティンを構える。

「あと少しなんだ……邪魔すんじゃねえ!」

 ヴィータちゃんがアイゼンを突きつける。

「すまん」

 狼さんが拳を握りしめる。

 私も久遠を構える。

 シグナムの言う通り、こんな形じゃなかったらきっとなれた。平和にはやてちゃんから四人を家族として紹介されて、嫌がられながらもヴィータちゃんの頭を撫でて、シグナムと一緒に稽古して、狼さんをもふもふして……

「今からでも、話し合う余地は、歩みよることは」

 だから、私は三人に引き返す道を送りたくて言葉を続けるけど、

「ごちゃごちゃうるせえ! 敵なら敵らしくしろ!」

 ヴィータちゃんの怒声に苦笑する。

 敵になりたくはなかったんだけどなあ……

 ああ、そうだ。

「最後に聞きたいんだ。あなたたちの言うソフィアって誰?」

 もしかしたら、その人が私の……

「……かつて、ベルカの戦乱の時代に我らとともに主に仕えていた友のことだ。お前と、瓜二つだ」

 シグナムが答えてくれる。そうなんだ。戦乱の時代……きっと、ずっと昔だからたぶん私のご先祖さまかな。

「あいつと同じ顔、同じ声で……やりずれえよほんと」

 ヴィータちゃんが愚痴る。

 ごめん。でも、

「私はここで終わるつもりはないよ。久遠、二之太刀!」

『イエスマム!』

 二刀流形態の久遠を構える。

 私はちゃんと自分のルーツの真実を知りたい。これが終わればなにかがわかるかもしれないから。

 そして、私たちはどちらからともなく動いた。

「らあ!」

 ヴィータちゃんの鉄槌を一歩下がって避ける。さらにシグナムも斬り込んでくる。

 飛んで逃げようとして、狼さんが迫る。拳をなんとか受けたけど、再び地面に足をつく。

 さすがに三人相手は!

『マム、即時撤退を推奨します』

「できると思う?」

『いえ』

 お利口さん。とにかくみんなが来る時間を稼がなくちゃ!









 私は三人からの猛攻をギリギリで防ぐ。

 本来なら、一対一を是とするであろう三人だけど、そういうわけにはいかないってことだね。

 必死に三人の攻撃を捌く。壊放は緊急時にしか使わない。あれは、体力や精神力を大幅に削る。

「おらあ!」

 迫る鉄球をクナイで撃ち落とし、剣で切り裂く。

「はっ!」

 狼さんの拳は肘に展開した防御壁で受けてクリーンヒットを防ぐ。

「しっ!」

 さらに両の剣でシグナムの剣を流す。

 両手でも受けるには重い一撃に、腕が痺れそうになる。

 そして、下がる瞬間に壊放を使い、私も動く。

 逆手に持ち、下段から振った剣の切っ先を地面に潜らせる。

 重い圧力を抜けて放つのは地面を使った抜刀術、秘剣地雷!

「はっ!」

 シグナムを狙った一撃だけど、割って入った狼さんのバリアに防がれる。

 そして、狼さんの影から飛び出したシグナムの剣を私は両の剣で受けて……横手から割り込んだ鉄槌が左手の剣を叩いた。

「っ!?」

 久遠の片割れが弾かれる。

 そこをシグナムは押し切ろうとして……剣を持ちかえて右手を振る。

 ぴっと騎士甲冑が裂ける。

「なっ?!」

 私の指先には薄く血。動揺した隙をついてすぐに後ろに飛び去る。

 今のは指刃、指先を刃にする技で緊急時の奥の手。

 魔力で強化してみたけど、指だから威力は低いの変わりないし、切れ味もそこそこ。

 今みたいな武器がない状況くらいしか使えないびっくり芸だよ。

「久遠!」

 久遠の片割れを呼ぶ。飛んできたそれを取り構える。

 さて、もう贅沢は言えないかな?

 体力も魔力も残り僅か。クナイはもうないし、左腕は痺れて感覚があまりない。次を凌げるかな……

 ぐっとシグナムたちが飛び出そうとして、そこで、赤い光が私たちの間に突き刺さった。

 なのはちゃんの魔力光!

 上を見ればそこにレイジングハートを構えたなのはちゃんがいた。

 助かった……

 私は軽く息を吐き出しました。







「大丈夫ですか時音さん!!」

 なのはちゃんとユーノくんが降り立つ。

「うん、なんとかねえ」

 私が笑う。

「心配しましたよ?」

「もう、大丈夫です」

 そう言いながら二人はそれぞれの相手、なのはちゃんはヴィータちゃん、ユーノくんは狼さんに向かう。

 さてっと、

 ヴィータちゃんをなのはちゃんが、狼さんをユーノくんが相手してる間に、私は再びシグナムに対峙する。

「せめて、決着を」

 鞘に剣を納めての抜刀の構え。

 木霊流奥義『瞬』

 壊放状態での最速の抜刀術で、私が一番信頼できる技。

「いいだろう」

 シグナムも構える。

 息を整える。

「行きます!」

「来い!」

 残った力を全て使うつもりで、私は壊放状態で地面を蹴る。

 シグナムはレヴァンティを構えて迎え撃つ。

 私は間合いに入った瞬間に、久遠を抜こうとして……



















 衝撃が走った。

 えっ?

 いつかの、ぶちまけさんにリンカーコアを抜かれる感覚。

 そして、一拍遅れて私はシグナムに斬られた。





~~~~
時音に主ばれるの回
さて、もう年末。今年中にあと一回投稿できるか、それとも来年になるか……

時音がシグナムに斬られましたが、威力設定などはありません念のため。

A,sのコミックでの訓練描写で勘違いしてました。あれバリアジャケット抜かないように威力落とすようにとはあったけど、非殺傷とかは欠片も言ってない……



[14021] 第三十五話 終わりの始まり
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2010/12/24 10:30
 えっ?

 時音さんがシグナムさんの前で止まったと思ったら、時音さんが斬られた。

 シグナムさん自身も目の前の光景を信じられないように目を見開いて片方の手を伸ばしている。

 なんで? どうして?

 そこから世界がスローモーションに動く。

 時音さんから赤いナニカが噴き出す。時音さんが膝を折る。そのまま、時音さんは倒れる。そして、そのままぴくりとも動かなかった。

 あっ、ああ、あああ……

「うわあああああああ!!」

 私は見た。時音さんの後ろにいた仮面、リーゼロッテを。









 暖かい液体の上に私は倒れる。痛い。すごく痛い。

「時音?!」

 シグナムが私を抱き起こす。

 そこにざっと足音がした。霞む視界でそっちを見る。

「なにをしている? その女は貴様等の主を知ったのだろう?」

「貴様!」

 シグナムが仮面の男、たぶんリーゼロッテを睨む。

「あなたはあああああ!!」

 そこになのはちゃんが割って入った。

 その時見てしまった。なのはちゃんの顔を。殺意にまみれた、あまりに悲しい顔を……

 ユーノくんが駆け寄ってきて、翡翠色の魔法陣を展開。傷の痛みが少し和らいだ。

「だ、だめ、なのは、ちゃ……」

 なんとか保っていた私の意識はそこで途切れた。









 なんで、どうしてあなたは!! 私からはやてちゃんだけじゃない、時音さんまで奪おうとするの?!

 私はレイジングハートで斬りかかる。

 舌打ち一つで受けようとしたリーゼロッテ。防御を断ち切った私の刃がその腕に深々と刺さる。

「殺傷設定だと?!」

 慌てて離れる敵。

 刃についた血を振って払う。

「許さない!」

 許さない。私の周りから、私の大切な人たちを奪う人は許さない!!

「黙れ、なにも知らない子供があ!!」

 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!

 もうしゃべるな! あなたにも時音さんと同じ目に合わせる!!

 今日二度目だということを忘れて神速を使う。敵の動きがスローになる。

 迫る拳を避け、斬り上げる。浅い。

 一歩下がった敵に踏み込む。

 牽制か、迫る拳をレイジングハートで払う。そして、返す刃で斬りかかる。

 血を噴き出しながら後ろに倒れ込む敵。その傷口を私は踏みつける。

 苦悶に呻く敵。

 私はレイジングハートを振り上げる。

「死んじゃえ」

 そのまま振り下ろそうとして、

「ダメだなのは!」

 ユーノくんが私を羽交い締めにした。

 私はユーノくんを引き剥がそうと暴れる。

「離して! この人は私が!!」

「ダメだよなのは! そんなことしても意味がない!」

 ついにはユーノくんは自分ごと私をバインドで縛ってしまう。

「邪魔しないでユーノくん!」

 それでも、無理やり動こうとして、

「そんなの君じゃないだろ! いつものなのはに戻って!!」

 ユーノくんの言葉に冷水を浴びた気がした。いつもの、私? ユーノくんの言葉に私は止まった。

「確かにたまになのはは怖いけど、でも、誰かに手を差し伸べたりできる優しい子だろ?!」

 必死なユーノくんの言葉に頭に上った血が降り、レイジングハートが降りる。私、私はいったい……

 目の前に体中から血を流すリーゼロッテ。

 振り向くと、無理やり笑顔を浮かべたユーノくんがいた。

「うあ、ユーノくん……」

 ユーノくんは黙ってバインドを解くと、私を抱き締めてくれた。

「あああ、わあああああああああ!!」

 自分が怖くて、自分が誰なのかわからなくなりそうで。そのまま私は泣いた。







 落ち着いてから私は離れる。

「ごめんねユーノくん」

「ううん、このくらいいいよなのは」

 そう笑うユーノくん。本当にごめんねユーノくん……

 振り向けばシグナムさんたちも複雑そうに私たちを見ていた。

「……彼女を頼む」

 そう言ってシグナムさんは時音さんを抱えて私たちのところに運んでくれました。

「おい、シグナ」

 なにかを言おうとしたヴィータちゃんがザフィーラさんに止められます。

 そして、ヴィータちゃんはちっと舌打ちして近くの石を蹴りました。

「もし、目を醒ましたら伝えてくれ。すまなかったと」

 シグナムさんは辛そうに私たちに頼みました。

「はい……」

 私たちは時音さんを受け取ります。

 ユーノくんと両脇から支えますが、ぐったりした体は見た目よりずっと重く感じました。

 時音さん……

 三人が空間転移で消えました。そして、遅れてクロノくんが来ました。

「なのは! 時音さんは?」

 クロノくんは時音さんとリーゼロッテを見て目を見開きます。

「アースラ! 重傷者二名! 早く救護班を!!」

 すぐにアースラへと連絡が回りました。









 アースラに運び込まれた二人はすぐに集中治療室に回されました。

 お姉ちゃんとエイミィさんは泣きそうになりながら時音さんをずっと呼んでいました。

 私のせいだ……

 私が巻き込んだ。私がもっと気をつけていたら、世界を変えなかったら時音さんはこんな風に……

 私はまた泣き出してしまいました。










 手術が終わって、時音さんは病室に移されました。

「あの、時音さんの容態は?」

 エイミィさんに聞きます。

「うん、出血は多いけど、ユーノくんの応急処置も的確で、重要な臓器に傷はないし、見た目より傷は浅かったって」

 目を赤くしたエイミィさんが答えてくれます。

 傷が浅い?

「これ、時音の久遠なんだけど」

 エイミィさんが刀身がひび割れた久遠を出します。

 ひび割れた? 私が最後に見た記憶ではそんなに傷がなかったと思うけど……

「この傷、斬られる瞬間、とっさに久遠を盾にした時にできたみたいなんだ」

「本当ですか?!」

 私は身を乗り出す。

「うん、その分傷は浅かったみたいだけど、やっぱり重傷には変わりないから、全治一、二ヶ月だって」

 そう、なんだ。

 その時、ドアが開いてお姉ちゃんが飛び込んできました。

「時音が、時音が目を覚ました!」











 お姉ちゃんの言葉に私たちは時音さんの病室に来ました。

 時音さんは輸血や点滴、また人工呼吸器などに囲まれた痛々しい姿でした。

「あ、みんな……心配かけちゃったね……久遠もごめん、痛かった?」

 呼吸器ごしのくぐもった声。時音さんがいつもと変わらない笑みを浮かべます。

『お気になさらず』

「時音、無理にしゃべらない」

 エイミィさんが注意をします。時音さんは苦笑します。

「クロノくん、ちょっと」

「はい」

 時音さんに呼ばれてクロノくんが一歩前に出ます。

「闇の書の主は……八神はやてちゃんっていう子」

 !?

 私たちに衝撃が走ります。時音さん、やっぱりはやてちゃんと……

「場所は……」

「大丈夫です。あとはこちらで調べますから休んでください」

 クロノくんの申し出に時音さんは優しいねと笑います。

 私は時音さんのそばに来ます。

「ごめんなさい……」

 そして、謝ります。

「私がもっと注意してたら、私が巻き込まなかったら……」

「違うよなのは! それは、僕のせいだ。僕がジュエルシードなんかを見つけなかったら……」

 ユーノくんがそう言うけど、やっぱり私のせいだ。

 私が、ほんの少しだけど世界を変えたから……

「なのはちゃん、ユーノくん……」

 時音さんが手を上げます。私はデコピンううん、叩かれるかもしれないと思って……

 ぽんと頭に手を置かれます。そして、それがゆっくりと手が左右に動く。

「そんな風に……思わないの」

 で、でも!

「ねえ、もしだよ……なのはちゃんは、こんなこと、あったら……ユーノくんのせいにする?」

 えっ?

「しないよ! 私が選んだんだからユーノくんのせいなんかにしないよ!!」

 それは『私』がずっと『ユーノくん』に言いたかった言葉。

 そして、時音さんは満足そうに笑う。

「うん、私もだよ……」

 優しく頭を撫でられます。

「私は、自分のルーツが、知りたくて関わることを決めた……だから、なのはちゃんの、せいじゃないよ」

 時音さんの言葉に涙が溢れます。

 時音さんの言葉が嬉しくて、そして、私も『私』もそう言いたかったから。そしたらきっと、あんなことは……

「疲れたから、あと、よろしく……ね」

 時音さんの腕が落ちる。

「時音さん?!」

 嫌だ、いっちゃ嫌だ!

「落ち着いてなのは。時音は寝ただけだから」

 とお姉ちゃんが諭すように言ってくれてホッとしました。








「さて今後だが、アリアは完全黙秘を貫いている。ロッテは傷は浅くなく、眠り続けてる。といっても、命にかかわるほどひどいわけでもないから安心してくれ」

 少しホッとしました。嫌いな相手だけど死ななくてよかったの。

「僕はこれから二人の主であるグレアム提督に会う。みんなはいつでも闇の書確保に出られるよう準備しといてほしい」

『了解!』









 そして、クロノくんはグレアム提督のところにみんなは出られるように準備しますが……私はこっそりと一人出ます。

 もしかしたら、ヴィータちゃんたちははやてちゃんを説き伏せて家を出る準備をしているかもしれません。

 だから、私は念のために足止めに向かいます。

 それが今の私にできることだから。

 だけど……

「なのは、どこに行くの?」

 声に振り向くとそこに、ユーノくん、フェイトちゃん、アルフさんがいました。

「みんな、どうして?」

 私の問いにみんな笑います。

「なのはだもんね。こうすると思ったんだ」

「なのはだからね」

「なのはさんわかりやすいよな」

 みんな……

「フェイトちゃんいいの?」

 リンカーコア蒐集されてるはずなのに……

「うん、最大魔力は落ちてるけどバルディッシュとがんばるよ」

 フェイトちゃん……

「足止めは多い方がいいですよ?」

 アルフさん。

「なのは」

 そしてふわっとユーノくんに抱きしめられました。

「ゆ、ユーノくん?!」

 突然のユーノくんの行動に慌ててしまいます。わわわ、た、確かにしてほしかったことだけどなぜこのタイミングで?

 フェイトちゃんは真っ赤にした顔を隠して、アルフさんはひゅうっと口笛を吹きます。

「ありがとう。さっきの言葉嬉しかった」

 あ! もしかして時音さんに言ったことかな?

「だ、だってそうだもん。ユーノくんのせいになんかしないよ」

 私の言葉にユーノくんは頷く。

「うん、それでもありがとう」

 そう言ってユーノくんが離れました。

 はふう、ユーノくん、まだドキドキするよ。それに、ちょっと元気がもらえた。

「じゃあ、行こう!」

『うん!』

 ユーノくんの言葉にみんなが頷きました。









ヴィータside

 あれから一晩が経った。

「ここが管理局にバレたかも知れないな。みんなどうする?」

 シグナムの言葉にみんな頷く。

「こうなったら、ここに長居するわけにはいかん。主の為にもここから一度離れる必要がある」

「そうね。もうすぐ闇の書も完成するし、それまでは悲しいけど、はやてちゃんに嘘をついてでも身を隠さないと」

 シャマルとザフィーラがそんな意見を出すけどあたしは黙っていた。

「どうしたヴィータ。黙りこくって」

 シグナムに聞かれる。

「なあ、みんな。あたしらなにやってんのかな?」

 みんなが怪訝そうにあたしを見る。

「なにをってはやてちゃんのために闇の書の完成を目指しているんでしょ?」

 確かにそうだ。だけど……

「なんか違和感があるんだよ」

 そう違和感だ。あいつに会ってからついて離れない違和感。

『なんで本当の名前で呼んであげないの?!』

 あの声が離れて消えない。

「なあ、闇の書って本当に闇の書だったのか? もっと別のもんじゃ」

「それ以上は言うな」

 突然あたしたち以外の、だけどよく知った声に遮られた。

「そして、ここを離れられても困る」

 あたしたちは声のした方に振り向く。

 そこに、

「お前は」

 シグナムが名前を呼ぼうとして、

『蒐集』









はやてside

 みんなどうしたんかな? 時音さんが来てから部屋に閉じこもってもうて。

「ねえ、はやてちゃん、シグナムさんたちはどうしたの?」

 遊びに来ていたすずかちゃんも心配させてもうたし……

 私も心配になって部屋の前まで来てもうたけどどないしよ……

 ばんとドアが開いた。

「ヴィータ?!」

「はやて、逃げ」

 必死の形相でヴィータが何かを言おうとして、その胸から腕が生えた。

 えっ?

 人の胸を貫いたのに、血もなにもついてない白く綺麗な細い腕。

 その先に光る綺麗ななにかがあった。

「蒐集」

 そして、ヴィータの後ろに立っていた銀色の髪の綺麗なお姉さんの言葉と同時にその光が小さくなる。

「ぐあああああ!!」

 ヴィータが絶叫をあげる。

「ヴィータ!」

「ヴィータちゃん!」

 私は前に伸びていたヴィータの手を取ろうとして……できなかった。

 その前にヴィータが消えてしまったから。

 まるで幻のように、私の家族が……

「シグナム……シャマル、ザフィーラ!!」

 私は叫んでいた。助けてほしくて、だけど、その人は左手に持っていたものを私の前に落とす。

 シグナムとシャマルが着ていた服を……

 そ、そんな……

「み、みんな……なんで」

 私は茫然と呟く。

「壊れた人形を始末しただけです」

「人形って?!」

 すずかちゃんが叫ぶ。

 私の家族を、人形って!

「なんで、なんで私の家族を!!」

「本来の役目を忘れ余計な機能を得てしまいました。故にです」

 平然とその人は言い放った。足が動いたらきっと殴っていた。

 私は睨む。私の家族を奪った人を。

「あなたの足は動きません。そして、その人生ももうすぐ終わります」

 胸に言葉が突き刺さる。

 わかってたこと。わかってたけど、

「だから、私はみんなと一緒にいたかったんや!」

 少しでも長く、みんなと一緒にいたかった。たとえ、

「夢は醒めるものです」

 きっぱりとその人は言い切る。

 夢? 今までのは夢だった言うんか? ううん、違う。みんながいたのは、

「夢なんかじゃないよ!」

 すずかちゃんが私の変わりに訴える。

 その時、目の前の人の表情が変わった。無表情から悲しそうな笑顔に。

「無理して道化を演じるのは難しいな……」

 だけど、すぐにその表情は消えてしまった。

 その人は私に一歩近づく。

 私は気づけばその人を殴っていた。

「返して! 私の家族を!!」

 だけどその人は動じずに私の肩に手を置く。

「安心してください。悪夢はすぐに終わります。それまでは」

 そして、その人はそっと私を抱きしめた。

「優しい夢を……いつか醒めてしまうただの夢を」

 憎い相手。だけど、なんでか私はその人に抱き締められるのに、安らぎを覚えた。

「ユニゾン……イン」

 そして、私は……










なのはside

 はやてちゃんの家に向かう途中。

『マスター!』

 強い魔力反応を感じました。

 ま、まさか……

「闇の書が発動した?!」

 フェイトちゃんが私の予想を変わりに言ってくれました。

 同時に隔離結界が展開します。

「急ごうみんな!」

 私の言葉にユーノくんたちが頷きデバイスを装備しました。

 そして、私たちは急いではやてちゃんの家まで来て、前にすずかちゃんがいました。

「すずかちゃん?!」

「すずか?」

 私たちは駆け寄ります。

「なのは、ちゃん? ユーノくん、フェイトちゃん!!」

 私たちに気づいてすずかちゃんがこっちに駆け寄ってきました。

「どうしたのすずかちゃん!」

 すずかちゃんは今にも泣きそうな顔でした。

「は、はやてちゃんがはやてちゃんがあ!!」

 ざっと足音が聞こえました。

 誰かが家から出てきて、私たちはそれぞれのデバイスを構えます。

 出てきたのは銀色の髪、赤い瞳に黒の騎士甲冑を纏った綺麗な女の人。

 リインフォースさん……

 リインフォースさんがこっちに向く。片方の目から涙を流してるけど、穏やかな笑みです。

 違う。私の知るリインフォースさんとは……

「ああ、来てくれたのか。よかった、こっちから行く手間や時間が省けた」

 そう言って笑うリインフォースさん。それから、私たちを見回します。

「あの子がいないのは、まあ残念だがしかたないな」

 あの子?

 そしてリインフォースさんが一礼する。

「さて始めさせてもらおうか。闇の書の終わりの始まりをを、夜天の書の始まりの終わりを」

 唄うように告げてからリインフォースさんは表情を引き締める。

「さあ、時間まで踊ってもらおう」








