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[27133] 僕の恋人はお兄ちゃん?(インフィニット・ストラトス オリキャラ転生系 R15)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/25 11:55
※オリキャラ×シャル注意。ついでに近親相姦系要注意。
※転生系ですが原作知識殆ど無し。
※オリキャラ強め、一夏がICHIKA化。テンプレっぽいかも。
※シャルが最初から僕っ娘。
※原作よりも漢臭?と火薬臭強め。そもそも主人公からしてアレ(ry
※ぶっちゃけエロ可愛いシャルと現代兵器っぽくしたISが書きたくて暴走した結果がこれだよ!
※突っ込み所が多々存在しますが、世界観やストーリーそのものが大きく矛盾・崩壊するようなのでもない限りは細かい事はry(AA略の寛大な精神でお読みください。イヤホントマジで。
※所々ネタレベルでマイナーなクロスオーバー含みます



以上に耐性がある方からどうぞ



[27133] プロローグ(上):彼女が彼と出会うまで
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/14 00:49
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

『30にもなってないのに病院のベッドで遂にお迎えが来たかと覚悟していたら次に目覚めた時には赤ん坊になっていた』

何を(ry、って最初はそんな感じだったけど数年もすればそんな境遇にも慣れる。適応力って大事だわ、うん。




・・・そりゃ何年かしてからラノベだったかアニメだったかの世界に転生した事に気付いた時にはまた驚いたけどさ。

インフィニット・ストラトスだっけ?流行り出した頃にはとっくにベッドの上から動けない状態だったからよく分からん。精々ネットで設定とか2次創作とか流し読みした程度。

個人的に生まれ変わって良かった事と言ったら、家が所謂武器商人だった事。他にも手広くやってはいるけど俺にとって重要なのはそこ。

ちょっとしたガンオタでミリオタだった俺にとっちゃ、銃とか兵器を見て触れる機会が多いのが嬉しかったのなんの。嬉し過ぎて常日頃から銃を携帯して毎日暇があったら射撃場に籠る日々。

・・・・・・生きた人間相手に撃つ羽目になった事もあるけれど、まあそれは今は関係ないな。






俺の名前はミシェル・デュノア。目下の悩みは友人と言える存在が殆ど居ない事。

――――ある日、俺は女神と出会った。






















シャルロット・デュノアが初めて彼と出会った時、まず抱いた感情は―――――恐怖心。

ジンジンと熱を発する頬を押さえたまま、半ば呆然自失の体(てい)でこの部屋に辿り着き、ベッドに腰を下ろしていると、部屋の扉が開く音がしたので我に返ってそちらの方を見て・・・・・・





『彼』が、そこに立っていた。




ノーネクタイの黒のスーツに灰色のシャツ。がっしりとした体格の割に顔そのものは細い・・・・・・が、顔の造形は掘りは深いものの岩から削り出して拵えたかのように厳めしく、目元は猛禽類よりも鋭い。

何より目を引くのは眉間と鼻の境目を横一文字に走る傷跡。それが一層彼の形相の迫力を増させている。

自分をこの家まで連れてきた父親より少し下か同年代ぐらいだろうが、今自分をまっすぐ睨んでいる(ようにシャルロットには見えた)彼の威圧感は、この家を訪れてから味わった予想外の仕打ちに打ちのめされていた少女を怯えさせるには十分だった。

彼は扉を開けたまま一歩も動かない。見知らぬ自分の存在を訝しんでいるのだろう。零していた涙を慌てて拭って立ち上がろうとする。


「す、すみません。今出ていきますから・・・」

「・・・・・・ちょっと待ってくれないか」


見かけに違わないこれまた威圧感と重みたっぷりの声色。決して大きくはないのだが、こんな声で言われて刃向かえるものか。

彼はまず上着を脱いだ。180cmは間違い無く超えている体躯が身に着けていた拳銃を修めたホルスターが露わになる。本物の銃を間近で見るのはシャルロットは初めてだったから尚更委縮してしまう。

思わず身を強張らせて固まってしまったシャルロットを余所に、男性はシャツの袖を捲くりあげると手近なクローゼットから中身の詰まったポーチらしき物を取り出した。

収められていたのは軍用の救急キット。


「ジッとしていてくれ・・・・・・今腫れてる所に塗り薬をつける」

「は、はい・・・」


これまた予想通りごつごつと固い指先がシャルロットの頬に触れた。ゆっくりと優しく、あまり刺激しないように気を配ってくれながら薄く軟膏を広げ、手慣れた風に湿布を小さくカットして張り付ける。

見ず知らずである筈の自分に此処までしてくれたのはありがたかったけど、その分あの顔が間近にあるのはやっぱり怖い。


「何があった・・・・・・誰にやられた?」

「それは、その・・・・・・・・・僕は、ここの愛人の子供なんです」




ついこの間、愛人だった母が亡くなった事。

今日、この家の主である父親の使いによって連れて来られた事。

父親の本妻に顔を合わせた途端思い切り頬を叩かれ、罵倒された事。

他に身寄りもない為出ていく訳にもいかず、たまたまこの部屋に入って泣いてしまっていた事。




そこまでの事情を一気に吐き出す。十代前半の少女が抱えるには重過ぎる内容であり、こうして言葉にしてぶちまけるだけでもちょっとだけ心の重荷が軽くなったような気がした。

一方。そこまで告白された男性の眉根はどんどん寄せられていき、最後には険しい表情で刈り込まれたダークブラウンの頭を乱暴に掻き毟った。

そしておもむろに頭を下げる。次に彼が放った言葉は、シャルロットにとってはある意味父親の本妻に拒絶された時よりも衝撃的な内容だった。


「・・・・・・ウチの親が、すまなかった」

「え?――――えっ?今何て?」






「・・・・・・俺は、あの2人の息子だ」






「・・・・・・ごめんなさい、もう1回、言ってくれないかな?」

「・・・・・・俺は、この家の、長男で、君の父親と、本妻の、息子だ」


細かく区切ってしっかりと告げられた言葉の意味をシャルロットが咀嚼し、理解するまで10秒ほどかかった。


「えええええええええええええっ!!?嘘、銃とか持ってるからてっきりこの家のボディガードの人か何かかと思ったよ!?」

「銃は護身用だ・・・・・・俺の趣味も混じっているがな。それに、俺はまだ今年で14だ」

「それこそ嘘でしょ!?お父さんと同じ位の年にしか見えないよ!!」

「・・・・・・言わないでくれ。気にしているんだ」


心なしか彼のまなじりが下がって肩が落ちる。一見鬼軍曹そのものな大男がorzと蹲るのは中々ミスマッチな光景だった。

まあそれは置いといて、と彼もシャルロットのすぐ隣に腰を下ろす。


「・・・・・・俺の母親が怒るのも仕方のない事だろうな。ただでさえ仕事ばっかりで滅多にこの家に戻ってこない癖に、よそで愛人作った上に娘まで居るとなったら、そりゃあな」

「それは僕もそう思う。僕だってその、貴方のお父さんと顔を合わせた事もないし、お母さんが死んだ時だって顔も出さなかったから」

「・・・・・・とどのつまり、怒られるべきは親父の方だという事だ。正直、俺も頭にきている」

「こ、殺しちゃダメだからね!?」

「・・・・・・流石に家族を殺したりはしないさ。精々、1発ぶん殴る程度で我慢する」


それだけでも普通に死なせちゃいそうで怖いなあ、とは思っちゃうけど口には出さない。

筋骨隆々で自分の倍ぐらい太い腕でぶん殴られたら熊でも一撃ノックアウトしてしまうに違いないだろう。


「・・・・・・まあ、本当は2人共それなりに優しい親なんだ。お袋は何時も俺の事を気にかけてくれているし、親父の方も俺がトラブって片足を失った時なんか、わざわざウチの会社総出で特注の義足を作ってくれたし」

「そうなの?」


男性は右足を持ち上げるとズボンの裾をまくりあげた。膝関節からすぐ下が生身のの肌色から金属質な灰色へと一変していた。

とは言うものの、ズボンを下ろして靴を履けば義足をつけている雰囲気や歩き方への違和感などちっとも感じさせないぐらい精巧な代物だ。


「ISの技術を応用した特別製だそうだ。装着感も生身と変わらないし、マラソンや徒競走もこなせる・・・・・・物を蹴ったりする時はむしろ昔より強くなったぐらいだ」


余談だが兵器関係が主だったデュノア社だが近年医療用の義肢業界にも参入し、ISの技術を転用した操作性を売りに瞬く間にシェアを独占してみせている。






「ところで、その、ご迷惑なのは分かってるんです。だけど―――――」


唐突にシャルロットは頭を深く下げた。


「こんな事を言い訳にするのは良くない事だと分かってます。だけど、他に行く当てもないんです。だから僕をここに居させて下さい!お願いします、どんな事でもしますから!」


身寄りもなく、母親が残してくれた遺産も決して多くはなく、食う為に働こうにも高々15にもならない少女が就ける職など思い浮かぶのはロクでもないものばかり。

母親が愛人だったが故、この家の人間に歓迎されてないのは身に沁みている。迷惑をかけたくないのも本心だ。

だがシャルロットは――――ただの少女なのだ。1人で生きていけるほど強くないのだ。

何より孤独が怖くて・・・・・・例え迫害されると分かっていても、1人ぼっちで生きていくぐらいなら―――――


「・・・・・・俺としては、別に幾らでもこの家に居てくれたって構わない。というか、その、えっとだな・・・・・・むしろずっと居てくれた方が俺にとっては、その・・・・・・」


受け入れてくれるのは嬉しいが、妙に歯切れが悪いのが気になる。何でどんどん顔が赤くなっているのだろう?


「熱でもあるんですか?顔が赤いみたいだし・・・・・・」

「い、いや・・・・・・大丈夫だ。別に熱が出てるとか、そういうのじゃないのは自分でも分かってる」


何度も大きく深呼吸。すーはーすーはすーすーはーすーすーすーすーすーすー


「げほぐほっ!!」

「息吸いっ放しじゃそうなるよね!?大丈夫!?」

「あ、ああ・・・・・・・・・」


喉が鳴るほどの勢いで唾を呑み込んでから、いきなり彼の大きな両手がシャルロットの方に乗せられた。

戸惑ってえ?え?と視線を左右に行き来させるシャルロットと対照的に、男性(違う、一応少年か)は真正面からシャルロットの瞳を覗き込む。


「・・・・・・出会ったばかりなのにいきなりこんな事をされたらきっと戸惑うのは分かってる。俺みたいな奴に告白されても迷惑なのは理解してる。だけど、抑えきれないんだ」

「えっと、何の事なのかさっぱり」

「・・・・・・落ち着いて、聞いて欲しい」



直後彼が取った行動。

それはシャルロットの足元に跪き、額を床に擦りつける、見紛う事無き見事な土下座だった。

生憎日本文化を知らないシャルロットは土下座なんて言葉ちっとも知らなかったのだけれど。









「俺と・・・・・・・・・結婚して下さい!」

「ふえっ?・・・・・・ふえ、ふええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!?」




多分、人生で1番驚いた瞬間だと思う。




















誰も知らない何処かにて。

かつて世界を震撼させた元少女、現美女が機関銃顔負けのブラインドタッチでキーボードを叩く。叩く。身体が揺れるにつられてカチューシャから生えたウサギの耳もぴょこぴょこ揺れる


「ふーん、こんな時期に適性検査?また新しい操縦者でも見つけたのかなー?どうでも良いけどさ」


それは『暇つぶし』に侵入したデュノア社のデータベース内に記載された予定表。勿論違法だが痕跡なんぞ残すヘマなんて『彼女』がする筈がないのだから。バレなきゃ無問題。

そこまで呟いた直後、不意に指が止まる。


「デュノアかぁ・・・・・・本当はどうでも良いんだけど、いっくんがあそこの子の事でずっと気に病んでるってちーちゃんが言ってたっけ」


うーん、と思考に耽る事数秒。


「ま、束さんは貸し借りはしっかり清算する人だからねー。結局は役立たずだったけど、いっくんを助けてくれようとしてくれたんだから特別に束さんからプレゼントなのだー」


機関銃からガトリング砲クラスへ、キーボードの連打が再開。それも数分足らずで終焉を迎える。


「これで良しっと!この栄光は本当はいっくんにあげたかったけど、これで少しは世界も面白くなるよね!」


女は笑う。

世界を変貌させた魔女が、常人には理解できない思考でもってまたも世界に変化をもたらそうとしている。
























そうして天才であり『大天災』により、これからの生涯が一変させられることを義務付けられてしまった張本人が1人がその時何をしていたかというと、


「あの、そろそろ顔を上げてもらえませんか・・・?」


未だに土下座しっぱなしだった。





[27133] プロローグ(下):彼がISを使える事に気づくまで
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/18 00:15

何故か俺にもISが起動出来ちゃったでござる。


「・・・・・・それ、何てテンプレ的展開?」















シャルロットは沈んだまま隠れてしまいそうな位柔らかい高級ベッドの上で目を覚ました。


「・・・・・・知らない天井だ」


何でそんなネタ知ってるんですか貴方。え、テレビで見た?

まどろみの中、ゆっくりと視線を巡らせて、今自分の居る場所がこれまで人生の大半を過ごしてきた我が家でない事を再確認する。


「やっぱり、夢じゃないのかぁ」


お母さんが死んで。どんな相手かずっと知らなかった父親に連れて来られて。本妻の人に叩かれ、罵倒されて。

そして、初めて会った全然同年代には見えない男の人に突然プロポーズされて。


「そういえばあの人は・・・?」


半ば強制的にシャルロットにベッドを譲って、本人はソファー(それでも普通にベッドに利用できそうなぐらいフカフカで巨大だった)で毛布にくるまっていた筈の彼の姿はない。

・・・・・・無駄に金をかけた分厚い扉が備えつけの浴室からの音をほぼ遮っていなければ、この後の喜劇は防げただろう。


「それにしても・・・・・・う~~~~~~~」


昨日の事を思い出しただけで顔が熱くなる。そりゃ出会って30分足らずの相手にプロポーズされれば多感な10代前半の女子には刺激が強いってもんである。

あの男性――――違った、少年の名はミシェルというそうだ。


「ミシェル・・・・・・似合わないなあ」


それは言ってやるな。本人も気にしてるから


「でもどうしよう。そりゃ顔は怖かったよ、うん。全然同い年には見えないし」


でも優しい。これまで片親故にシャルロットが知らなかった父性的な頼もしさを彼女はミシェルから感じた。会った事のない実の父親よりもよっぽどそれっぽい程だ。

それに告白の時。間違い無く本気で自分を好いているのだという想いがあの時の彼からhsひしひしと伝わってきていて、シャルロットは意識せざるをえない。


「これからどんな顔して接していけばいいんだろう?」


というか、父親が一緒なんだから自分と彼は腹違いの兄妹という事になる筈だ。その辺りをミシェルは理解しているのだろうか。

そもそも愛人の娘であるこの自分をデュノア家が受け入れてくれるのかも結論が出ていない。


「・・・・・・まずは着替えよっと」


うんしょよいしょとふわふわ過ぎて移動するのがちょっと人苦労なベッドから降りたシャルルは無造作に昨日から着っぱなしだったシャツを脱ぎ、ズボンのベルトにも手をかけた所で、




ガチャリ、と後方で扉の開く音。




「ふえっ?」


上半身だけ捻って後方を確認したシャルロットの目に飛び込んできたもの。

それは首にバスタオルを引っかけ他はトランクス1枚しか身に着けていないミシェルの姿。各々から逞しく隆起した筋肉は完全に拭いきれていない水滴によって輝いている風に見える。ナニとは言わないが平常時である筈のトランクスの膨らみも中々の物で・・・ゲフンゲフン

ミシェルの方からしてみれば、半ばズボンがずり落ちているせいで白い下着に包まれた小さなお尻とか、小ぶりながらもしっかりとお椀形を形成した胸の膨らみがブラによって下から支えられているのがしっかりくっきりはっきり目の前に晒されているわけで。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


5秒経過。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


30秒経過。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


1分経過。


「お、お願いだから何か言うなりそっぽ向くなりしてよ!?」


痺れを切らしたのはシャルロットの方だった。着崩れたまま慌てて下着の部分だけでも隠そうとするが、その方が逆にチラリズムに通じる扇情的なポーズをとっている事に気付いていない。

ミシェルは非常にばつが悪そうにしながらも少し紅くなった頬を掻きつつ、


「すまん・・・・・・可愛いくて色っぽかったから、つい見惚れてしまっていた」

「はうっ!?」


思わず奇声を上げてしまうぐらいミシェルの言葉がシャルロットの胸に突き刺さる。主に照れと羞恥的な意味で。


「・・・・・・ミシェルのえっち」

「・・・・・・否定はしない。だが、シャルロットぐらい可愛い女の子のそんな姿を見れば、男なら誰だって興奮する」


ミシェルって実は天然なのかなぁ、と思いながらシャルロットは更に顔を赤くした。













「ようやく来たか」


使いの物に車で連れて来られた先、デュノア社の研究所にて初めて顔を合わせた父親――――デュノア社の社長の第一声がそれだった。

ミシェルはシャルロットの容姿も性格もきっと母親譲りに違いないと、シャルロットはシャルロットでミシェルの顔は父親譲りなんだなと似たり寄ったりな感想を抱く。

シャルロットは緊張で乾く喉に無理矢理唾を呑み下すと、出来るだけ震えないように心掛けながら声を出そうと試みた。


「あの、初めまして、お父さ――――」

「こっちだ、さっさとついて来い」

「あっ・・・・・・」


シャルロットの言葉は届かない。反射的に家族から離れまいとする小さな子供の様に手を伸ばしたが、すぐさま2人に背を向けた父親はそれすら全く気付かない。




その瞬間――――父親だと思っていた存在からも高く分厚い壁によって自分は隔絶されているのだとシャルロットは悟る。




心の何処かで気付いてはいたのだ。だって、これまでだって父親らしい事をしていた覚えが全く無いし、そもそも娘である筈の自分の前に姿を現した事さえなかったのだから。

幾ら愛人の娘だといえど、本当にシャルロットの事を娘と認識しているのならば――――もっと早くから父親として姿を晒していただろうし、病気を患った母親を放置する事もなかっただろう。

急に目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとなる。いけない、我慢しないと。今ここで泣いたら迷惑が掛かっちゃう。


「何をしている。早く来―――――」


シャルロットに聞こえた父親の声はそこまで。しかしそれも仕方ない。






何故なら誰かが止めに入るよりも速く。

父親の肩を掴んで振り向かせた実の息子が、大の大人の身体が浮き拳が数cmはめり込むほどの威力でもって強烈に鳩尾へとボディブローを抉りこんだのだから。






「・・・・・・顔面じゃないだけマシだと思ってくれ。だがな、自分で撒いた種なら自分でけじめをつけたらどうだ、クソ親父」


父親からの返答は無し。そもそもまともに呼吸が出来ずに床をのた打ち回っているのだから当たり前だった。

慌てて駆け寄ってきた父親の部下達が自分の足で立ち上がる事すら出来ない上司を運んで医務室へと消えていく。場所が場所だけに研究所の警備員や社長専属の護衛も居たには居たのだが、実の所ただの親子喧嘩に過ぎない為止めに入れずじまいだったのが真相だ。

・・・・・・研究所の入口辺りで身元が確認されるまではミシェルの事をシャルロットの護衛と彼らが勘違いしていたのは秘密である。




どうして、とシャルロットは呆然と呟いた。

ミシェルは向き直ると、躊躇い無くこう口にした。




「・・・・・・幾ら家族だろうが、惚れてる女をあんなぞんざいに扱われて頭にこない程、俺は気が長くない」




我慢できず、美しい紫色の瞳から涙が一筋零れ落ちた。











さて、そもそも何故2人がデュノア社の心臓部であるISの研究所を訪れていたのか。

ミシェルの場合はデュノア社の跡継ぎとなるべく仕込まれている帝王学の一環として研究所を見て回る予定だったからであり、シャルロットの場合は彼女の利用価値を探るべくIS適性などがあるか調べる為だった。

元々それらには社長自らが立ち会う予定だったのだが、現在その社長は医務室のベッドで気絶中。しばらく目覚めまい。




とは言え来たからにはこのままとんぼ帰りするのもアレだし、大体どちらも社長が立ち合わなくても研究所の所員だけで事足りる内容だったので、数十分遅れで再会される並びとなった。


「凄い・・・ISが作られるのってこんな所でなんだ!」

「・・・・・・中々壮観、だな」


2人の目に飛び込んでくるのはどれも一般ではまずお目にかかれない最新鋭の機材ばかり。

シャルロットは単純に好奇心から目を輝かせているしミシェルもまたそうなのだが、彼の眼はしきりにはしゃいだ様子のシャルロットへと向いていた。

あんなに目を輝かせて子供みたいに笑ってああもう可愛いなコンチクショウ!としきりに目線を他へずらして気付かれないよう心掛けつつ、目を細めて彼女の姿を追いかける。

・・・・・・周りからしてみれば明らかにガン飛ばしまくっています本当にありがとうございました。


「ねえ、一体何者なのよ彼?あの子のボディガードか何か?幾らなんでも殺気振り撒き過ぎだと思わない!?」

「何言ってるんだ、ウチの社の社長の息子だよ!」

「あれが社長の息子!?嘘でしょ、明らかに軍人か傭兵上がりのプロか何かにしか見えないわよ!」

「軍との演習とかで見た事があるわああいうタイプって。あれが所謂歴戦の兵士ってヤツなのよね?」

「なんでも社長を思い切り殴りとばして、救急車で運ばれたらしいわよ」

「いや俺は殺気だけで社長だけじゃなく警備員や護衛まで気絶させてみせたって聞いたんだが」

「どれもあの迫力ならありえそうで怖いわ・・・・・・」


言われ放題だった。特に最後の方、彼を一体何だと思っているのだろう。


「・・・・・・憎い。この顔が憎い」

「き、気にする必要ないよ!僕ももうあんまり気にならないし映画の悪役みたいでカッコいいと思うよ!」


例えが悪役の時点でフォローしていると言えるのだろうか?

女性しか扱えないISの研究所なだけあってテストパイロットの事を考慮してか、研究者のうち女性の割合が男性よりもかなり多い。

これもISが有名になってから広まった女性の各方面への進出の一例と言える。今の世界の風潮は女尊男卑と化してはいるが、この程度ではまだそこまでいかないレベルだろう。

まあそのせいで一層ミシェルの凶相が引き立っている訳なのだが。血統書付きの猫の集団に槍を持った原始人が紛れ込んでるようなものだ。


「こ、こちらが現在研究の為各装備を取り外したISです」


仕事は出来るが性格は気弱な雰囲気の案内役の研究者が研究スペースの中心へと2人を誘った。

社長とはまた別の意味で腰を低く接したくなるような迫力の持ち主のミシェルが相手なせいでさっきから冷や汗ダラダラ胃がキリキリ。離れたいのに離れられないああ死にそう。

あと1時間も一緒なら医務室のベッドがまた1つ埋まる結果が待っているに違いない。


「これが、IS・・・・・・」


そのISはコアとフレームだけとされながらも、強大な性能と能力を秘めている事を感じさせる一種の威厳に満ちていた。

中身が剥き出しの腕部・肩部・脚部の各パーツには何百本ものコードが伸び、終着点である計測用の機材に絶え間なくデータを吐き出している。


「本物のISってこんな感じになってるんだ」

「しかしずっと疑問に思ってたんだが・・・・・・何でこう、バランスの配分が悪いのだろうな」


肩から先はまだ違和感を覚えないサイズだが腰から下の足回りのパーツは一気に肥大化し、装甲が外されている分まだそうでもないが、よりゴテゴテした感じを覚える。


「ISは起動すれば宙に浮き、飛行して移動するのが基本となっておりますから、その機動を行うのに必要なパーツは脚部に集中しているのです」

「へぇ~そうなんだ」


シャルロットは呑気に関心しているが、スタイリッシュなデザインよりももっと武骨だったりメカメカしい方が好みなミシェルはちょっと不満そうに唇を引き締めた。

使用者が女性ばかりなのでISの外観もそっち方面の受けを狙ったのが重視されがちなのだろう。そりゃ女性にはアーマードトルーパー辺りのデザインはダサ過ぎなんだろうけど。

ちなみにミシェルが好みのメカはPS2時代のACとブラストランナーである。どちらも重装甲・高火力アセンばっかりだったのが趣味が丸だしだ。もちろんガンダムも好きだしヴァルキリーも嫌いじゃない。アーマードパックなんか最高だ。ついでに言うとレーザーよりも実弾派である

仮にミシェルがISを使えたとしたら、きっと趣味を反映したバ火力機体を希望するだろうと1人ごちる。


「だが、ま、俺には関係に事だがな・・・・・・」


そう、ミシェルには関係無い事。

ISは女にしか扱えない。それはISの存在を知っている人間であれば必ずセットで記憶される事実。

こうやってすぐ近くでみたり触ったりしても何かが起こる筈もない。自分達みたいな商売人や技術者でない限り、男にとっては単なる宝の持ち腐れ。






――――その筈だった。






そういえばISの素材って何を使っているのだろう、とふと気になったミシェルは自分で確かめるべく手を伸ばし。

触れた途端、硬質の金属を軽く叩いたような澄んだ金属音が脳内に響く。驚いて指先が離れるよりも速く意識へとダイレクトに大量のデータが送り込まれてきた。


「なん・・・・・・だと・・・・・・」

「こ、これは・・・・・・そんなまさか、コアが起動している!?」


爆発的に量を増したISからのデータが表示された機材に齧りついた技術者の絶叫が周囲に響く。一気に騒然となる空間。

その元凶であるミシェルはといえば、困惑し過ぎて無表情になった巌(いわお)を体現した顔立ちを一目惚れした愛しの少女へと向けた。


「・・・・・・こんな時、一体どんな顔をすればいいのだろうな」

「・・・・・・わ、笑えば良いんじゃないかな?」




結構そっちの素質もあるのかもしれない、と思いながらとりあえず言われた通り笑ってみた。

・・・・・・猛獣の笑みだった、と後にその場に居合わせた女性達は述懐している。























―――――同年代に全く見えない友人と最初に出会ったのは異国の地だった。


『・・・・・・日本人だろう?君も大会を見に来たのか?』


初めての海外旅行。姉の千冬が出場する第2回モンド・グロッソの観戦に招待されてやってきたドイツ。

浮かれて観光に飛び出したは良いけれど、ドイツ語どころか英語も満足に知らない自分が宿泊先のホテルの帰り道すら分からなくなって混乱していた所に話しかけてきたのが彼だった。

明らかに自分の倍以上は離れているに違いない顔立ちと体格。最初は軍人か何かだと思ったのはいい思い出。

全然日本人じゃないのに、その口から飛び出してきたのが流暢な日本語だったからびっくりしたのを良く覚えている。自分と同い年だと知ってもっと驚いた。




―――――その先の光景の終わりは何時も同じ。

その友人が、自らの血の中に倒れている。









「・・・・・・・っぁ!!?」


織斑一夏はソファーのベッドから跳び起きた。自分がリビングでテレビを見ていて居眠りしていた事に思い至る。

彼は剣道部との掛け持ちで他に複数の格闘技系道場に通ってほぼ毎日身体を苛め抜いていた。積み重なった疲れが自分を苛んでいるのは一夏も自覚はしている。


「またあの夢か・・・・・・」


だが改善する気にはなれない。あの夢を見る度思う。

もっと強くなりたい、と――――


「・・・・・・今日はもう寝よっと」


ずっと点けっぱなしだったテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした時だ。バラエティが中断し、慌てた様子でスタッフから原稿用紙を手渡されるアナウンサーの姿が映し出される。

テロップには緊急放送の文字。


「何だ、また束さんが何かやらかしたのか?」


一夏は何気に現実味を帯びた事を勝手に言いながら、とりあえず特報が発表されるのを待つ。


『――――臨時ニュースをお伝えします。世界で初めての男性によるIS操縦者がフランスに現れたとの情報が、フランス政府により世界へと公表されました』

「マジかよ!?」


思わずテレビへと身を乗り出す。ご近所さんちからも驚きの絶叫が巻き起こっているのが外から聞こえてきた。それこそ日本中いや世界中が同じような反応をしているに違いない。

それほどまでに衝撃的なニュースだった。ISの操縦者467名中男が1人、という事実は数字以上に計り知れない意味を持つ。


「一体どんな奴なんだろ・・・」

『――――世界初の男性IS操縦者の名前はミシェル・デュノア―――――』


一夏の心臓が爆発的に大きく跳ね、銃弾を食らったかのように脳内が衝撃に襲われた。

顔写真と名前のテロップが映し出される。やはり名前は一課が覚えていたのと全く同じであり、顔写真の方も傷跡が刻まれ顔つきがより厳めしさを増しているのを除けばこちらも一夏の記憶通りだった。

最初に一夏の胸中に広がったのは目覚めてくれていた事への安堵感―最後に見た時には膝から下を失った右足と頭部に幾重にも包帯を巻かれ、医療機器に囲まれて眠り続けていた―次いでそれを遥かに上回る罪悪感が胸を締め付ける。




自分のせいで死にかけ、なのに1度も謝る機会がないまま半ば強制的に分かれ離れになった友人。

今の織斑一夏を形作ったのは、もう2度と自分を助けてくれた姉や自らを犠牲にした友人が傷つき、被害を被る事がないように強くなるという誓い。




「もっと、強くなりてぇなあ・・・・・・」


貪欲にそう願う。まだ足りない。大切なものを守るには、もっともっと強くならないといけない。

守れるだけの力を手に出来るのであれば、自分は悪魔とだって契約してみせよう。













この時の一夏は知らない。

それから2年のち、彼もまた異国の友人同様『男でありながらISを起動できる』という現実に直面する事を。

IS学園に入学するに辺り、フランスの代表候補生として来日した『彼』と再会する事を。




今の彼はまだ知る由もない。




[27133] 1-1:バカップルの来日と再会
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/21 10:25

あれから色々あってから今度は日本で学生生活を送る事になった。勿論シャルロットも一緒。

たゆまぬ努力と積極的なアプローチの結果、見事俺からシャルロットへの一方通行から相思相愛になりました。きっと一生分の運使い切ったろ絶対。

前の人生じゃ魔法使いになる前に死んだ分大ハッスルしとります。だってシャルロットが可愛過ぎるんだい!俺もそうだけどシャルロットの方もかなり積極的だし。何がって?ナニの事さ。




それにしても十数年ぶりの里帰りかぁ・・・・・・今の俺の生まれ故郷はフランスだけど、前世が日本人だっただけに日本の文化が恋しくて仕方なかったんだよね。

楽しみだ。本当に楽しみだ。シャルロットも一緒だから尚更だ。

―――――あと、一夏にも会えればいいけど。目覚めるのと入れ違いで日本に帰っちゃってからそれっきりだし。

そういえば一夏も何故かIS起動出来ちゃったせいで一緒の学校に入る事になってるんだっけ。また昔みたいに接してくれればいいんだが・・・・・・・























逞しい胸板の上で目を覚ました。


「ミシェルのにおいぃ・・・」


寝ぼけてしばらくの間悩ましげに鼻先を擦りつけ続けてから、やがて低く唸り続ける振動音が目覚ましとなってシャルロットの意識は完全に覚醒した。

下手なベッドよりも上質な心地良さを誇る特大サイズのリクライニングシート、限界まで後ろに倒した上でミシェルとシャルロットは同じシートに横たわっていた。

とはいえ、ミシェルの体躯が良過ぎるせいでシャルロットの方は横になったミシェルの更に上に乗っかる形となっているのだが、当人達はちっとも気にしていない。むしろお互い望む所だったりする。

ミシェルはまだ眠っているようだ。その様子は老いて尚野性味と逞しさを失わない老狼みたいで、シャルロットのお気に入りの光景でもある。

ミシェルの身体から離れないまま手元にあった備え付けの端末で現在地点をチェックしてみると、既に2人の乗ったVIP用の特別機(チャーターしたのはフランス政府)は日本領空内に入り、あと約30分で空港に到着する事を教えてくれた。

そろそろ彼も起こした方がいいだろう。


「起きてミシェル。そろそろ到着するみたいだよ」

「・・・・・・ん。そうか、分かった」


一声かけただけにすぐ覚醒。彼が過去にフランス軍で一定期間軍事演習を受けた時に習得したスキルだそうだ。

ミシェルは眠りに落ちた時同様自分の胸板に乗っかったままのシャルロットの頭に手を乗せ、ソフトボールぐらいなら簡単に握り潰せる巨大な手には不釣り合いなほど繊細に丁寧に、金色の髪を指先で梳く。

シャルロットはまた気持ちよさげに目を細めながら、今度は上半身全体を擦りつける事で彼に応える。


「楽しみだね、確か僕達みたいな子達が一杯居るんだよね、IS学園って」

「そうだろうな・・・・・・生憎、男子生徒は俺以外にはあと1人しか居ないらしいが」

「織斑一夏、っていう名前だっけ?それにしても驚いたなぁ。ミシェル以外にも男の人でISを使える人が居るなんて」

「・・・・・・俺は別の意味で驚いたがな」


日本で発見された2人目のIS操縦者―――――織斑一夏とミシェル・デュノアは、数日間という極短い期間ながら行動を共にした事がある。

それなりに仲の良い友人だったと胸を張って言いたい所だが、ある事件を最後に一言も別れの言葉を交わす事も出来ず一夏が日本へ帰国してしまってからは2人の繋がりはそれっきりだった。

しかしまさか『男でありながらISの起動に成功した』が為に再び関わり合いになるとは、世の中分からないものである。

・・・・・・というか、2ヶ月近く前に一夏がISを起動させた事を知らされた時になって、ようやく『織斑一夏』という人間が『IS/インフィニット・ストラトス』の主人公である事を思い出したのだが。

ついでにシャルロットが原作では薄幸のヒロインポジだった気もするが今は俺の嫁なんだからどうでもいい。

ミシェルと目線が同じ位置に来るまで移動してきたシャルロットがまじまじと覗きこんでくる。


「・・・・・・どうかしたのか?」

「あのね、初めて会った時の事、覚えてる?」

「・・・・・・忘れてたまるものか。何と言ってもその日に初めてシャルロットにプロポーズしたんだからな」

「あの時は驚いたなぁ、会ったばかりなのにいきなりプロポーズしてくるんだもん。ビックリしちゃったよ」

「・・・・・・言わないでくれ。後悔はしていないが、掘り返されるとかなり恥ずかしい」

「だけどね、あれだけインパクトがあったからこそどんどんミシェルの事を意識しちゃうようになったんだよ?最初からいっぱいいっぱい僕に好意を向けてくれたから、僕もミシェルの事がどんどん好きになっちゃったんだから」

「・・・・・・一目惚れって、恐ろしいな。勿論今もシャルロットにベタ惚れなのは否定できないが」


そう言ってミシェルの口元に苦笑が浮かび、それからふとその視線が下へと動く。

2人共上着を脱いでスラックスにワイシャツ姿なのだが、どちらも寝る時に上のボタンを外していた。

ミシェルからしてみれば、十分以上に実ったシャルロットの肉鞠が形成する谷間や白磁の肌がバッチリ見えて目に毒だった。


「・・・・・・こっちは昔と大分変わったな」

「ミシェルがエッチなのは昔から変わってないね」


頬に血の気を集めつつもシャルロットは胸元を隠そうとしない。それ以上に恥ずかしい所も彼には何度も自分から曝け出したのだから今更な話だ。

2年前と比べてミシェルの身長は更に伸びて今や190半ば。筋肉の量も眼光の鋭さも更に増してるもんだから全くもって今年で16には見えな――――え、元から?

