放射性物質ダダ漏れの現在。日々の食に関する心配は強まる一方だけど、特に気になるのが牛乳だ。
チェルノブイリ事故のときは【まだ】よかった。日本は距離的にウクライナから離れていたし、当事、実際に放射能が検出され「積戻し」がなされた食品を見てみても、へーゼルナッツだとか、セージの葉だとか、割とマイナーな食品が多かったからだ。仮に輸入食品から基準値を超える放射能が検出されたしても、毎日セージの葉をボリボリ大量に食べる人はそんなにいないだろうし、子どもがセージの葉っぱをペチャペチャなめるわけでもないだろう。
しかし、今回は国内での事故だ。セージの葉やへーゼルナッツ、トナカイの肉だけでなく、ホウレン草などの葉物野菜や牛乳にも汚染の懸念が及ぶ。牛乳は毎日愛飲してる人も多いだろうし、子どもだってゴクゴク飲む。つまり、もし汚染されていれば、それだけ年間の摂取総量もかなり大きくなってしまう。そこで、自分が毎日飲んでいる牛乳に「現在、どれくらいの放射性物質が含まれているのか」「各牛乳メーカーはどんな対応をしているのか」が、すごく気になってくる。
そんな中、ツイッターを見ていたら、「メグミルクが危ない」「雪印はダメだ」というポストをいくつも目にした。
我が家では牛乳はほとんど飲まない。妻が毎朝飲むコーヒーにちょろっと垂らすくらいだ。でも、気になる。「一体どこの牛乳をコーヒーに垂らして飲んでんだろう?」。って、パッケージを見てみたら、妻が買ってきたヤツ、これ、思いっきり、雪印の『MEGMILK』じゃないか。
※通常は牛乳は森が買うし、買うときは雪印は避けてます。いや、以前の事件があったので、あれ以来雪印製品は買わないっす。
気になって、検索してみたら、メグミルク、そして雪印に対するツイッターの評判はさんざんなものだ。
『雪印メグミルク「農協牛乳」富里工場の ものは、福島の原乳も多くミックスしています。お客様センター0120-301-369
放射性測定に関しては、原乳の時だけ測定し、工場で他県の原乳と混ぜて薄めている。(厚生労働省の基準に従い)、出荷時には測定は一切していないし、分か
らないとの事。』(@driedwild)
『メグミルク「放射能検査は一切しない」の姿勢に驚き呆れた。だが「ウチの製品は放射能まみれ宣言」は不買の指針として有難い事に気づく。こっそりヤラれるのはそれより怖い。それにつけてもカゴメ・デルモンテの姿勢は素晴らしい。食品・飲料関連は見習うべき。』(@roxol666666)
『雪印メグミルクは原材料、製品に関して放射性物質の検査を意地でも行いません。w
http://bit.ly/kefbE0』(@jazzcaster)
… RT @nuclearleak 『雪印メグミルク富里工場の「農協牛乳」は福島の原乳を他県の原乳と混ぜて薄めて出荷』『雪印側は『特に被爆に関して知識をつけるつもりはなく、ただ厚生労働省の指示に従うだけ』と回答したということです。』
http://bit.ly/fGpvRm(@CHIBAREI_DURGA)
他にもたくさんあるけれど、紹介は割愛させていただく。まあ、どれも「雪印ふざけるな」「信じられない」といった口振りであることに変わりはない。ただ、上記のようなポストを見ていると、疑問に思う点がいくつか出てくるのよね。出てこなくちゃダメだ。
1つは、「福島の原乳も多くミックス」していると言うのと、「他県の原乳と混ぜて薄めて出荷」していると言うのでは、受ける印象は全然違うってことだ。そもそもメーカーだって、毎日大量の牛乳を生産しなくちゃなんないんだ。それを1つの地域の酪農家から買い取った原乳だけで製造するのは難しいことも多いだろう。通常だって(産地を謳ったものは別として)、いくつかの県の原乳をミックスしているに決まってる。それが「福島産の原乳を薄めてる」という言い方をすると、まるで問題のある牛乳を誤魔化すために、意図的に、今回だけの特別措置として、雪印が策略を練っているみたいだ。
2つ目は「放射性物質の検査を意地でも行わない」だとか、「特に被曝に関して知識をつけるつもりはなく、ただ厚生労働省の指示に従うだけ」と雪印は言ったというのだが、本当に文字通りそう回答したんだろうか、ということだ。普通の企業なら、そんなこと、わざわざ自分から言うわけがない。そんなこと言っても何の得もないわけだし。自ら積極的に検査をしていないことは、褒められないとしても、雪印が開き直って「黙れ、お客様」な口の利き方を本当にしたの?と疑問に思う。誰かが途中でオヒレつけただけなんじゃないか。
