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[27528] 【ネタ】私設武装組織ソレスタルキュービーイング(ガンダム00+キュゥべえ)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/05 17:53
本ネタにはまどか☆マギカ本編の重大なネタバレが含まれています、ご注意下さい。


A.D.2307、AEU軌道エレベーター、AEU軍事演習場にてモビルスーツイナクト、AEU初の太陽エネルギー対応型の発表。
人革連軌道エレベーター天柱、その静止衛星軌道ステーションで電力送信10周年を記念する式典が行われている所へのテロリストの襲撃。
その両者に対しての機動兵器ガンダムによる介入が行われた。
後者においてはガンダムによってテロリストの襲撃を迎撃され、テロは防止された。
そして翌朝、UNION、経済特区東京でニュースが放送され、あちこちのモニターにアナウンサーの姿が映しだされる。

[おはようございます。JNNニュースの時間です。まず最初は人類革新連盟の軌道エレベーター、天柱の高軌道ステーションで起きた襲撃事件の続報です。日本時間の今日未明テロリストと思われるモビルスーツにより人革連の高軌道ステーションが襲撃にあい、ミサイルが発射されました。しかも、正体不明のモビルスーツがこれを迎撃。この映像は偶然居合わせたJNNクルーがカメラに収めたものです]

テロリストの搭乗するヘリオンをガンダムヴァーチェが撃破した映像が映しだされる。
大学のあるモニターの前、ルイス・ハレヴィがサジ・クロスロードを伴って近くのテーブルに座っている知り合いの男子学生に声をかける。

「なになに、どうしたの?」
 学生が顔をルイスに向ける。
「こいつがテロをやっつけたんだと」
「モビルスーツ?」
 サジが彼に尋ねる。
「どこの軍隊?」
「それがわかんないんだって」
 両手を広げ、肩を竦めて答えた。
「どういうこと……?」
 ザジは目をモニターに向けて呟いた。

[……事件の最新情報です。たった今JNNにテロを未然に防止したと主張する団体からビデオメッセージが届けられました。彼らが何者なのか、その内容の真偽の程も明らかではありませんが事件との関連性は深いものと思われます。ノーカットで放送しますので、どうぞご覧ください]

画面が切り替わり、そこに映しだされたのは、真っ白の画面。
そこに、無機質な赤い双眸が現れた。

[地球で生まれ育った全ての人類に伝えるよ。僕らはQB。地球人類の君たちからすると、異星生命体とでも言うのかな]

ズームが解かれ、その生命体の全貌が顕になる。
ネコのような、耳はウサギのようにも長い、先端にはリングのついた四足生物。
二つの前足を行儀よく構え、犬で言えばおすわりの状態で椅子に鎮座していた。

「何これ、可愛い!」
 ルイスが声を上げる。
「い……異星生命体?」
 訳がわからないよ、という顔でサジが混乱する。

[僕らQBの活動目的は、この地球から戦争行為を根絶することにあるんだ。僕らは、僕らの利益の為に行動する。戦争根絶という目的のために、僕らはこの星にやってきた。ただ今をもって、全ての人類に向けて宣言するよ。領土、宗教、エネルギー、どのような理由があろうとも、僕らは、全ての戦争行為に対して、僕らのやり方で介入を開始する。戦争を幇助する国、組織、企業なども、僕らの介入の対象となる。僕らはQB。この星から戦争を根絶させるためにやってきた異星生命体だ。繰り返すね。地球で生まれ……]

同じフレーズが可愛らしい少年のような声で繰り返され始めた。


―人革連・士官待機室―

「異星生命体だと?」
 セルゲイ・スミルノフが言った。


―AEU軍附属病院・病室―

「コイツか!? 俺をこんな目に遭わせやがったのは! ってか何だよコレ!?」
 パトリック・コーラサワーの叫びに答える者はいなかった。


―経済特区日本・路上―

「この生物……可愛い」
 絹江・クロスロードが呟いた。


―天柱・リニアトレイン内―

「紅龍……アレは何?」
 王留美が愕然とした表情でモニターを見て言った。
「至急各エージェントに調査を指示します」


―アザディスタン王国王宮―

「戦争を動物が解決する……?」
 マリナ・イスマイールは全く要領を得ない様子で呟いた。


―アフリカ圏・ジープ内―

「っははははは! これは傑作だ! 異星生命体? 戦争根絶? 訳がわからないな、QB!」
 グラハム・エーカーがジープを運転しながらラジオ音声でQBの演説を聞き、笑い声を上げた。
「いやはや、本当に予測不能な事態だよ。全く、訳がわからない」
 首を振って助手席のビリー・カタギリが返答した。


―UNION領・都心の一室―

 アレハンドロ・コーナーの元に仕えていたリボンズ・アルマークは発表の映像が流れた瞬間、アレハンドロなんて構ってられるかと焦るように外へと飛び出していった。
「リボンズ! 何処へ行った!」
 と、アレハンドロの叫び声だけが、響いていた。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 艦内は騒然としていた。
「この生き物は! 一体! 何だっ! 計画を最初から歪めるなど万死に値する!」
 身体をわなわなと震わせ、モニターに映るQBを指さして、最初に激怒したのはティエリア・アーデ。
 スメラギ・李・ノリエガが腕を組み、顎に手を当て、考えるようにして言った。
「落ち着いて、ティエリア。クリス、フェルト、ヴェーダから情報を」
「言われなくてもやってます!」
 クリスティナ・シエラが簡潔に答え、フェルトも素早く両指を動かす。
「スメラギ・李・ノリエガ、これが落ち着いていられるものか! イオリア・シュヘンベルグの映像はどうした! あァアァああぁ!」
 ティエリアは叫び声を上げ、ヴェーダに直接アクセスするべく、ブリッジから飛び出して行った。
「ハレルヤ、これはどういう事なんだい……」
 か細く呟かれたアレルヤ・ハプティズムの言葉は虚空へと消えた。


―アフリカ圏・岩山地帯―

「何だぁ!? この生物は!? ハロ!」
 髪を掻きむしり、ロックオン・ストラトスが端末を見て声を上げる。
「ワカラナイ! ワカラナイ! ワカラナイ!」
 無機質な音声で、HAROが跳ねながら答える。
「何だってんだ!」
 ロックオンはやけになって言い、ニュース映像を遮断した。
「俺達はQBの……ガンダムマイスター……なのか?」
 幾許かの錯乱が見受けられる刹那・F・セイエイは、誰かに問いかけたかった。

この後、ヴェーダにアクセスしたイノベイドは、驚愕することとなる。
それは、ヴェーダがQBにハッキングされていた事であった。
CBが介入をするどころか、QBによる介入を受けるという事態に陥るものの、その後CBがイオリア・シュヘンベルグの映像を改めて流せたのは幸いか否か。
出鼻を完全に挫かれたCBは、世間からは自己紹介にしては余りにもふざけた組織と思われ、CBのマスコットキャラクターがQBだという憶測など……世界は混迷の時を迎える。

早過ぎる、異星生命体との来るべき対話。
それは、人類の目覚めか……それとも。
この七年後、更に別種の異星金属生命体が来訪する事をこの時の人類は知る由も無い。

戦争行為の根絶を体現する機体がガンダムであれば、QBの介入行為を体現するのは何なのか。
ガンダムのパイロットは感情を律せねばならないが、QBにはそもそも感情が無い。
その行為、崇高なる者の苦行なのか。



[27528] QB「皆僕のつぶらな瞳を見てよ!」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 18:36
西暦2307年、地球の化石燃料は枯渇し、人類は、新たなるエネルギー資源を太陽光発電に委ねた。
半世紀近い計画の末、全長約5万kmにも及ぶ三本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成する。
半永久的なエネルギーを生み出すその巨大構造物建造のため、世界は大きく三つの国家群に集約された。
米国を中心とした世界経済連合、通称UNION。
中国、ロシア、インドを中心とした人類革新連盟。
そして、新ヨーロッパ共同体AEU。
……軌道エレベーターはその巨大さから、防衛が困難であり、構造上の観点から見ても酷く脆い建造物である。
そんな危うい状況の中でも、各国家群は、己の威信と繁栄のため、大いなるゼロサムゲームを続けていた。
そう、24世紀になっても人類は未だ一つになりきれずにいたのだ。
そんな世界に対して楔を打ち込む者達が現れる。
モビルスーツガンダムを有する私設武装組織CB。
彼らは、世界から紛争を無くすため、民族、国家、宗教を超越した作戦行動を展開していく。
CBが、世界に変革を誘発する……筈だった。
世界に変革を誘発するのはCBだけでは無くQBもそうであった。
人々に「訳がわからないよ」とその日散々言わしめたQBは現れるのか。
ヴェーダがハッキングされていたのは、件の映像だけだったというのが、CBのメンバーには嫌な予感を抱かせずにはいられなかった……。


―経済特区・東京―

夕日が沈みかかる頃、ルイス・ハレヴィが道を走り、その後ろをサジ・クロスロードが追いかける。

[私達はCB。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です。私達CBの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります……]

「またやってる……。これで何回目?」
 ルイスが街中のモニターに足を止めて言い、サジが息を切らせて追いつく。
「はあ、はあ、はぁ……。ルイス、CBとQB、いるのかな?」
「へ?」
 ルイスが目を見開く。
「イタズラみたいなメッセージ。QBは自分の利益の為にって言ったのに、CBは自分の利益の為に行動はしないって言う。どっちにしても、そんな行動する人がいるなんて……」

[……僕らはQB。地球人類の君たちからすると、異星生命体とでも言うのかな。僕らQBの活動目的は、この地球から戦争行為を根絶することにあるんだ。僕らは、僕らの利益の為に行動する]

朝からというもの、途中から加わったCBと、本家QBの映像が交互に流される。
QBのアップの顔については「何か怖い」「不気味」という意見が早くも局に寄せられており流すのをやめるかどうか、JNNは困っていた。

「ほら、QBははっきり自分の利益って言ってるから、何か利益があるんじゃない? CBはすごいボランティアとか」
 ルイスが笑って言った。
「QBの方は突っ込み所が多すぎるよ……。CBのイタズラ映像の線が有力だって言われてるし」
 ため息を一つついて、サジが答えた。
「えー、でも、どうしてイタズラする必要があるの?」
「う……さあ……」
 サジは答えに詰まった。


―人革連・国家主席官邸―

 国家主席が手を組み、そこに顎を乗せて、CBとQBの映像を見終え、スクリーンを閉じて側近の人物に言う。
「天柱のテロ事件に介入してきた組織か……」
「可能性は極めて高いと思われます。QBは無視すれば、この声明の中でCBは、機動兵器ガンダムを有していると」
 側近が近づき、卓上のスクリーンを開く。
「……御覧ください。我が宇宙軍が記録した未確認モビルスーツの映像です」
「ガンダム……」
 国家主席はガンダムヴァーチェを見て呟いた。


一方AEU首都では首脳陣が会議室に集い、新型のイナクトと条約で定めれている以上の軍隊を軌道エレベーターに駐屯させている事を公にされた事が話し合われ、QBなど無かった事にされていた。


―UNION・大統領官邸―

 大統領は官邸室のガラス越しに外を眺めながら呟く。
「武力による戦争の根絶か……。デイビット、彼らは我が国の代わりを務めてくれるらしい」
 後ろに控えていたデイビットが答える。
「大統領、彼らは本気なのでしょうか? 何の見返りもなく……」
 大統領はデイビットを振り返って話す。
「我々が他国の紛争に介入するのは、国民の安全と国益を確保するためだ。決して、慈善事業ではないよ」
「すぐにでも化けの皮が剥がれるでしょう。その時、彼らを裁くのは、我々の使命となります」
「そうだな……。QBの皮は剥げるのかどうかは分からない、が」
 下らない冗談のつもりで、大統領が言った。
「お戯れを」
 大統領は再び外を向く。
「はは。……軌道エレベーターが稼働して十年。経済が安定し始めた矢先にこれ、か」


―CB所有・南国島―

 緑色のカラーリングのパイロットスートを着たロックオン・ストラトスが同じく青色のカラーリングのソレを着た刹那・F・セイエイに近づいて言った。
「どの国のニュースも、俺達……と、QBの話題で持ちきりだ。『ふざけの過ぎる謎の武装集団とその謎のマスコット、全世界に対して戦争根絶を宣言する』ってな。あのQBのせいでほとんどの奴らが、信じる気が無いようだがな。全く、どうなってんだか」
 大きな溜息混じりに言葉が吐かれる。
「ならば、信じさせましょう」
 そこへ、声がかけられる
「お」
 ロックオンが振り向けば、不思議発見な服を着た王留美が紅龍に所謂お姫様抱っこをされていた。
「CBの理念は、行動によってのみ示される。あの生物は不気味だけれど、もう私達は止まる事を許されないのだから」
「王留美……」
 刹那が言う。
「お早いおつきで」
 ロックオンが一応歓迎するように言う。
「セカンドミッションよ」


―建設途上のアフリカタワーの郊外路上―

 ジープが路肩に止まっていた。
 前座席に座り背を預けるグラハム・エーカーに、端末を高速で操作するビリー・カタギリが声をかける。
「軍に戻らなくていいのかい? 今ごろ大わらわだよ」
 グラハムは振り向くこと無く、答える。
「ガンダムの性能が知りたいのだよ。あの機体は特殊すぎる」
 何か思うところあるとばかりに、その目が鋭くなる。
「戦闘能力は元より、アレが現れるとレーダーや通信、電子装置に障害が起こった。全てはあの光が原因だ。カタギリ、あれは何なんだ?」
 グラハムはようやくカタギリに振り向いて尋ねる。
「現段階では特殊な粒子としか言えないよ」
 そう言いながらコーヒーを飲み言葉を続ける。
「恐らくあの光は、フォトンの崩壊現象によるものだね」
「特殊な……粒子……」
 そうグラハムが呟くと、近くに赤い車が到着し、二人はジープから揃って降りた。
「粒子だけじゃない。あの機体には、まだ秘密があると思うなぁ。……もしかしたら、実はあのQBという自称異星生命体が乗っているという可能性もあるかもしれないけど」
 冗談交じりに言いながらカタギリはジープのドアを閉める。
「フ……好意を抱くよ」
 不意にグラハムが言う。
「え?」
「……興味以上の対象だということさ」
 そこへスーツを着たUNION軍の者が近づき、敬礼する。
「グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問、Mスワッドへの帰投命令です」
「その旨を良しとする」
 グラハムが答え、二人は敬礼をした。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 ブリーフィングルーム内には、スメラギ・李・ノリエガ、イラついた様子のティエリア・アーデ、そして、アレルヤ・ハプティズム。
 通信で地上の南国島と繋がれたモニターには、ロックオンと刹那が映る。
 スメラギが腰に腕を当てて話し始める。
「セイロン島は現在、無政府状態。多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との民族紛争が原因よ。この紛争は、20世紀から断続的に行われているわ。この民族紛争に、CBは、武力介入します。但し、計画を変更して、ヴェーチェとキュリオスは今回はトレミーで待機よ」
「一体、何なんだ……あの生物は……」
 ブツブツとティエリアが呟く。
「……ミス・スメラギ。QBってのはそんなに警戒する必要はあるのか?」
 モニターの向こう側から、ロックオンが尋ねる。
「ヴェーダを映像だけとはいえ、ハッキングされていたのは事実。あのマスコットみたいな生物が、本当に実在するのかという所から真偽の程は分からないけれど、ヴェーダも二機での作戦行動を推奨しているわ。ロックオン、刹那をお願いね」
 スメラギの説明に対し、仕方ないとロックオンは返答した。
「……は。了解だ」


……そして、作戦開始時刻間近。 

[3300をもって、セカンドミッションを開始します。……繰り返します。3300をもって、セカンドミッションを開始します]
 クリスティナ・シエラが艦内放送を行う。
 プトレマイオス内の通路をアレルヤとティエリアがレバーに手を置いて移動する。
「まさか、計画を変える事になるとはね……。全く、嫌になるようで、それはそれでどうなのかというか……」
 アレルヤが複雑な表情で言った。
「本当に、最悪だっ……。機体テスト込みの実戦の筈が、僕達はコクピットで待機だなどと。これでは計画達成率に影響がっ」
 ティエリアは普段では有り得ない程に、精神状態がブレブレの様子。
「君がそんなに動揺する所を見るとは思わなかったよ……」
 意外すぎるとばかりに、アレルヤが言った。
「ごめんね、ティエリア」
 そこへ、反対の通路からスメラギ・李・ノリエガが現れティエリアへ言葉をかける。
「問題……ありません……。覚悟の上で参加しているんですから」
 強がりにしか聞こえない、意気消沈した発言にスメラギはやや言葉に詰まるも返す。
「強いんだ……」
「弱くは……無いつもりです……」
 言葉とは裏腹なティエリアであった。
「……行きます」
 やれやれ、とアレルヤはガンダムのコンテナへと向かうべく言い、上に昇る。
 ティエリアも無言でそれに従った。
「……ティエリア、動揺……しすぎよ」
 生暖かい目で見送るように、スメラギが言った。


かくして、インド南部、旧スリランカ、セイロン島でのセカンドミッションが開始され、ガンダムの出撃はエクシアとデュナメスだけとなった。
ヴァーチェとキュリオスが大気圏突入を行わない為にCBの降下予定ポイントが地球の軍関係者に知られる事は無く、ガンダム二機の出現が確認されたのは、セイロン島で目視可能になってからであった。
グラハム・エーカーはCBがセイロン島に介入をかけるとは露知らず、UNIONの輸送機でそのまま帰投していったのだった……。
しかし、そんな事よりもげに恐ろしきは宣言通り、QBの出現であった……。


―セイロン島―

 優勢な人革連部隊がシンハラ人部隊を叩いていた。
[敵部隊の30%を叩いた。このまま一気に殲滅させるぞ!]
 人革連の大尉が部隊に通信を入れた。
「そうはいかないよ」
[な、何だ!?]
 どこからともなく声がしたと思えば、コクピット内に、QBが現れた。
「大尉! こちらにも何かがぁ!?」
 QBが人革連、シンハラ人部隊を問わず、各モビルスーツのコクピット内にそれぞれ忽然と現れ、顔面を完全に覆ったヘルメットにも関わらず、その双眸が怪しく輝き、それがパイロットの目から脳へと何か伝わった。
「うぁあぁはアァー!?」
 パイロットはQBによって、理解不可能なビジョンを見せられ、操縦桿から思わず手を離して頭を抱え、叫び声を上げる。
 モビルスーツは挙動が止まる。
「そのまま、この金属の塊から降りて戻ってよ!」
 可愛らしい少年のような声を出して、親切にも、QBはコクピットのハッチを開けるスイッチを押して出口を作った。
 叫び声を上げながらも、パイロット達は皆、洗脳されたかのようにヘルメットを取り外し、虚ろな目でコクピットから揃って降り始め、それぞれ、フラフラと戻るべき所へ歩き始める。

 丁度その時、エクシアとデュナミスは戦闘を行っている地域の映像をいち早く捕捉していた。
「何だ、あれは。兵士が全員モビルスーツから降りて歩いているだと……?」
「紛争が……終わっているのか……」
 ロックオンと刹那は信じられない光景に混乱する。
「ロックオン・ストラトス、あの金属の塊を全部狙い撃ってよ!」
 突如、デュナミスのコクピットにQBが現れ、愛嬌を振りまくように首を傾げてロックオンにお願いをした。
「なぁっ!? どっから出た!?」
 ロックオンが驚き、思わず操縦桿を離しかける。
「僕はQB。ロックオン、狙い撃ってよ!」
「QB! QB!」
 HAROがQBの方を向き、音声を出す。
[ロックオン、一体これは何だ]
 刹那から通信が入る。
[……QBだとよ]
[Q……B……]
「君たちはガンダムで、紛争を根絶するんだろう? あの金属の塊を壊さないのかい?」
 不思議そうにQBがロックオンに尋ねる。
「……言われなくても、要望通り狙い撃ってやるよ。そこにいられると邪魔だ」
 言いたいことは山ほどあるが、ロックオンは眉間に皺を寄せて答えた。
「助かるよ。失礼」
 言って、QBはロックオンのヘルメットの上に移動した。
「っておい!」
 突然頭に飛び乗って来た事でロックオンは怒った。
「失礼だと言ったじゃないか」
 一切悪びれる様子もなくQBは答えた。
「ッチ……。スメラギ・李・ノリエガの戦況予測も糞もねぇぞ」
 まさにロックオンの言葉通り、戦況予測は完全に役に立たなくなっていた。
[刹那、手間が省けたと思ってやるぞ]
[……了解。目標を駆逐する]
 意外にも落ち着いていた刹那はヘルメットにQBを乗せ、目標ポイントへと向かった。
 その後は、もぬけの空となったモビルスーツをロックオンが狙い撃って鉄屑とし、刹那は刹那でエクシアを駆りバラバラに解体していった。
 その進行速度は想定より遥かに早いのは当然。
 何より、的が動かない。
 この間も、QBは場所を選ばずセイロン島各地に出現していた。
 銃を構えた歩兵の目の前に現れては洗脳、人革連のモビルスーツを収容している施設にいた兵士達も一人残らず、その場から撤退させられていた。
 兵士の中には、QBを視認した瞬間、撃ち殺す事もした者もいたが、すぐに代わりのQBが現れ、洗脳、自身の死体は咀嚼して始末。
 QBの出現は水上艦も例外ではなく、乗組員は全員、救命用ボートに乗り、艦を後にした。
 ゾロゾロと兵士達が虚ろな目で持ち場を離れるという奇怪な光景が繰り広げられ、最大の混乱に見舞われたのは、人革連の司令塔。
 応答を求めても「QB、QBが出たぁ!」と叫び声がたまに聞こえても誰一人まともな返答をしないというストレスで胃に穴が空きそうな所、有視界では確かにガンダムの機影が映り、もぬけの空になったモビルスーツを、軍の施設を、水上艦を……容赦無く破壊していくのが見えた。
 被害額はいくらなのか……計算したくもなかった。
 しばらくの一方的なガンダムの行動の結果、キュリオスとヴァーチェがいた場合とほぼ同等の戦果を、しかもまさかの戦死者ゼロで達成。
「それなりの戦果を期待どころか……これは大したもんだろ。これで満足か、QB?」
 拍子抜けした様子でロックオンが頭の上のQBに尋ねる。
「うん。ありがとう、ロックオン。じゃあ、僕は帰るね」
 言って、QBは忽然と消えた。
「って待てよ、おい!」
 ロックオンは声を上げた。
「キエタ! キエタ!」
 HAROが回転しながら音声を出し、ロックオンは溜息を吐く。
「……訳が分からないぜ……全く」
[刹那、帰投するぞ]
[了解]
 そして……エクシアとデュナミスはセイロン島を後にした。
 QBが去ってからしばらくして、洗脳を受けた者達は皆、無事に我に返ったという。
 それが幸いかどうかはともかく、命あっての物種。


―経済特区・東京、JNN本社ビル―

「どう? 見つかった?」
 絹江・クロスロードが部下に尋ねる。
「ビンゴですよ、絹江さん!」
 モニターに映った写真を見て絹江が言う。
「やっぱり、イオリア・シュヘンベルグ」
「でもー、この人、200年以上前に死んでますけど……」
 頭を掻きながら部下が言う。
 そこへ、受話器を耳と肩に挟みながら別の記者が声を上げる。
「CBが出た!? 旧スリランカの内紛に武力干渉。双方に攻撃ぃ!?」
「双方に攻撃って……?」
 職員がその言葉に揃って驚く。
「そんなことをしたら、どちらの感情も悪化させるだけなのに。……CB、一体何を考えているの?」
 絹江は思いつめる表情で呟いた。
 そこへ更に驚愕の声で、先程の記者が怒鳴り声を上げる。
「何! 死者はゼロだと!? どういう事だ!?」
「ええ!?」
 再び、職員が騒然とする。
「武力介入しておいて、死者がゼロ……?」
 信じられない、という表情の絹江であった……。


―人革連・高軌道ステーション通路―

「馬鹿な……。一度の軍事介入で300年以上続いている紛争が終わると本気で思っているのか? それに死者がゼロだと……ありえん。QBが出た……?」
 セルゲイ・スミルノフも混乱した。


―CB所有・南国島―

「一度だけじゃない。何度でも介入するわ。QBは……完全に想定外だけれど……」
 落ち着いて茶を飲みたい所、素直に心からとも言えない王留美であった。


―UNION領・都心の一室―

「リボンズーッ!!」
 アレハンドロ・コーナーはそれどころではなかった。


―CBS-70プトレマイオス―

「CB……私達は、物事を変える時に付きまとう痛み……の筈なのに。QB……一体どういうことなの。……私の戦術が……台なしよ」
 スメラギ・李・ノリエガ……ティエリアに加え更にもう一人、QBによって精神的ショックを受けた。


対話すら拒絶する行為を受け止める術はあるのか。
そもそも突きつけられもしない無い刃に、少年は時代の変革を感じるのか。
これぞ、誰かが否定したいかもしれない、現実。



[27528] 変わりすぎるかもしれない世界
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 19:19
西暦2307年、私設武装組織CBは、全世界で起こる紛争の根絶を宣言。
武力による介入を開始した。
インド南部セイロン島への民族紛争に介入し、世界を震撼させたガンダムマイスターに新たなミッションが下される。
それは人類に対する神の裁きか。
それとも……変革への誘発か。
はたまた……全く違うものか。

―UNION輸送機内―

「いやはや、本当に予測不能な事態だよ、これは」
 ビリー・カタギリが席に座るグラハム・エーカーに苦笑して言う。
「CBがセイロン島に出たとは、惜しいことをした。進路を変えれば……」
 残念そうにグラハムが答えた。
「そうでもないよ。話によれば、モビルスーツのパイロット以下、例外無く本当に現れたQBに何らかの精神攻撃を受けたらしい。行かないほうが君の身のため、心の為だろう」
 カタギリはそう言いながらも、QBに興味津々であった。
 しかし、グラハムも含むような笑いをし、語り出す。
「CBとQB合わせて名づけて……CQB。ソレスタルキュービーイング。乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな」
「何だい、ソレは」
 カタギリの顔は『君の脳内が予測不能だよ』と語っていた。


―経済特区・東京・JNN本社―

 JNN本社では、社員達は皆忙しなく働いていた。
 部長が大声で職員に聞く。 
「現地の特派員との連絡は?」
「まだです!」 
 すぐさま部長は今度は電話の相手に向けて指示を出す。
「ガンダムだ! 小さくてもいい! ガンダムの絵を入れろと言え! それとQBの絵もついでに入れとけと言っておけ!」
 そこへ、記者の一人が焦った声で報告する。
「CBからの声明ありませんが、Q、QBからのビデオメッセージ来ましたッ!」
 虚を突かれ、部長の反応が一瞬遅れる。
「うん。うん!? 何だと!? 内容は!」
「セイロン島で下らない喧嘩をするのはやめてよ! だそうです!」
 記者がわざわざ声真似をするが気持ち悪かった。
「何だそれは!」「CBはふざけてるのか!」「ふざけてるのはQBだろう!」「どっちも同じだろ」「声真似するな!」
 他の社員達が口々に言い、纏めるように部長が宣言する。
「……訳が分からないな! まあいい、十分以内に速報配信! 次のニュースは現地からの中継だ! 3時間以内に」
 そこへ絹江の部下が現れ、部長に声をかける。
「部長、あの」
「人革主席の公式声明が出るぞ! 枠を空けとけ!」
 意に介さず部長が指示し、他の社員が原稿を部長に出す。
「原稿できました!」
「おう」
「あの、絹」
「あとにしろ!」
 今構ってられないと部長は絹江の部下を一蹴した。

 一方、絹江・クロスロードはJNNの資料室で調べ物をしていた。
「イオリア・シュヘンベルグ……21世紀の後期に出現した希代の発明王。太陽光発電システムの基礎理論の提唱者……」
 そう独りごちて、絹江はコーヒーを口に含んで思索にふける。
 公に姿を見せず、その名前だけが後世に語り継がれている存在。
 この人物がソレスタルビーイングを創設したなら頷ける。
 才能的にも、資金的にも。
 でも、なぜ200年以上たった今、彼らは動き出したの?
 そして、QBの存在は一体。
 イオリアとも関連性がもしかしたらある……?
 本当にQBが異星生命体だとして……もしかしてイオリアの才能は宇宙人だったからとか……?


AEU諜報機関本部長官室では、QBの事は依然完全無視、イオリア・シュヘンベルグについて調査が続けられていた。
しかし、具体的に何かが分かるという事もなく、それどころか完全無視していたQBが本当に現れたらしいという情報まで入ってきた事で、報告書の作成に彼らは頭を悩ませた。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 本来、計画通りであればティエリア・アーデとアレルヤ・ハプティズムも地上に降りていた筈であったが、そうはならなかった結果、CBメンバーの会議はプトレマイオスのブリーフィングルームで再び行われていた。
 ロックオン・ストラトスと刹那・F・セイエイは前回と同じく南国島の施設からモニターで繋がれていた。
「QBが出た……という事だけど、話を聞かせてもらえるかしら」
 スメラギ・李・ノリエガがロックオンと刹那に尋ねる。
「話と言っても、勝手にいきなりコックピットに現れて『あの金属の塊を全部狙い撃ってよ!』と猫撫で声で言われたぐらいだ」
 ロックオンはQBの声真似をして言った。
「俺は『あの金属の塊を全部駆逐してよ!』と言われた」
 間を置かずに刹那も低い声で、かつ該当部分のみQBの声真似をして、言った。
 気持ちが悪い、とスメラギ達は思った。
「ロックオン、気持ちが悪いよ……。刹那は気味が悪い……」
 聞こえない声でアレルヤは呟いた。
 ティエリアは声を出す気力も削がれていた。
 敢えて触れず、スメラギが尋ねる。
「そ……そう。二人から見て、QBはどうだったの?」
「敵意があるようには思えなかったが、終始不気味な奴だった。映像は提出したが、QBは精神操作能力がある。大量にいる。殺されても『勿体無いじゃないか』なんて言いながら自分の死体を喰いやがる。不気味だろ?」
 不気味な割に思い出すだけで何か全部が馬鹿馬鹿しい気がする、とロックオンは答えた。
 額に手を当てて、心底頭が痛そうにスメラギが言う。
「そう、あれは……不気味よね……。異星生命体というのは本当、という可能性がどうしても高くなってくるわね……」
 そこへ、アレルヤが口を開く。
「スメラギさん、QBが異星生命体かどうかはともかく、QBの行動目的が紛争の根絶だというのは疑問です」
「その通りね……。ロックオンと刹那が見たQBの能力があれば、精神操作なんていう本来あり得るなんて認めたくないような方法で紛争どころか人間同士の対立すら無くす事もできるかもしれないのだから」
「大体っ、あの生物はまた勝手に声明を発表した上、何だあのふざけた内容は!」
 いきなり、ティエリアが沈黙を破り行き場の無い怒りを顕にして、壁を叩いた。
 アレルヤが生暖かい目でティエリアを見つめ、スメラギが声をかけて、纏めに入る。
「落ち着いて、ティエリア。……とにかく、私達が行動すれば、QBが再び現れる可能性はあるけれど、CBは活動を止める訳にはいかないわ」
 ロックオンが分かっていたように言う。
「鉄は熱いうちに打つって事さな」
「ええ、その通りよ。アレルヤ、今度は作戦プラン通り、キュリオスで直接タリビアに降下して貰うけど良い?」
 スメラギがアレルヤに聞く。
「喜んで。働いて無いですしね」
 皮肉めいてアレルヤが両手を広げて答えた。
「くっ……」
 悔しそうにティエリアが声を出す。
「ティエリア、トレミーをもしもの時の為の防衛頼むわ」
 一応フォローするようにスメラギが声をかけた。
「当然……ですっ……」
 出撃できないティエリアであった。


UNION、Mスワッド本部に帰投したグラハム・エーカーとビリー・カタギリは上官の元に向かった。
そこで、二人はガンダムを目撃した事から転属命令を受け「対ガンダム調査隊(仮)」という新設部隊に移動する事になった。
技術主任はレイフ・エイフマン教授が担当する事が、司令部がいかにガンダムを重要視しているのを明確に示していた。


王留美はアレハンドロ・コーナーと本来会う予定だったが、無しになったという。
依然アレハンドロの天使ことリボンズ・アルマークが家出中、とのこと。


―対ガンダム調査隊(仮)施設―

 早速転属したグラハムとカタギリは格納庫でフラッグを前に会話をしていた。
「カタギリ、あのガンダムの性能、どれ程と見る?」
「そうだね……出力で言えば、ガンダムはフラッグの六倍はあると見ていいんじゃないかな。どんなモーター積んでいるんだか……」
 興味が尽きないという声でカタギリが答えた。
「出力もそうだろうが、あの滑らかな機動性だ」
「あの機動性を実現させているのは……やはり光だろうね」
「ああ。あの特殊粒子は、機体制御、発見が有視界限定という以上、ステルス性にも使われている」
 グラハムは鋭い観察眼でソレを述べた。
「恐らくは、火器にも転用されているじゃろうて」
 そこへ、杖をついた老人が現れた。
「レイフ・エイフマン教授」
 待ちかねていたようにカタギリがその名を呼んだ。
「恐ろしい男じゃ、儂らより何十年も先の技術を持っておる。もしや、宇宙人なのかもしれぬな」
 神妙な面持ちでエイフマン教授が言った。
「ご冗談を」
 カタギリが苦笑する。
 エイフマン教授はフラッグを見上げて言う。
「できることなら捕獲したいものじゃ。ガンダムという機体を。それとできるならばQBという生命体も」
「前者については同感です。その為にも、この機体をチューンして頂きたい」
 同じようにグラハムがフラッグを見上げて言い、エイフマン教授がグラハムに顔を向けて尋ねる。
「パイロットへの負担は?」
 グラハムが目を閉じる。
「無視して頂いて結構」
 再び目を開けて、エイフマン教授を見て言う。
「但し、期限は一週間でお願いしたい」
 面白そうに、エイフマン教授が笑う。
「ほぉ……無茶を言う男じゃ」
「多少強引でなければガンダムは口説けません」
 ガンダムに対しては常に真剣とばかりに、グラハムは答えた。
「彼、メロメロなんですよ。だけど、QBに対する策はあるのかい?」
 苦笑しながらも、カタギリが尋ねる。
「まだ遭遇してもいないQBに恐れをなしていては何もできはしない。何より、接触しないことには始まらない」
 当然の事をグラハムが言った所で、グラハムに通信が入る。
「……私だ。……何、ガンダムが出た?」
 その知らせにカタギリとエイフマンが驚く。
「二機。場所は南アフリカ……一機は大気圏を突入してタリビアだと!? ……了解した。単独で大気圏突入ができるとはな……」
 言って、グラハムは通信を切り、すぐにフラッグに乗ろうと動く。
「カタギリ、私は出るぞ」
 それを、大気圏突入ができるという情報に一瞬驚いていたエイフマンが我に返って止める。
「やめておけ」
「何故です!? 一機はタリビアです。ここからなら行ける」
 どうして止めるのか、とグラハムは言った。
「儂は麻薬などというものが心底嫌いでな。焼き払ってくれるというなら、ガンダムを支持したい」
 タリビアと聞いて、エイフマンが想定したのは麻薬栽培の地域の事であった。
「麻薬?」
「奴らは、紛争の原因を断ち切る気じゃ」