シャルロットの方は肉体そのものの成長期とミシェルと共に積んできたIS操縦者としての訓練、更に女として磨こうと試みてきた本人の努力に加えミシェルから加えられるあれやこれやな肉体的・精神的刺激によって促された結果、同年代の少女達が揃って羨む肢体を手にしていた。

原作では一夏視点でCカップと評価されたバストサイズもこの世界では現時点でEカップ。しかも現在も成長中。

本人曰く下着がすぐ合わなくなるし訓練をしていても揺れて痛かったり戦うのに邪魔になる時もあるけどミシェルが喜んでるからまあいいや、との事。

・・・・・・中国の代表候補生辺りが聞けば2重の意味で激怒しそうな言い分ではある。


「うー、もう大きくなってきてる・・・・・・本当にミシェルってばエッチ過ぎだよぉ・・・・・・」

「・・・・・・面目ない」


ちょっとむくれた様子で唇を尖らせてから――――シャルロットの指が、スラックスのジッパーを下まで下げて、どんどん固さと大きさを増していく物体をそっと撫でた。




「着陸まで時間がないから、口だけで我慢してね?」
















一言で表すならば『む~ん』であった。

何が『む~ん』なのかと問われれば決まっている。IS学園1年1組の教室内に漂う空気の様子がまさしく『む~ん』といった感じなのだった。

その空気の気まずさと緊迫感が如何ほどのものかというと、副担任の山田真耶先生が教卓の前で涙目になってしまうほど。

1年1組の生徒30名中28名を占める少女達。1人を除いて彼女らの顔には乙女には似合わない冷や汗がダラダラと流れ、視線の向きも全く安定していない。

何故か?彼女達が注目したい相手と全力で注目していない存在が隣り合わせで、見ようとすると嫌でも両方視界に飛び込んで来てしまうからだ。

今の状況は少女達からしてみれば猛獣と一緒の檻に入れられてしまったウサギの群れ、立て篭もり犯に捕まった人質、怪物に囚われたお姫様と同じ気分――――とどのつまり、怯えて身体を縮こませる以外に選択肢がない。王子様助けてー!ってな気分である。




その元凶は、最前列真ん中に鎮座する初代男性IS操縦者。




「(・・・・・・女子ばかりで激しく落ち着かん)」


ミシェル・デュノア―――――世界で最初に発見された男性IS操縦者であり、現フランス代表候補生。大企業デュノア社の御曹司。

専用ISは<ラファール・レクイエム>――――デュノア社製の名作量産型IS<ラファール・リヴァイヴ>をベースにフランスを中心としたEU各国合同で開発された高火力・汎用性・継戦能力重視の第3世代機。

お年頃の少女達からしてみれば、IS学園に2人しか存在しない男子学生の中でも超有望株なのだが・・・・・・彼の容貌を一目見れば、少女達の期待は完膚なきまでに粉砕してしまうのが定番だった。

とにかくゴツイ。前世紀後半に流行ったB級アクションに登場する筋肉モリモリマッチョなアクションスターと悪役を足して割ったような厳つさ。鼻を真横に横切る傷跡によってまた凄味を増している。

身体つきも負けてはおらず、白い制服がパンパンに今にも筋肉ではち切れんばかりだ。腰かけている椅子がとても小さく見える。

というか貴方絶対年齢のサバ読んでますよね20歳ぐらい、と言ってやりたくなるぐらい迫力をそこに居るだけで放っているのだ。

ともかくISを動かせる女性が持て囃されてばかりいるこの時代に先祖帰りしたかのような男臭さに満ち溢れたミシェルの存在は、女尊男卑が当たり前の世代である年頃の少女達には刺激が強過ぎる。

逆を言うと時代錯誤な男らしさを外見上体現したかのような存在であるミシェルは世界中の男性、特に一定以上の世代からは大人気だったりする。








それはともかく、教師の務めを果たすべく涙声になりながらもSHRを進めて自己紹介を必要以上に緊張気味の少女達を行わせる山田先生。


「つ、次は織斑一夏君ですねっ。それじゃあじ、自己紹介をお願いしますっ!」


上ずった声で告げられた内容に、今度こそ教室中の少女達の視線が一点へと集中した。その隣に居座る存在をなるべく認識しないよう心がけながら。

いやだって、マジ怖すぎるし。何処のヤーさん?それとも外国人だからマフィア?


「えー、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」


織斑一夏。世界で2人目の男性IS操縦者。

ミシェルとは対照的に背丈は普通、顔はどちらかといえば女顔で中々美形の部類。男性は男性でも思春期真っ盛りの少女達にとっては、彼の方に大いに興味を惹かれざるをえない。

彼も多数の少女達に囲まれて非常に落ち着かなさそうだった。彼も隣の野獣にチラチラとしきりに気にした様子ではあったが、雰囲気が少女達とは少し違う。


「趣味は鍛練、得意な事は家事全般です・・・・・・・こんなもんで良いですか、先生」

「は、はいっ!結構なお手前でした!」


何か間違った評価であった。本当にこれから大丈夫なのかこの先生。

それからも粛々と―何かに怯えたかのように―覇気の感じられない自己紹介は続き。

遂に彼の出番がやってくる。


「・・・・・・ミシェル・デュノア。フランスから留学してきた。趣味は身体を動かす事と射撃訓練、それからアニメとゲームも少々・・・・・・あと、どうせ後々問われるであろう事があるのでこの場で言っておこうと思う」


一旦彼が言葉を区切り、西部劇の決闘シーンもかくやな緊迫感が教室を覆う。


「・・・・・・同じクラスのシャルロット・デュノアとの関係だが――――――」


ゴクリ、と誰かが息を呑んだ。場面で言えば今まさしく決闘の合図であるコインが弾かれて宙を舞っている瞬間だろう。

更に緊張感は高まり、固唾を呑んで見守る観客(クラスメイトの少女達+山田先生)が順番に映し出すという手法で引っ張って、引っ張って、引っ張って、引っ張って――――――







「―――――フランス政府公認の俺の嫁だ。ぜひとも妻と仲良くして欲しい。言いたい事は以上だ」

「アホか貴様ぁ!!」


どんがらがっしゃーん!!!と1人を除いてクラス内の人間全員が椅子ごとずっこける音と。

すぱぁん!!と何処からともなく現れては背後に回り込んでいた1年1組担任の織斑千冬が思いっきり振り下ろした携帯端末の打撃音が同時に響き渡った。

ちなみに唯一ずっこけていなかったのは「もうミシェルったらこんな場所で堂々宣言しなくても・・・・・・嬉しいけどさ」とだらしなく顔を緩めた彼の嫁だったりする。












混沌とした雰囲気のままSHRと1時間目の授業が終了した直後。


「あのさ・・・・・・ちょっと、一緒に来てくれないか?」

「・・・・・・ああ、分かった」


2人だけの男子生徒が共に教室から離れていってから、急激に室内はざわめきだす。


「ねえ、今の見た?織斑君からデュノア君に話しかけてたよ」

「もしかして2人って知り合いなのかな。まさか2人が男性なのにISが使えたのもそのせいだったりして」

「覗きに行っちゃおうか?」

「ううん、止めといた方がいいかも・・・・・・もしミシェル君が怒ったらどうするのよ」

「う゛っ」

「はっ!ま、まさか2人って実はそんな関係!?ダメよ織斑君、そんな非生産的な!」

「いやデュノア君ってもうお嫁さんも居るんじゃ・・・・・・まさかどっちもイケる人とかなのかな?奥さんの他に男の愛人を囲っちゃったり!?」

「ミシェル×一夏――――ううん、一夏×ミシェルもアリね!」

「腐女子乙ww」


本人達が居ないからって言いたい放題である。特に後半。妄想逞し過ぎにも程があるだろ、と突っ込む人間は居ない。ええいこのクラスはボケばかりかっ!


「でもさっきもミシェル君の紹介聞いた?あの年でもうフランス公認で奥さんが居るとか凄くない?」

「意外過ぎるけど何でだろうね、えらくしっくりくるのって・・・・・・見た目的に違和感が無いっていうのかな」

「シャルロットさんならミシェル君と一夏君の事も知ってるかも!聞いてみよ?」


しかし、シャルロットの姿も既に教室から消えていた―――――もう1人の少女と共に。







「あのさ、何で篠ノ之さんも付いてくるのかな?」

「そ、それは一夏は私の知り合いだからだ・・・・・・それよりも私の事は箒で良いぞ」

「じゃあ僕もシャルロットで良いよ。それよりもどこに向かってるのかな2人共」


ミシェルと一夏を追いかけるのはミシェルの嫁ことシャルロットと凛とした眼差しにポニーテールが特徴的なクラスメイトの篠ノ之箒。


「それにしても一夏め。せ、せっかく6年ぶりに遭ったというのに無視するつもりか・・・・・・」

「いや、ミシェルが言うにはあの織斑って人と知り合いだったらしいよ。何でも旅行先で短い間一緒に居たって聞いたんだけど」

「むう、そうなのか」

『・・・・・・久しぶり、だな』

「おっと」


わざわざ校舎の外に出てから最初に口を開いたのはやはり一夏から。その口調と表情は暗い。


『ああ・・・・・・3年ぶり、といったところか。元気そうで何よりだ。まさかこんな所で会えるとは思いもよらなかったが』

『俺・・・・・・・・・・・・ずっとミシェルに謝りたかったんだ』


そう言うなり一夏は跪くと石畳に額を擦りつけた。思わず目を見開き身を乗り出す覗き魔の2人。


『謝ったって許されないのは分かってる――――それでも、これだけは言わせてくれ。ゴメン、本当にゴメン!俺のせいで、あんな事・・・・・・!』

『・・・・・・謝るとしたら、むしろそれは俺の方だ。何せ友人が目の前で攫われそうになりながら、無様にやられて助けにもならなかったのだから』

「誘拐・・・だと!?聞いていないぞ、そんな話!」

『ミシェルが悪い筈無いだろ!俺のせいでミシェルは死にかけて、片足を失ってっ、それにっ・・・・・・!』

「まさかミシェルが片足を失ったのって、織斑君が関わってたの?」


最後の方は掠れて届いてこなかったが、聞こえてくる一夏の血を吐く様な告白を驚愕混じりで盗み聞きし続ける。

――――夢中になり過ぎて背後に忍び寄る存在に、2人は声をかけられるまで全く気付けずじまいだった。


「盗み聞きとは良い趣味だな。篠ノ之、デュノア」

「「うひゃあっ!!?」」


驚きに飛び上がると同時に回れ右。そこにはうろんげな眼差しで自分達を見下ろす担任の姿。


「何をコソコソしているかと思えば・・・・・・早くも仲良くなれた様で何よりだがな」

「「は、はぁ」」


嫌味たっぷりの御言葉を頂戴して2人揃って小さくなる。

しかしふと、箒がおずおずと一夏の実の姉である千冬に問いかけた。2人の話は一体どういう事なのかと。

千冬はまず溜息を吐いてからしばし黙考する。然程時間をかけず箒とシャルロットに事情を説明する事に決めた。

なんせシャルロットはフランス政府も認めたミシェルの伴侶であるし、箒はISの開発者で千冬の友人でもある束の妹である事に加え一夏の幼馴染でもある。この2人なら言いふらすまい。


「・・・・・・第2回モンド・グロッソ大会における私の顛末なら大まかには知っているな」

「はい、織斑先生が2連覇を目前にしながら決勝戦を棄権し不戦敗、その後すぐに引退を表明したって事ぐらいですけど」

「決勝戦当日、一夏は何者かの手によって誘拐されたのだ。そのとき偶々行動を共にしていたミシェル・デュノアが防ぎに入り――――結果、銃撃を受けて生死の境を彷徨った。特に右足は散弾が骨を直撃した為に損傷が酷く切り落とさねばならなかった」

「ミシェルが義足なのってそんな事があったからなんだ・・・・・・」


実の所、千冬は今の内容に虚偽を加えていた。いや正確には事実を全ては述べなかった、と言うべきか。

千冬が告げた部分だけで十分に衝撃を受けていた2人は、微妙に歯切れの悪そうな千冬の様子に気付かない。


「その後しばらくデュノアは昏睡状態に陥ったんだが、一夏の身を守る為に私がすぐに一夏を帰国させたせいで2人の関係はそれっきりになってしまってな。一夏が異常に鍛練を行うようになったのもそのせいだろう。どちらにしろ、全ての責任は私にある」

「そうだったのですか・・・」


事情を知る千冬と知らされた2人の表情が次第に沈鬱なものに変化していく中、当事者達の話何時の間にやら終わりにさしかかっていた。


『・・・・・・もうそれ以上気に止まないでくれ。こうして俺はまだ生きてる。生きてる限り、必ず次がある。こうして、また一夏と再会できたように』

『ミシェル・・・・・・』

『・・・・・・それに、俺は後悔していない。大切な(数少ない)友人を守るため命をかけた事に、後悔する点が見当たらない』

『そっか・・・・・・ははっ、俺って友達に恵まれてるなぁ・・・・・・』


一夏はそう言って笑った。笑いながら、泣いていた。土下座の姿勢から身体を起こしただけの体勢のまま涙を流す一夏の元に、ミシェルもまた跪くと肩を回し、そっと背中を叩く。

最初は友人達の和解の様子を感動の面持ちで眺めていた箒だったが、何気に柄になっているその光景から得体の知れない衝動に襲われた。

とにもかくにも男らしさの権化のような見かけのミシェルに対し、一夏は全体的に千冬とよく似た女顔である。おまけに涙を流すその様子がまたソッチ系の雰囲気を漂わせていて何ともかんとも。

というか顔が近い。顔が近いぞ2人共!


「いかん、いかんぞ・・・・・・!6年ぶりに再会できたと思ったのにまさか男に一夏を取られてしまうなど!」

「ねえ、ヒトの旦那様使って何妄想してるのかな君?」

「生身の人間に銃口を向けるなそもそも許可なく勝手にIS展開するな」


薔薇が舞う妄想に顔を真っ赤にして悶える箒へニッコリ笑ってIS用の突撃砲を構えるシャルロットの頭を遠慮なく叩く千冬。




キーンコーンカーンコーン




「「「あっ」」」

『・・・・・・教室に戻るとするか』

『ああ、これから一緒によろしくな、ミシェル!』

『それはこちらのセリフだ・・・・・・』

「・・・・・・お前らも早く教室に戻るぞ」

「「はい・・・・・・」」




友誼を交わし合う男2人に気付かれないようコソコソと立ち去る彼女達の姿はまるで不審者の様だった。






[27133] 1-2:決闘の経緯/刺激的過ぎる再会
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/22 10:09
「け、けけけ、決闘ですわー!!」


・・・・・・どうしてこうなった。














2時間目が終了時点で早くも一夏は死にそうになっていた。授業の内容の半分以上がチンプンカンプンなお陰で頭がパーン!となりそうな意味で。


「あーうーあー・・・・・・」

「(先程は話しかけそびれてしまったが、今度こそ!)」


机の上にへたばってる一夏とは対照的に1人決心して気合を入れているのは箒。その気合の入れっぷりは巌流島目指して決闘へ赴く宮本武蔵が如し。

いざ、と勢い良く席を立ち上がって幼馴染の元へ向かい、


「ちょっといい――――」

「なーミシェルー、お前さっきの授業理解出来た?」

「まあ、な・・・・・・ISが使えると判明してからすぐに叩き込まれた内容ばかりだったからな」


お目当ての人物当人から和解したばかりの友人とお喋りを開始したせいで思いっきり出鼻を挫かれた箒は勢い余って机に弁慶を強打。そして悶絶。

どうやら武蔵は巌流島に辿り着く前に船が転覆してしまったらしい。


「つーかマジあり得ないだろ。俺ん家に学校から参考書送られてきた来たんだけどさ、電話帳かっつーのあの厚さ。信じられるか?」


ちなみにそのせいで危うく古い電話帳と思って捨てそうになったのは一夏だけの秘密だったりする。


「あはははは、でも織斑君ってISが使えるようになったのはほんの1ヶ月ぐらい前なんだよね?それぐらいしか予習する時間が無かったんなら仕方ないよ。僕達の場合はもっと前から猛勉強してきたんだしね」

「そう言ってもらえるだけでもありがたいよ・・・・・・えっと、確かシャルロットだっけ?」

「うんそう、シャルロット・デュノアっていうんだ。よろしくね。シャルロット、って呼んでくれて構わないから」

「それじゃあ俺の事も一夏で構わないぞ。よろしくな」


そういってから、失礼だとは理解しつつもしばしシャルロットを上から下までじっくり眺め、


「・・・・・・にしてもミシェルのお嫁さんかぁ。とりあえずおめでとう、って言った方が良いのか?」


久しぶりに再会した友人は所帯持ちでした、と言うだけならどうという事ないが、高校生になったばかりでそうとなるとどう反応すればいいのやら。

・・・・・・そもそもミシェル自体高校生に全く見えないしなあ、とは口に出さないでおく。本人気にしてるし。

それにしても可愛いお嫁さんである。しかも普通に人前なのに「えへへー、ありがとう」とか言って旦那様に抱きついてみせた。身長の割にたわわに実った膨らみがハッキリとミシェルの腕に押し付けられている。うん、もげろ。

もしこの場に一夏の腐れ縁の友人である某赤毛の少年が居たら、一夏に同意しつつもこう言ったに違いない。

お前が言うなこのフラグブレイカ―。これまで異性(美女・美少女)と幾つフラグを立ててはそげぶしてきたよ、と。


「・・・・・・とりあえず籍はフランス政府が特例でとっくに公認してくれている」

「へー、結婚式とかは?もうやったのか?」

「そこら辺は卒業してからになるけど、どうしようかまだ考え中かな。僕もミシェルも盛大に目立ったりとかあまりそういう事には興味が無いけど、むしろ周りがね」

「あーほっとかないよなぁ。それ分かる。俺もIS動かしてから取材とかでてんやわんやでさ、おちおち買い物にも出れなくて・・・・・・」


和気藹藹とした雰囲気を振り撒く一方で、激痛に悶えたまま動けない箒の存在に3人は誰も気付かない。

正確には一夏が周囲を取り囲む女子生徒達の興味の視線から精神の平衡を保つべく、会話を続ける事で全力で無視し続ける方針を取った事によるとばっちりだった。箒よ、恨むならクラスメイト達を恨んでくれ。

流石の少女達も(主にミシェルの顔のせいで)そうそう近寄る気にはなれず、遠巻きにヒソヒソと交わすのみ。

・・・・・・内容は主にミシェルとシャルロットの関係について。耳年増な思春期の少女達にはイクとこまでイッてるバカップルの話だけでも十分なネタだったのは、然程話題にされずにすむ一夏にとっては幸いか。




――――そんな均衡を破る少女が1人。




「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」「えっ?」「むっ?」


声のした方に一斉に向く。途端にちょっと顔を引き攣らせる少女。正直、ミシェルの顔と真正面から直面しただけで微妙に逃げ腰だったリする。

そんな内心を必死におくびに出さず、その金髪立てロールの白人お嬢様は堂々と胸を張った。


「(この人、確かイギリスの・・・・・・)」

「(誰だコイツ?)」

「(・・・・・何というテンプレなお嬢様。実在してたのか)」

「き、訊いています?お返事は?」

「えーと、まさか俺に言ってるの?」

「まあ!なんですのそのお返事。わ、わたくしに話しかけられるだけでもこ、光栄なのですから、それ相応の態度というものをですね・・・・・・・」


キョドってる、もの凄いキョドってる。一夏には偉そうにしつつもチラチラとミシェルの方を見る度どんどんと言葉に勢いが無くなっていく。

さっさと話進めてさっさと終わらせるか、と一夏は決心し、少女の問いに答える。


「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試主席のこのわたくしを!?」

「・・・・・・代表候補生ってなんだっけ?」


がーんと効果音が鳴って聞き耳を立てていたクラスの女子達がどんがらがっしゃん。

聞かれたバカップルは困った顔を浮かべながら簡潔かつ分かりやすく説明してくれた。


「読んで字の如く、国家代表IS操縦者の候補生って事だよ。一応僕とミシェルもその代表候補生の一員なんだ」

「そう、エリートなのですわ!」


何故か一夏相手にふんぞり返る時だけは威勢が良い。


「・・・・・・シャルロットはともかく、俺の場合は国や会社の宣伝で祭り上げられた節もあるがな」

「そんな事ないよ。軍の人達はミシェルの事を高く評価してくれてたし、入試での山田先生との模擬戦で勝っちゃう位強いんだから」


シャルロットの場合は持久戦にもつれ込んだ結果時間切れによる引き分けである

言葉の内容にセシリアが目を見開いた。


「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「それってもしかして『女子では』、ってオチじゃないのか?大体それなら俺も倒したぞ、教官」

「一夏も勝っちゃったの!?やっぱり男の子でIS使えるだけあって一夏も凄いなあ」

「いや、倒したっていうかいきなり突っ込んでかわしながら足引っかけたらそのまま壁にぶつかって動かなくなっただけだったんだが」

「つ、つまりわたくしだけではないと・・・・・・それも男が2人も教官に勝っていたと・・・・・・」


俯き気味にフルフルと震えだしたセシリアの様子に(あ、これヤバくね?)と感じたのはデュノア夫婦だけで知らぬは一夏のみ。

そしてついに爆発か、と目を三角にしたセシリアが顔を上げたその瞬間、




キーンコーンカーンコーン




3時間目開始のチャイムという名の水をぶっかけられて不発に終わる。しかし未だ忌々しげな表情を浮かべたままのセシリアの様子からして先延ばしになったに過ぎなさそうだ。


「また後で来ますわ!逃げない事ね、よくって!?」

「・・・・・・厄介なのに目を付けられたな」


離れていくセシリアの背中を見ながらポツリと呟かれたミシェルの言葉を聞いて、更に余計な気苦労をしょい込んだと悟った一夏はガックリと机の上に脱力した。

――――その5秒後、強烈な姉の一撃で強制起動させられる未来を一夏はまだ知らない。









クラス代表戦とは、読んで字の如くクラスの中から選ばれた代表者同士間によるちょっとした模擬戦の事である。

クラス代表そのものは代表戦に出なけえばならない事を除けばよくあるクラスの委員長と変わらない。そんな感じかなと一夏が受け止めているとどういう訳か他の女子に一夏自身が推薦されてしまった。


「では候補者は織斑一夏――――他にいないか?自他推薦は問わないぞ?」

「(クラス代表戦か・・・・・・生徒会とかの仕事はめんどくさいけど、腕試しのつもりで代表戦はやってみたいな)」


自分1人で鍛えるよりも誰かを相手に鍛練を行った方が互いに高め合う事になる為に余程鍛えられる、というのは当たり前の考えだ。

腕っ節には自信があってもISに関してはまだまだ素人以下、と一夏は理解している。自分が覚え磨いてきた技術がIS戦にも通用するかを確かめる絶好の機会だし、負けたら負けたで何処が悪いのかチェックして潰していけばいい。自分の力量を図るには丁度良かった。

そう判断し、このまま立候補を取り下げない事にした。どっちにしたって千冬姉は厳しいし横暴だから『他薦された者に拒否権などない』とか言って―――――

スパァン!


「今余計な事を考えたな。それから『織斑先生』と呼べ」

「何でいつも俺の考え読めるんだよ・・・・・・」

「さて、他に立候補する奴は――――デュノアもr」




「待って下さい!納得がいきません―――――えっ?」




勢い良く甲高い声が上がったと思ったら即座に尻すぼみになった。

上半身を捻って声の出所を見ようとしたら、隣のミシェルと目が合う。彼の片手は掲げられていて、なんだミシェルも自分から立候補したのかと特に考えずに受け取る。

で。声を上げた本人であるセシリア・オルコットは、机を叩きながら立ち上がった姿勢のまま一夏とミシェルの間を目線を行ったり来たりさせていた。

なんだか鳩が豆鉄砲どころか戦車の主砲でもくらったかのような唖然呆然愕然とした表情。ミスりましたわー!という彼女の内心が聞こえてきそうだ。

一旦咳払いをしてから、セシリアは滔々と自分の意見を述べ始めた。なるべくミシェルを視界に捉えないよう必死に努力しながら。

曰く、そのような選出は認められません、だの。男がクラス代表などいい恥さらし、だの。このセシリア・オルコットにそんな屈辱を1年間味わえというのか、だの。

一夏とミシェルへの侮辱か喧嘩売ってるか以外の何物でもない。


「そ、それにですね、実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを物珍しいからという理由で極東の猿に――――」




「今、何と言った?」




ミシェルが席を立った。その巨体が立ち上がるだけで周囲の女子からしてみれば十分な威圧感を覚えるが、彼が突如放ち始めた剣呑な気配によって、更に一回り大きくなったような錯覚を覚えた。


「・・・・・・幾ら女が相手でも、友人をそこまで侮辱されて我慢できるほどおおらかではないぞ」


ただでさえ鋭い眼差しが細まり、剣の切っ先もかくやな鋭利さとそのすぐ下で燃え盛る怒りを孕んだ視線に貫かれたセシリアはビクン!と、目に見えて震えだす。




セシリア・オルコットは男が嫌いだった。もっと言えば、情けない男が大嫌いだった。

そしてセシリアは情けない男しか知らなかった。父親は母親共々事故で死ぬまで母親の顔色ばかり伺ってへーこらしている様な人間だったし、両親の遺産を金の亡者から守る為IS操縦者となってからも立場ゆえか会う男会う男がほんの10代半ばのセシリアのご機嫌伺いばかり。

そこに現れたミシェル・デュノアという男。男でありながらISを動かせる少年・・・・・・どちらかといえば、歴戦の軍人が間違って10代扱いされてるといった方がまだしっくりくるけれど。

セシリアとミシェルには直接の面識はないが、セシリアの方はミシェルを知っていた。そもそもこのご時世今やISに関わる者なら彼の名を知らなければモグリ以下だ。

ともかくセシリアが何より苦手なのはミシェルのその顔だった。彼女が見てきた『弱い男』とは全く正反対の厳つ過ぎる顔立ちは、セシリアには特に刺激が強過ぎる。初めて顔写真を見た時は驚きの余り椅子の上でずっこけてから椅子の影に逃げ込んでしまった位なのだ。




・・・・・・かといってここであっさり非を認めてしまっては(いや、どこからどう見ても彼女から喧嘩を売った以外の何物でもないが)彼女のプライドが許さない。

意地があるのだ、女にだって。発揮する場面を絶対間違えているが。


「ふ、ふんっ!何を仰ってますの?自分達だけで第3世代機も作る事が出来ず、私の祖国やドイツに泣きついた癖に!」

「それは事実だ、認めよう・・・・・・だがそれがどうした。今、ここで、俺の友人を侮辱した事と何のつながりがある」


日頃から低くドスの利いたバリトンに一際力が籠もり、額には既に怒張した血管がその怒りっぷりを現すかのように痙攣している。ヒッ、と誰かの押し殺した悲鳴がした。セシリア自身の喉が漏らした物だった。

とっくに彼の周囲のクラスメイト達は涙を浮かべながらも怖すぎて動けず逃げられないままガタブル状態。

ってその腰元で何気にぶら下がってるのは何ですかどうして段々そこに手が伸びてるんですかそのギラリと光るハンマーとグリップとトリガーの付いた代物は何ですかー!?


「落ち着かんかバカもん。教室内でクラスメイトに向かって物騒なもの向けようとするな」


背後まで接近していた千冬が端末をミシェルの頭に振り下ろす。『縦向き』で。面ではなく角の部分で。

ゴシャッ!!!と絶対めり込んだよなコレ的な打撃音が盛大に響く。叩かれた側は端末が突き刺さった部分をさすりながら申し訳なさそうな顔で振り向いた。

ミシェルの頭と携帯端末、どちらも無事だった事を喜ぶべきか驚くべきか、周囲には判断がつかない。


「・・・・・・すみません。頭に血が上りました」

「友人をけなされて怒るのは良いが今は授業中だ。それにこれまでの経験を考慮して特例で銃の携帯許可が与えられているとはいえ、下らない理由で生徒や教員に向けるのであれば即刻懲罰を加えた上で携帯許可を取り消す。いくら男のIS操縦者で代表候補生でも私は贔屓しないからな」

「・・・・・・了解」

「さて、オルコットも着席しろ」


だがセシリアは戻らない。彼女は怒っていた。男に睨まれただけで怯え、恐怖を感じてしまった自分に。そして自分にそうさせた男に対し。

気がつけば、こう口走っていた。




「け、けけけ、決闘ですわー!」
















「・・・・・・どうしてこうなったんだろ」

「すまない、俺のせいで・・・・・・」

「いや、別にミシェルに怒っちゃいないって。俺の為に怒ってくれたんだし、逆に嬉しかったさ」


本当に気まずそうに申し訳無くて仕方がないといった風情でうなだれるミシェルの背中を軽く叩く。


「それに代表戦だって腕試しのつもりで出る事にしてたんだし、それが少し早まった位にしか考えてないから、気にすんな」


簡潔に言うと―――――決闘する事になった。何故か一夏が。

元々はミシェルに対し申し込まれた決闘な筈なのに、千冬曰く『デュノアのISはこんな個人的な非公式な対戦に用いるには少し問題があるしそもそもの発端はコイツにある』とか何とか言われてそのまま一夏VSセシリアが決定してしまったのである。これには当のセシリアの方が驚いた様子だったのが印象深かった。

猶予は一週間。それまでに叩き込めるだけ対策を立てなければならない。


「とにかくその時までにやれるだけの事をやるだけだな。あのさ2人とも、俺にISの事を出来る限り教えてくれ。この通り、よろしく頼むっ!」


手を合わせて土下座までしかねない勢いで深く深く頭を下げる。


「当たり前だ・・・・・・俺が撒いてしまった種だからな。それに、友人の頼みだ。断る訳にいくまい」

「僕もお手伝いするね。オルコットさんの使う<ブルー・ティアーズ>に関する事なら僕達も良く知ってるし、もっと詳細なデータも実家から送って貰えば良いからすぐに対策を立てれるよ」

「そんなのまで持ってるのか?ありがとう、恩に着る!」


何度も一夏に頭を下げられながら3人は学生寮に辿り着いた。敷地内からして分かりきっていた事だが、学生寮もまた未来的なデザインで真新しい。


「にしても千冬姉が言ってたけど、ミシェルのISってそんなに凄かったりするのか?もしかして秘密兵器っぽいのが載っけてあったりとか」

「・・・・・・そういう訳じゃない。むしろ第2世代をベースに一部第3世代機としての機能を組み込んである以外は『枯れた』技術ばかり使ってあるから、別段隠す意味のある機能は搭載されていない」

「んじゃどうして千冬姉はあんな事言ったんだろ?」

「うーん、多分ミシェルが戦うと派手過ぎるからかなあ・・・・・・」

「?」


一夏に宛がわれた部屋は1025室。ミシェルとシャルロットは一夏の部屋よりもう少し奥の一室で、流石夫婦と言うべきか同室だそうだ。


「・・・・・・荷物の整理が一段落したら部屋を覗いてくれて構わない。シャルロットも、それで構わないか」

「うん、僕はそれで良いよ。別に一夏も慌てなくていいからね?僕達も色々とやらなきゃいけないから」

「ああ、余裕を持たせて行くから、また後でな」


2人と分かれて1025室へ。中はそこいらのホテルを遥かに超える充実っぷりで、一夏は目を輝かせる。

それから部屋に置かれた荷物の存在に気付く。


「同室の奴の荷物か?」


バッグの口から突きだしているのや竹刀や木刀。

竹刀といえば剣道、剣道といえば―――――


「(そういや箒も6年ぶりに一緒会えたのにちっとも話できなかったなあ。すぐ箒って分かったけど、ずっとミシェルと話してばっかりだったし・・・・・・・いや待て、まさかこの荷物って)」

「ああ同室の者か。これから1年間よろしく頼むぞ」


やっぱりかぁー!声に出さず絶叫しながらガチャリと音のした方へと反射的に振り向いた一夏の目の前に現れたのは。


「い、いち、か?」

「よ、よう箒。あは、あはははははははは」


その少女、篠ノ之箒はまさしくシャワー上がりですよといった風情で艶やかな黒髪を湿らせ、丈の短いバスタオルは扇情的な肢体を本当に最低限しか隠し切れていない。

とにかく胸、胸である。胸の質量が大き過ぎてその分バスタオルが上に持ちあがってしまうものだから太腿の部分などほぼ剥き出して白く張りに満ちた太腿が眩し過ぎる。そこよりも更に上、下手すれば叢の部分まで覗きかねないぐらいのギリギリっぷりである。

それ以外にも二の腕や下半身の筋肉の付き具合から彼女も良く鍛えてるんだなとか5%位は考えたが、残りの95%は幼馴染の成長し過ぎなサービスシーンを脳裏に焼けつけるのに総動員中されていた。健全な男子高校生にはなんと刺激的な事か。

最初に箒は呆けた顔を浮かべていた。きっかり3秒後、事態を悟り一気に顔を赤くするやいなや2本の腕だけで何とか身体を隠そうとするが、それがまた色っぽいのなんの。

勿論一夏も紳士としてすぐに背を向けたが、あの刺激的な姿はしっかり脳内のフォルダに記録されて何時でも閲覧可能である。


「ええええええっと、その、ひ、久しぶりだな、箒!」

「そ、そうだな6年ぶりだなって違う!な、ななな何で一夏がこの部屋に居る!?」

「いや、俺もこの部屋なんだけど――――」


そう事実を告げた途端。何をどう考えたのかはともかく、いきなり表情を険しくした箒は自分の荷物に飛びつくと木刀を抜き出し、一夏に相対してから電光石火の刺突を放つ。

あと1cm深ければ学生服の胸元辺りを引き裂いていただろう。紙一重で半身になって避けた一夏はそのままの流れで木刀を握る箒の手を掴み、疎かになっている彼女の足元を払い――――


「って危ねぇっ!!」


投げ飛ばす寸前で強制停止。しかし箒の動きは止まらない。彼女の手を掴んでいた自分の手に引っ張られた一夏は間抜けな悲鳴を上げて箒共々倒れ込んでしまう。

素肌に固い床は危険と判断した一夏は咄嗟に自分の身体が下になる様身体を滑り込ませた。後頭部に衝撃。そして真っ暗になる視界。


「ふむおっ!?」

「ふぁんっ!!?」


何かが顔を覆っている。湿り気があってちょっと熱めでむにゅむにゅしてぽよぽよして顔を動かす度「ひぁっ」とか「あぅん」とか甘い声を漏らす何かが。

・・・・・・『何か?』


「(も、もしかしてこれって)」


仰向けの体勢から顔面に押しつけられた物体を鷲掴みにしながら「きゃふうっ!?」ゆっくりと押し上げて顔面からどかした。

無意識の内に両手がワキワキと揉みしだいてしまうほど柔らかく弾力がある物体の正体は幼馴染の立派なおっぱいであった。

しかも倒れた拍子にバスタオルが肌蹴てしまい桃色でツンとやや上向きの先端とかトップからアンダーまでの芸術的に美しい曲線とかが目の前に曝け出されて揺れている。

思考が再度フリーズ。しかし両手は自動運転で規則的にもみもみもみもみ。止められない止まらない。

――――この時一夏は、おっぱいの素晴らしさを『心』ではなく『魂』で理解したと後に語る。







何かが切れる破滅的な音がした時になって、一夏はようやく我に返った。

マズい。これは絶対にマズい。千冬姉に赤髪の親友から譲って貰った男の秘宝を発見された時よりもヤバいかもしれない。

頭文字Gな台所の天敵もかくやな動きと速度で手足を動かし箒と距離を取る。絶対据わった眼で殺しにかかるに違いないと確信していた一夏は唯一の脱出口である木製のドアへと飛びつこうとし。






ふえ、と漏れた声に足を止めた。






「ふ、ふえっ、うえええええええええええっ・・・・・・・」

「ほ、箒?」


最早全裸に木刀片手という状態もお構いなしに、まるで子供のように泣き出した幼馴染の姿に戸惑うよりも先に心配になって駆け寄った。

一夏が抱き起こそうとすると、だだっ子宜しく箒はポカポカと彼の胸を叩く。


「せっかく、せっかく一夏にまた会えたと思ったのにっ、ずっと無視してっ、他の人と楽しそうにして、私だってもっと一夏と話したかったのに!」

「え、えと、とりあえずゴメン!本当にゴメン!」

「あられもない姿晒してっ、胸まで揉まれてしまって――――やだ、もうやだぁっ」


とどのつまり、箒も色々と限界だったのである。

6年間会えなかった幼馴染―そして初恋の相手でもある―とようやく再会できたと思ったら、本人は男友達に夢中(語弊と偏見あり)だし他に美少女とも仲良くなってるし(※売却済み)自分は授業が終わるまで無視されっぱなしだし。

そこへ来て裸を見られた上にコンプレックスである牛の様な乳をここぞとばかりに揉まれた事への羞恥心が限界突破した結果、理性の箍がすっ飛んでしまったのである。

これがもしただシャワー直後のセミヌードを見られただけで済んだならまだ怒りが勝って一夏の予想通り追撃に移っただろうが、異性間に関する価値観が若干良く言えば古風、悪く言えば古臭い箒には過激且つ刺激的過ぎる体験だった訳で。

・・・・・・心の底では自覚していないものの、一夏にそうされた事へのヨロコビ(二重の意味で)もあり、やっぱりショックもあり。


「ばか、ばかぁ、ばかばかばかばか、いちかのばかぁっ!!」

「ゴメン、悪かったから、お願いだからもう泣き止んでくれって!」

「・・・・・・ほんとうに、さびしかったんだからな?」

「う゛っ」


上目遣い+濡れた瞳+おっぱい丸見えのコンボは思春期の少年には強烈過ぎ、ツンと奥の方が熱くなった鼻を押さえながら一夏は顔を逸らした。

―――――そしてようやく箒も自分の今の状態を思い出す。


「きゃああっ!」


コイツもこんな女の子っぽい悲鳴上げるんだないやうんすっごい美少女なのは見りゃ分かるけど。そう心の端で考えつつ決して顔はそっぽを向いたまま。

・・・・・・だが堪え切れず、横目で箒のあられもない姿を何度もチラ見してしまう辺り、極めて唐変木であっても一夏は立派に健全な青少年なのである。

それに箒が気付かない筈もなく、涙目で睨みつけながら、両手で胸を抱えて隠そうとしながらも逆に強調されている事に気付かないまま。




「・・・・・・・・・一夏のえっち」

「ぐはぁっ!!?」


言葉の刃が一夏の罪悪感を一刀両断した。
























「んっ?」

「どうかしたのか・・・・・・?」

「何だろう、誰かに僕の事真似された様な気がされたんだけど」

「・・・・・・よく分からんが、シャルロットはシャルロットなんだから、気にしなくていいと思うぞ」

「そうだね、気にし過ぎかなぁ――――ふわっ、ちょ、ダメだよミシェル、この後一夏が来るのにっ」

「スマン・・・・・・だが我慢出来ん」

「も、もうっ、いっつもそれ何だから、はあぁん!ミシェルの、えっちぃ・・・・・・!」




しばらくの間、シャワールームからは水の音以外にも嬌声が聞こえ続けたとさ。





[27133] 1-3:決闘対策期間
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/25 09:44

「い、一夏、醤油を取ってくれないか?」

「あ、ああ・・・・・・ほら」

「ありがとう――――あっ」

「あっ」


2人揃ってなるべく互いと目を合わせないようにしておきながら、醤油の小瓶を手渡す際に指先が触れあっただけでそんな声を漏らして自分の、そして相手の指先に視線を向けてしまう。

顔を上げると一夏には箒の、箒には一夏の顔が目に入る。そのまま数瞬見つめ合ったかと思えばすぐさま逸らす。お互い頬を朱に染め合いながら。

そんな2人の様子をテーブルの反対側で眺めているのは秘密を抱えたバカップル、じゃなくて夫婦。どちらも2人の初々過ぎる有り様に呆れたご様子である。

いやだって、昨日2人して対策会議の為にミシェルとシャルロットの部屋を訪れた時からこんな感じなのだ。それからずっとこんなもんだから少しぐらい言ってやりたくもなる。


「・・・・・・ゆうべは おたのしみでしたね」

「「ぶほぉっ!?」」


噴き出すタイミングもそっくりな辺り流石幼馴染同士と言うべきか。幸いにも食事の最中のミシェル達目がけて唾を発射してこなかった。


「ななな何言ってんだよミシェル!べ、別に昨日は何もなかったっての!」

「そ、そうだぞ!特に一夏に私のはしたない姿を見られてあまつさえ胸を揉みしだかれて感じてしまったりなんて――――」

「箒ィィィッ!?」


押し倒しかねない勢いで一夏が箒の口を塞ぐ。幸運な事に、テンパった箒の告白は食堂の喧騒に上手い事掻き消され、目の前の夫婦以外には伝わらなかったらしい。

しかし、それだけでも十分恥ずかしくて居た堪れない。自分が口走ってしまった内容を理解した箒の顔色など、定食の野菜サラダのつけ合せのプチトマトより真っ赤だった。

慌てふためく一夏を余所に、聞かされた方のミシェルとシャルロットは胡散臭い位清々しい笑みを浮かべ、


「こういう時、日本じゃ赤飯を炊くんだよね?」

「・・・・・・ほんとうに さくばんは おたのしみでしたね」

「言うと思ったよチクショウ!つかミシェルも天丼しなくていいから!箒も何か言ってや――――いやいい、また自爆しそうだから」

「なっ、それは無礼というものだぞ一夏!」

「はいはい、夫婦喧嘩は犬も食べないし食事中なんだから静かにしよ?」

「「ぐうぅ・・・」」


何故か知らないが、シャルロットの笑顔にはどうも逆らい辛い。笑みはただの見惚れそうな位可愛い笑みなんだけれども、孕んでるオーラが大らかで(洒落に非ず)負の感情が逃げてしまうのだ。

・・・・・・これが既に伴侶を得た者の余裕ってヤツなんだろうか。それにもし反論したら反論したで嫁命な旦那が怖いし。

自分達に不利な空気を変えるべく別の話題を探した一夏は、ささっと素早く魚の切り身から小骨を取り除いていくミシェルの手元に着目する。

握ったら赤ん坊の頭より大きそうなサイズの手なだけにきちんとしたフォームで持たれた箸がまるでマッチ棒に思えてしまうが、その手つきはかなり器用だった。

ちなみにミシェルが食べているのはサバ味噌定食。濃いめの味付けがご飯に合い、既にミシェルはどんぶり1杯分平らげおかわりまでしている。


「ミシェルって箸使うの上手いんだな。言っちゃなんだけど意外だよ」

「・・・・・・まあ、昔取った杵柄というヤツだ」


30年近く日本人として生きて死ぬ寸前まで使ってきたお陰で、箸の扱い方は魂レベルまで刻まれているのだった。

それにフランスにだって日本食を出すレストランもあるし、向こうに居た間はそこに通ってリハビリを行ってきたと言っても過言ではない。

・・・・・・営業妨害扱いされなかったのだろうか?