~~~~
リインフォース降臨。
守護騎士たちを取りこみましたが、闇の書自体は完成してはいません。
クリスマスな内容ではありませんが、クリスマス第二弾。
メリークリスマス!



[14021] 第三十六話 激突なの!
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/01/15 10:27
 荒野が広がっていた。燃える街、沈む太陽はまるでこの地で流された多くの血を思わせる紅。

 そこに彼女は立っていた。その手に白い剣を携え、銀の髪を靡かせて。

 目の前には多くの兵士。絶望的な戦力差が広がっている。

「ダメだよソフィ! 一人なんてダメ!」

「主!」

 その後ろ、美しい赤と翡翠色のオッドアイの少女が彼女に何度も呼びかけ、共にいる従者に止められる。

「――ヴィ―、下がってください。貴女にはまだ成そうと思うことが残ってるでしょう?」

「だけど、ならあの子はどうなるの? 私みたいに一人にするの?!」

 少女は涙を流しながら訴える。

 その言葉にふっと彼女は申し訳なそうに笑う。

「確かにあの子には悪いと思います。ですが、貴女を護ること。それが私の成したいことです。だから、――ヴィ―」

 力無くうなだれる――ヴィ―。

「……お願いします」

 視線を前に向け、彼女は一歩踏み出す。

「わかったよ」

 そう――ヴィ―は頷いて彼女に背を向ける。

「だけど、帰ってきてよ!また会えなきゃ許さないから!!」

 最後にそう言って彼女は飛んだ。

「わかりました」

 頷いて彼女は笑い、そして駆けた。絶望的な戦いに向かって。

 また、いつか来世で……










 そこで私は目を醒ましました。視界に飛び込むのは二度目のアースラの天井。

 だけど、そこでなにかのビジョンが見えた。なのはちゃん、ユーノくん、フェイトちゃん。そして……

 それを見て、私は体を起こす。途端に身体が悲鳴を上げて、何百という針で刺されるような痛みが私を襲う。

 でも、そんなことに構ってられなかった。

「行か、なくちゃ……」

 私は腕に刺さっていた点滴の針を無理やり抜く。

 さらに体中に張り付いてる邪魔なコードを剥がす。

『マム、何をしてるのですか?!』

 そばにいた久遠が悲鳴じみた声を上げる。

「行かなくちゃ、いけないんだ……行かなくちゃ……」

 ただ繰り返しながら、私は点滴の脚立にしがみつき立ち上がる。

 そこでドアが開いた。

「時音、なにしてるの?!」

 美由希が駆け寄ってきた。

 私はその肩を掴む。

「美由希……お願い、みんなのところまで連れてって」

 私は、行かなくちゃいけないんだ。会わなくちゃいけないんだ……

 だけど美由希は逆に私の肩を掴んで無理やりベッドに戻す。

「ダメだよ! 絶対安静って言われてるんだから!!」

『そうですよマム!』

 二人から私は止められる。だけど……

「お願い二人とも!」

 真っ直ぐに美由希の目を見る。

 じっと美由希が私の目を見返す。そして、

「あんたって変なところで頑固よね」

 そう苦笑して肩を貸してくれた。

『ミス美由希?!』

 美由希を非難するように声を荒げる久遠。

「ごめんね久遠、私はどうしても行かなくちゃいけないんだ……」

 この子は、本当に優しい子だ。だから、本当に私の身を案じていることが分かる。

 それでも、行かなければならないと私の心が叫んでる。

『なにを行っているんですか!? すぐにリンディ提督を』

 そう言う久遠を取る。

「お願い久遠、私の騎士甲冑を」

『マム!』

「お願い」

 ぎゅうっと痛みを無視して久遠を握りしめる。

 しばらくして、

『……世話のかかる主です』

 しゅんと私の騎士甲冑が装着された。

 ごめんね。久遠がそういう子だって知ってるのに……

「ありがとう久遠……」

 私のお礼に久遠は返事を返さなかった。

「じゃあ、行くよ」

 美由希に助けられながら私は向かった。会わなければいけない人に。













なのはside

 リインフォースさんはやっぱり強いです。

 すずかちゃんをアルフさんに任せて三人がかりで挑みますが、私に、本調子ではないとはいえフェイトちゃん、まだ徹に達したかどうかとはいえ、御神の剣の手ほどきを受けたユーノくんの三人がかりでもなかなか攻めきれません。

「プラズマスマッシャー!」

 フェイトちゃんの砲撃をするっと避けてしまう。

「ディバインソード!」

 避けた直後に私は砲撃剣を振る。

 それをバリアで防ぐリインフォースさん。完全に防がれている。でも、足は止められた!

「はあっ!」

 足を止めた隙にユーノくんが斬りかかる。だけど、

「レヴァンティン」

 左手に現れた剣で、ユーノくんの攻撃を防ぐリインフォースさん。

 きいんと、ユーノくんの剣が弾かれる。

「シグナムのレヴァンティン?!」

 フェイトちゃんが驚く。そう、リインフォースさんの左手に、黒く染まったレヴァンティがあった。

「元々守護騎士システムは闇の書の一部だ。なら私が使える道理だ」

 た、確かにそうだけど……

 リインフォースさんがレヴァンティンを構えて私に向く。ってあの構え……

 リインフォースさんが動く。その動きはよく見慣れたもの。お姉ちゃんがよく使う……奥義之参 射抜!

 目の前に迫った突きをなんとか弾く。

 軌道はお姉ちゃんと同じだけど、どうやら使えるだけで、そこまで鋭さはなく、技の真骨頂も発揮できないみたいです。

 お姉ちゃんだと私は受けきれなかったな……

「なのは!」

 フェイトちゃんが援護に入る。

 リインフォースはひらひらと避けて、フェイトちゃんに斬りかかる。

 フェイトちゃんが受けようとして、きんっと勢いに比べて、あまりに小さい金属音が響く。同時にレヴァンティンから離れてフリーになった手でフェイトちゃんを殴る。

 今のは時音さんの『朧』! 二人とも蒐集されてたから使えるんだ!

「フェイト!」

 ガシッと後ろに飛んだフェイトちゃんをユーノくんがナイスキャッチ。

 ほっとすると同時にちょっとフェイトちゃんが羨ましい。ワザと吹き飛ばされてキャッチしてもらおうかなあ?

 と、そこにリインフォースさんが斬りかかるのを、ギリギリ避ける。

 って余計なこと考えてる場合じゃないの!

 そこでリインフォースさんがブラッディダガーを撃ちながら私たちを牽制、離れます。

「ここは、これだな……闇よりもなお昏きもの、夜よりもなお深きもの」

 えっ?

