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2011年5月25日(水)付

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公務員給与―「身を削る」を評価する

菅政権が提案していた国家公務員の給与の減額が、実現しそうだ。連合系の公務員労働組合連絡会が受け入れたためだ。課長・室長以上は10%、課長補佐や係長は8%、係員は5%を削[記事全文]

布川再審無罪―検察に改めて問う正義

1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件(布川〈ふかわ〉事件)で無期懲役刑が確定した2人の男性について、水戸地裁土浦支部は裁判をやり直し、改めて無罪を言い渡した。実に44年ぶりの名誉回復である[記事全文]

公務員給与―「身を削る」を評価する

 菅政権が提案していた国家公務員の給与の減額が、実現しそうだ。連合系の公務員労働組合連絡会が受け入れたためだ。

 課長・室長以上は10%、課長補佐や係長は8%、係員は5%を削る。自衛官らにも適用されれば、年間ざっと2千億〜3千億円規模になる見込みだ。

 震災からの復興財源を確保するためであり、期間も3年に限るという条件がついている。とはいえ、国家公務員がみずからの身を削る選択をしたことは前向きに評価する。

 また、これが初めての労使交渉による妥結だった点も注目に値する。人事院が民間の給与動向を踏まえて勧告し、それに沿って政府が決めてきた従来の手法とは違ったのだ。

 長年にわたる公務員制度改革の論議で、いつも問題になってきたのは、いまは制約されている労働基本権の扱いだった。

 労組側は基本権の回復を要求。政府側は、このうち労使交渉で給与などを決める「協約締結権」の回復に応じる法案を、今国会に提出する段取りになっていた。今回は、これを事実上先取りしての交渉だった。

 実は「協約締結権」の付与には、慎重論もあった。倒産がないぶん、労組は給与削減など不利な決定に応じなくなるとも言われた。だから今回、労使交渉で減額の判断もできることを示した意味は小さくない。

 しかし、菅政権は喜んでばかりはいられない。

 第一の問題は、国家公務員では連合系と並ぶ大勢力である全労連系の日本国家公務員労働組合連合会が削減に反発していることだ。労働基本権を制約した現状のまま、人事院勧告に基づかずに労働条件を切り下げるのは憲法違反だ、などと主張している。妥結は容易ではない。

 本来の仕組みと異なる決め方だけに、政府は説明を尽くしてほしい。給与削減の法案の国会提出が多少ずれこんでも、会期を延ばせば済む話だろう。

 第二の問題は、民主党が掲げる「総人件費2割削減」には大幅に足りないことだ。労組側が給与の追加削減に簡単に応じるとは思えない。人員や手当、退職金など、何にどう切り込み、公約を実現させるのかを明示してもらわなければなるまい。

 その際、震災復興の大義はもう使いにくい。一方で財政悪化のつけを払わされることには「それは政治の責任だ」「人件費をゼロにしても焼け石に水」と労組側の抵抗感が強い。

 乗り越えることはできるのか。今回の削減は厳しい労使交渉の幕開けにほかならない。

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布川再審無罪―検察に改めて問う正義

 1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件(布川〈ふかわ〉事件)で無期懲役刑が確定した2人の男性について、水戸地裁土浦支部は裁判をやり直し、改めて無罪を言い渡した。実に44年ぶりの名誉回復である。失われた時間の重さを痛感する。

 事件は刑事司法が抱える問題を改めて浮かび上がらせた。見込み捜査、別件逮捕、代用監獄での身柄拘束、供述の誘導・強制……。中でも見逃せないのが検察側による「証拠隠し」だ。

 いったん確定した判決をひっくり返したのは、01年に始まった2度目の再審請求審で、弁護側の追及を受け検察側が初めて提出した新証拠だった。

 犯行現場近くにいた人の目撃証言や残された毛髪に関する鑑定書など、被告に有利な内容が含まれており、元の有罪判決の根拠は揺らいだ。「これらがもっと早くに示されていたら」と思わずにいられない。

 裁判員制度の実施を前に刑事訴訟法が04年に改正され、今はこうした証拠は開示されることになっている。では、布川事件のような冤罪(えんざい)はもはや起きないと言い切れるだろうか。

 不利な証拠に目をつぶり、有罪の獲得に突き進む。そんな検察の体質は、証拠の改ざんに発展した郵便不正事件で明らかになった。開示をめぐって検察側と弁護側が対立する例は現在も少なからず存在し、弁護士の間には「対等な立場で戦えない」との声が根強くある。

 制度を整えても、実際にそれを運用する検察官が趣旨を理解して行動しなければ、絵に描いた餅になりかねない。

 今回のやり直し裁判で、検察側が犯行現場にあった別の遺留品のDNA型鑑定を申し出たことも論議を呼んだ。保管状況が悪く、有罪の立証に使えるようなものではないことから裁判所は請求を退けたが、こうした振る舞いは検察への信頼をさらに傷つけたといえよう。

 郵便不正事件を検証した最高検は昨年末、報告書で「引き返す勇気」の重要性を説き、検察官の使命や役割を示す基本規定を作って指導を徹底すると約束した。そのこと自体は評価できるが、精神が組織の隅々にまで浸透しなければ、同じような失態が繰り返されるだけだ。

 検察官の義務とは裁判に勝つことではない。警察の捜査をチェックし、公益の代表者として正義を実現することにある。

 その務めを改めて確認し、基本に忠実な捜査・公判に取り組む。事件から導き出されるのは、そんな当たり前の、しかし極めて大切な教訓である。

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