事件【主張】「布川」再審無罪 証拠重視の捜査導入せよ2011.5.26 02:48

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【主張】
「布川」再審無罪 証拠重視の捜査導入せよ

2011.5.26 02:48

 44年前に男性が殺害され、現金が奪われた「布川事件」の再審で、水戸地裁土浦支部は、強盗殺人などの罪で無期懲役が確定した2人に無罪を言い渡した。判決は「2人を事件と結びつける証拠は存在しない」「自白の信用性は肯定できない」と断じた。

 捜査当局は重大な責任を感じ、再発防止に向け検証を進めなくてはならない。一方で、この結果を、取り調べ全過程の録音・録画(全面可視化)の導入に安易に結びつけるべきではない。

 判決にあるように、再審無罪は自白偏重の捜査や公判が招いた結果だ。これを防ぐには、証拠を積み上げる捜査手法を充実させるしかない。可視化は必ずしも供述の任意性を高めるとはいえず、真実の吐露を妨げる可能性さえある。可視化を経た供述を重要視すれば偏重の構図は変わらない。

 冤罪(えんざい)は決して許されない。一方で、捜査機関には犯罪を摘発し、社会正義を守る重い責務がある。可視化の導入が捜査能力の弱体化につながってはならない。公判に耐え得る客観的証拠を収集するための新たな捜査手法は、冤罪を防ぐことにも寄与するはずだ。

 すでに可視化を行っている国の多くは、同時に証拠を集めるための豊富な捜査手法を取り入れている。真実の供述に対する刑の減免制度や司法取引、おとり捜査、潜入捜査、通信傍受、虚偽供述に対する罰則などである。

 警察庁の有識者研究会によれば、10万人当たりのDNA型データベースの保有は英国の1万人、米国の2700人に対し、日本ではわずかに94人という統計もある。捜査機関には厳しい監視の目が必要であると同時に、捜査環境を整えることも検討すべきだ。

 6月には、刑事司法制度の全体像を見直す法制審議会がスタートする。答申を出すまでには数年の歳月が見込まれている。取り調べの可視化については、新たな捜査手法の導入とセットで議論を進めなくてはならない。

 東京地検特捜部はすでに、自らが逮捕した会社法違反の特別背任事件の容疑者の取り調べで全面可視化の試行を始めた。当初は一部の可視化が想定されていたが、江田五月法相の指示により全過程の試行に踏み切った。

 試行の結果については慎重に検証すべきだ。可視化ありきの拙速な結論を出してはいけない。

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