―南アフリカ地域・鉱物資源採掘現場―

 ロックオンはデュナメスに乗り、鉱物資源の採掘権を発端とした内戦への武力干渉に乗り出そうとしていた……が。
「ロックオン・ストラトス、君の牽制射撃でアレを終わらせられるかい? 無理なら僕が介入するよ?」
 現場に到着する前にQBがロックオンの……今回はヘルメットを被っていなかった所、頭の上に直接忽然と現れて言った。
「っておい、神出鬼没にも程があるだろ! お前何なんだ!?」
 ふざけんな、とロックオンは怒った。
「僕はQB。何度も言ってるじゃないか。君は記憶力が悪いのかい?」
「QB! QB!」
 QBとHAROが答えた。
「そういう事じゃねぇよ!」
 呆れた声でロックオンが言った。
「ほら、もうすぐ着いちゃうじゃないか。ロックオン、君の射撃技術で死者を出さずに済ませられるのかい?」
 QBはロックオンの言葉を無視して催促する。
「……何で自称異星生命体のお前が人間の死者の有無に拘るんだ?」
 ロックオンは一応情報を引き出そうと尋ねた。
 それに対し、QBは淡々と聞かれた事には答えた。
「勿体無いじゃないか。それに異星生命体なのは自称ではなく事実だよ。僕らからすれば君たちの方こそ異星生命体さ」
「勿体無いって……ッ……調子狂うぜ全く。ああ、分かった。要望通り、死なないように狙い撃ってやるさ」
 言ってる間に、現場にまもなく到着してしまうため、ロックオンは元々予定通りだと宣言した。
「助かるよ、ロックオン!」
 全く感謝の念が感じられない語調でQBが感謝した。
「メット被ってないから肩に乗ってろ!」

 そのまま、ロックオンは肩にQBを乗せたまま、現場のワークローダーに火器を搭載した物に射撃を行った。
「ああ、嫌だ、嫌だ。こういう弱い者虐めみたいなの」
 心底うんざりして、ロックオンが言う。
「やっぱり理解できないなあ、そういう人間の考え方は。どうして君は自身の行為に嫌悪というものを感じるんだい?」
 無機質な表情でQBが尋ねる。
「はぁ? こんだけ一方的だと、嫌にもなるだろ」
 何いってんだと、ロックオンは言いながら、搭乗者を殺さないように射撃を続ける。
 目の前の光景を意に介さないようにQBが答える。
「ふうん、それが罪悪感というものなのかな。でも、僕らには分からないや」
「お前……感情が理解できないのか?」
 意外な顔をして、ロックオンが尋ねる。
「うん、そうだよ」
 その通り、とQBは答えた。
「そうかい。訳がわからないぜ、全く。……早く武装解除しろって。……狙い撃つぜ?」
 一つ意思疎通がスムーズにいかない理由が少し理解できたロックオンであったが、とりあえずうんざりしながら、射撃を続けた。
「ニゲタ! ニゲタ!」
 ようやく、全ワークローダーが撤退し、HAROが音声を出す。
「……お利口さん」
 ほっと息をつく。
「ヨカッタ! ヨカッタ!」
「じゃあ、僕は帰るね」
 瞬間的に、QBは消えた。
「っておい! またかよっ! ったく……」
 無駄に疲れた様子のロックオンであった。


―南アメリカ地域・タリビア上空―

 アレルヤは、キュリオスに乗り、初の大気圏突入に些かの緊張をしながらも、無事成功し、タリビア上空を旋回していた。
「アレルヤ・ハプティズム、僕はQB。作戦地域に人はいないみたいだね」
 こちらにも、突然QBがヘルメットの上に現れた。
「うわぁっ!?」
 何の前触れも無くQBが現れた事で、思わずアレルヤは声が裏返った。
「いきなり頭を振らないで欲しいな」
 しかし、憤慨している様子は無い、QBの言葉。
「いきなり頭の上に現れないで欲しいね……。君がQBか」
 皮肉で返す余裕がアレルヤにはあった。
「そうだよ。……もう間もなく作戦行動か。大丈夫そうだね。僕は帰るよ」
 言って、QBは消えた。
「は?」
 第三の人格が現れたのではないかと勘違いしたくなるアレルヤであった。
「気をとりなおして……旋回行動開始から30分経過。警告終了。キュリオス、これより作戦行動を開始する」
 気を取りなおしたアレルヤはコンテナから順次焼夷弾を落とし、麻薬栽培ポイントを焼き払った。
 避難していた住民達はその光景を見て、嘆きの声を上げていた。
「目標達成率97%。ミッションコンプリート。こういうのが二度目の出撃だと……覚悟が締まらないな……。悪いことではないけど」
 その呟きはコクピットの空気へと溶け込んでいった。


―セイロン島―

 セルゲイ・スミルノフは地上に降り、兵士達に迎えられたが、自分の目で確かめるまでは信じられないと、セイロン島に来ていた。
 そこへスミルノフに報告が入る。
「三機目がこのセイロン島に現れただと?」
 兵士が敬礼して答える。
「はっ! 第七駐屯地です。既に、第七駐屯地ではQBが目撃され、兵士達が皆持ち場を離れているとの報告が入っています!」
 兵士は何とか平常心を崩さずに言えた。
「ガンダムより恐ろしいのはQBか……。生物兵器の類を使用するなど卑怯な奴らだ。使えるティエレンはあるか? 私が出る」
 酷く憤慨した様子でスミルノフは言った。
「中佐ご自身がですか!?」
 スミルノフの側に控えていた士官が驚いた。
「言ったはずだ。私は自分の目で見たものしか信じぬとな」
 真剣な表情でロシアの穴熊、セルゲイ・スミルノフは言った。


―セイロン島・第七駐屯地―

 刹那が到着した時には既に兵士達はQBに操られた後、格納庫にしまわれていたティエレンさえもが尽く路上に放置されて、解体場のお膳立ては整っていた。
「エクシア、目標を駆逐する」
 特にどうという事もない表情ではあったが、何か物足げに刹那は緑色のティエレンを次々に切り裂いていった。
 そこへ、飛行装備を取り付けたティエレンが一機だけ旋回して現れた。
 その光景を見たスミルノフは驚いていた。
「大量のティエレンが全て切り裂かれている……だと……。ガンダムは見ればわかるが、QBはどこだ」
 寧ろQBの方が気になるスミルノフ。
 しかし、スミルノフの元にはその本人の想いとは反対にQBは現れてはくれなかった。
 ならば仕方ない、とスミルノフは本来の目的通り、エクシアに飛行状態から砲撃をかけた。
 対する刹那も砲撃が飛んで来た事に驚いていた。
「QB、アレはどういう事だ」
 砲撃を避けながら言う刹那。
 早くもQBのサポートに染まっている自覚はあるのか、無いのか。
「コクピットの位置は覚えただろう? 実戦を経験するのも重要だと思うな」
 何か思惑があるのか、ヘルメットの上に乗っていたQBは刹那を試すように言った。
 すると、ティエレンが地面に降り、右腕に装備していた火器を捨てて、新たにブレードを構えた。
「火器を捨てた? 試すつもりか、この俺を」
 刹那が少し驚く。
 ただ、試しているのはQBも同じ。
「戦争根絶とやらの覚悟、見せてもらうぞ」
 無骨なメットを被ったスミルノフが言った。
 しかし、エクシアとティエレンの間で会話は成立していない。
 ティエレンが先に動き、ブレードを振り被るが、エクシアが一瞬で体勢を屈めながら、そのティエレンの右腕を切り飛ばす。
「肉ならくれてやる!」
 しかし、ティエレンは振り返りざまに、エクシアの頭部を左腕で鷲掴みにして、その機体を持ち上げる。
 同時に切り飛ばされた右腕が落ちる。
「くっ!」
 忌々しいと、刹那は唸る。
 ティエレンはそのまま頭部をきつく掴み圧力をかける。
「ぬぅ!」
 エクシアはその左腕も切り落とそうとする。
「ふ!」
 しかし、ティエレンが体勢を僅かに変えて、刃で両断されないようにしてソレを防いだ。
「その首、貰った!」
 スミルノフが叫ぶ。
 エクシアの頭部に異常を知らせるエマージェンシー音がPIPI、PIPIと鳴り刹那の危機感を煽る。
「な……やるかよッ!」
 それに焦った刹那がついに大声で怒り、エクシアの左肩後部に装備されているGNビームサーベルを左腕で取り出し、起動させる。
 そのまま展開されたビームはティエレンの左腕をあっさり切り裂く。
 ティエレンはそれにより体勢を崩し後ろに倒れる。
「ぬぁア!」
 すかさず、刹那はティエレンの右肩から右脚部にかけてGNビームサーベルを振りかぶる。
「えあァアァー!」
 掛け声と共に、ティエレンは切り裂かれ、地に伏した。
 エクシアは頭部についたままのティエレンの腕を無理矢理取り外した。
「……俺に触れるな」
 QBは触れている。
「僕は帰るね」
 言って、QBも消えた。
 現段階、人革連だけが、QBに襲撃を受けていた。
 結果、QBの存在の真偽に確証を持てないUNIONとAEUの者達は人革連がガンダムに対抗できない言い訳に、QBの存在を捏造したのではという風潮が生まれ、全世界の人々は人革連の軍部に猜疑心を抱いた。
 逆に人革連の人々は遺憾の意を感じずにはいられず、QBに、そしてそれを有すると目されるCBに対して怒りを募らせた。


―経済特区東京・マンション―

 北アイルランドの対立図式を取り上げて歴史についてのレポートが課題に出されたサジ・クロスロードは帰宅した所、刹那・F・セイエイと偶然遭遇し、話しかけたが、愛想が無いと感想を抱いた。
 玄関に入ると、仕事で忙しい絹江と入れ違いになり、会話を交わしてそのまま上がると、ルイスから電話がかかった。
 言われたとおり、ニュースをつければ、北アイルランドテロ組織リアルIRAが、武力によるテロ行為の完全凍結を公式に発表したと海外特派員の池田が報道していた所であった……。
「ね、すごいでしょ? 今日習ったところ、レポートどうなっちゃうんだろ……」
 サジはその言葉が耳から耳へと通りすぎ、驚いていた。
 世界が……世界が変わってる……と。


CBを利用する国。
その国すら利用する国。
陰謀渦巻く戦場に、ガンダムマイスターが赴きQBが活躍する。
政治とは彩り変わる万華鏡なのか。


―月・裏面極秘施設―

リボンズ・アルマークはヴェーダに起きた異変を感じ取り、リニアトレインで宇宙へと上がり、更には小型の宇宙輸送艦で月の裏面へと向かっていた。
月の裏面に隠されているのは、CBの有する量子型演算処理システム・ヴェーダの本体。
施設へ到着したリボンズは脳量子波を操り、固く閉ざされているロックを開く。
中へと入り、通路内を進むと、赤い絨毯の敷き詰められた間に出る。
そこに強化ガラスを通して床下に確かにヴェーダがあるのが見えた。
リボンズは僅かな安堵に一つ息を吐き、ヴェーダにアクセスする為の端末を操作し始める。
《リボンズ・アルマーク、君が一番乗りか》
 突如、リボンズの脳内にテレパシーが伝わる。
「なに!?」
 リボンズは目の虹彩を輝かせ、驚愕の表情を浮かべる。
「後ろだよ、リボンズ」
 その声に従い、リボンズが後ろを振り返ると、そこには。
「僕はQB。異星生命体さ。君たちイノベイドを待っていた」
 リボンズに対しては何の意味も持たないにも関わらずQBは首を可愛らしく傾げて見せた。
「Q……B……」
 リボンズはどこからともなく、出現したQBに驚きを隠せず、緊張して唾を飲み込み、続けて言う。
「君の目的は何だ」
「感情エネルギーの回収だよ。紛争の根絶はその為の手段の一つさ」
 リボンズの様子に意も介さず、QBはさらりと言った。
「感情……エネルギー?」
 訳が分からないと、リボンズは困惑した。
「リボンズ、君には理解できないかもしれないけど、僕らは人類の感情エネルギーを回収する為にこの星に来たんだ」
「信じ難いね……。君が異星生命体だという証拠はあるのかい?」
「その質問は無意味だと分かっているのにどうして聞くんだい。さっきのテレパシー、君たちにとっては脳量子波と言うそうだけど、アレで僕らが君たちイノベイドよりも強力な脳量子波を操る事ができるのは身を持って体験しただろう?」
 要らぬ手間だと思いながら、QBは説明した。
 思わずリボンズは一歩下がる。
「……僕の思考を」
「筒抜けだよ」
 感情は理解できないけどね、とまではQBは言わなかった。
「っ……」
「そんなに警戒しないで貰えると助かるな。僕らは少し君に頼みがあるだけなんだ」
「頼みだって?」
「うん。僕が提示する塩期配列パターンの生体年齢14、15歳の女性型イノベイドを量産して欲しい」
 本当は勝手にやろうと思ったんだけど、感情が理解できないから仕組みも理解できず断念したんだ、とまではQBは言わなかった。
「イノベイドの量産……」
 リボンズは困惑していた。
 感情エネルギーの回収が目的で何故イノベイド量産に繋がるのか。
 しかも、QBが塩基配列を指定するという。
 訳が分からない。
 目の前の赤い目の不気味なQBの意図が全く掴めない。
「そうしてくれれば、僕らは君たちCB全体の計画、そして場合によっては……君個人、の思惑に協力しても良いよ」
「ッ!」
 自身の思惑すら筒抜けであることにリボンズは驚愕した。
「どうして動揺するんだい? お互いにとって利益があるじゃないか。確かに、僕を前にしている君にとって脳量子波が強力すぎるのは考え物かもしれないけどね」
 そのお陰で普通の人類よりも思考が筒抜けだよ、とは顔に出すことも無く、QBはリボンズが動揺するのが理解できないと淡々と言った。
「……そもそも……君たちQBにとって、地球はどういう対象なんだい? 要領を得ないね」
「侵略なんてする気は無いから安心してよ。地球、いや人類はと言い換えれば、君たちは宇宙の寿命を延ばす為の貴重なエネルギー源なんだ」
「宇宙の寿命……エネルギー源?」
「仕方ないな。理解できるように、教えてあげるよ」
 質問形式では埒があかないと、QBは目を怪しく輝かせ、リボンズの脳に直接情報を流し込んだ。
「ぁアぁっ!?」
 場合によっては射殺しようかと所持していた銃を使う間もなく、情報の奔流にリボンズは声を上げた。
 その内容はQBが地球に来た、感情エネルギーの回収の根本的理由、宇宙の寿命問題から、感情を持つ人類が存在する限り生じる魔獣と呼ばれる存在、そしてソレを狩る魔法少女の存在。
 人々が存在し、そして世に呪いがある限り生まれる魔獣は、人々の負の感情が強ければ強いほど、強力な魔獣が生まれ、倒すのは困難になるが、それを倒し結晶と化して感情エネルギーの回収ができれば一気に集めることが可能で、効率的。
 QBは昔、暁美ほむら、という現在も現役の齢200代を優に突破し、300代も間近の現在最強の魔法少女から「魔法少女自身の希望が絶望に転換する際の感情エネルギーを回収するという方法が成り立たなくなったのが今の世界」という仮説を聞いた事があったが、現実には「円環の理」という魔法少女は絶望を撒き散らす前に消える、という世界法則が厳然たる事実として存在している以上、QBは数多く、かつ、質の高い魔獣を魔法少女に狩って貰わなければならない。
 CBという全世界に武力による介入を行う存在は、紛争の根絶を目指しながらも、平和に暮らしている幸せに満ちた人々にすら負の感情を抱かせる事ができるとQBは考えた。
 その負の感情が一点に集中……CBという対象に向かえばそれだけ強力な魔獣が生まれる。
 しかし、その場合、発生した魔獣を倒す屈強な魔法少女が必要であった。
 産業革命以降、魔法などというものを信じる少女も減り、勧誘活動も上手くいかない中、QBはふと宇宙にも到達するようになった人類の発展を目にし、地上ばかりに向けていた目を宇宙にも向けてみた。
 すると、なんとイノベイドという感情と魂の両方を兼ね備えた人工生命体が作られているではないか。
 QBはイノベイドを見つけた時は驚いた。
 人類にしては画期的な発明である、と。
 何より、魔法少女になりうる適合者をいちいち地球を巡らなくともいくらでも生産できるというのは魅力的だった。
 人工的に作れば因果律の量が少ないというデメリットはあるとしても、数を揃え、イノベイドには元々知識や身体能力を調整する事すらできるという事実。
 何の訓練も受けていない少女を育てるよりも、最初から即席で高度な戦闘能力を兼ね備えた魔法少女部隊を作る事ができれば、どれだけQBの負担が減ることか。
 これらの、リボンズの理解にとって「必要な情報」のみをQBは流しこんだ。
 その結果……CBとQBの間で契約が交わされたのか。
 QBがCBに接触するのは寧ろ必然、まさに運命だったのか。



[27528] QB折衝
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 19:15
―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 大型モニターには人革連国家主席の発表が映しだされていた。
[セイロン島におけるCBの武力介入により、我々は大きな損害を受けました。紛争根絶を謡いながら、生物兵器までも戦場に投入するCBが行っている行為は、国家の秩序を乱すテロリズム以外の何者でもありません。私達人類革新連盟は、断固とした態度で彼らのテロ行為に挑んでいく所存です。まず手始めに……]
 神妙な面持ちでトレミーに現在いたプトレマイオスクルーの面々がその映像を見続ける。
 プトレマイオスの操舵士、リヒテンダール・ツエーリが微妙な表情で言う。
「一応っていうのか、嫌われたもんすね」
「……反応としては予想通りだろ」
 唸るようにプトレマイオスの砲撃士、ラッセ・アイオンが返した。
「けど、私達と……QBのしたことで人革連の軍備が増強されていく可能性も……」
 複数の事が原因で心配そうにクリスティナ・シエラが言った。
「彼らが、仮に、そうすると言うのなら、我々は武力介入を続けていくだけです……」
 QBというまだ自身の目で見てもいない存在が原因の大半で、元気が無さそうに壁にもたれていたティエリア・アーデが言った。
 合わせるように、フェルト・グレイスが呟く。
「戦争の根絶……」
「フェルトの言うとおり、私達CBはソレが目的よ。とはいえ、私達も直接QBと話ができればいいのだけど……」
 スメラギ・李・ノリエガが困ったように纏めた。


アザディスタン王国王宮では、マリナ・イスマイールとその個人的に雇われた側近が会話を交わしていた。
その会話の中で、テロの波が都市部にまで押し寄せて来た以上、このまま行けば、CBかQBかは知らないが、介入にやってくる可能性があるだろうと、その事をマリナは不安そうに呟いていた……。


―CB所有・南国島―

 ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズムの二人は島に全員帰投していた。
 キュリオスをガラス窓越しに眺められる休憩室でアレルヤは椅子に座り足を組んでいた。
 そこへHAROを抱えたロックオンが声をかける。
「聞いたか、アレルヤ。リアルIRAの活動休止声明」
「ええ……」
 分かっているという風に軽くアレルヤが答えた。
「あの声明で、俺達を評価する国も出ているようだが、それは一時的なものだ。武力介入を恐れて先手を打ったにすぎん」
「僕達がいなくなれば、彼らはすぐに活動を再開する。……わかってますよ。紛争根絶は、そんなに簡単に達成できるものじゃない」
 何か暗い表情で二人は会話を交わし、ロックオンが少し明るく言う。
「だからさ。休めるときに休んどけよ。すぐに忙しくなる……筈だ」
 明らかに苦笑い。
「というか、あのQBは実在するんですか? 僕は肉眼で確認する前に消えられたぐらい印象が薄いんですが」
 QBに別に関わりたくなどないが、何かハブられた気がしたアレルヤが尋ねた。
 対して、もう何か諦めたようにロックオンが言う。
「ああ、実在はする。アレは神出鬼没だ。次出たら取っ捕まえてやる」
「頑張ってください」
 他人事のようにアレルヤが言った。
「おいおい、アレルヤも今度出たら捕まえろよ」
「作戦行動中に操縦桿を放すのは危険ですよ。ですが、やはりあのQBは紛争根絶が真の目的ではなさそうですね」
 アレルヤは途中から真剣に言った。
「……だろうな。俺達を利用してやがる節がある」
 ロックオンも真剣に返した。
 QBは基本的にCBが介入する時にしか現れない。
 前回はロックオンに任せて眺めるだけ眺めて去っていった。
 刹那の元では前回と同じく介入をしたが、指揮官機と思われるティエレンには介入をしなかった。
 行動が一貫していないQB、まず紛争根絶が第一の目的ではないのは明らか。
「警戒をする必要はありますが……いずれにせよ、僕達はミッションが提示されたらそれを遂行するだけです」
「その通り。それまで身体を休めとくってもんだ」
 言いながら、ロックオンは手をひらひらと振ってその場を後にした。


―人革連・統合司令部―

 キム司令がセルゲイ・スミルノフ中佐を呼び出し、椅子に腰掛けたまま、問いかける。
「で、どうだった中佐。中佐はQBに遭遇する事無く、ただ一人ガンダムと手合わせができたのだろう? 忌憚のない意見を聞かせてくれ」
 その目には強い興味が宿っていた。
「はっ。私見ですが、あのガンダムという機体に対抗できるモビルスーツは、この世界のどこにも存在しないと思われます」
 QBに遭遇していない以上、スミルノフはガンダムの事についてのみ報告した。
「それほどの性能かね?」
「あくまで、私見です」
 キム司令は面白そうに、本題に入る。
「なら、君を呼び寄せた甲斐があるな。QBに遭遇せずにガンダムと一戦交えた君ならば……。中佐、ガンダムを手に入れろ。ユニオンやAEUよりも先にだ。QBは出現しない時もあるそうだ」
 スミルノフが敬礼する。
「はっ!」
「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが、一人だけ面倒を見て貰いたい兵がいる」
 キム司令の言葉にスミルノフは怪訝な声を出す。
「ぅん?」
「入りたまえ」
 キム司令は閉じている扉に声をかけた。
 すると扉が開けられ、白に近い髪色、鋭く無感情な眼光の若い女性兵士がツカツカと入ってくる。
 彼女は近づいて止まり、敬礼して言う。
「失礼します。超人機関、技術研究所より派遣されました超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉です」
 その自己紹介にスミルノフは疑問の声を上げる。
「超人機関? 司令、まさかあの計画が」
 それにキム司令が皮肉めいて答える。
「水面下で続けられていたそうだ。上層部は対ガンダムの切り札と考えている。……QBが出なければ、の話だが」
 そこへ、ピーリスが一歩前に出てスミルノフを見て感情を感じさせない声で言う。
「本日付けで中佐の専任部隊へ着任することになりました。よろしくお願いします」
 スミルノフはピーリスの何も感じないような目をみながら、息をついて言った。
「……それにしては若すぎる」


UNIONの対ガンダム調査隊(仮)施設では、グラハムの要望通り、フラッグにカスタムチューンが施され、カスタム・フラッグが完成していた。
そこには、更にハワード・メイスン准尉、ダリル・ダッジ曹長がグラハムに呼ばれて着任し、いよいよ部隊らしくなり始めていた。


CBの次なる介入ミッションはUNIONに加盟しているタリビア共和国がCBを利用する意図で動き始めた事でほぼ確定していった。
世界の要人達は、ほぼ皆全てが、タリビアの見え透いた行動を理解していたが、最も重要なのはCBがどう動くかを見極める事であった。
タリビアは反米感情の強い国であったが、タリビア政府としてはアメリカ主導の政策に切り替えたい。
そこで、タリビアはわざとUNIONからの脱退を宣言し、武装もやむなしと宣言する事で、わざとCBを呼び出し、介入させる意図があった。
そうすれば、CBに介入されたタリビアは率先して米軍の助けを借りざるを得なくなり、ひいては、タリビアは国内の反米感情を押さえ、政策の方針も本来の目的通り、舵を切る事ができるという筋書きであった。
その当のCBはといえば……。

―CBS-70プトレマイオス・スメラギ・李・ノリエガの戦術立案室―

 スメラギはモニターを操作しながら、呟く。
「ヴェーダ、あなたの予測を聞かせて。……私の予報と同じね」
 結果は自分と同じで一応安堵する。
「対応プランは十二種。そのどれを選択しても私達の立場は危うくなる……のは、QBの存在を考慮しない場合」
 溜息をついて言葉を続ける。
「現れるのか、現れないのかは分からないけれど、あっという間にQBに振り回される事になるなんてやりきれないわね。ヴェーダにQBが前回と同じような洗脳活動をフルに行って兵士達を無力化するという条件で予測を聞くと……。ほら……もう、戦術も何もないじゃない……」
 スメラギは自身の存在意義について、悩み始め、頭を抱え込んだ。
 少しして、タリビアの声明があり、気を取り直すように息を吐いて、ブリーフィングルームに移動して宣言した。
「ミッションを開始します。ガンダムマイスターたちに連絡を」
 できればQBとも話がしたい、とは言わなかった。


結果として、タリビアに向けてUNION艦隊は出撃し、対するタリビア軍は主要都市にモビルスーツを配備する事となった。
更に対する、CBは刹那は港に沈めてあるエクシアへと向かい、アレルヤとロックオンはそれぞれ、キュリオスとデュナメスに乗り込んで、三機が出撃した。
今回もティエリアは働かない。


―タリビア主要都市地域―

 エクシアはUNIONの空母が進行している上空を無視するが如く、タリビアへと向かい、デュナメスとキュリオスはUNIONのフラッグに後を付けられながらも、それも無視して飛翔していった。
 UNION、タリビア、CB、まさに三者一色即発という状況に一番最初に介入を起こしたのはそのどれでもなく、QBであった。
 ガンダム三機が到着する前の絶妙なタイミングで首都地上に整列していたタリビアのモビルスーツのパイロット達に一斉に異変が起きた。
「何だ!?」「これがQBかぁっ!?」「QBだとぉ!?」
 という叫び声がしたかと思えば、すぐに兵士達は皆コクピットから降り始めてしまう。
 付近に通常の歩兵は殆どおらず、彼らはそのままゾロゾロと持ち場を離れるという、他から見ればまさに訳がわからないという様相を呈していた。
 ただの一機すら、タリビアのオレンジ色のモビルスーツが飛行することもなく、沈黙を保ったまま、地上にただの的として整列していた。
 三つの主要都市に散開したガンダム各機との映像をリアルタイムで共有していたプトレマイオスは作戦行動開始前にも関わらず、唖然としていた。
 もう、何なの、という表情でスメラギが投げやりに伝える。
[ミッション、スタート……]
 しかしそれに対して、三人のガンダムマイスターはそれぞれきちんと返答した。
「タリビアを戦争幇助国と断定。目標を駆逐する」
 刹那はいつも通り。
「キュリオス、介入行動を開始します……」
 げんなりしたアレルヤ。
「デュナメス。……目標を狙い撃つぜ」
 一番やる気のある発言は刹那だったであろう。
 三機はズラリと並んでいるただの的を作業的に壊し始めた。
 アレルヤは初めてのQBからのバックアップを受けた戦闘とも言えない戦闘中、呟いた。
「しかし……これは一方的だ……とか、そういう以前の問題だよ……」
 完全に茶番のようであった。
 何しろ、流れ弾の一つも飛ぶ事はなく、ただモビルスーツが壊されただけ。
 ガンダムマイスターの元に今回QBが現れる事はなかった。
「人様の事を利用して、勝手しなさんなというにはタリビアの自業自得なんだか……」
 やれやれ、と言うロックオンは、QBに利用されている形になっている自分達はどうなんだ、と思わざるを得なかった。
 一瞬にして、ミッションを終了したガンダム三機はさっさとタリビアから離脱し始めた。
 その光景を遠くから観測していたUNION艦隊はガンダムより、寧ろタリビア軍の動きに驚愕し「タリビア軍兵士が全員敵前逃亡!?」と報告した。
「タリビア軍兵士は、兵士の名を語るのもおこがましいようだ」
 と小馬鹿にしたようにUNION艦隊の誰かが言ったのはいつかそのままブーメランとして自身に帰ってくるのか。
 タリビア首相の居る官邸では、兵士達が全員敵前逃亡し、残ったモビルスーツが全機CBに破壊されたという情報に首相は呆然としたが、残された道はただ一つ「ブライアン大統領へホットラインを……」と側近に伝え、こちらの茶番も終了を迎える。
 結果、タリビアはUNION脱退宣言を撤回、UNIONは加盟国を防衛するとして、CBに攻撃を開始する声明を出す。
 瞬間、満を持して、グラハム・エーカーの駆るカスタム・フラッグが急発進し、通常のフラッグのスペックの二倍以上の速度でエクシアを猛追する。
「これでガンダムと戦える。CBの行動が早すぎたが充分見事な対応だプレジデントッ!」
 そう言って追いついた所でグラハムはエクシアに向けて砲撃を開始する。
「はッ?」
 刹那はその速さに驚きながらも、弾丸を避け、フラッグを交わす。
 対してカスタム・フラッグは旋回しながら空中変形を行う。
「空中変形!? だがッ!」
 刹那は驚きながらも、ビームを放つ。
 しかし、グラハムはそのビームを尽く避けてのける。
「速い!」
 刹那が驚愕し、今度はカスタム・フラッグが砲撃で応戦し、エクシアを水面に追い詰める。
 が、エクシアはそのまま水中に潜り、その場から離脱した。
 残されたグラハムの元に部下が追いついて賛辞を述べる。
[お見事です、中尉!]
[逃げられたよ……。交戦することができたのは僥倖。カスタム・フラッグ。一応対抗してみせたが……しかし、水中行動すら可能とは汎用性が高すぎるぞ。ガンダム]
 グラハムはQBの介入もなく、ガンダムと交戦できた事には嬉しそうであったが、ガンダムの性能には憤りを抱いたのであった。


この一件は即日ニュースになり、世界の人々は目にする事になった。
CB、タリビアに軍事介入、と題されたテロップが流れたが、何故か映った現場の映像は整列したまま破壊されたタリビアのモビルスーツだけ。
とても戦闘が行われたとは思えない、有様。
否、そもそも戦闘など行われてはいないのだが。
報道の中で、タリビア軍の兵士は全員敵前逃亡という情報が流れたことに、サジ・クロスロードは「CBってそんなに怖いのかな……。戦いが起きていないなら、結果としては良いのかもしれないけど……」と複雑そうに言葉を述べた。
絹江・クロスロードは、自宅で端末を操作していたが、寧ろこのタリビア軍兵士側の動きと、人革連の発表にあった通り、CBの生物兵器使用疑惑について、頭を悩ませていた……。


―月・裏面極秘施設―

「言っても、君は勝手に行動してしまうようだけど、死者を出さないように拘る必要性はあるのかい?」
 リボンズが端末を操作しながらQBに問う。
「僕らとしてはこれで充分なんだよ。勿体無いし。それより、できるだけ早く用意して欲しいな」
「僕も暇ではないからね……。もう一人、イノベイドを用意したら、帰らせてもらうよ」
 リボンズは正直来なければ良かったと思いながらも、QBは利害が一致する限り……は、自身に協力するというのを早くも理解した為、QBの欲しいイノベイドの製造を担当するためのイノベイドを用意する作業を行っていた。
 負の感情を集めるのならば、死者が出たほうが手っ取り早いのか。
 QBにしてみれば、敵前逃亡という容疑をかけられた兵士達の絶望、そしてその家族のほぼ同様の絶望、全世界の人々から彼らに向けられる冷たい感情……それで充分負の感情は喚起できる。
 これは感情の存在は理解できていても、その本質を理解できないが故のQBならではの思考。
 しかし、嵌められた形になった彼らからしてみれば、まさに、外道。
 ……死んでしまえば、人間は感情エネルギーを発生させない。
 それに、まだ魔法少女部隊は作られてもいない。
 そして現在既存の魔法少女達の負担が増加しすぎて皆消耗によって消滅してしまうような事態は困る。
 つまりは、時期尚早。


低軌道ステーションでの出会いが、アレルヤを過去へと誘うのか。
急ぐ必要はあるのか、キュリオス。
命朽ち果てる可能性はあるのか。
抗えぬ重力が、ガンダムを蝕むのか。



[27528] 僕に仕事を下さい
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/04 23:14
アザディスタン王国王宮ではマリナ・イスマイールが外行の服を着て、太陽光発電の支援を受けるための諸国漫遊に出る所であった。
それを見送るシーリン・バフティヤールは、前回のCBが武力介入したタリビアの一件について少し会話を交わした。
タリビア軍兵士が敵前逃亡したというのは不可解極まり無かったが、いずれにせよ、アザディスタンがCBを利用するという方法は有り得ないという結論に至り、マリナは旅立っていった。


―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―

 CBでは次のミッションプランに関して、一悶着起きていた。
 ミッションの内容は、人革連の軌道エレベーターの低軌道ステーション付近の宙域で行われる、新型モビルスーツの性能実験の監視と場合によってはその破壊というもの。
 そのミッションにヴェーダによって選定されたのはアレルヤ・ハプティズム。
 キュリオスをコンテナで運び入れ、人革連軌道エレベーター天柱で宇宙へと上がり、そのまま、その性能実験の監視を行う……筈であったが。
「スメラギ・李・ノリエガ、僕にそのミッション、遂行させてもらいたい。わざわざキュリオスを宇宙に上げる必要など無い」
 非常に熱意ある様子で、この僕に仕事をやらせて欲しい、とスメラギに言ったのはティエリア・アーデ。
 微妙に目が血走っている。
 CB所有の南国島ともモニターが接続されており、そこにはアレルヤとロックオン・ストラトスが映っていた。
 その二人の目は、どうにも可哀想なものを見るよう。
「まさかあなたがそこまで強く要求して、ブリーフィングまで開くとは思わなかったわ……」
 正直少し意外だとばかりにスメラギは息を吐きながら言った。
 実際、ヴェーダ至上主義者とも言えるティエリアがこのような提案をするのはスメラギにしてみれば本当に意外であった。
「どうなんです。僕にミッションを遂行させて貰えるのですか」
 そんな感想はどうでもいい、早く返答しろ、とティエリアはスメラギに一歩近づいて催促した。
 思わずスメラギは一歩後ろに下がり答える。
「え……ええ。ヴェーダに提案してみたけれど、ヴァーチェが出撃するというプランも可という事だから、構わないわ。アレルヤは、それでいいかしら?」
 目線がモニターのアレルヤに向く。
「ええ、僕は構いませんよ。もう少し、休みたいですしね」
 皮肉めいてアレルヤは答えた。
 ロックオンは付き合ってられないと顔を顰める。
 対して、ティエリアはその言葉に両の拳をきつく握りしめた。
「……と言う事だから、ティエリア。今回のミッション、頼むわね」
 ティエリアの様子に気づいたスメラギが苦笑して言った。
「了解」
 聞いて、ティエリアは簡潔に、だが、どことなく嬉しそうな様子で答えた。
 そこまでで、ブリーフィングは終わった。
 QBのタリビアでの暗躍には、げんなりさせられたとしか言いようが無かったが、民間人の住まう場所に流れ弾の一つも飛ばなかったという点では評価できるという結論であり、個人個人何だか妙に疲れたのは寧ろ自身のせい。
 故に、QBの話題は、この場にティエリアがいる事も鑑みて、空気を読んで誰も言わなかったのである。


