3月6日夜。日本の次期総理候補として最も有力だった前原誠司外相がいきなり辞任を発表した。前原氏は在日韓国人から法律で禁止されている外国人からの政治献金を受けた責任をとる形で大臣職を退いた。それから5日後の3月11日、菅直人総理の違法献金疑惑も明らかになった。菅総理の資金管理団体である草志会が06年と09年に3回にわたって、横浜の在日韓国人から計104万円を受け取っていたということで、総理自身も事実と認めた。ところがその日の午後に発生した東日本大震災により、外国人違法献金問題は日本国民の関心外に急速に押しやられた。(ソウル=李民晧)
在留外国人が200万人を超える日本で、なぜ韓国人が問題の渦中にいたのか。彼らは一体どのような理由で献金したのか。
まず、外国人の政治献金に関する日本の法的規定を見てみよう。
「何人も、外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体その他の組織から、政治活動に関する寄附を受けてはならない」(政治資金規正法22条5項より抜粋)
元々この趣旨は、日本の政治に対する外国人・組織の関与と影響を防止するところにある。違反した場合、3年以下の禁固または50万円以下の罰金が科せられ、刑執行期間とその後最長5年間、公民権(選挙権と被選挙権)が停止される。
菅総理と前原大臣が処罰される可能性は低い。処罰対象とされるには「外国人であることを知って受け取った場合」でなければならないが、両者ともに寄付者が外国人であったことを知らなかったと説明。献金した在日韓国人も、「違法とは知らなかった」と話しており、故意の有無の立証は難しい。
前原氏に献金した女性は4歳の時に親と渡日。38年前に京都・山科で焼き肉店を始めた。彼女が団員として所属している民団関係者や京都の在日韓国人によれば、前原氏とは結婚式や葬式など、女性の家の慶弔には欠かさず参加するほどの関係だったという。
前原氏は09年10月、国土交通大臣に就任してまもなく女性を大臣室に招待した。女性は前原氏の母やほかの知人1人と一緒に上京し、大臣室で記念写真を撮って食事するなど、楽しい時間をすごしたという。
女性はその時に前原氏と撮った写真を額縁に入れ、店に飾っていた。同じ京都出身で、この情報を入手した自民党の西田昌司参院議員(52)が、焼き肉店の調理師兔許が韓国人名になっていることを確認。さらに前原氏の政治資金収支報告書を調べ、女性が日本名で献金していた事実を掴んだのだ。
一方、菅総理に104万円を渡したのは、旧横浜商銀信用組合(現中央商銀信組)で非常勤理事を務めたH氏(58)だ。京都の女性と同じく在日韓国人2世の彼は、関東で不動産会社とパチンコ店など5、6カ所の事業所を経営している事業家だ。H氏と親しいという男性の証言を聞いた。
「菅総理とはしょっちゅう電話して食事をし、釣りまで一緒に楽しむほど近い間柄だと聞いています。Hさんは民主党だけでなく、自民党議員たちとも以前から親しく付き合ってきたそうです。周囲の同胞にそのような人は多いです。日本の政治家の中で多少なりとも在日韓国人の世話にならない人はいるでしょうか」
取材で会った在日韓国人と駐日外交官経験者のほとんどが男性と似た発言をした。それとともに、必ず口から出るのが「気分を害する」という言葉だった。日本の政党間の争いが本質であるのに、外国人の政治献金が問題視される中で韓国人の責任であるかのようなニュアンスを感じるというのだ。
在日韓国人と日本の政治家はどのような関係を構築しているのだろうか。2000年代前半に日本で総領事を務めた元外交官から興味深い話を聞くことができた。
「赴任して間もない頃、60代の在日韓国人の子息の結婚式に行って驚きました。現職の国会議員や元総理といった大物政治家が4人も来ていたのです。後日その方と親しくなり、当事のことを聞いたところ『亡くなった先代から政治家と縁を結んできた間柄なので家の行事に来ることは当たり前』と言うのです」
大阪をはじめ関西一円で複数のパチンコ店を経営するK社長(73)は、事業規模が大きいほど政治家と会う機会は多くなると話す。
「経営者である私は韓国籍だから投票権がないが、従業員はほとんど日本人です。選挙シーズンになると議員が随時訪ねて来ます。国会議員から市会議員まで、与野党問わずです。訪ねて来れば手ぶらで帰すことはできません。車代にでもして下さいと、封筒をポケットに突っ込みます。父がそうしていたからやっているのです。お金を渡したところで、事業で得をするわけではありません。期待もしません」