「いいなあミシェル。僕ももっと箸を上手く扱えたらいいんだけど・・・・・・」

「あー、子供の時から慣れなきゃ結構難しいよな箸の使い方って。大人になってもまだ上手く持てない人とかも居るし」


海鮮パスタをつつくシャルロットが手慣れた様子で箸を扱うミシェルを羨ましそうに見つめている。

そしておもむろにこんな事を聞いた。


「ねえミシェル、それってどんな味なの?」

「・・・・・・ん」


ミシェルは至って無造作にほぐした身を箸で摘まむとすぐ隣のシャルロットに向け差し出し。


「はむっ」


シャルロットもまた至って当たり前のように箸の先端ごと身を口に含んだ。

何処からどう見てもまごう事無き間接キスである。


「うん、美味し。今度僕も頼んでみよっかな。でもお箸がなあ」

「・・・・・・その時は俺が食べさせてやるさ」

「えへへ、それじゃあ僕も換わりばんこでミシェルに食べさせてあげるね」


自分達の食事が一気に砂糖まみれの物を食べているような錯覚に襲われた一夏と箒はまたも同時に醤油の小瓶に手を伸ばし――――以下略。

結局2人共お茶派でありながら、食後の一杯はブラックコーヒーを頼んだそうな。














飛んで放課後。箒に誘われた一夏は剣道場を訪れていた。


「一夏はあの頃と変わらないな・・・・・・いや、昔以上に強くなっていて、私は嬉しいぞ」

「一応鍛えてますから」


手合わせを開始してから10分ほど経って一旦中断した際の2人の第一声がそれである。

面具を外して纏めた髪をタオルで覆った箒の激しい息遣いが実戦形式の手合わせがどれだけ激しかったのかを示している。

たかが10分。されど10分。だがしかし、一夏の方はケロッとした様子で少しも息を乱した様子を見せていない。

面・銅・籠手、各所に竹刀で打ち込まれた回数は箒の方が圧倒的に多かったのに対し、一夏は箒から有効打を殆どもらっていない。


「少しは腕に自信があったのだがな。まさかここまで一夏が腕を上げているとは思いもよらなかったぞ」

「そりゃ春夏冬と学校が長い休みになる度に武者修行の旅に出たりもしてたしな。俺としてはむしろこっちに来るまでに腕が鈍ってないか気になってたから、箒が誘ってくれて丁度よかったよ」

「武者修業とは具体的にはどのような事をしたんだ?」

「千冬姉の紹介で北海道の山奥にある道場でマンツーマンの特訓。前に行った時なんかはそこの兄弟子っていう人もそこに泊まってて、その人からも色々鍛えてもらったりしたんだ」

「ほう、もしやその道場主は稲葉という名前だったのではないか?」

「箒も知ってるのか」

「稲葉先生とは私も父の道場の関係で1度だけだが顔を合わせた事もある。古流剣術でも有数の使い手と伺っている方だ」


ちなみのその某兄弟子は仕込杖を持った盲目の剣鬼と呼ばれていたり予知能力を持った少女も一緒だったりしたのだが今は関係ない。


「それにさ、一応俺も去年の剣道の全国大会で優勝したんだぜ?同じ会場でやってたんだけと、気付かなかったのか?」

「そ、そうだったのか!?」


今明かされる驚愕の真実。実際の所は会場は同じ敷地でも女子と男子別々の建物に分かれて行われていたのが一夏の存在に気付かなかった原因なのだが、会おうと思えばあえていたのにその機を逃していた事へのショックで箒は膝を突く。


「し、知らなかった・・・!せっかく一夏の方は気付いてくれていたのにっ・・・・・・!」

「まあ俺も表彰式とかでごたごたして箒に会いに行けなかったのも悪いんだけどさ」

「いや、一夏は悪くないぞ!私だってあの頃からもずっと一夏に会いたかった―――――あっ」


そこまで言ってから周囲のギャラリーの注目が集まっているのを感じ取る。

案の定、一連のやり取りを見物していた少女達は良い事聞いたとばかりにヒソヒソヒソヒソと小声で雑談中。


「ねえねえ今の聞いた?『ずっと会いたかった』ですって!やっぱり篠ノ之さんも一夏君狙いなのね!」

「いいなあ、篠ノ之さん織斑君と同じ部屋なんでしょ?アピールし放題じゃん!」

「幼馴染だったら私達よりもよっぽど織斑君の事を知ってるんだろうなぁ、羨ましい」


声は抑えられてても端々はバッチリ聞こえてきたので、箒の頭の血の上りっぷりはまさに有頂天。


「も、もう1度だ一夏!」


恥ずかしさを振り払うかのように勢い良く立ち上がろうとした箒だが、その際自分の袴の裾をふんづけていた事に気付かなかった。

よって唐突にバランスを崩した箒は剣道場の床へととんぼ帰り。前のめりにズッコけ、周囲からは笑いが巻き起こった。


「ちょ、箒大丈夫か!?」

「う、うううううううううううう~~~~~~~~~~・・・・・・」


想い人と再会してからこの方、全くいい所を見せれてない気がした箒だった。

・・・・・・残念ながら、彼女の考えは間違っていない。











「はぁ~~~~~っつ・・・・・・」


剣道場での鍛錬を終えてからかれこれ19回目の溜息である。

あれからも一騎討ちを何度も行ったが結果は箒の惜敗。しかも箒は全力を出し切ったつもりだが一夏の方はちょっと汗をかかせた程度。防具の内側が汗だく状態の箒とは対照的だった。


「それにしても、本当に強くなってたな、一夏は」


元より才能はあったのだ。分かれ離れになる前、箒の実家の道場に通っていた頃から一夏は箒に勝ち越し続けていた。それが今も変わっていない、それだけの事。

それでも、今も彼が剣道を続けていた事に『まだ自分は彼と繋がり続けているんだ』と感じてしまう半面、彼の圧倒的な強さにその背中が遠のいてしまった気分にも陥る。

ただ単に鬱憤晴らしのつもりで剣の鍛錬を続けてきた自分と、遠く離れた師に仰いでまで剣を極めるべく足掻き続けた一夏。

その差は、大きい。


「・・・・・・嬉しかったなぁ」


ふとそう漏れる。

寮での大騒ぎな邂逅の後、一応それなりに言葉を交わした結果、一夏は一目見た時から箒に気付いてくれていたらしい。

率直に嬉しかった。最後に別れた時から髪型を変えなかったかいがあるってもんだが、顔立ちや身体つきもあの頃からかなり変わっていただろうに。

そう、たとえば――――――


「うっ・・・・・・」


たぷりと、姿見に映る自分の肢体の中でも特徴的な胸の膨らみを少し持ち上げてみる。

箒からしてみれば分不相応に大きな子の膨らみは悩みの種以外の何物でもなく、重いわ注目の的だわ剣を振るのに邪魔だわと悪い事尽くめだった。




―――――これまでは。




「一夏・・・・・・一夏も、こういうのは大きい方が好きなのだろうか・・・・・・?」


あられもない姿を晒し出してしまった際、一夏の目が度々この胸に引き寄せられたのが印象に残っている。

つまり一夏もこの胸を気にしているのだろうか?そりゃあ一夏も男なのだから、その、そそそそういう事にも興味があるに違いないだろうし。

もしそうなのだとしたら、私はどうすればいいのだろう?一夏と何をどうしたいのだろう?

脳裏を過ぎるのは身近な男女交際の一例―――――一夏の友人の少年(?)とその恋人、というか実質奥さん。


「いいなあ・・・・・・・私も」


あんな風に、もっと一夏と触れ合いたい。

もっと素直に、一夏にありのままの感情をぶつけたい。




―――――あの2人みたいに、自分も一夏と結ばれたい。




その為ならば、きっと自分は・・・・・・


「嫌ではなかったし、な」




箒はもう1度己の膨らみをやわやわと触りながら、そう呟く。

その時の箒の表情は、まさしく恋する乙女以外の何物でもなかった














シャルロットの操作によりパソコンの画面に表示されたのは大まかなISの設計図。次いでその完成系の画像が表示される。


「これがオルコットさんが持つ専用IS、<ブルー・ティアーズ>だよ。イギリス製の第3世代ISで主に中遠距離での戦闘を軸に設計された射撃型ISさ」

「・・・・・・<ブルー・ティアーズ>の特徴は遠隔操作型の6機のビットだ。それぞれが操縦者の意思に従って自在に誘導可能な代物だが、まだ試作段階な代物で制御プログラムの問題から操縦者にその操作を一任しなければいけない点が現在の課題と言われている」

「つまりビットを操作している間は操作に気を取られて操縦者が無防備になりやすいって事か?」

「そういう事だね」


戦う前に相手の戦い方と弱点が分かるのはとてもありがたい。一夏は男としての意地はあっても騎士になったつもりは更々無いので、予め敵の弱点を探る事に躊躇いはなかった。

盲目の兄弟子からも『兵法は何でも利用して当然』と言ってたし。

一夏共々シャルロットの後ろから画面を覗き込んでいた箒が問うてきた。


「しかし、こういった新型機の情報という物は厳重に守られて外部に持ち出すのは禁止されている筈だが、よく入手できたものだな」

「シャルロットは『実家にもこの機体のデータがある』とか言ってなかったっけ?そもそもさ、何でフランスがイギリスの試作型ISの詳しい情報持ってんだ?」

「うーん、そこら辺はちょっと複雑な事情があってね」

「・・・・・・要は取引したのさ。『世界初の男性IS操縦者』の使用データと引き換えに、フランスでの開発が難航していた第3世代機の開発データをな」

「だからミシェルのISは実家のデュノア社が開発した<ラファール・リヴァイヴ>がベースで、フランス主導で開発された物であっても、EU各国で共同開発したISって事になってるんだよ」


セシリアの『イギリスやドイツに泣きついた』発言はそういった事情を揶揄った言葉であった。

言われた方のミシェルやシャルロットは別段気にしちゃいない。だって事実だし、似たような事例は幾らでも転がってるし。

その上で、オリジナルよりも技術を流用したこっちの方が完成度が高いと証明してみせれば良いだけの話だ。


「ともかくオルコットさんの<ブルー・ティアーズ>は1対1でやるとなるとだとかなり厳しい戦いになると思うよ。ビットからの攻撃が四方から襲われる事になるから、周囲に気を配り続ける事が重要じゃないかな」

「逆に言えばビットさえ捌ければどうにかできる可能性は高い、って事だよな。接近戦に持ち込めれば何とかできそうな気がするけど、やっぱ近づかれた時の備えもあるよなぁ・・・・・・」

「・・・・・・恐らく、な。間違いなく何らかの近接戦闘用の得物を呑んでる可能性があるだろう」

「一夏には専用機が送られる事になっているが、その前に<打鉄>でも使ってISに慣れておいた方がよかろう」


箒の提案も尤もだ。生身でなら一夏が強いかもしれないがISの搭乗時間はセシリアの方が圧倒的に積んでいる。

クラスメイトから聞いた所によると最低でも300時間。間違って受けてしまった試験の際に触れただけの一夏とは比べ物にならない。

そもそもISは地を足で蹴って動く代物ではないのだから、その機動の特異性をもっと身体に叩き込んでおくべきだろう。


「で、だな。そ、その、い、一夏がどうしてもと言うのであれば私がだな――――」

「なあミシェル、俺にISでの戦い方を教えてくれ!頼む!この通り!!」


一夏が頭を下げるのと箒が膝から崩れ落ちたのは同時だった。

そりゃあすぐ隣に決闘相手と同じ代表候補生で尚且つ頼もしい友人が居るのであればそっちを選ぶだろう。誰だってそーする。俺だってそーする。


「ん?具合でも悪いのか箒」

「何でもない、何でもないんだ・・・・・・」

「お、落ち込まないで箒さん!またチャンスはあるから、ね!?」

「・・・・・・友人に頼られるぐらい信頼されているのを喜ぶべきか、異性からのアピールに気付けない友人に呆れるべきか、どっちが正しいんだろうな」


遠い目を浮かべたミシェルの疑問に一夏は心底不思議そうに首を捻ってみせた。

その時、パソコンから少し離れたテーブルの上に置かれてあったホルスターの存在に気付く。授業時間内でも身に着けていたアレだ。


「ミシェル、『アレ』って」

「・・・・・・ん?ああ、銃か。触ってみるか?ちょっと待ってくれ」

「――――いや、いい。扱い方なら勉強したから」


銃がホルスターからすっぽ抜けない為の留め具を外し、銀色に鈍く光るそれを抜く。


「パラ・オーディナンスのP14カスタム、だったよな」


トリガーガードの根元にあるマガジンキャッチを押して.45ACP弾が装填されたマガジンを抜く。それからスライドを引いて薬室に装填されていた分の弾丸も抜き、スライドストップを操作。

スライドが元の位置に戻り、更に安全装置を解除してから、一夏は1回だけ引き金を引いた。ガチリ、と撃鉄が落ちる確かな手応え。

薬室に弾丸を送り込んだ状態で安全装置をかける事を『コック&ロック』という。実戦的なその技術はP14の原型であるコルト・ガバメントの大きな利点の1つだ。

ミシェルのP14には銃口の先に反動低下用のコンペンセイターが追加されたカスタムモデルだ。一夏の手には大口径・多弾装仕様のP14のグリップがかなり太く思える。

手の中の銃から視線を移すと、箒が驚いた表情で一夏を見つめていた。


「一体何処で扱い方を覚えたんだ?」

「最初はミシェルから教えてもらったんだけど、日本に戻ってからも武器の事とか調べる一環で覚えたんだよ。どんな構造でどんな風に扱う物なのか知ってれば、対処の仕方だって自然と分かるようになるしさ」


それはまるで当たり前のように銃を持った相手との敵対も想定しているかのような物言いだった。

手慣れたとは言えないが、1つ1つ何がどうなっているのかどうすればいいのか完全に理解してる手つきでさっきとは逆の順序で拳銃に弾を装填し直し、ホルスターに戻す。
















「――――――もう2度と、自分じゃ何も出来ないまま守られるのはまっぴら御免だ」




そう呟いた一夏の目は、箒が今まで見た事がない程に固く鋭い決意の光が宿っていた。









[27133] 1-4:サムライハート
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/04/28 23:58


1日そのものは長く感じても日が経つのはとても短く感じるものだ。

セシリア・オルコットとの決闘当日。一夏の姿は既にミシェルや箒ら仲間達と共にピットに在った。というか、予定の時間はとっくに過ぎていたりする。

一夏の専用機が当日になってもまだ運ばれてこなかったせいなのだが、ようやく山田先生と千冬姉が『それ』を持ってきてくれた。これがなければ話にならない。

そう、一夏の専用IS。その名は<白式>。

名が体を表すを地で往くかの如く、その機体色は白一色。眩し過ぎてかなり派手に思えてきてしまうぐらいだ。




搭載されている武装は―――――1振りの近接ブレードのみ。




清々しいまでにセシリアの<ブルー・ティアーズ>と対照的過ぎる機体であった。拡張領域も何故か一杯だから後付装備も追加できない。何かの嫌がらせか一体、と内心ごちる。

口に出したら千冬姉に『贅沢言うな』と絶対引っ叩かれただろう。


「・・・・・・散々待たされてフォーマットやフッティングもする時間も与えられない上にこのISの偏りっぷり。最早悪意的な何かを感じるのは俺だけか俺だけなのか」


スパァン!


あ、ミシェルが代弁してくれた。でもってやっぱり千冬姉に引っ叩かれた。

それにしても殆ど痛がる様子もないミシェルの頭はどんな素材で出来てるんだろうか。自分にも少し分けて欲しい。


「納入が遅れたのは認めるが今回はわざわざ別のクラスがアリーナを授業で使う予定だったにもかかわらず話を聞きつけた向こうの好意でねじ込ませてもらったんだ。これ以上アリーナを占領したら厚かまし過ぎるだろうが。この後もすぐに授業で使われる予定だというのに」


そうこうしている間にカタパルトへ。背中を向けていながら、ハイパーセンサーの恩恵でミシェルやシャルロット、箒達が不安と期待の入り混じった表情を浮かべているのが『見える』。ミシェルのは殆どしかめっ面同然だったけれど。ゴメン、やっぱりちょっと怖いその顔。

深く息を吸ってから、補足細く息を吐き出す。精神統一。身体はホットに思考はクールに。機体から流れ込んでくる<ブルー・ティアーズ>の情報。よく分かってるよ、それぐらい。


「一夏!・・・・・・勝ってこい!」

「箒―――ああ、当ったり前だ!」


振り向かず、左腕を横に伸ばして握り拳に親指を立てる。

頼もしい幼馴染の返事に箒は僅かに笑みを浮かべてから、少しどもり気味に言葉を続けた。


「一夏がか、勝ってくれたのならばその時はほ、褒美をやろう!楽しみにしておけ!」

「え?いや別にそこまでしてくれなくたって――――」

「さっさと行け!何時まで相手と観客を待たせるつもりだ!」

「うおっ!?分かったよ千冬姉!んじゃちょっと行ってくるわ皆!」

「頑張ってねー、一夏ー!」

「・・・・・・期待してる」


励ましの言葉を背にいざ決闘の場へ。空を飛ぶ、という感覚はこの数日間<打鉄>での特訓でそれなりに慣れたつもりだったが、心持ち<白式>の方が勢いが強い気がする。

初めて身に纏ったくせに、<打鉄>の時よりもよっぽどフィット感が強く身体にしっくりくる感触が少し気持ち悪い。

そうして始まる前から勝ち誇った笑みのセシリアと距離を置いて相対した。


「あら、逃げずに来ましたのね?」


試合開始の鐘はもう鳴っていた。セシリアは傲慢そうに向く出した視線で見下ろすだけ。一夏は口を閉じて『敵』から目を離さないだけ。

互いの得物は既に握られている。セシリアの左手には2m超の特殊レーザーライフル<スターライトmkⅢ>。一夏の右手には大型ブレード。


「最後のチャンスをあげますわ。わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今日ここで謝るというのなら、許してあげなくもないですわ」

「・・・・・・」


自信満々、確定事項といわんばかりの自分の勝利を予言するセシリアの宣告に対し、一夏の答えは無言。

―――――いや、目を細め、しっかりとセシリアを見据えながら彼も口を開いた。


「言いたい事はそれだけか?」

「おや、そんな返事で良いのかしら?折角チャンスを与えてあげると仰っていますのよわたくしは」

「・・・・・・下らねぇ、な」


そう吐き捨てる。セシリアの目の色が変わる。


「惨めな姿結構!これまで散々千冬姉に叩きのめされたり稲葉先生に扱かれたり土方さんに手も足も出ないままやられてきたんだ、ボロボロにされんのは慣れてんだよ」

「そんなのちっとも自慢になりませんわよ」

「だろうな。でも人間、そこまでボロボロにされたって―――――死なない限り足掻き続ける事が出来る。足掻き続ければ、万に1つの勝機を掴み取れるかもしれない。だから決めたんだ、俺は死ぬまで足掻き続けてやるって」


脳裏に浮かぶのは片足を失い顔を撃たれても自分を助けようと銃を撃ち続けた友人の姿。

もう2度とそんな姿は見たくなかった。けれど、そんな姿に憧れた。




そして少年(おとこ)が不敵に笑う。








「なのに足掻く前から勝手に勝ち負け決めてると――――――足元掬われるぜ?セシリア・オルコット」








「っ!!結構、それでは精々無様に足掻いて踊ってみせなさい。わたくし、セシリア・オルコットと<ブルー・ティアーズ>の奏でるワルツで!」


長大なライフルが一夏を照準。長刀を構え一直線に突貫。




一騎討ち、開始。














「・・・何見惚れて間抜け面晒しているんだ、篠ノ之」

「――――はっ!?」


千冬の一言で我に帰る。一夏のあの初めて見せる男らしさに満ち溢れた笑みは箒の乙女心直撃だったのだ。

最初はどうぶつかり合っていたのか記憶が定かではないが、画面の中で一夏とセシリアが付かず離れず距離を開けたままめまぐるしくアリーナ中を動き回っている。

距離を詰めなければ射撃武器を持たない一夏はジリ貧の筈だが、よくよく見てみると一夏の表情は引き締まってはいるが慌てた様はなく、逆に距離を置いて一方的にレーザーライフルやビットで射撃を加えているセシリアの方が焦りの感情が色濃い。


「凄いね一夏。ずっと撃たれっぱなしなのに全然被弾してないや」

「・・・・・・ハイパーセンサーで一応全方向からの動きを察知できるとはいえ、よくもまああそこまで避け続けれるものだ」

「完全にオルコットさんが射撃するタイミングを読み切っていますね。凄い、他の代表候補生でもあそこまで出来ませんよ」


どんな機動を行おうとも視線そのものはセシリアにピッタリと固定されて動かない。そうでありながら前後左右上下を飛び回るビットからの射撃を避け続け、セシリアがレーザーライフルでの精密射撃に斬り合えると途端に距離を詰め、接近戦を試みる。

セシリアもさる者、放たれるレーザーは回避機動を織り交ぜながら接近する一夏の未来位置を正確に捉えてはいた。

だが当たらない。

光弾が放たれる度にセシリアが狙った未来位置へと悉く一夏が飛び込まない為だ。紙一重で見切って急角度で切り返しては足を止めず、シールドエネルギーも削られる事無くセシリアを射程内に捉える。


『はあっ!』

『甘いですわ!』


ブレードを大きく振りかぶる一夏。その構えが大振り過ぎてがら空きになった胴体にセシリアは腰だめに<スターライトmkⅢ>の銃口を向ける。この距離なら回避は出来まい。

50cmもない距離で発射―――――だが外れる。

構えはフェイク。刀剣を最上段に振りかぶったままぐるん!と身を捩って銃口の延長線上から外れるとセシリアの右側へと半円を描いて回り込む。脇腹を通り過ぎたレーザーが余りに近過ぎてシールドバリアーが作動したが消耗は微々たるもの。

逆に背後に回り込まれたセシリアの背中が一夏に斬りつけられる。一気に減少する数字。試合開始時と比べ、セシリアのシールドエネルギーは半分近く減っていた。


『くっ!このっ、<インターセプター>!』


顔を焦燥に歪ませたセシリアの左手に顕在するショートブレード。それを危なげなく刀身で受け止めてから、一夏はお返しとばかりに回し蹴りを放った。

肩部装甲に命中したセシリアは短い悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。一夏は大型刀を中段に構え直し、再び距離が空いたセシリアに視線を固定した。


「凄いですね織斑君、まさかあそこまでオルコットさんを追い詰めるなんて」

「・・・・・・あの馬鹿者は、ISの搭乗経験は少なくとも、対人戦の経験だけは豊富だからな」


山田先生の感嘆に、呆れ混じりの千冬の言葉が続いた。


「それ、どういう事ですか?」

「身内の恥を晒すようでアレなのだが・・・・・・中学の頃の一夏はああ見えて荒れていてな。いや、別に素行不良だったとかそういう訳ではない。断じてない。しかし、事ある毎に暴力沙汰に発展してしまう事が多々あってな」

「そ、そうだったのですか?」


箒としては初耳である。ミシェルやシャルロットも一夏のそんな姿を想像できなくて首を捻っていた。


「いや、揉め事の原因そのものは殆どは向こうに非がある場合ばっかりだったんだ。いじめを止めに入ったり他校の不良に絡まれたりする同じ学校の生徒を助けに入ったり、な」

「へ~っ、織斑君って正義感が強いんですね。やっぱり、ご姉弟なだけある気がします」

「そこまではまあいい。だがああ見えて一夏も喧嘩っ早い所があるものだから、向こうが退かなかった場合待っているのは決まって相手が一夏に病院送りにされるという結果だ。しかも一夏1人に複数が倒されるという形でな」


山田先生の表情が凍りつく。


「それにだ、一夏自身も意識的にか無意識的にか狙ってそっちに持っていっている節があってな。聞いた事があるだろう?『100回の訓練よりも1回の実戦』と。アイツはそうやって鍛練だけじゃ飽き足らず『実地』で経験を積んでいっていたのだ。対人戦の実戦経験を」


頭が痛そうに額に手を当てる千冬。箒も似たような様子だ。ちなみに一夏をそう煽った元凶は、自身も刀1本で戦場巡ってきた某兄弟子だったリする。

教師や警察から呼び出しを受けてあの3年間に一体何度足を運んだ事やら。当時の弟の友人曰く、中3になる頃には校内最強の称号を与えられていたそうだ。本人にその自覚は全く無かったらしいけど。

あと一夏に助けられた女子生徒で校内にファンクラブが設立されてたとかいないとか。果たして何人の女子のハートを射止めていたのやら、千冬は考えたくもない。

・・・・・・だって弟は絶対そんな少女達の存在にすら気付いていなかっただろうから。その少女達が不憫過ぎる。


「極めつけがクラスメイトを犯罪に巻き込もうとした不良グループの溜まり場に木刀1本で乗り込んで数十人を叩きのめすという大馬鹿っぷりだ。まったく、あの時は揉み消すのに苦労したぞ」


最後の方は聞かなかった事にしておこう。そう千冬以外の面々の内心が一致した瞬間だった。

つーか一夏さん、パネェ。姉も姉だが弟も弟である。


「ともかくだ。そうしてあの馬鹿者は対人戦での経験を積んでいった。相手が実力者ばかりでなくとも間合いの取り方、有効な立ち回りの仕方、複数方向からの攻撃の対処法は十分なほど積んでいる。IS戦も結局は人と人のぶつかり合いだ。そういった経験は幾らでも応用できる」


あとはそれが何処までセシリア相手に通用するかだが、結果はこの戦いを見ていれば嫌でも分かる。


「あとはあの馬鹿者が調子に乗って浮かれなければ、まあ及第点はくれてやろう。オルコットには悪いがな」












―――――重要なのは『仕掛け』と『動き』と『間』だ。




敵の虚を突くにはそれらを外すのが基本であり、そのどれかを読まれれば熟練者には通用しない――――それが兄弟子の教えの1つだ。

とにかくあの人は強かった。目が見えない事なんてハンデにもならない。それどころか、視力を失った代わりにISのハイパーセンサーでも身体に埋め込んだのかといいたくなるぐらい気配に敏感で、一夏は一太刀でも当てれた事が1度もない。それぐらい強い。

人間というのは事を起こす時多かれ少なかれ緊張する。それを事細かく悟れさえすればかなりの確率で行動を予想できる。これもあの人の教え。

セシリア・オルコットの技量は確かに凄いと一夏も思う。射撃は正確。位置取りも上手いしビットの動きも鋭く、本人が自慢するように代表候補生に相応しい実力はあると一夏は評価する。




けど、それだけじゃ足りない。




些細な挙動1つ見逃すな。目線、呼吸、表情、気配、全てが次の彼女の行動を教えてくれる。

死角―ISの全方位視界接続が完璧に作動している場合その概念は形骸化しているが―人間の視覚そのものからの範囲外、背後や真下、真上などからの情報は脳で整理するのに僅かなタイムラグが生じる。それをセシリアは突き、そこにビットを配置する事で一夏の反応を鈍らせようと試みていた。

故に読みやすい。幾つかパターンは変われど、隙さえ見せれば逆にその死角にビットの位置を誘導できるのだから回避も容易い。射撃のタイミングも、セシリアの僅かな反応を見逃さなければビットからであっても容易に読み取れた。

複数方向からの同時攻撃も、これまでの1対多での戦いの経験を応用すれば良い。上下方向からの攻撃には馴染みがなかったから最初は若干戸惑ったが今はもう慣れた。







・・・・・・ところで、セシリアからしてみると現在進行中の現実が余りにも自分の予想から掛け離れていて、溜まった物ではなかった。

よりにもよって自分が散々侮辱しこき下ろした男にここまで追い詰められるなんて!これでは道化以外の何物でもない。何と無様な。

しかしその実力は認めざるを得なかった。あの身のこなしあの戦いぶり、ISの扱い方そのものは素人同然だが、戦闘そのものに関しては明らかに離れしている。日頃あんな間抜け面を浮かべていた癖に、これがいわゆる『能ある鷹は爪を隠す』というものなのか。

鋭く、落ち着き払い、ずっと自分を射抜いて離れない、強い意思に満ちたあの瞳。まるで吸い込まれそうで、セシリアも一夏の顔から眼を離せない。

って何見惚れていますのわたくしったら!?顔に血の気が集まるのを自覚してブンブン首を振る。

そんな事をしていたら「隙有りっ!」遂にビットが1機ブレードに斬り飛ばされて破壊されてしまった。更にもう1機も。何という間抜けなミス。


「くっ、中々やりますわね!27分もわたくしと<ブルー・ティアーズ>から耐え切るなんて!」

「オイオイ何言ってんだ。よく耐えてんのはむしろそっちの方じゃないのかよ」

「ふん、生意気ですこと!」


だが目の前の男の言った事の方が正しい。彼の戦い方は主にヒット&アウェイ。もし接近されたまま食らいつかれて一気に斬りこまれ続けたのなら、もっと削られていたのは間違いない。

―――何故彼は今までそうしてこなかったのか。確実に近接戦のみなら彼の方が技量が上だ。そうでありながら何故攻撃の度一々距離を取って自身の有利な状況に持ち込まない?




まるで自分の動きを確かめているかのような――――――












一夏は<白式>のパラメータをチェックした。フォーマット・フィッティング共に99.6%完了。残り所要時間、あと15秒。

油断はしない。侮りもしない。必要以上に恐れない。今の彼女は手負いの狼。油断したら噛まれるぞ。

昔から千冬姉から言われ続けてきた。『お前は毎回肝心な所で浮かれてしまってミスをする』と。

兄弟子からはこう教えられた。『実戦で敵を完全に仕留める前から勝手に勝利を確信して気を抜けば、その代償は自分の命だ』と。

ああその通りだよ2人共。まだ戦いは終わってない。だから油断するな。気を抜くな。逆転負けなんてカッコ悪いにもほどがある。

・・・・・・だけど、これぐらいカッコつけたっていいよな?


「――――感謝するぜ、セシリア・オルコット」

「な、何をいきなりおっしゃいますの!?」


これは嘘偽りない一夏の本心であり、確信であり、決意でもある。


「お前とこうして戦って、1つ分かった事がある」

『フォーマット・フィッティング終了』


<白式>が爆発的に発光した。その姿が光に消えたのは僅か数瞬。だが光が止むとその姿は大きく変わっていた。

優雅で美しい純白の鎧。一夏の感覚がよりクリアに広がっていく。世界の事象全てをその身に感じ取れそうな全能感。

フォーマットとフィッティングが完了する前から初めて操る筈なのにしっくりきていた<白式>だったが、こうして本来の姿を得てからの一体感は想像以上だ。非常によく馴染む。最初からかなり反応が良い機体とは思っていたが、今の状態はそれを更に上回るに違いない。


「ま、まさか一次移行!?あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?」


セシリアにとってはまさしく屈辱の極み。つまり自分は手加減されていたも同然という事だ。

そうでありながら、自分はここまで追い詰められていたというのか。


「もう1度言うぜ、セシリア・オルコット。俺はお前に感謝してる」


大型ブレード――――正式名称<雪片弐型>の具合を確かめるように目の前の空間を切り払う。




周りの人達を守りたいと思った。

自分にはそれだけの力が足りなかった。

もっと大切な人達を守れるだけの力が欲しかった。

そしてISという新しい力を手にして、分かった事がある。









「―――――どうやら俺は、まだまだ強くなれるらしい」









<雪片弐型>を低く構え直し、腰を落として身構える。

そして最初に宣戦布告した時の様に、一夏はまた男臭く笑った。


「それじゃあそろそろ決めるとしようぜ」

「・・・っ!ふざけるんじゃありませんわぁ!!」


2機まで減ったビットが舞う。一瞬でトップスピードに移行した一夏は最小限の起動で避ける。避け続ける。1機を真ん中から両断。もう1機を装甲に包まれた左腕を直接叩きつけ遠く弾き飛ばす。

見る見るうちに縮む距離。その時不意にセシリアが口元に笑みを浮かべるのを一夏はしっかりと感じ取った。


「かかりましたわね!」


腰部のパーツが展開。ピタリと向けられた方向を一夏は真っ直ぐ覗き込む形になる。


「<ブルー・ティアーズ>は6機ありましてよ!」


ミサイル発射。高速で飛来するミサイルは一夏が反転して回避機動を取ろうとブレーキをかけようものなら確実に直撃するタイミングだった。横方向へ回避しようにも一夏の身体はスピードが乗り過ぎている。

それを理解していても一夏は決して絶望しない。

何故ならセシリアのその行動は織り込み済みだったのだから。


「それも知ってるんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


ミシェル達の情報提供でミサイル搭載型ビットの存在も発覚していた。ここまで使おうとしなかったという事は、彼女がそれを使う機会を狙っていたという事だ。

すなわちこの決着をつけようとまっすぐ突っ込んでくるタイミング―――――!!


