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きょうの社説 2011年5月23日
◎宗教文化の発信 広域連携のテーマになりうる
石川、福井県境の加賀市、永平寺町、勝山、坂井、あわら市が宗教文化の発信をテーマ
につくる協議会は、県境を越えた広域連携の新たなモデルケースになりうる試みである。この5市町は、白山信仰の影響を受け、蓮如が室町期に構えた吉崎御坊のお膝元という 共通点もある。このように県境をまたぐ形で宗教土壌が蓄積され、その上に蓮如の道や禅の道、山岳信仰の道などが延びているのが北陸の特徴である。 これらの裾野の広がりは県の垣根を取り払わないと見えてこない。その点で宗教文化の 発信は隣県連携の格好のテーマといえ、石川、富山県境の自治体でも参考になる。 石川、福井県境の5市町は、年内をめどに「越前加賀宗教文化街道推進協議会」の設立 を目指す。加賀市の山ノ下寺院群、永平寺町の永平寺、勝山市の白山平泉寺、坂井市の瀧谷寺、あわら市の吉崎御坊など、各地の宗教拠点をつなぐ「宗教文化街道」を設定する計画である。 協議会の設立は観光誘客が目的だが、それぞれの地域の基層には白山信仰があり、たと えば白山信仰と曹洞宗、浄土真宗とのつながりなどは地元でも意外と知られていないのではないか。観光客を呼び込む前に、まず地域の人たちが足元の宗教土壌に理解を深め、実際にたどってみることが大事である。 そうした学びの積み重ねのなかから、各地の宗教文化をつなぐ現代的な視点や、新たな 物語を描くヒントも見えてくるだろう。 北陸には、日本三名山のうち、白山、立山の二つがありながら、連携した取り組みは十 分になされていない。独立峰と北アルプスという地理的な違いはあるにせよ、山岳信仰の聖地として共通点もあり、二つの名山を関連づける発想がもっとあっていい。 自治体の中には政教分離を杓子定規に当てはめ、宗教というだけで及び腰になる傾向も 見受けられるが、宗教文化は地域共同体の核であり、土地の歴史の象徴でもある。その魅力発信策は、官民一体となって知恵を絞る必要がある。
◎原発の作業員 士気衰えさせぬ支援を
福島第1原発事故の収束に向けた工程表の見直しで、東京電力が生活・作業環境の改善
策として、仮設寮や休憩所の整備を盛り込んだのは当然である。梅雨から夏へ気候の変化に伴って、防護服が必要な現場作業員の労働環境は一段と厳しさを増す。産業医による医療体制の充実、暑さ対策などはむろん、作業員の精神的な支援を欠かさず、士気が衰えないように努めてほしい。現地で作業員の診察に当たった医師は、ストレスを抱える作業員の多さを指摘している 。原発事故の後始末に取り組む作業員の中には、自身が被災者であり、肉親や友人の死に耐えながら危険な仕事に就いている人が少なくない。そうした人たちは、一般の被災者に比べて約2倍、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が出やすいという。長期にわたって作業員の心身の健康を支え、管理する体制が重要である。 当初、保存食中心の食事と雑魚寝を強いられていた作業員の生活環境は徐々に改善され ている。食事は弁当などになり、休憩所や活動拠点になっている福島第2原発の体育館、スポーツ施設の「Jヴィレッジ」では2段ベッドやシャワー施設も整備されてきた。 今後は第1原発の敷地内に現在2カ所ある休憩所を10カ所ほどに増やし、Jヴィレッ ジに仮設の大型寮を建てる予定という。暑さ、熱中症対策のためクーラーや水分補給の設備も整えられることになっている。 医療面では、産業医大などから医師の派遣応援も受け、第1原発の免震重要棟の医務室 に産業医を常時配置する体制がとられた。しかし、医師の不在時に60代の男性作業員が死亡しており、医療体制はまだ十分とは言えない。産業医大からの医師派遣も期限付きとされ、持続的な医療支援の仕組みを考える必要がある。 医師によると、地元の児童生徒のメッセージや絵が作業員の励みになっているという。 きめ細かい心遣いの大切さを示しているが、作業員の士気を高めるためには、東電の首脳陣が現場に出向く必要があるのではないか。
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