かくして、その二日後、ミッションが決行される事となる。
人革連低軌道ステーションには偶然にも、サジ・クロスロードとルイス・ハレヴィが大学の研修に訪れた。
二人がリニアトレインで上がる際、絹江・クロスロードもJNN天柱極市支社に用があった為、それを見送った。
研修と言うには、旅行とも言えるような物であり、ルイスは無重力を楽しんで過ごしたり、サジを連れ回したりとやりたい放題。
ともあれ、そんな一般人の様子を他所に、別の場所ではセルゲイ・スミルノフとソーマ・ピーリスが、CBが監視するその新型モビルスーツ、MSJ-06II-SPティエレン超兵型の実験の為に、同じく宇宙へと上がった。
……そして、ミッション当日の二日後。


―CBS-70プトレマイオス・リニアカタパルト―

 フェルト・グレイスのオペレーションが流れる。
[ヴァーチェ、カタパルトデッキに到着。リニアカタパルトボルテージ、230から520へ上昇。ヴァーチェをリニアフィールドへ固定。射出準備完了。タイミングをヴァーチェに譲渡]
 ヴァーチェがリニアカタパルトから射出可能な状態になる。
[了解。ヴァーチェ、ティエリア・アーデ。行きます]
 ヴァーチェに搭乗するティエリアが言い、操縦桿を倒して、発進させた。
 天柱へのテロを行った者を撃滅して以来、久々の出撃。
 ヴァーチェはその巨体で宇宙に飛び出し、人革連の軌道エレベーターへと向かっていった。
 ヴァーチェが発進した後、トレミーのブリッジにはその機影を頑張ってね、と見送る視線が幾つもあった。
 そのような事露知らず、ティエリアは、
「近頃の鬱憤、晴らさせて貰う」
 そう、低い声で独り言を言い、操縦桿を更にきつく握りしめた。
 精神的に相当溜まっていた。
 しかし、鬱憤を晴らせるようなミッションではない事は明らか……。


―人革連・低軌道ステーション付近宙域―

 スミルノフとピーリスはそれぞれ青色の宇宙仕様ティエレンと桃色のティエレンタオツーに乗って並行して飛んでいた。
[少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回っていろ]
 スミルノフはそう通信でピーリスに命令した。
[了解しました、中佐。……行きます]
 返答し、目を鋭くさせ、ピーリスは脚部のスラスターを一気に噴かせ、直進する。
[最大加速に到達]
 瞬時に最大加速に到達し、指定ルートを回るべく、肩部の姿勢制御用スラスターを噴かせ向きを調整。
 再度脚部のスラスターを噴かせ、楕円軌道を描いてルートを進む。
 その様子をヘッドマウントディスプレイを通して表示されるモニターを見て、スミルノフが呟く。
「最大加速時で、ルート誤差が0.25しかないとは。これが超兵の力……しかし、彼女はまだ乙女だ……」
 そのまま、ピーリスは指定ルートを問題無く周回していく。
 その頃、低軌道ステーションの一角には王留美と紅龍が居り、ティエリアに人革連の新型モビルスーツの性能実験が開始された事を知らせた。
 情報を受け取ったティエリアも丁度、ヴァーチェでその宙域を捕捉可能かつ、人革連側からは捕捉されないポイントに到着していた。
「人革連のモビルスーツ……」
 ティエレンタオツーをモニターで見ながらティエリアはコクピットで呟いた。
[ヴァーチェ、監視を続行する]
 律儀にトレミーへ報告も欠かさない。
[その調子で頼むわね、ティエリア]
 温かい声のスメラギからの返信。
[了解]
 ティエリアはコクピットでティエレンタオツーの様子を監視しながら考える。
 人革の新型モビルスーツという情報だが、形状からするに、宇宙・地上両面での行動ができるようだ。
 機動性は通常のティエレンに比較すると遥かに高いか。
 スラスターの数も豊富だ。
 無論、ガンダムには劣るが……。
 しかし、あの機体の搭乗者、指定ルートを回り続けているが誤差が随分少ない。
 あの性能のティエレンを乗りこなすパイロット……いずれ敵対する事になれば厄介か。
 だが、機体そのものはここで破壊する必要性があるとまで判断できる程の脅威でもない。
 依然、ガンダムには遠く及ばない。
 そう、考えながらも、ティエリアはピーリスのティエレンタオツーでの性能実験を監視し続けた。
 ただ、監視するだけ。
 暇である。
 しかし、ミッションを遂行するのがガンダムマイスターの役目、と自負するティエリアにしてみれば、暇だ、などと考える事など無い。
 そのまま、監視を終えるか、と言うところ。
「ティエリア・アーデ、僕はQB。特にあの機体は脅威でも無いね」
 忽然とQBがヴァーチェのコクピットの中、ティエリアの目の前に現れた。
「ぁアァぁああッ! 貴様が! 万死に値するッ!!」
 瞬間、目の前の生物を視認したティエリアはキレた。
 すかさず必ずガンダムマイスターが携帯している銃を構え、そして引き金を躊躇する事なく引いた。
 銃声と共に、QBの頭部に風穴が空き、その弾丸はヴァーチェのコンソールすらも穿ち、割れる音がする。
「はぁっ……はぁっ……」
 息を荒げ、思わずやってしまったティエリア。
 QBの死体がコンソールの上に倒れ、そのままとなる。
 かと思われれば、
「いきなり撃つのはやめて欲しいな、ティエリア・アーデ。無意味に潰されるのは困るんだよね」
 新たにQBがティエリアの肩に現れて言った。
「なっ!?」
 ティエリアは大いに驚いて身体を振った。
「他のガンダムマイスターから聞いているだろう? 何故驚くんだい?」
 マイスタータイプのイノベイドの割に、ガンダムを自分で壊すなんて、君が一番ガンダムマイスターに向いていないんじゃないかな、とQBは思ったが、ソレは言わなかった。
 そのまま驚いているティエリアを無視してQBは、目の前で悠然と自身の死体を咀嚼して喰い始める。
 その速さはかなりのもので、みるみるうちに死体は無くなった。
 ティエリアは片目の下をピクピク震わせ、その光景を見た。
 一応怒りの矛先を、根源のQBに向け、一度射殺も達成した事でかなり溜飲が下がったティエリアは冷淡な声で言った。
「QB、何の目的で現れた」
「君にはまだ声を掛けていなかったからね、それだけさ。じゃあ、僕は帰るね」
 言って、虚空にQBは消えた。
「な」
 目の前で実際にQBが消えた事でティエリアは唖然としたが、それよりも重大な物が目に入った。
 ヴァーチェ、敢えてもう一つ言えば、ナドレ……のコンソールを撃って、壊してしまった跡。
「何という失態だっ……。これでは……」
 ガンダムマイスター失格だ……と深い後悔にティエリアは見舞われた。
 損傷としては、ガンダムの操縦には支障は出ないものの、自身で破壊したという事がティエリアにはショックであった。
 丁度、完全に思考の埒外になっていたピーリスのティエレンタオツーの性能実験が無事、終わっていた。
[ティエリア、ミッション終了よ。トレミーに帰還していいわ。お疲れ様]
 モニターにスメラギの顔が映り、ティエリアを労う。
[了……解……]
 意気消沈した声で、ティエリアは返した。
 その様子にスメラギは何かあったのかと問いかける。
[どうしたの、ティエリア?]
[帰投してから、説明します……]
 言って、ティエリアは一方的に通信を切り、ヴァーチェを発進させて、トレミーへと戻っていった。
 戻るまで、ティエリアはうな垂れていた。
 相対誘導システムに従い、コンテナにヴァーチェを格納。
 ヴァーチェから降り、そのままティエリアはスメラギのいるブリッジへと疲れているようにしか見えないその姿を現した。
「スメラギ・李・ノリエガ、僕は独房に入ります」
 もうこの世の終わりだ、という表情でティエリアは言った。
「はい?」
 いきなりの宣言にスメラギは聞き返す。
 すると、重苦しくティエリアは口を開く。
「……コクピットにQBが突如現れ、僕は我を忘れて射殺。貫通した弾丸がヴァーチェのコンソールに損傷を与えました……」
「ちょっと、射殺って……」
 万死に値するなどと叫んでいたけれど、まさか本当に撃ったの、と信じられないという顔でスメラギは言った。
「自身の感情をコントロールできないなど、ガンダムマイスター、失格……です。ですから、僕は独房に入ります。では」
 返答も聞かず、ティエリアはブリッジから去り、物悲しい背中をブリッジの面々に見せつけて、そのまま勝手に独房に引きこもったのだった。
「ティエリア……」
 スメラギの言葉はブリッジの空気に溶けこんでいった……。


低軌道ステーションにそもそも、アレルヤに出会いは無かった。
キュリオスは急ぐ必要は無かった。
命朽ち果てる可能性は無かった。
抗えぬ重力が、ガンダムを蝕む事など無かった。
あったのはティエリアの後悔と絶望。


―日本・群馬県見滝原市か、はたまたどこかの都心のビル屋上―

 ビル風に美しく長く黒髪をたなびかせ、300年近く経っても劣化することの無い赤いリボンが印象的な少女がいた。
「最近のアレ、は何が目的なのか一応聞いて、あなたは答えてくれるのかしら?」
 彼女は紫色の結晶を中心に、その周りに黒い四角の結晶を幾つか置いて何やら作業しながら、近くでその作業が終わるのを待っているQBに尋ねた。
「君なら言わなくても分かるんじゃないのかい?」
 首を傾げてQBが答えた。
「……負の感情を全世界で喚起させ、その矛先をCBという一点に向ける。強力な魔獣の発生を促すのが目的、かしら」
 一つの黒い結晶を摘み放り投げる。
「そうだよ。分かってるじゃないか」
 上手にそれを背中にキャッチしながら、説明の手間が省けた、とQBは言った。
「いつまでも……あなたたちはそういう奴らだものね」
 飄々と少女は虚空に向けて言葉を紡いだ。
 彼女が魔法少女の数が足りなくなる、自身の負担が増える、という事を気にする事はなかった。
 なぜなら、いつまでもこの世は救いようの世界だが、それでも彼女は戦い続けるだけなのだから。
 例えQBが何かを企もうとも、自身の行うべき事は変わらない。


仕組まれた戦場だとしても、CBに沈黙は許されないのか。
新装備を携えたガンダムが、その存在を世界に明示するのか。
もう、戻れないのか。



[27528] 管制官「こんなの絶対おかしいよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/05 18:25
―月・裏面極秘施設―

 人工生命体イノベイド、リボンズ・アルマークは最初に造られた一人。
 塩基配列パターンは0026。
 QBの頼みによって同じ塩基配列パターンのイノベイドが急造され、生体ポッドから誕生した。
 それに伴い、リボンズはこの月の裏面極秘施設に再び来る時に備え、適切に情報改竄を行い、後をそのイノベイドに任せて去った。
 無性であるマイスタータイプではない為、性別は女性、生体年齢は別に魔法少女にも合わせる事も無く、成人。
 ライトグリーンの髪色が特徴的な女性。
 ヴェーダにもイノベイドを製造する事からその情報は登録され、名前はマリア・マギカ。
 言わば魔法少女の母とでも意識するようなネーミングであった。
 マリアとリボンズの別れ際の会話は、非常に事務的。
 マリアという名前の割には、彼女の母性と呼べる感情は極限まで希薄化されていた。
 これから彼女が製造を行う量産少女型イノベイドは、須らく魔法少女となり、いずれ死体も残さず消滅する運命にある。
 ある程度の感情は必要だが、製造するイノベイドに対して情を抱く必要性は皆無。
 それ故の、該当感情の希薄化。
「マリア、イノベイドの製造と調整、頼むね」
 QBが既に端末に向かって作業を開始しているマリアの肩に乗って言った。
「了解。塩基配列パターン8686のイノベイドの製造作業を続行します」
 遺伝情報基は、純粋な日本人である、そして歴代最強にして、現在最長齢でもある魔法少女。
 元々彼女の遺伝情報には心臓や目に疾患があったが、その点については調整が施され、塩基配列パターン8686として製造される事になった。
 この量産型イノベイド製造計画はヴェーダのレベル7の情報の中でも極秘事項として扱われ、アクセスできるイノベイドはリボンズ・アルマークと、例外的にマリア・マギカのみ。
 レベル7にアクセスできるティエリア・アーデにも、この情報を見つける事はできない。
 ともあれ、ティエリアはそれどころではないが。
 ヴェーダ自体の判断は既にQBにハッキングされてしまったからのか、はたまた、元々イオリアの計画の中に異星生命体との来るべき対話が含まれていた事からスムーズに受け入れられたのか……真相はどちらにせよ、この計画は推奨された。
 実際、異星生命体QBが必要とする魔法少女、そしてその狩るべき対象の魔獣について、イノベイド魔法少女を端末として情報を集める事ができ、確かに対話への足掛かりとなるのは紛れもない事実。
 かくして、ティエリアが勝手に独房に引きこもってしまった一週間以上の間に、塩基配列パターン8686の容姿端麗な美しい黒髪の少女がまず初めに七人、そしてそれ以後同様に……と誕生しだした。
 そして量産型魔法少女部隊となる記念すべき初の七人が誕生した時。
 オリジナルの少女とは異なり、機動性を重視し全員黒髪ショートヘアーの少女七人がQBの前に整列する。
「さあ、教えてごらん。ホムラ001から007。君たちはどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?」
 QBは怪しげなその紅い双眸で、少女達を見つめ、問いかけた。
『円環の理に導かれるその時まで、私は戦い続けたい!』
 少女たちは迷うこと無く、願いとも呼べないような願いを口を揃えて言った。
 誕生する前からの調整によって、QBにとって都合の良い願いを彼女達が口にする事は、幸か不幸かなど関係なく、決まっていたのだ。
 この願いの強さが、オリジナルの少女の想いに比べれば、絶対的に弱いものだとしても。
 瞬間、彼女たちは皆揃って苦悶の声を上げ始め、胸の辺りから紫色の輝く結晶が出現する。
「契約は成立だ。君たちの祈りは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!」
 QBが高らかに宣言して、少女たちは目の前に出現した結晶を両手で掴んで、その新たな力を手にした。
 ……余りにも労力のかからない魔法少女たちの誕生。
 彼女たちが人間の魔法少女と決定的に異なるのは脳量子波の操作が可能である事、そして初めから備わった卓越した戦闘技術。
 故に、連携して魔獣を倒すことが、人間の魔法少女で組まれたチームよりも最初から、遥かに上手い。
 QBは当然だよね、と彼女たちをマリアに輸送機を手配させ、地上へと送り出すのだった。
 その活動が表に現れる事は、無い。


―南アフリカ地域・鉱物資源採掘現場―

 夜、三日月が夜空に浮かぶ中、ロックオン・ストラトスが先日介入した現場を見まわる人物がいた。
 辺りにはロックオンが破壊したワークローダーが放棄した機関砲や、ワークローダー本体が散乱。
「ったぁく、酷ぇもんだなぁ……C何たらってのはよ。ここにある石っころが採れなきゃー、この国の経済は破綻。その影響を受ける国や企業がどんだけあるか……。戦争を止められりゃぁ、下々の者がどうなっても良いらしいやぁ……」
 赤味がかった髪と、同じく赤味がかった長く伸びた顎髭が特徴的、野蛮な印象のあるアリー・アル・サーシェスはそう文句を垂れながら、部下を後ろに引き連れながら言った。
 そこへ、ダミ声でもう一人部下が携帯を持って現れる。
「隊長ぉ、PMCトラストから入電ッス」
 サーシェスはそれを右手に受け取り、耳にあてて、重苦しく口を開く。
「アリー・アル・サーシェスだ。……ぉい、現地まで派遣しておいてキャンセルってのはどういうこった! 戦争屋は戦ってなんぼなんだよぉ! このままじゃモラリアは崩壊すっぞ!」
 電話先の相手に怒鳴り、サーシェスは返答を待つ。
「……わかった。本部に戻る」
 諦めたように息を吐いて携帯を下ろした。
「何か?」
 後ろに控えていた、副官が尋ねた。
 サーシェスは意味深に笑い、顔だけ向けて答える。
「ん、フフ。ようやく重い腰を上げやがったぁ。AEUのお偉いさん方がな……」


AEU中央議会では首脳達の間でモラリアへの軍隊派遣についての議論が交わされていた。
AEUはアフリカの軌道エレベーターによる電力送信は始まっているものの、軌道エレベーターそのものの各種施設は未だ完成しておらず、人革連とUNIONに比べ、宇宙開発計画が明らかに遅れている。
AEUがその宇宙開発計画を推進する為にはモラリア共和国のPMCという、傭兵の派遣、兵士の育成、兵器輸送および兵器開発、軍隊維持、それらをビジネスで請け負う民間軍事会社が必要不可欠と考えられていた。
ヨーロッパ南部に位置する小国、モラリア共和国は人口自体は18万と少ないが、300万を超える外国人労働者が国内に在住。
約四千社ある民間企業の二割がPMCによって占められている程PMCは重要な存在。
明らかに紛争を幇助する企業であるが、これまで未だにCBの攻撃対象にならなかったのはヴェーダの判断による所が大きい。
CBの活動により世界の戦争が縮小していけばビジネスは成り立たなくなり、そしていずれ自滅して消滅する可能性も鑑みて、これまで介入は行われ無かった。
実際、既にモラリアの経済は縮小しつつあり、モラリアとしては最悪国家そのものが崩壊しないように、どうにかして経済を立て直す必要がある。
一方、AEUは一刻も早く太陽光発電システムを完全に完成させて、コロニー開発に乗り出したいが、その為には、民間軍事会社の人材と技術が不可欠。
結果両者の利害の一致もあり、例えCBと事を構えてでも、行動を起こす必要がある。
モラリアは例え自国が戦場になったとしても、AEUの援助が必要であり、AEUは軍隊をモラリアに派遣し合同軍事演習という形で距離を近づけたい。
予想通り、CBが武力介入に現れて、戦闘になったとして、もしガンダムを鹵獲できれば僥倖、完全に完敗したとしてもメリットがある。
ただ合同軍事演習を催しただけにも関わらず、ガンダムによる武力介入を受けたAEUは、国民感情に後押しされて、軍備増強路線を邁進する事が可能になるという、メリットが。
加えて、派遣そのもので、モラリアに貸しを作る事で、PMCとの連携を密接にすることができる。
以上が、筋書き。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 フェルト・グレイスが淡々と報告をする。
「GNドライブ、接続良好。GN粒子のチャージ状況、現在75%。散布状況、40%に固定。有視界領域にアンノウン無し」
 同じくオペレート席に座るクリスティナ・シエラがそこで、ラッセ・アイオンとリヒテンダール・ツエーリの方を向いて言う。
「ねえ……もう一週間以上経っちゃってるんだけど」
「何がだ?」
 ラッセがクリスティナを見ることなく、特に何も考えず聞き返した。
「ティエリアの事。ずっと引きこもったままじゃない。放っておいていいの?」
 溜息をついてクリスティナが言った。
「放っとけ放っとけ。スメラギ・李・ノリエガも言ってたが、どっちにしたってティエリアがヴァーチェを降りる事は無理なんだからよ」
 なるようになるさ、とラッセは軽く答えた。
 ヴァーチェに隠されるナドレの存在はスメラギとイアン・ヴァスティ、そしてティエリア・アーデ本人など、CBメンバーでも一部の者しか知らない。
 ナドレのトライアルシステムを起動できるのは脳量子波を操る事ができるティエリアだけ。
 事情を知らないものの、そういう事じゃないのよ、とクリスティナは言う。
「それが機密事項だからなのは分かるけど、食事を運ぶ私の身にもなってよ」
 刺激しないようにするのが気まずくて面倒だ、とクリスティナの悩みの種になっていた。
 CBメンバーに無駄な心労が波及していく。
「なら、俺が代わりに運びましょうか?」
 そこへリヒティが振り返り、気さくに提案した。
「えっ、本当? 優しい!」
 ややわざとらしく、クリスティナは両手を合わせて感謝した。
「それほどでも……」
 リヒティは頭を掻いて照れた。
 そのやり取りに、ラッセはやれやれ……と、フェルトは完全無視で指を動かし続けるのだった。
 軽く子守が必要になってきているティエリアは、ガンダムマイスターではなく、ここ最近最早荷物と化していた。
 当の本人は独房で真っ白に燃え尽きたような様子で、ひたすらうなだれていた。
 僕はガンダムマイスター失格だっ……。
 頭の中を後悔がぐるぐると回り続け、ティエリアは出口に到達できなかった。
 しかし、そこへ、いつまでもそうしていられると困ると独房の扉を開いたのはスメラギ。
「スメラギ・李・ノリエガ……」
 一瞬だけ視線を向けたティエリアに、スメラギは溜息をついて言う。
「もう反省は充分でしょ。あなたの力が必要なの、ティエリア」
「ミッション……ですか」
「モラリア共和国大統領が、AEU主要三ヶ国の外相と極秘裏に会談を行っているって情報が入ったわ」
 そのスメラギの言葉にティエリアが僅かに反応する。
「モラリア……。PMC」
 スメラギが頷く。
「そうよ」
「……我々に対する挑戦、ですか」
 次第にティエリアに色が復活していくよう。
「ハードなミッションになるわ。私達も地上に降りて、バックアップに回ります」
 スメラギは腕を組んで、ティエリアを見下ろす形で言ったが、まだ反応が薄い。
 時間も余り無いのでついに我慢の限界に達したスメラギはキレた。
「……ティーエーリーアッ! さっさとここから出なさいッ!! 直ちに出撃準備に取り掛かって! あなたヴァーチェのガンダムマイスターなのよ!」
 ブリッジのメンバーにも聞こえるような大声でスメラギは怒鳴り、ティエリアの両肩をガクガクと揺すり命令した。
「りょ……了解」
 揺すられた事で眼鏡がズレたティエリアはスメラギの様子に呆気に取られながらも、なんとか答えた。
「だらしがない。シャキッとしてもう一回!」
 スメラギの怒りは収まらない。
「りょ、了解!」
 気圧されたティエリアは、目を見開き、改めて了解を口に出して勢い良く立ち上がり、いそいそと出撃準備に入るべく独房から出て行った。
 対して、怒鳴り散らしたスメラギは、子供じゃないんだから全く……それに若さが減るじゃない……と嘆きの想いを心に秘めながらも、ブリッジに向かい残りのクルーにミッション開始を伝えた。
 クリスティナ達はスメラギが入って来た瞬間、ギョッとした。
 怒らせると怖い、と。


人革連ではソーマ・ピーリスのティエレンタオツーでの性能実験が上手く行き、問題無く日々過ぎる一方で、マリナ・イスマイールはフランスの外務省を訪れて太陽光発電の技術支援を求めたが、得られたのは食糧支援の続行のみ、と慣れない外交に苦慮していた。
そんな中、モラリアで行われる合同軍事演習について、それを注視する者達は動向を眺めていた。


―モラリア空軍基地―

 基地に向けて、AEUのイナクトが三機飛翔していく。
「ヒィー! ヤッホォォォー!!」
 雄叫びを上げて先頭を進むのはパトリック・コーラサワー。
[こちらモラリア空軍基地。着陸を許可します。七番滑走路を使用してください]
 それに対して、管制官が通信を入れる。
 パトリックの乗るイナクトは自己主張をするかのごとく、管制塔ギリギリをわざと飛ぶ。
 職員達は何事かと騒ぐのも知らず、イナクトはそのまま滑走路に着陸してコクピットを開けた。
 中から颯爽と出たパトリックはスチャッと左腕をほぼ直角に曲げて上げ、登場の挨拶をする。
「よぉ! AEUのエース、パトリック・コーラサワーだぁ」
 自信満々に言い、続けて左人差し指をモラリア軍兵士達に向ける。
「助太刀するぜ! モラリア空軍の諸君?」
 その態度に、モラリア軍兵士達は唖然とする。
 しかしそれも無視して、パトリックは空を見上げて言う。
「早く来いよガンダムぅ! ギッタギッタにしてやっからよぉ!」


一方CBのメンバー達も動き出し、邸宅にて紅龍が王留美モラリアの情報を伝え、王留美はモビルスーツの総数130機という言葉に最大規模のミッションである事を感じ取り「世界はCBを注視せざるを得なくなる……」と呟いた。
UNIONの軌道エレベーターで地上に下りていたスメラギ、クリスティナ、フェルトの三人はホテルに部屋を取っていたが、モラリアへの直行便が翌日である事から、それぞれ街に出かけて行った。
フェルトはクリスティナに無理矢理連れられて買い物に、スメラギはビリー・カタギリを誘い、酒を飲みに……と。


―CB所有・南国島―

 アレルヤ・ハプティズムとロックオン・ストラトス、それに加え、CBの総合整備士であるイアンがエクシアの到着を出迎えた。
 コクピットから刹那・F・セイエイが現れ降りて来る。
「おお! 久しぶりだな、刹那」
 軽くイアンが声を掛けた。
「イアン・ヴァスティ」
 刹那がイアンを見て言った。
 イアンは腕を組んで言う。
「一刻も早く、お前に届けたい物があってなぁ」
 ロックオンが手を上げて喜ばせるように言う。
「見てのお楽しみって奴」
「プレゼント! プレゼント!」
 HAROが音声を出す。
 イアンが後ろを示して言う。
「デュナメスの追加武装は、一足先に実装させて貰った」
 そこに見えるのは、既に取り付けられているデュナメスのシールド。
 続けてイアンが水色のコンテナをタイミング良く開けながら言う。
「で、お前さんのはこいつだ。……エクシア専用、GNブレイド。GNソードと同じ高圧縮した粒子を放出、厚さ3mのEカーボンを難なく切断、できる。どぉだ、感動したか?」
 どうだ壮観だろ、とエクシアの新たな実体剣の解説がなされた。
「GNブレイド……」
 刹那はそれを見上げ呟いた。
「ガンダムセブンソード。ようやくエクシアの開発コードらしくなったんじゃないか?」
 ロックオンが言うと、何も言わずに刹那はエクシアへ踵を返した。
 その様子にイアンはその態度は何だと唸って言う。
「何だあいつは? 大急ぎでこんな島くんだりまで運んで来たんだぞ? 少しは感謝ってもんをだなぁ」
 最近の若いもんは、とイアンは文句を言った。
 アレルヤが苦笑して言う。
「十分感謝していますよ、刹那は」
「えぇ?」
 何が、とイアンはアレルヤを見る。
「ああ、刹那は、エクシアにどっぷりだかんなぁ」
 ロックオンが引き継ぐように刹那の様子を見ながら言った。
「エクシア……俺のガンダム」
 刹那はエクシアを見上げて呟いた。
 そういう事か、と刹那様子を眺めながら、イアンはアレルヤとロックオンに尋ねる。
「で、あのQBってのは何なんだ。映像を見た時は腰が抜けるかと思ったぞ」
 地上にいたイアンはQBがガンダムマイスター達に接触していたのを知らなかった。
 CBのエージェント達はQBのビデオメッセージに何事かと皆一律驚愕していた。
「あの映像の通り、異星生命体だとよ。あのQBが勝手してくれるお陰で、死者が殆ど出てないのだけは評価できるさ。次のミッションでも現れるかどうか、もし出たら取っ捕まえてやる」
 ロックオンが説明した。
「味方なのか? というより、見たのか?」
 あの生物、本当にいるのか、とイアンは驚いた。
 アレルヤが言う。
「ええ、現れましたよ。僕達ガンダムマイスターの前にだけですが」
「殆ど会話にならない訳がわからない奴だ」
 困ったもんだとアレルヤとロックオンは口々に言った。
「はぁ、何だかよう分からんが、活動そのものに支障が出てないのは幸いか。確かに死者が出とらんのは良い事だろうな。……だが、異星生命体だというのが本当なら、世紀の大発見じゃないか」
 イアンは結局要領を得ないと感想を漏らしながらも、異星体がいたら凄い事だろ、と言った。
「その筈なんですがね……どうにも」
「ああ、全然嬉しくないんだよな」
 ガンダムマイスターの正直な感想はこうであった。
 そこへ、音を立ててヴァーチェが丁度降下してくるのが見える。
「ティエリアも来たか」
 気がついたイアンが待ちかねたように言った。
「やれやれ……」
「やれやれ……ですね」
 ティエリア事件を知っている二人は会って何と声をかけたら良いものかと、気が重かった。


―PMC・武器格納庫―

 サーシェスとPMCの職員が会話をしていた。
「合同演習ねぇ。まさかAEUが参加するとは思わなかったぜ」
「外交努力の賜物だ。我々ばかりがハズレを引く訳にはいかんよ。AEUにも骨を折って貰わなければな」
「ん、ッフフ。違いねぇ」
 サーシェスがそう笑うと格納庫の明かりが点灯される。
 そこに見えたのは青色のカラーリングが施されたイナクト、にチューンを施されたもの。
「この機体をお前に預けたい」
「AEUの新型かぁ」
「開発実験用の機体だが、わが社の技術部門でチューンを施した」
 クスリと笑い、サーシェスが尋ねる。
「こいつでガンダムを倒せ、と?」
「鹵獲しろ」
「ッフ。……言うに事欠いてぇ」
 言うもんだ、とサーシェスが呟いた。
「一生遊んで暮らせる額を用意してある」
 その職員の言葉に口笛を吹いて言う。
「そいつぁ、大いに魅力的だな。……だが、例のQなんたらとかいうのが出たらどうすんだ?」
「冗談を言うな。あのようなもの、腰抜けの兵士共の迷言にすぎん」
「こりゃ失礼」
 人革連とタリビアの一件のQBについての情報をまともに信じていない会話であった。
 しかし、サーシェスはタリビア兵の敵前逃亡をある点で評価してはいた。
 命あっての物種、と。


―モラリア・王留美の手配した屋敷―

 スメラギ達が車で到着し、王留美に案内されて準備に入った。
 用意されている機材にヴェーダとのアクセスを行うためのクリスタルキーを穴に挿し込み、モニターを起動させる。
 そこに映し出されたのはモラリア、AEU軍、PMCトラストのリアルタイムの配備状況。
 スメラギが腕を組んで言う。
「予定通り、00時をもってミッションを開始。目標は私達に敵対するもの全てよ」
「了解」「了解」
 クリスティナとフェルトが返答する。
「QB……という例の生物が現れた場合は想定しているのですか?」
 王留美が気に掛かる事を尋ねた。
「想定は敢えて、しないわ。今回も皮肉なことに、出現してくれた方が良いと言えば良いけれど、私達はQBに頼らなくても本来やっていけるのだから。もし現れた場合は臨機応変に想定してある変更プランを随時マイスター達に指示する予定です」
 スメラギはもう出るなら出てみろ、出たら出たで利用させてもらうと、開き直って対応する決心をしていた。
 スメラギは実のところ、QBの行動可能性も考慮して考えなければならない為、無駄に仕事が増えていた。
 昨日ビリー・カタギリとQBという異星生命体について人革連とタリビアの一件をベースに色々話す事ができたりもしていたが、それとこれとはミッションに何の関係も無い。


