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【社説】

布川事件無罪 司法全体に猛省がいる

2011年5月25日

 四十四年ぶりの名誉回復である。強盗殺人事件の犯人とされた二人が、再審で無罪となったのだ。警察や検察はむろん、誤判を重ねた裁判所も猛省がいる。冤罪(えんざい)を生まぬ仕組みづくりを急げ。

 「否認したら死刑になるぞ」−。一九六七年に茨城県で大工の男性が殺された「布川事件」で、二人はそう自白を強要された。「やっていない」と訴えても、聞いてもらえない。別件逮捕の末、虚偽の“自白”をして起訴された。

 「とりあえず認めて、裁判で闘おう」と、二人は身の潔白を法廷で晴らすつもりだったのだ。だが、地裁でも高裁でも有罪が続いた。二人の上告を棄却した七八年の最高裁の決定には、次のように書かれている。

 「極刑も予想される重罪事犯できわめて早い時期に自白したことは、その自白が任意になされたことを推認させる」

 つまり無実の者がウソの自白をするはずがないという論理だ。二人の供述は変遷を繰り返してもいた。やってもいない犯行だから、食い違いが出るのは当然だ。だが、最高裁の見方は違った。

 「犯人が犯行態様の細部についていちいち正確に記憶していないこともあり、故意に虚偽の供述を交えることもありうる」

 これでは裁判所は有罪を求める検察の“追認機関”である。証拠に対し、冷静な評価ができなかった点は猛省すべきだ。

 再審に至った契機は、殺害方法が自白と異なるという鑑定書の提出だ。無罪を示す新証拠も出てきた。犯行現場で見た男は二人とは別人だという目撃証言などだ。取り調べ段階で自白した録音テープには、十カ所以上に「重ねどり」の編集痕跡があった。

 新証拠は再審請求の過程で開示されたもので、三十数年間も隠されていた。そもそも被害者宅から見つかった指紋や毛髪は、二人のものとは異なっていた。有罪の根拠は崩れ、再審判決は「(二人を犯人とする)証拠は何ら存在しない」と明確に述べた。

 この冤罪事件で浮かび上がったポイントは、“自白”に至った過程がとりわけ重要なことだ。取り調べの全面的な録音・録画の導入を急がねばならない。

 検察側が自分たちに不利な証拠を隠す実態もあらためて表面化した。証拠隠しを防ぐためには、すべての証拠を全面開示するルールをつくることだ。少なくとも全証拠のリストがあれば、冤罪防止につながる。

 

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