これはK社長のように手広く事業を手がける人だけの考えではなかった。零細業者も似たようなことを言っていた。
04年から07年まで駐日韓国大使を務めた羅鍾一前又石大学総長(70)は「日本が日帝時代からずっと在日韓国人が公的活動をできないように制約してきた影響が大きい」と話す。在日韓国人としては、「政治家にお金を渡してでも日本社会との交流とつながりを持とうとしたのだろう」と分析している。献金の対価として日本の主流社会と「関係を結ぶこと」を願うというのだ。
このような在日韓国人と日本の政治家との間の特殊な関係は、一生をマイノリティーとして生きていかなければならない在日の宿命なのかもしれない。しかし、第3者的に見て、日本の政治制度には不可解な点がある。
政治資金規正法の趣旨は外国人の干渉や影響力を防止するということだが、例外はある。
例えば日本の政党は与野党問わず外国人の党員またはサポーターの入会を許容している。民主党の党員入会資格を見ると「民主党の基本理念と政策に賛同する18歳以上の方ならどなたでも党員になれます。在外邦人や在日外国人の方もOKです」と明記している。
実際、日本の政党の党員として活動する在日韓国人は容易に見つかる。「国会議員の後援会長を務めた」という人にまで会えた。
政治家が外国人政治献金問題を党派争いの火種にしたことを、参政権を要求する在日韓国人に対する警告と捉える人もいる。参政権を最も強く求めているのが在日韓国人であり、先頭に立っているのは彼らの組織である民団だ。一貫して参政権付与に反対してきた自民党が、賛成の立場を表明してきた民主党を攻撃すると同時に、在日韓国人に「あなたたちのせいで前途有望な次世代の政治リーダーが失脚し、現役の総理まで窮地に追い込まれたのだから、責任を取るため黙っていなさい」というメッセージを送ったというのだ。
菅総理が外国人からの献金を認めた日、東日本大震災が起きた。大震災で確認された事実は、在日韓国人と日本人が互いに手を取り合って復旧に汗を流し、大変な時は肩をたたきあう隣人同士だということだ。
かつて日本人が「朝鮮人部落」と後ろ指を差した大阪の鶴橋では、在日韓国人と日本人家庭が互いの冠婚葬祭の準備を手伝うほど、両者の距離は近づいている。
春には花見をし、年に1、2度は一緒に日帰りバス観光に出る。このような日常を共有する人々が、韓国人だから日本人だからと国籍で分ける意味はないはずだ。
東京のあるボランティア団体で働く在日韓国人のKさん(58)の言葉が頭から離れない。
「前原氏退陣ショックの時、『外国人』という用語がしきりに登場して不安になりました。在日韓国人には日本社会の構成員としての資格がないという声に聞こえますね。隣りの日本人も、2~3万円のパーティー券を買って政治家に後援金を出します。私たちはそんな誠意の表現もだめだと言うのでしょうか。社会から隔離されるのではないかと心配です」
前原氏に献金した女性「息子応援するつもりで」
前原氏とはいつ知り合ったのか。
「前原君の家族とは30年以上のお付き合いです。彼が中学2年の時、家族と私たちの店のある山科に引っ越してきてからだから。前原君が(09年10月に国土交通大臣に任命されて)山科から出るまでずっとです。特に前原君のお母さんとは懇意な関係です」
献金をするようになった経緯は。
「長い間の縁もあって、私の息子のような人が政治家として活躍しようとしていたので、どうして知らんぷりすることができますか。自然と応援してあげたいという気持ちでした」
外国人の献金が違法とは知らなかったのか。
「知りませんでした。知っていたらそんなバカなことはしないはずです。政治献金だなんて。小さな焼き肉店経営者がそれで得することが何かあるでしょうか。今まで前原君に何かを頼んだりしたことも、何か頼むこともないです。(外国籍者なので日本で)選挙権もないというのに…」
事件が表に出た後、前原氏から連絡はあったか。
「外務大臣を退いた後、電話がありました。『お母さん、じきに焼き肉を食べにいくから』と言うので、『急いで来ることはないよ』と言ったんです」
脅迫を受けたことは。
「初めは電話で『自分の国へ帰れ』というような嫌がらせも受けました。今は静かです」 |