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原発事故で日本政府が語ることは真実なのか――。こんな疑念がぬぐえない日々が続く。きのうの衆院東日本大震災復興特別委員会でも、事故翌日に原発への海水注入が一時中断されたこ[記事全文]
大津波で壊滅的な被害を受けた漁業の再生に向けて、宮城県は、漁業協同組合が事実上独占してきた漁業権を企業にも開放する特区構想を打ち出した。養殖などを営むには知事の免許が必[記事全文]
原発事故で日本政府が語ることは真実なのか――。こんな疑念がぬぐえない日々が続く。
きのうの衆院東日本大震災復興特別委員会でも、事故翌日に原発への海水注入が一時中断されたことに対して、政府の関与がただされた。
政府は東京電力の自主判断だと説明したが、首相官邸の意向が東電の判断に影響した可能性は払拭(ふっしょく)しきれなかった。
当時の政府と東電内部の混乱は想像に難くない。真相解明には慎重を期さねばならない。だからこそ、復旧・復興の政策論議と切り離した、第三者機関による検証作業が欠かせない。
菅直人首相も専門家による事故調査委員会をつくると明言している。速やかに具体像を示してほしい。
その際に重視すべき点が二つある。
一つは独立性、中立性の担保だ。事故対応にあたっている東電、菅首相、関係閣僚、原子力安全委員会、原子力安全・保安院らの判断をつぶさに検証するには、いずれとも距離を置かねばならない。
委員の人選では、原発を推進してきた「原子力村」の関係者を中核から外すことが絶対条件だ。国際社会の信認を得るには、国際機関や外国の専門家にも、何らかの協力をあおごう。
三権分立に基づき、立法府が行政府をチェックするという意味では、自民党が検討中の国会内に調査委を設ける方式も一案だろう。ただ、ねじれ国会のもとで党利党略のぶつかり合いの場になるようでは困る。
1979年の米スリーマイル島原発事故では、カーター大統領(当時)が原子力以外の専門家や地域代表らも含めた特別な委員会を設けた。原子力規制委員会(NRC)任せにせず、外部の目を重視したためだ。この大胆さは見習う価値がある。
二つめは、強い調査権限を付与しつつ、調査の目的は再発防止なのだと明確にすることだ。
結果しだいでは、関係者の責任が厳しく問われる場面もあり得る。だが、罪状を暴き立てるよりも大事なのは、世界中の原発で同様の事態が起きた時、最善の対応で被害を最小限に抑える知恵を見いだすことなのだ。
調査委の発足前にも着手すべき作業がある。事故直後からの資料や記録が散逸しないよう保存し、記憶が薄れる前に関係者の証言を集めておくことだ。
史上最悪レベルの原発事故を起こした国として、徹底検証をして、その結果を包み隠さず公表する。国内外の信頼を回復するには、これしかない。
大津波で壊滅的な被害を受けた漁業の再生に向けて、宮城県は、漁業協同組合が事実上独占してきた漁業権を企業にも開放する特区構想を打ち出した。
養殖などを営むには知事の免許が必要だ。漁業法により、地元漁協はこの権利を優先的に得ることができる。漁協は免許を受けた海区を小分けし、それを使った組合員が漁協に使用料などを支払う仕組みだ。
村井嘉浩知事が政府の復興構想会議で提案した水産業特区案では、加工や流通などに携わる企業が希望すれば漁業権を与え、被災地に法人を設立してもらう。新規参入を促して復興を支える狙いである。
大津波で船や養殖施設を失った漁業者の多くが、資金繰りに行き詰まり、撤退を余儀なくされるおそれが強い。
水産業特区では、撤退する人たちが使っていたエリアを集約し、新たな海区をつくって新規参入の法人に開放することなどが想定される。
そうした場合、権利の売買を認めれば、撤退する人も借金の返済などに充てることができ、生活を立て直すきっかけになる。いったん県が買い取って、それを新規参入の企業に売却することがあってもいい。
参入する法人に地元の漁業者を優先的に雇用するよう求めれば、社員として漁業を続けることも可能だ。
宮城県漁協は「漁業者をサラリーマン化する」「大きな企業は経営が駄目になったら撤退する」と反対している。
確かに参入しても、短期間でやめてしまえば復興の後押しにならない。漁業権を与える際に、20年程度は続けることを条件に盛り込めないか。
漁協側も復興プランがあれば、提案してもらいたい。
漁業権をめぐっては、内閣府が規制改革の一環として4年前から、漁協優先を見直して参入制限の緩和を求めている。譲渡可能な制度も提案した。
しかし、水産庁などは「大手資本が参入すれば地域の漁業者が疲弊する」と抵抗し、漁業法の改正は手つかずのままだ。
改革が進まない一方で、漁業が衰退の道をたどっているのは明らかだ。漁業者の数は、漁業法のできた1949年に比べて5分の1に激減した。乱獲による資源の枯渇も深刻だ。このまま放っていてよいはずはない。
基幹産業である漁業の復興なくして、被災地の経済は立ちゆかない。
新たな漁業のモデルをつくる。そんな意気込みで水産業特区を試してみる機会だ。