福島第1原発の事故を受け厚生労働省が農産物などの放射性物質の検査を求めている11都県の自治体のうち、約3割にあたる146市区町村が5月中旬までに検査を一度も実施していないことが分かった。同一地域での定点観測を優先したり、検査機関の処理能力に限界があるためで、厚労省は「検査しないと風評被害が起こりかねない。なるべく早く全自治体で実施を」と呼びかけている。【佐々木洋】
厚労省は4月4日、放射性物質の降下量が多かった福島、茨城、栃木、群馬と、隣接の宮城、山形、新潟、長野、埼玉、千葉、東京の各都県に検査計画の策定を要請。放射性物質が付着しやすいホウレンソウなどの葉物野菜や原乳を重点品目に指定し、原則週1回検査するよう求めた。
各都県が同省に報告した3月19日~5月13日の検査を毎日新聞が集計したところ、生産農家がなかったり出荷が始まっていない地域などを除く436自治体中、146市区町村(33%)で未実施だった。
最も多いのは埼玉県で、64市町村中51市町村で検査をしていない。同県農産物安全課は「同じ場所での値の変化を見るため、定点で調査してきた」と説明する。また、検査を依頼している東京都内の分析機関は野菜と原乳で週10検体しか処理できず、一度には進められないという。
山形県は35市町村中22市町村で未実施。同県環境農業推進課は「主に関東に出荷するキュウリなどを優先してきた。雪深い地域では春に出荷できる野菜が少なかったのも一因」と話す。地元の消費者からは「県内だけで流通する小規模生産の野菜も安全性を確認して」との声があり、今後は対象品目や自治体を増やす方針。
一方、国の現地対策本部と協力して検査している福島県は、原発周辺などを除く全市町村で実施。宮城県も、震災の影響で出荷ができなくなった地域以外のすべての自治体で検査している。
厚労省監視安全課は「検査をしていないと、生産農家が安全と考えても、消費者が心配で食べない可能性がある。流通している農産物はすべて安全だと信頼してもらえるよう、偏りのない検査をお願いしたい」と話している。
野菜などからの放射性物質の検出は減少傾向にあり、一時福島、茨城、栃木、群馬、千葉県に出された国の出荷停止措置は順次解除されている。19日現在、出荷停止指示は福島県のいずれも一部地域の原乳▽ホウレンソウやキャベツなどの葉物野菜▽ブロッコリーなどの花蕾(からい)類▽カブ▽原木シイタケ(露地)▽タケノコ▽クサソテツ▽コウナゴと茨城県北茨城市と高萩市で生産されるホウレンソウのみ。
厚生労働省によると、19日までの検査で食品衛生法の暫定規制値を超えたのは福島、茨城、栃木、群馬、千葉、東京、神奈川の274件。4月までは葉物野菜からの放射性ヨウ素の検出が多かったが、最近は収穫期を迎えた山菜や生茶葉から半減期(放射性物質の量が半分になる期間)が30年と長い放射性セシウムの検出が目立つ。同省は「ヨウ素は半減期が8日と短いため出にくくなったのだろう。セシウムは主に土壌から吸い上げたとみられる」と分析する。
福島0 (原発周辺自治体などを除く)
茨城8 (取手市、竜ケ崎市など)
栃木5 (那須町、益子町など)
群馬7 (桐生市、嬬恋村など)
宮城0 (被災自治体などを除く)
山形22 (米沢市、鶴岡市など)
新潟13 (十日町市、阿賀町など)
長野14 (飯山市、軽井沢町など)
埼玉51 (春日部市、飯能市など)
千葉2 (鋸南町、神崎町)
東京24 (町田市、あきる野市など)
毎日新聞 2011年5月20日 15時00分