 リインフォースさんがレヴァンティンを消して手を掲げる。

 突然始まった詠唱は時音さんのにそっくりでした。

 でも、少し時音さんのドラグスレイブと違う。

「混沌の海にたゆたいし、金色なりし闇の王、我等ここに汝に願う。我等ここに汝に誓う」

 時音さんのドラグスレイブの威力はスターライトブレイカーより低いけど、『私』の時みたいに蒐集した魔法にアレンジが加わってることを考慮すると楽観できません。

「アルフさん!」

「あいよ!」

 アルフさんがすずかちゃんを抱えて離れる。私は本調子ではないフェイトちゃんを抱えて、それに続く。

「我の前に立ち塞がりし総ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを」

 魔力球が大きくなる。

 これ以上は!

「みんな!」

『うん!』

 私、ユーノくん、アルフさん、フェイトちゃんにすずかちゃんと並ぶ。

 すずかちゃんにバリアを張って、私たちはラウンドシールド、プロテクションの四重の盾を張る。

「ギガスレイブ」

 リインフォースさんの両手の間に集中していた魔力が解放される。

 放たれた黒い塊は、私たちからかなり離れた場所に着弾。

 そこを中心に広がった真っ黒な光としか形容のしようがないものが、私たちを飲み込みました。










 なんとかリインフォースさんの攻撃の余波を防ぎましたが、かなりキツかったです。

「みんな、大丈夫?!」

 私はすぐにみんなに呼びかけます。

「だ、大丈夫だよなのは」

 ユーノくんが答えてくれます。

「こっちも、この子には怪我一つないよ」

 アルフさんの言うとおりすずかちゃんに怪我一つありません。

「エイミィさん、すずかちゃんを」

『うん!』

 ぱあっとすずかちゃんの足元に転移の魔法陣が展開します。はっと、すずかちゃんが顔を上げます。

「なのはちゃ……!」

 なにかを言う前にすずかちゃんはアルフさんと転移しました。

「見られちゃったね」

 ユーノくんの言葉に頷きます。

 まあ、そろそろ話す時期だったし丁度いいかも。今度アリサちゃんも纏めて話さないとなの。

 でも、まずはこっち。リインフォースさんが近づいてきます。

 とんと私たちの前の地面に足を付けるリインフォースさん。私たちは迎撃の体制を取って、リインフォースさんが目の前から消えました。

 えっ?

「なのは!」

 リインフォースさんが目の前に迫っていました。しまった、神速を模倣して……

 リインフォースさんがなにをしたかすぐわかりましたけど、もう遅いです。私に闇を纏った拳が迫って……

 ぎんっ! と鉄の音が響きました。

「お姉ちゃん?」

 時音さんの看病をしてるはずのお姉ちゃんが私とリインフォースさんの間に割って入っていました。

「なのは、油断しない」

 きんっとお姉ちゃんがリインフォースさんの拳を弾きます。

 は、はい。

 そして、

「こんにちは」

 壁に寄りかかりながら時音さんがこの場に現れました。

 傷口の辺りを抑え荒い呼吸を繰り返す時音さん。

 ええ?!

『時音! なにしてるの?!』

 エイミィさんが悲鳴に近い声で時音さんに食いかかりました。

 そりゃあそうです。なにせ時音さんはしばらくの間絶対安静って言われた重傷者なんですから。

「会うべき人に会いに……かな」

 と時音さんが笑います。でも、その笑みは非常に苦しそう。

『バカ言ってないで早く転送を……』

 エイミィさんが時音さんを強制転移させようとして、

「久しぶりだなユーナ。いや、今は時音だったか」

 リインフォースさんが時音さんに笑いかけます。

『えっ?』

 リインフォースさんの言葉に全員の動きが止まりました。

 特に時音さんは瞠目しました。関係する相手と思っていた相手とはいえ、いきなりそんなことを言われるとは予想していなかったのでしょう。

「役者が揃った。今、主の願いを」

 そう言ってリインフォースさんがまた神速、もしかしたら壊放を使いました。

 消えるリインフォースさん。私とお姉ちゃんも神速を使って……リインフォースさんは真っ直ぐに時音さんに向かってました。

 まずい!!

 時音さんも逃げようとするけど、怪我した体では壊放どころか満足に動くこともできず、私たちも動くけど、追いつけるわけがなく……

『吸収』

 闇の書が開き、時音さんが消えてしまいました。

『時音!』

 音のない世界でお姉ちゃんの叫びが聞こえた気がしました。

 私が斬りかかって、

「お前もだ」

 リインフォースさんの魔法陣に触れた瞬間、私の意識はどこかに消えてしまいました。











 差し込む朝日に、私は目を覚まします。

 あれ? 私は……そうだリインフォースさんと戦って……そこまで考えて、ガバッと跳ね起きました。

 状況は?!

 すぐに私は周りを見回して、気づきました。

 そこは、見覚えがあり、懐かしい部屋でした。たぶん『私』の使っていた部屋。それに……視界が高くなってる?

 私は自分の体を見ます。小学生じゃない、大人の私がいました。な、なんで?

「んー、ママどうしたの?」

 むくっと同じベッドに寝ていたヴィヴィオが体を起こした。

「ヴィヴィ、オ?」

 確かにそこにいたのはヴィヴィオ。いなくなってしまったはずの私の愛娘。

「あい。おはようございます」

 ペコッとヴィヴィオが挨拶する。

 それから、ヴィヴィオが反対側の膨らみを揺する。

「パパ、朝だよー」

 ……パパ?

 私が誰か尋ねる前にもぞもぞとそれが動きます。

「うー、ヴィヴィオもうちょっと寝かせてよ……」

 目尻を擦りながら、パパと呼ばれた人が、ユーノくんが起き上がる。

「ユーノ、くん?」

 子供じゃない、大人のユーノくんだった。

 ユーノくんが、パパ?

「おはよう、なのは、ヴィヴィオ」

 そばに置いてあった眼鏡を取ってユーノくんが私たちに笑いかけます。

 それを見て、私はポロッと涙をこぼしました。

 あ、あれ?

「なのは?」

 私は涙を拭います。でも後から後から涙は溢れていきます。

「ママ?」

 不思議そうにユーノくんとヴィヴィオが――大切な、大切な家族が私の顔を覗き込みます。

 それを見て、私には耐えられなくて、私は声を上げて泣きました。










「大丈夫なのは?」

「う、うん」

 ユーノくんの言葉に頷きます。はあ、いきなり泣き出すなんて……

「ママ、なんで泣いてたの?」

 心配そうにヴィヴィオが私を覗き込む。

 うう、心配させちゃったかなあ。

「あ、その、怖い夢を見たんだ」

 と、なんとかヴィヴィオに答えて、いい子いい子と頭を撫でてあげる。

 そう、そうだよ。今までのは全部怖い夢。辛くて悲しくて……なんであんな夢を見たのかな?

