原子力安全委員会の班目春樹委員長は、2011年5月23日に行われた臨時会議後の会見で、福島第1原発での再臨界の可能性に言及。「現実に今だって再臨界をしてないとは言い切れないと思う」と述べた。一方で会見終了直後、同席した久木田豊委員長代理が斑目委員長のこの発言を補足するとしながらも「(再臨界が起こっている可能性について)私はゼロだと思う」と、異を唱える一幕があった。
斑目委員長とニコニコ動画の記者(七尾功)との一問一答は以下のとおり。
七尾記者: 政府の当初発表(政府・東京電力統合対策室が5月21日に、福島第1原発1号機の原子炉への海水注入を中断した際、班目委員長が菅直人首相に「再臨界の危険性がある」と進言したと発表)のなかで、委員長はどの部分を問題視したのか。
斑目委員長: 私として大変気になったのが2点ある。一点は、私の方から再臨界の可能性があるというかそういう発言になっていたということが一点。もうひとつがその前の朝刊などの表現では「可能性」だったのがさらに「危険性がある」という表現になっていた。この2つについて、私としては納得できないというところがある。第一に再臨界の問題については、これは原子力工学の常識としてそれまで真水を入れていたわけである。真水を海水に変えたことによって再臨界の可能性が高まる、というようなことを私が申し上げるはずがない。これは総理かあるいは他の人かその辺はもう私は記憶にはないがどなたかがおっしゃったのに対して「可能性はもちろんゼロではありません」というような回答をしたはずだ。可能性と危険性というのも相当気になる表現で可能性があるとは言わない、可能性はゼロではないといったと思うのだが、危険性という表現になってしまうとあたかも再臨界が起こると危険だ、と私が言ってるような印象を与えるのではないか、という点。少し補足をさせていただくと、現実に今だって再臨界をしてないとは言い切れないと思う。しかしながら問題は熱の発生であって崩壊熱が大量に出ている。それからあの時点ではジルコニウムと水との反応による化学発熱も相当なものであったはずだ。再臨界という現象が起こったら、中性子は出てくるかもしれないが熱の発生量は微々たるものだ。そういう意味であの段階で非常に急がなければならないのは、あくまもで冷却であって、再臨界について何か考えなければいけないから冷却を止めるなどというのはとんでもないことであると。これが私の発言であったはずはない、ということから訂正を申し入れたということだ。
七尾記者: 「再臨界の可能性はゼロではない」との発言の趣旨だったわけだが、何パーセント程度のイメージを持たれていたのか。
斑目委員長: 今でも再臨界が起こっていると主張される学者の先生はいらっしゃると思う。否定はしない。ですからかなり低い可能性だとは思うが起こりえるわけである。特に海水を入れているから不純物が多いので、より(再臨界が)起こりにくくなってはいるけれども、温度は下がってくると物質の密度が上がるので再臨界の可能性というのはもちろんゼロではないわけである。ただ私として申し上げたいのは、そういう学問的な議論よりも危険性ということにおいて再臨界を云々する必要はない。これだけははっきりと申し上げさせていただきたいと思う。
七尾記者: 注水中断が事態の悪化を招いた可能性もある、との見方があるが、この点はいかがか。
斑目委員長: 当時、私は官邸の5階で、総理、海江田(万里)大臣もいらっしゃったと思うし、細野(豪志)補佐官も、福山(哲郎官房)副長官もいたし、枝野(幸男)長官はどうだったかな・・・多分いらっしゃったと思うし。保安院の方もいらっしゃったし、東京電力の幹部の方もいらっしゃった。いろいろと議論をしていた。そのときの報告では爆発騒ぎがあったので現場が大変混乱しているので海水を注入できるとしてもまだ1時間以上時間がかかる、というふうな報告を受けていた。そのようななかで、それじゃあできるだけの検討はすべきである、ということで検討をやっていた。したがって私として明言できるのはその段階で実は海水が入りだしたが止めるべきかというような話は一切ない。その場所にいた人間で、海水が実は試験的であろうと注入されていたということを知っている人間はいないであろうということだけは、はっきり申し上げさせていただく。
七尾記者: 注水中断については。
斑目委員長: もし中断されてたとしたら量的な問題はあるが、当然より悪化はする。実際にはその前に真水がかなりの程度、注入されている。少しは漏れてしまったかもしれないが。水が注入された状態で、それからしばらく中断している。中断しているとその間に蒸発が進む。これから今後定量的な評価をしなければわからないが、それがどのくらいの燃料の露出、溶融等につながったかということは今の時点判断はできないが悪い方向にいくだろうということだけは確かだと思う。
また、会見終了直後、原子力安全委員会の久木田豊委員長代理から、先の斑目委員長の「再臨界の可能性」への言及に対して以下の発言があった。
久木田委員長代理: 一点ほど補足する。先ほど委員長が現在福島第1発電所の原子炉で「再臨界が起こっている可能性はないではない」ということをおっしゃったと思うが、これは本当に可能性はゼロではないという意味で、私はゼロだと思うが、そういうふうに受け取っていただきたいと思う。わざわざ発言したのは再臨界ということについて、やはりいろいろな受け取り方があるようで、我々はこういった事故状態で再臨界が起こったとしても、それが海水注入を止めるような危険性を伴うものではないということを当然のこととして考えているわけだが、再臨界という言葉を聞いただけで何か爆発が起こるとか受け取られておられる方がないではない、ということを考えてあえて補足する。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]七尾記者質問部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv50894679?ref=news#0:19:55
・[ニコニコ生放送]久木田委員長代理発言部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv50894679?ref=news#1:18:20
(七尾功)