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あえて田1枚コメ作り 放射能の影響「自ら試す」 川内
| 応援に来た友人らと田植えをする秋元さん(左)。背後にはことしの作付けを諦めた田んぼが広がる=福島県川内村 |
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6条の田植機が今月、福島県川内村の水田に緑の筋を刻んだ。福島第1原発事故により、国と県がコメの作付けを控えるよう求めた「緊急時避難準備区域」の村で、あえて田植えを行ったのは専業農家の秋元美誉(よしたか)さん(67)。「実際に作らなければ、どれだけ(放射能の)影響が出るか分からない。机上の論理で来年も駄目と決められかねない」と話す。収穫したコメは公的機関で分析してもらう考えだ。
今月15日、村中央部の小さな盆地。周囲には干からびた田んぼが広がる。水面を渡る風に苗が揺れているのは、秋元さんの1枚だけ。出荷はしないから、この25アールしか作らない。 50年間、コメ作りを続けてきた。1.2ヘクタールで有機無農薬米、1.8ヘクタールで低農薬の特別栽培米を育ててきた。有機無農薬米は60キロ3万6千円。普通のコメの出荷価格の3倍以上で全量を直販する。 2007年には県を代表して皇室にコメを献上した。「毎年技術は向上している」 ことしも力いっぱい取り組むはずだったコメ作りは原発事故で、罰則こそないものの、禁じられたも同然になった。 作付けを決めたのは「百姓をやれるのも、せいぜいあと5年。1年休めば、残りの人生の5分の1が駄目になる」と考えたからだ。 川内村の空間放射線量は毎時0.2マイクロシーベルト台。土壌の放射能は隣接地区の田んぼで1キログラム当たり1526ベクレルと基準の5000ベクレルを下回る。いずれの数値も福島市や郡山市よりずっと低い。「なぜ」という思いがある。 村からは、ほかの農家と足並みをそろえるよう繰り返し説得された。立ち入り禁止の警戒区域を含め村内には約280ヘクタールの田んぼがある。 「作りたい人はたくさんいたけれど、みんな諦めた」と秋元さん。ほかに作付けするのは仲間1人の10アールだけだという。 都市との交流活動も重ねてきた秋元さんの田植えには、村内外から約10人が応援に来た。友人の団体職員渡辺政成さん(65)=埼玉県加須市=は「何度も村に来ているけど、水のない田や人けのない集落を見ると悲しくなる。秋元さんが田植えをしてくれてホッとした」と話す。 村商工会長の井出茂さん(56)は「異論もあるが、できる人ができることをやった方がいい。秋元さんは川内のコメ作りの灯を守った。地域の復興に必ずつながる」と激励する。 「あー、これでことしの田植えも終わりだ。何か情けねえなあ」。田植え機のエンジンを止め、秋元さんが声を上げた。でも、表情はどこか晴れやかだ。 「やっぱり気持ちがいい。補償するから休め、なんて百姓には酷だよ」(中島剛)
2011年05月23日月曜日
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