「日本同情」中国メディアに党が大慌て(上)
月刊FACTA 5月23日(月)13時45分配信
“市場系メディア”が震災報道をリード。四川大地震との比較を政権批判に転化させまいと緊急通知したが。
◇
東日本大震災の前日の3月10日、中国でも雲南省盈江県でマグニチュード5.8の地震が発生し25人以上が死亡、200人以上が負傷した。にもかかわらず、中国での報道の扱いは小さかった。
雲南省は地震の多発地帯であり、M5.8クラスの地震は珍しくないこともあるが、最大の理由は毎年3月上旬に開催される全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(両会)の会期中だったからだ。共産党中央宣伝部(中宣部)が両会の報道を最優先するようメディアを指導していたため、雲南の地震のニュースは隅に追いやられたのである。
だが、翌11日に日本を襲った大地震は、中宣部とメディアの関係に想定外の“激震”をもたらした。新華社など一部の政府系メディアが海外ニュースを独占してきた体制に、にわかに亀裂が生じたのだ。
日本でM8.8(後にM9.0に修正)の大地震が発生したという第一報は、政府系メディアが報じる前にインターネットを通じて中国に伝わった。2008年に8万人以上の命を奪った四川大地震(M8.0)を超える規模だったうえ、東日本沿岸で大津波が発生したという続報が入り、多くの中国人が甚大な被害が出ると直感した。
■政府系メディアに批判の声
そんななか、北京の「新京報」や「新世紀」、広州の「南方都市報」などの“市場系メディア”が11日午後のうちに被災地への記者派遣を決定する。日本大使館に「直ちに取材ビザを発給してもらいたい」と異例の要望を出した。日本大使館は通常1週間以上かかるビザ申請手続きを1日に短縮して対応し、翌日には複数の中国人記者が日本に飛んだ。また、一部のメディアは日本で暮らす中国人留学生などに連絡を取り「臨時特派員」に指名した。こうして3月12日には、市場系メディアによる現場報道がスタートした。
“市場系メディア”とは、経営にかかる費用を中国政府の予算に依存せず、広告収入などで独自に賄うメディアの総称だ。読者の支持を得て発行部数を伸ばさなければ広告が集まらないため、内容はおのずから読者に近い視点になり、共産党の“宣伝”を至上の任務とする政府系メディアとは一線を画す。北京、上海、広州、深センなどの大都市を地盤とする市場系メディアは、一般市民への実質的影響力ではすでに政府系メディアを凌駕しているのが実態だ。
しかし中国政府の規定では、メディアが海外に記者を常駐させるには外務省や中宣部の許可を得なければならない。日本に特派員を置いているのは新華社、人民日報、中国中央テレビなど中央政府直轄の大手メディアがほとんど。市場系メディアが正式に許可された前例はない。また、中宣部は海外ニュースについて新華社などの“公式報道”を引用するようメディアを指導している。市場系メディアによる独自報道はこれまでタブーだったのだ。
※下に続く
(月刊『FACTA』2011年5月号、4月20日発行)
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東日本大震災の前日の3月10日、中国でも雲南省盈江県でマグニチュード5.8の地震が発生し25人以上が死亡、200人以上が負傷した。にもかかわらず、中国での報道の扱いは小さかった。
雲南省は地震の多発地帯であり、M5.8クラスの地震は珍しくないこともあるが、最大の理由は毎年3月上旬に開催される全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(両会)の会期中だったからだ。共産党中央宣伝部(中宣部)が両会の報道を最優先するようメディアを指導していたため、雲南の地震のニュースは隅に追いやられたのである。
だが、翌11日に日本を襲った大地震は、中宣部とメディアの関係に想定外の“激震”をもたらした。新華社など一部の政府系メディアが海外ニュースを独占してきた体制に、にわかに亀裂が生じたのだ。
日本でM8.8(後にM9.0に修正)の大地震が発生したという第一報は、政府系メディアが報じる前にインターネットを通じて中国に伝わった。2008年に8万人以上の命を奪った四川大地震(M8.0)を超える規模だったうえ、東日本沿岸で大津波が発生したという続報が入り、多くの中国人が甚大な被害が出ると直感した。
■政府系メディアに批判の声
そんななか、北京の「新京報」や「新世紀」、広州の「南方都市報」などの“市場系メディア”が11日午後のうちに被災地への記者派遣を決定する。日本大使館に「直ちに取材ビザを発給してもらいたい」と異例の要望を出した。日本大使館は通常1週間以上かかるビザ申請手続きを1日に短縮して対応し、翌日には複数の中国人記者が日本に飛んだ。また、一部のメディアは日本で暮らす中国人留学生などに連絡を取り「臨時特派員」に指名した。こうして3月12日には、市場系メディアによる現場報道がスタートした。
“市場系メディア”とは、経営にかかる費用を中国政府の予算に依存せず、広告収入などで独自に賄うメディアの総称だ。読者の支持を得て発行部数を伸ばさなければ広告が集まらないため、内容はおのずから読者に近い視点になり、共産党の“宣伝”を至上の任務とする政府系メディアとは一線を画す。北京、上海、広州、深センなどの大都市を地盤とする市場系メディアは、一般市民への実質的影響力ではすでに政府系メディアを凌駕しているのが実態だ。
しかし中国政府の規定では、メディアが海外に記者を常駐させるには外務省や中宣部の許可を得なければならない。日本に特派員を置いているのは新華社、人民日報、中国中央テレビなど中央政府直轄の大手メディアがほとんど。市場系メディアが正式に許可された前例はない。また、中宣部は海外ニュースについて新華社などの“公式報道”を引用するようメディアを指導している。市場系メディアによる独自報道はこれまでタブーだったのだ。
※下に続く
(月刊『FACTA』2011年5月号、4月20日発行)
最終更新:5月23日(月)13時45分
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