「ね、ママ、今日はピクニックに行くんだよね! 早く準備しよ!」

 とヴィヴィオに手を引っ張られる。

 うん、そうだった。早く用意しよう。家族三人で仲良く遊べば……きっと楽しくて、嫌な夢なんて忘れられるから。










~~~~
リインフォース戦です。蒐集した相手の魔法を使ってたし、こういうのもありかなと。
さて、今までのことを夢としてしまったなのはさんはこれからどうなるか。
……本当にどうしよう。



[14021] 第三十七話 夢の世界で
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/01/15 10:27
時音side

 私は目を覚ます。

 そこには見慣れた私の部屋。あれ? さっきまで闇の書と戦ってた筈じゃあ……

 と、違和感が一つあった。えっと、そうだ怪我!! ばっと体を見るけど怪我は欠片もなかった。

 どうなってるの?

 首を捻る。と、そこでドアがコンコンと叩かれた。

「時音、朝よ。起きなさい」

 がちゃっとドアを開けてその人は入ってきた。

 夢で何度か見た顔、聞き慣れない、でもどこか懐かしい声。

「母さん?」

 私は自然とその人をそう呼んでいた。

 そう、母さん。この人が私の母さん−−ソフィア。

 何故か私は、自然とそれを理解していた。







「早く来なさい。お父さん待ってるのよ」

 と母さんに言われ、私は慌てて着替えて部屋を出る。

 居間に入ると、いなくなったはずの父さんが、何時もの席に座っていた。

「おはよー父さん」

「おはよう時音」

 と、朝の挨拶を交わす。

 私が来て、すぐに母さんが朝ごはんを並べてくれて、家族三人で朝食を取る。

「そういえば、今日は美由希くんと約束があるんだったか」

「うん、久しぶりに手合わせする予定だよー」

「仲いいわねえ。でも、もう少し女の子らしくしようと思わないの? 私みたいになるわよ」

「んー、父さんみたいな旦那様ができるならそれもいいかもー」

「お、おだてても何も出ないぞ」

 とおしゃべりをしながら朝ご飯を食べる。普通の家庭なら当たり前の光景。だけど、私には一度もなかったこと。私が、憧れていたものがここにあった。







 そして、私は美由希と手合わせのために高町家に向かう。

 母さんも桃子さんにお菓子作りを習うために一緒。

「最近美由希ちゃんとはどうなの?」

「負け越してるかなあ。残念だけど技術はあっちが上かも」

 そっかと母さんが頷く。そしてぱんっと背中を叩かれる。

「安心しなさい! あなたは私とお父さんの子なんだから強い剣士になれるわよ」

 そっかなあと私は笑う。

 でも、さっきは女の子らしくしなさいって言ってたのにどっちさとも思うけど、母さんの言葉は嬉しい。

 さて、今日は美由希に勝ってみせるよ!







なのはside

 燦々と日の光が降り注ぐ。うーん、天気もよくて絶好のピクニック日和だね。

 少し向こうで戯れるヴィヴィオとユーノくんを眺める。

 最初、パパになるんだよって言ったらヴィヴィオは戸惑って、でもすぐに笑顔でパパってユーノくんに甘えたっけ。

 そっと、左手を見る。そこにある指輪を見て苦笑する。

 まったく、夢とは言えヒドいよ。ユーノくんが私を置いていなくなるなんて、そんなのあるはずがないんだから。

 と、ふーふーと荒い息を吐きながらユーノくんがビニールシートにへたり込む。

「パパー、もう終わりー?」

 不満そうにヴィヴィオが頬を膨らませる。

「ご、ごめ、ん、ヴィヴィオ……もう限界……」

 あれれ? 無限書庫は意外とハードワークなのに、もう体力ないんだ。

 子供って意外と体力あるんだよね。特にヴィヴィオは割と身体を動かすのも好きだし。

「じゃあ、お弁当にしよっか? 二人ともお腹空いてるよね?」

 私は張り切って作った料理が詰まっている重箱を取り出す。

「さんせー!」

 とヴィヴィオは元気に手を上げ、逆にユーノくんは弱々しく手を上げた。

 お弁当を広げると、ヴィヴィオがわーっと感嘆の声を上げる。

「おいしそー!」

 と、すぐにささっと姿勢を正す。うん、よろしい。

 それでは、

『いただきまーす!』












時音side

 かあんと私の手から木刀が弾かれる。

 そして、尻餅を付いた私の首に木刀を突きつけられる。

「そこまで!」

 士郎さんの言葉に、美由希の剣が降りる。

「あーあ、また負けちゃった」

 と私はしょんぼりうなだれる。

「最後は惜しかったな。気負いで少し力んだところを狙われたんだ。いつも通りなら結果は変わってたかもな」

 と恭也さんが評価してくれる。むう、あそこで勝つって力んじゃたのか。まだまだ未熟だねえ。

「あはは、残念だったね時音」

「うん」

 そう言って美由希が手を差し出してくれる。

 私はそれを取って立ち上がる。

「スゴかったねえ美由希お姉さんと時音さん」

「そうだねユーノくん」

 と見学していたユーノくんとなのはちゃんがそう言ってくれるのはちょっと嬉しかった。だって、すごいに私も入ってるんだよ?

 と、その時、道場のドアが開けられる。

「やっほー、なのは、ユーノ遊びに来たよー!」

 と、アリシアちゃんが道場に飛び込んできた。

「姉さん、道場は静かにね」

 と、フェイトちゃんがアリシアちゃんを窘める。

 そして、二人が道場に上がり込んで、なのはちゃんとユーノくんのところに駆けよる。

「今、美由希さんと時音さんが手合わせしたの?」

「うん、すごかったよ」

「残念、私も見たかった~」

「にゃはは、今度またやる時呼んであげよっか」

 と、仲良し四人組がお話する。

 これも少しだけ私が見たかった光景だった。

 






 それから、母さんと、途中から参加したプレシアさんが桃子さんに教わりながら作ったマドレーヌを食る。

「あ、おいしい」

 私は素直に呟いていた。まあ、朝ごはんもおいしかったし、母さん料理上手なんだね。

 そして、もう一つ。あ、こっちもおいしい。

「ふふ、それ私が作ったの」

 と、プレシアさんが柔らかく笑う。

「あ、プレシアさんのですか」

 と、プレシアさんの方を向いたら、士郎さんに身体を擦り寄せていて、思わず吹きだしかけちゃいました。

「どうですか士郎さん?」

「あ、その、おいしいですはい」

 と、士郎さんは答えるものの、奥さまである桃子さんの視線が突き刺さり、冷や汗を流す。桃子さん笑顔が怖いです。

「あら、汗をかいてますよ?」

 そんな士郎さんの汗をプレシアさんがふく。

 なんか、その手つきはどこか怪しい。ていうか、なに胸元に手を突っ込もうとしてるの?!

「プレシア、人の旦那になにしているのかしら?」

「汗を拭いてあげてるだけよ桃子」

 と、桃子さんにいけしゃあしゃあと答えるプレシアさん。

 フェイトちゃんはさっきからごめんなさいごめんなさいと高町家のみんなに謝りっぱなしだ。

 なんというか、うん、もうプレシアさんじゃないねあれ。 





 


 で、まあ、なんとか家に帰って……あの後どうなったか? ご想像にお任せします。

 とにかく、今は晩御飯で、私は書き込む勢いで料理を平らげていた。

「時音、そんなに慌てて食べなくても……」

「だって美味しいんだもん。あ、シチューお代わり」

 私はできる限り多くの料理を噛み締める。

 これが、きっと『母さんの味』を味わえる最後の機会だから。








 たくさん食べてから、私は眠らずに道場で剣を構えていた。

 打ち込まず、ただ切っ先に集中する。そして、

「時音」

 母さんに呼ばれて、構えを解く。でも振り向かない。

「母さん、これは夢でしょ?」

 私は母さんに、多分私のイメージが作り出した『母親』に問う。

「現実に私に母さんはいなかった。いたとしても覚えていないし、父さんだって少し前にいなくなった」

 私が看取った。だから、ちゃんとわかっている。父さんはもういないって。

「……ええ」

 『母さん』が頷く。

 私の願望。『両親がいる家』の夢なんだこれは。

 ふと私は笑う。

「ごめんね母さん。私行かなくちゃいけないんだ」

「そう」

 母さんが頷く。

 私の手にはいつの間にか久遠が握られていた。

「ありがとう母さん。いい夢だったよ」

 心から『母さん』にお礼を言う。

 私は久遠を構える。するとふわっと後ろから『母さん』が私を抱きしめた。

「本当は生きているうちにこうしたかった。ごめんなさい」

 母さんの言葉とともに、母さんの心が伝わってくる。

 私を置いていった悲しみ、辛さ、申し訳なさ……私を大切に思ってくれていたこと。

 視界が滲む。泣いていた。私は泣いていた。

 なんでなのかはわからないけど、ここにいるのが本当に私の母さんだってわかって、そんな風に母さんが私を思ってくれてたのが嬉しくて。

 そんな風に私を思ってくれてた母さんと別れるのが悲しくて、私は泣いた。









なのはside

 お弁当を食べた後、ポカポカの陽気が気持ちよくてヴィヴィオがお昼寝をし始めて、ユーノくんも私の肩に頭を置いて寝てしまいました。

 二人の重さと、暖かさ。それが無性に嬉しいです。

 こんな時間が何時までも、何時までも続いてくれれば……

「そういうわけにはいかないんだよ……ママ」

 突然、ヴィヴィオが口を開きました。

「ヴィヴィオ、おはよう。どうしたの突然?」

 ヴィヴィオの言葉に私は首を捻りますが、ヴィヴィオはなにも言わずに起き上がります。

「ママ、夢はいつか醒めるんだよ」

「ヴィヴィオ、なに言って……」

 ヴィヴィオが振り向きます。

 そこに、さっきまで無邪気にユーノくんと遊んでいたヴィヴィオはいませんでした。悲しそうに、でも真っ直ぐにヴィヴィオは私を見ています。

 私はヴィヴィオの目を見れませんでした。

「も、もう、ヴィヴィオ、起きていきなりなにを言い出すの? ほらユーノくんも起きて」

「ママ!」

 強い声でヴィヴィオに一喝されました。私はビクッと震える。

「ここがなんなのか……本当は分かってるんでしょ?」

 哀しそうにヴィヴィオが聞いてくる。

「な、なんのこと?」

 や、やめてヴィヴィオ……

「ここは」

 お願い……

「夢なんだ」

 そして、ヴィヴィオは私に『現実』を突き付けた。








 夢……そう、夢。

 わかってた。ヴィヴィオの言うとおり、ここが夢だってちゃんと。だって、ユーノくんは……

 だけど……

「い、いいでしょ夢で」

 視界が滲む。

「ここならユーノくんもヴィヴィオもいる! 私が欲しかった時間がある!」

 辛い現実なんかよりこっちがいい……優しいこの世界がいい!

「ダメだよ。このままここにいたんじゃ」

「いやあ!!」

 ヴィヴィオの言葉を聞きたくなくて私は目を瞑って耳を塞いだ。

 なんで、どうしてそんなこと言うの? ヴィヴィオまで私から奪うの!?

 そして、両手を掴まれて原っぱに押し付けられる。目を開けたら聖王モードのヴィヴィオがいた。

「聞いてママ! 聞こえないの? ママを呼ぶ声が!!」

 私を……呼ぶ声?

 私は耳を澄ます。

『……のは』

 あまりに小さい声。だけど、

『なのは!』

 聞こえた。私を呼ぶ声が。








 ユーノくんが斬り込む。

「なのはを返せ!」

 ユーノくんが怒りに染まった顔でリインフォースさんに斬りかかる。

 ユーノくん……

「なのは! 時音! フェイトちゃん!」

 お姉ちゃんも斬り込むが受けられます。

 お姉ちゃん……

「彼女たちは夢の中にいる。自分が望んだ夢の中に」

 お姉ちゃんとユーノくんを力任せに弾くリインフォースさん。

 そして、レヴァンティンを鞘に納め、高速抜刀術……虎切! さらに虎乱に派生する。

「泡沫だが、意志がなければ目覚めることはできない。果たして彼女たちは自ら目覚められるのか?」

 無理だよ。私はここにいたい。夢の中にいたいもん……

「起きるさ」

 ユーノくんが断言しました。

 ユーノくん?

「なのはは強いから。きっと起きるよ」

 ユーノくんは信じてくれてるみたいだけど、ごめんね。私はちっとも強くないよ。

「そ、それに起きてくれないと僕が困るって言うか……」

 へっ?

 ユーノくんは顔を赤くしながら咳払いする。

「と、とにかく僕は信じている! 僕が好きになった子は強いって!」

 ユ、ユーノくん?!

「ユーノ、本音がもれてるよ」

 お姉ちゃんが呆れたようにため息をつく。

「まあ、でも、そうだね。うちの妹も、その友達も、私の友達も強いからね!」

 二人の言葉が私の中に染み渡る。

 信じてくれてる人がいる……

 その時気づきました。リインフォースさんが笑ってるのを。

「さて、信じられてるんだ。早く夢から出ることだな」

 リインフォースさん?

 そこで、私の意識はまた沈みました。










 またあの野原に戻ってきました。

 でも、さっきと違うものがあります。

 私が見慣れた子供の姿に戻っていることです。

 私は体を起こす。野原が消える。

「こんな私でもユーノくんは信じてくれてたんだ。こんな私でも……ユーノくんは好きになってくれてたんだ」

 涙が溢れる。

 ああ、なんで私はいつも気づくのが遅いんでしょうか?

 目の前のヴィヴィオは優しく微笑んでくれている。

「ヴィヴィオ……ありがとう」

 大切な、いなくなった娘にお礼を言う。

「ううん、いいよ」

 そう答えてヴィヴィオが手を差し出す。

 そこにレイジングハートがいました。

 私はそれを受け取ります。すると、ヴィヴィオが私を抱き締めてきました。

「ありがとう。ママが私のママでいてくれて、私は幸せでした」

 ヴィヴィオが笑う。私もギュッとヴィヴィオを抱きしめる。きっと、私の願望が言わせてるのかもしれない。それでも、

「ありがとう、たとえ夢でもそう言ってくれて嬉しいよ」

 ヴィヴィオがゆっくり消えていく。

「夢じゃないよ。これは私自身の遺言」

 えっ?

「ばいばいママ」

 私が聞く前にヴィヴィオは消えてしまいました。

 ヴィヴィオ……

 私はぐっと前を見ます。

「レイジングハート、エクスカリバーフォーム」

『All right』

 レイジングハートが待機形態からブレードフォームに。そして、さらに形を変えます。

 柄のデザインがバスターをベースからエクセリオン、さらに、二股に別れた先端が、ブレードフォームよりさらに大きく、強力なブレードをドライブできるよう展開する。

『マスター、私も全て思い出しました』

 レイジングハートが刃を出力しながらそう語る。

 そっか、レイジングハートも思い出したんだ。

『行きましょう全てを取り戻しに』

 うん、レイジングハート。

 私は剣を構える。

「全力全開! エクセリオン」

 前を見る。もう立ち止まらない。

 そうだ全て取り戻す。ユーノくんも、ヴィヴィオも!

「ソード!」

 剣を振り下ろす。それで夢の世界は、砕けました。








時音side

 母さんが離れる。

「私が渡せるのはそのくらい」

 振り向けば母さんが笑ってる。

「ごめんね。それくらいしか渡せなくて」

 ううん、そんなことないよ。たくさん貰ったから。

 母さんが消えていく。

「……行ってきます母さん」

 私の言葉に母さんは嬉しそうに笑って消えました。

 さてと……私は息を吐く。

「久遠、参之太刀」

『イエスマム』

 久遠の刀身が消える。そして、新たに長大な刃が私の握る柄に接続された。参之太刀『斬艦刀』

 私はその巨大な刃を構える。

「木霊流特式」

 今から使うのは父さんに教わった木霊の剣じゃない。母さんの剣。

 習ったはずないのに自然と体が動き、刀身に魔力が走る。

「三日月!」

 結界破壊の太刀が、夢の世界を打ち砕いた。









???side

 世界が砕ける。私は元の現実に飛び出す三人を見送る。

「主」

「ヴィヴィオ」

 振り向けば、そこに今まで苦労をかけた友達がいました。

「あ、リインフォース、ソフィ、お疲れ様」

 と私は笑う。二人も笑みを浮かべる。

「望みは叶いましたか?」

 リインフォースの言葉に頷く。

「うん。伝えたかったことは伝えたよ」

「私もあの子に伝えられたな」

 そうですかとリインフォースが笑う。うん、伝えられた。

 ちゃんと自分の言葉で伝えたかったから、リインフォースに無理を言ってこんな舞台を用意してもらった。

「ありがとうリインフォース」

「いえ、主の頼みですから」

 世界が崩れていく。

「お別れだね」

 ゆっくりと私たちの体が溶け始める。

 リインフォースが目を伏せる。

「はい、主ヴィヴィオ。私は新たな主、主はやてと共に行きます。ですが、私もすぐそちらに逝きます」

 リインフォースも消えていく。

 別れはもうすぐだ。

「うん、『またね』リインフォース」

「『また』我が主」

 リインフォースが消える。はやてさんのところに行ったんだね。用意した仕掛け、うまく行くといいんだけど……

 さてと、私はソフィに向き直る。

「ごめんねソフィ。こんなことに巻き込んで」

 私の言葉にソフィは笑う。

「なにを今さら……昔からそうでしたでしょ?」

 うん、そうだったね。

 私は天を仰ぐ。

「行こっかソフィ」

「ええ、みんな待ってますよ」

 そうだね。きっと待ってる。

 私たちは歩き出す。

「あっちに行って、クラウスくんに会ったら、思ってないこと言ってごめんねって謝らなきゃ」

「そうですね。彼のことを思ってのことですが謝らないと」

 次第に視界が白くなる。ソフィの声も届かなくなる。

 だけど、最後に確かに見えた。

 私と同じ虹彩異色の青年が、柔らかく笑う姿が。

 ごめんねクラウスくん。私が本当に言いたかったのは……








~~~~
夢世界離脱編
ヴィヴィオがどうなったか、ここまで読めばたぶん予想は付いたと思いますが、まだ、はっきりとは言わないでおきます。
次回、闇の書の闇戦です。

余談ですが、『平行世界のなのはさん』でファフナーの世界をやってた場合、真壁 史彦役は高町士郎、遠見 千鶴役、プレシア・テスタロッサの予定でしたw



[14021] 第三十八話 闇の書の闇なの
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/01/22 11:07
 私は夢の世界から飛び出しました。

「なのは!」

 そしたら、すぐに出てきた私に気づいてユーノくんがそばまで飛んできました。ユーノくん!

 そして、ユーノくんは私を抱きしめてくれました。

「ユ、ユーノくん!?」

 にゃにゃにゃ! ユ、ユーノくんから抱きしめてくれるなんてすごく珍しいの!

「よかった。無事に出てきて……」

 ユーノくん……

 私もぎゅっとユーノくんを抱きしめます。

 うん、ごめんね。ありがとう。

「なのはちゃん無事でよかったあ」

 ほっと時音さんが笑います。ああ、時音さんも無事に出てこられたんだねって、あ?!

「時音さん怪我は?!」

 なにを言われたかよくわかってない様子の時音さん。

 そして、一拍遅れて、ああ! と思い出した。

「そういえば私瀕死の重傷だった!」

 忘れないでください!

 時音さんはポンポンと怪我があった辺りを叩く。

「なんもないねえ」

 と不思議そうに首を傾げます。

「どうなってるのよ」

 そばまで来たお姉ちゃんも訝しげに時音さんを見ます。

 リインフォースさんが治してくれたのかな?

 と、考えていたらたぶん防衛プログラムの塊と思うそばに光があることを確認しました。

「あ、あれ!」

 私が指差すと同時に光からヴィータちゃんたちとはやてちゃんが現れました。

「我ら、夜天の主の下に集いし騎士」

 シグナムさんの声!

「主ある限り、我らの魂尽きる事なし」

 シャマルさん!

「この身に命ある限り、我らは御身の下にあり」

 ザフィーラさん!

「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に!」

 ヴィータちゃん!! みんな帰って来たんだ!

「リインフォース……私の杖と、甲冑を!」

『はい』

 はやてちゃん、リインフォースさん!!

 はやてちゃんは杖と甲冑を展開させその姿を現した。

「はやてちゃん! シグナム!!」

 時音さんの声にはやてちゃんが小さく笑います。

「夜天の光よ我が手に集え。祝福の風、リインフォース、セーットアップ!!」

 はやてちゃんがシュベルトクロイツを天に掲げて夜天の書の力を解放します。闇の書の頃の名残であった黒い魔力光は、白へと変わっていく。そして、ユニゾン状態のクリーム色の髪になります。

「はやてちゃん!」

 と、すぐに時音さんははやてちゃんのそばまで飛びます。

「時音さん!」

 はやてちゃんが嬉しそうに笑い、よかったと二人は再会を喜びます。

 遅れて私たちもそばまで行きます。

「よかったヴィータちゃん」

 私はヴィータちゃんに後ろから抱きつきます。

「わ! なにしやがるてめえ!」

 慌てるヴィータちゃんに私は笑いながら振り回されました。

「さて、和んでるところを申し訳ないが、あまり時間がない」

 とクロノくんが遅れて駆けつけました。遅い代わりにちゃんとデュランダル持ってきてるよね?

