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ドラマ:31日から放送「下流の宴」 中園ミホさん、林真理子さん対談

 本紙で連載した林真理子さんの小説『下流の宴(うたげ)』が、NHK総合でドラマ化され、31日、放送が始まる(毎週火曜日午後10時~、全8回)。わが家は「中流」だと思っている福原由美子が主人公。息子翔が高校を中退し、フリーターの珠緒(たまお)と結婚すると言い出す。「下流」転落の危機を前に巻き起こる悲喜こもごもを描いた物語だ。放送スタートを前に、脚本を手掛けた中園ミホさんと原作者の林さんに、ドラマについて語り合ってもらった。【構成・内藤麻里子、写真・梅田麻衣子】

 ◇翔君を描くのに苦労した--中園さん

 ◇何にも出合えなかった子の一人--林さん

登場人物などの魅力について語る脚本家の中園ミホさん=東京都千代田区で2011年5月20日、梅田麻衣子撮影
登場人物などの魅力について語る脚本家の中園ミホさん=東京都千代田区で2011年5月20日、梅田麻衣子撮影

 中園 林さんの小説をドラマ化するのはこれで4度目ですが、今までで一番難しかった。翔というキャラクターは物欲も性欲もないような男の子。この物語は翔君を描けなければダメだと思ったのですが、つかみどころがなくて苦労しました。

説の登場人物などの魅力について語る作家の林真理子さん=東京都千代田区で2011年5月20日、梅田麻衣子撮影
説の登場人物などの魅力について語る作家の林真理子さん=東京都千代田区で2011年5月20日、梅田麻衣子撮影

 林 「お金ほしいでしょ?」と言われても、「別に」なんて言う子。実際にこういう子っているんじゃないかと思って書いていましたけど、ドラマにするのは難しいでしょうね。

 中園 ドラマの中でキャラクターは成長したり、変わったりするものです。ところが翔君は一向に変わらない。でもお母さんには溺愛され、珠緒にもすごく愛されているから、何か魅力があるのだろうと探しながら脚本を書きました。

 林 毎朝、犬の散歩で牛丼屋の前を通るんです。その店の中にいる若い男の子たちを見ると、何か物悲しく食べている。ガツガツと楽しそうに食べているわけではなく、仕方なく咀嚼(そしゃく)している感じ。翔君はそんな若者の一人だと思う。

 中園 そうそう、そういう感じ。ドラマの男の子って感情がはじけると走りますが、「翔君は絶対に走らせないでください」と言いました(笑い)。

 林 中園さん、息子さんがいらっしゃいますよね。実際、どうですか。

 中園 今、高校3年です。由美子を見ていると、すごく身につまされます。人に頑張らせるのは、自分が頑張るよりどれほど大変なことか(笑い)。思うようには絶対にならない。「あなたなんか生きてる資格ない」とか、原作にあるのと同じ言葉を言ったことがあるので、胸が痛い。昨日、完成した第1話を家で見ていて、いつもはあまり反応しない息子が「面白かった」と言った。びっくりしました。

 林 それはうれしい。

 中園 彼は翔君のことが分かるんじゃないのかなあ。

 林 無気力な子たちが野球に出合って燃え上がるようなドラマがあるでしょう。でも、何にも出合えない子たちは多いと思う。『下流の宴』では中流の人たちが下流になっていく恐怖を描きましたが、今回の大震災で1億総下流になる可能性も出てきたと思います。

 中園 2年ほどの期間のお話で、2011年にドラマが終わる設定にしました。この後、翔君はどうなるんだろう。ドラマ化に当たって、彼のような人たちを取材してみると、みんな心優しく、繊細で穏やか。この国はしょぼくなるかもしれないけど、彼らは戦争は起こさないんじゃないかと思った。東日本大震災後、困っている人がいるから助けに行きなさいと言われたら、行くんじゃないかな。

 林 行くと思いますよ。私は被災地に行ったんですが、若いボランティアが大勢いました。

 中園 ゲームのバーチャルな世界にいる人も、目覚めるんじゃないかと期待してしまう。

 林 父親の健治が原作よりふくらんでいて、いいですね。珠緒に勉強を教える島田も、ドラマ独自の設定になりました。

 中園 珠緒を演じる美波さんはきれいな女優さんですが、由美子に「ブス」と言われるような役。ちゃんとそういう顔になって演じています(笑い)。

 林 小説を連載していた時の挿絵では、思い切りブスに描かれていましたものね(笑い)。

 中園 女性の登場人物は翔君と違ってみんな信念がある。でも、物語の核は翔君。この子をつかまえるのに苦労したかいあって、今まで見たこともないようなドラマになりました。