かくして、再びCBのミッションが始まる。


―モラリア圏内直前―

 キュリオスとエクシアが先頭、デュナメス、そしてヴァーチェが一番後ろを、ガンダム四機が初の一斉同地点出撃を行って飛翔していた。
 山岳地帯を越え、モラリア領内に入った途端、斥候に飛んでいたモラリアのヘリオンがガンダムを視認し、それを報告した。
[敵さんが気づいたみたいだ。各機、ミッションプランに従って行動しろ。暗号回線は常時開けておけよ。ミス・スメラギからの変更プランが来る。それにまたQBが出るかもしれないからな]
 ロックオンが三人に指示する。
[了解][了解][了解]
 そのままガンダム各機は散開し、それぞれのポイントに向かう。
 応戦にとモラリアの地上から対空砲が発射され、その映像が全世界で中継される。
 QBは今回出ないのかという時、やはり絶妙のタイミングで出ていた。
 それが最初に分かったのは……アレルヤが指定ポイントに到着した時。
[E332に敵飛行部隊……無し……]
 当初の戦術であれば、AEUのヘリオン飛行部隊がキュリオスの前方上空に現れる筈であった。
 しかし、そこに見えるのは綺麗な青空のみ。
「全く、スメラギさんの予測は外れるな……」
 分かっていながらも、アレルヤはげんなりした目をして、皮肉を吐いた。
[アレルヤ、プランQ2に変更よ……ポイントE301]
 スメラギから直接即座に対QB用プラン……飛行部隊の癖に離陸すらしていないAEUのヘリオン部隊の単純破壊が指示される。
 無論、滑走路からはパイロット達が退避し始め、それに対してQBという単語が飛び交う管制室では指揮官達は叫び声を上げていた。
[了解……]
 息を吐いて了承し、キュリオスは一気に高度を落とし、滑走路に鎮座する緑色のヘリオン群をコンテナに搭載してきていたGNミサイルで、周囲に人がいないのを確認して一掃した。
[敵機編隊を撃破。キュリオス、ミッションプランをQ2で維持]
 フェルトからの指示が入った。
[了解。介入行動を続ける]
 その後も、航空戦力を基本的に相手にする予定だったキュリオスは離陸できない敵機編隊、それも主にAEU軍部隊が鎮座する滑走路を巡り、次々に金属の塊を撃滅していった。
 AEUのエース、パトリック・コーラサワー、ガンダムと戦闘を開始する前からQBに敗北。
 ……一方クリスティナが管制していた二機は、
[デュナメス、ヴァーチェ、D883にて武力介入に移行]
 モラリア軍基地地上に直接降下したロックオンは普通に戦闘を開始する事になった。
 その場には濃紺色のカラーリング、PMCヘリオン陸戦型モビルスーツ部隊がいた。
「おいおい、アレルヤだけ優遇かよQB。ハロ、シールド制御頼むぜ」
 不公平だろ、とロックオンは悪態をつきながらも、行動を開始する。
「マカサレテ! マカサレテ!」
 HAROが音声を出し、PMCの傭兵部隊の砲撃をシールドで防ぐ。
 その隙に、悠々とロックオンはライフルを構え、次々に戦闘不能にしていった。
「狙い撃つまでもねぇ!」
 一方、そのすぐ別のモラリアのヘリオン部隊がいる基地の地上降下したヴァーチェもデュナメスと同様に戦闘を開始した。
[ヴァーチェ、ヘリオン部隊を一掃する]
 両腕に構えたGNバズーカをキィィンという音と共に発射し、基地の端から端まで、斜線上のヘリオン陸戦型を跡形もなく消滅させた。
「勿体無いけど、君のガンダムでは仕方が無いね」
 一瞬だけ、QBが現れ、そう言って消えた。
「な。……鬱陶しい。だが、同じ轍は踏まないっ……」
 ティエリアは目を吊り上げて、二度とコクピット内で銃は撃たないと改めて決意した。
[ミッション、続行する]
 CBの司令室では引き続きクリスティナとフェルトのオペレートが続けられる。
「ヴァーチェ、フェイズ1クリア。フェイズ2に入りました」
 クリスティナがそう報告し、
「キュリオス、敵航空……勢力を制圧、フェイズ2に突入」
 フェルトが航空というには語弊があると感じたのか、一瞬詰まって報告した。
「気にしないで良いのよ、フェルト。デュナメスのミッションプランをC5に変更して」
 気持ちは分かるわ、とスメラギが更に指示する。
「了解」
 その様子を見ている王留美が唖然として言う。
「これがガンダムマイスターの力……とQBの力……なんて凄いの」
 正直信じられない、という顔。
 凄いのはQB。
「うぅん……でも、まだまだ始まったばかりよ」
 スメラギはこめかみを押さえ、頭を振って言い、クリスティナに尋ねる。
「エクシアの状況は?」
「予定通り、T554で敵部隊と交戦中です」
 クリスティナが答えた。
 エクシアが戦闘を行っていたのは山岳地帯。
 敵勢力はPMCの陸上モビルスーツ部隊。
 エクシアのコクピットにはQBがいた。
「勿体無いからできるだけコクピットは切らないで貰えると助かるよ」
「了解」
 刹那は簡潔に了承し、GNソードで次々とPMCのヘリオン陸戦型を駆逐していく。
 だが了解する相手はそれでいいのか。
[エクシア、フェイズ1終了。フェイズ2へ]
 そう言うと同時に、リニアガンが上空からエクシアに向けて発射され、センサー音が鳴り響く。
 即座にエクシアは回避運動を取り、弾丸を避ける。
「新型かっ」
 その機影を見て、刹那が言った。
「AEUイナクトをPMCが独自改装したものだね」
 旋回したPMCイナクトが次々とリニアガンを撃ち、エクシアがそれを回避する中、QBが解説をした。
 しかし、回避に合わせてリニアがエクシアを捉え被弾し始める。
「何!?」
 刹那が驚いた。
 動きが、読まれている……?
 PMCイナクトがエクシアに体当たりをかまし、再び旋回しながら、パイロットが音声を出す。
『っははははは! 機体は良くてもパイロットはイマイチのようだなぁ! えぇ? ガンダムさんよぉ!』
 サーシェスである。
「あの声……?」
 刹那には心当たりがあるような気がする。
『商売の邪魔ばっかしやがってぇ!』
 自分勝手なサーシェスの発言を聞き、刹那は昔、知った事のある人物を思い浮かべ息を飲む。 
「ま、まさか」
 刹那が動揺している所に、PMCイナクトが上空からエクシアに蹴りを入れる。
『こちとらボーナスがかかってんだ!』
 PMCイナクトは地上に降り立つ。
「そんなっ……」
 刹那が声を出した。
「いただくぜぇ……ガンダム!」
 サーシェスは獰猛な笑いを浮かべた。


義によって動くのが人間であるなら、利によって動くのも、また人間である。
だが、常に利によってしか動かないのがQBである。
束の間の勝利、その果てに絶望があるのか。
ガンダムの真価が問われるのか。



[27528] QBキャンセル
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/06 17:49
モラリア共和国への武力介入を行った四機のガンダムとQB。
その戦場で、刹那・F・セイエイはもしかしたら運命かもしれない男と対峙する。
男の名はサーシェス。
アリー・アル・サーシェス。


―モラリア・山岳地帯―

 エクシアは二本のGNビームサーベルを下段に構え、PMCイナクトはリニアライフルの銃身をスライドさせ大型カーボンブレイドに換装したソレを右腕に中段に構え、対峙する。
『ッヘヘ。別に無傷で手に入れようだなんて思っちゃいねぇ! リニアが効かなねぇなら、切り刻むまでよ!』
 不敵に笑ってサーシェスはエクシアに突撃する。
「くっ!」
 刹那は幼い日のビジョンを脳裏に見ながら寸前でその突撃をエクシアの機体を半身ズラして回避。
 PMCイナクトは即座に反転し、
「ちょりサーッ!」
 機体を捻りながら、エクシアの右手のGNビームサーベルを鮮やかに蹴り飛ばす。
 刹那は目を細める。
 この動き!
 幼い日、ナイフでサーシェスに手ほどきを受けた時の事が被る。
「っくう」
 刹那が焦りの声を漏らし、エクシアは左手のビームサーベルを大きく振りかぶる。
 しかし、予期していたかの如くPMCイナクトはそのサーベルを地に叩き落とす。
「ッはァ」
 再びビジョンが想起され、刹那は息を飲む。
 そして次にエクシアはGNソードを構え、高速振動をさせる。
 サーシェスがその様子に言う。
「何本持ってやがんだ? けどなぁッ!」
 瞬間、エクシアに飛びかかりる。
 エクシアはGNソードを縦に一閃するが、ギリギリで見切りスラスターを僅かに一瞬噴かせ右側に回避。
『にゅぅぅぅっ!!』
 エクシアは更に横に一閃し、それを更に僅かに後退してPMCイナクトは避ける。
 更に刹那はもう一度横に一閃して刃を返すが、PMCイナクトは機体を持ち上げ、ソレを回避。
 エクシアのやや上方に体勢を構え、
『動きが! 見えんだよぉッ!』
 高さも利用してカーボンブレードを一気に振りかぶり、エクシアに肉薄。
 剣を交える。
「っくぅ!」
 刹那が苦々しい表情をする。
 そして、幼い日、父を殺し、母にまでも銃口を向け、引き金を引いて殺した瞬間を思い出す。
「っあア」
 刹那は息を飲み、怒りに目を鋭くさせ、
「えぇッ! うぅぁぁアァぁアァー!!」
 叫び声を上げて、GNソードの出力を急上昇、
「何!?」
 交えていたカーボンブレイドの先端部を切り落とした。
 サーシェスはその性能に驚愕しながらそのまま切られないよう大きく後退して距離を取った。
「何て切れ味だぁ。これがガンダムの性能って訳、か」
 エクシアは出力を平常に戻し構えを解く。
「刹那、どうして武装を解くんだい?」
 QBが問いかけるが、刹那はコンソールを操作し、光通信を行う。
「奴の正体を確かめる」
「ふうん」
 対して、その光通信を受けたサーシェスは。
「ん。 光通信? コクピットから出てこいだと? 気でも狂ってんのか」
 馬鹿にするように吐き捨てた。
 刹那はコクピットハッチを開けるスイッチを迷わず押して、確かに開く。
「訳がわからないよ、刹那」
 しかし、QBが瞬間的に再びハッチを閉めるスイッチを押し、開きかかって刹那の姿が見えかける前にエクシアのコクピットをすぐにまた閉めた。
「邪魔をするな、QB」
 刹那がQBがスイッチにポジションを構えて開けない事に憤る。
「ぁん? 正気かよ? ホントに出て……来ねえじゃねぇかよぉ!! 糞がッ!!」
 と、そのコクピットが一瞬開いて期待したが、直ぐに閉まる様子を見てサーシェスは怒鳴った。
 一方、憤った刹那にはQBがすぐに返答していた。
「刹那、あのPMCイナクトのパイロットの名前はアリー・アル・サーシェスだよ。顔はこれだ」
 双眸を輝かせ、QBは刹那にサーシェスの顔を見せた。
「なぁ!?」
 一瞬で誰か分かった刹那は驚愕に息を飲んだ。
 その挙動を管制していたクリスティナ・シエラは同様に声を上げていた。
「エクシアがコクピットを開きかけてすぐ閉じました!」
「は?」
 スメラギ・李・ノリエガは意味が分からなかった。
 その現場ではサーシェスが激昂して、一般機用の予備ブレイドを構え再びエクシアに襲いかかった。
 大音量でサーシェスは叫ぶ。
『ぁあ!? てめぇふざけてんのかッ! 戦場を何だと思ってやがる! 糞みてぇな冗談なんぞいらねんだよ!』
「くぅッ!」
 その卓越した操縦技術に刹那は押される。
 相手がアリー・アル・サーシェスだと分かった事で動揺もしていた為、徐々に後退していく。
 再びやや距離が空き、PMCイナクトがエクシアに飛びかかろうとした時、桃色のビームの牽制射撃がその接近を阻んだ。
 C5のプラン通りの地域に移動する為、近くに来ていたデュナメスの射撃。
「デュナメスかっ!」
 押され気味であった所、救われる形になる刹那。
「狙い撃つぜ!」
 言って、ロックオンは精密射撃モードでPMCイナクトにビームを放つ。
 しかし、サーシェスは通常の兵士ではありえないような機体操作で、避けてのける。
「なぁっ!? 避けやがった!」
 ロックオンが驚愕した。
『おぃおぃ! 二対一ってか! そんな性能しといて宝の持ち腐れだなぁ、ガンダムさんよぉッ!!』
 サーシェスが挑発するような発言を大音量でかけながら飛行体勢に入るが、ロックオンは再び射撃をする。
『ちょりサァッ!』
 更に、サーシェスは機体を瞬間的にズラし、避けた。
「俺が外したぁ!? 何だこのパイロット!?」
 信じられない、と目を見開いてロックオンが驚く。
 そこまでで、どちらにしてもこれでは鹵獲は無理だと判断したサーシェスはその場から撤退することにし、デュナメスの砲撃を更に二度も華麗に機体を操作して避け、崖下に隠れ、飛行モードに変形してその場から去っていった。
「何だ、ありゃ……」
 四度も避けられた事にロックオンは驚愕した。
[刹那、ロックオン、ミッション続行よ。刹那、後でさっきの説明聞かせてもらうわ]
 そこへ、スメラギが通信を入れた。
[了解][……了解]
 返答して、二機は再びミッションを続行する。
 航空仕様の部隊は軒並みガンダムではなくQBに壊滅させられ、キュリオスに次々と止めを刺されていた。
 残る、陸戦型モビルスーツがいる基地ではヴァーチェが今度こそ近頃の鬱憤を晴らす、とばかりに、指定されたプラン通り降下してはGNバズーカで撃滅して行った。
 完全に想定以上の速度でミッションが進行していき、フェイズ3、フェイズ4、フェイズ5と楽々移行していった……。
 モラリア軍司令部の管制塔では続々と各オペレーターからの報告が入る。
「第3から第6航空隊、恐らくQBにより行動不能! 通信途絶えました!」
「燃料基地、応答無し!」
「PMC第32、33、36輸送隊、応答無し! 通信網が妨害、兵士達の挙動が狂い、全く状況が把握できません!」
 帽子を被ったモラリア軍司令官が副官に尋ねる。
「モビルスーツ部隊の損害は?」
「甚大です。……報告されているだけも、航空部隊はそもそも離陸前にほぼ壊滅、AEUの飛行部隊すらも尽く離陸前にほぼ壊滅、撃墜という状況すら起き無かった模様です。陸戦部隊もほぼ同様。最低でも半数以上のモビルスーツが大破させられたと見られます」
 報告する副官も現実として受け入れられない様子ながらも、淡々と言った。
「どういう……事だ……」
 司令は思わずよろけて倒れかけた。
 そこへ、士官が慌てて駆けつけ、直接報告をする。
「司令! PMCトラスト側が撤退の意向を伝えてきていますが」
「馬鹿な。どこに逃げ場があるというのだ……」
 司令が絶望に声を絞り出して言った。


―UNION・対ガンダム調査隊(仮)基地―

 対ガンダム調査隊(仮)のメンバーが戦況をモニターで見る。
「まさか、これほどとはねぇ」
 完全に呆れるようにビリー・カタギリが言った。
「圧倒的だな、ガンダム」
 両腕を組んでグラハム・エーカーが言った。
「圧倒的なのはQBとやらもだろうね。どんな魔法を使ってるか知らないけど、何しろ航空部隊が飛べていない」
 実に興味深いが気味が悪いと、ビリーが更に言った。
「飛べない航空部隊など航空部隊にあらず」
 グラハムはまだQBを見ていない為、信じることができずにいた。


―人革連・低軌道ステーション―

 グラハム達と同じように戦況をモニターで見ていたセルゲイ・スミルノフが言う。
「QBの仕業か。人革連だけに出た幻という訳では無かったという事か。……降伏しろ」


AEUのイギリス外務省官邸では大臣同士が会話をしていた。
プランの中でも最悪の結果になりそうという結論であったが、既に復興支援の為の動きは整い、資金援助の内諾も取り付ける事に成功との事。
AEUは筋書き通りモラリアを取り込む事ができる見込みが立った。
そして「せめて黙祷を捧げよう。我々の偉大な兵士達の為に」と、一人が言ったが、それはただの勘違いであった。
何しろ、AEUが派遣した航空部隊のパイロットは実際には一人も死亡していないのだから。
この時点ではまだ情報が伝わっていなかったのである。


PMC本部作戦会議室では、ガンダムの鹵獲が目的だった筈が、それどころか、完全に一方的にPMCの部隊が、主に殲滅王と化しているティエリアに潰されている事で甚大な被害を受けており、嘆きの声が響いた。
通信がGN粒子によってズタズタにされていた為繋がら無かったが、サーシェスが隊長を務める部隊は岩場で全機待機して、そもそも作戦に参加していなかった。
部下達にガンダムと渡り合ったことや、サーシェスの指示の妥当性を賞賛されたサーシェスは「命あっての物種ってな」と答えていた。
タリビア軍兵士とは違い、自発的敵前逃亡の一種のようなものであった。


―モラリア軍司令部・付近空域―

 向かうところ敵無しという状況の中、ガンダム四機は隠れる事もなく堂々と有視界で捕捉もできる空を飛んでいた。
[ガンダム全機、予定ポイントを通過しました]
[フェイズ6終了]
 クリスティナとフェルトがそれぞれ報告する。
「さあ! 片をつけるわよ! ラストフェイズ開始!」
 ここまでくると不謹慎ではあるが、何だか少し爽快さすら感じる、という様子でスメラギは軽く言った。
 モラリア軍司令部の目の前に悠々とガンダムが飛来する。
「ガンダム出現!」
「ポイント324、司令部の目の前です!」
 オペレーターが報告した。
「強行突破……だと……」
 司令官が落ち込んでいるのを他所に副官がやけになって指示する。
「モビルスーツ隊に応戦させろ!」
 直ちに、陸戦モビルスーツが格納庫から出撃し、ガンダムを、リニアガンで迎え撃ち始める。
[ヴァーチェ、目標を破砕する!]
 中空に止まったヴァーチェはGNキャノンとGNバズーカを同時に放ち、司令部基地内で建物は避けて、斜めに薙ぎ払う。
[デュナメス、目標を狙い撃つ!]
 ロックオンは慣れた様子で、コクピットを狙い撃たないように頭部、脚部、腕と次々宣言通り、狙い撃つ。
[キュリオス、介入行動に入る]
 飛行モードからモビルスーツ形態に変形し、GNビームサブマシンガンで上から連射、地上を走る陸戦ヘリオンの手足をそぎ落とす。
[エクシア、目標を駆逐する]
 いつの間にかコクピットからQBはいなくなっていたが、刹那は特に気にすることもなくGNロングブレイドとGNショートブレイドの二振りでバターのようにヘリオンを切り裂いていった。
 五分も経たず、モビルスーツ部隊は全機沈黙。
 目の前の光景に呆気に取られていた司令室であったが、首相からの連絡が入り、信号弾を上げて、無条件降伏した。
「ハロ、ミス・スメラギに報告! 敵部隊の白旗確認! ミッション終了!」
 それを見たロックオンがハロに言った。
「リョウカイ! リョウカイ!」
 ガンダム四機、それとQBの完全勝利であった。
「無条件降伏信号確認。ミッション終了。各自撤退開始」
 フェルトが報告した。
「は……」
 スメラギがホっと息をついた。
「お見事でした。スメラギ・李・ノリエガ」
 王留美が賞賛する。
「QB様様……だったけどね」
 スメラギは微妙な目をして言った。
 撃破数ではキュリオスが断トツで一位。
 殺害数ではヴァーチェが断トツで一位。
 本来はキュリオスが相手をする航空部隊により引き起こされる死亡者数が最も大きい筈が完全に異なっていた。
 モラリアという狭い国の中で、飛行するモビルスーツが砲撃を放ち、そして損傷を受けて操縦不可能になり墜落して、もしそれがそれぞれ、流れ弾として市街地、機体そのものが同様にと当たれば、二次災害が起こる筈だった。
 スメラギはQBが航空部隊の場所にしか出現しなかった理由はそれが原因だったのだと、ほぼ結論づけていた。
 もしQBがいなければ死者数は500人は下らない筈であったが、結果は主にヴァーチェと、敵側がガンダムに撃ったリニアガンが各基地に損傷を与えた事による数十程度、それも敵兵士のみに限定という結果だったのである。
「QBの介入を実際に目にして驚きでしたが、いずれにせよヴェーダの推測通りに計画が推移しているのは事実でしてよ」
 王留美が言った。
「その点については、私としては、その推測から外れたいんだけどね……」
 スメラギは表情に影を落として答えた。
 それに王留美が疑問の声を上げる。
「え、何故です?」
「撤収します。機材の処分をお願いね」
 スメラギはその疑問には答えずに言った。
「……かしこまりました」
 不思議そうに王留美が了承した。


モラリアの非常事態宣言からたったの四時間余りで無条件降伏に至った事に、各陣営、そしてJNNなどには震撼が走った。


―経済特区・東京・大学構内―

 日本での翌朝、JNNニュースが流れる。
 サジ・クロスロード、ルイス・ハレヴィはモニターの前に立ち止まって見る。
[まず最初は、昨日、モラリア共和国で起こったモラリア軍とAEUの合同軍事演習に対するCBによる武力介入についてのニュースです。非常事態宣言から無条件降伏までの時間は、僅か四時間余りでした。三時間後に行われたモラリア軍広報局の発表によると]
 アナウンサーが淡々と話し、サジとルイスの後ろを歩く学生達が、余りの戦闘終結の早さに驚いて去っていく。
[大破したモビルスーツは109機。現時点での戦死者は、兵士49名で、負傷者も数十名、行方不明者は……無し、との事です。また、現地にはQBが出たとの情報が入っています]
「サジ、戦争ってこんなに死ぬ人少なかったっけ?」
 何かおかしい、とルイスが尋ねた。
「う……うん……この前のタリビアとセイロン島もそうだったけど、それだけガンダムが圧倒的っていう事なのかな……」
 サジも良く分からない、という風に答えた。
「でも、それにしてはモビルスーツの大破数と戦死者数が全然合ってないじゃない」
「うん、全然合ってないね。CBができるだけ人が死なないように配慮してるって事なんじゃないかな」
 配慮しているのはQB。
「うーん、そうかもね。QBがまた出たっていうのも関係あるのかもしれないし。セイロン島にタリビア、これで三度目」
「戦闘の映像はJNNじゃ流れないから真相は分からないけどね」
 考え込むように二人は話していた。
[ただ今、現地入りした池田特派員と中継が繋がったようです。現場の状況を伝えてもらいましょう。池田さん、お願いします]
 映像がモラリアに中継され、池田特派員が映る。
[っあ、はい。池田です。私は今、モラリアの首都、リベールに来ています。見えるでしょうか? 今回の戦闘、市街地に一切被害は無い模様です。ここに来るまでにも確認しましたが、市街地は無傷であるのを確認しました]
 映像には確かに、何の損傷も無い、市街地の様子が流れる。
[市民の方にインタビューした所、航空部隊が飛行しているのを見なかった、というコメントを幾つも受けています。非常に不可解ですが、これがQBによるものなのかは分かりません]
 それに対し、JNNのアナウンサーが尋ねる。
[私設武装組織CBから犯行声明のようなものは出されていませんか?]
[えー、そのような情報は、私の所には入って来ていません]
 池田特派員が答えた。
[分かりました。引き続き情報が入り次第、詳細情報をお伝えします]
 まだ、介入が終わってから数時間であるにしても、ニュースで伝えられた情報が、間違っているのではないか、と思えるような内容であった。
 世界は死者数の少なさに驚きはしたものの、だからといってCBの行為を正当化することはできないという点では世界共通の認識。
 謎は深まるものの、着実にCBに対し世界の関心は集まり、排斥運動も起こり始める。
 その後のニュースでも、今回の大規模戦闘の詳細はQBの事を含め、AEUの情報統制と、モラリアへの圧力により、伏せられた。
 派遣したAEUのモビルスーツ部隊が、パイロットがQBによって操作されたとはいえ、働かなかったが為に全滅した上、兵士に死者がいないというのはとても公表できるような内容では無い。
 そんな事を公表すれば、モラリアを抱え込むAEUの計画が台無しになる可能性すらあるからであった。


リボンズ・アルマークは数日前にアレハンドロ・コーナーの元に戻り、連絡を入れなかった事について釈明を、抜かりなく行い、再びアレハンドロの従者としての位置に戻っていた。
アレハンドロにしてみれば、怪しいことこの上ないが、いずれにせよ、リボンズがいなければどうにもならないので、出て行けとは口が裂けても言えないのが実際の所であった。
それ以来、リボンズとアレハンドロの関係に明らかに見えない壁のようなものができたが、リボンズにしてみれば、迷惑な事この上なく、思考が筒抜けと言うのが更に腹立たしいが、QBを恨まずにはいられなかった。
ともあれ、最終的にリボンズはアレハンドロを抹殺、そして、CBの監視者を行っている人間達を抹殺してしまえば、それ程問題は無い為、今は我慢。
耐える時である。


―CB所有・南国島―

 ガンダム四機は島に帰投し、スメラギ達三人はホテルへと戻っていた。
 そこで暗号通信が繋がれ、ブリーフィングルームで四人のガンダムマイスターとスメラギの間で刹那の件について話が始まった。
[刹那、一瞬コクピットを開けてすぐ閉めたのはどういう事だったのかしら? ただの操作ミス?]
 モニターにスメラギの顔が映る。
 しばらく刹那が沈黙を貫いた所、口を開いた。
「俺が開けたら、QBにすぐ閉められた」
 紛れもない事実。
「はぁ?」
「何だって?」
[えっと……刹那、あなたが自分で開けて、QBが閉めたの?]
 訳がわからない、とばかりにロックオンとアレルヤが声を出し、スメラギが頭が痛い、と眉間に手を当てて尋ねた。
「そうだ」
 短く肯定。
 その様子をティエリアは無言で見つめる。
[どうして、開けたの?]
 まるで子供がイタズラをした原因を聞くかのよう。
 しかし、刹那は沈黙を保ったまま答えない。
 痺れを切らして、ロックオンが言う。
「おい、理由ぐらい言えって」
 仕方なく、刹那が口を開く。
「……確認」
[確認?]
「あ?」
 スメラギとロックオンが疑問で返す。
「確認を、しようと思った。PMCのイナクトのパイロットの確認」
 刹那が説明した。
 その言葉に、ロックオンは渋い顔をして言う。
「あのイナクトのパイロットか……。尋常じゃねぇのは確かだが、コクピットを開けようとする理由にはならないだろ。それとも知ってる奴だったのか?」
 刹那が頷く。
「ああ。QBに教えられた」
[またQB……。で、それが誰だったのかは教えてもらえるのかしら?]
 スメラギがまたか、と溜息をついて一応尋ねた。
「……今は一人で考えたい」
 刹那はこれ以上は言わないというオーラを出して言った。
 そこでティエリアが冷淡な声で言う。
「刹那・F・セイエイ。ガンダムマイスターの正体は、太陽炉と同じSレベルでの秘匿義務がある。動機がなんであろうと、戦闘中にコクピットを開け、あまつさえ姿を晒そうとするなど、君はガンダムマイスターに相応しくない」
 しかし、その発言を聞いたロックオン、アレルヤ、スメラギの三人は微妙な表情をした。
 どこかでつい最近似たような事を聞いたことがあるな、と。
 スメラギ達はつい昨日まであの様だったティエリアが言えた義理か、と思わざるを得ない。
 当のティエリア本人も僕が言えた義理ではないが……と心中は穏やかではなかった。
 言うなれば同族嫌悪。
 空気が悪くなるのを察知して、疲れたようにスメラギが口を開く。
[まあ、今回はQBのお陰とは言え未遂に終わったのだし、刹那もそのイナクトのパイロットが誰なのか分かったというのだから二度と同じ相手にコクピットを開けたりはしないでしょう。もう二度と、今回みたいなことはしないように、良いわね、刹那]
「ああ。了解した」
 刹那は低い声で応答した。
[できるだけ早いうちに、そのパイロットについて話す気になる事を待ってるわね]
 スメラギがそう纏めて、この件は終了した。
 しかし、そこへイアン・ヴァスティが血相を変えて駆けつける。
「大変なことになってるぞ!」
「何があった? おやっさん」
[イアン、まさか]
 ロックオンが尋ね、スメラギが察知する。
 イアンが説明を続ける。
「そのまさかだ。世界の主要都市七ヶ所で、同時にテロが起こった!」
「何だって?」
「多発テロ?」
[やはり、起きてしまったのね……]
 ロックオンが驚き、刹那が瞬きをして言い、スメラギが予想通りだ……と嘆いた。
「被害状況は?」
 冷静にアレルヤが尋ね、イアンが説明する。
「駅や商業施設で時限式爆弾を使ったらしい。爆発の規模はそれほどでもないらしいが、人が多く集まる所を狙われた。……100人以上の人間が命を落としたそうだ」
「く……なんて事だ」
 アレルヤが肩を震わせる。
 僕達が直接出した死者数よりも遥かに多いじゃないか……。
 QBのお陰による所が大部分であるが。
 そこへ更にモニターに王留美が現れる。
[ガンダムマイスターの皆さん、同時テロ実行犯から、たった今ネットワークを通じて、犯行声明文が公開されました]
「む」
[王留美……]
 王留美が淡々と報告を続ける。
[ソレスタルビーイングが武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています]
 ティエリアが想定の範囲内とばかりに言う。
「……やはり目的は我々か」
「その声明を出した組織は?」
 アレルヤが尋ねる。
[不明です。エージェントからの調査報告があるまで、マイスターは現地で待機して下さい。スメラギ・李・ノリエガ、イアン・ヴァスティも失礼。では]
 言って、王留美はこれからすぐ調査に入る為、通信を切断した。
「どこのどいつかわからねぇが、やってくれるじゃねぇか」
 腹立たしそうにロックオンが言い、アレルヤが呟く。
「無差別殺人による脅迫……」
「何と愚かな……。だが、我々が武力介入を止める事はできない」
 選択肢は無いと、顔を伏せてティエリアが言った。
 そこまで煽るような発言では無いが、意外にもティエリアの言葉に重ねて口を開いたのは刹那。
「そうだ。その組織は、テロという紛争を起こした。ならば、その紛争に武力で介入するのがCB。……行動するのは、俺達ガンダムマイスターだ」
 その目には迷いは一切無かった。
 ロックオンが声を漏らす。
「刹那……」
 そして、スメラギが一度瞼を閉じ、再び開けて通達する。
[刹那……。その通りね。エージェントの調査が終わり、テロ組織の位置が分かり次第、CBは武力介入を行います]
「了解」「了解」「……了解」「了解」
 ガンダムマイスターは返答した。
 その中で、アレルヤは思った。
 刹那とティエリア、仲が悪いようで、そうかと思えば息が合ったり……何だかんだ似たもの同士なのかな、と。


かくして、これより世に一気に強力な負の感情が喚起される。
テロを起こしたのはテロ組織に間違いはないが、平和な日常を壊された国々の市民にしてみれば、大問題。
これまでのCBの活動ではそれ程ではなかったが、ここに来て、身近に死の可能性が感じられるようになる。
そして、その感情の矛先は、テロリストではなく、その根本的原因、つまりCBへと向き、集中していく。


―日本・群馬県見滝原市か、はたまたどこかの都心のビル屋上―

 先日と変わらず、ビル風に美しく長く黒髪をたなびかせ、300年近く経っても劣化することの無い赤いリボンが印象的な少女がいた。
 紫色の結晶の浄化を行いながら彼女はQBに言う。
「また世界同時多発テロが起きたわね」
 まるで彼女は風景を眺めるかのような素振り。
 普通の人間に比べると、遙かに長い時の流れを見てきた彼女にしてみれば、悲しみと憎しみばかりが繰り返されるのはこの世の常。
 彼女にしてみれば、テロですらまたか、と言える程度のもの。
 つい最近だと約十年前の太陽光発電紛争の時もそうだったかしら、と。
「そうだね。これからしばらく、障気が濃くなるよ。魔獣どももそれに比例して湧いてくる」
 QBは淡々と言った。
「……分かっているわ。私は出てくる魔獣を倒す、それだけよ」
 そうはっきり言って、彼女は黒い結晶を放り投げた。
 QBはそれを尻尾でバウンドさせ、うまく背中へと取り込む。
「頼もしいね、暁美ほむら」
 心のこもらない口調で彼女がそうですか、と返す。
「それはどうも」
「僕らは君を評価しているんだよ」
 なんと言っても、未だかつて300年近くも戦い続ける事ができる魔法少女なんて君だけだからね。
 魔法の単純な最高威力では暁美ほむらを上回る魔法少女はこれまでにも多くいたけれど、その彼女たちのどれもが、長くてもせいぜい数十年が限界。
 QBにとって彼女を評価するのは当然であった。
「そう」
 彼女は別に嬉しくも無いと素っ気なく答え、結晶を放りなげながら、思ったことを呟く。 
「……新米魔法少女がまた増えそうね」
「うん、今日はいつもよりも増えたよ」
 テロに遭った当事者や、その関係者の少女が主な対象。
 悲劇が起きると、魔法少女の契約数は必然的に増えやすい。
 瀕死の状態で判断がおぼつかない時や精神的に動揺している少女たちの前に現れると、彼女たちは願いをすぐに口にする。
 しかし、これも、これまで散々繰り返されて来ている事。
「仕事が早いわね」
 少女は髪を軽く掻き上げて皮肉を言った。
「それが僕らの役目だからね」
 当然だよね、とQBが言った。
「どうでも良いと言えばどうでも良いけれど、あなたたち、どうしてCBに接触したのかしら。あなたたちの根本的な目的は自明だけれど」
 結晶を放り投げて言った。
 彼女には疑問であった。
 わざわざ世界にその姿をQBが現したこと。
 明らかに今まで無いパターン。
 新規契約者を増やすのであれば、CBの仲間と思われるような行為を自らするなど、少し姿の形状を変えればいいだけだとしても、QBにしてみれば最善とは思えない。
 どこまでいっても、QBの目的が負の感情の回収なのは変わらないのは分かり切っているが実に不可解。
「効率的だからさ」
 QBは背中でキャッチしながら、詳しいことは答えない。
 当然理由はイノベイドの存在。
 人間を相手取らなくても、ひたすら作ればいいだけであり、尚かつ、脳量子波のお陰で思考が全部筒抜け。
 消滅という彼女たちにとっての死の形を恐れる事なく、そして魔獣に向かって、ソウルジェムの消耗を一切気にせず特攻に近い事もできる、卓越した戦闘技術を備えた魔法少女部隊。
 一人一人の限界性能はそれ程高くは無いとはいえ、これを都合が良いと言う以外に、何と言えようか。
 加えてヴェーダによって情報収集もする事ができる。
 一方的に利用すると大抵人間は怒りという感情を見せるのは理解している為、QBは一応協力する事で対価を払っているつもり。
 実際、CBにはある意味大きな貸しを作っている。
 とはいえ、CBが活動すると感情エネルギー回収が大いに進むので、便乗しているのは間違いないが。
「そう。あなたたちがそう判断したなら、そうなのでしょうね」
 まともに答えないだろうとは思っていたわ、と彼女は言った。
「そうだよ」
 そして、彼女はその日QBにもう一つだけ質問をする。
「契約者数を増やすのなら、わざわざモラリアで死者を出さないようにあそこまでする意味はあったのかしら? どちらが得かいつも通り天秤にかけて判断しただけなのでしょうけど」
 流れ弾や墜落機が発生しないように航空部隊を無力化したのは、寧ろ負の感情を喚起するのを抑えているようですらあり、何より新規魔法少女との契約の機会を逃しているように思えてならない。
 QBにしては死者を出さないようにしている事すら目的の為とはいえ、その点について評価はできるけれど。
「もちろんあったよ。僕らは死者を出さない方が効率的だと判断したのさ。CBは全世界に注目を浴びる存在だからね」
 QBは少女の質問に肯定した。
 負の感情は無事生き残った軍関係者の絶望である程度相殺できている。
 人間は自身に認識できない余りに遠く離れた場所で人の死というものに実感が沸きにくいので、局所的な死者が出ることはそれほど効果的ではない。
 重要なのはCBという世界に楔を打つ、人々の心理に潜在的に訴えかける存在そのもの。
「局所的なものよりも、全体を取ったという事、ね」
 大体そういう事か、と彼女は理解した様子で言った。
 イノベイドやヴェーダの存在など思いもよらないので、そう結論づけて、そして彼女はまとめて複数の黒い結晶を放り投げ、両の掌を上に向けたポーズを取る。
 QBはそれを上手く全てキャッチし、どことなく美味しそうに背中で飲み込んだが、納得に至ったように見える少女にもう一度肯定の言葉を述べはしなかった。


罪なき者が死んでいく。
それも計画の一部というなら、ガンダムに課せられた罪の何と大きなことなのか。
だがQBに罪の意識など無い。
刹那、運命の人と出会うのか。



[27528] 次出たらぶん殴る
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/06 17:49
―CB所有・南国島―