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「瞬時加速<イグニッション・ブースト>!?嘘でしょう、貴方みたいな素人が!?」


一夏も狙ってやったつもりではない。ただ一瞬速度を落としてミサイルの起動を瞬時に把握すると即座に出力全開で急加速し、2発のミサイルの間をすり抜けようとしただけだ。

後部スラスターがエネルギーを放出、一旦取り込んでから圧縮して再放出。そのプロセスがコンマ数秒間に勝手に行われ、ミサイルは一夏の両横を通り過ぎてからぶつかり合い爆発。

意図してやった訳ではない予想以上の加速と背後からの爆風で一夏はバランスを崩しながらも、すぐさま機動を回復してセシリアへと突っ込む。

だが、その僅かな空白が運命を分ける。


「まだ終わってませんわ!」


一夏が気を逸らした1秒にも満たない時間。次にセシリアを目視で捉えた時には彼女はその時間を利用して<スターライトmkⅢ>を一夏に照準していた。腐っても代表候補生、最後の最後で限界以上の能力を発揮してみせた。

<雪片弐型>の間合いにはまだ届かない。さっきのミサイルとは違い、この一太刀に全てを注ぎ込んで一夏は理解した・・・・・・もう回避が間に合わない。




極限まで強化された感覚が、ライフルの引き金に掛けられたセシリアの指の動きまで伝えてくるような感覚に襲われる―――――引き金がゆっくりとかつ完全に絞られ、砲口から閃光が迸る様子まで一夏の目にはスローモーションに感じられた。

走馬灯宜しく脳裏を過ぎったのは山籠りでの教え。兄弟子に何となしに問いかけた質問の内容。

銃を持った相手にはどう対応すべきか。

兄弟子の答えで特に印象に残っているのは、世話になっていた稲葉先生の流派に伝えられていたという秘伝の技術。


「(口径の延長線上に―――――!)」

「これで墜ちなさい!!」


<雪片弐型>の鍔に当たる部分を左手で包み込み、納刀された刀をイメージ。居合抜きの構えを取る。

弾道を読み取れ。ここで成功してみせなければ恥をかくのは自分だけじゃない。千冬姉や、箒や、ミシェルや、シャルロットや、土方さんや稲葉先生や、自分を支えてくれた全ての人達の教えが無駄になる・・・!


「(刃を―――――置く!!)」


抜刀。放たれたエネルギー弾と、振り抜いた瞬間刀身の根元部分から構築されたエネルギー刃が激突。

拮抗すらしなかった。光弾が弾け飛び、一夏には全く届かない。


「弾丸を・・・・・・斬った!?」

「古流剣術舐めんなよぉ!!」


もう一夏とセシリアを遮る物は何も存在しない。振りきった体勢から刃を返し、左手に持ち替え切り返す。

不可視のシールドは横一文字に一刀両断――――一瞬でセシリアのエネルギーシールドがゼロを示す。

高らかにブザーが鳴り響き、勝者の名を轟かせた。


『勝者、織斑一夏!』


山田先生の拡大されたアナウンスを遥かに超える観客の歓声を余所に、一夏は残心を忘れずセシリアから距離を取ってからようやく刀を下げ、戦いが終われば興味無いと言わんばかりに背を向け、自身のピットへ戻っていく。

その雰囲気のなんとストイックな事よ。立ち去り際のその背中がピットの中に消えるまで、セシリアは呆然とその背中を追いかけ続けた。


「織斑一夏・・・・・」


名を呟いたセシリアの顔は赤い。











・・・・・・・どうやら一夏が手にしたのは勝者の栄光だけではなさそうだった。





[27133] 1-5:伝染?
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/07 10:10

興奮冷めやらぬ熱い空気に包まれたアリーナを、一夏・箒・ミシェル・シャルロットの4人は隠れるようにして離れた。

もし観客の女生徒達に見つかろうものなら間違いなく追っかけ回されるに決まってるから、千冬姉の指示で教員用の裏口から脱出したのである。


「凄かったなぁ、一夏ってあんなに強かったんだね!」

「・・・・・・俺も、驚きだ。まさか、暫く会わない内にあそこまで強くなっていたとは。一夏も成長したんだな・・・・・・」

「おいおい何だよそれ。それじゃまるで父親みたいな台詞みたいだぜ」

「・・・・・・・」

「ちょ、うおっ」


むんずと無造作に一夏の頭にミシェルの巨大な手が置かれると、わしゃわしゃ一夏の髪を掻き回す。

なんだよーやめろよーと言いながらも笑う一夏はどことなく嬉しそうだった。アリーナでの戦いぶりが嘘のように子供っぽく見える。


「あれ、どうかしたの箒?」

「うえっ!?なな何でもないぞ別に!」


シャルロットの言葉にブンブン首を高速旋回。一夏に見惚れていたのに気付かないのは、注目されていた本人のみ。


「と、ところで一夏のISの待機形態を見てから気になったのだが、2人も専用機を持っているのだろう?待機形態はどのような形をしているんだ?」


ISの待機形態は量産機でもない限り1機1機違ってくる。その場合基本パッと見でそれと分からないようなアクセサリーなどの小物の形を取る事が多い。

一夏の<白式>の場合は白のガントレット。セシリアの<ブルー・ティアーズ>は青いイヤリングだ。


「ちょっと待って、今出すから」


シャルロットが制服の胸元を緩めると、少し締めつけられていたたわわな胸がたゆんと揺れた。

一夏の視線がその胸の動きを追いかけた。彼の頭に置かれたままのミシェルの五指が一夏の頭部にめり込んだ。にぎゃあと悲鳴を漏らす一夏の鳩尾に箒の竹刀による胴への一撃が加わった。

コンビネーション攻撃でフルボッコにされる一夏を余所にうんしょよいしょと胸元を探っている。


「ゴメンね、ちょっと引っかかっちゃってて」


シャルロットのISが出てくるのが先か、それとも一夏の魂が出ていくのが先なのか。

服の下に窮屈そうに収まっている膨らみによって制服が突っ張ってしまい、そのせいで服の裏地に引っ掛かってしまっているらしい。


「はいこれ、これが僕のIS、<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>だよ」


シャルロットが取りだしたのは十字架と円を組み合わせたようなオレンジ色のアクセサリー。待機状態時の彩色と機体色は同じなのでISそのものもオレンジがメインなのだろう。


「・・・・・・俺の方はこれだ」

「これは―――ドッグタグ(認識票)か?」


箒の言葉通り、ミシェルが取りだしたのは軍人が身に付けるドッグタグだった。ただし縁取りが炎の様な赤で中心部分が黒い。ミシェルのISは重装甲・高火力と聞いているから如何にもな彩色だ。


「あいてててて・・・・・・な、何でこんな目に」

「い、一夏が悪いのだろう!あろうことか乙女の胸を凝視するなど!・・・・・・・・・わ、私のだって見たくせに、それだけでは不服だと言うのか」

「・・・・・・幾ら友人だろうと、俺以外の男にシャルロットにいやらしい目を向けられるのは気に食わん」

「ゴメンナサイ」


お言葉が御尤もだったので素直に一夏は謝る事にした。

でもミシェルのは単なる嫉妬な気がする。それから箒の後半の台詞はそっちが本音か。それからとっくの昔にシャルロットは乙女じゃ―――(銃声)

いつの間にか微妙に顔を赤くしたシャルロットまで、胸元を隠そうとしながらも一夏を軽く睨みつけている。


「・・・・・・一夏のえっち」

「がふっ!?」


その一言がミシェルのアイアンクローよりも箒の竹刀乱舞よりもどれよりも一夏に大ダメージを与えたのだった。

主に精神的な意味で。








学生寮の前に辿り着くと箒が何故かシャルロットだけ誘って何処かへ行ってしまったので、先に男2人だけ部屋へと戻る事になる。

先に試合終了後のアリーナから戻ってきていた女子が居るらしく、寮の中では今回の決闘に関する話題がそこかしこで囁かれているのが当事者の一夏にも聞こえてきていた。

そんな訳で、話題に飢えている少女達は今日の勝者である一夏へと一斉に襲いかかろうと虎視眈々と構えていたのだが・・・・・・


「あ、織斑くんよ!」


誰が最初に言ったのやら。一斉に一夏の方を向く思春期の少女という名のハンター達。

ずどどどどど・・・・・・と地面を震わせ突進してくる少女達。その迫力、まるでバッファローの大群の如し。

しかし、そんな暴走特急な少女達の前に立ちはだかる影が1つ。


「・・・・・・・・・・・・」


ミシェルであった。彼が前に出た途端、少女達は急停止した。

道を塞ぐ大岩のような彼に見下ろされる女子達。数秒経ってからまず彼女達に現れた感情は―――――羞恥。

自室で寛いだりしていた少女達の大半はラフな格好で、下着の上に肌着同然のシャツしか羽織ってなかったりズボンもスカートも吐いてなかったり中には服に浮かんだラインから下着すら付けてないのが丸分かりな子も少なくない。

これがもし一夏だけであればまだ少女達は気にしなかっただろう。教職員の中にも男性が少ないIS学園内に於いて世界遺産クラスに希少な同年代の異性である一夏にならむしろアピール半分で見られても構わない、と考えるのが大半であった。

極端に言ってしまえば一夏はここの少女達にとっては珍獣扱いも同然であって、動物相手に裸同然の姿を見せても何が恥ずかしいのか、という事である。




だが、しかし。ミシェルの場合は違う。

そもそも顔立ちからして同年代には全く見えないミシェルの存在は少女達からしてみれば『年上の男』像そのものであり、異性としての存在感をこれ以上ないぐらい少女達に叩きつけてくるのである。

つーかぶっちゃけ迫力あり過ぎるのも考えものである。マフィアの用心棒か歴戦の傭兵そのものな風貌だけでも年頃の少女達には強烈過ぎた。女尊男卑な風潮によって周囲に『弱い男』の方が多い中育ってきた世代にとっては尚更だ。

故に、一夏に対しては平気でも、ミシェルに自分達のあられのない姿を見られてしまっては平気ではいられなくなる訳で。


「し、失礼しました~・・・・・・」


潮が引くように自分達の部屋へと引っ込む少女達。

ぱたん、と一気に人気のなくなった廊下に響く扉の閉じられる音が物悲しい。


「・・・・・・・・・(涙目)」

「ミシェル、お前は泣いていい。泣いていいんだ・・・・・・!」


まあ、顔を見せるやいなや一斉に逃げられた本人からしてみれば、少女達のそんな事情に気付ける筈もなく。

しくしくしくと、しばらく大の男が静かにすすり泣く声が続くのであった。












「・・・・・・ところで、篠ノ之と一体何の話をしてたんだ?」


シャルロットが部屋に戻ってきて部屋着に着替えるのを眺めながら、ふと気になったミシェルは先程の事について彼女に質問した。

彼もまた上下黒のカーゴパンツにTシャツの寝間着に着換えベッドに寝転がっている。


「んー、知りたい?」

「・・・・・・そう言われると逆に腰が引けてくるから不思議だな。だがまあ、教えてくれるのであれば聞きたいが」


着替え終えたシャルロットがミシェルと同じベッドに飛び乗ってくる。上は有名ブランド製のスポーツジャージなのだが、前を止めるチャックが半分ほどしか止めておらず豊かな双丘で構築された深い谷間と健康的な白い肌が際立って見える。

おまけに上に身に付けているのはそれ1枚だけな上に細めのデザインな物だからメリハリの効いた凹凸の激しいシルエットが浮かび上がっていた。双丘の頂点の突起までうっすらとシルエットが浮かんでいる始末。

ついでに言うと下に至っては布地が薄い白のとオレンジのストライプ柄の下着のみ。狙っているのかそれとも無意識なのかはともかく、すべすべむっちりとした太腿がミシェルの脇腹に擦りつけられている。

シャルロットはまるで小悪魔、もっと言えばサキュバスみたい妖艶でありながら無邪気な悪戯っ子の雰囲気も醸しだしつつ笑っていた。


「僕が箒さんと話してた事はね・・・・・・えいっ♪」

「むふっ・・・・・・?」


ミシェルに覆い被さったシャルロットは勢い良く彼の頭を抱き締め、顔の部分を谷間へと導いた。

むぎゅ~と軽く自分の肌に押しつけてから次に二の腕で胸を挟み込むようにしてもふもふぱふぱふ。リズミカルにミシェルの顔を挟む左右の膨らみが形を変え、心地良い弾力と温かさがミシェルを襲う。

最初は少し息苦しかったが、シャルロットが腕に力を込めたり緩めたりを繰り返すので窒息までは至らない。むしろ鼻で息を吸う度甘い体臭が、嗅覚を刺激して頭蓋を蕩けさせる。ミシェルにとっては薔薇やラベンダーなどよりもよっぽど高貴で幸せにしてくれる香りだ。

しばらく粗い呼吸音が部屋を満たした。シャルロットの方も胸の中の彼が呼吸する度、鼻息が谷間の奥底に当たるせいで甘いくすぐったさに襲われていた。

彼の頭がむにゅむにゅと彼女の胸に跳ね返されては押し潰す感触も微弱な快楽と化し、シャルロットの方も息が段々と速くなっていく。

唐突にミシェルの腕が持ち上がり、腹の上に乗ったシャルロットの尻肉を鷲掴みにした。


「うひゃぁ、ちょっと、ダメだよ。僕がシテる最中なのにぃ・・・・・・」

「・・・・・・人の事を散々『えっち』とか言うが、シャルロットも十分えっちだと俺は思うぞ」


自分の頭を抱き締める腕の力は抜けているにもかかわらず、鼻から下は胸の谷間に埋めさせながらミシェルは愛しい少女の顔を覗き込む。

言われたシャルロットの方は子供っぽく頬を膨らませ、ミシェルの頬を抓った。


「もう、誰のせいなのさ。それにミシェルの方がよっぽどえっちじゃない。エッチな画像一杯集めたりしてたしさ」

「・・・・・・それは、俺も男なんだし。それに、シャルロットだって見つけた俺のお宝を資料代わりにしてなかったか?」

「だ、だって、ミシェルはああいうのが好きなのかなって思ったんだもん!」

「・・・・・・俺にはその気持ちでだけで腹一杯だから、無理はしなくていい」


仮装や屋外ぐらいで十分満足だ。今の自分達には後ろの穴とか蝋燭とか縄とかは高度過ぎる。

・・・・・・大体、キスとかはミシェルの方からする場合が多いけどそういうプレイを誘うのは大概シャルロットの方からだった気がするのだが。


「・・・・・・僕がエッチになっちゃったのはミシェルのせいだもん。ミシェルに触ったり触られたりすると、もっと触って欲しくなっちゃうのが悪いんだもん」

「・・・・・・そうだな。みんな俺が悪いって事にしておこう」


顔の位置を調節してから、どちらともなく口付けする。舌が絡み合い、唾液のカクテルをお互い貪る。

しばらく相手の口腔を堪能した後、ミシェルの顔を横断する傷跡をそっと指先でなぞりながら、シャルロットはポツリとこう呟いた。







「本当に、えっちなお兄ちゃんなんだから」







「・・・・・・そう呼ばれるのも久しぶりだな」

「だって仕方ないよ。表向き僕はデュノア家の血を引いてない事になってるし、今じゃ僕達もう夫婦扱いなんだから人前じゃぜったい呼べないからね」


本来の2人は腹違いの兄妹。それがここまでねじ曲がったのは、父親が愛人の娘であるシャルロットの存在をそれまでずっと認知せずに居たからだ。

父親とシャルロットの母親自体は情を交わす程度の接点しかなかったので、愛人の存在そのものもシャルロットがデュノアの家にやってくる直前まで本妻や屋敷の人間が知る事もなかった。彼女ががISのパイロットになってからも愛人の娘である事そのものは秘匿され続けた。

もちろんフランスの一部の関係者はミシェルとシャルロットが兄妹である事を知っている。

だからこそ国そのものが隠蔽に積極的に関与した。世界初の男性IS操縦者が近親相姦者なんてスキャンダル、誰が好き好んで公表したがるものか。

もし2人の父親が早くからシャルロットの存在を認知し、デュノア家へと名を連ねる事を許していればちょっと複雑な背景を背負いながらも仲の良い兄妹として真っ当な関係を築けたのかもしれない。

それは結局『IF』でしかない。2人は出会い、『兄』は『男』としてシャルロットに惚れこみ、妹もまた『家族』としてではなく『男』としてミシェルを好きになってしまった。その結果はもう誰にも変えられない。






これからも嘘は隠され続けるだろう―――――誰もがそう、そして何より当事者達こそが、それを望んでいるのだから。






「・・・・・・こう言っては何だが、父親が道義よりも利益を優先する人間で本当に助かったと思ってる」


そんな性格だったからこそ自分が手に出来る利益を守るべく血縁関係を徹底的に隠蔽するのに一役買ってくれたし、息子が広告塔になって得られる様々な利益を守るべく政府にも色々と働きかけてくれた。

お陰でミシェルとシャルロットが夫婦である事はフランス政府公認になったし、不利益になる情報の改竄・抹消も国内の各諜報機関総出で行ってくれたから、ちょっとやそっとじゃ2人の本当の関係には辿り着けまい。

家族としての純粋な関係を望んでいたシャルロットにとっては少し酷かもしれないが、彼女の立場を守るには『シャルロット・デュノア』という妾の娘の存在を消すのが最良の手だったのだ。

故に今の彼女は『ミシェル・デュノアの妻、シャルロット・デュノア』として堂々と表舞台に立っていられるのである。

その点ではシャルロットも今やデュノア家の正式な一員と言って差し支えない。


「ミシェルのお母さんにはとことん嫌われちゃったけどね・・・・・・」

「お袋は色々と気難しい性格だったからなぁ・・・・・・」


それでもシャルロットの正体を暴露しないだけありがたい。


「・・・・・・で、結局篠ノ之とどんな話をしたのか全く見当がつかないのだが・・・・・・」

「うーん、まあミシェルなら言っても構わないよね」


シャルロットは着たばかりのジャージのチャックを下まで引き下ろすと中身をミシェルの鼻先に曝け出した。


「―――――箒はね、簡単な男の子の悦ばせ方を僕に聞いてきたんだ」

「・・・・・・やっぱり相手は一夏か?」

「やっぱり一夏が相手、だと思うよ?」


2人して胸板を擦れ合わさせながらも一夏と箒の部屋がある方角を向き、


「・・・・・・2人の健闘を祈るとしよう」

「そうだね。箒、上手くいくと良いなぁ」




友人達の健闘を祈って敬礼を送っておいた。
















『(どうしてこうなった?どうしてこうなった!?)』


今の一夏の心中――――蛇に睨まれた蛙、肉食動物に追い詰められた無力な小動物の如し。

逃げ出したいのに、逃げられない。動きたいのに動かない。

狩られる側が存在するなら狩る側も存在する。自分と同じベッドの上で、濡れた瞳で見つめてくる箒がその役回りだった。

別にそのままの意味で襲われている訳ではない。ただ一夏のベッドの上に座り込んでお互い向き合っているだけに過ぎない。箒に動きを封じられているのでもない。

ただただ一夏の身体中の筋肉が硬直していう事を聞いてくれないだけだ――――それを可能にするだけの魔力を、今の箒は放っている。

舌も上手く回ってくれない。言語障害にでもかかったみたいに発音が途切れ途切れにしか出せなくなっていた。


「ほ、ほっ、ほっ、箒!?な、何、一体何なんだよそ、そそ、その格好?」

「だ、だから何度も言わせるな!―――――い、言っただろう?『勝ったら褒美をやろう』と。だ、だから・・・・・・」


そう彼女もどもり気味に、赤信号よりも赤く顔どころか首筋まで真っ赤になりながら。

しゅるりと首のリボンを解き、ボタンを外したワイシャツを肩元からはだけさせ、震える手つきでブラジャーを服の下から抜き取った。

極度の興奮による発汗のせいでシャツは半ば透けて箒の肢体に張り付いており、浮き上がる極端な凹凸のシルエットもさる事ながら、その下の薄い布地1枚越しに見える紅潮した肌の色がまた扇情的で――――


「おおう・・・・・・」


その色香は尋常じゃなかった。思わず一夏の鼻の奥と股間に急激に血の気が集まってしまうぐらいには。

もう1度問おう。どうしてこうなった。何で箒が自分からこんな恰好で俺に見せつけてくるんだ!?


「だから勝った褒美をお前にだな」

「あれ、普通に思考読まれてる!?」

「そ、それぐらい分かって当たり前だ!なんせお前と私は幼馴染だし・・・・それに・・・・・・・」

「ほ、箒さん?」

「ええい、とにかくだ!とっとと済ませるぞ!一夏!」

「は、ふぁいっ!」


幼馴染の剣幕に思わずベッドの上で正座。箒は一夏と更に距離を詰めると、


「むきゅうっ!!!?」


一夏の頭を抱き締めた。思いっきり。

皮膚表面の血流が盛んなせいで一夏の顔を挟み込んだ箒の双球は熱く、思わず息を呑むと今度はちょっと酸っぱい汗の臭いと砂糖をたっぷり使ったホイップクリームにも似た甘い芳香がブレンドされた箒の体臭が鼻腔を満たし、瞬時に一夏の意識が焼きついた。

シャルロットからの忠告も忘れて箒は一夏の頭部を力いっぱい抱え込み続ける。彼の鼻息以外にも息苦しさと箒の行動に半ばパニック状態でもがく一夏の顔が膨らみを刺激して、短い悲鳴が何度も漏れてしまう。

最早箒の意識も漂白されそうだった。篠ノ之箒は織斑一夏の事が好きだった。そんな彼にこんな事を自分の方から行っている事への背徳感が、より一層箒の感覚を過敏にさせていく。

もっとを酸素を求めて頭を振りながら一夏が大きく息を吸おうとした。それは箒の胸にたっぷり備えられた柔肌に阻まれ、思い切り彼女の胸へと吸いつく結果を生む。


「はあぁぁぁんっ!?」


強烈な電流に襲われた箒の身体が痙攣した。腕の力が緩み、ようやく一夏は解放されたが、呼吸困難のせいでしばらく動けない。

お互いの身体に寄りかかって支え合う格好のまま、2人分の荒い息遣いがしばらくの間部屋の中を支配した。

胸が上下する度バストの先端まで揺れる様子に知らず知らず一夏の目が勝手に追いかけていた。それを感じ取った箒は前回同様咄嗟にバストを両腕で抱える形で隠そうとしたが、やっぱりより扇情的なポーズを取っている事に気付かない。


「じ、じろじろ見るでない」


あれだけの事を自分からしといて今更な話だが、思わず一夏も「ご、ごめん」と謝りながら視線を箒から外す。

壁掛け時計の秒針を刻む音がハッキリ耳に届く位の静寂。

口を開くのは一夏の方が先だった。


「・・・・・・あ、あのさ。何であんな事をしたんだ?」

「い、言っただろう、勝った褒美だと――――嫌、だったか?」


捨てられた子犬居たいな顔でそう言われては、答えは1つしかない。


「そ、そんな訳ないって!存分に御堪能させて頂きました!」


勢いに駆られるままベッドの上で土下座。そう断言をする一夏も一夏だが、一転して嬉しそうに儚げな笑みを浮かべた箒も箒である。


「そうか、それは良かった。常日頃から邪魔だと思っていたものだが、一夏が喜んでくれたのならば幸いだ・・・・・・」


下から持ち上げただけでたゆんと震える箒の膨らみ。最早本能レベルで横目にその動きを追いかけてしまう一夏の目。

それを箒が気付かない筈もなく、




「・・・・・・やはり一夏もエッチなのだな」

「ひでぶっ!?








しばらくお待ち下さい







「で、決闘に勝った事への御褒美っていうのはどうにか納得出来たんだけど、だからって何でこんな事したんだよ」

「文句言いたげだな一夏・・・・・・やっぱり嫌だったのか」

「いやだから嫌とかそういうんじゃなくて箒があんな事するとは思わなくてびっくりしただけだって!」


何だかすっごくやりにくい。ここまでしおらしくされると調子が狂って仕方ないぞコンチクショウ。でもその分可愛いから許す!

・・・・・・そうか五反田よ。これがお前の言っていた『萌え』ってヤツなのか。俺は答えを得たぞここには居ない友人よ。


「その、だな。この間の事で一夏が破廉恥で助平だというのはよく理解出来たのだ」

「そんな事理解したくないけどああでも否定できねぇ!」

「それで、私のこの胸に対して興味を惹かれているのは既に分かっていたから、それで」

「それで?」

「・・・・・・シャルロットに教えてもらったのだ。この胸をどう使えば、男が喜んでくれるのかを」

「どうしてそうなった!!?」


これが近頃の子供の生の乱れってヤツなのか!?束さーん貴女の妹が間違った方向へ大人の階段を上ろうとしていますよー!!


「あのさ箒。シャルロットの所はもうれっきとした夫婦なんだしそういう事やっても問題ない・・・のか?とにかくそういう事に関してはあの2人の事は参考しちゃいけないと思うぞ」


あの2人のイチャつき方は上級者向け過ぎる。そもそも自分と箒は2人みたいな関係じゃないんだし。

・・・・・・後半は口に出さなかった辺り、これまでの厳しい鍛練は一夏に地雷回避能力を与えたのかもしれない。

少なくとも竹刀で撲殺フラグは回避に成功。しかし1歩間違えれば即起爆な状況は未だ変わらず。


「・・・・・・それでも私には2人が羨ましかったのだ」

「まあ確かに、あんな風にベタベタ出来るような相手が居るって俺もちょっと羨ましいとは思うけど」

「――――私は、一夏なら構わないぞ」

「へ?」


豊満なバストを両手で支えながら、膝立ちになった箒はゆっくりと一夏との距離を縮めてきた。


「私も、ミシェルとシャルロットの様にお前と触れ合いたい。羨ましいんだ私は。あんな風に大胆に、好きな人と触れ合えて」

「ほう、き?」

「私は実はとても自分勝手な女なのだ。『男女七歳にして同衾せず』とは言うものの、この6年間ずっとお前に会いたくて仕方なかった。だからこうして同じ部屋で過ごせる事が、とても嬉しかったんだ」

「いや、そりゃ俺も箒と一緒の部屋は嬉しいぜ?何てったって幼馴染なんだし、この6年会えなかった分の親交を深めるにも丁度良いとは思ってるけど――――」

「でも、一夏とこうしてみて理解出来た――――私は我儘な女なのだと」


箒の無自覚の妖艶さに呑まれて動けない一夏の右手を優しく掴むと、箒は自ら一夏の視線を釘付けにしてしまう魔性の膨らみへと自ら導いた。

手にかなり余るサイズの柔肉に、一夏の指先がほんの少し沈んだだけで奔った甘い電流に箒の理性は焼け、小さく身体が震えてしまう。

ゴクリ、と大きく喉が鳴る。自分が喉を鳴らした事すら一夏には自覚できなかった。


「まだ足りない。もっともっと触ってくれ。胸だけでは足りぬというのであれば、もっと他の所を隅々まで私の身体を弄んでくれて構わない」

「箒」


彼女の顔は真剣そのものだった。その仮面の下では、『もし拒まれたらどうしよう』と考えただけで心が張り裂けそうになっていた。


「本当は勝負の勝ち負けなんて関係なかったんだ。堂々と愛し合って幸せそうにしているあの2人が羨ましかったから、私は一夏とこうしたかっただけなんだ。私が自分の衝動を抑えきれなかったから、こんな風に行動に移しているんだ。
なあ、一夏」


バストが一夏の胸元に当たって潰れては形を変える位近づき、両手で一夏の顔を挟んで固定すると、額を触れ合わせ鼻先を彼の顔に擦りつける。





















「―――――いちかは、わたしとしたくないか?」























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書き終わってからの作者の心情:どうしてこうなった



[27133] 1-6:School days(一部改定)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/04 00:04
※皆さんのご指摘を受け一部改定。あれから読み返してみて自分でも一夏の思考がおかしいと感じました。汗顔の極みです。
作者の推敲不足で読んで下さる皆さんに不快感を与えてしまい、誠に申し訳ありませんでした。











1日が経つのは遅く感じても、月日が経つのは早いもんである。

既にIS学園に入学してから1ヶ月近くが経とうとしていた。4月も終わる寸前、ISの基本的知識を座学でみっちり頭に叩き込み終えてからようやく初めて行われる事になった、実機を使った実習。

それを前にした俺と一夏の更衣室での1コマ。


「・・・・・・む?」

「ん?どーかしたかミシェル」


俺は口で言わず黙って首と肩の境目辺りを示す。

最初一夏は何のこっちゃといった顔をしてたが、ロッカーの扉の内側に備わった姿見に映った自分の姿を見てようやく気付く。

鎖骨の根元のちょい上辺りに出来たうっ血痕。虫さされ?いーや違う。


「・・・・・・きのうは おたのしみ でしたね」

「またそれか!それを言うならミシェルだって似たようなもんだし!」

「・・・・・・否定はしない」


一夏の言う通り俺の首筋とか胸元とかにも一夏と同じくキスマークが点々と付いている。まあこうして肌着まで脱がなきゃ分からないような位置だから大して気にはならん。

一夏の場合は、場所が下の方だからISスーツでも十分隠れる位置だからそこまで気にする必要はないと思う。タートルネックだから首元まで隠れるし。


「・・・・・・それにしてもやはりと言うべきか、篠ノ之とする事はしているのだな」

「う・・・・・・頼む、絶対千冬姉には内緒にしてくれ!バレたら絶対殺される!主に俺が!」

「・・・・・・全く否定できんな」


鬼と化した織斑先生が一夏をぶった切る想像余裕でした。うん、友人の頼み通り黙っておこう。

それにしてもどっちからなんだろうな。やはり篠ノ之からか?色々とアドバイスを聞きに来たり嗾けられたりもしてたらしいし。

あれ?それじゃあシャルロットも共犯になるのか?俺も連帯責任とかにならないだろうな。とりあえずシャルロットを庇うのは決定事項だが。


「・・・・・・一夏。これをやろう。シャルロットはピル派だから、俺の所では使い道がないし」

「って何食わぬ顔で家族計画差し出さなくていいから!つーかヤッてないからな?まだ本番まで行ってないから!」


マジか。案外そのまま勢いでサッサと卒業しちゃってるもんだと思ったけど。


「・・・・・・本番になると逆に緊張して勃たないタイプなのか?」

「そういう問題じゃねぇよ!しっかり勃つから!むしろ箒にあそこまでエロく迫られて勃たない方がおかしいって!」

「・・・・・・その様子だと、本番寸前まではシているんだろう?普通はそのまま流れで行きそうなものだが」


原作は結局どうだったのか知らないしストーリーも思いっきりうろ覚えだけどヒロインの1人には変わりないんだし、それだけやってるんならもう箒ルート確定なんじゃね?

でも改めて言うが今のシャルロットは名実ともに俺の嫁。異論は認めない。ぶっちゃけもう原作なんて知ったこっちゃない。もはやキーワードっぽいのしか覚えてないからな。


「そ、それにさ。そんな最後まで行かなくても俺は十分満足してるから。手とか口とか胸とかお尻とか、とにかく色々箒からヤッてくれるし―――――」


すわそのまま惚気話に突入か、と思ったが。

唐突に一夏が口を半開きのまま彫像の様に固まる。


「・・・・・・どうかしたのか?」





「―――――俺、箒の事どう思ってるのかちゃんと答えだしてねえや」


思いっきり拳骨を落としてやった俺の事を誰も責められやしまい。

どれだけ男女関係適当なんだよお前。











シャルロット・デュノアは衆目を集められる事に慣れた人間だった。

ミシェルがIS操縦者になってこの方、最初の頃はともかく婚約者として彼とペアで扱われていたので、ファンやマスコミからの注目を浴びたりしたり迫られた時の応対の仕方にも、この2年ですっかり馴染んでしまってはいる。

・・・・・・・しかし、今この教室内において浴びせられる視線の数々は、有名人に向けられる類の賞賛や興味はまた別種の思惑を含んでいて非常に落ち着かない。

はたして最初に呟いたのは誰だったのやら。


「・・・・・・スイカ」

「ヤシの実」

「グレープフルーツ」

「ソフトボール」

「皆どこ見て言ってるのかなねえ!?」

「どうしてなの、どうしてそこまで貴女のおっぱいは圧倒的戦力を誇っているというの!?」

「う・ら・や・ま・死・!!」

「やっぱり男なのね。自分の手以外にも揉んでくれる相手が居るのが肝心なのね!」


クラスメイト達は皆してシャルロットを、正確にはその体重の1~2割ぐらいはウェイトを占めてそうなぐらい巨大な胸部装甲を指さしながら絶叫した。

一気にカオスと化す教室内。飢えた目つきの少女達が幽鬼のような足取りでシャルロットを取り囲む。これ見よがしにワキワキと躍る手の動きが激しく卑猥だ。

ISスーツに着替える途中だったシャルロットは教卓の方へ緊急避難。しかしすぐに取り囲まれてしまい、背後には黒板代わりの液晶パネル。もはや逃げ場無し。

追いつめられたシャルロットはもはや涙目。余りの恐怖感に思わずISを発動しかけるが、それよりも早く、


『天誅!』

「らめぇぇぇぇ!そんな事していいのはミシェルだけなのおおおおおお!!」


モミモミグチュグチュグニグニプシャァッ!!って何をしているのか恐ろし過ぎて聞けない擬音が聞こえてくるけど、シャルロット襲撃に加わっていな他の女子達は聞こえてくる水っぽい音やシャルロットの甘さ混じりの悲鳴を出来る限りシャットアウトして着替えに励む。

人間やっぱり自分の身が1番大事なのである。藪蛇は簡便な!


「ゴメンねミシェル、僕穢されちゃったよ・・・・・・」

「くっ、やはりあのとてつもない戦闘力は旦那様に育てられて結果ああなったと判断するしか!」

「でも相手が居ないし出会いもこの学校では期待できない私達にはまず無理な話!」

「ギギギ、妬ましいのう恨めしいのう」

「っていうかシャルロットさんの首とか胸とか背中とかについてるそれ!何かもう相手が居ない私達に喧嘩売ってるとしか思えないよ!」


着る途中だったISスーツを腰の辺りまで無理矢理肌蹴させられた姿のままシクシク蹲って泣いているシャルロットの身体には、パッと見だけでも数ヶ所にれっきとしたキスマークが刻まれていた。

それを見た少女達のテンションは更にヒートアップ。それからシャルロットの御相手の事を思い出して一気にトーンダウン。やり過ぎると後が怖い。主に旦那の報復的な意味で。

と、ずっと窓際でクラスメイト達に背を向ける形で黙々と着替えを進めていた箒の傍で同じく着替え途中の少女が、何かに気付いた。


「篠ノ之さん。首の後ろ、何か赤くなってるよ?」

「ふえっ!?」


声をかけられた箒の反応は極端で、首の後ろを手で押さえながら見られまいとするように勢い良く回れ右。

――――ブラから解放されていたシャルロットを上回るバストが、遠心力で前後左右に揺れる様を少女達は目の当たりにした。

キュピーンと目を発光させたクラスメイト達の姿に箒は悟る。マズい、次の標的は自分だ。


「そういえば篠ノ之さんのおっぱいも凄かったよねぇ。制服の上からでも分かるぐらいには」

「や、止めるんだお前達!それ以上近づくんじゃない!」


竹刀を振り回して追い払おうとするも効果無し。というかどっから出したその竹刀。


「「「「「「くふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・」」」」」」

「来るなぁ、来ないでくれぇっ!」


篠ノ之箒、絶体絶命。

その時、教室の扉が勢い良く開け放たれ、スパパパパパーンと軽快な打撃音が響き渡った。


「貴様らまだ着替え終えていないのか!早くグラウンドに出て来い!遅れた者はグラウンド10周だ、急げ!!」

『い、イエスマム!』


鬼教師の乱入で事無きを得た箒は胸を庇っていた両腕を開放し。

――――腕の下に隠れていた胸や首周りのキスマークが晒される。

急いでISスーツを着込むのに忙しい少女達は気付かなかった。だがよりにもよって最も見られてはいけない相手が目ざとくも箒の身体に刻まれていたキスマークの存在に気付き。


「それから篠ノ之!放課後寮長室に来い!その『虫刺されの痕』について色々聞かせてもらうぞ!!」




箒は絶望した。


















「なあミシェル、俺前から思ってたんだけどさ」

「・・・・・・多分、俺と同じ事を考えてると思うぞ」

「「このISスーツのデザイン、絶対開発者の趣味だろ(だな)」」


スパァンスパァン!