 林 早く見たいですね。

 中園 翔君のような男の子って今後、需要があると思うんです。頑張っている女性が家に帰ると、ああいう優しい人がいて癒やしてくれる(笑い)。

 林 主役の黒木瞳さんも、のって演じてくださっていると聞きました。

 中園 ふっ切れた演技をされている。珠緒と由美子のバトルを映像で見ると、笑えます。ゲラゲラ笑って見ながら、日本はこれからどうなっていくのかと考えざるを得ないドラマです。

 ◇ぶれない価値観に快感--黒木瞳さん(福原由美子役)

 登場人物一人一人がぶれない価値観を持っていて、「自分のどこが悪い」という感じで戦う。そこが気持ちのいいところ。(翔や珠緒の言葉に)つい、そうよねって思ってしまうので、他人に共感しないで演じるように心掛けています。「私はこう思う」「でも私はこう思う」というように、いろんな感じ方ができる社会派コメディーです。

 ◇貫き通すエネルギー持っている--美波さん(宮城珠緒役)

 宮城珠緒は、こだわらないおおらかな性格だけれど、こうと決めたら大事なものを貫き通すエネルギーを持った女の子です。由美子さんと珠緒のバトルはお芝居というより、スポーツ感覚で演じていて、毎回2人の間で巻き起こる摩擦が最大の見どころです。ピュアな心を持ち続けることの大切さを珠緒から感じ取ってもらいたいです。

 ◇すべての原因は覇気のなさ--窪田正孝さん(福原翔役)

 このドラマではある意味、すべての原因が翔にあると思っています。居心地のいい場所にいたい、楽をしたい、頑張りたくない。その翔を変えようと由美子さんが頑張っちゃった結果、珠緒とのバトルも起こります。何を言っても変わろうとしない、こんな覇気のない子もいるんだと、あきれながら楽しんでいただければと思っています。

 ◇ドラマのあらすじ

 ごく普通の中流家庭の専業主婦、福原由美子(黒木瞳)は、ある日、どん底に突き落とされる。息子の翔(窪田正孝)が高校を中退してしまったうえに、結婚すると言いだしたのだ。相手はフリーターの宮城珠緒(美波)。

 亡父が医者だった由美子にとって、こんな結婚は認められない。息子の進路を軌道修正しようと躍起になる。しかし、夫健治(渡辺いっけい)は頼りにならず、娘の可奈(加藤夏希)は可奈で、婚活に夢中で相談相手にもならない。

 奮闘する由美子だが、とうとうある日、珠緒に「(わが家は)あなたとは住む世界が違う」と言い放ってしまう。激怒した珠緒は結婚を認めてもらうため、「医大に入って医者になる」と“宣戦布告”。珠緒の受験はどうなるのか。由美子はどう出る? そして翔と珠緒の未来は--。

 ◇単行本も絶賛発売中

 『下流の宴』は毎日新聞に2009年3月から12月まで連載されました。現代の人間模様をユーモラスに描きながら、格差社会の厳しい現実を浮き彫りにした小説です。受験生の子どもを持つ人や、作中の由美子と同世代の母親たちを中心に、連載中から大きな反響を呼びました。

 毎日新聞社から単行本が絶賛発売中です。

 テレビドラマの展開や設定には、原作とは異なるところもあります。相違を探しながら読むのも一興です。ドラマで描かれた出来事の詳しい顛末(てんまつ)や、いろいろな登場人物の行状が分かって、面白いやら、しんみりするやら。原作もお楽しみください。

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 ■人物略歴

 ◇なかぞの・みほ

 1959年生まれ。88年脚本家デビュー。「やまとなでしこ」「anego」「ハケンの品格」など、若い女性の本音をのぞかせるドラマで人気を得てきた。

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 ■人物略歴

 ◇はやし・まりこ

 1954年生まれ。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞受賞。ほかに『白蓮れんれん』(柴田錬三郎賞)、『みんなの秘密』(吉川英治文学賞)など。

毎日新聞 2011年5月24日 東京夕刊

 

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