長引く原発事故の影響を受け、福島県内の公立学校では、プールを使うかどうかで苦悩が広がっている。県教委は20日、県立高校でのプール使用は可能との考えを示したが、公立小中校のプール授業を中止する自治体も出始めた。プール開き時期に当たる6月上旬が迫り、保護者からの懸念の声が学校や教育委員会に多数寄せられている。使用前には「水抜き」の排水も必要だが、水田に流れ込むことに慎重意見もあり、市町村教委は国に基準の早期策定を求めている。【阿部亮介、仙石恭】
各教委などによると、プール授業については4月下旬ごろから中止を求める保護者の声が相次いでいる。屋内プールがある学校は少なく、「長袖・長ズボン着用を勧めているのに水着になるのか」「水を飲んで内部被ばくの恐れは」など放射線の影響を心配する声がやまないという。
福島市や郡山市など同県5市1村は今月1日、文部科学省に実施基準の設定を要望。文科省は4月、校庭などで屋外活動を行う際の放射線量の基準を毎時3・8マイクロシーベルト以下と定めたが、水に入るプール授業については「検討中」としたままだ。
プール開きが迫り、独自で判断した教委も。福島市教委は19日、「原発事故が収束しておらず安全面の確保ができない」として屋外プールの授業を中止。屋内施設での代替授業を検討しているが、7~10時間の授業時間は2時間程度に縮小する見込みだ。二本松市教委も中止を決定。伊達市教委は国の基準が示されるまで行わない方針を決めた。一方、大玉村は学校近くの屋内プールで授業を行う。
学校でも戸惑いが広がる。市内の競泳大会の上位入賞者を輩出してきた福島市立渡利小。放課後に4~6年生の希望者を対象とした期間限定の「特設水泳部」を設け、毎年60人前後が在籍してきた。今年は部員募集を中止している。同部担当の土田稔教諭は「この年齢だから身に着く技能がある。児童も楽しみにしていただけに残念」と話す。
また、プール授業を行うためには、防火用にためていた水を抜いて清掃する必要があるが、放射性物質を含む可能性があるとの理由から放置されたままの学校がほとんど。排水すると農業用水に流れる構造の学校もあり、排水をためらっているという。複数の市町村教委の担当者は「水中の放射線量を測る器具も我々には無い。国は、たまった水の取り扱いも決めてほしい」と願うように語った。
放射線医学総合研究所(千葉市)は「校庭にいる時と比べ、水中で皮膚から放射性物質を吸収することは少ない。水の検査はした方がよいが、現在の空気中の放射性物質の濃度なら、水泳授業に問題ないだろう。ただ、けがをしたら水に入らないほうがよい。プールにたまった水は、原発事故前に入れたもので排水しても問題ないのでは」と指摘している。
毎日新聞 2011年5月21日 東京夕刊
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