 アレルヤ・ハプティズムがAEUイタリアでの地下鉄爆破テロの映像を見ながらテロ組織の犯行声明文を唱える。
 「私設武装組織CBによる武力介入の即時中止、および武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる。これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者たちに反抗する正義の使途である。……か。やってくれるよまったくっ」
 言って、アレルヤはモニターを叩きつけるようにして閉じる。
 その隣で刹那・F・セイエイが呟く。
「無差別爆破テロ……」
 外のガンダムの格納コンテナの上でティエリア・アーデが呟く。
「国際テロネットワーク」
 砂浜ではロックオン・ストラトスが吐き捨てるように言い、
「くそったれがっ」
 拳を握り締める。
 ロックオンは強い怒りを心に宿し、海岸を後にした。

 翌朝、本土のホテルに泊まっていたスメラギ達をCB所有のクルーザーで島に迎え、エージェント達からの報告待ちに備えて準備に取り掛かる。
 スメラギ・李・ノリエガが指示を出す。
「国際テロネットワークは複数の活動拠点があると推測されるわ。相手が拠点を移す前に攻撃する為にも、ガンダム各機は、所定のポイントで待機してもらいます」
 ロックオンはフェルト・グレイスからHAROを受け取り、デュナメスへと乗り込んで行く。
 同じくエクシアに乗り込む刹那が起動させる。
「GNシステム、リポーズ解除。プライオリティを刹那・F・セイエイへ」
 コンテナが無く森の中に待機させてあるキュリオスに乗ったアレルヤが発進させる。
「GN粒子の散布濃度を正常値へ。キュリオス、目標ポイントへ飛翔する」
 海の底に沈めてあるヴァーチェからティエリアが出撃する。
「ヴァーチェ、ティエリア・アーデ、行きます」
 刹那とロックオンは同時にコンテナから発進する。
「エクシア、刹那・F・セイエイ。目標へ向かう」
「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する」
 かくして、各機はそれぞれ四ヶ所のポイントへと散開して行った。


―王家邸宅―

 小型機で邸宅に戻った王留美は紅龍を従え、仕事に入るべくすぐに地下室へと向かった。
「特定領域の暗号文で、全エージェントへ通達を完了しました」
 紅龍がモニターを観測しながら報告し、王留美が右手を腰に当てて尋ねる。
「各国の状況は?」
「主だった国の諜報機関は、国際テロネットワークの拠点を探すべく、既に行動を開始している模様です」
 そこへ、モニターに反応が出る。
「テロ発生。人革領です。……これで、ユニオン、AEU、人革連、すべての国家群が攻撃対象になりました。やはり、国際テロネットワークの犯行である公算が大きいようです」
「支援国家の存在も否定できない……嫌なものね。待つしかないということは。それにしてもQBはテロまでは防止してはくれないのね」
 顎に手を当てて王留美が考えこむようにしながらも、QBに期待する発言をする。


 テロの多発する現状には、人革連のセルゲイ・スミルノフも注視し、UNIONのグラハム・エーカーに至っては無駄にカスタム・フラッグを飛行させていた。
 曰く「私は我慢弱く、落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いと来ている」との事。
 テロの影響を受けて、マリナ・イスマイールの外交はキャンセル続きとなり、上手くいかないと難航。
 更にはシーリン・バフティヤールとの通信でアザディスタン国内の情勢がいよいよ悪化し、マリナが国の王女として旅をできるのも最後になる可能性が出てきていた。
 経済特区・東京ではルイス・ハレヴィが母国の母から帰国するように催促する電話を受け、その事についてサジ・クロスロードと同じく電話でやりとりしていた所、絹江・クロスロードが帰宅した。
 JNNは連日CBのせいで大忙しであり、情報も不可解なものが多く、訳がわからないと疲れはてていた。
 二人はCBの件とテロの件について暗い表情で会話を交わし、一段落着いた所で絹江が言う。
「サジ、これ欲しい?」
 と徐に取り出して、しかも頭部を鷲掴みにして見せたのはどう見てもQBの人形。
「どうしたのさ姉さん、そんなの。気味が悪いよ」
 サジが顔を引きつらせて言った。
「天柱極市支社に出張していた同僚から無理矢理渡されたのよ。ストレス解消になるぞって」
 そのままQB人形の胴体をサジの目の前で絹江がブラブラ揺すって見せる。
 一番最初に人革連でQBが出現した事で、売れるかも知れないとどこかの人形メーカーが作ったとのこと。
「ストレス解消って……」
「こう使うらしいわ。 ハぁッ!」
 絹江はQB人形を空に放り上げ右ストレートをかまして、部屋の隅にぶっ飛ばした。
「…………姉さん」
 サジが呆れて言った。
 しかし、使い方は正しい。
 何しろQB人形の販売コーナーでのテロップには意味としては「僕を右ストレートでぶっ飛ばしてよ!」と書かれているのだから。
 売れ行きは好調、意外にも人革連の軍関係者によく売れているらしい。
 余程殴りたいのだ。


ガンダム各機はそれぞれ予定ポイントで待機に入った。
ヴァーチェはオーストラリア・山間部。
キュリオスは人革連・砂漠地帯。
デュナメスはUNION領・南米・森林地帯。
エクシアはAEUスコットランド・山間部。
エクシアのコクピット内で待機していた刹那は昔の事を思い出しながらも、センサーに反応があったのに気がつく。
そこへ丁度王留美からの通信が入り、備え付けの二輪自動車でテロの実行犯が乗ると思われる茶色のクーペを確保に向かう。
一度はその車を捕捉したものの、結果としては逃げられてしまい、それどころか、銃を構えていた事で警官に捕まりそうになる。
だが、そこへ現れたのはマリナ・イスマイールであった。
警官をやり過ごす事ができた刹那はマリナと話がしたいという理由で街の景色が見える場所に移動した。
マリナは刹那をアザディスタンの出身だと勘違いしていたが、クルジスだと言われ、動揺した。
なぜなら、クルジスを滅ぼしたのはそのアザディスタン。
焦ったマリナはそこで去ろうとした刹那を引き止め更に会話をした。
刹那はマリナからアザディスタンで現在抱えている問題についての悩みを黙って聞いたが、CBの名前を口にした。
マリナはCBが死者を出さないようにできるだけ配慮しているのはせめて良い事だけれど、それでもやり方が一方的すぎる事には変わらないと言い、そこから言い合いになる。
結果、刹那は自分がガンダムマイスターである事を暴露し、マリナに精神的ショックを与えて去っていった。


―王家邸宅―

 刹那が取り逃がしたテロ実行犯の男は黒服のエージェント達によって確保され、そこからテロ組織の情報が引き出された。
 紅龍が報告する。
「お嬢様、確定情報です。国際テロネットワークは、欧州を中心に活動する自然懐古主義組織ラ・イデンラと断定」
 王留美が命令する。
「各活動拠点の割り出しを急がせなさい」
 それから、しばらくして情報が収集され報告が入った。
「各エージェントより報告です。ラ・イデンラの主だった活動拠点は、既に引き払われているようです」
 王留美が少しばかり残念そうに言う。
「周到ね。これでまた振り出し……」
 そこへ、紅龍が声を上げる。
「待って下さい。テロメンバーと思われる者のバイオメトリクス抽出情報がネットワークに流出しています。NROの主要暗号文、DND、DGSEの物まで。お嬢様」
 この情報はAEU、UNION、人革連の各諜報機関が意図的に流させた物であった。
 理由は単純に利害の一致でしかない。
 しかしそれでも王留美は面白そうに言う。
「世界が動けと言っているんだわ。わたくし達に」


―各ガンダム―

 スメラギからマイスター達に通信が入る。
[ラ・イデンラの活動拠点は三ヶ所。グリニッジ標準時1400に同時攻撃を開始します]
[了解。ヴァーチェ。テロ組織の拠点への攻撃を開始する]
 ヴァーチェが発進し、テロ組織の拠点へと向かう。
[キュリオス、バックアップに回る]
 組織の拠点が三ヶ所である為、アレルヤは余る。
 クリスティナ・シエラがロックオンに通信を入れる。
[敵戦力は不明です。モビルスーツを所有する可能性もあります]
 ロックオンはようやく行動開始か、と呟く。
「そんなもん、狙い撃つだけだ」
 そして、刹那も二輪自動車から戻り、エクシアへ乗り込み、ラ・イデンラの艦船を破壊しに向かった。
[エクシア、介入行動へ移る]
 それにより、南国島でのスメラギ達の仕事は現地でQBが出ようがでまいが終了となり、ビーチで遊び始めたのだった。
 そこへ麦わら帽を被ったイアン・ヴァスティが現れ、日光浴をしているスメラギに言った。
「まさか各国の諜報機関が協力してくれるとはぁ、良かったじゃないか」
 スメラギが苦笑して答える。
「いいように使われただけです」
「だが、大いなる一歩でもある……」
「ですね」
 どことなく嬉しそうな表情。
 出撃したヴァーチェ、エクシアはラ・イデンラの基地と艦船を完全破壊及び駆逐。
 ロックオンはというと、UNION・南米・山岳地帯に到着していた。
 行動に入る前に、QBが現れる。
「勿体無いけど、今回は全部コクピットを狙い撃ってよ!」
 可愛らしい少年の声で頼んた。
「だぁっ! 俺は今イライラしてんだよ! 出てくんな!」
 今のロックオンには捕まえる気すら起きなかった。
「ふぅん。その様子なら全滅させそうだね。僕は帰るよ」
 言って、不思議そうにQBは消えた。
 瞬間、ロックオンは身体をわなわなと震わせながら腹の底から声を出す。
「あぁァ、次出たら、何かすげぇぶん殴りてぇ! 今日の俺は……容赦ねぇぞッ!!」
 QBにはその気は無かったが完全に火に油を注いだ。
 ロックオンは現場に到着すると、精密射撃モードを使わずGNビームピストルをとにかく乱射して、岩場に構築された隠れ家にくまなく発射。
「容赦しねぇ、お前らに慈悲なんかくれてやるかぁッ!!」
 大声で叫びながら、ロックオンは暴れまわった。
 ヘリオンが出てくればGNスナイパーライフルを構え、全弾コクピットを狙い撃った。


テロ行為に対する武力介入はロックオンが言った通り容赦が無く、ラ・イデンラの主要拠点三ヶ所は壊滅した。
QBとしても、小規模だがかなり多数のテロが起きた為、充分と判断し、これ以上無駄に人間の数を減らされるのも勿体無いので、テロリストの始末を頼んだのであった。


CBはやりすぎたのか。
圧倒的物量で行われる殲滅作戦、そこに隠された真の目的とは。
QBの真の目的は感情エネルギーの回収。
万能などあり得ないのか。



[27528] QB「本話の存在は了承されたよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/08 17:24
西暦2307年。
CBが武力介入を開始してから、四ヶ月の時が過ぎようとしていた。
彼らの介入行動回数は六十を超え、人々は、好むと好まざるとに関わらず、彼らの存在を受け入れていく……筈であったのだが。
順調にCBの実働メンバーの行動が上手く進んでいる裏ではQBの暗躍、QBにとっては当然の行動があった。


それはCBが活動を開始してから一ヶ月も経たない時の事。
つまりテロ組織、ラ・イデンラの拠点三ヶ所が叩かれてからほんの数日。
QBはマリア・マギカ、ひいてはリボンズの協力を得て、量産型魔法少女部隊の実践投入を開始して同じく数日が経過していた。
これにより、確かにヴェーダに魔獣の存在と魔法少女の存在の情報が収集され、それにアクセス可能なリボンズは驚いていた。
一つは本当に魔獣が自然発生するという事に。
そしてもう一つは、魔法少女となったイノベイド達の魔獣との戦闘時における身体能力が、自身を含む戦闘型に特化したイノベイドを遙かに越えており、白兵戦であればまず魔法少女イノベイドの圧勝になるというデータばかりが弾き出された事。
これが希望の力によって獲得される魔力というものか、と余りにも非科学的な力であるが、実際に知ったリボンズは好むと好まざるとに関わらず、その事実を受け入れざるを得なかった。
そして、そんなリボンズの元へ、再びQBが現れる。
全ては利の為に。


―リボンズ出張先のホテル―

 アレハンドロの命を受けると受けないに関わらず、リボンズは元々独自行動を取るの事がしばしばあった。
 全てはヴェーダ本体の位置を特定するという名目の元であったが。
 つい最近家出していた時は、アレハンドロにはヴェーダ本体がある可能性があるかもしれないと思われる場所を回る為資源衛生群、ラグランジュに向かったと弁明した。
 動機は何とかしてヴェーダの無事を確かめたかったから、「何も告げずに出てしまい、申し訳ありませんでした、アレハンドロ・コーナー様」と謝ったのである。
 そして、結局は見つからなかったヴェーダ本体を再び探しに行くためと称してアレハンドロから離れ、丁度単独行動をしていた所であった。
 一室の窓際に立っていたリボンズの後ろにQBが忽然と現れて言う。
「リボンズ・アルマーク、魔獣と魔法少女の事、分かってくれたようだね」
 リボンズが振り返って言う。
「な……君か。アレは信じ難い事だけど、信じざるを得なかったよ。今日はまた何か用があるのかい?」
「その通りさ。君の計画の変更を提案しに来たんだ」
 不快そうにリボンズが言う。
「僕の計画の変更だって?」
「CBは残り数百日のうちに滅ぶ、という計画をね」
「計画を第一段階から変更するなんて妄言にも等しい」
 ありえない、とリボンズは言った。
「君にとってメリットがあると思うよ。どうやら君の最初の勘違いから遡る事になるけどね」
「僕の、勘違い?」
 何を、とリボンズは不快感を抱く。
「ヴェーダには君も気づいていないブラックボックスがある。そこにはオリジナルの太陽炉だけに与えられる秘密の機能と、それが起動した時、ガンダムマイスター達のパーソナルデータと共にその情報がヴェーダから完全に抹消されるというものがあるんだ。疑問のようだけど、僕らにしてみれば、ヴェーダの情報を知るのは造作も無い事だ。君たちイノベイドはいちいちヴェーダに許可を取らないといけないみたいだけどね」
 無機質な赤い双貌がリボンズの奥を見透かすかのように怪しい鈍い輝きを放つ。
「それが事実だとしたら……まさか」
 リボンズが動揺する。
「そうだよ。君はイノベイドがCBのガンダムマイスターを務めるという当初ヴェーダに予定されていた計画を自身の滅びを回避する為に人間をマイスターの候補に上げて計画を変更したようだけど、そう、君が今考えている通り、勘違いだったんだね。イオリア・シュヘンベルグは君を殺すつもりは無かったんだよ」
 QBに淡々と言われ、リボンズは衝撃の情報を知り、よろける。
「な……そんな……馬鹿な……。イオリアっ……なら、どうして」
 せめて僕にだけは教えてくれなかったんだ、とリボンズは思った。
 CBは計画の第一段階において、確かに滅びる事になっている。
 しかし、それはイオリアの想定の内。
 CBの組織内に裏切りが出る事すら。
 しかし実際には、オリジナルの太陽炉を保有する、滅びる予定のCBには新たなる力が与えられ、更にはガンダムマイスターの情報をヴェーダから抹消するという事により、ガンダムマイスターをある意味でヴェーダの監視から完全に切り離し、地球に存在しない人間とする事で、安全を獲得させられる事にもなっている。
 これには、イノベイドである者達をヴェーダから切り離す事で、生体端末としてではなく、独立した個体である「人間」へと近づけるという意図も含まれていた。
「君は、今君が見下している人間になる筈だったんだ」
「ぁ……アァぁ……あぁァアっ」
 QBの一切感情の無い指摘はリボンズの心を酷く抉った。
 百数十年余り前、年老いて月の施設でコールドスリープに入るまで、側に仕え慕いすらしていたイオリアが、計画ではCBを滅ぼすとなってはいながらも、本当はその気など無かった事を悟ったリボンズの心の堰は決壊し、嗚咽と共に涙を流し始める。
 イオリアは最初に作った僕を捨て駒にするつもりは実は無かったのだと。
「何故泣くんだい? イノベイドである君自身は人間とは違う存在だと思っているみたいだけど、君たちイノベイドは僕らからするとまるで思春期の子供のようだ。知能や技術は高く表面上は優れた存在として振る舞っているつもりなのかもしれないけど、精神が伴っていない」
 不思議そうに、訳がわからないよ、とQBは言って、更に淡々とリボンズの心を抉る。
 ある意味魔法少女向きだけどね、とは言わなかった。
 しばしの間、会話にならずリボンズは涙を流し続けたが、やがて落ち着いた。
 リジェネ・レジェッタがイオリアの計画をどこか精神的に子供ながらも純粋に遂行しようとする気持ちが今のリボンズには理解できた。
「君はオリジナルの太陽炉が欲しくないのかい?」
 QBが落ち着いた所を見計らって、囁きかける。
 問いかけられたリボンズは決意を秘めたように言う。
「そうだね……本来ならアレは最初から、僕たちのものだ。だけど、その事を教えて君たちは何を望むんだい?」
「現在のCBの活動を数百日と言わず、できるだけ長く続けて欲しいんだ。君たちイノベイドは不老の存在。急ぐ必要なんて無いだろう? ヴェーダがそれを拒否するというのなら、僕らがそれを認めさせても良い。あのヴェーダというシステムは確かに君たちにとって有用なものなのだろうけど、常に長期的視点を前提としたその時々の答えしか弾き出さない欠点を抱えている。人間の生殺与奪を機械的に判断するのはそのせいだ」
 リボンズはQBの発言に呆れる。
「つまり、結局の所、君たちは感情エネルギーとやらの回収を長く続けたいのか。QB……異星生命体というのは本当のようだ。人間をエネルギー源としか見ないなんて発想は地球の生命ではありえない」
 金、地位、権力、etc……QBはそんなものに興味は無い。
 リボンズの現在の計画で行くと、CBが滅び、地球統一連邦の元でのヴェーダによる厳正な情報操作が行われれば、人々は世界の裏で密かに行われる出来事を目にする事は無くなってしまう。
 それでは感情エネルギーの回収率が減ってしまう。
「やっと信じてくれたみたいだね。だけど、人間を見下している君に言われる筋合いは無いよ」
「は……。君たちの言うとおり、僕たちは不老だ。加速させる予定だった計画を変更しても良い。どうやるかまで説明は必要かい? これから色々考える必要があるけど」
「それには及ばないよ。思考は筒抜けだからね。君にもう一つ教えてあげるよ。君の人間マイスター計画を密かに妨害する行動を取っていたビサイド・ペインという既に死んだ筈のイノベイドの人格データは 彼が隠している1ガンダムにまだ残っているよ。死亡したと君にみせかけるつもりだったようだね」
 QBは更にリボンズに過去に死んだ筈の者の情報を教えた。
 その言葉にリボンズは眉を寄せて、苦笑する。
「フ……それは耳寄りな情報だね。そうか、残っているのか」
 QBはその場所を教えて、言った。
「彼の固有能力は厄介だけど、脳量子波が彼より強い君には効果が無いから、データになっている今のうちに好きにしたら良いんじゃないかな」
 そのビサイド・ペインというリボンズと同じ塩基配列パターンであったイノベイドには特殊能力として、他のイノベイドに強制アクセスし、自らのパーソナルデータを上書きして支配する「インストール」や、同じ塩基配列のイノベイドに全てのパーソナルデータを転送する「セーブ」というものを持つ。
 但し、自身より脳量子波が強いイノベイドや、ヴェーダとのリンク途絶しているイノベイドには効果がない。
「……なら無論、利用させて貰うよ」
 リボンズは、率直にその能力をデータから奪い取る意思を示し、微笑みを浮かべた。
「じゃあ、これで僕は帰るよ」
 リボンズの言葉を待たずにQBは消えた。
 QBが利を得る事を目的に本来知り得る筈の無い情報を得たリボンズは、即座に高速で思考を始める。
 現在存在するオリジナルの太陽炉の数は五つ。
 CBのガンダム四機ともう一つはその支援組織フュレシテで色々な機体に使いまわされている物。
 イオリアの僕への本来の想いを継ぐのであれば、何としても手に入れたい。
 しかし、加えて、QBの頼み通り、超長期的にCBを存続させ、緩やかに愚かな人類の世界統一を進めるとなると、そもそも、五つしかない太陽炉という前提の現状も何ら崩壊しても構わない可能性を帯びる。
 三つの陣営のどこよりも優れた技術を保有しているCBを崩壊させるのは新たなオリジナル太陽炉製造にとってマイナスでしかない。
 木星には太陽炉製造の為のCBのGNドライヴ建造宇宙船が六隻ある。
 後二年もあれば、一つか二つ、資金によってはそれ以上の製造もできる可能性があるのだから。
 となれば、このまま野心駄々漏れの金光大使アレハンドロ・コーナーとAEUリニアトレイン公社総裁のラグナ・ハーヴェイ、そして自身の体細胞データを元に生み出した劣化イノベイド共である、チームトリニティを野放しにするのはマズイ。
 チームトリニティにはそのフュレシテを襲わせてオリジナルの太陽炉を奪って壊滅させ、更にはCBに対する世界の憎悪を一気に膨らませる予定だったのだから。
 とはいえ、自分で蒔いた種なのだが。
 だが、今更その事を悔やんでも仕方がない。
 アレハンドロに接触したのは200年以上に渡りイオリアの計画を乗っ取る事を虎視眈々と狙っていたコーナー家の潤沢な資産が目当てだった。
 とりあえず、アレハンドロは抹殺だ。
 というか、監視者は全員抹殺だ。
 大人は嫌いだ。
 人間を家畜のように見ているQBも嫌いだけど。
 QBに位置を教えられた1ガンダムは回収して、あの固有能力を奪おう。
 リボンズは、そう、決意した。
 ヴェーダの完全掌握とCBに対する援助。
 近いうちに、一度は離れたCBに接触する事になるかもしれない。
 突然の計画変更に、自分がヴェーダを使って生み出したマイスタータイプのイノベイド達に対する説明が面倒だけれど。
 ヒリング・ケアはホイホイ付いてくる。
 かくして、QBの私利私欲通りに計画は変わりすぎる。
 これでいいのか。


CBはやりすぎたのか。
否、QBがやりすぎだ。
圧倒的物量で行われる殲滅作戦、そこに隠された真の目的とは。
否、圧倒的物量作戦で行われる殲滅作戦はまだ先だった。
QBの真の目的は感情エネルギーの回収。
変わらない。
万能などあり得ないのか。




本話後書き

ここまでお読みいただきありがとうございます。
丁度1stシーズンの紛争・テロに対する介入行動が一段落した所まで終わりました。
後は軍が怒るだけです。
それに入る前に当たり、QBとしては2ndシーズンの状態は全く歓迎できないのでは、と思ったらこんなパターンが出てきました。
粗が多いですが、QBが介入するとこうなるのでは……と。
私は外伝は全くの守備範囲外であり、一応、ガンダム00外伝wikipediaやガンダムキャラクター事典様を読んだ上で外伝キャラクターの名前を出したりもしたのですが、これはおかしいという指摘があれば、容赦無くどうぞお願いします。
また、無理矢理な独自解釈、話を変更させるための曲解もあるので、「それは無いよ」というのであれば、どうぞ。
いえ、最初からガンダム00にQBを投下する事自体「こんなの絶対おかしいよ」な状態な気がしてなりませんが。
ネタの筈ながら、微妙にシリアスでもあり、当、本話を挟まないのであれば、このまま人革連のガンダム鹵獲作戦ないしは、魔法少女部隊の活躍かほむほむとガンダム00登場人物との僅かな接触やら何かに移ります。
監視者(読者様)による暫定本話の存在を了承するか否か、答えを感想掲示板で頂ければ、そのご意見の大体の流れでどうするか決めたいと思います。

追記
ダロス様情報提供ありがとうございます。
該当箇所に修正をかけました。
リボンズがビサイド・ペインの能力を1st当時にどれだけ把握していたのかがよく分からないので、曖昧に誤魔化しました。
完全に間違っていました。
キャラクター事典にアフリカの擬似GNドライブ基地の管理云々と書かれているので、トリニティの面倒も見ているの……か、と勝手に思い込んでいました。

再追記
皆様、了承ありがとうございました。
どうなるか予想がつきませんが、カオスになるのは間違いないです。



[27528] 人革連「罠が仕掛けられない……だと」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/08 17:51
―UNION領・経済特区・東京―

 深夜、人気もほぼ無い都心、仕事に追われようやく戻ってくる事ができた絹江・クロスロードは道を歩いていると、公園のベンチに黒髪に赤いリボンを付けている少女と思われる人物の後頭部と背中を見かけた。
「こんな時間に……」
 家出かしら……最近はいつまたテロが起こるか分からないし、危ない。
 それに、昔からある都市伝説や迷信で夜中街で人気のない場所にいると危険な目に遭う事がある、というのは大抵誰もが聞いたことがある。
 実際、不可解な迷宮入りする事件は定期的に起こっていて、それを専門に追いかけるジャーナリストもいる。
 そう思った絹江は公園に入りその少女に後ろから近づき顔を覗かせるように声を掛ける。
「どうしたの? こんな時間に危ないわよ」
 そう言いながら、絹江は少女の姿を前から見た。
 星明かりと遠くに点灯している僅かな街灯の明かりを受けて見えたのは、今時珍しいぐらいに美しく長い黒髪。
 目を引くのはそれだけではない。
 家出の少女というには余りにも雰囲気が幻想的であり、黒いブーツに両膝をピッタリと付け、やや斜めにその足をベンチの椅子から地につけている様子には、何か惹きつけられる物があった。
 ややあって、目を閉じていた少女が口を開いた。
「お気になさらず。もう少ししたら帰ります」
 印象通りのクールな声。
 そんな言葉を聞いたからといって、はいそうですか、と絹江は引き下がらない。
 お気になさらずって……。
「なら、あなたが帰るまで私、隣に座っていても良いかしら?」
 そう言いながら、結局許可を取る前に、絹江は少女の隣に座ってしまう。
「どうぞ」
 少女はそれぐらいなら別に好きにすれば良い、と言う風に短く答えた。
 対して、絹江は勝手に自己紹介を始める。
「ありがとう。私は絹江・クロスロード。JNNの記者をやっているの。あなたは?」
 話し方は妹に接するように優しげ。
 少女は何をいきなり聞いてくるのか、と目を一瞬だけ見開いたが、口を開いた。
「暁美、ほむらです」
 その名前を聞き、絹江は驚く。
「……暁美ほむらちゃんね。純日本人なのね」
 この300年の間で、UNION領の経済特区となったこの地では純粋な日本人の苗字を持つものは珍しくなりつつあった。
 絹江も日本人でありながらもクロスロード姓を持つ意味では、時代の流れを表す一人であった。
「はい」
 少女は普通に答えた。
「その黒髪もとっても綺麗。羨ましいわ」
 絹江は苦笑しながらも、少女の髪を褒めた。
「ありがとう、ございます」
 少女は目を閉じて答え、これ以上自分の事を聞かれると面倒だなと思い、絹江に対して逆に質問をすることにして、再び目を開ける。
「絹江さんは、JNNの記者としてどんな事をしているんですか?」
 質問をされるとは思わなかった絹江は虚を突かれたが、話をしてくれる気はあるようだと思い、つい調子に乗って答える。
「私はここ最近だとCBやQBの事ばかりね。イオリア・シュヘンベルグとQBの関係、ガンダムとの関係について調べているの」
「それは、大変そうですね」
 少女は顔には一切出さず、相槌を冷静に打った。
「ええ。謎ばかりだけれど、事実を求め、繋ぎ合わせれば真実が見えてくる。私はそう信じているわ」
「そうですか。……でも、知らない方が良い事もあると私は思います」
 少女は絹江の言葉に対し、そう返した。
 少女から出たその言葉に絹江は驚いて目を見開く。
「随分達観してるのね……」
 その呟きを無視し、少女は少しばかり頭を傾げ絹江の目を見据えて言った。
「絹江さんは、その真実を見つけた時、もしそこに絶望しかなかったとしても、それで幸せになれますか?」
「え……」
 絹江はその質問に対して言葉が出なかった。
「時間が来たので、帰ります」
 少女は絹江が放心したと見計らった所で、スッとベンチから立ち上がり、軽く会釈してそのままスタスタと歩き始めたが、数歩進んだ所で立ち止まり絹江に背中を見せたまま一つだけ最後に先ほどとは違う口調で言った。
「QBは真実を言いはしないけれど、嘘はつかないわ」
 そして、少女は今度こそ夜の東京の街へと消えて行った……。
「……何……何なの、あの子……」
 放心していた絹江は、そう感想を漏らした。
 まるで私への忠告のような……。
「暁美ほむら……」
 絹江の脳裏には少女の姿と名前が濃く焼き付いた。
 それにQBは真実を言わないけれど嘘はつかないって……どういう事……。
 少女は絹江を見て分かった。
 これまでにも見た覚えのあるタイプの人間であった。
 意味深な事を呟いたのは、CBではなく、できるだけQBに興味を持った方が安全であろう、と。


西暦2307年。
CBが武力で、QBも介入を開始してから、今度こそ四ヶ月の時が過ぎようとしていた。
彼らの介入行動回数は六十を超え、人々は、好むと好まざるとに関わらず、彼らの存在を受け入れていく。
CBはテロ行為に対する介入に対し容赦は無かったが、紛争や三陣営の軍との戦闘になった時にはQBが現れたり現れなかったりと、安定しなかった。
ロックオンの目の前に現れた瞬間にQBは右ストレートで殴られたりと、QBは一方的に介入するだけではなく、そうしてやり返されることもあったが、ロックオンがどうしてそのような行為をするのか理解することは無かった。
また、CBの実働メンバーは結局QBを捕獲することはできなかった。
頭を掴むとそのまま空気に消え入るようにいなくなってしまうが故に。
そして、トレミーの中に現れる事はなく、常にスメラギ・李・ノリエガは作戦の度に無駄な疲れを感じていた。
ただ一つ、QBが死者を少なく済ませ、とりわけ民間人には被害が殆ど出ないように活動している事に関してはCBは変わらぬ評価をしていた。
CBとQBを否定する者、肯定する者、どちらの気持ちも戦争を否定するという意味では一致していた。
誰も争いを求めたりはしないのだ。
地球にある三つの国家群のうち、UNIONとAEUは、同盟国領内での紛争事変のみ、CBに対して防衛行動を行うと発表。
しかし、モラリア紛争以来、大規模戦闘は一度も行われていない。
それを可能にしたのは、モビルスーツガンダムの卓越した戦闘能力と噂が独り歩きし続けるQBの存在にある。
世界中で行われている紛争は縮小を続けていたが、武力とある意味凶悪な生物兵器による抑圧に対する反発は消えることはない。
そして今、唯一彼らに対決姿勢を示した人類革新連盟で、ある匿秘作戦が開始されようとしていた。
しかし、それは果たして、上手く行くのか……。


―人革連・高軌道ステーション―

 セルゲイ・スミルノフは室内において、整列した隊員達を前に、その士気を鼓舞した。
 右手を腰に当て、左手を胸元辺りに掲げて演説する。
「特務部隊、頂武隊員諸君、諸君らは母国の代表であり、人類革新連盟軍の精鋭である。諸君らの任務は、世界中で武力介入を続け、時には謎の生物兵器QBを用いる武装組織の壊滅、及びモビルスーツの鹵獲にある。この任務を全うすることで、我ら人類革新連盟は世界をリードし、人類の発展に大きく貢献することになるだろう。諸君らの奮起に期待する」
 言って、全隊員は敬礼をした。
 人革連は軌道エレベーターは完成していても、軍事技術面ではUNIONとAEUに遅れているが故、オーバーテクノロジーの塊であるガンダムを何としてでも獲得したいという意図があった。
 その後、部隊員は皆出動準備に入る事になったが、出撃前に各自QB人形を右ストレートでぶっ飛ばす事で奮起していた。


―人革連・高軌道ステーション管制室―

 コンテナが三つ放射状に配置された三つ葉型の多目的輸送艦ラオホゥが天柱の軌道エレベーターの人革連軍施設から発進していた。
[姿勢制御完了、ハッチオープン。リニアカタパルト電圧上昇。双方向通信システム、射出準備完了]
 コンテナの前方部のハッチが開き、そこには四角い物体が幾つも見える。
 管制室からの指令が下る。
[射出]
 すると、細長い四角い筒が次々と射出され、宇宙空間に飛ばされる。
[通信子機、全体分離]
 そして、その四角い筒は更に展開し、より小さなサイコロ状の物体が辺りに四散していく。
「通信子機全体分離開始。予定位置に移動中。双方向通信、正常です」
 管制官からの報告が管制室で指揮を取るスミルノフに届く。
 そこへ、スミルノフの近くで同じく管制をするミン中尉が説明をする。
「これでわが軍の静止軌道衛星領域を80%網羅したことになります」
 スミルノフが右手を腰に当てながら声を出す。
「ぅむ……」
 続けてミン中尉がモニターを指さしながら説明する。
「ガンダムが放射する特殊粒子は、効果範囲内の通信機器を妨害する特性を有しています。それを逆手に取り、双方向通信を行う数十万もの小型探査装置を放出、通信不能エリアがあれば、それはすなわちガンダムがいるという事。中佐、魚はうまく網にかかるでしょうか?」
 スミルノフが真剣な表情で答える。
「そうでなくては困るよ、ミン副官。これほどの物量作戦、そう何度もできはしない」
「網にかかったとして、QBに対する対抗策が無いというのは辛い所です。私も以前まんまとしてやられました」
 ミン中尉は苦々しく言った。
「QBは現地住民の紛争や民間人に被害が出る可能性があるケースに集中して出現する。こちらから仕掛ける作戦であれば、出る可能性は低いと見て良い」
 これまでの統計上のデータから言ってスミルノフはそう判断して答えた。
「兵に犠牲が出る可能性がありますね」
「司令部の命令だ。そもそも犠牲なしに鹵獲できる程甘い相手ではない。宇宙空間では尚更だ」
 スミルノフは犠牲もやむ無しと考えていたが、心中実のところは、この作戦に余り乗り気ではなかった。
 政府と司令部のガンダムへの見え透いた欲が出ているこの作戦、獣に手を出すとどのようなしっぺ返しを喰らう事かと。
 だが、かといって人革連の軍人として、CBの存在を何としても許すわけにはいかないのも事実。