「授業中だ。私語は慎め(その考えに対しては私も同意見だがな。全く、あの馬鹿もう少しマトモな格好には出来なかったのか)」


グラウンドに整列した少女達のISスーツ姿は、傍から見ればグラビアの撮影か何かだと勘違いされても仕方なかった。野郎2人の感想も尤もである。

何せISスーツは肌の露出が多いのである。遠目にはレオタードか柄無しの競泳水着に二―ソックスの組み合わせにしか見えず、ぴっちりと肌に張り付いている為身体のラインは丸分かり。

おまけに下着すら全部脱いでから着なければならないので、胸の先端の突起や下手すれば股間の割れ目(一夏とミシェルの場合は膨らみ)のシルエットすらクッキリハッキリ浮かんでしまうのだ。

異性からしてみれば眼福か目の毒か、意味は似たようなものだが、初めて着る側からしてみれば羞恥プレイの何物でもあるまい。

現にミシェルやシャルロット、セシリアといったIS学園以前から実機を扱ってこの格好に慣れてしまった代表候補生以外の少女達は揃って顔が紅い。それぐらい初めて着て人前に立つ分には恥ずかしい格好なのだ。


「(でも皆チラチラこっち見てきてんだけど、何でだろうな。やっぱ男が着ると変に思われてるのか?)」

「(・・・・・・さあな。もしくは俺の脚のせいかもしれん)」


また『織斑先生』に怒られないよう会話は小声である。

一夏とミシェルのISスーツは男性用の競泳水着を肘から先と膝から下、そして腹周りの布地を切り取ったようなデザインだ。

ミシェルは言わずもがな、一夏も細身でありながら制服を着た姿からは想像も出来ない程引き締まった筋肉の持ち主なので2人の腹筋には最低限の脂肪しか備わっていない。年頃の少女からしてみれば中々刺激的な格好だった。

それ以外にも目を引く要素がある。

ミシェルの片足は義足だ。生身の左足とは違い、右膝から下は生身に似せたカモフラージュが何も施されていない軽量合金の外装に覆われているので丸分かりである。

しかし金属的な外見を除けば、ミシェルの義足は生身の者にかなり近い構造となっている。足関節の部分も生身同様に動くし爪先周りだって曲げ伸ばし可能。感覚が無いのを除けば本物の足と変わりない使用感を味わえる、極めて高性能な義足だ。


「(・・・・・・格好そのものは1ヶ月も過ごせば慣れる。それまでの辛抱だ)」

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、それからデュノア夫妻。試しに飛んでみせろ」


専用機持ちが揃って前に出て各々のISを展開。

こういった事にはやはり入学前からISを扱ってきたミシェル達の方に一日の長がある。一夏だけが出遅れ、まだ<白式>を展開できていない。


「(来い、白式)」


要はイメージの問題だ。ISが展開される様子を自分が1番しっくりくるイメージに置き換えた方が成功しやすい、とミシェル達からは教えられていた。

ミシェルの場合は防弾ベストとかプロテクターとかヘルメットとかを見に付ける、いわば戦闘準備を行うイメージでやってるらしい。それを真似して、一夏は剣道用の防具を見に付けるイメージを思い描く。実際身体に身に沁みついている動作のせいか、そうした方が<白式>も展開しやすい気がしていた。

光の粒子が全身に纏わりつく様な感覚の後、IS本体が形成される。足元からふわりと浮きあがり各種センサーの接続確認。<白式>展開完了。




セシリアの<ブルー・ティアーズ>も展開完了済み。その1つ向こうには更に2機のISが空中に静止して一夏が展開を終えるのを待っていた。

オレンジ色のISと黒と赤のIS。オレンジ色のIS<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>は操縦者がシャルロットだとすぐに分かったので、消去法で黒と赤のISはミシェルなのだろうが・・・・・・


「全身装甲<フル・スキン>とは珍しい機体ですわね」


セシリアの呟きが示す通り、ミシェルのIS<ラファール・レクイエム>は本来剥き出しな筈の顔から首周り、両腕両足まで肌の露出が存在しない完全なる全身装甲型のISだった。

原形はシャルロットの<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と同じ実家のデュノア社で開発された<ラファール・リヴァイヴ>の筈だが、見た目からして彼女のISとは正反対のベクトルの機体に思える。

スマートさより無骨さ。機動力よりも防御力。

特に目を引くのは両肩近くに浮遊している1対のアンロック・ユニットだ。厚みが減った棺桶の様なそれはミシェルの体躯でさえすっぽり隠してしまいそうなほど大きい。

他に<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と比較するならば左腕に在る筈のシールドが右腕に備えられていて、顔面部分は幾つもスリットの入った鋼鉄の仮面に覆われている点だ。そのスリットの向こうで1対のカメラアイが青白く光っている。バイザーのてっぺん部分には一角獣みたいなアンテナパーツ。

背中のスラスターも従来のISに多いデザインである1対の翼型ではなく、ロボットアニメに出てくるような人型兵器の物によく似た2対4つの噴射口を備えた箱型スラスターだ。よく見れば、腰回りのアーマーにもスラスター以外に折り畳み式の砲塔を備えている。

最早根本的にオリジナルとは別種の機体にしか見えない。流線が多用された従来のISの優雅なデザインからは程遠い、無骨で実用性と耐久性を優先したデザイン。




並ぶ少女達の幾らかは微妙そうな視線を送ってきている。自分達の良く知るISからかけ離れていてどうにも受け入れづらいのだ。

だがミシェルはこの機体が気に入っていた。全身装甲は全身装甲なりに利点もあるし――――何よりそっちの方がカッコいいと思うから。

男の子なら誰だってロボットに憧れるに決まってるし、変身ヒーローだって変身したにもかかわらず顔はともかくとして下に着てる服が丸見えなままのヒーローが存在しただろうか?いいやない。

あとは精神的な問題か。絶対防御が存在するからって四肢以外が剥き出しのままというのはミシェル的にはイマイチ気に入らなかったりする。

さて、展開されたミシェルのISを目の当たりにした一夏の反応はというと、


「なんていうか・・・・・・凄くゴツイな。カッコいいけど」

「よし、4人とも飛べ」


きわめて簡潔に鬼教官モードの千冬が指示。一夏を残して3人はすぐさま急上昇。遅れて一夏も飛ぶ。

速度的には3人よりやや遅い程度。決闘前の<打鉄>での機動訓練が無ければもっとまごついていただろう。


『まあまあだがもっと速く飛べる筈だ。スペックでは<白式>の方が出力は上なのだからな』

「上手い上手い、そんな感じだよ一夏」

「決闘の際の動きで分かってはいましたが中々読み込みがよろしいですわ。流石わたくしを正々堂々倒しただけありますわね」


千冬姉の辛い評価とは対照的に、シャルロットとセシリアからはそんなお褒めの言葉を頂いた。2人の優しさが身に沁みる。千冬姉はそうやって厳しいから相手が――――ゲフンゲフン。

一夏としては、これもやっぱりミシェルから教えてもらっていたお陰である。


『・・・・・・フライトシミュレーションとかをやった事はあるか?エス○ンとかああいうゲームで構わない』

『それなら中学の頃はよく友達と対戦とかやって遊んだりはしたけど』

『ならそのゲームの操作をISを動かす時のイメージに使えば良い・・・・・・上昇する時はコントローラーのどのスティックをどっちに倒すのか、加速する時はどのボタンを押すのか、そんな感じにな』


学校で教えられた『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』なんてのよりよっぽど分かりやすい。

それにしても決闘が終わってからのセシリアの変わりっぷりは一体どういう事なのだろう?クラス代表の座も快く譲ってくれたし(それは同じく立候補してた筈のミシェルにも当て嵌まる)、休み時間や昼食時、放課後にもしょっちゅう話しかけてくるようになったし。

当たり所が悪かったのか?もしそうだとしたら責任重大だ。嫌でもシールドや絶対防御のお陰で一夏の攻撃が直接セシリアに当たっては居ない筈だし。なら何でだ?

というか、セシリアが構ってくる事への1番の問題はセシリアが寄ってくる度箒が禍々しい殺気を一夏に送ってくる事だ。最初に殺気を向けられた時は思わず兄弟子にアドバイスされて以来持ち歩く暗器を抜きそうになった程だ。

お願いだからそんな目で睨まないで下さいお願いします。決して浮気とかそういうのじゃないんです。

あれ、でも俺箒とはまだちゃんとハッキリとした恋人関係になった訳でもないんだから浮気とは違うのか?どうしたものやら。




・・・・・・というかぶっちゃけ自分は箒の事をどう思ってるのだろう?。

最初は単なる幼馴染で、ちょっかいを出される度自分が守ってあげていた女の子。6年という歳月はしょっちゅう泣きそうになっていた女の子を立派な女侍に変貌させていたけど、やっぱり箒は箒な訳で。

あの頃よりもとても強くなったしとても綺麗になった。うん、それは紛れもない事実だ。五反田辺りきっと同意するだろう。アイツは昔の箒を知らないけど。

でも本当の彼女は寂しがり屋だった。ずっとこんな自分に会いたかったと告白してくれた。その姿を見て、自分はどう思った?

――――――はたして織斑一夏が篠ノ之箒に抱いている感情は一体何なのか。友情?慕情?恋心?少なくともとても魅力的な異性として考えてるのは間違いない。

このまま自分の気持ちをはっきり示さないまま肉体関係をずるずる続けていく訳にもいかない。それは何というか、ズルいと一夏は思う。

自惚れでなければ、きっと箒は自分の事を好いてくれてるんだろう。そもそも好意を持たない相手にあんな過激な迫り方をする程彼女は器用じゃない、筈。

なら後は自分が箒に向ける想いの区分を明確にするだけ――――しかしそれが1番難しい。

なにせ織斑一夏は恋という物をした覚えが無いのだから。いや、そもそも仮に恋心を抱いていても、それを恋心だと自覚出来ていなかったのかもしれない。

物心ついた時の記憶を遡って行く内に思い当たる節がちらほらと出てきて、セシリア達の存在も忘れ頭を抱えてしまう。




―――――俺は一体どうすればいいのだろう?




そんな感じに雑念塗れなせいで千冬姉に急降下・急停止を命じられた結果、一夏がグラウンドにクレーターを形成するまであと15秒。









続きましては武装展開訓練。

一夏が<雪片弐型>を展開する際に思い描くのは、真剣を鞘から抜くというイメージだ。

練習の結果今では1秒前後で展開可能。でも千冬姉からは『遅い。0.5秒で出せるようになれ』との評価。

実際セシリアとかそれぐらいで出してみせた。ただし、呼び出したライフルを真横に向ける形で。注意されるのを横目で見ながらもっと精進しないとな、と内心誓う。


「次、デュノア夫。やってみろ」

「・・・・・・了解」


そんな呼び方で良いのか千冬姉よ。ミシェルも普通に返事ってそれで良いのかそれで。

ミシェルは両手を垂らしてぶらつかせた状態になったかと思うと、両手を勢い良く持ち上げた次の瞬間には強烈なフラッシュが瞬くと共に奇妙な形状のアサルトライフルを構えていた。

機関部とマガジン挿入口が銃杷よりも後ろにあるブルパップ式で、トリガーガードのすぐ前により大型の別のマガジン挿入口と砲身が一体化している。銃口と砲口が上下に並んでいる。もっと変わっているのは砲口の更に下に銃剣の切っ先が伸びている点だ。

――――デュノア社製複合型多目的大口径アサルトカノン<ケルベロス>。後で一夏が本人から聞いた話だが、ミシェルが設計した銃らしい。

両手で身体に引きつける様にしてしっかりと構えられた<ケルベロス>の銃口は全く微動だにしない。千冬姉も満足そうに頷いていた。


「良いだろう。次、デュノア妻」

「はいっ!」


だからそんな呼び方で(ry

シャルロットの武装展開速度はもはやマジックのレベルだった。パッと構えてパッと光った次の瞬間にはライフルを構えていて、まさしく目にも止まらぬとはこの事だ。


「そのまま連続して別の兵装に切り替え続けてみろ」


シャルロットの手の中でライフルが光って一旦集束。直後別の銃器が展開。精々1秒足らずの間に何丁もの銃器が姿を現しては他の兵装に形を変える。


「これはいわゆる高速切り替え(ラピッド・スイッチ)と呼ばれる戦闘技術の1つだ。こういった技術1つを身に付けておくだけでも戦闘では自分の優位に持っていく事が出来る。貴様らもこういった技術を習得する為にも、今から己を鍛えあげて腕を磨いておけ。いいな!」

『はいっ!!』











えんやこらさ、と土を掬っては穴を埋める。


「これでいいだろ。ありがとなミシェル、わざわざ手伝ってくれて」

「・・・・・・別に構わん。一応、軍事訓練でもやらされてたから慣れている」


ミシェルの助けも借りたお陰で一夏が生んだクレーターは結構早く埋め終える事が出来たが、それでも日は暮れ空はかなり暗い。

用務員さんから借りてきたシャベルを運びながらグラウンドを離れると、2人がクレーターの後始末を終わるまで待ってくれていたシャルロットが近づいてきた。


「お疲れ様2人とも。はいこれタオルとジュース」

「おっ、サンキュー」

「・・・・・・ありがとう」


4月も終盤、やはり日が落ちるとまだ少し肌寒く海沿いで風が強くても、力仕事を長く続けていればやはり汗はかく。汗を拭き取ってくれるタオルと水分補給は何よりありがたい。

いいよなぁこんな風に気が利いてくれる女の子って。シャルロットの優しさが身に沁みる。

特に一夏の周りには千冬姉とか箒とか千冬姉とか箒とか千冬姉とか、かなり我が強くて厳しい女性ばっかりだったから尚更際立って思える。とっくにお相手が居るけど。


「うおっ!?」

「どうかしたの一夏?」

「いやなんか急に悪寒に襲われて・・・・・・あ」


後者の陰でひょっこり揺れてるポニーテール発見。


「あ、ようやく気付いたんだ。箒さんね、先に着替え終わってから僕もグラウンドに戻って来た時からずっとあそこで待ってたみたいだよ」

「本当か?おーい箒ー!」


一夏が声をかけるとポニーテールはびくっと震えてから引っ込んでしまう。傍まで近づいてみるとシャルロットの言った通り箒がそこに居たが、その顔は何故か赤い。


「ゴメンな、待たせちまって。箒も俺らが終わるまで待ってくれてたんだろ?」

「べm別にそういう訳では・・・・・・と、とにかく終わったのならさっさと部屋に戻るぞ。ほら行くぞ!」

「ちょ、引っぱんなって」


無理矢理箒が腕を組んできて引き寄せてきたものだから、肘に当たる柔らかいそれ―――豊かな乳房が制服越しに一夏の肘に当たる心拍数10上昇。尚も上昇中。

すらりと高い箒の鼻が不意にひくつく。


「・・・・・・一夏の汗の臭いがする」

「そりゃ結構汗かいたし。だから箒さん離れて下さいお願いしますこのままだともっと汗かきますからたのんます」

「・・・・・・・・・・」

「だから何でもっとくっつくんだよ!?」


恥ずかしいやら居心地悪いやらでも嬉しいやらで一杯一杯な様子の一夏の耳元に、箒が口を寄せる。






「―――――な、なら、一緒にシャワーを浴びないか?」






「・・・・・・はい?」


間抜け以外の何物でもない呆けた顔でそう漏らした直後、猛加速した箒に引きずられてそのまま学生寮の方へと消える一夏の姿。

その場に忘れ去られた某夫婦はというと、


「やっぱり幼馴染だけあって仲良いね、あの2人」

「・・・・・・そうだな」






遠い目で見送ってから、一夏が放置したシャベルを回収するのであった。






[27133] 1-7:再会TAKE2
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/06 23:51

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 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄

       ↑箒






「・・・・・・どうしたんだ一体?」

「さ、さあ、僕にもさっぱり・・・・・・」


教室で刑執行目前の死刑囚みたいな風情を漂わせた箒の様子に誰も近づく事が出来ないでいる。

同室の一夏も似たようなもので、ミシェルの隣で頭を抱えながら悶々とした様子であった。近づきがたい雰囲気を発している箒よりは一夏に聞いた方が手っ取り早そうなのでそうする事にする。


「・・・・・・何かあったのか?」

「それがさ、昨日あの後箒と部屋に戻ってからなんだけど――――――」









2人分の呼吸音をシャワーの水音が掻き消す。大雑把に汗を洗い流し終えると、箒の細い指がシャワーのカランを捻り、お湯が止まる。


「わ、私が一夏の身体を洗ってやろう。一夏はそのままじっとしていてくれ」

「いや、箒がそこまでしてくれなくても――――」

「やらせてくれ。私が、そうしたいだけだから・・・・・・」


両方の肌が紅潮しているのは決してお湯を浴び続けていただけではあるまい。

箒はボディソープを手に取ると、それを自らの身体に塗りつけ始めた。瑞々しく張った肌が特徴的な光沢に包まれ、只でさえ艶めかしい姿がより一層色っぽさを増す。


「ほ、箒?」

「い、いくぞ」


箒は一夏の背中に抱きついた。ぬるりと肌と肌が滑り、擦れ合う度に白い泡が接触面の間に生じ始める。

箒が身体を動かす度、背中で潰れてぐにゅぐにゅ形を変える乳房の感触に一夏の本能が昂ぶる。箒も箒で一夏に直接自分の身体を擦りつけているという事への背徳感と、鍛えられた一夏の背中の筋肉の隆起に固くなった先端の突起が僅かに引っ掛かる度に伝わる刺激に、否応無しに下腹部が熱くなるのを自覚していた。

擦れ、ぶつかり合う度に泡のベールが互いの身体を包んでいく。胸だけでなく、同じように塗りたくった下腹部や太もも、自らの叢までも駆使して箒自らの肢体で一夏の垢を洗い落とす。

ぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てて一夏の胸板をまさぐっていた箒の両手が、段々と下の方へと移動していった。とっくの昔に屹立していた男の証に触れた途端、素っ頓狂な声がシャワールームに木霊した。


「ちょ、箒、そこまではしなくていいから!」

「なあ一夏。私は、お前を満足させられているか?私は、ちゃんとお前を悦ばす事が出来ているのか?」

「あ、当たり前だろ。俺だって箒にこんな事してもらって嬉しいけど・・・・・・・・無理、しなくていいんだぞ」

「む、無理などしていない!私が一夏にこうしてあげたいんだ!もっと一夏に悦んでもらいたくて、もっと一夏と触れ合いたくて、もっと、一夏と―――――」


唐突だが、一夏は自分が箒の事を愛おしく思っている事にこの時ようやく思い至った。

凛々しく、強く、美しく。そんな彼女がここまでこんな自分に健気に、ここまで大胆に接してくれる。そう改めて理解した瞬間、無性にこの少女を抱き締めたくなって、迷わず実行に移した。

彼女の中で激しく脈打つ鼓動が伝わってくる。きっと彼女もとても恥ずかしかっただろうに、それを抑え込んでここまでしてくれてきた事をとても嬉しく感じた。


「いち、か?」

「ゴメンな、箒。ここまでしてくれるぐらい箒が俺をどう思ってくれてるのかとっくに気付いてたってのに、ハッキリ答えを出さないままで」


この気持ちが明確な恋心なのかはまだ分からない。

敢えて言うならこの感情は『独占欲』と呼ぶべきか。こうして身を捧げてくれる幼馴染を自分の物にしたい。彼女の気持ちが他の男に向かないようにしたい、そんな衝動。

――――それとも、この独占欲もまた恋心の一片なのかもしれない。


「い、一夏が謝る必要はない。これも、私の我儘だから――――」

「それでもさ、ここまで大胆な事してくれる可愛い女の子に答えを出さないままじゃ男としちゃ最低だろ?・・・・・・いや、とっくに最低かもな」


今なら五反田の気持ちが分かる。女の子と話をしたりする度しょっちゅう呆れられたりしてたけど、きっとそれはその女の子達がこんな自分に好意を向けてきていた事に気付いていたからだと思う。

事ある毎に「殴って良い?つか殴らせろ」とか言われてたのも懐かしい。ゴメン五反田、今ならお前に殴られても仕方なかったんだって理解出来たよ。


『――――上達したら、毎日あたしの―――――――』


思考にノイズ。何だか昔の記憶の断片が蘇ったが、今はそれどころじゃない。


「せめてこれだけは、俺の口から言わせてくれ」

「いちか・・・・・・」


ああもう、こんなに可愛かったって箒って?無性に抱き締めたくなったけど我慢。もし今実行に移したら告白する前に襲いかかりそうだから。耐えろ俺。

唐突に度々シャルロットの事でミシェルが脅しをかけてくる気持ちがよ~く理解出来た。

大事な大事な自分の伴侶に他の男が色目使って、そりゃあ怒髪天突くってもんよ。


「箒・・・・・・・俺は、お前の事が――――――」









一夏が言い切る前に。

シャワールームを隔てる扉が勢い良く開け放たれた。




「――――――教師からの呼び出しを無視して乳繰り合うとは、いい度胸だな。貴様ら」

















「あ、ありのまま起こった事を話すぜ!
『俺から箒に告白しようと思ったら、気が付くといつの間にか千冬姉の部屋で正座させられていた』
な、何を(ry 」

「ポルポル乙・・・・・・で、告白のタイミングを潰されたせいで篠ノ之があんな風に燃え尽きている訳か」

「朝まで床に直接正座させられたよ・・・・・・今でも足の感覚がおかしいっての。結局言えずじまいになっちゃったしさあ」


椅子の上で足を揉みほぐしつつ溜息。ダウナーな箒とミシェルの顔から滲み出る無意識の威圧感により、周囲が遠巻きにしているせいで聞こえていないのは幸いだった。

一夏が箒に告白しようとしてた事を聞きつけたら最後、これまで以上の大騒動が勃発していたに違いない。


「しばらく箒は千冬姉の部屋で寝泊まりして俺1人であの部屋使えってさ。元々人数調節の問題で俺が1人部屋になるのは決定してたらしいんだけど」


箒があそこまで凹んでいるのは一夏と部屋を引き離された上に鬼教師の部屋で寝食を過ごさなければならない事への恐れもあるのかもしれない。


「本当、何でよりにもよってあのタイミングで千冬姉が来るんだよ・・・・・・」

「・・・・・・とりあえずは、ご愁傷様という他ないな」


机に突っ伏していた一夏が何処か恨めしげにミシェルを見上げる。


「あのさ、ふと気になったんだけど、ミシェルがシャルロットに告白した時はどんな感じだったんだ?今後の参考の為にも切実に聞かせてほしいんだけど」

「ふえっ?えっと、それは、言わなきゃダメかな?」


何故かシャルロットの方が照れている。問われた張本人は対して動揺した様子もなく肩を竦めてみせてから、


「参考にならんと思うぞ・・・・・・何せ、初めて出会って1時間足らずで即プロポーズしたからな」


そりゃ参考にならねぇや、と再度机にへばりつく一夏であった。






「ところで一夏は転校生の噂聞いた?」

「転校生?今の時期に?」

「ああ・・・・・・何でも、中国の代表候補生だそうだが・・・・・・」

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」


話題転換したシャルロットとミシェルの言葉に首を捻っていると、話を聞きつけたセシリアが会話に加わった。

他のクラスメイト達が相変わらず彼らの周りに近付けていないことを踏まえれば中々の度胸と言える。

一夏の元にセシリア―間違いなく自分の恋敵の1人―に気付いた箒もorzモードからようやく復活して友人の輪に乱入。


「このクラスに転入してくる訳ではないのだろう?騒ぐほどの事でもあるまい」

「もしそうだったら幾らなんでも偏り過ぎだもんね」

「確かに、な・・・・・・」


ミシェルにシャルロット、セシリアという代表候補生が3人、専用機持ちなら一夏も加え4人。

一夏達の学年で専用機持ちが他に4組に1人しか居ない点を踏まえると、抗議が出てきてもおかしくない偏り具合だ。

まあそれはともかくとして。


「にしてもようやく復活したな箒―――――それでさ、昨日の事なんだけど」

「あ、あ、ああ、ああああああっ!?」


上ずっている。箒の声が激しく上ずっている。

身悶えしそうなのを必死に堪えているみたいにプルプル震えつつ真っ赤な顔の箒の様子に、ハイパーセンサーよりもより限定的かつ鋭敏なセシリアの恋する乙女センサーが緊急警報。

こ、この反応は一体何がありましたのっ!?とガクブルしながら今は展開を見守る事しか出来ない。


「・・・・・・ああクソっ、こういうのって時間が経つと決意が薄れるんだよな」


そう吐き捨て頭を掻き毟る一夏。セシリアの警戒レベル一段階上昇。


「必ず、俺の方から答えてみせるから。ちゃんと、俺から告げてみせるから―――それだけの決心がつくまで、待ってもらえないか?」

「も、勿論だ―――――これまで6年間も待ったんだ。もうちょっと位なら、待ってやらなくもないぞ」

「ホントごめんな、待たせてばかりで」


ミシェル達が見守る前で箒は口ではそう言いつつも、待ち遠しさと喜びで弾けるギリギリ手前な雰囲気を漂わせながらはにかんだ。

遠巻きに眺めていた同性のクラスメイト達さえ魅了しそうなくらい美しい笑み。セシリアの警戒レベルデフコン1.既に敵は警戒ラインを突破済み!

やはり同棲していると此処まで一気に差がついてしまうものなのか。いや、まだセシリアの戦いは終わっていない、筈!!


「そ、そうですわ一夏さん。クラス対抗戦に向けてより実戦的な訓練をわたくしと行いませんか?何せわたくしも専用機持ちですし、現在専用機を持っているクラス代表は1組代表の一夏さんと4組のみ――――」







「―――――その情報、古いよ」







一夏にはとても聞き覚えのある声がした。彼以外の人間は初めて聞く少女の声だった。

一夏達のみならずクラス中の千人が声の主へと振り向くと、小柄でツインテールで強気そうな少女が教室の入り口に王立ちしている。


「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

「鈴(リン)?お前、鈴か?」

「そうよ、中国代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」


胸を張って(女性的に『胸』の範疇に入るかはともかく)そう堂々と言い放つ少女―――鳳鈴音に対し、


「何格好つけてるんだ?すっげぇ似合わないぞ。それからそこに立ってると通る人の邪魔だから」

「んなっ!?・・・・・・・あ、アンタってヤツは相変わらず人の上げ足を取って・・・・・・!」

「いやでも本当の事じゃん。ほら後ろ」

「おい」

「何よ!?」


ズベシッ!!

見事な出席簿による一撃が入った所で鬼教師、織斑千冬の登場である。

中学時代から苦手だった千冬に自分の教室に戻るように指図されて、結局その後は良い所を全く見せる暇もなくすごすごと退散した鈴であった。













一夏の説明曰く、鈴は箒と入れ違いになる形で転校してきた友人との事。

鈴も中2の終わりぐらいに中国に戻ってしまったので、再会するのは1年ぶりなんだとか。

昼休み、食堂で昼食を取りながら簡単に自己紹介をし合う。


「僕はシャルロット・デュノアっていうんだ。一応フランスの代表候補生なんだけど、よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いね。で、こっちが・・・・・・」


含みの混ざった眼差しをシャルロットの隣に座るミシェルへと向ける。

仏頂面と勝気な瞳がぶつかり合い、ミシェルの方から大きな手がズイッと差し出された。


「・・・・・・ミシェル・デュノアだ。よろしく頼む」

「鳳鈴音よ。話はテレビ以外にも一夏からも色々と聞いてるわ。一夏の命の恩人なんだっけ?」

「ええっ、そうなんですの!?」


自己紹介の場で1人鈴からぞんざいな扱いをされたセシリアだったが、鈴はそっちは気にせずミシェルの額に深い皺が刻まれるのを見て取った。


「・・・・・・そんな大層なものじゃない。ただ友人を助けに入ろうとしただけだし、結局俺は何も出来なかったのだからな」

「でもさ、あたしも昔はよく一夏助けてもらったりしてたんだけど、しょっちゅうアンタや千冬さんみたいに誰かを守れるように強くなりたいって――――」

「すとーっぷ!もう言わないでくれ鈴後生だからお願いだから本人の前でそんな事言われるとスゲェ恥ずかしいから!」

「あっ、え、ええゴメン一夏。つい口が滑っちゃって」


必死にテーブルにひれ伏す勢いで頭を下げる一夏と咳払いで誤魔化す鈴。


「とにかくそっちも前からの一夏の友達みたいだし、仲良くしましょ」

「あ、ああ・・・・・・・」


手の平を叩きつけるような勢いで、躊躇い無く鈴はミシェルの手を握った。サイズが違い過ぎるせいで完全にミシェルの手を握れてないが、お構い無しに手をブンブン上下させる。

それから先に握手を求めてきた相手の方が、虚を突かれたような様子なので、首を捻った。


「何驚いた顔してるのよ?」

「・・・・・・・・・いや、な・・・・・・初対面の女性にこうして普通に接してもらえたのがもう何年ぶりな気がして・・・・・・」


くぅっ、と熱くなった目頭を押さえてミシェルは天を仰ぐ。鋭く細い眼の端が僅かに光っている。

泣くほどの事なんだろうか、と一夏やセシリア辺りはそんな考えを抱いたが、ミシェルの身なりを考えると嫌でも納得出来てしまった。自分達だってミシェルと発遭遇した時はやや腰が引け気味だったし。

シャルロットはあわあわとハンカチを取り出そうとしている。箒は箒で見た目超強面な同級生の中身のギャップに呆れ半分驚き半分。

鈴だけが、ふーんと興味なさげにラーメンを啜る。彼女の場合、国に居た頃は軍関係者ともよく顔を合わせていて彼の様な厳めしいタイプの人間にも慣れていた、というのが平然とミシェルに接せれる彼女の事の真相だったりする。

ちなみにミシェルもラーメンを注文していた。鈴は普通盛りの醤油ラーメンだがミシェルの方は大盛り豚骨ラーメンである。


「・・・・・・西洋人にしては箸の使い方上手いじゃない。麺も上手く啜って食べれてるし」

「確かに、外国の人って麺類とか啜って食べるのが苦手っていうよな。セシリアとかシャルロットとかもスパゲティとか食べる時凄く丁寧っていうかさ」

「それは当り前ですわ。淑女として礼儀作法をきっちり叩き込まれていますもの!何処かの誰かさんとは違いますのよ!」

「へーそれって誰の事言ってるのかしらねぇ?」


さっきまで豪快にラーメンを食べていた鈴の額に井桁マークが浮かぶ。


「むしろ僕らの方じゃあんまり音を立てて食べる事自体マナー違反って感じだからね。音を立てて食べるって文化は日本限定なんじゃないかな?」


某カップヌー○ルも西洋版では麺が短めに加工されているとか。

日本食の流行でそういった日本独自の食べ方も広まってはいるがそれはその店の中だけの話であって、それ以外の場では周囲の顰蹙を買うので海外旅行の際にはご注意を。

話題は再び変わり、


「一夏、アンタクラス代表なんだって?」

「まあな、半分成り行きだけど」

「でも何となく、一夏なら仕方ないって思えるわ。アンタ昔っから強かったもんね」

「そうそう、セシリアさんと戦ってた時の一夏、凄かったったんだよ」

「うむ、あれぞまさに武士と呼ぶに相応しい勇猛果敢かつ見事な戦いぶりだったな」


最早噛ませ犬状態で敗れた張本人であるセシリアが呻いていたが無視。


「ふーん・・・・・・あ、あのさぁ、ISの操縦、見てあげても良いけど?」

「いや、そっちはミシェルとかに見てもらってるから別にいいぞ」


快活な雰囲気からは珍しく歯切れが悪そうに、言ってしまえば恥ずかしそうにしながらも申し出た鈴の提案を一夏は一蹴してしまった。

椅子の上でこけそうになる鈴と、その反対側で彼女の考えに気付いた箒とセシリアが密かに邪笑。対照的な少女達の様子にシャルロットは苦笑し、ミシェルは黙って麺を啜る。


「そ、そう。それは仕方ないわね、残念だけど・・・・・・」


本当に、残念そうだった。


その後は鈴の実家が前は中華料理屋をやっていた事など、取りとめの無い話を交わしてから鈴と分かれる事になった



















そして放課後の訓練タイム。

今日使用する第3アリーナには『5人分』の巨大な人影が存在した。


「ちょっと待てぇ!どうして貴様がここに居る、セシリア・オルコット」


訓練用の日本製第2世代型量産IS<打鉄>を身にまとった箒が、激昂しながら招かれざる客であるセシリアに巨大な刀を突きつけた。

向けられた側はしれっとした顔で、


「いえいえ、わたくしは一夏さんに直々に対遠距離射撃戦での手解きを行おうかとはせ参じただけですわよ?」

「その射撃戦で刀1本の一夏に負けた張本人が何を言う!」

「な、ぬぁんですってぇ!?」

「ええい此処から立ち去れ!一夏との訓練は私以外はあの2人だけで十分だ!ただでさえ千冬さんにいい所で邪魔された上に同じ部屋で共に過ごす事も出来なくなったばかりだと言うのに!」

「絶対後半部分の方が本音でしょうそれ!こちらこそ貴女ばかりに良い思いをさせる訳にはいきませんのよー!」


近接装備を展開したセシリアと箒がチャンチャンバラバラガチンコファイトをおっぱじめてしまった。ついでに2人共思いっきり一夏目当てである事を本人の前でぶっちゃけてしまっている。

あ、セシリアのライフルまで火を噴いた。流れ弾には注意してもらいたい。


「やっぱりモテてるねー一夏って」

「・・・・・・だが同じ男からしてみれば余り羨ましく思えないがな」

「スマン箒、あと1秒早く俺が決心して告白していれば・・・・・・」


そりゃ嫉妬とかに駆られて一々IS引っ張り出すような女子は冷静に考えなくても迷惑千万でしかなかろう。

一夏が女性関係で白黒つけてしまえば手っ取り早そうなのだが、箒はもうちょっと待たされる事になりそうだ。ゴメン箒、でも一旦告白するタイミング外すと告白し直すのってすっごい度胸が要るんだって!