 それから以前みたいに相談するかと思ったんだけど、

『執務官、提案がある』

 リインフォースさんがいきなり話始めました。わ、初めてだこういうの。

「誰だ?」

『私はあなたたちが闇の書と呼ぶ夜天の書の管制人格、リインフォースだ。今回もアルカンシェルはあるのか?』

 リインフォースさんの質問に首を傾げるクロノくん。

「ああ、衛星軌道にいるアースラに取り付けられている」

 クロノくんの言葉によしとリインフォースさん。

『なら、一つの作戦を提示する。博打のようだが、もっとも成功確率が高いと思う』

 そして、リインフォースさんの提示した作戦にみんなえええ! と驚きの声を上げました。

「めちゃくちゃだな……」

 ぼそっとクロノくんが呟きます。

 あはは、確かに……

『でも、計算上では、実現可能ってのがまた怖いね。クロノ君、こっちのスタンバイはオッケー。暴走臨界点まで、あと五分!!』

「ギャンブル性高そうだけど……面白そうだね。それにこのメンツならなんとかなるよ」

 斬艦刀を持ち上げながら楽しそうに時音さんが笑います。

 あはは、一応この世界の命運がかかってるんですけど……まあ、なんとかなるよね。

「防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合四層式。まずはそれを破る」

 えっと、ヴィータちゃんに私にシグナムさんにフェイトちゃん、さらに時音さんにはやてちゃんにクロノくん、前よりも一人多いんだ。

「バリアを抜いたら本体に向けて、私たちの一斉砲撃でコアを露出」

 うーん、今回はブレイカーじゃなくてブレードかな?

「そしたらユーノ君たちの強制転移魔法で、アースラの前に……転送!!」

『そしたら、アルカンシェルで蒸発させる、と』

 とエイミィさんが呟きます。

 ……あれ? そういえば、

「フェイトちゃん、砲撃大丈夫なの?」

 ふと思い出して、聞いてみる。

「ちょっときついかな。闇……夜天の書に取り込まれる前より力は戻ってると思うけど……」

 ふえ? 戻ってる?

『一応、彼女のリンカーコアに蒐集した魔力を少し返した。だが、さすがに短時間では完全にはできなかった』

 と、リインフォースさんが説明してくれます。

 あ、回復させてくれてたんだ。

「となると、最後の一斉砲撃は私とはやてちゃんかな?」

 と、呟いたら、時音さんが手を上げる。

「私やるよー! ドラスレ超える魔法見せてあげるから!!」

 あ、そういえば、時音さんもドラグスレイブっていう収束砲撃魔法あったね!

 でも、それ超えるとなるとギガスレイブだよね? リインフォースさんが使ってるから知ってるよ?









 それからみんなが散ろうとして……

「なのはちゃんにフェイトちゃんぼろぼろやないか。シャマル!」

 あ、そういえば、時音さんは治ってるけど、私たちはなんもない。

「はい、はやてちゃん。クラールヴィント、本領発揮よ」

『Ja』

 そう言って指輪状のクラールヴィントにシャマルさんがそっと口付けをして治癒魔法の準備に入る。

 う、うーん、指輪に口づけって、絵になるようで少し痛いような……

「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで!」

 始まる治癒魔法。緑色の魔力光が私たち二人を包み傷を癒していく。

 ユーノくんの魔法みたいに優しくてほっとする感じがします。やっぱり治癒魔法覚えようかな? それで、ユーノくんの怪我を優しく包みこんであげて……

「湖の騎士シャマルと、風のリング・クラールヴィント。癒しと補助が本領です」

 優しい笑顔で言うシャマルさん。

「凄いです!」

「ありがとうございます、シャマルさん!」

 そして、全開になった私たちは今度こそそれぞれの配置に移動しました。








 そして、クロノくんがたぶんグレアムさんとお話してから、作戦が実行に移されます。

『みんな!暴走臨界点まであと三十秒!!』

 エイミィさんの言葉に私は構えます。どんどんあの黒いドーム状の物体から魔力が……どす黒い怨念のような感じの力が溢れてきます。

「始まる」

 クロノくんが静かに呟く。いったい、今、父親の仇とも言える存在の前にクロノくんはどんな気持ちでしょうか?

 きっと、『私』とは違うね。もっと、強くまっすぐな思いを抱いてるはずです。

「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……闇の書の、闇」

 はやてちゃんがそれを口にしたと同時に黒いドーム状の魔力ははじけ中から防御プログラムが、ううん、そんなものじゃない。

 これまでの多くの悪意とかそういうもの、負の感情の集合体。

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「縛れ、鋼の軛! でりゃあぁぁぁぁあ!!」

 アルフさんとユーノくんが繰り出すバインドが防御プラグラムの周りにあった触手を縛り上げ引き千切っていく。そしてザフィーラさんが鋼の軛を鞭状にして残りを一掃していきます。

〈GAあaa■■■aaa■■aあA■!!〉

 絶叫を上げる防御プログラム。

「ちゃんと合わせろよ。高町なのは!」

 ヴィータちゃんの言葉に微笑みます。また、こうやって肩を並べて戦うのがすごく嬉しい。

「ヴィータちゃんもね!」

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げる。

「鉄槌の騎士・ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」

『Gigant Form』

 アイゼンがカートリッジをロードして先端の小型の鉄槌が分解し、大型の鉄槌、ギガントが現れます。

「轟・天・爆・砕!!」

 それをヴィータちゃんが振り回すと、さらに鉄槌が数十倍に大きくなります。

「ギガントシュラァァァァァァク!」

 振り下ろされる鉄槌、ガシャンとガラスの割れるような音とともに結界が一枚砕けます。

「高町なのはとレイジングハート・エクスカリバー、始めます!」

『Load Cartridge』

 レイジングハートは連続4発カートリッジをロードさせる。

 私は剣を構えます。

「エクセリオンソード!!」

『Barrel swod』

 振るった刃から見えない刃が飛び、それが邪魔なものを弾き飛ばします。

 でも、まだしぶとく生き残った触手がこっちに迫り……

「なのはの邪魔はさせない!」

「せえやあ!!」

 そこに、ユーノくんとお姉ちゃんが割って入りました。ずぱっと触手を二人が両断しました。

 ユーノくん! お姉ちゃん!

 二人が笑います。私も笑顔を返してから前を見ます。

「ブレイク……エンド!」

 そして一回転しながら剣を振る。四つの刃が、結界の一カ所に突き刺さる。それは道となりその中心に全力の魔力の刃が結界目掛けて進みます。

 そして全ての刃は一つとなり、結界がまた一層砕ける。

「次、シグナムとテスタロッサさん!」

 シャマルさんの言葉にシグナムさんが構える。

「剣の騎士・シグナムが魂、炎の魔剣・レヴァンティン、刃、連結刃に続くもう一つの姿を」

 そして、レヴァンティンが第三の姿、鞘と刃を一つに繋ぎ弓となります。

『Bogen Form』

 弓を形成して構え、そしてカートリッジを上下2発ロードします。

 シグナムさんの足元から炎が噴き出す。

「駆けよ隼!」

『Sturm Falken』

 弓が放たれる。炎の矢が結界に突き刺さり、貫きます。

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー、行きます!」

『Load Cartridge』

 バルディッシュは連続四発カートリッジをロードさせます。足りない分をカートリッジで無理やり?! 大丈夫なの?!

「フェイトちゃん!!」

 時音さんが叫びます。ですが、フェイトちゃんは小さく笑います。きっと大丈夫って伝えたいんだね。

 時音さんもその意図がわかったのか、ぐうっと押し黙ります。

「はぁ!!」

 まず衝撃波を放ち攻撃に邪魔な触手を吹き飛ばします。

 そしてフェイトちゃんはバルディッシュを天に掲げ、雷撃を魔力刃に宿らせる。

「撃ち抜け、雷神!!」

『Jet Zamber』

 フェイトちゃんはバルディッシュを振り下ろす。魔力刃は伸びながら防御プログラムへと向かう。

 また一枚結界が壊れるとともに伸びた魔力刃が防衛プログラムを断つ。

 防御プログラムが結界の再展開のための時間稼ぎか触手を発生させ砲撃の準備に入ります……が!!

「盾の守護獣・ザフィーラ! 砲撃なんぞ……撃たせん!!」

 割って入ったザフィーラさんが海面から鋼の軛を発生させ、無数の触手は魔力刃で串刺しとなり沈黙します。

「時音さん、はやてちゃん!」

 シャマルさんの呼びかけに時音さんが笑う。

「いくよ久遠!」

『イエスマム!』

 時音さんがその長大な剣を構え、身体を上下反転させます。

 そして、足元に展開した魔法陣を強く蹴ります。は、初めて見る技です!

「木霊流特式! 上弦!!」

 そして、剣を振り下ろすと同時に峰のスラスターが火を噴きさらに加速する。

 斬艦刀の巨大な刃が防衛プログラムを断ち切ります。

「彼方より来たれ、やどり木の枝!」

『銀月の槍となりて、撃ち貫け!』

 え、リインフォースさんも詠唱するの?!

 そして、詠唱を終えるとはやてちゃんの後ろに黒い空間が現れ7つの白い魔力スフィア現れます。

『石化の槍、ミストルティン!!』

 二人の言葉が重なる。そして、ミストルティンが防衛プログラムに突き刺さる。

 石化が広がり、リインフォースさんを模したような上半身が崩れます。

 だけど、防御プログラムは欠けた部分を強引に再生ようとしまう。結果、辛うじてまだそれらしいデザインだったものが、醜悪なものへと変貌します。

「うわあ、なんだよあれ!?」

「なんだか、凄い事になってます……」

 転送のために待機していたアルフさんとシャマルさんが表情を引きつらせます。ま、まあ、女性としてあの造形はどうかと思うの。

『やっぱり、並みの攻撃じゃ通じないし、ダメージを入れたそばから再生されちゃう!』

 エイミィさんが悲鳴じみた声を上げます。

「でも、攻撃は通ってる。プラン変更はなしだ!! いくぞデュランダル!!」

『OK, Boss』

 クロノ君がデュランダルを構えた途端、雪のような白い粒子が防御プログラムの周りに現れます。

「悠久なる凍土 凍てつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ」

 対象である防御プログラムを中心に海面と、そして防御プログラム本体が凍結していく。

「凍てつけぇぇえ!!」

『Eternal Coffin』

 防御プログラムは完全に凍結しました。さすがです。

 一時的でしょうけど、確実に防御プログラムの再生が完全に止まってもがき苦しんでいます。

「はやてちゃん、時音さん!!」

 うんと二人が頷きます。

 私はレイジングハートを構えます。

「いくよレイジングハート!」

『スターライトブレイド・エクスカリバー!』

 カートリッジを全弾ロード、さらにこの一帯に満ちたみんなの魔力を刃に集めます。

「全力全開……スターライト!」

 時音さんが白銀色の魔力を迸らせる斬艦刀の久遠を振りかぶる。

「神々の魂すらも打ち砕き……ラグナ!」

 あ、時音さんはやてちゃんと少しかぶってるの。

 はやてちゃんは前にベルカ特有の三角の魔法陣を展開させ各頂点に魔力をチャージする。

「ごめんな。お休み……」

 はやてちゃんがどんな気持ちで呟いたかはわからない。だけど、はやてちゃんはしっかりとした眼差しで詠唱を始める。

「響け終焉の笛、ラグナロク!!」

 そして、全員の準備が終わったことを確認して、

『ブレエェェェェェド!!』

 三つの大威力攻撃が防衛プログラムに突き刺さりました。

 三つの閃光が一つの魔力の塊となり、行き場の無くなったエネルギーは、衝撃と轟音とともに、上に向かって噴き上がる。

 跡形もなく外郭が砕かれる。

「本体コア、露出確認、座標固定、確認! 捕まえ……った!!」

 シャマルさんがコアの座標を固定する。続けて待機していたユーノくんとアルフさんが強制転移の準備に入る。

「長距離転送!!」

「目標、軌道上!!」

 ユーノくんとアルフさんが術式を展開します。

『転……送!!』

 コアが軌道上に向けて転送されました。

 少しして、空で閃光が上がりました。たぶん、コアを打ち抜いた光でしょう。

 終わったんだ……

 そこまで考えて、がくんと視界が揺れました。あ、あれ?