―経済特区・東京・JNN本社―

 絹江は資料室である事について調べていたが、そこで苦労してとうとう手がかりを見つけ、驚愕していた。
 昔から脈々と続く失踪者年鑑。
 どちらかというと女性の比率が多く、とりわけ何故か十代の少女が結構な割合を占める。
「暁美ほむら……。見つからない時は偽名かと諦めかけたけれど、苗字で検索をかけてみたら21世紀の失踪者名簿の中にある一人って……」
 これは偶然なの……?
 他人の名前を名乗ったイタズラでなければ……。
 あの子は300年近く生きているとでも言うの。
「そんなまさか……」
 絹江は何か薄ら寒くなり、コーヒーを飲み込んで口の渇きを潤す。
 いや、昔の情報セキュリティなんて穴だらけ、いくらでも改竄は可能。
 けれど、QBという自称異星生命体……確かに地球上に存在する生物でないのは、生物学者の発表で明らかだった。
 もし本当に異星生命体だとして、ついこの前地球に突然現れたの?
 いや、違う。
 CBが後で差し替え映像を入れて来たのが、もしあれがCBにとっても予想外の展開だったとしたら。
 あの子が言ったとおり、QBの言葉に嘘は無いのなら、QBにはCBと共に介入する事に何かの利益がある……。
 そして紛争根絶は嘘ではないけど、真実ではない。
 何か別に目的があるというの……。
 あぁ……まだ全然分からない。
 何だか、またあの子に会ってみたい。
 イオリア・シュヘンベルグとの関連もまだ捨てきる事はできない。
 それに偶然かもしれないとはいえ、暁美ほむら……やはり気になる……失踪者……。
 失踪者。
 CBの技術力には絶対的に技術者が必要……。
「これだ」
 そして、絹江は失踪者をキーワードに調査を続ける事にしたのであった。
 その日JNNのニュースではアザディスタンへの国連による援助が行われる予定となり、使節団が現地に到着した映像が流れていた。
 まだ、国連大使、アレハンドロ・コーナーは死んでいなかった。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 CBのガンダム四機はオーバーホール中であった。
 ブリッジにて、クリスティナ・シエラが一人作業していた所、リヒテンダール・ツエーリが入ってくる。
「あれ、フェルトは?」
 言って、リヒテンダールはクリスティナの席の後ろに立つ。
「気分が悪いからって、モレノさんのとこに行ったわ」
 モニターを操作しながらクリスティナが答え、席に手を置きながらリヒテンダールが尋ねる。
「当直連ちゃんすか?」
「そうなのよねぇー」
 大変でしょう、とわざとらしくクリスティナが言った。
 以前もあったようなやりとりながら、リヒテンダールが提案する。
「ここー、俺見てますから、食事してきていいっすよ」
 クリスティナも以前と全く同じく反応をする。
「えっ、本当? 優しい!」
 リヒテンダールは照れる。
「それほどでも……」
 即座にクリスティナはブリッジを後にしようと席から去りながら、言った。
「でも、好みじゃないのよねぇ」
「悲しい……」
 クリスティナがブリッジを出ると同時に、リヒテンダールが溜息をついた。
 そしてリヒテンダールが、操舵席について、トレミーのGNドライブによる粒子充填状態を見始めた矢先……。
「どうして人革連の宙域から抜けないんだい?」
 目の前のモニターにQBが現れた。
「え……って、うぉぉ! 本物! QBすかっ!?」
 リヒテンダールは初めて生で見た事でテンションが上がり、驚愕した。
「そうだよ。僕はQB。リヒテンダール・ツエーリ。人革連の宙域から抜けないのかい?」
 QBは質問を繰り返した。
「へ?」
 リヒテンダールはその意味が良く掴めなかった。
「人革連と戦いたいというのなら別に構わないけど、僕らとしてはCBが壊滅するのは困るんだよ。今はオーバーホール中だろう?」
 QBもQBで全くいつも通りの調子で言う。
「な、何言って……」
「人革連が今ガンダムを狙って、この艦の位置を見つける為に、小型探査装置をばらまいた所なんだよ。この人革連の宙域に君たちがいるのは運が悪いとしか言いようがないけどね。じゃあ、僕は伝えたし帰るよ」
 言って、QBはリヒテンダールの様子も無視して消えた。
 一方的なQBの言葉に一瞬呆けたリヒテンダールであるが、我に還る。
「……え……えーと、QBがわざわざ伝えてきたって事はもしかしなくても、マジすか?」
 呟いて、操舵席を立ち上がりフラっとリヒテンダールはフェルトのオペレーション席を見ると何もなかったが……突如Eセンサーに反応が出て、通信子機がモニターに表示されたのを、見た。
「お? げ……げげげ!! これはやばいっすよ!」
 ようやく本当だと分かったリヒテンダールは慌てて操舵席に戻り、艦内放送をする。
[スメラギさん! 人革連にトレミーの位置がバレたみたいです! とりあえず、宙域を逃れるよう発進させます!]
 真剣な表情でリヒテンダールは人革連の静止軌道衛星領域から逃れる方向へとトレミーを発進させた。
 即座にスメラギからの応答があり「加速Gは無視して構わないからすぐに最高速で出して」と指示を受け、リヒテンダールはその通りにする。
 そこから一分もしないうちにフェルト・グレイス、丁度食堂についたばかりだったクリスティナ、そしてスメラギ、ラッセ・アイオンが慌ててブリッジに現れる。
「リヒティ、ナイス判断よ。まさか本当にオーバーホール中に狙われるとは思わなかったわ」
 スメラギは自身の席に手を置いて、リヒテンダールを褒める。
「ホントホント、見直したわ。気がつくのスッゴイ早いし」
 クリスティナも褒めた。
 それにリヒテンダールは微妙そうに事情を言いながら操舵を続ける。
「いやぁ……。実はQBが教えに現れてくれたんすよ。人革連が今ガンダムを狙ってるって」
「なぁんだ、ってQBが!?」
 それにクリスティナががっかりしようとした所、驚いた。
「またQBかよ」
 ラッセが言った。
「全く……本当に、QB様様ね。それにリヒティ、QBは人革連はガンダムを狙ってるって、そう言ったのね?」
 スメラギは頭に手を当てて髪を掻きながらも、一つ息をついて、リヒテンダールに尋ねた。
「はい、そう言ってました。『僕らとしてはCBが壊滅するのは困るんだよ』とかも言ってましたけどね。心配してるんだか、心配してないんだかサッパリすよ」
 訳がわからない、とリヒテンダールは答えた。
「QBには感情が理解できない、感情というものが存在しないようだから……。ともかく、QBがガンダムと言った以上、人革はガンダムを鹵獲しに来るつもりの可能性が高いわね。戦術も立てやすくなるわ。皆、各自交代でノーマルスーツに着替えましょう」
 もしQBがいなければ……と思うと、スメラギは冷や汗ものであったが、何にしても、初動は完璧、追跡してくるのであれば、退避しながら迎撃すれば良い。
 このタイミングならそれで凌げる。


―人革連・高軌道ステーション管制室―

 一方、当の人革連でセンサーを発見した頃。
「AE3288の双方向通信が途絶えました」
 オペレータが報告し、ミン中尉が指示する。
「中佐に報告」
 そして、すぐにスミルノフが駆けつける。
「AE3288の双方向通信が復活。代わりにAS8723が途絶。位置は、EAR04。対象は既に動いている可能性があります!」
 更に報告が入る。
 ミン中尉が言う。
「まさか、これほど近くにいたとは」
 対してスミルノフはこのままでは逃げられてしまうと左腕で指し示し、急いで命令を出す。
「敵の初動が早い! 管制室はトレースを続けろ! 特務部隊頂武の総員に通達、モビルスーツ隊、緊急発進! この機会を取り逃がすな!」
 そこから、待機していた隊員達が即座に多目的輸送艦ラオホゥに乗り込んで、出撃する事となる。
[緊急出撃準備! 0655より、一番艦から順次出撃する! ……戦闘乗員は、加速に備えよ。140秒後に緊急加速を開始する!]
 オペレーターからの通信が流れる。
 ラオホゥのブリッジ内ではスミルノフが既にティエレンタオツーに乗り込んでいたソーマ・ピーリスと通信で会話をしていた。
「少尉、全感覚投影システムの具合はどうか」
[問題ありません、中佐。オールグリーンです]
 モニターに映るピーリスが淡々と言った。
「少尉にとってこれが初めての実戦になる。期待しているぞ」
[了解です、中佐]
 そして、140秒が経過。
[全艦加速可能領域に到達、加速開始します!]
 四隻のラオホゥがプトレマイオスの追跡すべく、出撃した。


―CBS-70プトレマイオス―

 ガンダム三機にはガンダムマイスターがそれぞれ乗り、コンテナで待機、デュナメスだけが左足に応急処置で固定用軸を取り付けコンテナに固定、火器管制の調整も突貫で終了していた。
 CBS-70プトレマイオスは元々あくまでガンダムの輸送艦と後方支援が目的であり、武装は一切装備無し、敵艦との直接戦闘も想定しておらず、最高速度も人革連のラオホゥの最高速度に負けていた。
 ブリッジからスメラギがガンダムマイスターに指示を出す。
[各ガンダムは敵輸送艦が追いついてくるまでコンテナで待機。また、出撃はコンテナから直接になるわ。ただし、ロックオンは仕方ないけど脚部をコンテナに固定して、GNライフルによる迎撃射撃状態で待機。接近する艦船は、輸送艦、ラオホゥ四隻、こちらの位置の追跡で精一杯の筈。敵の狙いはトレミーでもあるでしょうけど、真の狙いは、ガンダムの鹵獲。一機だけにならないよう気をつけて。だから、通信できなくならないよう、オービタルリングの電磁波干渉領域は使えない。こちらを捕捉した瞬間あちらは艦船からのミサイルを発射、その後モビルスーツによる直接戦闘、場合によってはブリッジ分離の後、コンテナによる特攻を仕掛けてくる可能性があるわ。迎撃を頼むわね]
[了解][了解][了解][了解]
 ガンダムマイスターから応答が来る。
「敵輸送艦相対戦闘開始距離到達時間までまであと10分です」
「敵通信エリアから抜け出すまでは後12分かかります」
 フェルトとクリスティナがそれぞれ報告した。
「さあ、逃げきるわよ!」
 スメラギが腕を組んで言った。


―多目的輸送艦ラオホゥ―

「中佐、通信遮断ポイント、順次移動していますが、依然数に変化ありません」
 オペレーターがそう報告する。
「CBの宇宙輸送艦であると見て間違いない。どうやら迎撃にガンダムを発進させて来ない所からするに、無理矢理逃げきるつもりだ。目標は敵輸送艦と推測。捕捉次第、作戦行動に入る! 全艦ミサイルの射出準備及びモビルスーツ全機発進準備!」
 スミルノフはそう指示したが、かなり状況は負が悪いと見ていた。
 逃げ切られてしまえばそれまでである以上、捕捉するまではとにかく最短距離、最速で追いかけるという作戦しかないからであった。
 そして、9分後。
 多目的輸送鑑ラオホゥはプトレマイオスを間もなく捕捉する状態に入った。
 コンテナのハッチも開放し、青色のティエレン宇宙型の出撃体勢に入る。
 時を同じくして、プトレマイオスはガンダム三機をコンテナから出撃させた。
 プトレマイオスの後部を中心に三角形の頂点を守るような位置を維持して、共に通信エリアからの離脱を図るべく、後退。
 デュナメスはコンテナの一つを開けてそこに脚部を固定し、射撃体勢で構える。
 そして10分。
[全艦ミサイル攻撃開始! 同時にモビルスーツ隊発進! 本隊の作戦開始時間だ。命を無駄にするなよ!]
 スミルノフがそう命令し、戦いの火蓋が切って落とされた。
 ラオホゥ四隻前方のハッチから一斉にミサイルが射出される。
「ミサイル、数96!」
 その映像を捉えたフェルトが報告。
 その数にクリスティナが動揺する。
「お、多すぎるっ!」
 すかさずスメラギが命令し、安堵させる。
「クリス、GNフィールド展開! 大丈夫、少しぐらい受けても、耐えられるわ!」
「りょ、了解!」
 クリスティナが焦りながらも、コンソールを操作、プトレマイオスの船体外部が緑色の輝きを放つ。
 直進するミサイルが48、斜め左右から迫るミサイルがそれぞれ24。
「くっ!」
 エクシアがビームで迎撃。
「やらせるかっ!」
 デュナメスが両膝部の8基のGNミサイルを発射、エクシアがビームを放っている左方向へ、同じようにGNスナイパーライフルでも狙い撃つ。
「やらせないっ!」
 キュリオスがコンテナからデュナメスよりも大量のGNミサイルを右方向へ射出。
 即座に人型に変形し、GNビームサブマシンガンを連射モードで撃つ。
「やらせは、しないっ!」
 ヴァーチェが前方に密集して迫るミサイルに向けてGNバズーカを発射し一掃。
 プトレマイオスの盾になるようにGNフィールドを展開する。
 ミサイル群の爆発が起き、モニターにその映像が映し出される。
 左方向は5発撃ちもらし、右方向は24発全て相殺、前方は13発が残った。
 前方の13発のうち半数以上をヴァーチェが身を挺して防衛、計十発程度が打ち落とされることなくプトレマイオス後部に直撃し、艦内はその衝撃で揺れる。
「きゃぁぁぁっ!」
 クリスティナはプトレマイオスで戦闘になるとは考えておらず目をつぶり頭を抱え込んで叫んだ。
「ぅっ、くぅっ!」
 揺れに耐えながらスメラギも声を出し、しかし目はモニターを見続ける。
 フェルトが報告する。
「損傷軽微、問題ありません」
「よし、次はモビルスーツよ!」
 スメラギが言った通り、ラオホゥ四隻のコンテナから、ティエレンが次々と出撃する。
 ラオホゥ本体は速度を減衰させ、距離を取り始める。
「敵機編隊、ティエレン54機。以前監視を行った新型もいます」
「数は多いけれど、敵の狙いはガンダムよ。敵の指揮官が優秀であれば、15機程度が戦闘不能になれば鹵獲はできないと見て撤退する筈よ。このまま耐えきれば、逃げきれる。この二分が正念場よ」 
[了解][了解][了解][了解]
 スメラギの作戦通り、プトレマイオスは人革連の通信エリアから離脱するまで、モビルスーツ隊の迎撃をして耐えきる事。
 一方、当のモビルスーツ隊はプトレマイオスを180度包囲するように散開し、スミルノフとピーリスは直進する本隊にいた。
[デカブツの斜線軸には入るなよ!]
 人革連において、デカブツと呼ばれるヴァーチェは容赦なくモビルスーツを消滅させる事で有名。
 ガンダム四機の中で交戦した場合最も危険と目されている。
「狙い撃つぜ!」
 最初に先制で攻撃をしかけたのは最も射程距離の長いデュナメス。
 コンテナからとは言え、敵が接近するのに死角が存在しない為、ティエレンの頭部を狙って最早習慣と言う様子で一機、二機と撃ち抜いて行く。
[ロックオン・ストラトス、このような非常時に手加減する必要など無い]
 ティエリア・アーデがロックオン・ストラトスのやり方に疑問を呈した。
[そうは言ったって、これで良いだろうさ。熱くならないうちに撤退してくれれば充分。ほら、そろそろ射程圏内だ]
 ロックオンはそう言うなよ、と通信で返した。
 しかし、ティエリアにしてみれば、そうは言ったって、手加減なんてヴァーテェにはできない。
 一定距離に到達したとき、異変が起こった。
[ぅあァァアっ! ぁあ! アァぁ!]
 キュリオスに乗るアレルヤ・ハプティズムが叫び声を上げ始め、ガンダムの動きも停止した。
[どうしたの、アレルヤ!]
[どうした、アレルヤ!]
 スメラギとロックオンが通信で確認を入れる。
 呻き声ばかりでまともな返答が返って来ない中、突如アレルヤの様子が豹変する。
[クソッ! どこのどいつだ! 勝手に俺の中に勝手に入ってくんのはぁっ! 殺すぞッ!]
 キレた若者となったアレルヤ、否、ハレルヤは離脱作戦も無視してティエレンの部隊に巡航形態で単独突撃して行った。
[少尉! ピーリス少尉! どうした!?]
 一方、人革連でも同じような現象が起きていた。
 叫び声を上げるピーリスにスミルノフが通信を入れるが返答は無い。
[いやぁぁぁぁっ! やめてっ!]
 叫び声から、突如誰かに向けてピーリスは声を出した。
 ティエレンタオツーの動きがおかしくなり、銃を構え、キュリオスの接近してくる方向に向かって、あちこちに叫びながら乱射し始める。
[いやぁぁァァっ!]
 味方にも当たりかねない状況にスミルノフは素早く指示を出す。
[作戦中止! 現宙域から離脱せよ! 総員、撤退! ピーリス少尉を回収しろ!]
 ラオホゥからも信号弾が上がり、CBへの攻撃を中止し、モビルスーツ隊が戻り始める。
 ピーリスが対ガンダムの切り札であった所使い物にならず、更にはCBがガンダムの鹵獲が目的であることをほぼ分かっている状況で、このようなイレギュラーを押してまで作戦遂行は絶対に不可能と見たスミルノフの判断は早かった。
[中佐、ガンダムが一機こちらに急速接近してきます!]
[何っ!?]
 しばらく絶叫を上げてすぐに気絶したピーリスの乗るティエレンタオツーを他のティエレンが腕部を両側から持ち、撤退していた所にキュリオスが現れ、人型形態に変形して、ティエレンタオツーの背後に最小威力のGNビームサブマシンガンを撃ち始める。
「あぁ? 何だよ、もう寝てんのかよ! つまんねぇなぁ! 人様の頭の中に土足で入ってきておいて、勝手な奴だなぁ、ぉい!」
 遊ぶように撃つが、ティエレンタオツーに損傷は殆ど無い。
[アレルヤ、いえ、ハレルヤ! トレミーに戻りなさい! 相手はもう撤退を始めているわ!]
 その通信に、キュリオスは攻撃を止める。
[あぁ? スメラギさんかぁ? 今俺はあいつに中に入ってこられてイライラしてんの。放っといてくれないかなぁ!? アーははハはハっ!! 楽しいよなぁ、アレルヤァッ!!]
[ハレルヤっ!]
 禍々しい表情でハレルヤは怒鳴って、再び攻撃を開始する。
「少尉はやらせんっ!」
 そこへ、ピーリスを守るべく、撤退を開始していたティエレンのうち数機がキュリオスの前に立ちはだかる。
 そこへ体の操作を取られているアレルヤが必死にハレルヤに呼びかけていた。
《やめるんだ、ハレルヤ! やめてくれ!》
《あぁ? 何だよ、アレルヤ、お前もかよ。あーあー、分かった分かった。面倒なもんも沸いてきたし、じゃ、後はよろしくぅー》
 脳内会話を交わし、気まぐれなハレルヤはティエレンが沸いて出てきた事に興ざめしたのか、すぐに体を交代した。
「全く……」
 意識を取り戻したアレルヤはため息を吐いて巡航形態に変形する。
[キュリオス、トレミーに帰還する!]
 命を張ってでもピーリスを守ろうとしたティエレン数機は呆気なくキュリオスが戻って行った事に驚いた。
 一体なんだったのか、と。
[……総員、撤退だ!]
 スミルノフは、一瞬冷や汗の出る状況だったが、我を取り戻してもう一度命令を下し、ラオホゥへと戻っていった。
 接近するまでにデュナメスに八機ものティエレンを戦闘不能にされた上、ヴァーチェによる大破も三機、デュナメス、エクシアにより、更に五機、全十六機を撤退信号を放つ前にやられ、まともに交戦する事も叶わず撤退する事になった。
「少尉の様子は一体どういう事だ……それにあの羽付き……」
 スミルノフは苦汁を飲まされる形になりながらも、ピーリスの異常について、不可解なものを覚えた。
 対する、プトレマイオスのブリッジでクリスティナが口を開いていた。
「アレルヤってキレると豹変しちゃうタイプの人だったんだ……。意外」
 完全に引いた顔で言った。
「そ……そうっすね」
 リヒテンダールも同じような顔で相づちを打った。
 ラッセは腕を組み、目を閉じて唸った。
「クリス、リヒティ、アレルヤには、事情があるのよ……」
 スメラギはまさかこんな想定外の事態になるとは思わなかった、と眉間に手を当てながらも、一応誤解を解くように言った。
 ガンダム各機、コンテナの中に戻り、最後にキュリオスが後から戻ってきて、アレルヤは大きなため息をついて機体から降りた。
 最初にアレルヤが向かったのはブリッジ。
 開けて入った瞬間、アレルヤには普段とは異なる視線が突き刺さった。
 感情を顔に余り出さないフェルトですら、その目は微妙にジト目。
 クリスティナは完全に引いたまま。
 リヒテンダールはひきつった苦笑。
 ラッセは振り返りもしない。
「すいません、スメラギさん……」
 ハレルヤのせいで僕のイメージが……とアレルヤの心は傷ついた。
 せめて、通信を繋いでなければあんな発言が皆に聞かれる事なんてなかったのに……。
 アレルヤは酷く落ち込んだ様子で謝った。
 スメラギはアレルヤの肩をポンと叩き、無言でどんまい、と表すようであった。
 続けて、スメラギは声をかけた。
「今回のは事故のようなものだとして……大事なのは原因よ。どうしてああなったか分かるかしら?」
 アレルヤが口を開こうとしたところ、先にあっさり説明をするものが現れる。
「それは脳量子波の干渉が原因だよ。スメラギ・李・ノリエガ」
 アレルヤの肩にQBが現れた。
「うわぁぁあっ!?」
 思わずアレルヤが驚いて声を上げた。
「QB!?」「本物!?」「また出たぁ!」「QB……」「おぉ……」
 それぞれスメラギ、クリスティナ、リヒテンダール、フェルト、ラッセ。
「いきなり揺らさないで欲しいな、アレルヤ・ハプティズム」
「だから、いきなり現れないで欲しいな、QB……」
 QBとアレルヤは互いに不満を言い合った。
「あー……QB、今回の事、CBを代表して感謝するわ」
 スメラギはアレルヤの肩に乗ったままのQBに軽く頭を下げて言った。
「当然だよ。僕らは君たちに壊滅されると困るからね」
 QBはただ、事実を述べた。
 スメラギは顔を若干引きつらせながらも尋ねる。
「そ……そう。それで、アレルヤの様子がおかしくなったのが脳量子波の干渉っていう話だけれど、詳しく説明はしてもらえるかしら?」
「アレルヤの脳量子波に干渉したのは、人革連のソーマ・ピーリスという超人機関出身の兵士さ。彼女もまた、干渉を受けていたよ」
 QBの説明にアレルヤは驚愕する。
「超人機関だって……まさか、あの施設はまだ存在しているというのか、QB!」
「存在しているよ。人革連のスペースコロニー・全球にね。拉致した子供で人体実験を繰り返している。結果が出ないと処分するなんて、勿体無いよね」
 超人機関の子供は殆ど自身の環境に負の感情を抱くこともないみたいだから、そこまで勿体無くはないけど、とはQBは言わなかった。
「何てことだ……」
 淡々としたQBの説明にアレルヤは呆然とした。
「その非人道的行為をしているという超人機関の事は問題だけれど、人革連の新型に乗るその兵士が今後も現われれば、その度にアレルヤは互いに影響を受け合う事になるのね……」
 厄介だわ……とスメラギが呟く。
「それはどうかな。ソーマ・ピーリスには外部からの脳量子波を遮断するスーツが作られると思うよ。君たちに同じようなものを作れないなら、アレルヤはガンダムマイスターを降りた方が良いかもしれないね」
 QBの説明にスメラギはそうか、と呟く。
「対策を打ってくるという事ね……」
 そこへ、アレルヤがQBが帰りそうになる前にある一つの推測から真剣に尋ねる。
「QB、刹那に相手のパイロットの顔を見せた事があるらしいけど、僕にもそのソーマ・ピーリスの顔を見せて貰えないかい?」
 その頼みにQBはスメラギの席の背もたれに飛び移ってアレルヤの目を見る。
「その程度なら別に良いよ。ソーマ・ピーリスはこれだ」
 映像がアレルヤの脳裏に伝わり、アレルヤはまたしても驚愕の表情を浮かべる。
「な!? これはマリー!? マリー・パーファシー!」
「じゃあ、僕は帰るね」
「あ、ちょっと!」
 本当に勝手にいなくなったQBにスメラギは声を出したが遅かった。
 フェルトは自分の席から終始普段に比べ興味津々の様子でQBを見ていたが、QBがいなくなった瞬間には少しだけ目を見開いた。
 アレルヤは目に明らかな動揺の色を浮かべていた。
 まさかマリーが……。
 別の人格を上書きされているのか……?
 人革連・超人機関……あの忌まわしき研究を未だに行っているというのか……やってくれる。
 アレルヤは拳を強く握りしめていた。
 その後、スメラギはその場を、QBを本当に見たことで主にクリスティナが騒いでいた所、一旦解散にし、リヒテンダールに人革連の宙域からは更に離れるように指示した。
 そして、スメラギは極秘に脳量子波について知っているティエリアとイアン・ヴァスティに話をする事に決めた。
 一方、フラフラとブリッジを後にした、アレルヤはティエリアと同室の自分のベッドの上でぐるぐると思考を巡らせていた……。


圧倒的物量で行われる殲滅作戦、そこに隠された真の目的とは、隠されもすること無くQBが暴露した。
罠に嵌る事無く早々に逃げ出したCB。
ヴァーチェが隠された能力をさらけ出す事など無かった。
覚醒を促されたのはキュリオスではなくハレルヤ。
アレルヤを過去へと誘ったのは低軌道ステーションでの出会いではなく宇宙での出会いだった。
ティエレン・タオツーを操る超兵一号、ソーマ・ピーリスとアレルヤとの出会いは宇宙に何かもたらしたのか。
ソーマ・ピーリスの存在が、アレルヤにあるミッションを決断させるのは間違いない。
それは、過去への贖罪なのか。
血の洗礼、それは神に背きし者への祝福なのか。


―モラリア・都心―

 夜半、QBを肩に乗せたショートヘアーの黒髪の少女一人と、それと全く同じ容姿をした残り六人の少女が、広い道路にて、しかし周囲の色彩が通常とは異なる場にて、巨大な白いローブを着た巨人のような異形の者五体と相見えていた。
「さあ、狩りの時間だ。頼むね、皆」
『了解』
 QBがそう言うと、肩にQBを乗せている少女を先頭に、七人はV字の隊列を組んで一番近い魔獣の一体に突撃していく。
 魔獣達は一斉に光線を放つが、少女達は驚異的な動体視力で見切りそれを全て交わす。
 魔獣の一体をあっという間に射程距離に捉え、先頭の少女が右腕を前に突き出し、左手をソレに添えるように構える。
 瞬間、右腕に合ったサイズの紫色に輝く小型のクロスボウガンが顕現し、自動で魔力の矢が装填され射出される。
 一発に留まらず射出後に即座に次弾が装填され、甲高く小気味良い音をキュキュンと立てて次々と連射される。
 後を付いていた残り六人の少女は、一体目の魔獣を左右に散開して囲み、同様の装備を構えて速射する。
 一発一発の威力はそれ程では無いものの、七人一斉の集中砲火によって、魔獣の身体は見る見るうちに損傷していく。
「グゴォォァァアァ!!」
 魔獣は野太い声を上げ、数秒も経たずして、形を維持できずに崩れ落ちて行く。
 残り四体の魔獣は何もしていなかった訳ではなかった。
 それぞれ少女達に向けて次々に光線を放っていたが、彼らに背中を見せている少女は後ろを振り向く事無くそれを華麗な跳躍とステップで全て避けながら一体目の魔獣に手を休める事無く攻撃をし続けたのだ。
 七人の魔法少女は互いの視界を補い合い、その情報を瞬時に脳量子波で常に伝える事でそれを可能にしていた。
 一体目が終われば途端に二体目へと口で会話をすることもなく、無言で突撃し、そのまま三体目、四体目と撃破していった。
 ものの一分も掛からないうちに五体の魔獣は殲滅され、崩れ落ちて消滅した後には、地面に散らばった黒い結晶だけが残っていた。
 すると、周囲の色彩が元に戻って行く。
「お疲れ様、皆」
「いつも通りよ」
 QBを肩に乗せている少女代表してQBの声に答え、手分けして少女たちはそれらを拾い集め、風のようにどこかへ去っていく。
 イノベイド魔法少女・ほむらナンバー部隊。
 彼女達が世界各地の魔法少女が不足している地域の都市、夜半に現れては駆け抜ける光景が最早恒例になって数ヶ月。
 彼女たちの戦いは力果てるその時まで、続く。



[27528] QB「アレルヤ・ハプティズム、君の出番は余り必要性が無いよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/08 18:45
―UNION・対ガンダム調査隊(仮)―

 人革連が宇宙でCBと戦闘を行ったと見られる情報が入っており、グラハム・エーカー達はその件について会話をしていた。
 しかし、デブリの四散状況から、それほど大した戦闘が行われていないのが分かり、どれほどガンダムに性能があるのかは不明であった。
 一方、研究室でビリー・カタギリとレイフ・エイフマンはモニターを見ながら話をしていた。
「やはりこの特殊粒子は、多様変異性フォトンでしたか」
 カタギリの興味深そうな呟きにエイフマンが目を細めて言う。
「それだけではないぞ。ガンダムは、特殊粒子そのものを機関部で作り出しておる。でなければ、あの航続距離と作戦行動時間の長さが、説明できん」
「現在、ガンダムが四機しか現れないことと……関連がありそうですねぇ」
 両者共にモニターを見たまま会話をする。
「げに恐ろしきはイオリア・シュヘンベルグよ。二世紀以上も前にこの特殊粒子を発見し、基礎理論を固めていたのだからな」
「そのような人物が、戦争根絶なんていう、夢みたいなことをなぜ始めたのでしょうか?」
 正直理解できない、とカタギリは疑問の声を上げた。
 エイフマンが持論を述べる。
「CBそのものは紛争の火種を抱えたまま宇宙に進出する人類への警告……そうわしは見ておる。この数ヶ月でほぼ出た結論であれば、恐らくCBにとってもQBはイレギュラー。これから一体どうなることか……」


―人革連・低軌道ステーション―

 セルゲイ・スミルノフは巨大なモニターの前でキム司令と繋がった会話をしていた。
[CBの移動母艦の映像のみとは……数十万機の探査装置と数機のティエレンを失った代償にしては少なすぎたな]
 スミルノフが直立不動で答える。
「弁明のしようもありません。いかなる処分も受ける覚悟です」
[君を外すつもりはない。辞表も受け付けぬ。確かに本作戦は失敗した。……だが、君に対する評価は変わってはおらんよ。私が君に預けたピーリス少尉が錯乱したとあっては仕方がない。切り札が機能しないのは想定外だ。原因は判明したか?]
 キム中佐が尋ねた。
「現在調査中です」
[そうか。今後も我が軍はガンダムの鹵獲作戦を続ける、頼むぞ、中佐]
「お言葉ですが、ガンダムの性能は底が知れません。今回の件ですらコクピットを狙わないCBに対し、鹵獲作戦を続けることはいずれ……]
 スミルノフが、ガンダムを目当てにする作戦など積極的に進めるのは徒に兵を失うだけだ、と言おうとした所。
[それもわかっている。だが、あれは我が陣営にとって必要だ。QBという存在がいる以上、周囲に何も無い地域でこちらから仕掛けざるを得ない。それに当たり……主席は極秘裏にUNIONとの接触を図っておられる]
 スミルノフが聞き返す。
「UNIONと?」
[CBへの対応が、次の段階に入ったということだ]
 陣営間で手を組み、CBを周囲に何も無い位置にわざとお引き寄せて、更に大規模な物量で押し切るという作戦が始まっていた……。
 スミルノフはキム司令との会話を終え、ソーマ・ピーリスが異常をきたした件について、超人機関技術研究所分室に向かった。
 台の上に寝かせられたピーリスを前に、目にバイザーを付けた研究員に確認を取っていた。
「少尉の体を徹底的に検査しましたが、問題はありませんでした。脳内シナプスの神経インパルス、グリア細胞も正常な数値を示しています」
 スミルノフが疑問を呈する。
「では、なぜ少尉は錯乱行動をとったのだ?」
「タオツーのミッションレコードを分析したところ、少尉の脳量子波に異常が検知されました。通常ではあり得ない現象です。外部からの影響を受けた可能性も……」
「外部からの?」
 スミルノフが驚くが、心当たりがあるように、顎に手を当てる。
 あの羽付きのガンダム……少尉を執拗に狙っていた……まさか……。
「もしそうだとすると影響を与えた人物は、少尉と同じ、グリア細胞を強化され、脳量子波を使う者に限定されます」
「同類だとでも言うのか?」
 もしそうだとしたら問題だろう、とスミルオフは語調を強めて言った。
「可能性の問題を示唆したまでです」
 一切悪るく感じることも無い様子で研究員は答えた。
「対応策は?」
「少尉のスーツに脳量子波を遮断する処置をしました。同じ轍は踏みません」
 少し口元を吊り上げ、端末を見ながら言った。
 スミルノフは超人機関の研究に否定的であり、嫌悪感を少し出すように尋ねる。
「それ程までして少尉を戦場に出させたいのか」
「CBなどという組織が現れなければ、我々の研究も公にはならなかったでしょう」
 研究員は淡々と答えた。
 CBを引き合いにだす言い方に呆れも感じながらも、スミルノフは研究員にCBのガンダムのパイロットの一人がピーリスと同類である可能性を伝え、何か分かったら報告するように言い、去っていった。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 CBは人革連からの襲撃を受けたものの、損傷は極僅かで済み、対応はほぼ完璧といっても問題ない水準であった。
 その中でアレルヤ・ハプティズムは迷っていた。
 どうする……?
 既にQBによってスメラギさん達にも示唆された事実を……。
 それにアレはマリーだった。
《やることは一つだろ》
《……ハレルヤ》
 アレルヤの頭に声がする。
《あの忌々しい機関が存続していて、俺らのような存在が次々と生み出されている。そいつは戦争を幇助する行為だ》
《叩けというのか? 仲間を、同類を。あそこにはマリーの仲間もいるかもしれない》
《おぃぉい、マリーマリーってなぁ。お優しいアレルヤ様にはできない相談かぁ? なら体を俺に渡せよぉ。速攻で片つけてやっからさぁ。……あのときみたいにぃ》
 アレルヤはハレルヤのその言葉で昔超人機関から脱出し、船で漂流していた時の事を思い出す。
 生き残るためには、一緒に抜けだした仲間を殺さざるを得なかった。
《っハ。やめてくれハレルヤ。何も殺すことはない、彼らを保護することだって》
 気を取り戻したアレルヤが言った。
《戦闘用に改造された人間にどんな未来がある? そんなこと自分が一番よくわかってるだろ。えぇ? ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよ?》
《違う! 僕がここに来たのは》
 アレルヤは口に出しながら頭を振る。
《戦うことしかできないからだ》
《違う!》
《それが俺らの運命だ》
《違うっ! 僕はっ……!》
 そして息を切らせる。
「はぁっ……はぁっ……」
 くっ……ハレルヤの言う事も尤もだ……。
 あの機関だけは放置してはおけない。
 僕がやらなければ、誰がやるというんだ……。
 この悪夢のような連鎖を僕が断ち切る。
 今度こそ、僕の意思で。
 そう心に決めて、アレルヤは自室に戻り、端末を開いてミッションプランの作成を始めた。
 スメラギ・李・ノリエガ達にも知られた超人機関の存在。
 アレルヤはデータを素早く纏め、スメラギの部屋に向かった。
 心なし焦っていた為、声をかける事なく入ったその部屋には、イアン・ヴァスティとティエリア・アーデがいた。
「アレルヤの為のスーツの処置だけど……アレルヤ!」
 スメラギが驚いた。
「スメラギさん……今、僕のスーツというのは」
 都合の悪そうな顔をティエリアとイアンもした。
「ええ……そうよ。あなたのスーツに外部からの脳量子波を遮断する処置を施す話をしていたのよ」
 仕方なくスメラギが答えた。
「ですが……どうしてティエリアが」
「機密事項だ。君に教えることは無い。失礼させてもらう」
 言って、ティエリアはツカツカと部屋から退出して行った。
「あぁ、わしも一旦退室するぞ」
「悪いわね、イアン」
 髪を掻きむしりながら、イアンも出て行った。
「スメラギさん達は脳量子波について知っているんですか?」
 アレルヤは一瞬不審そうな顔をして尋ねた。
「……ある程度はね。別にCBが人体実験を行っているという訳ではないわよ」
 ややばつが悪そうにしながらも、スメラギは眉を上げて言った。
「そうですか……」
「それで、何か用があるのかしら?」
「スメラギさんとヴェーダに、進言したい作戦プランがあります」
 スメラギの質問にアレルヤは真剣な表情で言った。
「作戦プラン? まさか……」
「そのまさかです。戦争を幇助するある機関に対しての武力介入作戦。その機関は、僕の過去に関わっています。データに纏めたので良ければ見て下さい」
 言って、アレルヤはメモリースティックを渡して出て行った。
 スメラギは受けとったメモリーをすぐに開く。
「人類革新連盟軍超兵特務機関……そう」
 スメラギはその資料の全てに目を通し、ヴェーダに提案した所、ブリーフィングルームにて、アレルヤを再び呼んだ。
「作戦プラン、見させてもらったわ、あなたの過去も。確かに武力介入する理由があるし、ヴェーダもこの作戦を推奨してる……でも良いいの? あなたは自分の同類を」
 全てが言い終わる前にアレルヤは言う。
「構いません」
 遮られたスメラギはもう一人に確認を取る。
「……もう一人のあなたは何て?」
「聞くまでもありません」
 アレルヤは目を閉じて答えた。
「本当にいいのね?」
 目を開き、アレルヤは答える。
「自分の過去ぐらい、自分で向き合います」
「分かったわ」
 かくして、次のミッションプランが決定される。