――――人それを『ヘタレ』という。

と、ぶつかり合っている箒とセシリアを見たシャルロットが名案を想いついたとばかりに手を打った。


「ねえ皆、ペアを組んで2対2の模擬戦しない?丁度射撃型と格闘型が2機づつ居るんだし。僕が審判やるね!」

「「なら私(わたくし)が一夏(さん)と!」」


取っ組み合いながら立候補する雌豹2匹。互いの発言を耳にすると、お前が言うなと再度睨み合う。

肉体言語も交えた議論は平行線で、譲り合う気配は全く無い。これはしばらくかかりそうだ。





















「なあミシェル、一緒に組んでくれね?」

「・・・・・・それは構わないが、お前が原因なんだからあの2人を止めに入るぐらいはしてくれ、色男」


一方一夏はミシェルを選んだ。







[27133] 1-8:Fire in the hole!/友情
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/11 10:14
俺が自分を鍛える事が好きなのは、間違い無く前世の『俺』の死に方が関係している。

神経を侵す原因不明の奇病。四肢が少しずつ少しずつ動かなくなり、やがて呼吸器も機能を停止してしまう病。

何も感じなくなる事こそが何よりも苦痛だった。触覚や痛みが日に日に感じなくなり、身体が動かなくなっていく事への恐怖は筆舌に尽くしがたい。実際俺がベッドの上から動けなくなる頃には髪が100歳の年寄りみたいに真っ白になっていた。

死の闇に引きずり込まれる間際に感じたのは、このまま死んでしまう事への恐怖と・・・・・・これでようやく真綿で絞められるような地獄から解放される事への安堵感。




『ミシェル・デュノア』として転生した事を理解し、受け入れ、そして思ったのは――――こうやって自由に自分の手足を動かせるのがなんて素晴らしいんだ、って事だった。

だから俺は身体を動かし続けた。疲労も苦痛も『俺』に心地良い生への実感を感じさせてくれた。

初めて握った本物の銃の感触。初めて引き金を絞った時のあの反動。それもまた俺には甘美な体験で、とにかく撃ちまくった。腕も磨いた。

単なる銃の扱いだけじゃなく、家の伝手でPMC(民間軍事会社)のインストラクターに戦闘テクニックを叩き込んでもらった。

正確には親父の同業者の武器商人の私兵集団だったんだけど、皆気の良い人達ばっかりだったし(年齢的には)俺と同じ位の少年兵まで居たのが印象深い。今もココさんはヨナ達を引き連れて武器を売りに世界中を回っているに決まってる。




そして、今度は銃片手に本物の『闘争』を体験して、その代償に生死の境まで彷徨ってしまった俺は、理解した。

―――――闘争もまた、今の『俺』に生を感じさせてくれる存在なんだと。

・・・・・・シャルロットには負けるがな。






つまり、何が言いたいのかというと。

自分を本気で殺しにかかる敵との殺し合いよりは少しばかり劣るが・・・・・・実戦ほど命の危険性は限りなく低いとはいえISによる戦いも、それなりに悪くないという事だ。
























十数mの間隔を空けて一夏とミシェル、箒とセシリアが各々ISを身に纏ってアリーナの中央で向き合っていた。

女性チームの方はお互いにガンを飛ばしまくっていて、2人仲良く(?)気分最悪殺気満点といった感じである。その様子に一夏は冷や汗を流し、ミシェルは無表情で何を考えているのか読み取れない。何故か頭部全体を守るヘルメットと赤いバイザーだけ展開していなかった。


「早く構えたらいかがです?」


一夏の<白式>は<雪片弐型>、箒の<打鉄>は近接ブレード、セシリアの<ブルー・ティアーズ>は<スターライトmkⅢ>を展開済み。

1人武装を展開していなかったミシェルだが、セシリアに言われ遂に戦闘態勢に入る。その姿を見た瞬間、一夏は驚き箒は呻きセシリアは機体色並みに顔色が青くなった。

一瞬の内に人間武器庫が出現していた。右手には銃口の横側から銃剣が生えた細長いショットガン。左腕には菱形の盾と一体化して腕部装甲に装着された3連銃身のガトリング砲。

両肩の上からは砲身が伸び、しかも左右で形状が違う。根元の機関部は背中の箱型スラスターの両横に取り付けられ、更にその下にはそれぞれ大きな半球形のパーツ。

盾の様な棺桶の様な1対のアンロックユニットも加わって、とにかく不沈戦艦みたいな威圧感がミシェルから放たれ始めている。

マズい、アレの相手は危険過ぎる――――箒とセシリアの本能が一致した瞬間だった。一夏は味方で良かったと心から安堵した。

ミシェルは首をボキボキと鳴らしながらゆっくりと大きく回し、それからまっすぐ箒とセシリアを見つめた。

まるで獲物を捉えた猛禽の様な目で。


「・・・・・・それではそろそろ始めるとしよう」


1人ピットに入ったシャルロットが試合開始のブザーを鳴らした。

ミシェルの顔がバイザーに隠れる間際・・・・・・その顔が獰猛な笑みを浮かべているのをセシリアの目が捉え、背筋を震わせた。







「――――戦争の時間だ」








彼の言葉が、彼自身の手によって現実の物となる。

ブザーが鳴り終わった瞬間、箒とセシリアに同時にロックオン警報が宣告された。

一夏は射撃兵装を持たない―そもそも射撃用のFCSすら搭載されていない―のでミシェルがロックオンしたに違いないが、次いで放たれたのはショットガンでもガトリング砲でも両肩の砲塔でもなく。

――――半球形のパーツが左右に割れ、円を描くように配置された大量のマイクロミサイルが姿を晒す。


「か、回避ですわー!」

「言われなくとも!」


ロックオンされた2人がそれぞれ別々の方向へ跳躍すると同時に左右のミサイルポッド、<ホーネット・ネスト>から大量のミサイルが解き放たれた。

左右大外から挟み込む軌道で降り注ぐミサイル。セシリアはレーザーライフルで数発撃墜し箒は回避機動で振り払おうと試みるが、捌き切れず周囲に着弾。一気にシールドエネルギーを失ってしまう。

そこへ加わる左腕のシールドガトリング<グリムリーパー>の掃射。

<グリムリーパー>は武装ヘリや巡視艇向けのGAU-19ガトリングガンをIS用に改良した物だ。12.7mmライフル弾を分速1500発という速さ(IS向けに連射速度を調節済み)ばら撒く。

大きく薙ぎ払われた弾丸の鎌は箒とセシリアに十数発ずつ命中した。シールドに激突した途端、小さな爆発が起こったのに気づいたセシリアは悲鳴を上げた。


「爆裂弾を使用しているの!?」


シールドが存在する限り50口径弾程度では貫通はしない。

が、対IS用爆裂弾は命中する度に発生する爆発により、普通の弾丸よりもシールドエネルギーを多く消費させる事が目的の弾丸だ。もちろん直接ISに当たっても効果的である。

これはマズい。防御じゃなく回避に専念し続けなければならない。

と、低い姿勢でミシェルへと迫る影。箒だ。


「それだけの装備なら動きは遅かろう!」


素早く踏み込み飛び上がると近接ブレードを振りかぶる箒。ミシェルは回避しようともせず、その代わりアンロックユニットの片方がその大きさには似合わない機敏な動きでミシェルと箒の間に割り込んだ。

箒の一撃が浮遊する盾、<シールド・オブ・アイギス>に触れる事はなかった。刃がぶつかる寸前で、箒の動きそのものが固定されていた。


「な、何っ!?」

「俺の存在を忘れんな!」


停止した箒の頭上を覆う影。一夏が後ろからミシェルを飛び越え、箒に襲いかからんと<雪片弐式>を構える。


「させませんわ!」


セシリアの援護射撃が一夏を掠める。そこからビットによる包囲攻撃。一夏とミシェルが揃ってそこから離れて回避すると、また箒は動けるようになった。


「今のは一体何だと言うのだ・・・・・・?」

『あれはAIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーだよ。ドイツで研究されていた物で、元々はISにも搭載されているPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を発展させたものなんだ。物理的な攻撃をほぼ無効化しちゃう機能なんだけど、それを<ブルー・ティアーズ>のビット機能と組み合わせて攻防両方の性能を持たせた装備なんだ』

「何と面妖かつ厄介な・・・!」


わざわざピットから繋いでくれたシャルロットの解説に感謝しつつも思わずそう吐き捨ててしまう。つまり下手に近づけないという事ではないか!

箒が歯噛みした所で急に<シールド・オブ・アイギス>の先端が向けられたかと思った次の瞬間、光弾がシールドに命中してその衝撃によろめいた。

成程、オリジナルと同じくレーザー砲も搭載している訳か。涙が出てきそうだ。しかもセシリアと違いビット単体のみならず、ミシェルまで攻撃に加わっている始末。

その代わり1対の大型ビットはミシェルから数m程度の距離しか動こうとしない。<ブルー・ティアーズ>と違ってオールレンジ攻撃ではなく防御・迎撃を優先した結果なのだろう。

攻撃が止み、入れ替わりに一夏の<白式>が箒に向かう。


「俺が相手だ、箒!」

「望む所!」


刃と刃が激突する衝撃音。

一方ミシェルの<ラファール・レクイエム>は<ブルー・ティアーズ>との1対1に移る。透き通るような蒼い機体と凶暴さを感じさせる全身の黒と赤が対照的だった。

多方向から畳みかけようとビットを飛ばす。するとミシェルの左肩上部に突き出た砲塔が動きを見せた。対空砲の様に長い砲身が2つ横に並んでいて、砲身の直径そのものはやや太い。

専用のFCSからの命令により砲塔が旋回し、2本の砲身が根元から上下に動いてから双門機関砲が火を噴いた。やや遅めの連射速度だが初速そのものは高速で吐き出された砲弾は、セシリアが展開したビットへと突き進み。

空中で砲弾が次々と爆発し、撒き散らされた破片にビットが巻き込まれた。


「空中炸裂弾!?」

「・・・・・・駆逐艦にも採用されてる機関砲の改良型だ。空を飛ぶ物を撃ち落とすのは得意だぞ」


<レインストーム>も艦艇や装甲車に搭載されていた既存の兵器をIS用に転用・改修を加え、砲身を単式から連装に変更した代物である。

<ブルー・ティアーズ>のレーザー射撃主体の攻撃とは違い、放たれ続ける実弾と炸薬の着弾は直撃せずとも撃たれている側に影響を与えていく。

周囲で鳴り響き続ける着弾と爆発音の連打。シールドと絶対防御の存在を理解していても晒され続けるのはセシリアの感覚を、何より精神を蝕んでいった。


「これはっ・・・・・・堪りませんわね・・・・・・!」


誰が好き好んでこんな目に晒され続けたいものか。成程、確かにこれは『派手』で、まるで『戦争』でもしているかのような激しさだ。山田先生がトラウマになったというのも嫌という程理解出来た。

連装機関砲の砲弾はセシリア自身にも襲いかかり、大きい部類とはいえ『銃弾』に分類される50口径弾を遥かに超える爆発が周囲を揺さぶる。

セシリアの身動きが封じられている間に、ミシェルは自由な右手に握るショットガンで他のビットも撃墜していった。セシリアが機関砲の銃撃に嬲られ続けるが為に、殆ど操作を放棄されたビットを散弾で撃ち落とすのは容易かった。

いつの間にかセシリアはアリーナの壁際に追い詰められていた事に気付く。ビットも4機失った。シールドエネルギーも今や半分以下。まさにジリ貧。

せめて一矢報いるべく、連射の僅かな切れ目を狙って腰部に残されていたミサイルを発射した。反射的に<レインストーム>はミシェル目がけ飛来するミサイルの方に向けられ、見事撃墜してみせる。

それで十分だった。アリーナの壁に沿って瞬時加速。<レインストーム>並びに右肩の固定式大口径砲の射界から逃れ、ミシェルから見て右方向へ回り込むよう横滑りしながらレーザーライフルを構える。


「このタイミングなら―――――っ!?」


セシリアにとって不運だったのは、砲撃の射界から出来るだけ遠ざかるべくミシェルの真横まで移動した事で、彼のすぐ横に浮かぶ<シールド・オブ・アイギス>にミシェルの姿がすっぽり隠れてしまう位置取りをしてしまった事だ。盾に隠れで何処も狙い撃てない。


「(ならば早くこちらを向きなさい!私に再度狙いをつけようとしたその時こそ、わたくしの射撃が貴方を貫きますわ!)」


セシリアにはそれだけの技量がある。無理に瞬時加速を使ってしまった為に、これ以上高速機動を行うエネルギーも残っていない。

幾ら頭まで装甲に守られていても、<スターライトmkⅢ>の威力ならば直撃さえできれば絶対防御を発動させれる筈。この一弾に、全てを賭ける。




―――――ミシェルの攻勢が余りに驚異的過ぎ、容赦ない砲火を浴びせられ続け追い詰められていたセシリアは忘れていた。




「だから俺を忘れんなって」

「そちらに行ったぞ、オルコット!」

「えっ?」


振り向けば、アリーナの反対側で箒と戦っていた筈の一夏の姿。

背中を<雪片弐型>で斬りつけられ絶対防御発動。<ブルー・ティアーズ>のシールドエネルギー残量0。

セシリア・オルコット、撃破。


「・・・・・・フォロー、助かった」

「へへっ、良いって事よ」


箒と鍔迫り合いを繰り広げていた最中、一際大きな爆発が起きてからハイパーセンサーでセシリアがミシェルの横に回り込んだ事を察知した一夏も瞬時加速を起動し、セシリアの背後を取ったのである。

箒が一夏との戦いに夢中でセシリアへのフォローがその瞬間まで頭に無かった事と、瞬発力に優れた<白式>だからこそ成功した奇襲だった。


「これで残るは・・・・・・」

「箒だけ、だな」

「くっ!」


箒も矢継ぎ早に銃撃砲撃を撃ち込んでくるミシェルと、と自分を上回る剣技の持ち主である一夏相手にたった1人で凌ぎ続けれる訳もなく。

あっという間に箒の<打鉄>もシールドエネルギーを枯渇させられ、黒星をつけられるのであった。












「いやー、前に聞いてて何となく分かってたつもりだけど、本当に派手だったなミシェルのIS」

「・・・・・・否定はしない。俺がトリガーハッピーなケがあるせいもあるが、ああいう戦い方もそれなりに有効だからな」


模擬戦が終わってから涙目でセシリアに詰め寄られた。「し、死ぬかと思いましたわ!」とは本人の言い分。

一夏もこればかりはセシリアの気持ちがよく分かった。そりゃあんな弾幕誰が相手にしたがるもんか。

今度はミシェルが<ブルー・ティアーズ>のビットを撃墜してしまったので再度修理に出さなければならないという。その辺りがミシェルはちょっと申し訳ない。


「はい2人共お疲れ様」

「・・・・・・ありがとう、シャルロット」


2人と同じピットの方に居たシャルロットがタオルとスポーツドリンクを手渡してくれた。


「サンキューシャルロット。でも動いた後だったらキンキンに冷たいと身体に悪いから、こういう時はむしろぬるめの方がずっと身体に良いんだぞ」

「えっ、そうなんだ。じゃあ今度からそうした方が良いかな?」

「・・・・・・気遣ってくれるのは嬉しいが、不健康な物ほど気持ちいいのがジレンマでもある」


歩きながら談笑する。3人分の足音にミシェルの義足が床にぶつかるゴツン、ゴツンという音が加わった。


「何となく思ったんだけどさ」

「えっと、何の事?」

「ミシェルのIS。実習で最初に見た時からそんな気がしてたんだけど、ミシェルのISって他の機体とずいぶん感じが違うんだよ。武装とかもそうだし」

「・・・・・・より兵器的で実戦的、という事か」

「そうそれだよそれ、そんな感じ。一応剣の修行してた時にそういう心構えとかも千冬姉や兄弟子の人から叩き込まれたりしたせいかもしんないけど、ISも一応立派な『兵器』だろ?他の人達はそこら辺どう考えてるのかよく分からないんだけど」

「そうかもね、確かにISにそこまで詳しくない人達からしてみれば、むしろファッションの1つぐらいにしか考えてない人も結構多いもんね」


その辺りには女性しか扱えない、というISの特性が深く関わっているのだろう。

最近ではIS絡みの本といえば軍事的・兵器的な観点を含めた物ではなく、IS(並びに水着同然のISスーツ)を身に纏った見麗しい美女・美少女達のグラビアをまとめた写真集などの方が評判だとか。

そういった流行がより世間が持つISに対する概念を歪めていっている、のかもしれない。


「でもミシェルのISとか使ってる武器とか、それこそ兵器っぽかったからさ。おかしな話かもしれないけど、ISが無い実際の戦場とかあんな感じなんだろうな、って思ったんだよ」


一夏もまた『実戦』の空気を知っている。目の前で人が傷つき、死んでいく光景を目の当たりにした事がある。敵意を持った相手に囲まれ、自らの命を守る為にその手で敵を打ち倒す感触を一夏は知っている。

ミシェルの義足を目にする度、その記憶が蘇るのだ。剣を振る度、その感触を思い出すのだ


「やっぱり忘れちゃダメなんだろうな。ISってのはさ、武器で、力なんだよ。誰かを傷つけ、殺せる兵器なんだって事を」


右腕の待機形態の<白式>に目を向ける。

そう、『コイツ』も竹刀や木刀や真剣や銃と何ら変わりない。扱い方1つで守る事にも殺す事にも使える手段の1つでしかないのだ。

かつてミシェルが銃を使って一夏を助けに入った時の様に。そしてまた別の人間の銃によってミシェルが撃たれ、片足を失った時の様に。









―――けれど。

このISを作った『あの人』は―――――本当は何を考え、こんな『力』を生み出したのだろう?










「・・・・・・だが結局、人を傷つけ、殺すのは、人そのものだ」

「それも分かってる。だけど、そうならない為にもこの力がどういう存在なのか、理解しとかなきゃダメなんだと俺は思う」


『コイツ』に振り回されて自分や他人を傷つけない為にも、大切な物を守る為にも―――――もっと『コイツ』を理解し、そして自分自身もまた高めていかなきゃならない。

だがそれを自分1人でやってみせるなんて啖呵をあっさり言い切れるほど、一夏は自信家ではない。


「出来たらで良いんだけどさ、これからも偶にで良いから、訓練に付き合ってくれないか?ずっと俺1人だけで続けるだけじゃ限界があるだろうし」

「・・・・・・何を今更。俺自身こうやって鍛え合うのは嫌いじゃない。幾らでも付き合おう」

「僕も一夏がそうしたいんだったら幾らでも手伝うよ?だって友達だもん」


ミシェルは、ほんの僅かに唇の端を持ち上げただけだが間違いなく笑みを浮かべ。

シャルロットは太陽の様に温かく、見る者を安堵させる優しい笑顔で。

『友人』からの頼みに即答してくれた。

そして一夏も笑った。目の端を、ちょっとだけ光らせながら。


「・・・・・・ようやく本気で、この学校に来て良かったって思った気がするよ」






―――――――こんな友人達に出会えて、本当に良かった。














=====================================================

ミシェルのISのイメージは赤以外の部分が黒に変わったヴェルデバスターでどうぞ。武装は殆ど違いますが。


あとこのままその他板で続行します。だってこの先えっちいシーン挟むスペースが思いつかないんだもん!
とりあえず2巻終了まで続けます。というか、2巻からが本番です。



[27133] 1-9:約束の行方/恋は戦争?
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 15:49

「あ、あのさ、一夏―――――約束、覚えてる?」

「えーっと、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――――」

「そ、そう、それ!」

「――――奢ってくれるってやつか?」




「最っ低!!死ねっ、この馬鹿っ!!!」


ぶぁっちーん!!!!















「――――てな感じで、その場に居た箒からも『馬に蹴られて死ね』ってお言葉を頂いたんだが」

「・・・・・・で、その理由が分からなくて俺達に聞きに来たと?」

「そう、そんな感じ」


ベッドに腰掛けたミシェルは、顔に刻まれた紅葉の痕が痛々しい一夏の言葉に頭を抱えてしまった。

そーいやそういうイベントもあったようなあったような。2次創作でも大概出てきたイベントだから一応記憶には残っているけど、改めて当事者の口から聞くとうん、頭痛を覚えてしまう。


「うーん、約束の意味はよく分からないけどとりあえず僕も一夏はライオンに噛まれて死んじゃえばいいと思うよ?」

「よく分かってないのに笑顔で女の子がそんな怖い事言わないでくれよ!?」


ちなみに何故ライオンなのかはプジョーというフランスの有名な自動車メーカーの企業ロゴがライオンだからだったり他にも理由があったりなかったり。とりあえず乙女(但し非処じウボァー)的に鈴と箒側だ。これで3対1。尚も情勢は悪化の一途。

シャルロットはミシェルと同じベッドの上に女の子座りの姿勢でミシェルに寄り掛かっていた。彼の腹辺りに両腕を廻し、時々猫みたく顔を擦りつけている。

むしろシャルロットは子犬属性じゃなかろうか、などと益体もない感想を一夏は抱いてしまった。ほら、ミシェルに頭撫でられた途端高速回転するゴールデンレトリバーの尻尾が容易に幻視出来たし。

というかシャルロットの格好は地味なようでシンプルかつスタイリッシュなデザインのスポーツジャージなのだが、身体のラインがよく分かるのでキュッと引き締まった腰のくびれからお尻の曲線とか身長に不釣り合いなぐらい豊かな胸元とかについつい目が行ってしまい。


「・・・・・・・・・(ピキピキ)」

「ゴメンナサイ俺が悪うございましたなのでどうかその安全装置を外した銃をぜひともホルスターの中に御戻し下さい」

「やっぱり一夏も男の子だねぇ。でもそうがっつき過ぎると女の子に嫌われるよ?」

「・・・・・・・・(´・ω・`)ショボーン」

「ごめんごめん、ミシェルは例外だから!むしろ、えっと・・・・・・ミシェルならもっと激しくても構わないかなぁって。ああでも優しくしてくれるのも好きだよ僕」

「いや、何の話だよ


ナニの話ですが何か?






閑話休題


「はあ、わけ分かんねぇ。そこまで怒る約束なのかっつーの」

「でもきっと、鳳さんにとっては大事な約束だったんだと思うよ。彼女、泣いてたんでしょ?」

「うっ・・・・・・ならやっぱり俺の方が間違ってるって事になるのかな」

「本当にその約束をした時の事、ちゃんと思い出せないの?」

「多分小学校卒業する直前ぐらいだろ?そん時は全然余裕無かったからなぁ俺」

「何かあったの?」

「・・・・・・その頃はドイツから戻って来たばかりでさ。ミシェルの事で凹みまくってて、それから絶対強くなってやるって我武者羅だった時期だから」


寝食も忘れ、血豆が潰れても竹刀を振っていたのをよく覚えている。なにせ千冬姉から雷を落とされるまで止めなかったのだから。

そういえば遮二無二自分を鍛えるのに夢中になり過ぎて、鈴や彼女の親御さんからも心配されたっけ。


「・・・・・・スマン」

「いや別にミシェルのせいじゃないって!どっちにしたって俺の責任なんだし」

「もしかして『酢豚を奢ってくれる』って意味合いは似てるんだけど別の言い方だったとか」

「あー、かもしんないな。そんな気がしてきた」


しばし黙考。えーっと確か、あれは放課後の教室で、えっと、え~~~~~~~~~っと・・・・・・・・・


「ああそうだ思い出した!『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』だ!」

「良かったね思い出せて・・・・・・で、それってどういう意味なの?」

「え?えっとそれはだな」


再度首を捻って見解を絞り出す。


「俺は鈴がただ飯を食わせてくれるんだとばかり思ってたんだけど、ならそれぐらいであそこまで怒る訳ないだろうし」

「どうなんだろう、僕もそういう日本語独特の言い回しってあんまり詳しくないし。ミシェルは意味分かる」


シャルロットに話を振られたミシェルは何処か言い辛そうに口を引き締め、頭を掻く。

それから溜息をついてからようやく口を開いた。


「・・・・・・もしかしてそれは、『毎日俺の味噌汁を作って下さい』的な意味合いだったのではないか?」

「それってどういう意味なの?」

「・・・・・・要は日本流の遠回しなプロポーズだ。普通なら男の方から言う言葉の筈だがな」

「へーっ、そうなんだ。日本って変わった言い方するんだね―――――って、あれ、それって?」


少し遅れて言葉の意味が脳に沁み込んだシャルロットは、ゆっくりと一夏の方を見る。

一夏は、固まっていた。顔中冷や汗ダラダラ、落ち着かなさげにミシェルとシャルロットに視線を行ったり来たり。


「い、いや、冗談だろ?そんなの深読みし過ぎだって、あ、あはははははは・・・・・・」


しかし、激昂した鈴が別れ際に見せたあの涙。あれは多分本当にショックの余り浮かんだ涙だったと今更ながら思う。

まさか、鈴は、本気でその約束を?それを自分はすっかり忘れてて、そのせいで彼女を泣かせた?


「・・・・・・・・・・・・最低だ、俺」


呻きながら文字通りの意味で一夏は頭を抱えた。その姿は神に懺悔する敬虔な信徒にも似ていた。

彼は本気で、鈴との約束を忘却していた事を悔いている。当たり前だ、自分は幼馴染の少女の心を深く傷つけてしまったのだから。それを悔わず、何を悔う。


「どうすりゃいいんだ一体・・・・・・」


脳裏を過ぎるのは鈴と、そして彼女同様自分に想いを向けてくれていた箒の顔。

既に自分は箒の事が愛しくて愛しくてしょうがない。だけど鈴もこれ以上傷つけたくない。泣かせたくない。だけど2人の顔を上手く両立させる手立てなんて全く思い浮かばない。

いや、そもそもそんな2人の顔を立ててお咎め無し、なんて打算的な事を考える事自体間違っている。


「とにかく今日はもう遅いからさ、一晩じっくりどう答えるのか考えてから、明日になったら真っ先に謝りに行った方がいいと思うよ」

「・・・・・・そうするわ。押しかけてゴメン」


ノロノロとした足取りで部屋から出ていく一夏の表情は、まるで幽鬼の様だった。

一夏が経ち去ってしばらくしてから、心配そうな表情でシャルロットは呟く。


「これ以上ややこしくならなきゃいいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・こればっかりは、どうにもならん。当事者同士でケリをつけるべき事柄だからな」












1025室には最早一夏1人しか居ない。

全ての電気を消し、窓から射す月明かりしかない部屋の中、ベッドに横たわった一夏の眼差しはぼんやりとしか見えない天井を向いているが、彼の精神は1つ1つ過去を見つめ返していた。

中学時代、もう1人の友人と一緒に騒いでいた頃。あの約束を交わしてからのその日々を、鈴は一体何を考えて過ごしていたのだろうか。一夏にはまったく分からない。


「・・・・・・・・・・」


ふと、無性に声が聞きたくなった。中学の入学式に知り合ってから、鈴が転校してからも卒業するまで一緒だった、定食屋の息子。恐らくは自分と鈴両方相手に最も長く接してきた赤髪の悪友。

勿論携帯に向こうの電話番号は登録してある。この時間なら、今頃バラエティ番組でも見てまだ起きてる筈。


「もしもし、弾か?」

『いよう一夏!何日ぶりの電話だよテメェ!女だらけの学校の感想はどうだ!?』


五反田弾の能天気な大声が耳に突き刺さる。


『羨ましいよなぁ。あれだろ、IS学園の女の子って可愛い子揃いってもっぱらの噂だぞ?つか替われ、今すぐ替われ。にしてもいきなり何で電話してきたんだよ。いや声聞けて嬉しいけど』

「あー、俺も久々に他の男の声が聞きたくなってさ。ほら、この学校って俺以外に1人しか男子がいないから」

『ああ例のファースト男性操縦者な。伝説の傭兵が年誤魔化して入ったんだっけ?』

「・・・・・・本人聞いたら多分泣くからそういう言い方は止めてやってくれ」


割と本気でそう思う。


『それともアレか、また揉め事に首を突っ込んじゃ暴れたりフラグ立てたりしたんだろ?』

「なわけねーよ!相手女の子ばかりなんだぞ!千冬姉に殺されるわ!」

『え、千冬さんも一緒なのか?』

「俺の担任。IS学園でいつの間にか教師やってたんだと」

『納得納得。なんつっても千冬さん『無敗の戦乙女』だもんな』

「それからさ、ついこないだなんだけど鈴も転校してきて―――――」


そこまで言ってから黙り込んでしまう。鈴の泣き顔がフラッシュバックし、電話の向こうで弾が言っている内容も素通りしてしまう。

弾も急に無言になった友人に向けてしばらくは呼びかけていたが、その沈黙の長さに相手がただ言葉を区切った訳ではない事を悟り、軽さの抜けた声に切り替える。


『・・・・・・何かあったのか?』

「―――なあ、弾。俺と一緒に馬鹿をやってた時さ、弾から見て鈴ってどんな様子だったんだ?」

『鈴がどうしたんだ?』

「分からなくなってきたんだ。鈴が俺と一緒に遊んだりした時、本当に鈴は楽しんでくれてたのか・・・・・・実は俺が気付かない所で、鈴を傷つけてたんじゃないかって」

『・・・・・・話してみろよ。アイツと何かあったんだろ』


弾と知り合う以前に鈴と交わした約束。自分はそれを勘違いしてて、そのせいで鈴を泣かせてしまった事。他の友人に指摘されるまで約束の本当の意味すら気付いてやれてなかった事。既に自分は別の少女と情を交わし、告白しようと決めていた事。

今度は弾が絶句する番だった。


『まさか唐変木の極みみたいな一夏が女に惚れた、だと!?オイオイオイオイまさか宇宙滅亡の前触れじゃないよな?』

「・・・・・・弾が本当は俺の事なんて思ってたのか今のでよーく解ったよ」


電話の向こうで咳払いの音。


『とにかくだ。一夏は他の奴から見て鈴が自分と居た時はどんな感じだったのか教えて欲しいんだな?』

「・・・・・・ああ」

『率直に言って、俺の目から見ても鈴がお前と一緒に遊んだりしてる時は本当に心から楽しんでたと思うぞ。鈴が自分なりに一夏にアピールしてたにもかかわらずお前がちっとも気付いてやれなくて、むしろ頓珍漢な答え返されたせいでお前をぶっ飛ばした時も含めてな』

「何だよそれ。でも今思い返すだけでも心当たりあり過ぎて胃が痛くなってきそうだ・・・・・・」

『そう気付いてやれなかった事に今ようやく気付いてやっただけでも十分成長してるって。お父さんは嬉しいぞうんうん』

「お前みたいな父親を持った覚えはない。そもそも親の顔なんて知らねーっての」

『・・・・・・すまん。ともかくだな、鈴が一夏の事が好きたっつーのはアイツの振る舞いからしてあの頃から丸分かりだったな。アピールされてる本人しかその事にさっぱり気付かないんだから、見てるこっちがぶん殴りたくなったぐらいだぜ?』

「ゴメンナサイハンセイシテイマス」


というかそれってもしかして箒と一緒だった頃もそんな感じだったリしたんだろうか。無性に箒にも土下座して謝りたくなってきた一夏であった。


『その癖クラス中の女子どころか他の学年だったり別の学校の女子にもフラグ立ててるし!覚えてるか、お前が剣道の大会に出た時学校中の女子がお前の応援に行ってたの』

「悪い、割と本気で腹切りたくなってきた・・・・・・」


つまりその分鈴をヤキモキさせ振り回してきたという事だ。ずっとあの約束を心に秘めていた彼女を。


「―――――っ」


知らず知らず唇を噛み締めていた。自分の事ばかりにかまけていた自分に、鈴へ何を言えるというのだ。

一夏が強くなろうと思ったのはただ守られるだけでなく、自分の力で大切な人達を守ってみせると決心したからだ。なのに、何という体たらく。




ただ力を手に擦るだけでは、大切な人達の心までは守れない。

鈴の想いに気付けなかった事自体が結果鈴を傷つけたのだとしたら、それは。





「ロクでもないにも程があるぞ俺・・・・・・」

『オイ、一夏、ナニ1人鬱ってんだ』

「俺はさ、これ以上鈴を泣かせたくないんだ。だからって鈴との約束を受け入れると、今度は他の、俺から気持ちを伝えるって約束したもう1人の女の子を泣かせる事になっちまう」

『お前なんてNice boatされちまえ――――と言いたい所だが、一応親友だから許してやろう。で、俺としてやはり長い付き合いの鈴を応援したい所だが、結局決めるのは一夏だ。だからお前が決めて、お前自身で決着をつけろ。当事者じゃないし恋人も居ない俺には、それぐらいしか言えねーや』


口調はいつも通りの段だった。けれど声そのものはとても真剣で、なのにとても温かかった。

友人の言葉に針金で絞めつけられていたように締めつけられ、鬱屈しかけていた一夏の心が緩み、腹の底のしこりが僅かだが軽くなる。

こんな風に胸の内をぶちまけて意見を求めるのは、ある意味逃げの1つでしかないと一夏も分かってはいる。それでもこればかりは毛色が違い過ぎて、黙って抱え続けるには一夏には難し過ぎた。

鈴、そして箒もこんな扱いかねる感情をずっと孕んで過ごしていたのだとすれば、それは尊敬に値すると切実に思う。

まったく、恋愛なんて自分には縁遠いものだと思っていたのに。


「とりあえず明日になったら鈴に真っ先に謝って――――箒との事を、伝えようと思う」

『お前が殺されない事を祈ってるよ』

「まだ死ぬ予定はねーよ。だけど、箒とそれだけの事をしてきた以上、責任を取らなきゃ、さ。勿論それ以外にも理由はあるけど」

『・・・・・・やれやれ、今度は鈴が俺に愚痴りに電話かけてくるんじゃないかこれ?』


弾の愚痴を最後に、通話は切れた。















―――――鳳鈴音にとって、織斑一夏とは何なのか。




小5の始めに転校してきてからの付き合いで同級生で幼馴染で家で経営してた中華料理屋の常連で一緒によく遊んだ男友達でからかわれたりした時は何時も止めに入ってくれた頼りになる男の子で結構強い剣道少年でだけど中学に入る前後からちょっと人が変わってもっと強くなる事に夢中になって人が困ってたりしてるとすぐに首を突っ込んでそのせいで意味無くトラブルに巻き込まれたり危険な目に合う上にその度に女の子にフラグ立てたりするもんだからそれが気に入らなくてそのくせその女の子達(鈴も含む)からのアプローチにはめっぽう鈍くて一体何人の女の子の枕を涙で濡らさせた事やらエトセトラエトセトラ。




だけどまあ、こういうのは先に惚れちゃった方の負けだというのは鈴もよーく分かってる訳で。

そもそも彼女にとって教室でのあの『腕上げて毎日一夏の為に酢豚作ってあげる』宣言は、元々はお遊び半分―でも本気も半分―で一方的に結んだ約束に過ぎなかった。

その時の一夏はとにかく見ていられなかったのだ。日頃の能天気っぽさはなりを潜め続け、いつもいつも泣きそうな顔をしてたのだから。断片的に聞き出せた話によると、旅行先で知り合った友達を自分のせいで死なせかけたのに一言も謝らないまま日本に戻って来てしまったとか。それを当時の一夏はずっと後悔し続けていた。

そんな彼の姿を見たくなかったから――――初恋の少年の笑顔が曇る所なんて見たくなかったから。

だから鈴は一夏にあの告白をしたのだ。今考えればもっとマシなやり方はなかったのかと言いたくなったりもしたけれど、後悔はしていない。少しでも彼の心労が誤魔化せればと、その時はそう思ったのだ。




その約束が鈴にとってかけがえのない誓いに変わっていったのは中学になってから。

そりゃあ一夏は小学生の頃からカッコ良かったし優しかったしスポーツも万能な方だから女子からの人気は高かったけど、一夏の人気が輪をかけて少女達の間に広まっていくのにそう時間はかからなかった。

とにかくこの年頃にもなると男女共々異性への興味が強くなり出す年代なだけに一夏の評判が元他校の少女達に伝わるのも速かったし、一夏本人の男前っぷりがその頃からより強くなっていった点も否定できない。

更に一夏の持ち前の正義感から同じ学校の生徒が不良に絡まれてたりすれば即座に助けに入っちゃうお陰で評判は鰻登り。おまけに助けられる相手はほぼ毎回女の子だったりするもんだから一夏争奪戦参加者が更に追加。

水面下では少女達の熾烈な激戦が繰り広げられていたのであった。それに鈴や弾が何度巻き込まれた事やら。いやま、鈴の方から参加する事もしょっちゅうだったけど。




そんな一夏に群がる少女達の姿を見ている内に、小学生の頃の半ば友情と混合した淡い恋心は急速に1人の女としての感情に変化していった。




それはある意味独占欲の塊でもあった。顔や評判みたいな上っ面しか一夏を知らない癖にすり寄ってくる連中に私の一夏を渡してやるもんか、という怒り。

アンタ達は本当を一夏を知ってるの?何で一夏が剣を振ってるのか知ってるの?友達に謝罪の一言も言えないままでいる事をどれだけ一夏が悔やんできたのか知ってるの?アンタ達はそれを知った上でアイツを支えてやる気はあるの?