3つ目は、確かに雪印は自社で製造段階での放射能検査をしていないとして、では他のメーカーは独自に検査しているの?ってことだ。上で紹介したポストを見ると、カゴメ・デルモンテの対応は素晴らしいようだが、牛乳メーカーは雪印だけじゃない。明治乳業とかいくらでもあるだろ。そいつらは独自の検査をしてるんだろうか。福島産の牛乳は一切使用してないとでも言うのだろうか。そうでないなら、結局、なぜ雪印だけが叩かれるのかがよくわからない。
そこで、まず、雪印乳業に電話で問い合わせてみた。カスタマーセンターに、毎日メグミルクを愛飲している森ですと伝え(半分ウソだけど)、原乳の産地と、放射能検査の有無について聞いてみた。
結論から言うと、富里工場のメグミルクに、福島産の原乳も使われていることは事実。放射能検査を自社で、製造段階で行っていないことも事実だった。「でも、ツイッターでは、牛乳の産地を混ぜて誤魔化してるみたいに書かれてますよ?」と伝えると、窓口のSさんも「はい。私もツイッターを拝見しました」と困惑した声。「どうも非常に誇大に書かれていると感じています」。
確かに牛乳を混ぜてはいる。だが、「隠蔽だとか偽装のように思われているお客様がいる」ことについては「決してそうではないとご理解いただきたい」とのことだった。他の工場、たとえば、我が家で飲んでいたものは神奈川県海老名工場で製造されたメグミルクだが、これも神奈川、千葉、栃木、群馬という複数の産地の牛乳がミックスされている。それと同じということらしい。
「雪印は被曝に関して知識をつけるつもりもない」「意地でも検査しない」というポストもあったが、この点も違っていた。牛乳には放射性物質が濃縮されること、チェルノブイリ時、1000キロ離れたフランスでの牛乳への対応、子どもも含め毎日飲むものであることを伝え、消費者として被曝リスクが大変心配だとSさんに言うと、「おっしゃるとおりでございます」と頷くし、「ホームページ上で産地と検査状況を明示してくれないか」「独自の検査もした方が消費者として安心できる」と言うと、「お客様の声は、必ずお伝えいたします」とのことだった。まあ、今後どこまで対応してもらえるのかはわからないが、少なくとも「聴く耳持たない」感じではまったくなかったぞ。
さて、では、他の牛乳メーカーではどういう対応をしているんだろうか。この点も気になる。そこで、ためしに、明治乳業、森永乳業、協同乳業、小岩井乳業の4社にも電話をかけてみた。聴きたいことは2つ。(1)製造段階で御社独自に放射能検査をしているか、(2)福島産の原乳を使用した牛乳はあるか、である。各社の回答は次の通り。
明治乳業
(1)独自検査はしていない。お客様からの声が大きく、また、牛乳という液体であるため、洗い流すことができないことから、確かに2重3重の検査をする方が望ましいのではないかと考えている。しかし、具体的な独自検査の予定は現段階では出ていない。
(2)福島産の原乳は使用していない。地震以前は東北の工場で使用していたが、地震によって東北工場が停止しているため、自動的に福島産の原乳が使用できない状態になっている。「十勝牛乳」など産地をうたった牛乳はその産地のもののみ使用しているが、「おいしい牛乳」などは、酪農家団体が近隣複数県から集めてきた原乳を使用しているため、産地はミックスされている。
「おいしい牛乳、おいしいです!」と伝えると、「本当に、本当にありがとうございます!」と喜んでくれた。窓口担当の女性も非常に真摯な対応。「お客様の声は必ず上にお伝えします」とのこと。福島産を実際は使っていないが、使用しない理由は「事故による工場停止」なので、今後ふたたび使用する可能性がないわけではないようだ。ポリシーがあって使用しないのではなく、偶然使用できなくなっている、という状況に近い。
森永乳業
(1)独自に検査はしていない。今後する予定も今のところない。
(2)福島県産の原乳は使用していない。これは牛乳に限らず、飲料、デザート、ヨーグルトすべてにおいて当てはまる。事故以前は東北の工場で使用していたが、現在、工場が停止しているため使用していない。今後は国が定める基準を満たした原乳を産地に関わらず使用する方針。工場は近いうちに再度稼動すると思われる。ゆえに、その際、国の基準値に収まれば、福島産の牛乳を使用する可能性がある。
