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焦点/修学旅行 東北離れ/原発事故影響・余震を不安視

修学旅行生の姿が見られない「会津藩校日新館」=17日、会津若松市

修学旅行が激減し、空きスペースが目立つ駐車場=19日、会津若松市の鶴ケ城会館

 東日本大震災の影響で、修学旅行の「東北離れ」が進んでいる。北東北を訪れる中学校が多い北海道では、多くの学校が道内旅行に切り替えた。余震と福島第1原発事故による影響が大きな理由で、福島県内で予定されていた修学旅行は軒並みキャンセル。東北の中でも行き先を変更する学校が数多く出るなど、事情が一変している。

◎例年の1割未満?/回避の動き、被災地以外も

 15日から中学校の修学旅行が始まった札幌市。3泊4日で青森、秋田、岩手の3県を訪れるケースが一般的で、ことしも97校中96校が東北地方を旅行先に選んでいた。しかし、震災後はすべての学校が道内に変更した。

<道内か関西か>
 生徒数が市内最多の向陵中(生徒866人)は、6月に秋田県鹿角方面への旅行を計画していたが、道南に切り替えた。同校は「予定通りの実施も考えていたが、4月7日の余震で最終的に変更を決めた。東北への旅行を心配する保護者が多かった」と説明する。
 「余震と原発事故の影響を不安視する保護者の声が、各学校に寄せられた」と札幌市教委の担当者は話す。
 道内もほぼ同様。道教委によると、4月20日現在で東北地方を予定していた中学校201校中160校が、道内に変更したという。旅行代理店は「原発事故の影響が大きく、道内か関西かという究極の選択になった」(トップツアー札幌支店)と打ち明ける。
 埼玉県では、小学校63校が福島県会津地方の修学旅行を予定していたが、うち59校が箱根や鎌倉方面に変更した。埼玉県教委は「(原発事故の)風評による判断とは聞いていない」と説明するものの、結果的に福島行きが回避された格好だ。
 変化は東北でも起きている。
 秋田県内の小学校は244校中181校が、松島観光をメーンにした宮城県内の旅行を予定していたが、震災後は26校に激減。震災前は1校もなかった青森が43校に、北海道が55校から107校に増えた。

<PRは難しく>
 仙台市では、小学校で定番になっていた福島県会津地方の旅行がほぼ無くなった。市内の小学校125校中97校が行き先を変えた。ほとんどが会津地方からの変更で、岩手や山形方面に振り替えたという。修学旅行先として人気がある小岩井農場(岩手県雫石町)では「北海道の中学生が激減し、宮城県からの小学生が増えている」という現象が起きている。
 仙台市の例をはじめ、原発事故を抱える福島県内への影響は深刻。同県は影響人員などは公表していないが、「修学旅行はほとんどキャンセルされている状況」(観光交流課)と話している。
 新潟を含む東北7県の官民でつくる東北観光推進機構(仙台市)は「東北地方以外からの修学旅行のキャンセルは深刻。訪れるのは例年の1割もないのではないか」と危惧する。
 実際には被災していない地域も旅行先から回避されたケースもあるだけに、現状説明が必要と認める。ただ「余震は予測できず、原発事故の収束も見えない。都道府県を回って働き掛けたいが、その時期の見通しがつかない」と頭を悩ませている。

◎書き入れ時、風評直撃/閑散、物販9割減も/福島・会津地方

 修学旅行など学校行事で年間約8万人が訪れる福島県会津地方では、福島第1原発事故の影響で旅行のキャンセルが続出し、観光業界が窮地に立たされている。宿泊施設は原発周辺から避難した住民の受け入れで一定の需要があるが、見学施設や物販の落ち込みは深刻。売り上げが例年の1割という所も出ている。

<期待崩れ落胆>
 今月17日、会津藩校を再現した会津若松市の観光・研修施設「会津藩校日新館」に修学旅行生の姿は見られなかった。好天にもかかわらず一般客も数人で、閑散としていた。
 「例年この時期は大型バスが何台も止まり、にぎわう。こんな状態は初めてだ」と川副正和社長(35)は肩を落とす。
 実は、今年は期待が大きかった。本年度の小学6年の教科書に、日新館に入る藩士の子どもへの心構えが掲載されたからだ。入館者増を見込んだけに、落胆は大きい。
 猪苗代町の「野口英世記念館」も苦戦を強いられる。こちらも、訪れた18日は大人が数人いただけ。埼玉県の60代女性は「風評被害があるとは聞いていたが、こんなに少ないとは」と驚いた。
 昨年5〜6月には修学旅行などで310校が来た。今年はまだ28校。例年は県外客が7割以上を占めるが、今年は県内が中心という。八子弥寿男館長(74)は「今は我慢するしかない。英世は逆境から立ち上がった人。我々も頑張らないと」と必死に前を向く。

<「安全なのに」>
 団体客向けの商業施設が受けた打撃も甚大だ。会津若松市の名所・若松城(鶴ケ城)近くの「鶴ケ城会館」で19日、食事を取ったり、土産物を買ったりする児童生徒の姿はなかった。バス50台を収容できる駐車場に観光バスが止まることも少ない。
 5〜7月の売り上げの約半分を修学旅行関連が占める。一般の団体も含め、夏休みまでの予約は大半がキャンセルされた。この春の売り上げは例年の9割減だという。
 「会津は原発事故で多くの人が避難する安全な場所のはずなのに」と菅井俊雄総支配人(58)は納得できない様子で、「冬が厳しく、4〜11月で1年分を稼ぐのが会津の観光。書き入れ時に本当に痛い」と頭を抱える。

◎お得意の宮城、予定17校のみ

<戻る保証なし>
 会津若松観光物産協会によると、一年間に会津を訪れる子ども8万人のうち8割が宿泊するなど、修学旅行の市場規模は10億円を超すという。
 最も多い宮城県の小学校の場合、昨年は356校の約1万9000人が会津地方を訪れた。うち約200校が5〜7月に集中したが、今年の予定は17校にすぎない。
 市と観光業界で構成し、修学旅行の誘致を進めてきた「会津若松市教育旅行プロジェクト協議会」の曲山靖男副会長(69)は「原発事故の収束が第一だが、収束したとしても来年、確実に戻ってくるという保証はない」と指摘。「修学旅行が減ると、未来の会津ファンも減らしてしまう」と危機感を募らせる。
(菅野俊太郎)


2011年05月25日水曜日

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