他人のアパートに侵入し現金を盗んだとして窃盗などの罪に問われた福岡県内の男の被告(63)の初公判が23日、福岡地裁(高原正良裁判官)であった。被告は先天的に全く耳が聞こえず言葉も話せない障害があり、過去にも同様の罪を繰り返して19回の有罪判決を受け、20年以上も刑務所に入っている。今回の事件の捜査で新たに軽度の知的障害があることも判明した。深刻な障害がありながら、周囲の支援が不十分で服役を繰り返す被告をどのように処遇するべきなのか。判決は6月13日に言い渡される。
起訴内容には争いがなく、検察側は「障害を考慮しても前科が多い」として懲役2年を求刑。弁護側は「被告は刑事司法と福祉のはざまでこぼれ落ちた。社会内で生活するため最善の方法を検討すべきだ」と執行猶予付きの判決を求め、結審した。
被告は昨年9月に福岡市博多区のアパートに侵入、現金3万円を盗んだとして、今年3月に起訴された。
弁護側によると、被告は1人暮らし。別に暮らす家族にも障害がある。障害者の年金8万円を受給しているが、福祉サービスは受けていない。金銭管理ができず、別居の弟に任せており、起訴された事件は現金が手元になくなったため起こしたという。
初公判は手話通訳人が被告にすべてのやりとりを訳す形で進行。被告は起訴内容を認め、質問には「被害者にお金を返さないといけないことは分かる」「仕事がしたい」と手話で述べた。しかし時折、手話通訳人の手話をただ繰り返すだけで質問に答えられず、審理が進まない場面もあった。
検察側は、傘を使い鍵を外す手口などに触れ「大胆で慣れた犯行。相当期間刑務所に入所すべきだ」と主張。
弁護側は「責任能力は欠如していないが、健常者と同じではない。刑事施設での矯正は期待できず、福祉施設への入所が必要。なぜ罪を繰り返すのか、社会全体で考える必要がある」と訴えた。
=2011/05/24付 西日本新聞朝刊=