最初電話したときは、頼りなさそうなオドオドした男性が電話に出た。「後ほど担当の者から折り返し連絡する」ということだったので、待っていると、4時間くらい経って、携帯電話から連絡が入った。背後の音がガヤガヤとうるさい。どうやら出先の営業担当らしい。「独自検査はしていません。福島産は使ってません」と先に電話した際に出していた質問に答える。「あのー、事故前は福島産も使用してたんでしょうか」と追加で質問すると、「えーと、えーっと・・・また、確認して、今度は本社から折り返し電話します」とのこと。正直、森永の窓口が一番対応がどん臭い感じ。いわゆる「デキない」セールスの典型というか。
その後、同じ営業担当から電話を受ける。「本社に確認してまいりました。工場の稼動の問題だとか、原発事故による放射能のこととか、いろいろあって、以前は微量ながら使用してたんですけども、今は福島産は使用してないです」との返事。「すみません。それって工場が復旧したら使用するってことですか?」と問うと、また返答が一瞬しどろもどろに。聞いたことしか答えない(答えられない)、「微量ながら使用していた」など、言い回しが姑息に感じられる、専門の窓口ではなく、営業担当者が返答を兼任と、対応スタンスとしては最も「どうか」と思わされる感じだった。「国の基準値、国の基準値・・・」と繰り返すあたりにも、自社のポリシーを感じない。あまり深く考えてない感じだ。まあ、ぼくに電話をくれた営業担当者がちょっと情けなさすぎるんだと思うのだけど・・・。
協同乳業
(1)独自に検査はしていない。というのも、放射能の検査ができる箇所は日本で1箇所のみ。そこですべての食品の検査をしており、混雑している。とてもじゃないが、独自に検査できる状況にはない。(自社での検査も考えてない様子だった)
(2)福島産の原乳は使用していない。事故以前は福島産も使用していたが、事故後は使用せず、群馬、千葉、東京、北海道などの原乳を使用している。国の基準では300ベクレル、乳児100ベクレルといった数字もあるが、協同では自社独自の社内基準、30ベクレルを採用。それ以上のものは使用していない。そのため、結果として、その基準値に達する(自社がそれまで取引していた)福島産牛乳を現在は買い取っていない状況。
大変早口な男性が窓口に出た(笑)。「ハイ!ハイ!ご質問はッ!」とせかされるので、「うわあ、これはダメな窓口だなあ・・・」とのファーストインプレッションがあったのだけど、意外や意外。自社の独自基準を設けるなど、放射能への対応は一番進んでいた。他の企業のお客様窓口は月〜金までの対応しかしていないところがほとんどなのに、協同は土日祝日も窓口が開いており、「ハイ!ハイ!いつでも!相談!ハイ!して下さい!!」と元気がいい(笑)。朴訥でちょっと垢抜けないイメージだけど、牛乳にかける思いには、熱いモノがある。
「各乳業会社さんに電話で同じこと聞いてまわってるんスけど、自社基準を設けてるなんて、そんな先進的な試み、協同さんだけですよ」「いや、驚きました」と言うと、「そうですか!(そうだろう、そうだろう)」という感じの返答で、すごく嬉しがっていたぞ。シェアでは明治や森永に勝ってないだろうからこそ、強い矜持で乳業に取り組んでいるのだろうと思う。
小岩井乳業
(1)独自検査はしていない。今後は考えていきたいが、現段階でそうする予定はない。
(2)福島産の牛乳は一部で少量使用されている。スーパー等の小売店で販売されている通常のパック入り牛乳では一切使用されていない(岩手産、栃木産を使用)が、宅配や自動販売機等で販売されている、「小岩井フルーツ」等の乳飲料には少量ながら使用している。当然、国の基準値を上回るものについては使用しないと決めている。
ゆっくりとした話し方の女性が窓口に。上品だ。一部乳飲料に福島産を使用していたが、そのことも特に隠したりしないし、言いにくそうな感じもない。質問したことにもわかりやすく答えてくれた。ちょっとエレガントな気持ちになる。こういうのって、さも隠したそうに話すと逆に不審に感じるんだよね。聞いたことにハッキリと答えてもらえると、その方が企業に対する印象もいいし、電話してよかったと思える。
