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2011年5月26日(木)付

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原発・東電調査―もっと権限を与えよ

失敗学の大家が、途方もない「大失敗」の真相に迫る。政府は、福島第一原発の事故調査・検証委員会をつくる。委員長は、東京大学名誉教授の工学者、畑村洋太郎さんだ。[記事全文]

大阪起立条例―あの一票は何だった

4月の地方選で躍進した地域政党・大阪維新の会が、学校行事で君が代斉唱の際、起立と斉唱を教員に義務づける条例案を開会中の府議会に提出した。同会代表の橋下徹知事は「起立しな[記事全文]

原発・東電調査―もっと権限を与えよ

 失敗学の大家が、途方もない「大失敗」の真相に迫る。

 政府は、福島第一原発の事故調査・検証委員会をつくる。委員長は、東京大学名誉教授の工学者、畑村洋太郎さんだ。

 畑村さんが唱える「失敗学」は、どんなシステムであれ、小さな失敗の経緯を包み隠さず明らかにすることで大事故を防ごうという立場をとる。

 今回は、すでに巨大事故が起こった後ではある。それでも国内外の原発で同じような災害を起こさせないために、畑村流の視点で調べる意義は大きい。

 解明への鍵は「包み隠さず」だ。関係者が都合の悪い資料も出して、事実を語るかどうか。政府が発表した事故調のしくみに心配がある。

 聴取や資料提出への協力を義務づける直接の法律がない。協力しない政府関係者は「公務員法上の懲戒の対象になり得る」(枝野幸男官房長官)というだけでは心もとない。

 とりわけ今回は、向き合う相手が同じ分野で強固にもたれあう「原子力村」である。

 1979年の米国スリーマイル島原発事故で設けられた大統領委員会は、原子力規制委員会のさらに外側で事故を検証しようとした。だが必要なデータはどうしても「原子力村」頼みになったらしい。

 航空機や列車などの事故を調べる運輸安全委員会は、設置法で強い力が与えられている。これだけの大事故だ。今回の事故調には独立性と調査権限を保障する法律をつくるべきだ。

 委員には「村外」から有能で強力な人材を集めなくてはならない。海外からも専門家の見解を得る。原発に批判的な専門家も参加してもらう。そんな工夫も求められる。「村」の人々がどれほど解明に協力するか。そのにらみを利かす役割である。

 強い権限が必要なのは、東電の経営や財務内容を調べる委員会も同じだ。

 賠償原資をできるだけ多くするために、経営の無駄や処分できる資産を洗い出すのが目的だが、多くの困難がある。

 ただでさえ企業は自分たちの不利になる情報を隠したり、出し渋ったりしがちだ。加えて電力会社の場合、外注が多い。実態を把握するためには、何層にもわたる下請け企業にも情報開示を求めなければなるまい。

 査定では、経験が豊かで企業との交渉力にたけた弁護士や会計士を集める必要がある。

 未来の災厄を防ぎ、公平な賠償を早く進める。いずれも、中立で強力な委員会を築けるかどうかが成否を分ける。

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大阪起立条例―あの一票は何だった

 4月の地方選で躍進した地域政党・大阪維新の会が、学校行事で君が代斉唱の際、起立と斉唱を教員に義務づける条例案を開会中の府議会に提出した。

 同会代表の橋下徹知事は「起立しないのは府民への挑戦」として、違反した教員を処分する条例案も9月議会に提出するという。実名公表にも言及した。

 都道府県教委が君が代斉唱時の起立、斉唱を各校に通達し、守らない教員を処分した例はあるが、条例で義務づけているところはない。

 先の選挙で維新の会は、府と大阪市との二重行政の解消をめざす「大阪都」構想を主に訴え、府議会で過半数を得た。

 多くの有権者は、経済的に地盤沈下の著しい大阪の閉塞(へいそく)状況を打開してほしいと期待して一票を投じたはずだ。

 それなのに最初の議会で出してきた重要条例案の一つが、日の丸・君が代をめぐる公務員の服務規律に関するものだった。

 驚いた府民も少なくないだろう。選挙中にこんな条例に触れた候補者はほとんどいないし、同会のマニフェストには何も書いていないのだから。

 数で押し切れば可決される。それでも他の会派は条例案を吟味し、議論を深めてほしい。

 第2会派の公明党は「府教委が現場で丁寧に指導すべきこと」と、条例化に反対の姿勢だ。平和・人権を党是に掲げてきた真価を見せてもらいたい。

 公明党は維新の会が過半数をとれなかった大阪市議会でも第2会派であり、大阪都構想推進へのかぎを握っているのだ。

 知事は「公務員なら君が代に敬意を払え」「子どもたちの晴れ舞台は厳粛なムードで」「身分保障に甘えるな」とツイッターに書き、違反を繰り返す教員を免職すべきだと主張する。

 日の丸や君が代について、私たちは「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」という憲法第19条に照らし、強制すべき性質のものではないと繰り返し主張してきた。

 1999年に国旗・国歌法が成立した時の野中広務官房長官は「強制的ではなく、自然に哲学的にはぐくまれていく努力が必要」との考えを示した。

 条例を盾に起立、斉唱させるなら、強制以外のなにものでもないし、立法の精神を無視しているともいえる。

 式典を厳粛に運ぶことに異議はない。進行を妨げる行為は批判されよう。しかし、条例と処分による厳粛は、教育の場に何をもたらすのか。

 殺伐とした空気のしわ寄せを受けるのは子どもたちである。

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