「なのは?!」

 がしっとユーノくんが私を抱き止めてくれる。

 ああ、やっぱりユーノくんは温かいなあ……

 そう思いながら、私の意識は遠のいていきました。






~~~~
防御プログラム戦終了。
次回リインフォースが語る真実です。



[14021] 第三十九話 新たな旅立ち
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/02/06 13:13
 夢を、夢を見ていました。

 ヴィヴィオが見たことがない青年と嬉しそうに、幸せそうに一緒にいました。

 そこで、私に気づいて振り返ると、手を振ってきたので、私は軽く手を振り替えします。

 そして、ヴィヴィオが再びその青年に向き合うと、だんだんと二人が離れていってしまいます。

 ああ、もうお別れなんだとなんとなく理解しました。

 また、いつかねヴィヴィオ……









 私は目を覚ますと、ぼんやりとした視界の中で白い天井とユーノくんの顔がありました。

「なのは!」

「ユーノくん? ここは……」

「アースラの医務室だよ。あの後、なのは気絶して、丸一日寝てたんだよ」

 ああ、そういえば。いろいろあったからね。きっと疲れが出たんだ。

「フェイトちゃんたちは?」

 そういえばみんなどうしたかな?

「フェイトは無理したことをクロノとリンディさんに怒られて部屋で反省してる所。時音さんは怪我は治ったけど、念のため検査を受けて問題ないから、今は守護騎士たちと、あのはやてって子が起きるのを待ってる」

 そうなんだ。

 私は体を起こす。ユーノくんが慌てて支えてくれる。

「ありがとうユーノくん」

 私はユーノくんにお礼をいいます。

「これくらいどうってことないよ」

 とユーノくんが笑います。

 あ、いや……そうだよね。このタイミングならそっちだと思うよね。

「そっちじゃないの」

 と私は慌てて否定します。

「リインフォースさんに取り込まれちゃった時にね、ユーノくんの声が聞こえたの」

 と説明します。

 あの時、ユーノくんが呼びかけてくれなかったら、私はずっとあそこにいた。

 もし、ユーノくんの声が聞こえなかったら、私は現実に耳を塞いでた。

「だからね、ありがとうユーノくん」

 と私がお礼を言うと、ユーノくんは顔を真っ赤にしてた。

 どうしたのかな?

「な、なのは、あれ聞いてたの?」

 ユーノくんの問いに頷く。するとユーノくんが顔を伏せる。

 えっと、なにかユーノくんが恥ずかしがるようなことあったかな?

 と考えて……あっ!?

 もしかして、好きって言ってたのを気にしてるのかな?

 …………よし!

「ありがとうユーノくん」

 へっ? とユーノくんが顔を上げます。

「好きって言ってくれて嬉しかったよ。私もユーノくんが好きだから」

 私の言葉にユーノくんがポカンとします。

 よ、よし! 今しかないの!!

「フェイトちゃんより、すずかちゃんより、アリサちゃんより、クロノくんより、時音さんより、お姉ちゃんより、お兄ちゃんより、お母さんより、お父さんよりも、私はユーノくんのことが大好きだから」

 言えた。やっと言えました。『私』が言えなかったことを私は言えました。

「なのは……」

 じっと私たちは見つめ合います。そして、私はだんだんとユーノくんに顔を近づけて……

「起きたか高町なのは」

 突然ドアが開いてリインフォースさんが入ってきました。ばっとすぐに私たちは離れました。

「? どうしたんだ?」

 私たちの行動にリインフォースさんが傾げます。

『いえ、なにも』

 私たちは平静を装い首を振りますが、心の中では文句を言っています。

 まったく、リインフォースさんタイミング悪いの。

「ならいい。高町はもう大丈夫か?」

「はい」

 私は頷きます。

 単に疲労で倒れただけだから問題ないの。

「なら、お前と話がしたい。少しいいか?」

 リインフォースさんの言葉に私は頷きました。










 そして、私とリインフォースさんは海鳴の自然公園へと赴きました。

 アースラでは話せないことで、リインフォースさんは念入りにサーチャーも調べてます。

 そして、よしと頷いて私に向き合いました。

「さて、話だが、おそらくはお前も私と話があるのだろう?」

 頷きます。

 そうです。私はリインフォースさんに、聞かなければならないことがあるんです。

「その、あなたはヴィヴィオに関係があるんですか?」

 遺言と夢の中でヴィヴィオが言った。それはつまり……

「はい、主ヴィヴィオは数代前の主です母上様」

 途端にリインフォースさんがかしこまった口調になると同時に、その言葉が胸に突き刺さる。

 やっぱりヴィヴィオは……

「おそらくあなたも、主ヴィヴィオと同じ。未来の自分の記憶を持っているのでしょう?」

 リインフォースさんの言葉に頷く。でも、『私の娘』であるヴィヴィオがなんで私より過去に……

「主ヴィヴィオは聖王オリヴィエとして転生しました」

 私の疑問を察したのかすぐにリインフォースさんが補足した。そして、再び頭を殴られるような衝撃が私を襲います。

 そんな、ヴィヴィオ……

「主は最初は悩んだそうです。悩んだ末に少しでも未来をよくするために行動しました」

 未来をよくするために……

「そして、あなたたちと関わることになる私たちの主となることで、未来への仕掛けと遺言を闇の、いえ夜天の書の中に用意し、自分は運命に殉じました。そして、私はその意思に従って行動しました。全ては幸いのために」

 運命に殉じた……つまり、滅びるベルカと運命を共にしたってこと。

 視界が滲む。

「彼女は言ってました。自分には出来る限りのことをすると、だからその代わりにあなたたちが幸せになって欲しいと願っていました」

 リインフォースさんの言葉を聞きながら、私は膝を折り泣き出しました。

 あの子に強いてしまった運命に、それでも、私を母と呼んでくれて、幸せだったと言ってくれたことに。

 ヴィヴィオ、ごめんね、こんな酷いママで。そしてありがとう。こんなママを好きでいてくれて。









 そして、私は涙をぬぐって立ち上がります。

「大丈夫ですか?」

 リインフォースさんに頷き返す。

 泣いてばかりはいられない。だって、あの子が望んだのは私が泣いてることじゃないから。

 幸せになってみせるよヴィヴィオ。あなたの望んでくれたように、あなたの分も。そして、今度は幸せにしてみせるよ。

「私は止まりません。あの子のためにも」

 その返事に満足そうにリインフォースさんが頷きました。

「それでいいです。主が望んだのは進むこと。止まられては困ります」

 はいと答える。 

「ところで、仕掛けって何ですか?」

 ふと気になったことを聞いてみる。

 ああ、とリインフォースさんが頷きます。

「それは、主の遺言に、緊急時に主と私を防御プログラムから切り離すシステム、そして」

 リインフォースさんが私から視線を移します。

 その視線を追っていくと、そこに、時音さんがいました。

「彼女です」

 時音さんが歩み寄ってくる。そして、

「私が誰なのか教えてくれるんですよね?」

 時音さんの問いにリインフォースさんが頷きました。









 そして、そこからは私たちは三人で話を始めます。

「お前は私の数代前の主、オリヴィエに仕えていた騎士、ソフィア・フォードの娘、ユーナ・フォードだ」

 時音さんは黙って聞きます。

「彼女が主オリヴィエを庇って戦死した後、まだ赤子だったお前を、平和な世界に送って欲しいと言う主の願いに応じて、私がこの時代この世界に送りだした」

 そうと時音さんが頷きます。

 そっか、だから時音さんは『前の世界』にはいなかったんだ。

「そうなんだ、でも一つ質問。なんでこの時代、この世界って彼女は判断したの?」

 まあ、当然の疑問なの。

 でも、私はその答えを知っている。

「それは、彼女がこの世界のことをよく知っていたからだ」

 へっ? と時音さんが首を傾げる。

 そこで私は一歩前に出ます。

「それは、私が答えます」

「なのはちゃん?」

 時音さんが戸惑い気味に私を見ます。

「プレシアさんのタイムマシン覚えてますか?」

 時音さんが頷きます。

 まあ、そんなすぐに忘れないよね。

「あれを作ったのは未来の私です」

「……えっ?!」

 時音さんは私の言葉に目を丸くして驚きました。

 未来の私は紆余曲折を経て、夫のユーノくんと養女のヴィヴィオと幸せに暮らしていたこと。

 そんなある日、王家の末裔であるヴィヴィオを狙ったテロリストによって最愛の人を失ってしまったこと。

 そして、絶望した未来の私はそれをなかったことにするために、時を巻き戻そうとタイムマシンを作り上げ、ヴィヴィオとともに過去へ跳ぼうとしたものの、人間が過去に跳ぶのになんらかの障害があり、記憶と意思だけが、私に宿ったことを伝えました。

 へ? 未来の私はユーノくんと結婚してなかったんじゃないかって?

 大丈夫です。ちょっと脚色した程度ですし、それにこうすれば時音さんはユーノくんには手を出せなくなるんだよ?

「そっか、なのはちゃん大変だったんだね」

 うるうると涙を溜めながら時音さんは私を抱き締めてきました。

「ごめんなさい。時音さんも私のせいで振りまわしちゃって」

 ぎゅっと私も時音さんの背中に手を回します。

「ううん、あなたたちのお陰で私はこうして生きてるんだから、むしろ感謝してるよ」

 と、時音さんが頭を撫でてくれます。

「でも、これからは私にも頼って。一人で何とかしようとしないでね」

「はい!」

 そうです、私は一人じゃない。みんなに手伝ってもらえば、きっと未来はいいものになるはずです。









 そして、私たちは街全体が見渡せる丘に向かいます。前と同じように夜天の書を破壊するために……

「どうにもならないんですか?」

 私は再びリインフォースさんに尋ねます。

「ああ、主も私の資料を探したりしてくれたが、修復するには時間があまりに足りないと言ってたな」

 と、背中を向けたままリインフォースさんは答えます。

「今回もそんなに時間はない、明日か、それとも一週間後か、いつかはわからないがまた防御プログラムは再生し、暴走する。だから、私が消えるしかないんだ」

 でも、それでも!

 私はもっといっぱいお話ししたい。ヴィヴィオのことをたくさん話してもらいたい。

 もっと、もっと……

「ああ、そうだ」

 くるっとリインフォースさんが振り向いて、私の隣にいた時音さんの額に指を突き付けます。

「な、なに?」

「お前に、私の中にあるだけのお前の母、ソフィアの記憶を渡しておく」

 リインフォースさんの指先から、時音さんに淡い光が渡ります。

 そして、光が時音さんの中に入ると同時にリインフォースさんは指先を外しました。

「よし、後から少しずつ記憶は解凍されていくはずだ」

「あ、ありがとうございます」

 時音さんがお礼を言うとリインフォースさんが小さく笑います。

「なに、私にできるのはもうこのくらいだからな。母上様も彼女を通して過去の主のことを聞いてください」

 ああ、察してくれたんだリインフォースさん。

 そして、私たちはあの丘へと着きました。










 大型のベルカ式の魔法陣に中心にリインフォースさんが立ち、夜天の書を目の前に浮かせ、その後ろに守護騎士のみんなが立つ。

 それから前に時音さん、私とフェイトちゃんが挟むように左右に立ち、デバイスを構えます。

『Ready to set』

『Stand by』

『準備完了です』

 リインフォースさんが小さく笑う。

「お前達にも世話になったな。感謝する」

 レイジングハートとバルディッシュ、そして久遠に言う。

『Don't worry』

『Take a good journey』

『またいつか』

 三体がそれぞれで返事を返します。

「さて……ではな、みんな先に行く」

 そして儀式が始まっていく……けど。

「リインフォース! みんな!!」

 はやてちゃんの声、見れば、必死に車椅子のタイヤを回してこっちに向かうはやてちゃん。 

「はやてちゃん!」

 時音さんが動こうとして、

「待て。誰も動かないでくれ、儀式が止まる」

 と、リインフォースさんに止められます。

「あかん、止めて! リインフォース止めて! 破壊なんかせんでええ!! 私が、ちゃんと抑える!! 大丈夫やから、こんなんせんでええ!!」

 涙ながらに訴えるはやてちゃんに胸を締め付けられる。わかるから、大切な人がいなくなる気持ちは痛いほどわかるから。

「主はやて、良いのですよ」

 対してリインフォースさんは満たされたような笑顔。

「良いことない!良いことなんか、なんもあらへん!」

「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最後で、私はあなたに、綺麗な名前と心を頂きました。騎士達もあなたの傍にいます。何も心配はありません」

「心配とかそんな……!!」

「ですから、私は笑っていけます。それに、かつての主の願いも果たしました」

 と、時音さんを見る、時音さんは必死に泣きだすのを堪えてる。

「ばか! 話聞かん子は嫌いや! 今のマスターは私なんやから話を聞いて!! 私がきっと何とかする。暴走なんかさせへんて約束したやんか!!」

 必死にリインフォースさんを留めようとするはやてちゃん。

「その約束は確かに果たされました。だから私はここにいるのです。それに、主はあんなことをしでかした私を憎んでませんでしたか?」

「リインフォース!! だって、あれには理由があったんやろ?!」

 話には聞いたけど、はやてちゃんの目の前でヴィータちゃんたちを蒐集したそうです。

 私がリーゼ姉妹を捕まえたから、絶望を与える相手がいないから、自分から悪役になって。

「ええ、主の危険を祓い、主を護るのが、魔導の器……そのためとはいえ、少々強引で、主も傷つけてしまいました。その償いでもあります」

 と、今度は申し訳なさそうに笑う。

「……そやけど、ずっと悲しい想いしてきて、やっと、やっと! 救われたんやないか!!」

「はい、私はかつての主の言う通り、あなたのような方に出会い、救われました。私には過ぎた幸福です」

「そんなんちゃう!そんなんちゃうやろ、リインフォース!!」

「駄々っ子でいるとご友人に嫌われますよ? 聞き訳を、我が主」

 落ち着いてはやてちゃんを窘める。でも、どこか強がってるようにも見えます。

「リ、リインフォース! あっ!?」

 はやてちゃんは車椅子を前に出そうとして、出っ張りにつまずき車椅子から転んでしまった。

「はやてちゃん!!」

 今度こそ時音さんが動こうとして、その肩をリインフォースさんに掴まれて留められる。

 目で時音さんに頼むと伝え、時音さんは思いとどまります。そして、ゆっくりとはやてちゃんに歩み寄ります。

「何で? これから、やっと始まるのに……これから、うんと楽しいはずなのに……」

 はやてちゃんは車椅子に戻ろうともせずに泣きながら言う。リインフォースさんは屈んではやてちゃんのほほを撫でながら言う。

「大丈夫です。私はもう、世界で一番、幸福な魔導書ですから」

 穏やかな笑みでまっすぐにはやてちゃんを見る。

「リイン、フォース……」

「では主、最後に一つお願いしてもいいでしょうか?」

「お願い?」

 はいと頷くリインフォースさん。

「はい、私は消えて小さく無力な欠片へと変わります。もしよろしければ、私の名はその欠片ではなく、あなたがいずれ手にするであろう新たな魔導の器に、送ってあげていただけますか?」

 リインのことだね……

「強く支えるもの、祝福の風、リインフォース……私の魂は、きっとその子に宿ります」

「リ、イン……フォー、ス。わかった。わかったよ」

「ありがとうございます。我が主」

 そして、はやてちゃんを車椅子に座らせ直してから、リインフォースさんは陣の中心に戻ります。

「ありがとう……そして、幸せに」

 儀式が再開され、光となって空に消えるリインフォースさん。

 結局、私は変えられなかった……救いたいと思ったのに、また何一つ救えなかった。

 儀式が終わり、時音さんが耐えきれずに泣き始める。私もレイジングハートを降ろし、視界が滲む。

 その時でした、ユーノくんの前にベルカ式の魔法陣が現れたのは。

『え?!』

 突然の事態にみんなが驚きます。

 そして、魔法陣から銀色の髪のきれいな人が、リインフォースさんが現れました。な、なんで?

「リインフォース!!」

 はやてちゃんが泣きながら笑顔を浮かべます。

 対してリインフォースさんは困惑気味です。

「な、なぜ、私はここにいる? なぜ……」

 と、自分の手を見て、風が吹きました。その時、確かに見えました。

 そっとリインフォースさんを抱き締めるように、穏やかに微笑む、金色の髪と虹彩異色の少女がいるのが……ヴィヴィオが見えました。

「主オリヴィエ?」

「オリヴィエちゃん?」

「オリヴィエ?」

「主?」

 呆然とみんなが呟きます。

 ヴィヴィオはみんなを見て、満面の笑みを浮かべると、ゆっくりと口を開きました。

 声は聞こえません。でも、その形に口が動き、確かに聞こえました。

 し・あ・わ・せ・に……

 そう言って、再び風が吹くとその幻影は消えました。

 ぽろぽろとリインフォースさんが涙をこぼします。

「あ、あるじ……あなたは、わたしにもしあわせになれと?」

 呆然とリインフォースさんが呟きます。

 そして、その手をはやてちゃんが取りました。

「あるじ、はやて……」

 はやてちゃんはこくっと頷きます。

「あのお姉さん、きっと、ずっとリインフォースが幸せになってくれることを望んでくれてたんや。あたし勝てないなあ」

 とはやてちゃんがリインフォースさんにそう言葉を投げかけるとと、リインフォースさんは声を上げて泣き始めました。

 私も、もう限界でした。

「あああああああああ!!」

 ヴィヴィオ、ヴィヴィオ……

 私は変えられなかった。でも、あの子は変えてくれた。私にできないことをやってくれた。それが、嬉しくて、褒めてあげたくて、でも、できない現実に私は泣き続けた。







 そして、私たちが泣きやんでから、リインフォースさんが状況を説明してくれます。

「どうやら、私にも気づかないように主は仕掛けを残しておいたようです」

「仕掛け?」

 はいとリインフォースさんが頷きます。

「ベルカ時代、主オリヴィエは私のプログラムを修復しようと試みてました。ですが、それが間に合わないと判断し、私の中に修復プログラムを残したみたいです。そして、そのプログラムは長い年月をかけて、自身の未完成部分を構築し、先ほどの儀式に呼応して発動したようです」

 そうなんだ。あの子は、リインフォースさんも救おうとしたんだ……

「そか、ならこれからは一緒にいられるんやね?」

「ええ、元主」

 と、リインフォースさんがほほ笑み……はい?

 みんな目が点になる。

「どういう意味や? リインフォース」

 すると、困ったようにリインフォースさんが答えます。

「その、どうやら私の新しい主はあの少年のようです」

 みんなの視線がユーノくんに集中します。ユーノくんは僕? と自分を指さします。

 そして、

『なにいいいいいいいい!?』

 みんなの絶叫がとどろきました。

 ヴィヴィオ、なんてことしちゃったの!!