いかがでしょうか。というわけで、どの乳業会社でも、独自の放射能検査はしていなかったし、する予定もないということがわかった。協同乳業の窓口の話を聞くかぎり、現実的に独自に調査するのは難しいこともあるようなので、協同乳業のように「国の基準より低い自社基準」を設けるという対応の方が現実的なのかもしれない。
福島産牛乳を使用していたのは、雪印、小岩井(一部乳飲料)のみ。ただ、使用していない明治乳業、森永乳業も、事故で東北工場が動かないから「使用できない」のが現状であり、何かポリシーがあって使用していないわけではない。「どうしても福島産は避けたい」という人は、協同なら絶対に避けることができるし、30ベクレルという自社基準があるため、他社の牛乳よりも放射性物質の摂取も抑えられるだろう。ただ、福島産を使用している雪印、小岩井にしても、富里工場や「小岩井フルーツ」などの乳飲料に使用が限られているのだから、その点ではあまり神経質になる必要はないのかもしれない(メグミルクはパック上部を見ると、どこの工場から出荷されたものか分かるようになっているので、避けることは容易)。
逆に「福島県産じゃなければいいのか」という問題もある。チェルノブイリ事故のときだって、乳製品に与えた影響は広い地域にまたがるものだった。ましてやこの狭い日本。千葉県ほか、様々な場所で牧草から放射能が検出されている。「産地神話」に陥れば、逆にリスクが増すことにはならないか。個人的にはどちらかと言うと、産地ではなく、検出される放射能数値で選びたいと思っている。
また、国の定める基準値以下のものだと思われるが、ぼくら県外の人間が避けたがっている福島産牛乳を、風評被害払拭のためと言って、県内の給食で子どもたちに与える、との話も耳にした。だから「ぼくらは不安でも福島産の牛乳を飲むべきだ」とは言わない。だけれど、実際に汚染されていようが、風評被害だろうが、県内の農家は瀕死のダメージを受けているし、そうした消費者の動向をなくしたいと強く願ういわき市長も存在しているのだ。県外の消費者も「国の基準は信頼できない」「検査を厳しくしてほしい」「東電は県内の酪農家すべてに補償しろ」と声を大きくして言うべきだろう。こんなダメージも原発は与えることになるのだから、原発にだってNOを突きつけていくべきじゃあないのか。自分さえ被曝しなければそれでいい、喉元過ぎれば熱くないという態度は無責任だろう。今後、きっちり東電の補償の動きを見ていきたいし、補償がなされなかったり、滞るようであれば、これまた声をあげていきたい。
いずれにせよ、今回、雪印だけバッシングしていた人たちは、何だったんだろうか。確かに雪印は独自に放射能検査をしていない。だけれど、それなら明治、森永、協同、小岩井、どこも独自検査などしていない。独自検査をしないことが問題なら、これら4社も徹底して追及すべきだ。
また、福島産牛乳を使用していることが問題なら、小岩井乳業も同罪だ。「フルーツ小岩井に福島産を使うな」と声をあげていくべきだろう。明治乳業も森永乳業も「たまたま」福島産を使っていないだけだ。今後も使うなと訴えていくべきということになる。各産地の牛乳をミックスさせること自体については、どこの乳業会社でも地震前からやっている非常にオーソドックスな手法だ。それが「薄めている」「誤魔化している」からダメだというのであれば、全乳業を相手に批判したらいい。
つまり、雪印バッシングをしている人は、結局のところ、他の乳業会社と比べず、雪印だけが悪いと騒いでいることになる。まあ、確かに福島産を使っているのだから止めて欲しいと言うのはわかるし、過去にあんな事件起こしちゃったわけだから、雪印の身から出たサビだとも言えるわけだが、それにしても、電話での応答から「放射能について学ぶ気もない」だとか「福島産を薄めて使ってるのだ」と言うのはどうかと思うわけですよ。
ちなみに、上のポストで雪印と比較されていたハーゲンダッツ社にも電話で問い合わせてみた。クリーム、脱脂粉乳、卵、砂糖、水については、すべて自社で放射能の検査を独自に行っているとのこと。使用している原乳は一部をのぞき、すべて北海道産。一部の原乳はフランス産、だそうです。なるほど、美味しい、高いには理由があるのね。
(2011/5/21)
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