アザディスタン王国に支援を開始する事になった国連。
アレハンドロ・コーナーはマリナ・イスマイールと会談し、本当の目的を明かす事なく、最後まで上辺だけで話を突き通した。
経済特区・東京ではルイスの母がルイスの元を訪れており、何かにつけてルイスを母国に連れて帰ろうとしていた。
対するルイスは、サジの事をできるだけ好印象に思ってもらう為、色々な画策を始め、ルイスの母にサジの料理を食べさせたりと、少しずつ無理矢理帰国させようとする思いを削りつつあった。
同じく東京に存在するJNNの記者、絹江・クロスロードは失踪者というキーワードを元に、過去に失踪した技術者や科学者の家を訪問し、情報を集めていた。
だが、大抵、余りにも昔の事の為に、得られる情報は少無かった。
しかし、それでもイオリア・シュヘンベルグがどのようにCBを設立したのか、という事についての筋は見えてきたのだった。


そしてCB、プトレマイオスにて。
エクシア、デュナメスはプラン通り、南アフリカ国境紛争地域への武力介入を行い、そこでQBが出たり出なかったり、一方キュリオスとヴァーチェはラグランジュ4に存在する人革連のスペースコロニー・全球にある人革連特務機関に武力介入を開始した。
そちらにQBが現れる事はなく、あったのは、コロニー内に突入したアレルヤの葛藤。
大絶叫を上げながらGNハンドミサイルユニットの引き金を引き、コロニー内で最も大きな建物、人革連・超人機関研究施設を完全破壊した。
ここに来て初めて、大量の殺人行為をするに至ったアレルヤは、ミッション終了後、止まることのない涙を流し続け、プトレマイオスに帰投したのだった……。
ミッション自体としては、終了と同時に、CBからマスコミに対して超人機関の情報がリークされ、その情報は人革連に大きな影響を与えた。


―人革連・低軌道ステーション―

 スミルノフは研究員を拘束しに掛かっていた。
 調査段階の状態である所に、疾風のごとくCBが介入を仕掛けたのは余りにも痛手。
「CBソレスタルビーイングが、全球を襲撃した。目標は貴官が所属する超兵機関だ」
 その言語を聞いた研究員は驚愕する。
「がっ、そ、そんな……」
「私も知らされていない研究施設への攻撃……やはりガンダムのパイロットの中に超兵機関出身者がいたようだ」
「しかし、私は……」
 まだ調べる為の情報すらないのにそんな事どうしろと、という風であったが、スミルノフは有無を言わさずに命令を出した。
「私の権限でこの研究施設を封鎖。貴官には取り調べを受けてもらう」
「な、何ですと!? 待ってください!」
 即座にスミルノフの部下二人が研究員に手錠をかけた。
「この事件はすでに世界に流れている。何にせよ、我が陣営を不利な状況に追い込んだ、貴官の罪は重いぞ。連れて行け」
 言って、スミルノフは部下に研究員を連れて行かせた。
 CBに花を持たせるなど……。
 結果、研究員はピーリスに脳量子波遮断の為のスーツを施した切り、それまで……となった。


アザディスタンで起きた内紛により、故郷へと向かう刹那。
彼がそこで受ける断罪とは何なのか。
希望の背後から絶望が忍び寄る。
そしてとうとう悪意を持った大人に対する悪意の影が蠢き、牙を剥くのか。


―月・裏面極秘施設―

「そろそろ、頃合いだよ、QB」
「ふぅん、そうなのか」



[27528]  計 画 通 り
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/08 21:56
アザディスタン王国では戦争を起こさせようとわざと画策がなされていた。
アザディスタン王国は国教の解釈の違いにより、国民は大きく二つの教派に分かれていた。
マリナ・イスマイールは改革派。
そして、彼女が王女として即位する前までは親密にしていた保守派の宗教的指導者マスード・ラフマディーという人物がいた。
彼はこれまで、保守派の怒りを受け止める事でマリナの助けとなっていた。
このマスード・ラフマディーという人物を拉致する事で、改革派の仕業を見せかけ、保守派を煽り、内戦を起こさせる事を目的とした者達がいたのである。
そして、実際に拉致事件は起きた。
何者かに雇われた、アリー・アル・サーシェス達によって。
事件が起こったのは、プトレマイオスがラグランジュ4の人革連のスペースコロニー・全球に向かい、件のミッションを終え戻り始めていた頃であり、まだスメラギ・李・ノリエガ達とは地上の二機は通信が取れなかった。
刹那・F・セイエイとロックオン・ストラトスはその対応に王留美のサポートを受けて、アザディスタンの岩場地帯で待機していた。
内紛が起こり、介入を行うその時まで。
王宮ではマリナはマスード・ラフマディー拉致の情報に酷く動揺を受けた。
マリナは自身の提案を議会に出したものの、それが聞き届けられることはなく、改革派は、UNIONから秘密裏に打診された軍事支援を受ける方向で話を勝手に進めてしまった。
UNIONの狙いは、内紛に介入してくるガンダムの鹵獲であった。


―王留美所有・小型輸送艇―

 王留美が茶を飲んでいた所、端末に通信が入る。
「私です。そちらの状況は?」
[各所で小競り合いが起こっているようだが、大事ではないよ]
 端末に映った人物はアレハンドロ・コーナー。
「直ちに国外への退去を」
 王留美が危険である事から退去を進言する。
[ここに残るよ]
 フっと微笑んでアレハンドロがそれを断った。
 王留美からは後ろ姿しか見えていない。
「残る? 何故です?」
アレハンドロ・コーナーは、アザディスタンのビルの一室からあちこちに煙が上がっているのを見ながら、余裕有りげに答えた。
[この国の行く末を見守りたいのだよ。それに、君たちがどう行動するか、この目で確かめたくてね]


―アザディスタン・太陽光発電受信アンテナ施設―

 夜半、太陽光発電受信アンテナ施設の警備を担当していた、MSER-04アンフという胸部から鼻のように突出した頭部が特徴の、貧困国での主力モビルスーツのうち数機に紛れ込んでいた、超保守派の兵士達が、同じく警備中であった改革派の機体に攻撃を仕掛け始める。
 軍事支援に来ていたグラハム・エーカー率いる対ガンダム調査隊(仮)はフラッグの飛行形態で上空を哨戒中であった。
[む? ポイントDで交戦!]
 グラハムに伝えられる。
[やはりアンテナを狙うか。行くぞ、フラッグファイター!]
 グラハムがそう言って、その場所へと向かう事を宣言する。
[了解][了解]
 ハワード・メイスンとダリル・ダッジが返答する。
 即座にポイントDを捕捉した三機のフラッグであったが、
[中尉! 味方同士でやり合ってますぜ]
[どうします?]
グラハム・エーカーはその質問に対し、介入するにしても、判断がつかなかった。
「どちらが裏切り者だっ? レーダーが?」
 そこへ、フラッグの画面に障害が起き、ノイズが走る。
 瞬間、桃色の粒子ビームがアンフを構わず狙撃した。
「何!? この粒子ビームの光は、ガンダムかっ!」
 次々とアンフが沈黙させられていくのを見ながらグラハム・エーカーは驚きの声を上げた。
 狙撃したのは岩場地帯で待機していたデュナメス。
「ところがギッチョン!」
 別の場所にて、PMCイナクトから大型ミサイルが四発放たれ、空に打ち上がる。
「何!?」
 それを見たロックオン。
「ミサイルだと!」
 グラハム。
 ミサイルは落下し始めた瞬間に開き、更に無数の小型爆弾が散乱して発電受信アンテナ施設に落下する。
「数が多すぎるぜ!」
 ロックオンは連射して撃破するが、余りにも数が多く、為すすべ無く大爆発が起きた。
 火の手が上がった地上を見ながらグラハムが指示を出す。
[ダリル、ハワード。ミサイル攻撃をした敵を追え。ガンダムは私がやる!]
[了解!]
 ダリル・ダッジが答え、
[ガンダムは任せますぜ!]
 ハワード・メイスンも答え、二機はミサイルが打ち上げられた方角へと向かい、グラハムはデュナメスの方角へと向かった。
 グラハムのカスタム・フラッグが飛来してくるのを見ながら岩場にいたロックオンは悪態をつく。
「おぉおぉ、UNIONはアザディスタン防衛が任務じゃないのかぁ? やっぱり俺らが目当てかよ。狙い撃ちだぜ!」
 言ってロックオンはGNスナイパーライフルで上空の対象に狙撃をする。
 しかし、ビームが届く前からそれを察知したグラハムはカスタム・フラッグを巧みに操作し、滞空して急停止、モビルスーツ形態に変形してフラッグの股を開いてそのビームをやり過ごした。
「なっ!?」
 ロックオンが驚く。
「っがはぁっ! ……ぐふっ!」
 変形には膨大なGがかかり、グラハムは後ろに身体を引き寄せられ、再び身体を通常に戻した瞬間、口から胃液をヘルメット内に吐く。
「人呼んで、グラハムスペシャル!」
 そして良い顔で技名を言い切った。
 そのまま、リニアガンをデュナメスに向けて放つ。
 撃ち落せなかったロックオンはハロにシールド制御を頼み、被っていなかったヘルメットを手に取る。
 そして再びライフルを構え、
「二度目はないぜ!」
 言いながらロックオンは精密射撃モードで二発放つ。
 しかしフラッグは右に左と機体を無理矢理捻り、華麗に交わした。
「あぁっ、俺が外したぁ? 何だこのパイロット」
 驚きの操作技術にロックオンは呆れる。
「敢えて言わせてもらおう……グラハム・エーカーであるとぉッ!」
 そうロックオンには聞こえはしないがまたしても良い顔で高らかに宣言し、グラハムはデュナメスに対して突撃、蹴りを入れ、そのまま押し付ける。
「蹴りを入れやがったぁ!?」
 フラッグは、瞬時に右腕でプラズマソードを引きぬきを抜き、切りかかる。
「チィっ!」
 ロックオンは苦々しい表情を浮かべ、左腕で腰のGNビームサーベルを引きぬき、プラズマソードを受ける。
「俺に剣を使わせるとは!」
グラハム・エーカーは鍔迫り合いによって機体外部で高音が鳴る中、鬼気迫る表情で言う。
「身持ちが堅いなぁ! ガンダムッ!」
 対するデュナメスは左ふくらはぎのホルスターからGNビームピストルを取り出し、
「こいつでっ!」
「何!?」
 至近距離で連射。
 フラッグは瞬時に距離を取りながら、しかし、ディフェンスロッドという右腕に搭載された棒の形をしたものを右に左にと回転させ、全弾受けきる。
「なぁっ、受け止めた?」
 更にロックオンは目を見開き驚く。
 受け切ったとは言え、ディフェンスロッドは損傷した。
『ぅぅ、よぉくも……。私のフラッグをッ!』
 それに対し、音声スピーカーでグラハムはそう叫んで、再びデュナメスに突撃する。
「このしつこさ尋常じゃねぇぞ! ハロ、GN粒子の散布中止! 全ジェネレーターを火器に回せ!」
 ロックオンがこれ以上構ってられるかと、ハロに指示する。
「リョウカイ! リョウカイ!」
「たかがフラッグにっ!」 「ガンダムッ!」
 デュナメスはGNビームピストルを両腕で構え、フラッグが突撃しかかる、瞬間。
[アザディスタン軍ゼイル基地よりモビルスーツが移動を開始。目的地は王宮の模様。全機、制圧に向かってください]
 緊急通信が入った事で、フラッグはデュナメスの上方に一度飛び去り、振り向いてリニアガンを構えた状態で停止する。
「緊急通信?」
 ロックオンは王留美から通信を受けて情報を得る。
 フラッグはそのまま地面に降り立ち距離を取る。
「クーデターだとよ。どうする。フラッグのパイロットさんよ?」
 GNビームピストルを構え、対峙した状態でロックオンが言う。
「ようやくガンダムと巡り合えたというのに……口惜しさは残るがぁ、私とて人の子だっ!」
 言って悔しそうにグラハムは上昇し、変形、
[ハワード、ダリル! 首都防衛に向かう!]
 命令を出す。
[了解!][了解!]
[ミサイルを破壊した者は?]
[モビルスーツらしき機影を見かけましたが、特殊粒子のせいで……]
 ダリル・ダッジが見失ったと答えた。
「ガンダムの能力も考えものだなぁ」
 グラハムが苦笑した。


―アザディスタン王国・首都―

『我々は神の矛である! 我々は蜂起する! 神の教えを忘れた者たちに神の雷を! 契約の地に足を踏み入れた異教徒たちを排除せよ!』
 アンフに乗ったモビルスーツパイロットがそう叫ぶ。
「避難しなくてよいのですか?」
 その光景を窓越しにリボンズ・アルマークがアレハンドロ・コーナーの後ろに立って言う。
「リボンズ、君も見ておくと良い。ガンダムという存在を」
 アレハンドロはそう振り向きもせず返した。
 瞬間、リボンズの口元が僅かにニヤリと吊り上がった。
 避難すれば良いものを……。
 そのアンフに対しエクシアが上空から降下して現れて、戦闘を開始してすぐ。
 部屋の外から数人の走る足音がしていたが、エクシアを眺めていたアレハンドロが気づく事はなく、銃声が鳴り、扉を突き破る音がする。
「何事だっ!?」
 流石に気づいたアレハンドロが振り返り、
「アレハンドロ様っ!」
 リボンズも焦ったような声を上げる。
 しかし即座に黒服スーツに覆面を被った者達が直ちにリボンズとアレハンドロの目の前に現れ、マシンガンを構えた。
「なっ!?」
 アレハンドロが胸元から銃を取りだそうとしたが時、既に遅し。
 マシンガンが先に、火を吹いた。
 瞬間、背後の窓ガラスが盛大に割れる音がし、まともな声らしい声を出すことも叶わず、アレハンドロとリボンズは銃弾に倒れた。
 犯人達は更に、爆弾を死体の近くに設置、部屋から撤退し、爆破した。
 それからというもの、同時多発的にクーデターに乗じて爆破テロが各所で発生。
 国連使節団を集中的に狙ったテロが行われ、技術者はそれを免れたものの、アレハンドロを筆頭とする代表団は軒並み全員死亡し、死体も爆破され、原型を留める事は無かったという。
 エクシアも突如起こった爆発を熱源反応で捉えていたが、王留美が、それに関してはエージェントを動かすと言って刹那とロックオンは武力介入を続行、結局夜明けまで戦い通した。
 ある地域で、少年兵達がアンフに殺されるのを阻止できなかった事に、刹那は酷くショックを受け、そこに後でロックオンが見つけた。
 QBは余りにも紛争が頻発している所には意味が無いと見て、現れないのであった。
 そして、翌早朝。
[増援部隊は、首都圏全体の制空権を確保しました!]
 UNIONから到着した増援部隊の一人がグラハムに報告を入れる。
「信心深さが暴走すると、このような悲劇を招くというのか……」
 グラハムはそう、呟いた。
 同時刻、UNION群を撒く為に、雲の上を飛んでいたサーシェスが悪態をつく。
「糞ったれがぁ! やってくれるぜ、ガンダムぅ! お楽しみはこれからだってのによぉ!」
 そこへ、通信が入る。
「ん……何だ……何!? スポンサーが死んだ!?」
 サーシェスはこれまでに無いほど、動揺した。


信念を打ち砕かれた刹那の前にアリー・アル・サーシェスは立ちはだかるのか。
紛争根絶の為、エクシアが再び立ち上がるのか。
刹那、ガンダムとなるのか。
とうとう、歯車が回り始める。



[27528] 金ピカ大使「私の頭の上にエンジェルの輪が見えるようだよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/11 12:45
―王留美所有・小型輸送艇―

 UNIONの増援部隊の到着により、クーデターそのものは沈静化していたが、各地で呼応するように爆破テロが頻発していた。
 そんな午前も半ばという頃、刹那・F・セイエイはロックオン・ストラトスに頼まれて、太陽光発電受信アンテナ施設に向けてミサイルを発射したと思われる地点へと向かわせられた。
 クルジスはアザディスタンに吸収された国家であり、刹那であれば、現地を歩いていてもおかしくはないから。
[国連大使アレハンドロ・コーナー氏ら国連使節団の代表団が爆破テロにより、命を失った模様です。未だ現地アザディスタンの状況は悪く、詳しい情報が入り次第またお伝え致します]
 そのJNNニュースを見ながらロックオンは再びピンク色の小型輸送艇で休んでいたが、王留美は酷く動揺していた。
「まさかあの方が襲撃を受けて亡くなるなんて……。国外退去を進言した矢先にこれでは」
 もっと強く主張しておくべきだったと、王留美は後悔の色の交じる口調で呟いた。
「あの方ってのは国連大使の事かい?」
 ロックオンは豪華な長椅子の背もたれに背中を預けて茶を飲みながら尋ねた。
「そうです。紅龍……エージェントからの情報はまだ無くて?」
「依然、情報ありません。何分、アザディスタン内にいるエージェントの数は僅かです。ただ、保守派の犯行という線が高いと思われます。しかし、まさか大使が亡くなるとは私も……」
 紅龍もまだ信じられないという様子で答えた。
「信じ難い事だわ……」
 王留美はCBの監視者であるアレハンドロ・コーナーの事を知っており、また、彼が監視者を緊急招集する権限も持っている事を知っていた。
「仲の良い知り合いだったのか?」
「ええ、そのような所ですわ」
 王留美はロックオンの問いに目を閉じて肯定した。
「それは残念だったな……」
 ばつが悪そうにロックオンが言った。
 しばしの沈黙の後、続けて口を開く。
「やはり今回の一連の事件、第三勢力の可能性が高いかもしれないな」
 気分を落ち着けたいと、丁度紅茶を飲もうとした王留美が疑問の声を上げる。
「ん? 第三勢力?」
 ロックオンが肯定して、目線を落としながら自身の考えを述べる。
「ああ。アザディスタン側の要請を受けたUNION、そして武力介入を行った俺達の他に……内紛を誘発している勢力がいる」
「その勢力がマスード・ラフマディーを拉致したと?」
 王留美の傍で立って控えていた紅龍が尋ねる。
「俺の勝手な推測だが……ヴェーダだって、その可能性を示唆してたんだろ?」
 王留美がカップを完全に下ろして尋ねる。
「その根拠は?」
 その質問に対し、ロックオンはテーブルに備え付けられているモニターを起動し、太陽光発電受信アンテナ施設の地図を出す。
「受信アンテナの建設現場で、遠方からのミサイル攻撃があった……。火力からして、モビルスーツを使用した可能性が高い」
 王留美がそのモニターを見ながら顎に手を当てて呟く。
「モビルスーツを運用する組織……一体何の為に?」
 ロックオンは溜息をつき、両手でお手上げだという様子で言う。
「分からんよ。だから、刹那に調べに行かせた。この国で、俺達は目立ちすぎるからな」


その当の刹那は、頼まれた通り、指定ポイントの不毛の岩場地帯を端末を持って歩き、モビルスーツがいた残留反応を辿っていた。
丁度、その付近にUNIONのグラハム・エーカーとビリー・カタギリが居り、同じように調査をしていた。
刹那はその二人に気が付きすぐに岩の裏に隠れるが、グラハムにその存在を気づかれ、出てくるように言われた。
カタギリは刹那を見て、地元の人間かと思い声を掛け、刹那も普段ではありえないキャラクターを捏造した演技を行い、そのまま場を離れようとした。
しかし、突如グラハムが刹那に対し質問を投げかけ、そのやりとりの末、グラハムは鋭い勘を働かせ、刹那が戦っている人間である事を見抜き、銃を後ろ手に構えていることをも看破した。
一触即発の雰囲気になったが、グラハムは突然ペラペラと受信アンテナを攻撃した機体の情報を話し始め、そのまま撤収していった。
その話で、刹那はPMCのイナクトと聞いてアリー・アル・サーシェスの事をすぐに想起し、走り出したのだった。


―アザディスタン王国・王宮―

 マリナ・イスマイールは、朝、国のニュースで国民に落ち着くよう呼びかける所までは何とか堪えられたものの、最早この世の終わりかという様子で組んだ両手に頭を当て、打ちひしがれていた。
 その様子を見たシーリン・バフティヤールが檄を飛ばす。
「毅然としなさい! マリナ・イスマイール! あなたはこの国の王女なのよ!」
「シーリン……。でも……マスード・ラフマディーの行方はまだ分からなければ、コーナー大使までが亡くなるなんて、私、どうしたらいいかっ……!」
 我慢できずにマリナは涙を流し始める。
 マリナに檄を飛ばしたシーリン自身も実際の所かなり参っていた。
 何か企みがあって支援を申し込んできたかと思えてならず、不審の目を向けていた国連大使がまさかのテロを受け、死亡だなんて……。
 国際社会からのアザディスタンの評価はこれ以上落ち用の無い所まで落ちたようなものだわ……。
 まさか本当にあの男は何の見返りも無しに善意でこの国に支援を申し出ていたとでも言うの?
 だとしたらなんて貴重な人をっ……。
 マスード・ラフマディーはまだ捜索中で仮に見つけられるとしても、時間がかかる。
 状況は最悪ね……。
 受信アンテナも破壊され、国連の技術者達は当然全員撤退。
 勢いづいた保守派のテロは依然継続中。
 しかも、CBにまで介入されて……。
 この状況をせめて少しだけでも打開するためには、マスード・ラフマディーを保護するしかない。
 そうするしか……。
 シーリンはマリナの啜り泣く声を聞きながら、拳を強く握り締めた。
「ぅっ……何て……無力なの、私はっ……」
 そこへ、扉をノックする音がし、SPが誰か確認を取る為に開ける。
 するといつもの侍女であった。
「失礼します……」
 しかし、茶を持ってきた訳でもなく、コツコツを足音を立てて入ってくる。
 シーリンが不快そうに声を出す。
「何の用かしら? 今は」
 瞬間、侍女はマリナに銃を向け、震えながら、
「死ね! 改革派の、手先がっ!」
「っぁ!」
 マリナが驚愕に目を見開くが、彼女が引き金を引くよりも先に、SPが侍女に向かって発砲し、その場で射殺した。
 ドサリという音と共に侍女の身体は床に倒れる。
 シーリンは間一髪の事に息をつく。
 しかし、マリナはガタガタと震えながら膝を床につけ、顔を両手で覆う。
「どうして……なぜ……くぅぅっ……何故私達は、こんなにも憎みあわなければならないのっ……。酷いわ……こんなのあんまりよっ……」
 そこにあったのは、マリナの深い深い絶望。


走りだしていた刹那は、ロックオンに端末で連絡を入れ、ポイントF3987という地点が怪しいと伝え、動き始めていた。
それに合わせ、ロックオンも何もしないよりはマシだと付き合う事にしたが、王留美が紅龍も連れていけば要人救出に役に立つと勧め、ガンダム二機が出撃する事になった。


―ポイントF3987―

 スポンサーが死んだ、という情報を聞いたアリー・アル・サーシェスはCBのせいで段取りがぐちゃぐちゃどころか、そもそも仕事をする意味自体が完全崩壊しかけていたが、午前になって連絡があった。
 その連絡を聞くうちにサーシェスは再び獰猛な笑みを浮かべ、部下達に仕事の続行を伝えたのだった。
 もう少し連絡が入るのが遅ければ、マスード・ラフマディーをこの場で殺してとんずらする寸前であったが、ギリギリのタイミングでの連絡。
 そして陽が落ちる寸前の夕方になり今に至る。
「まさか、スポンサーが代わるとはなぁっ! まだ運は尽きてないらしいぜぇ。面白くなってきやがった。どっちにしても、この国は戦争だぁ!」
 ははは、と笑い声を上げ、PMCイナクトのコクピットにふんぞり返り、水を飲んだ。
[隊長ぉ、このじいさん、飯どころか水も飲みませんぜ]
 そこへ部下からの通信が入る。
[ほっとけほっとけ。敵の施しを受けたたくねんだろうよ]
「全く……この国の奴らは融通が利かねぇ」
 やれやれ、とサーシェスは言った。
[隊長、こちらに接近する機影があります]
 更に他の部下から通信が入る。
[UNIONの偵察か?]
[違います]
「ぅん?」
 サーシェスはPMCイナクトのモニターでその機影を捉える。
[あの白いモビルスーツはっ!]
「ハッ……ガンダムかっ!」
 それに見入るように身体を起こして食いつくように言う。
 サーシェスは即座にPMCイナクトを起動させ、エクシアを向かい打つべく飛び上がる。
[ガンダムはこちらで引き受けるぅっ! じいさんを連れて脱出しろ!]
[了解]
 サーシェスは部下にマスード・ラフマディーを連れて、ジープで逃げるように指示を出した。
 そして、エクシアとの戦闘が始まる。
 サーシェスは、モラリアの時に刹那の姿を見る事は無かったが、その立ち回りには覚えがあり、ここに来てとうとう、昔自身が洗脳したクルジスのガキである事を確信した。
 戦闘中、刹那がサーシェスに怒りを顕にして音声で思いの丈をぶつけつも、サーシェスがまともに取り合うことは無かった。
 地面に叩きつけられ、コクピットハッチを無理矢理開けられかけたが、エクシアは反撃し、PMCイナクトの右腕を切り落とし、サーシェスを撤退させた。
 サーシェスはそれでも、予定通りのつもりであったが、日が落ち、脱出を図って走らせていたジープにはロックオンと紅龍が待ち構えていた。
 牽制射撃で車を止めさせた所、紅龍が人間離れした戦闘能力でマシンガンの中を全部避けて走りぬけ、こめかみに強烈な蹴りを入れて制圧、マスード・ラフマディーを人質にとったサーシェスの部下三人はロックオンが全員狙撃で抹殺。
 マスード・ラフマディーの救出は成功したのだった。
 その後すぐ、エクシアが合流し、丁度届いたスメラギ・李・ノリエガのミッションプラン通り、マスード・ラフマディーをエクシアでアザディスタン王宮に護送する事となる。
 ただ、そのミッションプランにティエリア・アーデは猛烈な非難を口にしていた。
 なぜなら、ガンダムマイスターである刹那の姿を今度こそ晒す事になってしまうから。


しかし、かくして、マスード・ラフマディーの護送ミッションは行われる。
アザディスタン王宮にはCBからメッセージが届き、マスード・ラフマディーを保護したという内容に、完全に絶望の淵にあったマリナも、僅かに希望を取り戻し、縋るような思いでそれを信じ、早期停戦への会談を開くことを決意した。
全世界が注目する中、アザディスタン王宮前にてJNNの池田特派員が中継を行っていた所、エクシアが上空から降下して現れる。
そのエクシアの姿はスメラギの作戦通り、完全非武装。
地面にいたマシンガンを構えた数名の市民がエクシアに向けて乱射するのも無視、アンフが砲弾を撃つのも堪え、一歩一歩振動を立てながら、王宮のテラスで膝をついた。


―アザディスタン王国・王宮―

 エクシアが右腕をテラスに届くようにした所で、コクピットハッチを開き刹那が現れる。
 刹那が右手を出してマスード・ラフマディーを呼ぶ。
「王宮へ」
「うん……あまり良い乗り心地ではないな」
 マスード・ラフマディーがコクピットから出ながら率直な感想を言う。
「申し訳ありません」
 刹那が謝ったものの、マスード・ラフマディーは目を閉じて、僅かに腰を下げて感謝の意を表す。
「礼を言わせてもらう」
「お早く」
 刹那が言うとすぐに、マスード・ラフマディーは王宮へとそのまま直接入る。
 SPに守られながらマスード・ラフマディーは奥へと入る。
 そこで刹那はすぐにコクピットに戻ろうとするが、
「刹那・F・セイエイ! っは……本当に、本当にあなたなの!?」
 マリナがシーリンの制止も聞かず、駆け寄って言う。
「マリナ・イスマイール。これから次第だ。俺達がまた来るかどうか」
 刹那は立ち止まり、半身ずらして、肯定はしないが言い、その声でマリナは理解する。
「っ……刹那……」
 不安そうな表情でマリナが両手を合わせて名前を呼ぶ。
「戦え、お前の信じる神のために」
 言って、すぐに刹那はコクピットハッチを閉める。
「刹那!」
 もう一度マリナが呼ぶが、エクシアは起動、太陽炉を稼働させ、そのまま真っ直ぐ青い空の広がる上空へと飛び去った。
 マスード・ラフマディーは、誘拐の首謀グループが傭兵部隊であり、この内紛が仕組まれたものであると公表。
 黒幕は、アザディスタンの近代化を阻止しようとする勢力との見方が強いが、犯行声明などは出されていない。
 その後、マリナ・イスマイールとマスード・ラフマディーは共同声明で、内戦およびテロ活動の中止を国民に呼びかけた。
 しかし、アザディスタンでの内紛は、未だ続いている。
 アザディスタンにとって、一つ幸いであるのは、国連使節団が亡くなるという事件がありながらも、その善意の心で支援を行おうとしていた国連大使アレハンドロ・コーナーの意向を汲み、彼の盛大な葬式の後、国連から新たな使節団が派遣され、太陽光受信アンテナ建設計画再開に向けて話が進められる事になった事であった。


―月・裏面極秘施設―

 リボンズ・アルマークは健在。
「アレハンドロ・コーナー、あなたが天に召され、自分が天使になった気分はどうかな……。QB、これから、歪む筈だった計画は再び修正され、新たな軌道に乗るよ」
 ヴェーダの真上で、リボンズは悠々と床から僅かに浮かびながら、床にいるQBに対して言った。
「助かるよ。リボンズ・アルマーク」
 しかし、全く感謝の念は感じられないQBの言葉。
 リボンズはCBが活動を始めてからの四ヶ月で結局ヴェーダをレベル7まで掌握し、ビサイド・ペインの固有能力も手に入れていた。
 ヴェーダを完全掌握した時、イオリア・シュヘンベルグがコールドスリープの状態にあるポッドが出現したが、リボンズはそれをまたすぐに封印した。
 QBからは例のブラックボックスは情報を引き出すだけならやっても構わないと言われている上、本当に太陽炉に隠された機能があるのか確かめる為に、イオリアを撃つ訳にもいかない。
 ヴェーダと完全にリンクしたリボンズは、アザディスタンでの一件の際には代えの身体を用い、死ぬ最後までアレハンドロに疑われる事はなく、その抹殺を計画通り遂行した。
 そしてリボンズはまだ残る修正の為に行うべき事を思う。
 アレハンドロは抹殺した。
 コーナー家の財産の大半を占めるアレハンドロが私的に所有していたガンダム関連が目的であった、表にはまず知られる事の無い口座などの資産の接収もヴェーダで手を出したから問題はない。
 次の対象はアレハンドロという枷の無くなったラグナ・ハーヴェイだ、と。
 ヴェーダを完全掌握した時、リボンズはそれだけでもかなりの充足感に満ち足りていたが、ヴェーダが何を目的にしているのかを知り、こらえ切れずに笑い声を上げた。
 来るべき対話。
 それは人類が外宇宙に飛び出し、異星生命体と接触した時に、対話を図る事。
 既にQBという明らかな異星生命体と接触し、会話も交わし、そればかりか協力関係まで結んだリボンズにしてみればこれほど皮肉な事は無い。
 イオリア計画の第一段階はCBの武力介入を発端とする世界の統合。
 第二段階は人類意思の統一。
 第三段階は人類を外宇宙に進出させ、来るべき対話に備える。
 それがイオリア計画の全貌であった。
 リボンズは第二段階までは把握していたが、第三段階までは知らなかった。
 現実は第一段階も終わらないうちから第三段階の最後、来るべき対話が先に行われるなど、これを皮肉と言えず何と言えようか。
 まさに段取りがぐちゃぐちゃである。
「QB、君たちはヴェーダからイオリア計画の全貌を知っていた上で接触して来たのかい? それとも改竄したのかな?」
 ヴェーダを完全掌握した時のリボンズのQBに対する問いかけはこうであった。
「僕らは無意味な改竄をしたりはしないよ。イオリア・シュヘンベルグの誤算は僕らが人類の有史以前からこの惑星に来ていたことだろうね。ヴェーダを見つけた時は僕らも驚いたよ。イオリア計画は確かに、君たち人類がいずれはこの星を離れて僕たちの仲間入りをするには必要な事だろうからね」
 人間が自ら考えつくにしては中々まともな計画だ、とQBは評価していた。
「そうかい。しかし、来るべき対話の第一号が君たちQBであった事は僕たちにとっては良い事だったのか、悪い事だったのか……どちらだろうね」
 リボンズは僅かな笑みを浮かべて呟くように言った。
「僕らは君たち人類に対して、他の異星文明の生命体よりも譲歩している筈だよ。こうして、知的生命体と認めた上で交渉しているんだしね」
 QBは良いか悪いかは言わず、そう、淡々と答えた。
「全く……君たちQBのそういう言い方は、変わりそうにないね」
 少なからず不快感を感じるのに、QBははっきりとは未だに聞いていないが、そもそも感情を持っていないようだから、無駄な議論か、と思いリボンズはやれやれと息を付いた。
 