~~~~
ああ、A,s編、今回で終わりかと思ってたけど、もう一話くらいかかりそうです。
主にユーノが選ばれた理由は、次回語ります。 



[14021] 番外 バレンタイン編
Name: 裏・空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/02/14 20:48
 みなさん今日はバレンタインです。

 もちろん私は、ユーノくんにチョコを上げるため包装したチョコを持って無限書庫の司書長室に向かってます。

 このチョコはユーノくんに上げるためにわざわざ産地から送ってもらったカカオ豆から作った自信作なの。

「ユーノくーん! チョコ持ってきた……の」

 はて、目の前の光景は何でしょうか?

 アインスさんが胸を寄せ、できた谷間になにかの箱を挟み、それを取ろうとするユーノくん。

「な、なのは! これは違うんだ」

 と手を振って否定するユーノくん。

「バレンタインとは随分恥ずかしいイベントなのですね高町」

 ちょっとだけ頬が赤いアインスさん。

 ……うん。

「レイジングハート」

『All right』

 私はレイジングハートを展開します。

「少し、ううんかなり頭冷やそうか」

 私は飛びかかった。











 私はバインドでぐるぐる巻きにされながら、ふーふーと荒い息を吐き出す。

「なのは、落ち着いて、ね?」

 とユーノくんに宥められます。

 それから私はゆっくり息を整えます。大丈夫。大丈夫なの。アインスさんは私の協力者。敵じゃない。敵じゃない。

 でも、もしもの時は……私の殺気にあてられたのか、若干アインスさんが引きます。

「アインスさん、さっきのあれはなんですか?」

 噴き上がりそうなマグマに蓋をしてアインスさんに尋ねます。

「その、はやてにバレンタインのことを聞いたため、主ユーノにチョコを渡そうと思い手伝っていただきました。そしたら『ユーノくんに渡す時はこうするのがいいんや!』とおっしゃったので」

 汗を流しながらアインスさんは答える。

 現在、ユーノくんが主なため、アインスさんの呼び方にはやてちゃんからは主は外されてます。

 ふーん、はやてちゃんが原因なんだ……

 けけけと私は笑う。

「な、なのは冷静になってね」

 大丈夫。冷静にはやてちゃんにどんなお仕置きするか考えてるの。









 それから、「ではお二人でゆっくりしてください。一時間くらい」とアインスさんは司書長室から出ていきました。

 私たちはどちらも黙って座ってます。

 そして、チラッと私は自分の胸を見ます。

 だいぶ大きくなってきているそこだけど、アインスさんに比べればまだ小さいです。挟むほどないよね。

 いや、別にアインスさんに対抗する必要はないんだけど、でも、インパクトってやっぱり重要だと思うの。

 うー、どうしようと悩んでいたら、

「あのさ、もしかしてなのはも……チョコを持ってきてくれたの?」

 顔を赤くしながらユーノくんが聞いてきます。まあ、このタイミングで私が来たのならすぐにわかるもんね

「うん」

 私は頷いて、チョコを取り出します。

「ありがとうなのは」

 嬉しそうにユーノくんが笑う。その笑顔に心臓が高鳴る。

 ああ、やっぱりユーノくんの笑顔は最高なの。抱き締めてキスしてあげたく……キス?

 そこで閃きました。私は包装を破きます。

「なのは?」

 私の行動にユーノくんが戸惑いますが私は気にせず、箱から手作りチョコを取り出す。

 別にそんなこと気にしなかったけど、サイズ的にちょうどいいかも。

 それを、口に咥えて、

『ユーノくん、どうぞ』

 喋れないから念話で意図を伝えます。

 その途端、ユーノくんは真っ赤になりました。

「えっと、どうぞって……」

『溶けちゃうよ?』

 ごくっとユーノくんが喉を鳴らします。

 そして、そろそろと顔を近づけて、チョコに口をつけます。

 そして、パキッと歯だけでチョコを半分に割って、ユーノくんはそれを味わってくれます。

『おいしい?』

 私の問いにユーノくんは頷きます。

「うん。なんて言えばいいのかわからないけど、今まで食べたチョコの中で一番美味しいよ」

『嬉しいな。でも、まだ半分残ってるよ』

 ユーノくんは、うんと頷いて口を近づけて、ぱくっとチョコと私の唇を食べるユーノくん。

 私が舌でチョコを押し出すと、ユーノくんの口に入り込んだ私の舌がユーノくんの舌と絡みつく。

 とろりと溶けたチョコとユーノくんの唾液が混じり合ったものが私の舌にも広がって、甘美な味が口の中に広がる。

 ああ、思いつきでやったけど、なんて素晴らしい……

 くちゅくちゅとお互いの唾液の混じった溶けたチョコを味わいます。

 そして、口を離す。銀色ではなく、茶色く色づいたアーチが私たちの口から伸びます。

「なのは……」

「ユーノくん……」

 再び、私たちがお互いの味を確かめようとして、

「ユーノくーん! チョコ持ってきた……よ」

 勢いよく入ってきた時音さんの言葉が尻すぼみになる。

「……お邪魔しました」

 ぱたんとドアが閉まる。

 私たちは固まったままドアを見つめる。

「えっと、その、ごちそうさまなのは」

「私もごちそうさまでした」

 それから、お互いに顔を向け直し、頭を下げる私たち。傍から見ればなんとも滑稽な姿でしょう。

 時音さんのばか……









 こうして私たちのバレンタインは終わった。

 聞くところによれば、シャマルさんのチョコを食べたザフィーラさんと他数名に、お姉ちゃんのチョコを食べたティーダさんが病院に担ぎ込まれたとか。





~~~~
バレンタイン編です。
なお、A,s編のちょい後くらいを想定しています。



[14021] 第四十話 告白なの!
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:b50a47bc
Date: 2011/03/15 14:06
「いったいどうなってるんですか?」

 よりにもよってユーノくんが主だなんて!

「えっと、先程、修復プログラムとともに解凍されたプログラムの中に、主のもう一つの遺言がありました」

「遺言?」

 はいとリインフォースさんが頷きます。

 そして、それが写されました。

『やっほー、ママ。これをママが見てるなら未来では私の予想通りに事が進んでいると思います』

 ヴィヴィオ……

 夢の中で出たように、成長したヴィヴィオが笑顔で手を振っていました。

『時間もないから手短にいくね。えっと、ユーノさんにリインフォースを残した理由は保険です』

 保険……

『もし、ママが私と違って未来の記憶がない時のために、ユーノさんを守ってもらうためです』

 そっか、そうなんだ。

『それと、火付け石です』

 うん?

 画面の中のヴィヴィオがにんまりと笑います。

『ユニゾン状態になればある程度はユーノさんも戦えるだろうから、ママを手助けしてくれて惚れ直すかもしれないし、それにユーノさんのそばに綺麗なお姉さんがいたらうかうかしてられないでしょ?』

 ヴィヴィオ……そんなことも考えてたんだ。

 それからヴィヴィオは泣き笑いのような表情を浮かべる。

『そろそろ時間だけど、最後に二つ。リインフォース、あなたも幸せに、それが私の望みだから。ママも、私のことは気にしないで……って言ってもママは気にすると思います。だから、こう言います。未来の私を大切にしてください。それから……』

 ついにヴィヴィオが涙を零す。

『ユーノパパと幸せに!』

 そう残して映像が消えました。

 ヴィヴィオ……

 私とリインフォースさんは、また泣いてしまいました。











「そう、ユーノさんが闇の、いえ新生夜天の書の主になったの」

 リンディさんが頷きます。

 現在、私たちはフェイトちゃんの家でリンディさんたちに報告をしています。

 リインフォースさんを連れて帰ってきた時はリンディさんたち随分驚いてたなあ。

「で、どのくらい機能は残ってるんだ?」

 クロノくんがリインフォースさんに問いかけます。

 あ、そういえばまだ聞いてないの。

「ああ、夜天の書はすでにただのストレージデバイスになっている。蒐集機能はなく、記録されてる術が使える程度だ。私も融合機としての機能は残って、どちらかというとそちらがメインの機能のようだな。どうやら、本来の姿を取り戻したというより、融合機として作り直されたと言った方が近いようだ」

 つまりリインに近くなったってことかな?

 と、そこで切って笑う。

「ただ、どうやら今の主限定のようだ。元主のために新たな融合機の用意は必要だな」

 いいなあリインフォースさん。私も早くユーノくんと合体したいなあ……

 そうですかとリンディさんが頷く。

「あなたはこれからどうするつもりですか?」

「主のために働く。それ以外ない」

 そうですかとリンディさんが頷く。

「これからあなたたちは保護観察と言うことになりますが……」

 ちらっと時音さんを見るリンディさん。

 ああ、時音さんがシグナムさんに斬られたことをいいたいの。すると、時音さんはにんまりと笑う。

「リンディさん、私は彼女たちになにもされてませんよお?」

 と、返す。まあ、怪我はないけど……

「ですが……」

「代わりにグレアムさんとお話する機会をもらえませんか?」

 なお、リンディさんがなにかを言う前に時音さんが要求を出す。

 ああ、なるほど。例のあれはグレアムさんのせいにするんだ。

「……わかりました。後日、機会を作らせていただきます」

 とリンディさんも頷く。

「詳しい処分に関しては本局で下されると思います。怪我人は少なく、情状酌量の余地はあると思います」

 その言葉に私と時音さんはハイタッチを決めました。








 そして、私はユーノくんと一緒に家に帰ります。リインフォースさんは八神家で新しい門出を祝ってもらっています。

 その途中でした。

「あのさ、なのは」

「なに、ユーノくん?」

 そして、ユーノくんが切り出しました。

「少し、行きたい場所があるんだ」

 いきたい場所?








 ユーノくんが向かったのは、私たちが出会った場所でした。

 半年ぶりだなあ。なんか懐かしく感じるのは今までに濃密な日々を送ったからでしょうか?

「ここで、なのはに助けてもらったよね」

「うん」

 あの時はまだなんで自分があんなに必死だったのかわからなかった。でも、今ならわかる。ユーノくんを失いたくなかったから。

 世界の狭間に消えてもなお、狂おしいまでの『私』の願いが私を突き動かした。そして、その頃の私のユーノくんへの思いは『私』の影響が強かった。

 でも、今は少し違うと思う。それだけじゃなくて今は私自身が、ユーノくんが好きだって。

 優しくて、強くて、私を助けてくれて、受け止めてくれて、好きって言ってくれて……そんなユーノくんのことが、『私』としてではなく、今の私が本当に好きになったんだって。

「あのさ、なのは。僕はもうすぐ高町の家の子になる」

「うん」

 すでに、お母さんたちがユーノくんの部族の皆さんに会いに行く予定も立ってる。来年くらいにはユーノくんは高町・S・ユーノになると思う。

「つまり、なのはとは姉弟になるんだけど、その前になのはに伝えたいことがあるんだ」

 伝えたいこと?

 なんだろうと思っていたら、

「僕は……僕はなのはのことが好きだ!」

 真っ赤になりながらユーノくんが言ってくれた。

 好き……

「そ、その、まだ僕たちはまだ子供だけど、これからも、ずっと僕と一緒にいてもらいたいんだ」

 ダメかな? とユーノくんが笑います。

 それを見て、視界が滲みます。そして、自然とぽろぽろと涙がこぼれました。

「ダメ、なんかじゃないよ……私もずっと一緒にいてほしいから……私もユーノくんが大好きだから!」

 私は涙を流しながらユーノくんの手を取ります。

 言えた、やっと言える。ユーノくんに私の気持ちを。

「私からもお願い。これからずっと、一緒にいてユーノくん!」

 うんとユーノくんが微笑みました。









 離れないように強く手を繋ぎながら私たちは家路を歩きます。

「あのね、ユーノくん。私、今までちゃんとした夢はなかったの。でも、さっき一つだけできたんだ」

「さっき? どんなの?」

 うんと私は頷きます。

「それはね……ユーノくんのお嫁さん!」

 私の言葉にユーノくんは真っ赤になりました。





~~~~
震災に関しては東京でしたので、強い揺れに襲われただけで怪我なく無事です。
こんなこともあったからずらそうかと思いましたが、投稿します。

A's編終了です。やっとここまで来たか……
これから空白期です。その後、駆け足気味にストライカーズです。
それでは、また。



[14021] 第四十一話 時音さんとゼスト隊 (空白期開始)
Name: 空の狐◆6f2a5b2b ID:a9f084e4
Date: 2011/05/17 21:57
 さて、あれから一週間が経ちました。

 私とリインフォースさんに時音さん、秘密を共有するものたちが集まって、これからのことを相談します。

 できる限り、いい未来を作りたい。あの子が残してくれた世界を、なによりも私とユーノくんの輝かしい未来のためにも!!