ドロドロとしたそんな淀みを抱えながらも、鈴は一夏の前では笑顔であり続けた。別にそれは演技でもなんでもなく、心から浮かぶ笑顔だった。それと並行して、上辺しか一夏を見ないで近づいてくる輩をずっと遠ざけるのに身を削ってきた。彼には気付かれない様。

別れは唐突だった。いきなり両親が離婚する事になって、母親に引き取られた鈴は中国へと渡る事になった――――最後まで一夏への慕情を言葉にしないまま。

何故ならあの夕陽の教室での約束は鈴の魂に刻まれ続けていたから。その記憶だけで、鈴は頑張れるから。




だけど分かっていた筈だ。織斑一夏という少年が肝心な所でとんでもないポカをやらかすような相手である事は。特に女絡みでは尚更に。

本当、何都合のいい考えばかり思い浮かべてたんだろう?私がその約束を覚えてたって、相手が覚えてるとは限らないのに。

頭でそう理解は出来ても納得できないのが人間という物で、約束に秘めた乙女の想いを完膚なきまでに踏みにじってくれた一夏からは詫びの一言ぐらい向こうから言ってもらうまで許してやるもんかと鈴は心に決めた。

その一方で、これが長期戦になりそうな気配も鈴は何となくだが予感していた。だって一夏だし。

納得いかない事にはとことん頭を下げない性格な上に朴念仁なんだから鈴が怒っている本当の理由も・・・・・・約束に込めた意味も理解していない可能性が高い。非常に高い。






だから、


「本っっっっっっ当に俺が悪かった!!!!」


引っ叩いた翌日、鈴が教室に来て早々2組の教室に乗り込んできた一夏が鈴の机に頭を叩きつける位の勢いで頭を下げてきたものだから、思わず鈴は椅子ごとひっくり返りそうになったのであった。

















「あー、本当にビックリした。一夏アンタねぇ、あたしに頭下げに来たのかそれとも驚かせて心臓止めに来たのかどっちなのよ」

「驚かせたんなら悪かったけど、とにかく『鈴に謝ろう』って気持ちで一杯だったからなぁ・・・・・・」

「ならもう良いわよ・・・・・・・(ま、まったく、本当に昨日の今日で謝りに来るなんて。まさか誰かに吹き込まれたんじゃ)」

「ん?何か言った?」

「別に!」


自分達に集中する教室中からの視線から逃れるため、一夏を引き摺って辿り着いたのは校舎の屋上だった。授業直前なので人気は全く無い。

彼の手を引いて屋上に飛び込んだ時の配置から、入口に背を向ける形の一夏に鈴が向き直ると、彼は真面目な表情で真正面から視線で鈴を射抜く物だから、鈴の胸の下で刻まれる鼓動が一気に激しさを増してしまう。

それから一夏は、小柄な鈴からでも彼のうなじが見えてしまうぐらい深く深く頭を下げた。


「もう1回言わせてくれ。本当に、悪かった。ずっと鈴は約束を覚えてくれてたのに」

「も、もう良いわよそれは。そこまで神妙な顔で謝られたら、これ以上文句のつけようが無いわよ」


そうか、と一夏は頭を上げ、今度も真面目な顔ではあるがどこか瞳を揺らがせ、言いだし辛そうにしばし口籠った後。


「あ、あのさ鈴―――――あの約束ってもしかして、『そういう意味』のつもりで鈴は言ったのか?」


破裂音すら聞こえそうな勢いで鈴の顔が瞬時に紅潮した。


「そ、それは、え、えええと、そのね、あたっあたしは違っ、いやいやいや違うくはないんだけど!!」


あ゛ーだの、う゛ーだの、うにゃああああああああっ!?だのしばらく喚き散らし。


「だ、だったらどうなのよ・・・・・・・・・?」


消え入りそうな声で、落ち着かなさげに自分の手を弄びながらも肯定の意を示した。

対して一夏は本当に、本当に辛そうな表情を浮かべ、一旦唾を呑みこみ息を大きく吐き出してから。

鈴との約束への答えを、告げる。











「―――――――――――ゴメン」












えっ、と鈴は目を見開いた。一夏の言葉の意味が理解できないと表情が如実に今の鈴の内心を現していた。

一夏は爪が肉に食い込むほど拳を固く握りながら、何とか用意しておいた答えを吐き出していく。


「鈴があの頃からずっと俺の事をそう思ってくれてた事は嬉しかったし、俺だって鈴の事は大切な相手だと思ってる――――でもゴメン。悪いけど、鈴の想いには応えられない」

「なん、な・・・・・・何で・・・・・・?」

「――――鈴以外にも応えてあげなきゃいけない子が居るんだ。変に固い癖に本当は甘えん坊で健気でさ、最初の頃が信じられないぐらいどんどんどんどんどんどんどんどん大胆になってくるし」


初めて2人きりで再会した時、涙交じりに本心を吐露してくれた箒の泣き顔。肌と肌を合わせた時の妖しい淫魔と無垢で従順な子犬が同居したような濡れた瞳。

結ばれる事への約束は鈴の方が先だったのかもしれない。だが先に抱いていた一夏への恋心を明確に、彼にも理解出来る形で示したのは箒が先だった。


「こんな言い方はおかしいかもしれないけど、あそこまでされちゃ責任取らないとな。俺も自分の方からアイツに応えようって、決めてたんだ。アイツも俺にとって大切な人だから」




だから鈴の気持ちには応えられないと、一夏は言った。




「勿論鈴の事は大切な―――――!?」


突然鈴が一夏の襟元に手を伸ばしてきた。余りにも唐突かつ予想外の行動に一夏は反応できず、更に鈴の細い足が一夏の足を刈る。

足元は石畳。下手に抵抗すると自分も鈴も危険であり事を悟り、敢えてそのまま地面に叩きつけられた。受け身は取ったので頭は打ってないし背中のダメージは軽減されたが若干呼吸が苦しい。


「鈴、何を」

「・・・・・・ざけないで」


仰向けになった一夏にマウントポジションを取った鈴が、掴んだままの彼の胸倉を引き寄せ、額同士がぶつかるのも気にせずキス一歩手前の近さまで顔を近づけた。

一夏の視界一杯に広がる鈴の顔に浮かんでいるのは、絶望。悲痛、憤怒、そして涙。

―――――ああクソ、また鈴を泣かせちまった。


「ふざけないで!あたしが、あたしがどれだけ、どんな思いでっ、アンタと一緒に居たと思ってるのよ!アンタが居るから此処まで来たのに!アンタが居たから、ここまでこれたのに!」

「鈴・・・」

「こんなの、こんな、これじゃああたしがば、ば、ば、馬鹿みたいじゃないの!忘れられて、ずっと気付いてもらえなくて、ようやく、ようやく気付いてもらえたと思ったのに・・・・・・!」


熱い滴が一夏の頬に落ちた。その熱から一夏は目の前の少女の抱えていた激情がどれほどの物なのか、改めて理解し直す。

今この瞬間自分がどれだけ彼女を傷つけ、苦しめているのかも。


「・・・・・・本当、俺って最低だな」

「ええそうね。アンタは男の中でも最低の大馬鹿野郎よ。今ここで殺した方が世の中の為みたいな気がしてきたわ」


一転、極寒の空気すら感じさせる無表情を顔に張り付けた鈴は身体を起こした時、第3者の存在に気付いた。

屋上の入口に黒のポニーテールが僅かに見え隠れしている。一夏の言っていたその相手が誰なのか、不意に鈴は悟った。


「そう、そうなの。彼女がそうなんだ」

「鈴?」

「ねえ一夏。確かに今のアンタは殺してやりたいぐらい憎い存在だけどね――――――それでもまだ未練もあるの。あたしは、かなり諦めが悪い性質だから」


またも放つ気配は変わり、次に浮かんだのは強烈な負の感情が入り混じった泣き顔でも、極まり過ぎて冷え切ってしまった激情を覆い隠す無表情の仮面でもなく。


「あたしはね、代表候補生の地位もクラス代表の地位も自分の力でここまで奪い取ってきたの。だから、アンタの事も自分の力で奪い取ってやるわ」


一夏のよく知る、強気で勝気な猫みたいな笑顔だった。












「今度のクラス対抗戦、あたしと勝負してあたしが勝ったらアンタはアタシの恋人になってもらうわ!!」

















==========================================================

恋愛描写マジムズい。




呼んで下さった方々、様々なご意見ありがとうございます。
厳しいご意見も多々ありますが、最初の前書きの通り細かい事は(AA略的な寛大な気持ちでゲテモノ的な何かのつもりで呼んでもらえると非常にありがたいです。

にしても指摘される前から自分で理解してたつもりですが、やっぱり自分の妄想というか書く作品書く作品がどうにも捻くれてるというか反社会的というか。
これで筆力があれば、またそれはそれでもっと読んでくれる人達を楽しませれるんでしょうけどねえ・・・・・・鬱だ。




[27133] 1-10:決闘者×乱入者×突入者
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 15:49
≪1組代表:織斑一夏VS2組代表:鳳鈴音≫

―――――クラス代表戦の第1試合は、まるで誂えたかのような因縁の組み合わせだった。











「ようやくこの時が来たわ・・・・・・今度は、約束忘れてないでしょうね一夏」

「ああ、今度はちゃんと覚えてるさ」


鈴の専用機<甲龍>は黒と紫というカラーリングの機体で、ミシェルのISとはまた別の意味で物々しいというか――――悪役っぽい機体だな、などと口に出したら間違いなく鈴が怒るであろう感想を一夏は抱く。

彼女の得物は1対の巨大な刀身の青龍刀―刀身部分だけで鈴の上半身よりも大きい―それ以外にはそれらしい得物は見当たらないが油断は出来ない。スパイク付きのアンロックユニットに仕込みがありそうな予感。


「女だからって手加減は無しよ。こっちも本気の本気でやらせてもらうからね!」

「分かってるよ、それに手加減なんて出来そうにないしな」


屋上での約束から数週間、それからも度々鈴とは顔を合わせたり見かけたりしている内に分かった事がある。

鈴は強い。普段の立ち振る舞いからも感じ取れる。転校するまで鈴は特に格闘技と化していなかったのは間違いないから、中国に渡ってからの1年余りでそれだけの技量を身に付けた事になる。

青龍刀を振り回す手さばきからもかなりの技量の持ち主だと読み取れた。幾らISの筋力補助があるとはいえ、あれだけ巨大な得物を片手ずつ淀みなく扱うのは難しい筈だ。


「(だからって―――――ここで負けちゃカッコつかねぇもんな)」


箒に自分から言ってしまったのだ。流石に此処で違えてしまえば、一夏としては男が廃る・・・・・・ああそこ、今更だろとか言ってやらない。

だから悪い、鈴。最後にそう詫びてから、<雪片弐型>を握り直し中段に構えた。


「へぇ、良い顔するじゃない」


言葉通り一夏が本気をだして自分と戦うつもりである事を鈴は感じ取った。

あんな顔をした一夏を鈴は何度か見た事がある。例えば剣道の試合の時。例えば鈴が中国人である事をからかいのネタにしようとしたクラスメイトから庇ってくれた時。例えば中学時代トラブルに巻き込まれた友達を助ける為にたった1人で十数人の不良グループを叩きのめした時。

そんな、彼に本気を出させるぐらい思われているあの少女・・・・・・篠ノ之箒の事が、鈴は無性に羨ましくて、憎たらしくて。

自分だって彼女に負けないぐらい一夏の事が好きで堪らないのに、一夏は――――――


「(ああもう、今は戦いに集中集中!!)」


とにかくこの戦いに勝っていまえば一夏は自分の物・・・・・・本当はそんな景品みたいな扱いしたくないけれど、それは一夏の自業自得。うん、そういう事にしておこう。


『それでは両者、試合を開始して下さい』


試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間、2人は同時に飛び出していた。


「くっ!」


両者とも接近戦を挑んだは良いが、鈴の方は一夏の動きが予想以上に速い事と一夏の取った構えに気付いて、咄嗟に青龍刀をかざす。

十中八九鈴は何か隠し玉を持っている。ならそれを出す前に倒せばいい、と一夏は考えた。彼女には悪いがこれもまた兵法の1つであり、『本気』である以上出し惜しみする必要もない。

身を低くし、左手は峰に添え刀を握る右手は弓引くように構え、上半身を大きく右へと捻り、そして吶喊。

裂帛の気合と共に思い切り<雪片弐型>を突き出した。

切っ先は鈴が盾代わりにした青龍刀の『面』の部分に突き刺さる。両方の手が衝撃で痺れ、しかしそれでも一夏は後部スラスター翼を噴かして切っ先を押し込み、鈴は青龍刀を傾けてベクトルを斜め上へと方向転換させた。

結果、2人は交差し合ってからそれぞれ相手に向き直り、開始前とは位置が入れ替わる形になる。

一夏の全力の突きを受け止めた青龍刀の刀身には、ハッキリと見て取れる大きさの亀裂が刻まれていた。


「剣持つと馬鹿みたいに強いのは相変わらずみたいね!」

「まだまだ、こんなもんじゃねぇさ!」

「今度はこっちの番よ!」


両肩のアンロックユニット展開―――――<龍咆>という名の不可視の砲撃が連続で放たれる。














「一夏・・・・・・」


ピットでミシェルや千冬達と共に試合をモニターで見ていた箒は心配そうにそう呟く。

画面の中では一夏が何度も回避機動を取り続けていた。鈴のISから放たれる謎の攻撃が度々一夏の近くで炸裂している。

勿論箒は一夏を応援していた。授業前にもかかわらず注目を浴びながら教室から逃げ出した2人を追いかけた彼女もまた、あの屋上での会話をきいていたのだ。

鈴は自分と一緒だ。ずっと一夏を見ていて、ずっと一夏の傍に居て、ずっと一夏を想い続けて、そして一夏と望まぬ別れに引き裂かれて。

本来一夏が勝負に負けたら鈴の物になる、という賭けは箒は断固拒否し鈴に詰め寄ってもおかしくない事柄である筈なのだが、何故か今日この日まで箒はそうしなかった。

だって、彼女は自分なのだ。もし自分が鈴の立場で、今の箒の立場に鈴が居たのなら、箒も彼女と同じ事をしたのかもしれない。

いや、もっと酷い事になっていたかもしれないなと自分でそう思ってしまう。愛しさ余って憎さ百倍、もしかして鈴のみならず一夏に危害を加えようとしたかも・・・・・・


「(それに彼女もまた、一夏の鈍さに散々振り回されてきたみたいだからな・・・・・・)」


一種の連帯感?というか、同じ苦労を分かち合ってきた者同士、話も合いそうな気がする。

そう、例えば初対面の時は散々一夏を罵倒して馬鹿にしていたくせに、いつの間にか何食わぬ顔で自分の隣で虎視眈々と一夏を狙いつつ応援に加わっているイギリスの代表候補生とか。




「しかし何だあの攻撃は・・・?」

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す、<ブルー・ティアーズ>と同じ第3世代型兵器ですわ」

「『衝撃砲』で一番厄介な所は砲弾も砲身も肉眼で見えないから、事前に弾道や軌跡が把握しづらい点だね。どうも射角事態もほぼ制限がなさそうだし」


シャルロットの言葉通り、モニターの中では鈴の背後を取ったにもかかわらず、刃が届く前に吹き飛ばされる一夏の姿が。


「やっぱり一夏の<白式>の最大の弱点は射撃兵装が存在しない事だね。拡張領域も一杯だから後付武装でも補えないし、一夏自身の技量が凄くても限界があるよ」

「何を世迷い事を言っているデュノア妻。ならば刀1本で十分なほどの技量を身に付ければ良いまでの事。それが出来ないという事は一夏がまだまだ未熟な証だ」

「さ、流石文字通り刀1本で世界最強になった人の言う事は違いますね、あはははは・・・・・・」


引き攣り笑いを貼りつけた山田先生の声はとても乾いていた。そういえばそうでしたね貴女、とこの場に居る全員同じ感想を浮かべる。実際にそこまで上り詰めた最強の乙女の言葉はやはり桁が違った。




―――――それに最初に気付いたのはミシェルだった。


「む?・・・・・・・どうやら衝撃砲の攻撃を見切り始めたみたいだぞ」

「ええっ、本当ですか!?」


右へ左へ上へ下へ前へ後ろへ。傍目にはひょいひょいと動いているだけにも見えるが、その度に一夏の後方で起こる爆発が確かに衝撃砲の攻撃を悉く回避しだしたのを示している。

着実に見えない砲撃を避けて避けて避けて鈴の懐に接近。打ち込まれる<雪片弐型>の連撃。それを鈴は両手の青龍刀で弾く、受け流す、受け止める。

しかし技量と経験が違った。ISに触れて1ヶ月程度しか経験が無い一夏だが、それを補って余る古流剣術の技術と不良相手の対人戦の経験がその身に刻まれているのだ。

対して鈴は1年で代表候補生にまで上り詰めるだけの才能とそれに比例するISの操縦経験はあっても、対人戦の経験と密度は一夏に及ばない。

故に、少しずつだが鈴は押されていく。得物の関係で手数が多い分シールド無効化攻撃を行わせる余裕は与えずに済んでいるが、このままでは時間の問題だ。


『ああもう、うっとおしい!』


斬撃を受け止めた衝撃で後退してみせた鈴が再度<龍咆>を展開した。一夏は鈴を見据えたまま真っ直ぐ突っ込み、そこへ鈴が砲撃を撃ち込む。

―――その瞬間、一夏はほぼ直角に真横へと方向転換。一夏が直前まで居た軌道を通り過ぎていく衝撃波。

これで確信出来た。一夏は完全に『龍咆』の弾道と発射のタイミングすら見切っている。


「凄い、一体どうやって見えない攻撃を見切っているんでしょう?」

「大体はオルコットと戦った時と同じ要領だろうな。相手の些細な仕草まで決して見逃さず、攻撃の際僅かに緊張するその瞬間の気配を読み取っているんだ」

「では見えない攻撃の軌道まで把握出来ているのはどういう原理なのですか?」

「一夏の機動をよく見てみろ」


砲撃をかいくぐっては一夏が斬りつけ、何とか猛攻を凌いだ鈴が距離を置いて仕切り直す。

時折、一夏の攻撃を完全に受け流せなかった鈴がバランスを崩し、一夏が鈴の横や背後に回り込む形になる。一見チャンスの様に思えるが、一夏は敢えて見逃がすかのように精々一撃二撃加えては彼の方から距離を取って鈴の反撃から逃れてから、再度鈴と正面から相対し直す。

よく見てみれば、度々その一連の展開が繰り返されているのが分かった。


「常に鳳さんの視認範囲内に敢えて位置どる様にしている?」

「そういう事だ。恐らく鳳の<龍咆>は網膜の動きを読み取って照準を行う代物の様だが、ISの全方位視覚接続を用いれば一々目を向けずとも背後だろうが攻撃を行う事が可能だ。
――――だが織斑はその照準システムを逆手に取って、逆に鳳が何処を狙っているのかを先読みしている。相手の『目』を見て、な」

「・・・・・・つまり相手の肉眼の視界内に身を置き続ける事でワザと自分を目で追い続けるように仕向けて、尚且つ相手の目の動きを追い続ける事で衝撃砲の照準を先読みしていると?」

「正解だデュノア夫。照準の方法目の動きと照準が一致するからな――――どうやら鳳には攻撃を見切る以外にも別の効果を与えているように思えるが」


よくよく見てみると、鈴の顔には不利な状況への焦り以外にも照れてるような様子が浮かんでいる気がする。


『ど、どんだけ乙女の顔をジロジロ見つめるつもりよ!この馬鹿!朴念仁!女ったらし!こっち見んな!!』

『悪いがそいつは聞けないね!つか悪かったな馬鹿で!』

『うっさい!そ、そんな見つめられると落ち着かないじゃない!』

「ああなるほど、そういう事ですか」


目に見える位鈴の顔に血の気が集まっている理由をセシリアは悟る。だって自分も似たような事があったし。

ぶっちゃけ見惚れそうになってしまっているのだ。想い人に凛々しい顔で穴が空く位熱い視線(セシリア&鈴視点)を送られてはそりゃ落ち着かないに決まっている。


「・・・・・・う、羨ましい」

「何か言った箒さん?」

「べ、別に何でもない!」


話している内容はどうにも甘酸っぱいが、試合の内容そのものはまさしく激戦と呼ぶに相応しい。

第2アリーナを割れるような歓声が包んでいた。観客の生徒達からしてみれば不可視の攻撃を悉く避けては刀1本で優位に攻め立てる一夏の技量も凄まじいし、それを凌ぎ続ける鈴の腕前も代表候補生に相応しいと認めざるを得なかった。

会場のテンションもたけなわ、鈴は一夏の動きに大分慣れてきたし、一夏の方も鈴の戦い方や癖をかなりのレベルで読めるようになってきている。


『――――そろそろ、決めるぞ』

『上等!』


一夏は<雪片弐型>を下段に構え、鈴は連結した青龍刀を手元で優雅に廻し続けて機動や間合いを読ませない。

急にアリーナを静寂が包んだ。遂に決着の時、一騎打ちの時。無粋な雑音は不要。会場内に居る全ての観客が息を呑む。ミシェル達の居るピットにもまた重苦しい沈黙が漂う。

――――誰かの手から、売店で売られていた飲み物の紙コップが滑り落ちた。

普通なら、少し離れれば殆ど聞こえない程度の軽い音。にもかかわらずそれは西部劇で決闘の合図に放り投げられたコインと同じ役割を果たす。

ステージの中央で相対していた一夏と鈴が同時に動く。<零落白夜>起動。


『りぃぃぃぃぃいいいいいんっ!!!』

『いいいいいぃぃぃぃぃちかぁぁぁぁあああああああああああっ!!!』








一太刀の元に決着が約束された果たし合いは。

―――――突如アリーナの遮断シールドを貫きステージに爆炎を生み出した一条の光弾によって中断の憂き目となった。








<白式>のハイパーセンサーが警告するよりも早く、一夏の感覚は煙の中から放たれる冷たく無機質で、しかしどこか薄い殺気を鋭敏に感じ取っていた。

ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。


「一夏、早くピットに戻って!すぐに学園の先生達がやって来て事態の収拾に当たるわ!私達は邪魔になるだけだから速くこの場から離れるのよ!」


敵の正体は不明。異常事態につき不確定要素多数。闇雲に侵入者に立ち向かうよりは、鈴の意見がこの場合は正しいだろう。


「分かった、早く戻ろ――――危ねぇ!!」


さっきから感じる人間味の薄いさっきの矛先が鈴に向いたと感じるや否や一夏は鈴に飛びついた。直後、鈴が浮かんでいた空間を熱線が通り過ぎる。

一夏の腕の中に収められた鈴はIS越し故悲しい事に彼の鍛えられた肉体の感触やら体温やらは味わえなかったものの、本気モードの一夏の横顔を吐息がかかるぐらいの近さで拝む事になって胸の鼓動急上昇。

すぐに持ち前の負けん気が頭をもたげて、弱弱しくも抗議の声を上げる。


「ちょ、ちょっと馬鹿、離しなさいよ!」

「緊急事態だ!我慢しろ!」

「あうぅ」


一喝されて即座に沈黙。一夏の言う通りだしまあ嫌ではないし。うん、我慢しなきゃ我慢。

とりあえず離れないよう鈴からも自分の身体を一夏の胸に押し付けておいた。ISスーツ越しにピッタリ浮き上がる厚くはないが逞しさを感じさせる胸の隆起が顔に当たる。これも不可抗力。不可抗力ったら不可抗力。


「あのビーム兵器、セシリアのISよりも出力は上だな」


解析結果を独りごちる一夏――――――『敵』が姿を現す。

ミシェルのISと同じ全身装甲型ではあったが、まさしく兵器然とした武骨さ満点のミシェルのISとはまだ別方向に異形の機体であった。

全身にスラスターが搭載され、腕はまるでテナガザル宜しく不釣り合いなほど長い。頭部と両腕部に複数のセンサーレンズ並びにビーム砲口。


「お前、何者だよ―――――つっても答えてくれるわけねぇよな」


一夏の中では乱入してきた機体はとっくの昔に『敵』と認定されていた。アリーナの遮断シールドを突破してビームをこちら目がけて問答無用でぶっ放してくる相手が友好的な存在な訳あるか。


『織斑君!鳳さん!今すぐアリーナから脱出して下さい!すぐに先生達がISで制圧に行きます』

「そうは言いますけどね山田先生。どうやら逃げ場は塞がれたみたいなんですけど。ほらアレ」

『――――って、ええ!?遮断シールドがレベル4に設定!?しかも扉が全てロックされてる!?』

「いつの間にかピットの隔壁も閉じてるじゃない!」

「こうなったら先生達が来るまで俺達で食い止めます。いいな、鈴」

「え、ええ。それからさ、動けないからそろそろ話して欲しいんだけど・・・・・・」

「ああ、悪い」


ようやく鈴を開放する一夏だったが、当の鈴の方は自分で言っておきながらどこか名残惜しそうに一夏の胸から離れた。


『織斑君!?だ、ダメですよ!生徒さんにもしもの事があったら――――』

「こんな事になってる時点で今更ですって!それよりも、来るぞ鈴!」

「分かってる!向こうはやる気満々ね!」


突進してくる敵IS。闘牛士の様にそれを鮮やかに回避する一夏と鈴。

専用機コンビと侵入者の戦いが始まった。


















精鋭揃いの3年生達が遮断シールドの解除を試みていると千冬から教えられても、そう簡単に落ち着ける人間はこの場には居なかった。


「あの、先生。僕とミシェルだったらここからアリーナに突入できると思います」

「ほ、本当ですの!?」

「・・・・・・隔壁相手でも効果的な装備を俺もシャルロットもISに載せてある。それを使えば、恐らくはカタパルトを封鎖してる隔壁も突破可能だ」

「――――よし、なら行け」


千冬の決断は速かった。少しでも情報を集めようと機材に齧りついていた山田先生が驚くほどだ。


「織斑先生!?」

「知っての通り緊急事態だ。アリーナの遮断シールドを突破できるだけの火力を持った敵の矛先が観客席に向いてみろ。事態の即時収拾を行う為にも、少しでも人手が必要だ。専用機持ちならば尚更な」

「ではお2人共、すぐに参りましょう」

「ちょっと待てオルコット。何勝手にお前が指揮を取っている。デュノア夫、教師としての私の権限で3年の精鋭が突入してくるまではお前が2人の指揮を取れ。軍隊経験もあるお前なら少しは指揮官としての教育も受けているだろう?」

「了解・・・・・・行こう、時間が惜しい」

「分かってる!」

「い、言われなくとも!」


ふと、ミシェルはピットを離れる前にある事に気がついて眉を顰めたが、今は悠著な事をしてられないのですぐにシャルロットとセシリアの後を追いかけた。

全速力でカタパルトの元まで辿り着く。相変わらず固く閉ざされたままで、微かに分厚い隔壁越しにステージで繰り広げられる戦闘音が届いてきていた。

カタパルトについた時点で3人とも各々のISを展開してある。


「で、お2人の策というのは?」

「これの事だよ」


ミシェルの右腕、シャルロットの左腕のシールドの表面装甲がパージされ、その下に隠されていたのはとびきり物騒な近接用兵装。

シャルロットが装備しているのは第二世代型最強と名高い69口径パイルバンカー<灰色の鱗殻(グレー・スケール)>。

またの名を『盾殺し(シールド・ピアース)』とも呼ばれる一撃必殺を体現してみせ、リボルバー機構の搭載で連続打撃も可能という近接戦用兵装の極北。

ミシェルの右腕の装備も一応パイルバンカーらしい。らしい、とハッキリしないのは、ミシェルのそれが<灰色の鱗殻>からかなりかけ離れたデザインの得物だったからだ。

大砲の様に太い砲口から僅かに鋭利な先端が覗く鉄杭は<灰色の鱗殻>のそれより一回り太く、パイルバンカーというよりもむしろ寸詰まりな大口径の腕部装着型射撃兵装に思えてくる。それにリボルバー機構と対を成すオートマチック機構を搭載しており、砲身に沿う形でそれだけで十分鈍器に使える巨大な長方形のマガジンが取り付けてあった。

新型の100口径電磁加速型徹甲爆裂射突型ブレード<ウルティマラティオ>。

その意は――――――『最後の切り札』。


「・・・・・・突入後は装甲の堅い俺が先頭、シャルロットが制圧射撃、セシリアは最後尾から支援射撃を頼む」

「「了解(ですわ)!」」

「・・・・・・シャルロット。打ち込む時は微妙にポイントをずらしながら撃ち込んで欲しい。一点に集中し過ぎると、突入できるだけの穴が開かない可能性がある」

「分かった。それじゃあ行くよ!」

「ああ・・・・・・まずは夫婦の協同作業といこう」


実は意外とミシェルさんは冗談好きなのかしら?とセシリアはそう思った。


「そおぉっ、れっ!!!」


一旦隔壁から距離を取ってから、一気に機体を加速させつつ大きく身体の捻りを最大限生かして見事な左ストレートをシャルロットが放つ。

拳が直撃する寸前、薬室内で火薬が撃発。砲声と呼ぶに相応しい炸裂音とほぼ同時、それを更に上回る衝撃音が空間に響き渡った。


「まだまだ行くよぉっ!!!」


更に2発、3発。弾装内の弾を全弾使い切るまで殴る。殴る。殴る。建物の壁の繋ぎ目などが歪み緩むかと思えるほどの振動。一撃ごとに隔壁が削れ、罅が走り、脆くなっていく。

装填分が弾切れを起こしシャルロットが離れる。細いながらもかなりの範囲で亀裂が生じ、叩き込まれた部分部分がハッキリとひしゃげていた。

さあ、次はミシェルの番だ。砲身内エネルギーチャージ完了。安全装置解除。信管作動確認。


「俺から離れていろ・・・・・・!」


ミシェルの警告に従い慌ててセシリアは数mほどミシェルと破壊されかけの隔壁から距離を取った。シャルロットの方は言わずもがなさっさと離脱済みである。

先程のシャルロット同様、加速をつけて叩き込まれる拳。ミシェルの場合は低い姿勢から振り被った拳を上から下へ打ち下ろすロシアンフックスタイルで、複数刻まれた打撃痕の中心部、最も亀裂の線が集束した部分へと躊躇い無くブチ込んだ。

<灰色の鱗殻>の衝撃が乗用車の衝突なら<ウルティマラティオ>のそれは10トントラックの特攻だった。

反動の大部分をISが自動的に相殺してもハッキリと右腕に伝わる隔壁を砕く感触。杭そのものは隔壁を貫いても、ステージに突入できるような穴はまだ空かない。




―――――ここからが本番だ。




「――――かっ飛べ」


次の瞬間、鉄杭内部の指向性爆薬が、隔壁内部へとその威力を一点集中されて解放する。

脆くなっていた隔壁がステージ側目がけ文字通り爆発した。エネルギーの一部はピット側へも向かい、そちら側へも破片混じりの爆風が駆け抜ける。その瞬間思わずセシリアが悲鳴を漏らしてしまった程だ。

秒速キロメートルクラスに加速された巨大な鉄杭と、装甲やシールドバリアーを突破してから炸裂する指向性爆薬のコンボ。それはIS相手ならば、食らえば間違いなく一撃で絶対防御発動どころか強制解除にすら追いこむ威力を誇る。

使用済みの前半分が消失した鉄杭が機関部の後ろから弾き出され、マガジンから次弾が装填された。

再装填に縮めようの無い数秒がかかるが、実質弾の数だけ敵ISを撃破出来る、とまで言われているその威力こそ、『最後の切り札』の呼び名に相応しい。



「・・・・・・空いたぞ」

「こ、ここまで派手だと分かってるのでしたらもう一言注意してくれても良かったのではなくて!?」

「今はそれよりも!」


最初のミシェルの指示通り、隔壁に生じた直径数mの大穴からステージに飛び出す。

<シールド・オブ・アイギス>を2枚とも前面に展開したミシェルが先頭、両腕にアサルトライフルを構えたシャルロットが続き、その後ろに<スターライトmkⅢ>を両手で保持したセシリアが遅れて突入。

3人の視界に飛び込んできた光景は、























「―――――――――鈴・・・!!」


鈴に敵のビーム砲撃が直撃する、その瞬間だった。






[27133] 1-11:決着/少女達の答え
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 23:32




――――敵と数合やりあって気付いた事がある




「なぁ鈴。もしかしてアイツ、機械なんじゃないか?」

「何言ってんの、ISは機械じゃないの」

「そういうんじゃなくてさ、あれってもしかして人が乗ってないんじゃないか?」


何となくだが確信秘めつつ一夏は告げた。


「・・・・・・どうしてそう思うの?」

「殺気っつーか、気配が薄過ぎる。自慢じゃねーけどそれなりに気配とかには敏感なんだよ俺」

「・・・・・・その割には屋上じゃ気付いてなかったみたいだけど(ボソ)」

「何か言ったか?」

「いーえ別に。でも――――無人機なんてありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かないそういう物だもの」

「それでも考慮はしておいた方がいいと思うぞ。あらゆる可能性を考慮すべきだし、それに・・・・・・」

「それに?」

「・・・・・・人が乗ってないなら容赦無く斬れる」


一夏の気配がより張りつめ、鋭く研ぎ澄まされるのをハイパーセンサーが無くとも鈴は感じ取れた。

今の一夏はまさに本気の本気モードだ。好きな異性だと分かっていても、一夏の放つ険呑な空気は鈴の喉を乾かせ、背筋に冷や汗を流させるほど冷たく重い。

それでも意見の1つは言えてしまえる鈴の胆力も中々であった。


「で、でも容赦無くやれてもその攻撃が当たらなきゃ意味無いじゃない」


遠距離では腕部のビーム砲。接近すれば風車宜しく装甲に覆われた長い腕を振り回して体当たり。おまけにその状態からもビームを放ってくるのだから厄介極まりない。流石の一夏もそんな出鱈目な機動から放たれるビームは斬り払えないでいる。

全身にスラスターを備えた見かけどおり、図体の割に機動力も高く鈴の<龍咆>も殆ど当たらずじまい。仮に当たっても強固なシールドバリアーに阻まれ本体には届かずと踏んだり蹴ったりだ。

だが逆に言えばそれだけだった。反応速度は高いが、攻撃パターンが単調過ぎるのである。

千冬姉や兄弟子には遠く及ばない。慣れてきた今ならば、何とかなりそうな相手に思えてきた。

シールドエネルギーもちょっとだけだが余裕はある。一夏は<零落白夜>の使用を最低限に抑えていたし、鈴の<甲龍>は燃費重視だ。それでも2人のシールドエネルギーの残量は今や半分前後。


「手はある。成功すれば、最低でも腕1本は持ってけると思う」

「そう、ならやりましょう。どうしたらいい?」


こういうのを『以心伝心』と呼ぶに違いない。鈴は一々議論もしないまま一夏の策に乗ってくれた。

ありがたくて、頼もしくて・・・・・・こんな少女を自分は泣かせたのかと胸中に沸いた自己嫌悪の感情を今は押さえ込む。


「衝撃砲を撃ちまくってアイツの注意を引いて欲しい。その間に俺が突っ込む。アイツが機械なんだったら、またワンパターンに突っ込んでくる筈だ。そこを狙う」

「OK。それじゃあ早速いくわよ!」


鈴が衝撃砲を乱射。大雑把な照準だったが、回避行動を取らせればそれで構わない。注意が鈴からの攻撃に逸れたと見るや一夏は突撃する。

その行動を探知した敵は身体ごとセンサーレンズを一夏の方に向けると、スラスターの出力を上げて自らも一夏目指して加速した。

敵の右腕が大きく引かれ、一夏の頭部めがけ解き放たれた瞬間。

<零落白夜>を起動した一夏は、その刃を真っ直ぐ天へ向けて立てながら<雪片弐型>を握る右手により一層力を込め、左手も鍔の部分をしっかりと押さえ固定した。

まず感じたのはシールドバリアーを切り裂く独特の感触。次いで試し切りで刃が骨に食い込んだ瞬間に似た硬質の手応え。


「(しまった!)」


手応えの意味を悟った瞬間、一夏は即座に自分の技量不足を悟った。

一夏が狙ったのは敵の前腕部からすぐ上の関節部分。シールドバリアーさえ無効化できれば後は<雪片弐型>の切れ味と敵の攻撃の遠心力で、比較的装甲が薄いであろう関節部を両断できると一夏は考えていた。

失敗した要因は、振り回される鉄拳の勢いが想像以上だった点と、押し当てる刃の角度が浅かったせいで両断する前に弾かれてしまった事。

<雪片弐型>が一夏の手から離れ、一夏自身もまた別方向へ撥ね飛ばされる。背中から後方の壁に激突し衝撃で広がる煙に姿が見えなくなった。そこからやや離れた地面に弾かれた<雪片弐型>が突き立つ。

鈴にはまるで地面に突き刺さった<雪片弐型>が、一夏の墓標にも見えてしまった。


「一夏ぁっ!?」

「生きてっぜ、何とかな・・・・・・」


開放回線で返ってきた一夏の口調はハッキリしていたが苦痛に歪んでいた。

敵の方はというと、一夏の目論みそのものは成功していた。右腕の関節部の半ば以上まで刃が食い込んだ上にそのまま腕を振り回したせいで、傷ついた部分が遠心力に耐え切れずそのまま裂けてダランとぶら下がっている。断面からは火花が飛び散り、あれではもう使い物になるまい。

だがまだ片腕が残っている。剣を拾いに行くまで、間に合うか?




