きょうの社説 2011年5月25日

◎原発事故調査委 独立性保った第三者機関に
 福島第1原発の事故原因を検証する目的で、政府が設置する「事故調査・検証委員会」 は、内閣官房ではなく、政府から完全に独立した第三者機関にすべきだろう。独立性と中立性を保ち、閣僚や東電幹部などから自由に聴き取りができる強力な権限を与えないと、徹底した検証を行うのは難しい。政府内に設置した機関による調査では「お手盛り」と見られかねず、国際的な信任が得られない恐れがある。

 政府は事故原因について、公平・公正に調査を行い、国内はもとより国際社会に説明す る責任がある。しかし、菅政権が「政治主導」を旗印に官僚を極力排除したこともあって、官邸と東電のやりとりなどに関する議事録が残されていないケースが多く、菅直人首相や関係閣僚、東電、原子力安全委、原子力安全・保安院がどのような判断のもとで事故対応に当たったかを把握するのは容易ではない。

 1号機への海水注入が一時中断した問題について、菅首相は23日の衆院復興特別委員 会で、東電への指示を否定した。だが、原子力安全委の班目(まだらめ)春樹委員長の発言訂正は、何らかの「内部調整」があったことをうかがわせ、政府側が混乱したために事態の悪化を招いた疑いは消えない。「政府はメルトダウンを早い段階で知っていたのではないか」という疑念もあり、菅首相は「政府の発表に国民がかなり不信を持っている。責任者として本当に申し訳ない」と陳謝した。

 事故原因は、第三者が当事者の証言と記録を突き合わせ、解き明かしていくしかない。 「原子力村」の専門家や官邸の主張が食い違っているならば、どちらの主張が正しいのか判断を下す必要もある。正確な事実を明らかにしてこそ「再発防止に関する政策提言」という目的が果たせる。

 自民党や公明党は調査委員会を政府機関とは独立させ、国会などに設置する対案を今国 会で提出する動きを見せている。当事者の影響を排除し、独立性を保つという点では、国会内に設置するのも一つの考え方だろう。来日した国際原子力機関(IAEA)の調査団と協力して、国際的な信認が得られる報告書を作成してほしい。

◎韓国議員が国後訪問 認められぬ第三国の関与
 韓国の野党国会議員が北方領土の国後島を訪問したことは、日本にとって残念な事態で ある。李明博政権が「韓国政府とは無関係」の立場をとり、日ロ間の領土問題に言及するのは適切でないとの考えを示しているのは救いであるが、ロシアのビザによる韓国国会議員の北方領土訪問は、ロシアの管轄権を認めることになり、日本との領土問題で韓国とロシアが連携する印象を国際社会に与えかねない。

 実際、ロシアは北方領土を含むサハリン州への投資を中国や韓国の企業に呼びかけ、第 三国を関与させようとしている。ロシアは昨年、日本が第2次大戦の降伏文書に調印した日を事実上の対日戦勝記念日に制定し、尖閣諸島の領有権を主張する中国と「大戦終結65周年の共同声明」に調印した。中ロ両国が共通の歴史認識に立ち、領土で「対日共同戦線」をはる動きとみることもできる。

 しかし、二国間の領土問題に関して、まして日本が領有権問題は存在しないと主張して いる領土に対して、第三国が関与・干渉することは認められない。日本政府は少なくとも、そのことを中ロ韓に認識させる必要がある。

 国後島を訪問したのは韓国の最大野党民主党の国会議員で、竹島(韓国名・独島)の韓 国領有運動を展開する「独島領土守護対策特別委員会」のメンバーである。日本の中学校教科書に竹島が日本領土と明記されたことへの対抗措置の意味もあるとみられる。

 日本政府が遺憾の意を表明したのに対して、訪問議員は「韓国国会議員の行動にあれこ れと言ってくるのは失礼な態度だ」と反発したが、外部から日ロ間の領土問題に干渉する態度こそ国際的に非礼というべきではないか。

 ロシア漁業庁によると、中国の水産会社が国後島などでロシア企業と合弁事業を計画し ているという。中国側はそのことを否定しているが、北方領土だけでなく、竹島、尖閣諸島の領有権問題に中ロ韓が相互にかかわりを持って対日圧力を強める可能性を否定できない状況であり、日本外交の踏ん張りどころといえる。