「まあ、これから起こることをはっきり知ってるのは私だけだけど……」

 と必然的に指針を与えるのは私の役になる。

「私は無限書庫勤務だな。主ユーノがするはずだった書庫の整備をしよう。そうすれば、主と母上様がともにいられる時間を多くできるでしょう」

 よろしくお願いします。でも、

「あの、母上様はやめていただけないかな?」

 私の頼みにあ、とリインフォースさんが口元を抑える。

「わかりました。では、なのは様で」

 うーん、まあいいかなあ。

「で、私は?」

 うーん、時音さんは地上部隊に出向していただきます。できたらゼストさんの部隊にねじ込んでもらうの。

「ゼスト隊?」

「はい、近代ベルカの使い手が数名いますし、未来で私に関わる事件にも関係がある人がいますから」

「りょーかい! 今度、グレアムさんに会うし、その時に頼んでみるよ」

 となると戦闘機人プラント襲撃が近いだろうし、AMFや対戦闘機人を時音さんに教えないとね。

 そして、一ヶ月後、時音さんはグレアムさんのコネでゼスト隊に入隊することになりました。














時音side

 私が入隊したゼスト隊の人たちはいい人ばかりでした。隊長のゼストさんにクイントさんやメガーヌさんも新米の私に色々と教えてくれました。

 学校生活との二足の草鞋の生活ですが、楽しかったです。

 ……まあ、なぜかベテランであるはずの隊長たちの体術が、私の目からもあまりに拙く私が隊長たちの体術を見たりもしましたが。

 なのはちゃんの言うとおり、魔法に依存しすぎて、この世界はそういうのは二の次みたいです。

 そういう風に新人の私もすぐに部隊に馴染めました。

 だけど……













 私はAMFの影響でかかる負担を無視して、施設内を駆ける。なのはちゃんに事前に効いてたけど、思ったよりもキツいなあ!

 隊長、クイントさん、メガーヌさん!

 私は炎に包まれた施設の中で三人の姿を探し、見つけた。

「あ、ああ、ああああ!!」

 真っ赤に染まったクイントさんとメガーヌさんを。

「クイントさん! メガーヌさん!」

 すぐに駆け寄り傷を見る。かなり深い。すぐに医者に見せないと不味い!

 深い傷の応急処置を行う。急がないと!

 外に連絡し、救護班の用意を頼む。そしたら、

「黒野か?」

「隊長!!」

 声に振り返る。そこにボロボロの隊長がいた。

「捕縛対象に逃げられた。二人のこともある。今は引くぞ」

「はい」

 私は処置を終えたクイントさんを抱き起こそうとして……体を前に倒すと同時に背後に立つ『隊長』を蹴る。

「ぐっ!」

 ぴっとその手に装着していた爪が私の腕を切る。

「なぜ気づいたのかしら?」

 隊長の声とは似ても似つかない若い女の声。

 振り向けば、そこには隊長はいない。金髪の女が立っていた。

「気配が違うからね」

 あえて言わなかったけど、事前に『変装』の能力に特化したナンバーズがいるというのは聞いてたから、常に疑ってたってのもある。

 なるほどと目の前の機人が笑う。

「思わぬイレギュラーがいたものね。まあ私自身の目的は果たしたし、ここは引かせてもらうわ」

 目的?

 それがなにかを聞く前にその機人は消えてしまった。

 しかたない今は二人を……

 そう考えた途端、どんと腹に響く重音とともに壁が吹き飛ぶ。

「がはっ!」

 砕けた壁と共に地面に隊長が叩きつけられる。

「隊長!」

 私はすぐに隊長に駆け寄る。今度は本物だ。

「黒野、か? 逃げろ……」

 隊長を助け起こして、じゃりっと壁の奥から誰かが出てくる。

 小柄……はっきり言って小学生にしか見えない女の子。

 だが、この場所に一般人なんているわけないし、その子は両手にナイフを持ち、右目から血を流している。

 ナンバーズか……

「私怨はないが」

 そう言ってナイフを投げようとするその子に一気に接近する。

 驚くその子が私に向かってナイフを投げる。剣で弾こうとして思いとどまって、私はそれを避ける。あのナイフが爆発することは聞いている!

 懐に入る。この距離ならナイフは投げられない。

「くっ!」

 そのままナイフで攻撃しようとする手を取り、その子を投げる。

「ぐあ!」

 壁に叩きつけて、懐から取り出したクナイを投げる。マントのようなものを壁に縫いつけてあげようと思ったけど弾かれる。

 予想より丈夫なんだ。しかたない、

「チェーンバインド!!」

「くっ!!」

 変わりにバインドをかける。元から得意じゃないし、AMFの影響下でどれだけ効力があるかわからないけど……

 私は後ろに飛ぶ。増援が来るかもわからないし、ここは得意の三十六計逃げるに如かずだよ!

 なんとか体を起こした隊長のそばまで行く。

「隊長動けますか? 逃げます!」

 私の言葉に隊長が頷く。

 そして、私たちはクイントさんとメガーヌさんを引きずりながら敵施設を後にした。












 脱出後、すぐに医療班によって治療された結果、クイントさんとメガーヌさんは助かりました。

 でも、変わりにクイントさんはリンカーコアに深い障害を抱え、魔法が使えなくなってしまいました。

 メガーヌさんはクイントさんと逆で、魔法を使うのに問題はないものの体に重いダメージが残り捜査官としての再起は難しいそうです。

 隊長はそういったものはないけどしばらくは入院生活だそうです。

 まあ、なにはともあれみんな助かり安心しました。なのはちゃんの情報がなければこの結果はなかったよ。












「というわけで、助かったよ。ありがとうなのはちゃん」

「あ、いえ……」

 と、なのはちゃんに報告するけど、なのはちゃんは浮かない顔をしていた。

「どしたの? ユーノくんが浮気したの?」

 と、冗談めかして言ったら、なのはちゃんは殺気交じりの目で私を睨む。うわこわ!

「ユーノくんはそんなことしないの!! ただ……」

 ただ?

「ゼストさんとメガーヌさんがスカリエッティに捕まってないと、アギトっていう子が助けられないんです」

 ああ、そういうことか。

 私はそっとなのはちゃんを抱きしめる。

「時音さん?」

「なのはちゃん、なのはちゃんは神様じゃない。全部助けることなんてできないんだよ? どこかで、なにかを、誰かを切り捨てるような選択も必要なの」

 私の言葉になのはちゃんが顔を伏せる。

「でも、それでも助けたいって欲張るなら、私たちに言って」

 その言葉になのはちゃんが顔を上げる。

「なのはちゃんに無理でも私なら助けられるかもしれない、私じゃなくてもリインフォースやフェイトちゃんになら助けられるかもしれない」

 私は微笑む。自分が選択したことに悩むなのはちゃんを安心させたくて。

「なのはちゃんはもっと人に頼っていいんだよ?」

 私の言葉になのはちゃんはうんうんと、頷く。

 どんなに未来の記憶を持ってても、なのはちゃんの心はまだ年相応なんだね。

 私は、しばらくの間、なのはちゃんの頭を撫で続けました。










~~~~
お久しぶりです。
やっと空白期です。今回ゼスト隊の出来事を大きく変えさせていただきました。
これからどんどん世界は変わっていく予定です。 



[14021] 番外 スクライアは大家族
Name: 空の狐◆84dcd1d3 ID:c44bbb35
Date: 2011/05/25 08:38
 温かい日差しが差し込んできて、ふあ~っとあくびをしながら目を覚ます。

 うーん、爽やかな天気……に反してこの部屋はいろいろな体液が混じりあっただいぶ、いえかなりすえた臭いが漂っています。

 うう、昨晩は久しぶりに家族が揃ったからってハッスルしすぎたの。

 恨みがましく横の影を睨みます。まったく、ユーノくんも手加減してほしいの。

 ま、まあ、求められたらつい答えてしまう私たちが言えた義理じゃないかもしれないですけど。

「う~ん、ユーノく~ん……」

 むにゃむにゃと幸せそうに微笑む時音さんがユーノくんの頭を抱きしめます。

 時音さんの、フェイトちゃんやシグナムさんに匹敵するほど大きな果実にユーノくんが埋まってしまいます。

 むう、私もユーノくんのおかげでだいぶ成長したけど、時音さんのサイズはやっぱりうらやましいの。本人は剣を振るのに邪魔と言ってるけど、それを使ってユーノくんを誘惑するのだから、恐ろしい。

 しかも、この前ダイエットすれば胸が減ると聞いた途端、ダイエットを始めて、「腰回りは減ったのに、胸変わらないねえ」なんて殺意の覚える発言をしたのはしっかりと覚えています。

 それから、二人を起こさないようにそっと部屋を出ます。

「あ、なのは様おはようございます」

「ママおはよー」

「おはようヴィヴィオ、アインスさん」

 キッチンではアインスさんがみんなの朝ごはんの準備をして、ヴィヴィオはそのお手伝いをしていてくれてました。

 昨日あれだけしたのに、なんでアインスさんは大丈夫なのかなあ?

「はいママ、眠気覚ましのいっぱい」

 とてとてとヴィヴィオがなみなみとコーヒーの入ったカップを持ってきてくれました。

「ありがとうヴィヴィオ」

 コーヒーをいただくと、ヴィヴィオは嬉しそうに微笑みます。

「そろそろできますので、主と時音を起こしてきていただけませんか?」

「はーい」

 と、コーヒーを飲みほしたタイミングでのアインスさんの頼みに、そう返してから私は部屋に引き返しました。









 そして、ユーノくんたちを起こしてからリビングでアインスさんが用意したご飯を頂きます。

「あ、そういえば、みんなに報告があったんだ」

 食後、みんなでゆっくりしていたら、ぽんと時音さんが思い出したように手を打ちます。

 そして、えへへと幸せそうに微笑むと、

「実は私、妊娠しました!」

 え?

 一瞬、私たちは固まってから、わっと湧き上がりました。

「おめでとう時音さん!!」

 私は時音さんの両手を握ります。

 うんと少し目じりに涙を貯めながら時音さんは頷きます。

「よかったですね時音」

 アインスさんも微笑む。

「また家族が増えるんだね」

 感慨深げにユーノくんは頷く。

「時音ママ、今度は妹? 弟?」

 ヴィヴィオが目を輝かせて時音さんに尋ねる。

「私は男の子だよ。この家では初めてだね男の子は」

 そうですねえ。私もアインスさんも女の子だったからねえ。

「アユ、お姉ちゃんになるんですよ。よかったですね」

 と、アインスさんがきょとんとしている自分の娘の、アユの頭を撫でる。

 私とユーノくんの子はユーナ、アインスさんの子はアユ。二人は一か月違いの二歳児で、ユーナの方がお姉ちゃんです。

「男の子かあ、楽しみだなあ」

 嬉しそうにヴィヴィオは新しい家族が増えることを喜んでいました。

 ふふふ、こんな風にみんなで幸せになるっていうのもいいもんなんだね。

















「なに今の夢?」

 私は首を傾げました。









 まったく、びっくりするような夢だったの。

 夢はその人の願望が形になるって言うけど……正直、お二人には悪いけどユーノくんを譲る気はさらさらありません。

 そりゃあ、確かにみんなで幸せになれるのも素敵だとは思いますけど、私は他の人ともユーノくんが一緒になるのを許容なんてできないの!

 と、憤りながら無限書庫に。と、私に気づいたのか、すぐにアルフさんが飛んできてくれました。

「こんにちはなのはさん。ユーノに用事なんだろ? ユーノならアインスと司書長室にいるよ」

 ありがとうございますアルフさん。

「その袋はなんだい?」

 と、私が下げている袋をアルフさんが見ます。

「えへへ、ユーノくんにお弁当を私に来たの。」

 そっかあ、と笑ってからアルフさんはじゃあと仕事に戻りました。

 そして、私はルンルン気分で司書長室のドアを開けて、

「やっほー、ユーノくん、お弁当もってきた……よ?」

 そこで、時音さんとアインスさんがユーノくんにあーんをしていました。

「あ、な、なのは……」

 ユーノくんの顔が引きつります。

「あ、なのはちゃんこんにちは、ちょっと待っててね。で、どっちにするのユーノくん?」

「なのは様こんにちは、少々お待ちを。主ユーノ、どちらを選ばれるのですか?」

 と、さらにユーノくんに迫る二人。

 いったいユーノくんはなにしてるんでしょうか? まさか、ユーノくん夢の通りに自分のハーレムを作ろうとしてる?

 私に告白しておいて?

 そう、考えた瞬間、どす黒い感情が湧き上がりました。

「ちょっと、ううん、かなり頭冷やそうか!!」

 私はレイジングハート・モードダインスレイブで三人に襲い掛かりました。













 十分後、砲撃剣や斬艦刀によって荒れ果てた司書長室の真ん中で私はバインドで転がされていました。

「あ、あのねなのは、これは違うんだよ」

「そうそう、だから落ち着いてねなのはちゃん」

「落ち着いてくださいなのは様」

 と、がんじがらめになった私をなだめるユーノくんたち。

 なんでもアインスさんは以前のお正月であった時音さんの料理の腕前を聞き、からかったそうです。

 それに対してそんなことないと時音さんが反論し、気づけば料理対決という話になり、その審査員にユーノくんが選ばれたそうです。

「その、アインスが私の料理の腕をからかうもんだから、つい、ね?」

 と、じとおっとアインスさんを睨む時音さん。

「あーんをしようなんて言い出したのはあなたでしょう?」

「いやあ、せっかく審査員してもらうんだから、サービスしないといけないかなって思ってつい」

 と、時音さんが笑いました。

 それから時音さんがぱんと手を合わせます。

「そうだ! なのはちゃんにも食べてもらおう!」

 こうしてその日は時音さんの料理を食べることになりました。

 ただ……大部分はお母さんのおかげで普通の味でしたが、なぜか一部に外れの『吐き出すほどじゃないけど、だからといっておいしくない』ものがいくつか混じってたことを記しておきます。

 でも、この不味さが微妙にクセになりそうで困るの……













~~~~
なんとなーく、僕が作るのってユーノが複数カップリングなんで、ついやりたくなりました。
でも、実際、時音がくっつけそうな相手っていないなあ……ううう。男にして美由紀とくっつけておけばよかったかも。


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