「―――――っ、一夏ぁ!!!」


その時、アリーナ中に響き渡る大声。

衝撃で動きが鈍くよたつく身体を押して土煙の中から抜け出る一夏・・・・・・・・・現在の状況を理解した瞬間、その背筋が凍った。

ピットに居た筈の箒が息を切らせ、一夏が吹き飛ばされた側とは反対にある中継室でマイク片手で居る。その箒に、敵はセンサーレンズを向けてジッと見つめていたのだ。


「馬鹿野郎!!今すぐ逃げろ、箒!!!」

「えっ?」


呆けたのは一瞬――――その一瞬が命取り。

敵に残る左腕に備えられた砲口が、ゆっくりと中継室へと向けられる。一夏は身体の痛みも忘れて地面に刺さった<雪片弐型>に飛びついてから瞬時加速発動。


「間に合ってくれええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


『一夏』は間に合わない。

無情にもビームが放たれる。驚愕の表情のまま凍りついていた箒へと真っ直ぐ向かう光条の様子が、何故かとてもとても遅く見えた。それでも、もう一夏には止められない。







だから、鈴が止める事にした。







「きゃあっ!!」


覚悟を決めるよりも先に身体が勝手に動いていた。遮断シールドの向こうの箒に背を向け、シールドバリアーに注ぐエネルギーを最大出力。

爆発。衝撃。絶対防御発動。鈴が覚えているのは目前で弾ける閃光が最後だった。一旦背中から遮断シールドに叩きつけられ、アンロックユニットがガリガリと壁に擦れる音を立てながら鈴の身体は落下した。

鈴、と思わず敵の手前で動きを止めてさえしてしまった一夏が絶叫するのを阻止するかのように、またも爆発がアリーナに轟く。ただし今度はピットからだ。ステージとピットを隔てる隔壁が内側から爆砕されていた。

硝煙の中から飛び出してきたのは黒と赤、次いでオレンジ、最後に蒼の機体。

敵は新たな乱入者達にセンサーレンズを向け、最も近くに居る一夏を何故か無視して突入してきたミシェル達へと攻撃を仕掛ける。


「・・・・・・っ!バリアーは破壊した!今ならどんな攻撃も通る!やっちまえ、皆!!」

「心得た・・・・・・!」


答えるミシェルの重々しい声が何とも頼もしい。

瞬時に距離を詰めた敵は戦闘に立つミシェルへと突き進み、爆発的な加速を乗せた左腕を振り回す。直撃すれば装甲車すらも粉砕しかねない一撃。

――――その剛腕がミシェルに触れる事はありえない。<ラファール・レクイエム>が誇る全身装甲のはるか手前で、敵は空中に縫い止められていた。ミシェルと敵の間には宙に浮かぶ重厚な1対の盾。

<シールド・オブ・アイギス>のAICに動きを封じられた敵はまさしく良い的であった。2枚の盾の間から砲身が突き出される。

それは<ラファール・レクイエム>の腰部に搭載された折り畳み式ビーム砲<アグニ>の砲口だ。


「・・・・・・食らえ」


2条の光線が敵の両腕を根元から消滅させた。遮断シールドを貫く敵程ではなくても機体から直接エネルギーを供給される<アグニ>の威力もかなりの物だ。

今度こそ両肩ごと吹き飛ばされた腕部がビームの余波で爆発を起こす。まるでその爆風を逆に利用するかのように爆風に流される事で、AICの効果範囲から敵は逃れ、距離を置こうとする。


「逃がしませんわよ!」


そこへセシリアが動く。<ブルー・ティアーズ>からビットを射出。両腕をもがれた胴体や両脚部を同時にレーザーが撃ち抜き、更に破壊する。

それでも敵はまだ活動し続けていた。攻撃的な勢いでセンサーレンズを明滅させて生き残っているスラスターを使って、この場から逃げ出そうとしている風にも見えた。

よろしい。ならそれすらも出来なくなるぐらい破壊するまでだ。


「これで終わりだよ!」


盾役のミシェルの頭上を飛び越え、得物に飛びかかる豹の如くシャルロット。

その左手には新たに炸薬の装填を完了した<灰色の鱗殻>。




反対側から先端が飛び出すほどの勢いで胴体中心部に鉄杭をぶち込まれる段になって、ようやく敵は活動を停止する。


「鈴・・・りいぃぃぃん!」


揃いも揃って撃墜された鈴の元へ駆けつける中、ミシェルはハイパーセンサーを広域索敵に設定して敵の増援が無いか警戒していた。


「・・・・・・む?」


雲の中に隠れていないか探っていると、ハイパーセンサーに補正された視力が雲の中に見え隠れする物体を発見・・・・・・だがレーダーそのものには引っ掛かっていない。ステルスか?

やがて未確認飛行物体は遠く彼方へ飛び去ってしまった。それを黙って見送るミシェルの方は、今自分が発見した物体の正体が理解できなくて、空を見上げたまま固まっていた。

何故なら彼が目撃したのは、




「・・・・・・・・・・・・人参?」






















唐突に目を覚ました鈴は弾かれるようにベッドの上で身体を起こした。

それから全身に走った筋肉痛にひとしきり苦しんでから、自分が敵の放ったビームに自ら突っ込んだ事を思い出す。よく生きてたわね私。


「良かった、目が覚めたか」


女の声がすぐ隣でした。例の一夏のファースト幼馴染、篠ノ之箒がベッドの傍らでパイプ椅子に腰を下ろしている事に今更ながら気付く。

――――まず最初に顔を見たかった相手ではなかった。


「一夏もついさっきまで此処に居たが、今は織斑教諭に呼び出されてこの場を離れている。すぐに戻ってくるだろう」

「・・・・・・顔に出てた?」

「何となくだがな。多分、私も同じ立場なら同じ事を考えたかもしれん」


そこまで言ってからおもむろに箒は立ち上がると、つむじが見える位深く頭を下げた。


「すまなかった。私の短慮な行動のせいであのような危険な真似をさせてしまった事を、詫びさせてほしい」

「あー、もう終わった事なんだし、別にそこまで気にしなくていいわよ。あたしだって身体が勝手に動いただけだし、絶対防御のお陰でこうして無事なんだから」

「それでも、すまなかったっ・・・・・・・!」


このまま土下座まで敢行しかねない位恥じ入った様子の箒の姿に、鈴は溜息を漏らしてしまう。

そりゃのこのこ自分から危険な場所に飛び込んできた事にはもう一言二言言ってやりたいけれど、必要以上にネチネチ攻め立てるような陰湿な真似は鈴は嫌いなのだ。

それに・・・・・・もしあの時ああして庇わず彼女に何かあったのなら、一夏はとてもとても嘆き悲しむだろうから。

彼のそんな姿は見たくなかった。それが箒を庇った本当の理由。


「もう、頭上げたらどう?当事者であるあたしが言ってるんだからそれで話は終わり!良いわね?」

「・・・・・・分かった」


口ではそう言いつつも顔は罪悪感で一杯一杯な様子である。

何時までも箒にそんな辛気臭い顔をされてもつまらなかった鈴は、ふと目の前の少女がどういう立場の人間なのか思い出す。

今保健室には鈴と箒以外誰も居ない。いい機会だ。これまで箒と2人きりになった事はなかった。


「あのさあ、篠ノ之さん」

「箒で構わない」

「んじゃ私の事も鈴って呼んで。でさ、アンタも一夏が好きって事で良いのよね?」


返答は湯気まで漂う勢いでの顔の紅潮。


「な、な、なななななななっ!?」

「そこまで慌てなくてもいいじゃない。傍から見てるとバレバレなんだから」

「あうあうあうあうあう・・・・・・」


どうやら灰色の脳細胞が熱暴走を起こして緊急停止状態の様だ。復旧までしばし待つ。


「ゴホン、んっ――――そうだ、私は一夏の事が好きだ。愛している、と言い換えてもよい」


夕日を浴びてもそれと分かる規模の頬の赤みと熱は取れないままだったが、それでも箒はしっかりと自分の本心を鈴に表明してみせた。

鈴がどれだけ一夏に強い想いを抱いていたのかを屋上で覗き見てしまった以上、こうして本音で向き合わなければそれは鈴への侮辱も同然だ。

箒の告白に鈴は一瞬腰から下に掛けられた毛布を強く握りしめたが、すぐに手を緩めて乾いた笑みを浮かべる。


「あーあ、やっぱり一夏が言ってたのはアンタの事だったのね」

「一夏が?」

「あれ、屋上で聞いてたんじゃないの?」

「あの時は鈴の声が大きかったからそっちは殆ど聞き取れたが、一夏の声の方は距離があって大して聞き取れなくて、それで・・・・・・」

「ふーん。あの時ね、一夏こう言ってたのよ。『自分の方からアイツに応えようって決めたんだ』って」

「そうか」


目尻が下がって唇が緩むのを堪え切れない。それからすぐに鈴の事を思い出して「す、すまん」と謝罪した。

鈴は頭を振る。


「この事でもう謝ったりしないで――――情けなくなっちゃうから」

「鈴・・・・・・」

「こういうのって一夏はとことん鈍いし鍛練バカだから、まだ大丈夫だと思ったんだけどなぁ。これならもっとさっさとストレートに告白しておけば・・・・・・でもそれでもあの馬鹿だったら気付かなかったかもしれないわね」


後半の呟きには箒も同意せざるえない。一夏なら本当にやらかしかねなかった。


「試合も中断になっちゃったし、これで約束も無効よね――――」

「・・・・・・なあ、鈴」


俯いていた鈴が顔を上げると、とても真面目な表情の箒と目が合った。




「――――――――提案があるのだが」










箒の申し出に鈴の頭にも怒りと羞恥以外の理由で血の気が集まった。鈴からしてみれば本当に突拍子も無い内容だったからだ。


「あ、アンタはそれでいいの?それで満足なの!?」

「これで良いのだ。一夏の事だ、鈴の自身への想いを分かっていながらこれまでと同じ通り振る舞えるほど一夏は器用ではない。アイツもまた罪悪感に苦しむだろう、そのような姿は見たくない。鈴には借りがあるし、それに」

「それに?」

「・・・・・・もし立場が違えば、私が鈴の立場だったかもしれないから、鈴の気持ちは痛い程理解出来る。そちらからしてみれば向けて欲しくない同情でしかないかもしれないが、それでも放っておけないんだ。鈴は、もう1人の私なのだから」


そこまで言ってから、箒は今度は疲れが滲み出る表情に切り替えた。


「それにだ。一夏の事だ、私とつ、つ、付き合う事になっても所構わず他の女を引き寄せるに違いないだろう」

「・・・・・・全くもって否定できないわね」


溜息がシンクロ。何せ2人共腐るほどそんな展開を見てきたのだから。有り得過ぎて困る。非常に困る。

ちなみに最近では一夏を一方的に侮辱していた筈のイギリスの某代表候補生が良い例だ。


「鈴も一夏をずっと見ていたのだから分かるだろう?恐らくは私1人だけでは全てのそのような女狐達を追い払えないだろう。だから――――」

「だから私も巻き込もうってワケ?」

「・・・・・・正直に言ってしまうとそういう事だ。そちらも本気で心の底から一夏の事を好いているのをこの目で確かめたからこそ、頼みたい。この通りだ」


再び箒に頭を下げられ、しばし黙考する。打算塗れなのは提案した箒自身よく理解している。

実の所、箒の申し出た取引は鈴からしてみれば大歓迎も良い所だった。箒の言ってる事も痛いほど理解出来、同意も出来るし、自分だってポッと出に一夏が誘惑されるなんて真っ平御免であった。

それに―――――自分も一夏の寵愛を受けれると言われてしまえば、突っぱねれる筈もない。


「でもアンタが良くたって一夏がそんなの認めてくれるかしら?」

「私達の愛する男がその程度の器量だと思うか?」


質問に質問で返し、2人の少女が睨み合う。






―――――そしてどちらともなくニヤリと笑った。






「乗ったわ、その提案!でも手加減はしないからね!」

「望む所だ!」


掌と掌を軽く叩きつけ合うパァン!という音が保健室に響く。

そのタイミングを見計らっていたかのように保健室の扉が開いた。噂すれば影、たった今まで話題にされていた一夏当人の登場である。


「鈴!目が覚めたのか?大丈夫か?」

「へーきへーき。<甲龍>が絶対防御を発動させてくれたし、ピンピンしてるわよ」

「そっか・・・・・・本当に、鈴が無事で良かった」


安堵した様子で嬉しさと儚さが同居した心からの微笑は、恋する乙女には刺激的過ぎた。さっきまであれやこれやとそっち方面の会話を繰り広げていたから尚更に。

口籠りながらまた顔を赤くした鈴とは対照的に、そんな眩しい笑顔を向けられた鈴に箒は自分の立場を忘れて嫉妬してしまう。羨ましいのう妬ましいのう。


「箒、お願いだから次からあんな真似しないでくれよ。鈴まで危険に晒したんだし、俺だって心臓が止まるかと思ったんだぞ」

「う、わ、分かっている。先程も自分の浅はかな行動について鈴に謝罪していたところだ」

「そーそー、箒も謝ってくれたし、もう気にしてないわよ」

「・・・・・・お前ら、そんなに仲良かったっけ?」


何かあからさまに2人の距離が思いっきり近づいてる気がする。まあ女の子ってそういうもんなのかもな、と特に深く考えない辺りが一夏が一夏である所以であった。

つまり女絡みにはとことん鈍い。最近は主に伴侶持ちの男友達のアドバイスによって改善の兆しがあれど、それで簡単に治ってりゃここまで箒も鈴も苦労しちゃいないのである。


「ところで一夏、あの時の約束についてなんだけど」

「お、おう」


チラリと箒の方を見た。一夏視点では箒は屋上での鈴との賭けの事を知らない筈だ。彼女の居る前でその話題を口に出したら拙い。

しかし箒は一夏の視線に気づくと、


「安心しろ一夏。屋上での事については私も知っている」

「そうなのか!?でも、俺は・・・・・・」

「それでだな、試合も無効になってしまった事だし、私も鈴と共にお前との関係について相談したのだ。その結果――――」


いきなり立ち上がった箒が一夏をベッドの方へ突き飛ばした。不意を突かれて一夏はベッドの上に倒れ込む。鈴が寝ているの事に気付いて慌てて両手で身体を支えた。

結果、鈴に覆い被さる一歩手前で何とか身体を支える事が出来た。何故か悪戯っぽく笑っている鈴の顔との距離は10cmもない。


「何すんだよほうむぐっ」


一夏の抗議は鈴の方から押し当てられた唇に呑みこまれた。

唇を押しつけるだけのキスだが、いつの間にか鈴の両手が一夏の首に廻されていて中々離せない。そもそもセカンド幼馴染の突然の行動に、一夏の思考はフリーズ状態だ。そのくせに少女の唇の柔らかさと甘い匂いはとても強く感じてしまう

たっぷり10秒ほどかけてようやく鈴は唇を離した。息を止めていたのか少しだけ呼吸は荒く、顔の赤みが一層濃くなっている。


「・・・・・・り、りんむぅっ!?」


今度は箒にも唇を奪われた。

単なる唇だけのキスではなく、濃厚に舌を絡め合う過激なキス。箒の腕もしっかり一夏の身体に廻してあって、口腔内を蹂躙する箒の舌以外にも強く胸元に押し付けられる膨らみのお陰で一夏の脳はオーバーヒート。最早気絶しかねない勢いだ。

舌と舌にかかる銀色の橋を夕日に染めながら、鈴の横で一夏を押し倒す体勢から箒も離れる。その様子を一部始終見ていた鈴は何処か不満そうというか、羨ましげだった。


「あ、あたしもそうすれば良かった」

「ふふ、コツは要るが、1度したら癖になるぞ?」

「お、お、お前らいきなり何するんだよ!?」

「これが我らの答えだ。相談の結果、一夏には私と鈴、両方と付き合ってもらうぞ。もちろん男女の関係としてな」


どうしてそうなった。2人の顔を信じられない思いで交互に見るが、箒も鈴も微笑んでいても冗談のつもりではなさそうだ。


「それともあたし達じゃ不満?」

「そんな訳ねぇだろ!そりゃ2人共スッゲー可愛いし、俺の事をとても大事に想ってくれてるのは分かってるけど・・・・・・2人は、それで良いのか?」

「良いのだ、それで。私も、鈴も、お前の事を本気で何年間も想い続けてきたのは紛れもない事実なのだからな。こうすれば私も鈴もどちらかが泣かずに済む」

「それとも何?アタシ達2人じゃ不満ってワケ?」

「そ、そういう訳じゃ・・・・・・」

「ええい、それでも男か一夏!この私達が選んだ男なのだからずっとお前への想いを抱き続けてくれた女子(おなご)の2人ぐらい受け入れてみせろ!」

「む、無茶苦茶だろそれ!」

「ならかくなる上は!」


箒がズボンに手をかけたので一夏は我に返って抵抗する。


「手伝え鈴!こうなれば私達の良さをコイツの身体に刻みこんでやるぞ!」

「い、いきなりそこまでやっちゃうの?」

「コイツも健全な男子である事はとっくに確認済みだ!これまでの私との睦み事を忘れたとは言わせんぞ一夏!」

「ちょ、ま、待て箒!鈴も手を離せ、場所考えろ場所を!」

「わ、私が居ない間にそんな事までしてたのアンタ達!」

「人の話を聞けー!」


わーわーぎゃーぎゃー






「―――――楽しそうですわねえ?わたくしも混ぜて頂けますこと?」






ピタリ、と3人は凍りついた。

なんだか扉の方から不穏な気配が。見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ(ry


「うふ、うふふふふふふふふふ」


笑うという行為は本来攻撃的な以下略。

激しく不吉なジャキッ!という音が聞こえたので仕方なく3人は扉の方を見る。

案の定、そこにはハイライトの消えた目で乾いた笑い声を漏らし続けるセシリアの姿。右腕には部分展開されたIS&愛用のレーザーライフルが。あ、こっち向いた。


「ホワイトサンダーですわー!」

「いやそれはキャラが違うだろう・・・・・・」


廊下側で隠れるように様子を窺っていたミシェルの呟きも届かない。

修羅場に一変した保険室内の様子を傍目にしつつ、シャルロットはミシェルにこう聞いた。


「つまり、箒と鳳さんで一夏を半分こって事?」

「・・・・・・そういう事なんだろうな」

「――――――うん、一夏死んじゃえばいいと思うよ?」




満面の笑みでそう言いきった妻の姿に、ミシェルは決して浮気はすまいと固く誓うのであった。

――――浮気する気もなければ出来るような顔じゃない、と思いつつ。











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もう一度言おう。どうしてこうなった?
という訳で幼馴染丼ルート突入。でも他のヒロイン(シャル除く)も積極的に絡ませたい所存です。


さて、ようやく書きたい話に入れる・・・



[27133] 2-1:ボーイズトーク/銀の嵐・序章
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/25 11:54


「――――で?」

「『で?』って、何がだよ?」

「とぼけるなって。鈴とファースト幼馴染の事だよ。人にわざわざ相談の電話までよこしときながら、ほったらかしか?」


中学時代からの友人である五反田弾の自室にお邪魔していた一夏は、アーケード仕様のコントローラーに手を置いたまま固まった。

画面の中で一夏の操るキャラが動きを止め、対照的にここぞとばかりに必殺コンボ発動の弾。一気に体力ゲージが底を尽いて弾の勝利。

勝ち誇った様子で隣の友人の方を向いた弾であったが、何故かさっきまでとは打って変わって冷や汗ダラダラ顔色も悪くして彫像と化した一夏の様子に彼もまた動きを止めた。


「い、一夏?すみません、コイツ向こう(学園)の方で何かあったんですか?」


赤い長髪にヘッドバンドと軽い見た目に似合わないかしこまった様子で振り向いた先には、2人の対戦を観戦しながらゲームの順番待ちをしていたミシェルの姿。

学園内唯一の男友達である一夏に日本の庶民の料理を御馳走云々と誘われてホイホイここまで付いてきたのである。


「・・・・・・別に同い年なんだ、敬語とかは必要ない」

「いやあでもやっぱミシェルさん有名人ですし。それにこう、丁寧に対応しなきゃオーラをひしひしと感じがしましてねハイ」


それって遠回しに頭文字にヤの付く自営業辺りの危険な人間に見えるって事じゃなかろうか。

本人には悪気は無さそうなので何も言わないでおくが、内心ちょっと傷つきつつ、


「・・・・・・本人達の話し合いの結果、2人同時に一夏と付き合う事になったそうだ」

「・・・・・・もう1回お願いします」

「・・・・・・篠ノ之と鳳の方から2人同時に一夏の恋人にしてもらう事で決着が付いた、と言った」

「マジですか」

「・・・・・・本気と書いてマジだ」


意外とネタの分かる人らしいがそれはともかく、今思いっきり聞き捨てならない事を聞かされましたよ?


「えーっと、ちなみにそのファースト幼馴染はどういった女の子で?」


引き攣った笑みでの弾の問いかけに、ミシェルはズボンのポケットから折り畳み式の携帯を取り出した。しかしミシェルの手が大きいものだから、まるでマッチ箱か100円ライター並みに小さく見えてくるから不思議である。

ポチポチとボタンを操作して画像データを表示。親指も手のサイズに比例して太いせいで他のボタンまで押しそうになるのはご愛嬌。

ミシェルが見せた携帯の画面には、弾の記憶より少しだけ成長した鈴以外にも金髪の少女、そして黒髪のポニーテールにキリッとした美貌の少女の画像が。


「・・・・・・この真ん中のが俺の嫁で、その右隣がその篠ノ之箒だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


錆ついたカラクリ人形の様にゆっくりと再び一夏の方を向く弾。

そして以前固まったままの一夏に飛びついてその首を掴みあげた。


「ええいこのモテスリムが!言うに事かいて二股かよ二股!それもスッゲェ美少女でおまけにその子も公認!?ふざけんのも大概にしろ!」

「うげっ、ちょ、テメェ弾そっちがふざけんな!いきなり何しやがる!?」

「うるさい!今は黙ってブッ飛ばさせろ!散々事ある毎に女子にフラグ立てちゃ悉くスルーどころかブッた斬ってたくせに、自分がモテてる事に気付いた途端二股だぁ!?鈴や篠ノ之って子が許しても俺が許さん!罰として俺にも学園の女の子紹介しろ!」

「最後のが本音だろ絶対!仕方ないだろ2人だけで勝手に決めちゃってたし!いや嬉しかったけどさぁ!!」

「やっぱり死ねお前!気付かずにへし折って来た女の子のフラグの分だけ刺されりゃいいんだ!ってストップストップ本気で間接極めるのは反則!」


どうやらすぐに決着がつきそうだ。強さの追求に余念が無い分地力が違い過ぎる。


「・・・・・・トイレを借りさせてもらっても構わないか?」

「この家のトイレなら確か階段降りて右の奥にあった筈だけど」

「ギブギブギブギブマジで痛いって、アッー!」


コキャっと聞こえた気がしたけどミシェルのログには何も無い。そう何も無い。パタッ、って助けを求めて伸ばされた手があえなく落ちたような音も気のせいだきっと。

ベッドからのっそりと立ち上がったミシェルがドアノブを掴む。

――――――よりも早く、反対側から勢いよく蹴り開けられた。蹴り開けたと分かったのは、開けた本人が細く健康的な裸足を上げた体勢で立っていたからだ。

弾と同じ色合いの紅い髪のラフな格好の少女が1人。


「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに――――」


ようやく少女は気付く。目の前に立ち塞がる、とても恐ろしげな風貌の男の存在に。

見上げなければならない程の背丈に服の上からでも分かる筋骨隆々とした肉体。とても険しい顔立ちを一層際立たせる顔を横切る巨大な傷。どっかで見た様な気もするけれど、それよりも兄の部屋から突如現れた取っても怖い見た目の外人の姿にそんな記憶など少女の脳裏からすっ飛んでしまい――――




出した結論:殺し屋か殺人犯。




「い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?殺される犯される!!?誰か―――――っ!!!」

「うおおおおおおいっ!?お客さんに何言ってんだ妹よおおおおおっ!?」


反射的に絶叫しながら元来た道を逃げようとする少女。

だがパニックになっていたせいか足を絡ませてしまい、バランスを崩しながら進む先は階段。このままでは危ない。

咄嗟にミシェルは大きく踏み出しながら少女の腕を掴むと自分と位置を入れ替わった。少女の身体は弾の部屋の方へ逆戻りし、ミシェルの方はというと。

階段から足を踏み外し、そのまま前のめりの体勢で一瞬宙に浮く。


「え?」

「あ・・・・・・・」




どすっ ばきっ がたっ がっ どすんっ ばきゃっ!!













「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

「気にするな、身体が頑丈な事ぐらいしか取り柄が無いのでな・・・・・・むしろ 家の壁に穴を空けてしまって本当に申し訳ない」

「いえいえ元はといえば私が悪いんですし!」


弾の妹である五反田蘭のうろたえっぷりは被害者であるミシェルからして哀れになってくるぐらい酷かった。

ちなみに壁に穴が開いたというのはミシェルが階段から転げ落ちた際、義足の方の足が壁に当たって突き破ってしまったのである。


「もう、お兄の馬鹿!何でお客さんが来てる事言ってくれなかったのよ!」

「い、言ってなかったか?そりゃ悪かった、あはははは・・・・・・」


場所は移って現在地は弾の実家が経営する食堂の店内である。3人の前には出来たてほやほやの弾の祖父手製の定食。


「一夏さん達は先食べてて下さいね。私、ちょっと着替えてきますから」

「・・・・・・ああ」


あからさまに元気の無い様子の一夏に心配と疑問を半々に抱きつつも蘭は足早に立ち去る。

「「「いただきます」」」と手を合わせて唱和しつつ食事開始。一夏と弾は店の売れ残りのカボチャ煮定食だが、ミシェルは外国のお客様という事で五反田食堂名物業火野菜炒め定食だ。

濃いめの味付けながら野菜のシャキシャキ感と自然本来の甘みがバランスよく調和し、ご飯が進む。

相変わらず一夏が漂わせる空気は重く、せっかくの料理も箸が進んでないのを見かねた弾が口の中の物を呑みこんでから問いかけた。


「何でそこまでしょぼくれてんだよ、ええ?本当に学園で何かあったのかよ?話してみろよ。何か?付き合いだして早々2人と喧嘩でもしたのかよ」

「喧嘩とかしてないさ。むしろ前以上に仲良くやってるぐらいだって。朝はよく一緒に食事も取るし、2人して手作り弁当とかも作って来てくれるし、放課後も剣やISの特訓も付き合ってくれるし、夜だって――――ゲフンゲフン」

「お兄さんちょっと夜の所具体的に教えてもらいたいなー?」

「誰が言うか!とにかくさ、箒も鈴も積極的で俺も嬉しいよ?2人もお互い仲良くなれてるみたいだし、2人に不満なんてちっとも無いんだよ」


だけどさ、そう呟いて一夏は箸を置く。


「何ていうのか、アレなんだよな。散々覚悟してまで告白しようと思ったらいつの間にか自分の知らない間に解決してました、って実際になったらさ――――割り切れないんだよ。置いてけぼりにされた感じで」

「・・・・・・つまり肩透かしを食らったせいで決心した分の感情の行き場が無い、という事か」

「そうなんだよ。そりゃ俺が皆に言われた通り鈍いせいでずっと2人の気持ちに気付かないままだったのが元々の原因なのは分かってるし、サッサと自分の気持ちにケジメをつけて告白しなかったのも悪いんだけど・・・・・・だからって2人に文句付ける訳にもいかないだろ?だってあんなに幸せそうにしてくれるんだからさ」

「・・・・・・確かにな」


学園での様子をよく知るミシェルだけに同意せざるを得ない。クラス対抗戦以降、あの2人の笑顔を見る機会が大幅に増えていた。

どちらも本当に、心から幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「他にもさ、ずっと2人をヤキモキさせて、泣かせまでした俺なんかが2人と付き合っていいのかって想いもあるんだよな。『本当に俺は2人に相応しい男なのかな』って、最近よく思うんだよ」

「あーそれ分かる。つか絶対その2人以外にも山ほど女泣かせてるって絶対。どんだけ向こうからの告白とかアプローチに気付かないまま大ボケかましてきたのか、分かってんのかお前?」

「だから今は反省してるって!」


弾の発言に勢い良く立ち上がった一夏の側頭部にお玉直撃。弾の祖父、厳は食事のマナーには厳しいのだ。

一夏復活までしばし待ってから会話再開。


「・・・・・・恋愛事には大層な口を聞ける立場にないし、最後はやはり当事者同士で話し合って解決すべき事柄だとは思うが・・・・・・もうしばらくこのまま様子を見たらどうだ?下手に自分の感情に決着をつけようとして、藪蛇を出す訳にもいかないだろう」

「・・・・・・そうするよ。どっちにしたって箒や鈴と付き合うのに不満なんてこれっぽっちもないし、むしろ俺にはどっちかだけでも勿体なさ過ぎる位だもんな」

「問題はな一夏。お前の事だ、二股かけてるにもかかわらず更に他の女の子達を無意識の内にホイホイ引き寄せかねないって点だな。またどれだけ自覚なしに惚れさせちまう事やら」

「只でさえ恋人が2人も居るのに他に女作るとかどれだけ鬼畜なんだよ俺!?俺は箒と鈴だけで満足してるっての!」

「「あ゛」」

「へ?どうかし―――――」


振り向いた一夏は、わなわなと震える蘭と目が合う。胸の内を吐き出すのに夢中で接近に気付かなかったらしい。

先程までのラフな格好から年頃の少女らしい可愛さあふれるフリルの多いワンピース姿に変貌していた蘭だったが、その瞳に浮かぶ涙が似つかわしくない。


「嘘、ですよね?・・・・・・まさか鈴さんと、しかも他の女の人とも二股で恋人同士・・・・・・?」

「ら、蘭?」

「一夏さんの、一夏さんの――――――馬鹿ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「へぶはっ!?」


右手一閃。思いっきり張り飛ばされて顔が変な角度を向いた一夏の首から不吉な音が鳴り響くのも気にせず、蘭は食堂から飛び出してしまった。


「な、何故に?」

「やっぱりお前は変わっちゃいねえよ、このキングオブニブチン」

「テメェ一夏この野郎!よくも可愛い孫を泣かせやがったな!?」

「ちょ、待って厳さんそれ焼けた鉄鍋ー!」


弾の溜息厨房からの怒声。

調理器具飛び交う危険地帯と化した食堂の中、ミシェルはといえば。




「・・・・・・・美味い」


テーブルの下にその大きな身体を押し込んで緊急避難しつつ、しっかり確保しておいた自分の分の業火野菜炒めを噛み締めるのであった。



















あれからなんやかんやあって、ミシェルが妻の待つ自室へ戻って来たのは6時過ぎであった。


「お帰りミシェル。日本のビストロってどんな感じだった?」

「・・・・・・風情があったし料理も中々だった。今度はシャルロットも一緒に行くか?」

「うん、行く!楽しみだなぁ、ミシェルと外でお食事」

「その前にまずは箸の使い方を覚えないと・・・・・・な?」

「いざって時はミシェルに食べさせて貰うからね?」

「・・・・・・それも悪くないな」


などと談笑していると、不意にミシェルの携帯が鳴った。画面を見てみると意外な相手だったのでほんの少し眉を顰める。


「誰からなの?」

「・・・・・・クラリッサからだ」


クラリッサ・ハルフォーフ――――ドイツ軍所属の国家IS操縦者であり特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の副隊長を務めている女性だ。

ミシェルも一応フランス軍属でもある。IS学園に入学する1年ほど前からフランス軍からの要請とミシェル本人の希望もあって特例で入隊し、訓練を受け、専用ISの開発の関係からドイツ軍とも数回合同で軍事演習を行ったりもした。

クラリッサとはそれ以来の個人的な知り合いだ。お互い日本の文化に詳しい―ミシェルは元日本人だし、クラリッサの方は少女漫画から知った偏った知識ではあったが―事から馬が合ったのである。

シャルロットの方も軍には入隊はしていないものの、デュノア社側からの参加者としてミシェルと共に演習に参加していたのでクラリッサとも面識があった。

もちろんミシェルとクラリッサはそういう関係には至っていない。単に性別と国境を越えた純然たる友人関係である。これ重要。


『ミシェル・デュノア大尉ですね』


ミシェルのフランス軍での階級は大尉。入隊して1年余りでこの階級はありえないレベルだが、軍がミシェルを引き留めておくために破格の待遇を提示してきた為にこうなった。


「・・・・・・シャルロットも居る。聞かせて構わないか?」

『構いません。いえ、むしろ彼女にもお聞かせ願いませんか?彼女のお力も借りる事になりますので』


専用回線を通じて、記憶と変わらぬ透き通った水晶の様に冷たくも凛とした声がスピーカーから発せられる。


「クラリッサさん、どうかしたんですか?」

『――――明日にでも分かる事ですが、我らが黒ウサギ部隊の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐がIS学園1年1組に転校してきます。そう、貴方がたお2人のクラスにです』

「ラウラがここに転校してくるの!?」


2人の脳裏に蘇るは銀の少女の姿。部隊内で最も幼い見た目でありながら黒ウサギ部隊指揮官に君臨するに相応しい強さを誇る、眼帯姿の猛者だ。


『そうです。ひいては今回このように隊長に無断でお2人に連絡したのは――――お願いがあるのです』

「お願い、ですか?」

『お2人もご存じの通り隊長は気難しい方で、出発前もIS学園の事を『ISをファッションか何かと勘違いした素人の集まり以下』などと断じておられました。それ故現地ではIS学園の生徒達との衝突は必然と考えられます』

「・・・・・・確かに、な」


ラウラ・ボーディッヒという少女を現すならば孤高の狼少女、もしくは人慣れしない血統書付きの猫、と言った感じか。

少しでも打ち解けれさえ出来ればちょっと天然気味の可愛い少女なのだけれど。


『本国がIS学園への派遣に許可を出したのは隊長1人のみ。我々には非常お~~~~~~~~~~に残念な事に、通信での情報提供もしくは要請された物資の提供などでしか隊長への手助けを行えません。
なのでミシェル大尉と奥方には、主に隊長の学生生活におけるサポートをお願いしたいのです!もちろん、我々部隊員からの要請である事は伏せて、ですが・・・・・・』


なんかもう血を吐きそうな位苦渋の決断といった感じの声であった。

そういえば副隊長含めた黒ウサギ部隊の人間って全員隊長溺愛してたっけなぁ、と思い出す2人。


「・・・・・・分かった。出来る限りのフォローはしよう」

『是非ともお願いします!それからもう1つ頼みがあるのですが』

「何ですか?」

『日本の学校といえば臨海学校!体育祭!文化祭!修学旅行!その他諸々様々な学校行事が行われる!そうでしたね、ミシェル大尉!?』

「あ、ああ・・・・・・」


いきなりテンション急上昇なクラリッサの声に流石のミシェルもちょっと声が退ける。


『我ら黒ウサギ部隊にはそれら隊長の晴れ舞台の全記録を未来永劫伝えるという義務があるのです!しかし我々が出向けない以上現地の協力者であるお2人に頼むほかありません!』

「えっと、つまりラウラの学園での生活とか行事とかの様子を撮影して送って欲しいって事?」

『その通り!値段はそちらの言い値で構いません!流石に機密情報までは取引できませんが、何なら夫婦生活をより満たす為の精力剤といった品々もお送り致します』

「そんな物必要ありませんよ!今だけでも十分激しい位なのにもっと凄くなったら僕壊れちゃうよぉ!!」

「・・・・・・すまん。次からはもう少し抑えよう」

『変わらず円満なご様子で何よりです』


シャルロット自爆。真っ赤な顔から湯気を立ち上らせる彼女は置いといて、


「・・・・・・写真の方も出来る限りの事はしよう」

『ありがとうございます!それでは<シュヴァルツェア・ツヴァイク>のプライベート・チャネルの番号をお教えしますのでそちらをご利用下さい!』


ISのコア・ネットワークは音声のみならず画像のやり取りやリアルタイムでの映像通信も可能である。元が宇宙空間での作業に用いる事が前提の代物だっただけあり、機外などでの作業状況を逐一仲間に報告する為だ。

でも軍におけるISのプライベート・チャネルって緊急通信暗号用の回線だった筈だからコレも一応機密事項だった気が。いいのかそれ。


『日本ではそういう時こう言うそうです。『こまケぇ事は良いんだよ』と』

「そうか・・・・・・」

『それでは失礼。交信、アウト』


切れた電話片手にミシェルはすぐ隣のシャルロットと顔を見合わせた。


「・・・・・・どうしたものか」

「ラウラが転校してくるのかぁ・・・・・・クラリッサさんも言ってたけど大丈夫かな?あの子って中々人を寄せ付けない所があるもんね」

「そうだな・・・・・・とにかく本人がこの学校に慣れてくれるまで支えよう。幸い織斑先生も居るからいざという時のストッパーになってくれるだろう」

「確か織斑先生ってドイツ軍でもしばらく教えてたんだっけ?」

「・・・・・・ああ。ラウラはその時の教え子だったらしい。恩人、とも言っていたな。その割に一夏の事は大分嫌っていたが」


この時期にラウラが転校してくる理由を推測するとすれば幾つか予想は出来る。

ドイツ製第3世代型ISの稼働データ取りと宣伝、ラウラの目を通して分析される他国のISの評価データ、世界に2人しか居ない男性IS操縦者の調査、そして―――――


「・・・・・・どちらにしても、しばらくは忙しくなりそうだ」




何より。

思い込んだら一直線なあの少女が、恩師の偉業を台無しにした存在を放っておく筈が無い。





















――――――ミシェルの懸念は的中する。


「・・・・・・いきなり何しやがる」


翌日の月曜日。ラウラの転校初日。

クラス中が唖然として見守る中、一瞬の内に3つの出来事が起こった。


「フン、良い目をしているな」


一夏の元まで近づいた銀の少女が一夏に平手打ちを見舞い、それを一夏が受け止め、同時にミシェルが少女の振るった腕を掴む。

左目を眼帯で覆われているにもかかわらず、片方だけのラウラの眼光は誰の双眼よりも鋭くギラついていた。


「だが私は認めない。今ここで宣言しよう。教官の栄光を奪った貴様を、必ず完膚なきまでに叩きのめしてやろう」

「・・・・・・言いたい事は分かるけどな。だからってハイそうですかってアッサリやられてみせると思うなよ?」


交わされ合う宣戦布告。






こりゃ予想以上に面倒な事になりそうだと、ミシェルは頭を抱えた。



















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感想で皆さんに様々なご意見を言われましたが、自分も書いてから(ノ∀`)アチャーと思ってしまいました。学習しろよ自分。
でも一応これまでのとは違う路線のつもりです。ハーレムじゃないよ!幼馴染丼だよ!男の方は喜ぶ以前に思いっきり戸惑ってます。
いやまあ似たようなもんだろゴラァと言われてしまえばそれまでですが。


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