米コンピューター・メーカー、デルの創業者、マイケル・デル氏(46)は4年前、「ブランド力」を強化するとともに、プレミア価格を設定できるスマートフォン(高機能携帯電話)や音楽プレーヤーなどのガジェットの生産について語っていた。
しかし、デル氏の努力は実を結ばず、消費者は米アップルの製品の購入に勤しんでいる。
デル氏は24日、消費者エレクトロニクスでの成功の夢を実現するための挑戦に再び打って出る。アップルの人気ノートパソコン(PC)「MacBook(マックブック)」に対抗するよう設計された999ドルの超薄型ノートPCを発売するのだ。
ガジェット人気が全盛を迎えるなか、デルはヒット製品に恵まれずにいる。デル氏は今年に入り、薄型ノートPC「アダモ」の販売を中止した。それ以前には音楽プレーヤーとオンライン・ミュージックストアの立ち上げをローンチの前に取りやめている。スマートフォンやタブレットに進出したが、成果は芳しくない。
デルは消費者市場でのプレゼンスを維持したい意向だ。タッチスクリーンといった多くの消費者向けイノベーションが、企業向けの製品にますます多く取り入れられていることが理由だ。デルのバイスプレジデントのジョン・ソード氏は、消費者向け技術が企業向け製品に転用されていることで、同社はかつて強みを発揮していた法人部門で「防御」を余儀なくされている、と述べる。
デルは、自宅とオフィスの双方で同じガジェットを使用するプロシューマー(professionals+consumers)にこれまで以上に焦点を絞るため、複数あるサブブランドを絞るなど消費者向けの製品展開を縮小している。
法人部門の販売回復は、同社の戦略に信頼性を与えている。1-3月期決算は、法人部門で増収増益となった。一方、全体の売上高の約20%を占める消費者部門では、前年同期比7%の減収だった。
デル氏は最高経営責任者(CEO)に復帰した2007年、アップルの「iTunes(アイチューンズ)」に類似したソフトウェアを開発したジングシステムズを買収した。
関係筋によると、2007年当時の消費者部門責任者はジングを訪問した際、デルは安価なPCを大量に販売するPCメーカーのゼネラル・モーターズ(GM)となり、イノベーションを拒んだことでGMと同様、競合会社に後れを取った、と述べた。さらに、新生デルは、プレミア価格で販売可能なソフトウェアやガジェットを開発する、と述べたという。
しかし、アップルのような成功は訪れていない。アップルはこの1年間にタブレット「iPad(アイパッド)」を200万台近く販売した。一方、デル氏によると同社のタブレット「Streak(ストリーク)」の販売は低調だ。
タブレットが消費者に急速に浸透していることについて、デル氏は「こうしたことを完全に予想はしていなかった」と述べた。
批評家によると、新製品開発への投資に意欲的でないことが、デルが消費者向け製品で苦戦している一因だ。デルは従来、研究開発に大規模な投資は行わず、コンピューターは米マイクロソフトやインテルの技術をベースにしている。
デルの過去4年間の研究開発投資は26億ドルで、売上高の約1.1%に過ぎない。対照的に、アップルの同期間の投資は50億ドルで、売上高の3%に相当する。2年前に8億1100万ドルあったデルの販促費は、直近年度で7億3000万ドルに減少した。
業界グループ、コンシューマー・エレクトロニクス・アソシエーションのゲーリー・シャピロCEOは、成功している消費者エレクトロニクス企業は「マーケティングに投資を行い、ブランドの認識力を高める」と述べた。同氏は、デルは「ほかの消費者エレクトロニクス企業とは異なり、ブランドに投資していない」と語った。
規模を縮小したデルの消費者部門は、薄型ノートPC市場に再挑戦する。アダモは失敗だったが、新製品は15インチモデルとしては世界で最も薄い。