三つの国家群による合同軍事演習に仕掛けられた紛争。
死地へと赴くマイスターの胸に去来するものとは。
それが、ガンダムであるなら何なのか。



[27528] QB「もう少し我慢しててよ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/22 14:55
人革連が、ガンダム鹵獲作戦を失敗し、更には超人機関のスキャンダルを世界に暴露されてから、三陣営の水面下で進んでいた非公式な会談が行われていた。
その計画名はプロジェクトG(ガンダム)。
タクラマカン砂漠、濃縮ウラン埋設地域での三大陣営の合同演習。
四方を山に囲まれ、砂漠化が進み、住人など皆無。
場所としてはうってつけである。


―ラグランジュ1―

 地球と月の間にある重力と遠心力のバランスポイント。
 そこには、いち早く宇宙開発に乗り出したUNIONのスペースコロニーがある。
 そこから約300km離れた地点には、コロニー開発の為に運び込まれた、多くの資源衛星が、巨大なアステロイドエリアを形成していた。
 その中に、私設武装組織CBの秘密ドックが存在する。
「アレルヤ、状況はどうだぁ?」
 イアン・ヴァスティが顔を出して言った。
 アレルヤ・ハプティズムがモニターを見ながら答える。
「問題ありません。衛星周囲のGN粒子散布も基準値を示しています」
「ここはわしらに任せて、地上に降りてもよかったんだぞぉ?」
 イアンがそう言いながら別の席のモニターを見て言った。
「大丈夫です。僕の体は頑丈にできてますから。……ところで、僕の例の脳量子波遮断処置スーツはどうなってます?」
 少し真剣そうに、アレルヤが尋ねる。
「ああ……次のミッションまでには用意できるぞ」
 イアンは少し微妙な返事をした。
「ありがとうございます」
 そのアレルヤの返事に対し、イアンは当然だろ、と言う。
「何を言っとるか。またこの前と同じことがあってはこっちが困るぞ」
「はは、正直、僕も困ります……」
 つい、人革連から襲撃を受けた時の事を思い出し、沈んだ表情をする。
 しばらくの間、皆の反応が輪をかけてよそよそしくなった……。
 だから、こっちに残ったんだけどね……。
 決して省かれた訳じゃない、これは自発的なものなんだ、とまでは思わない。
 アレルヤはネガティブな思考に陥りかけた所、ダメもとで質問をする。
「話せる事ではないかもしれないですが、CBは脳量子波に関係する技術にも造詣があるんですか?」
「それは答えにくいんだがぁ……一つヒントならやれる。ヴェーダがどういうものか考えれば、ある程度は推測がつくぞ」
 イアンは悩むようにしながらも、指を立てて答えた。
「……なるほど、そういう事ですか」
 アレルヤはヴェーダの正式名称、量子型演算処理システムを想えば、何となく関連性、詳しいことは分からないにしても、少なくともCBに結果として技術があることは分かった。
 ただ、何故ガンダムマイスターであるティエリアがあの場にいたのかまでは、不明であった。
 一方、地上のブリッジ主要CBメンバーは王留美が手配した邸宅でそれぞれ過ごしていた。
 スメラギ・李・ノリエガと王留美は水着を着て日光浴、ラッセ・アイオンは筋肉トレーニング、クリスティナ・シエラとリヒテンダール・ツエーリは好き勝手に会話、フェルト・グレイスはHAROを抱いて会話、ティエリア・アーデは地下でモニターを前にデータを真剣に確認していた。
 CBが行動を開始してから、世界で行われている紛争が38%低下。
 軍需産業に関わりを持つ企業の63%がこの事業からの撤退を表明。
 この数字だけ見ると、ヴェーダの計画予測推域には到達している……。
 問題は、ただ一つ、QBだっ……。
 何なんだ、あの生物はっ。
 ティエリアは思い出すだけで苛立たしいと、モニターを片手を握りしめ、強く叩いた。


―経済特区・東京・JNN本社―

 絹江・クロスロードが失踪者をキーワードに調査をした結果、JNNではCBについての報道特集番組を組む事ができた。
 細目が特徴の司会、矢口哲史が話始める。
[JNN取材班の調査によるとぉ……この200年で多くの科学者・技術者が行方不明、またはぁ、謎の失踪を遂げているということですが]
 対して、身を乗り出すように飯野誠貴が解説する。
[CBが、何らかの関わりを持っていたと考えられます。新型のモビルスーツ開発には、最短でも十数年、かかりますから]
[つまり彼らの計画は、200年以上前からあったということに?]
 この放送の翌日。
「よぉろこべ絹江! 昨日の報道特集、視聴占有率が40%を超えたぞぉ!」
 部長が、絹江が資料室にいた所に扉を開けて入ってきて興奮するように言う。
「本当ですかぁ!?」
 当の本人も普段よりかなり高い声で喜びの声を上げる。
「番組始まって以来の数字だそうだぁ」
 部長が歩きながら言い、絹江はパッと明るい顔をして尋ねた。
「じゃあ、取材を続けても?」
「あぁ! 上もそう言って来てる。次はCBの活動における世界経済への影響を特集するぞぉ。経済部の坂崎と組んで、倒産や経営を悪化させた企業をリストアップしてぇ」
 部長が調子に乗ってベラベラと話し始めた所で、絹江が少し迷うような表情をしながらも意を決して言う。
「部長!」
「でゅぉっ!?」
 途中で止められた事に部長が驚く。
「CBとQBについてのもっと深い調査、続けさせて下さい!」
「何でだ?」
 違う方面で切り出した方が視聴専有率は維持できるのに勿体無い、と部長は意外そうに言う。
 好意的に取られない事に後ろめたさを感じながらも絹江は説明する。
「えっ……。戦争根絶ではなく、CBとQBには、本当の目的があるように思えるんです。このまま調べていけば、真実が分かるかもしれません。だから私は!」
 絹江の様子を見かねて唸った部長は特集自体は他の記者に回せば良いか、と結論づけて、容認する事にした。
「うーん……。分かった。好きにしろ! 但し、無理はするな絹江。深みに嵌ったら抜け出せなくなる」
 その忠告を聞き、絹江は頷く。
「はい」
 絹江は次に時間が取れたら極個人的に調べに行くつもりの場所を既に一つだけ決めていた。
 その場所は、群馬県見滝原市。
 幻の少女を求めて。


三陣営の各軍も動きを見せ始めていた。
UNIONの対ガンダム調査隊(仮)はとうとう正式名称としてオーバーフラッグスという名称がつき、公には、フラッグのみで編成された第8独立航空戦術飛行隊として機能することになった。
それに伴い、各部隊の精鋭が十二人も集合となった。
セルゲイ・スミルノフ率いる頂武特務部隊は既に人革連・砂漠地帯駐屯基地に到着して出動待機状態に入っていた。
AEUではカティ・マネキン大佐がモビルスーツ隊の作戦指揮官となり、集合に遅れたパトリック・コーラサワーを二度も殴り、幸か不幸か期せずしてその心を釘付けにしていた。
もう逃げられない。
軍に関係ない所、経済特区・東京ではルイス・ハレヴィがルイスの母がとうとう母国に帰った事で泣いていた。


―王留美邸―

「合同軍事演習?」
 クリスティナが疑問の声を出し、リヒテンダールが続く。
「UNIONと人革とAEUが?」
 王留美と紅龍が続けて答える。
「エージェントからの報告です」
「数日後には、公式発表があるでしょう」
 その話にラッセが驚く。
「それが本当ならすげぇ規模だぞ」
「UNIONや人革が急に仲良くなっちゃって……何なんすか?」
 リヒテンダールが嫌そうに言う。
「私達とQBのせい」
 フェルトがHAROを膝にのせて簡潔に言う。
「そう……考えるのが妥当でしょうね」
 当然の様子で、とQB、と言ったフェルトに一瞬どうなのか、と思いながらもスメラギも肯定し、続けて言った。
「鹵獲作戦を失敗させた人革連は、他の陣営と組むことで、私達を牽制しようとしている……」
 そこへラッセが疑問を呈する。
「軍事演習なら、わざわざ俺達が介入する必要ないんじゃないか?」
 対して、ティエリアが考えるように淡々と言う。
「何かがある。……軍の派遣には莫大な資金が掛かる。たかが牽制で大規模演習を行うなどあり得ない」
「同意見よ。王留美、演習場所の特定を」
 スメラギが王留美が即座に頼むが、
「させています」
 既に始めていた。
「お願いね。皆、出撃することになると思うわ。今のうちに羽を伸ばしておきなさい」
 そして、そこまでで解散となり、それぞれ買い物や、スメラギはビリー・カタギリに呼ばれて会いに行ったりと過ごした。
 数日後。
[最新情報です。UNION、人類革新連盟、AEUは、三軍合同による大規模な軍事演習を行うと発表しました。UNION軍報道官の公式コメントによると、この軍事演習は、軌道エレベーター防衛を目的とし、各陣営が協力して様々な状況に対処するための訓練を行うとしています。現在、演習場所、日程については公表されておりません]
 このニュースが流れた所、地下のモニターではスメラギとティエリアが会話をしていた。
「どうです?」
 スメラギが答える。
「私とヴェーダの意見が一致したわ」
「紛争が起こるというのですか?」
「確実にね」
 スメラギがあぁ、嫌だと呟くように言う。
「場所は?」
「中国北西、タクラマカン砂漠。濃縮ウラン埋設地域」
 ティエリアがモニターに出された映像を見て呟く。
「濃縮ウラン……」
「どこの組織か知らないけど、この施設をテロの標的にしてる。UNIONか人革かがこの情報をリークして、演習場所に選んだのよ。施設が攻撃されれば、放射性物質が漏出し、その被害は世界規模に及ぶわ」
「すぐにでも武力介入を」
 即座にキツイ目付きで言い放ったティエリアに対し、スメラギが心配そうに言う。
「敵の演習場のただ中に飛び込むことになるわ。演習部隊はすぐに防衛行動に出るわよ。いいえ、ガンダムを手に入れるために本気で攻めてくる」
「それでもやるのがCBです」
「ティエリア……」
 そう呟きながらスメラギは思う。
 QBが現れ始めた時から大分立ち直ったわね……。
 今回のミッションも、QBが出れば、最悪の事態にはならないけれど……。
「ガンダムマイスターは生死よりも目的の遂行、及び機密保持を優先する。ガンダムに乗る前から決まっていたことです。いいや、その覚悟無くしてガンダムには乗れません」
 ティエリアは堅物のような発言をきっぱちと言い切った。
 こうして、CBの次のミッションが決定する。
 ロックオンは墓参りに故郷へ訪れていた所から戻り始め、アレルヤは整備の終わったプトレマイオスから出撃し、専用のスーツを着て、大気圏へと突入。
 刹那は指示を受けた際、アザディスタンのマリナ・イスマイールにふらりと会いに行き、その割には一方的な問いかけをして去っていった。


―AEUフランス・外人部隊基地―

[大佐、お客様がお見えになりました]
 モニターに部下の姿が映る。
「通してくれ」
 大佐がそう言って、程なくして部屋に、挨拶をして、現れたのは髭を剃ったアリー・アル・サーシェス。
 今回サーシェスが配属されるに当たってのスポンサーは再びPMCトラスト。
「我が隊に極秘任務ですか?」
 大佐は自身も事情を掴みきれていないが説明をする。
「詳しくは指令書を読んでくれ。この私ですら知らされていない。私に与えられた任務は、君にこの指令書を渡す事と、アグリッサを預けることだ」
 サーシェスが怪訝な声を出す。
「アグリッサ? 第五次太陽光紛争で使用したぁ……あの機体を」
「機体の受け渡し場所も指令書に明記されている」
 大佐が言って、話は終了、サーシェスは席から立ち上がり敬礼をする。
「了解しました。第四独立外人機兵連隊、ゲイリー・ビアッジ少尉、ただ今をもって、極秘任務の遂行に着手します」
 そして、その場を後にしたサーシェスは周囲に人がいない所で一人呟き、心底楽しそうに顔を歪めていた。 


―タクラマカン砂漠―

プロジェクトGへの作戦に備え、三陣営軍は人革連が前回ガンダム鹵獲作戦の際に行った、双方向通信システムを砂漠中に設置していた。
[双方向通信システム、全予定ポイントに設置完了]
 人革連の管制官から、砂漠地上にワークローダーによる双方向通信システムの設置完了の知らせが入る。
[ユーロ2より入電、これより浮遊型双方向通信システムの散布を開始する]
 AEUの通信により、飛行機の下部ハッチが開けられそこから順次浮遊型がばらまかれて行く。
 そしてUNIONからの報告。
[UNION3からの通信網、受信状況、オールグリーンです]
[シミュレートプラン、オールクリア]


―人革連・タクラマカン砂漠駐屯基地―

 基地内でオペレーターが報告をする。
[演習に参加する全部隊、通信網のリンクを確認しました]
[全モビルスーツへの配信状況、良好です]
 そんな中基地内を考えるように部下二人を従えて歩いていたセルゲイ・スミルノフが呟く。
「まさかなぁ……UNIONやAEUと手を組むことになろうとは。……浮かれおって」
 上空を飛ぶAEUのイナクトを見上げて言った。
 そのイナクトに対してカティ・マネキンから通信が入る。
[少尉、機体の防塵状況はどうか?]
 パトリック・コーラサワーが自信満々に答える。
「順調そのものです大佐ぁ。見ていてください、この機体で必ずやガンダムを!」
[無理だな]
 軽く一蹴され、コーラサワーは嘆いた。
[そんなぁっ!]


―UNION軍・沖縄近海―

 UNIONの空母三隻は沖縄近海を進んでいた。
 待機室にオペレーターから通信が入る。
[オーバーフラッグス隊は、命令があるまで待機です]
 上級大尉に昇進したグラハム・エーカーが答える。
「了解した」
 そして、独り言も言う。
「部隊総数52。参加モビルスーツ832機。卑怯者と罵られようとも、軍の決定には従わせて貰うぞ、ガンダムっ!」


―タクラマカン砂漠―

 人革連・国家主席官邸に、予定通りわざと見逃したテロリストが出現した事が報告され、それに合わせてCBが出現した事が伝えられ、演習の作戦をガンダムの鹵獲に変更する事が指示されていた。
 罠だと分かっていてキュリオスはデュナメスを巡航形態で機体の上に乗せ、上空を飛行していた。
[アレルヤ、速度と高度を維持しろ。……おぁっ! くっ!]
 言った傍から雲の中に入り、機体が揺れる。
[機体を揺らすなぁっ!]
 ロックオンは更に文句を言う。
 アレルヤが何言ってるんだと、苦笑して返す。
[無理言い過ぎ]
 一方、この二機の動きを捉えた各陣営の前線指揮官達は本作戦が全て仕組まれた事である事を司令部からの通達で知った。
 アンフ三機が濃縮ウラン埋設施設に砲撃をしかけ始め、他に人員輸送車三大が砂漠を走っている所であった。
 キュリオスとデュナメスがそれを捕捉、上空からロックオン・ストラトスがスナイパーライフルでアンフ一機を撃破。
「デュナメス、目標を狙い撃つ!」
 続け様に残り二機を呆気無く撃破。
 そのまま、残りは人員輸送車三台のトラックに向けても容赦なく射撃を行い、始末した。
「ゼンダンメイチュウ! ゼンダンメイチュウ!」
 HAROが報告してすぐ、ロックオンは精密射撃モードのスコープを元に戻しながらアレルヤに言う。
[離脱するぞアレルヤ!]
[了解]
 そこへ、小刻みのアラート音が鳴り響く。
「っん!?」
 突如飛来した大量のミサイルが展開され、無数の小型爆弾が飛び散る。
[っぁ!? 敵襲っ!]
 二機丁度の付近で爆発。
 アレルヤがその衝撃に声を上げる。
「うぉぉぉぐぁぁっ!」
「テッキセッキン! テッキセッキン!」
 HAROが爆炎の向こうからUNION軍の主力量産モビルスーツ・ユニオンリアルドの飛行編隊が人形携帯、巡航形態合わせて32機出現する。
「くそっ!」
 爆炎を抜け、目の前にその部隊を見たアレルヤが呼びかける。
[くっ……ロックオン!]
[わぁってる!]
 デュナメスは二発ビームを打って、キュリオスから離れ、更に一発の射撃と同時に膝部からGNミサイルを射出。
 キュリオスもコンテナからGNミサイルを大量に発射。
 瞬時に到達し、閃光と共に爆発が左右に広がるが、数機が木っ端微塵になったのも構わず、黒煙の中突破してきたうち巡航形態の一機がキュリオスの軌道を読んで特攻。
「くぁっ?」
 意表をつかれたアレルヤはそれを完全に喰らい、強烈な爆発の中で姿勢制御を失い、地上へと落下する。
「アレルヤ!?」
 それを見たロックオンが叫ぶが、
「テッキセッキン! テッキセッキン!」
 デュナメスにも包囲するべくリアルドが迫る。
 ロックオンはそれをGNビームピストルの連射で応戦し、二機を撃墜するが、
「うっ! 何!?」
 接近を阻止できなかった二機のリアルドがデュナメスに組み付く。
「こいつらっ!?」
 ロックオンが狙いに気づいた瞬間、リアルドの下半身が分離してその場を離脱、上半身がゼロ距離で爆発。
「ロックオン!!」
 地上に変形して着地していたアレルヤが後ろを振り返りながら叫び、接近するが、デュナメスの機体に損傷はほぼゼロ。
 デュナメスが丁度膝を折って衝撃を和らげながら着地してきた所に合流。
[ロックオン]
[大丈夫だ。来るぞ!]
 ロックオンが返答するが、すぐに遠方から数十を優に超えるミサイルが飛来してくる。
 デュナメスはGNフルシールドを前面に展開、キュリオスも菱形のGNシールドを構え防御する。
 更に人革連とUNIONのモビルスーツ部隊が二機を挟むように長距離射撃を行い、更にUNIONのリアルドが焼夷弾を落とし、二機をその場から動けないように釘付けにし始める。
「うぐぁぁっ!」
「ッチ! くそったれが! 今日はQBはどうしたんだよ!」
 二人は絶え間ない爆撃に耐え切るしかなくなり、声を上げる。
 そのままCBにとってはファーストフェイズの終了時刻が過ぎる。
 AEUタクラマカン砂漠前線基地の管制室ではオペレーターが続々とマネキンに報告を上げる。
「ユニオン3、初期攻撃に成功」
「QBの出現ありません!」
「ガンダム二機、キエフ4122ポイントです」
 マネキンが机に両手を付いて指示を出す。
「遠距離砲撃続行!」
「了解。遠距離砲撃、続行」
「ヒューマン1から有視界暗号! TF2123へ部隊の派遣を要請してきました!」
 そこへ一番右端に座るオペレーターが振りかって報告する。
 マネキンは口元を少し吊り上げ、指示を出す。
「やはり、手薄の場所を選ぶか……第23モビルスーツ隊を出撃させろ!」
 即座に格納庫からAEUのヘリオン部隊が出撃を開始する。
[第23モビルスーツ隊出撃せよ! 第23モビルスーツ隊出撃せよ!]
 そこへ、不満そうに扉をあけてコーラサワーが現れる。
「大佐ぁ!なぜ私に出撃命令を出さないんですか!? 俺はガンダムを!」
「今は待機だ」
 再びマネキンが一蹴する。
「しかし!」
 食い下がる。
「信用しろ。私がお前を男にしてやる」
 そう言ってマネキンはコーラサワーを宥めたが、当の本人は意味が分からない様子であった。
[ミッションプランをB2に移行する]
 ティエリアが通信で刹那・F・セイエイに告げる。
「了解。エクシア、外壁部迷彩被膜解凍。ミッションを開始する」
 すると、エクシアとヴァーチェの二機は最初から隠れていた岩場の近くで光学迷彩を解除し、その姿を現して立ち上がる。
[ガンダム二機発見! 本部に連絡!]
 偶然近くの空域に居合わせた巡航形態のリアルド二機が互いに通信を取り合い、その場を離れ始める。
 エクシアが飛びかかろうとした所、
「刹那、勿体無いから放置してよ!」
 突如コクピットにQBが現れ、始末するタイミングを失わせる。
「QB!」
 何故現れた、と刹那が言い、通信モニターにティエリアの顔も映しだされ、怒りの声を出す。
[QBだとっ! なら何故、いつものような行動を取らない!]
「しばらくしたらヴェーダから緊急ミッションが伝わるから、それまで我慢して欲しいな」
「何?」
[緊急ミッション? 何故貴様がそんな事を知っている! 嘘だ!]
「僕らがどうして嘘をつかないといけないんだい? 必要性が無いよ。前から言ってるけど僕らは君たちに壊滅されると困るんだ。どちらにしても、しばらくしたら分かるよ」
 いつも通りのQBの言い方に、感情を持つティエリアの心は無駄な刺激を受け、
[ぐっ……もう良い。今はミッション通り行動する! ヴァーチェ、離脱ルートを確保する! GNバズーカ、バーストモード!!]
 少々投げやりに叫びながら、両腕で構えたGNバズーカの砲身を伸ばし、バーストモードへと移行する。
 砲身がキュィィィンと白い光を上げ始め、
「粒子圧縮率97%! GN粒子! 開放ッ!!」
 極大のビームを放ち、その反動で徐々にヴァーチェ自体も後ろに後退する。
 そのビームは砂漠の地面に長く大きな塹壕をデュナメスとキュリオスの元にも届く位置まで形成する。
[ティエリア! プランがB2に移行したかぁ? 離脱するぞアレルヤ!]
 背後でその砲撃に気づいたロックオンがアレルヤに言う。
[了解!]
 そして二機は塹壕の中へと逃げこむ。
「ファーストシュート完了……GN粒子、チャージ開始]
 打ち終えた、ティエリアは無駄に大声を出したが無意味だったと少し落ち込みながら言うが、岩場の向こう側からまたしても無数のミサイルが飛来し、エクシアとヴァーチェに向かって降り注ぐ。
「この物量はっ!?」
「対応が早い!」
 そして、作戦開始から二時間が経過、デュナメスとキュリオスは爆撃の中をやり過ごしながら塹壕の中を進み、ヴァーチェとエクシアとの合流を図る。
 途中超兵ソーマ・ピーリスを含む、人革連の部隊が接近することに影響を受けることもなく、結果追いつかれる事なく、気がつかず、進んだ。
 しかし、エクシアとヴァーチェが釘付けにされていたために移動することができず、合流予定ポイントでの時間通りの接触はできなかった。
 ある程度順調に進んでいたデュナメスとキュリオスも途中で塹壕に集中砲火を受けて釘付けにされ、進行が止められる。
 しかし、戦闘開始から四時間が経過した時。
「くぅっ……いつまでこの砲撃はっ……何!?」
 ティエリアがヴァーチェのモニターに現れた本当にヴェーダから提示され緊急ミッションに驚く。
[ティエリア、これはどういう事だ]
「知るかぁっ!」
 ティエリアの叫びの一方で、ロックオンとアレルヤも驚いていた。
「何だこのミッションは!」
「信じられない……」


作戦行動中に新たに提示されるヴェーダからの緊急ミッション。
鳴り響くベルは、第二幕の始まりなのか。



[27528] 三位一体「出番は?」 紫HARO「ネェヨ! ネェヨ!」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/18 23:01
止むことの無い砲撃の雨の中、四機のガンダムマイスター達の元に届いたヴェーダからの新たな緊急ミッション。
それはガンダム全11機による、UNION、AEU、人革連、各三陣営のモビルスーツ部隊総数52、参加モビルスーツ832機の搭乗者の有無に関わらず、可能な限りの破壊及び、三陣営軍への降伏勧告。
但し、可能な限り搭乗者を殺さないという条件。


―タクラマカン砂漠―

「ぐぁっ……ガンダム全十一機による三陣営軍への武力介入!? 何だっ、十一機というのはっ!? ありえないっ!」
 集中砲火の中、ティエリア・アーデが叫び声を上げた。
 QBはエクシアから既に消えており、尋ねる事すらできない。
「ガンダムが十一機……何なんだ、一体」
 刹那・F・セイエイも困惑を隠せない。
 一方、ロックオン・ストラトスとアレルヤ・ハプティズムも驚いていた。
[うっく……ロックオン、このヴェーダからのミッション、どう思う?]
「どう思うも……うぁっ……何もガンダムは四機だけだろ! あれか? ヴェーダ壊れてんだろ」
 ついに、ロックオンはヴェーダは壊れていると言い始める。
[いや、流石にそれは……うぁっ!!]
 アレルヤは否定しようとしたが、爆撃が酷く言えなかった。
 四人は全く信じられない情報に対し、いずれにせよこの状況を打開できないので、我慢をしていたが……。
 上空からの爆撃は止まらないものの、砲撃が徐々に止まり始める。
「何だ?」
「砲撃が止んだ?」
 ロックオンとアレルヤが驚く。
 デュナメスとキュリオスに対する砲撃に異変が起こっていたのは人革連とUNIONの長距離砲撃部隊にて。
「ガンダムアストレア、オレ様出る! あげゃげゃげゃっ!!」
 緑色のカラーリングのティエレン長距離射撃型が横一列に並んでいる所へ突如上空から現れたのは、深紅のカラーリング、粒子の色は緑色のガンダムアストレアTYPE-F。
 見た目はガンダムエクシアに似ているが主武装はGNビームライフルを備えていた。
「全員死ねば良いのに今回は仕方ねぇなっ!!」
 次々とティエレン長距離射撃型の頭部に備え付けられた主砲である、機体の頭部を完全に覆い隠す300mm×50口径長滑腔砲を次々と撃ちぬいて、砲撃不能にして行く。
「新型のガンダムだとっ!? ぐぁぁっ!」
 地上の長距離射撃型のティエレンは動きが殆ど取れず、本来護衛機無しには運用できないが、本作戦においては上空に護衛機がいなかったのが運の尽きであった。
「コソコソしないで済むってのは良いもんだな! ハナヨ!」
 心底楽しそうにあげゃげゃ、と特徴的な笑い声を上げながらモビルスーツを戦闘不能にしていくパイロットはフュレシュテのガンダムマイスター、フォン・スパーク。
 対するUNIONの砂漠の色に合わせたカラーリングの長距離射撃型、ユニオンリアルドホバータンクの集団もガンダムによる襲撃を受けていた。
「これは一方的だ」
 そう風景を見るようにでも言いながら上空から撃ち抜いていくのは赤いGN粒子を放出するガンダムスローネアインに乗り込んでいた、リヴァイヴ・リヴァイバル。
 紫色のスッキリした髪型が特徴。
 こちらもGNビームライフルで次々と横一列に並ぶモビルスーツ部隊を撃破して行く。
 人革連、UNIONのどちらも、二機の放出するGN粒子によって通信が取れず、体勢は完全に崩された。
 しかし、両軍ともただやられれている訳ではなく、デュナメスとキュリオスに対し空からの爆撃を行っていたUNIONのリアルド部隊は攻撃対象を変更しようとするが、そこにも新たなガンダムが現れる。
 ガンダムアブルホールTYPE-F。
 黒いカラーリングでキュリオスの原型となった飛行形態を取った赤いGN粒子を放出する機体。
 小型ビーム砲、GNバルカンによって、リアルド部隊を迎え撃ち、片翼に射撃を行い、無力化を図っていく。
 搭乗者はブリング・スタビティ。
 無表情な様子であるが、目的の遂行だけは忠実にこなすという自負を持つ彼は、ミッションの条件通り、可能なかぎり搭乗者の命を奪わないよう、制圧に当たっていた。
 その機体をモニターに捉えたロックオンとアレルヤはヴェーダからのミッションが本当であるのを信じる方向に心の針が傾いた。
[ロックオン!]
 アレルヤが呼びかけ、ロックオンはこうなったら仕方ない、と言う。
「わぁってる! 俺達はガンダムマイスターだ。ミッションプラン通りやるさ」
 そして、二機はそれぞれ行動を開始し、キュリオスが人革連の基地のある方向へと向かっていく。
 場面を移せば、エクシアとヴァーチェに対し、長距離射撃を絶え間なく行なっていたAEUのヘリオン部隊に攻撃を開始したのも新たに現れた三機のガンダムであった。
「こんなに早い出番になるなんて! 面白いじゃないさ。行けっ! ファングぅ!」
 ガンダムスローネツヴァイに乗り込んだヒリング・ケアが機体の両腰バインダーに八基搭載されている小型ビーム砲を全部射出し、AEUのヘリオン部隊をコクピットは避けて貫き刻んでいく。
「何だこの武装はっ!?」
 見たこともないファングにAEUのパイロット達は驚きの声を上げながらも次々に機体を無力化されて行き、更にその場で共に制圧に当たるのは青いカラーリングのやはり赤いGN粒子を放出するガンダムサダルスードTYPE-F。
 搭乗者はリヴァイヴと同タイプのイノベイドのアニュー・リターナー。
 サダルスードは明らかに戦闘向きとは言えないが、その分スローネツヴァイと共に、GNビームライフルを装備する事で作戦に当たっていた。
 これにより、弾幕が急激に薄くなったエクシアとヴァーチェの元には一機のガンダムが頭上に現れていた。
[何者だ!? そんな機体はヴェーダのデータに存在しない!]
[お前は?]
 ティエリアと刹那が同時に尋ねる。
「僕はリジェネ・レジェッタ。初めまして、ティエリア・アーデ、刹那・F・セイエイ。この機体はスローネドライというらしいよ。ヴェーダからのミッション、続けられるかい?」
 ティエリアの名を呼ぶ際だけ、やけに絡みつくような声で言った。
 モニターに姿は出たが、ヘルメットによって顔までは二人からは判別できない。
[らしいとは何だ! その機体はどこから調達した!]
 ティエリアは大声で怒鳴る。
「詳しいことはまた落ち着いて話そう、ティエリア・アーデ」
 有無を言わさずにスローネドライはその場を後にし、赤いGN粒子を放出してAEUのヘリオン航空部隊の相手をしに飛んでいった。
 しばらく停止していた、ティエリアと刹那であったが、ヴェーダからのミッションなら遂行する以外に無いと判断。
 自身達に指示されたミッションプラン通り、エクシアは上空を、ヴァーチェは地上を滑るように移動し、AEUの基地がある方向へと向かうと、更にその驚きは増した。
「あれはっ、第二世代のガンダム!」
 有視界に捉えた、ツヴァイと共にいるサダルスードを見てティエリアは叫んだ。


―UNION領海限界域―

 新たに六機のガンダムがタクラマカン砂漠に武力介入に現れるのと同時刻、UNIONの空母三隻が駐屯する地域に向けて真上から降下する十一機目最後のガンダムがいた。
「リボンズ、僕らが手を出す必要はあるかい?」
「それには及ば無いよ。予定通り、降伏勧告をして、部隊が出てくるようなら無力化するだけさ」
 CBY-001、1ガンダム(アイガンダム)。
 0ガンダムの後継機という意味での1をアイと読ませるガンダム。
 カラーリングは白と紫、頭部のV型と肩の部分がショルダーアーマーのように突き出、背部スラスターがエクシアと同型のコーン型スラスターを採用しているのが特徴的な、イノベイド専用MS。
 主要武装はGNビームライフルとGNビームサーベル。
 QBと適当な会話をしてリボンズ・アルマークは空母に降下していった。
 対するアイガンダムの接近を捕捉したUNION空母は緊急非常体勢に入っていた。
 艦内にアラート音が鳴り響き始めた中、
[オーバーフラッグス隊、全機出撃準備に入って下さい。空母上空にガンダムが出現しました]
 まだ出撃は数時間先だと予定されていたにも関わらず、待機室にてモニターから指示が出され、有視界で捉えた映像のアイガンダムが出る。
 その報告を聞きながら映像を見たグラハムは驚愕する。
「新型だとっ!? 四機だけでは無かったのか! まさか他にも機体があったとは、聞いてないぞ、ガンダムッ!」
 直ちにオーバーフラッグス隊員はカスタムフラッグへの搭乗へと動き出す。
 並行して、空母にはアイガンダムからメッセージが届いており、それにより管制室は騒然としていた。
[ガンダムの鹵獲を目的とし、我々CBに対して紛争行為を仕掛けるUNION軍に対し武力介入を行う。但し、こちらに空母への直接攻撃の意思は無し。作戦の中止と早急な降伏を要求する。降伏を行わない限り、モビルスーツの破壊を行い続ける]
 このようなメッセージが届くが、黙ってたった一機しかいないガンダムに降伏をする筈も無く、また、タクラマカン砂漠現地に新たに六機のガンダムが出現した情報はまだ入っていなかった。
「全モビルスーツ隊発進! 敵ガンダムを鹵獲せよ!」
 要求を飲むなどありえないと、そう司令官が命令を下し、モビルスーツ隊を出撃させる前に艦砲射撃をアイガンダムに向けて開始した。
「やはり、要求を飲むつもりは無いらしいね。なら、並べられているフラッグは破壊させて貰うよ。どうせガンダムの鹵獲にしか使う気が無いんだろうしね」
 リボンズは見下すようにそう言いながら、アイガンダムを巧みに操り、艦砲射撃を甘んじて受けながらも最高速で空母に降下する。
 空母の甲板に黒色カラーのカスタムフラッグが巡航形態で並んでいる所に僅かに浮遊した状態で接近し、リボンズはGNビームサーベルを引きぬき、整備班の人員がいない、元々一番最後に出撃予定のフラッグから容赦なく一機、二機、三機と両断していく。
 待機室から走って現れたオーバーフラッグス隊員達は甲板に出た瞬間その光景を見て、激怒した。
「隊長ぉ!」「何ということだっ!」
「我々のフラッグをッ!! 卑怯だぞ! ガンダムッ!!」
 グラハムは、出撃前に自身達に関して逆のことを言った筈だが、そんな事忘れて阿修羅をも凌駕するような形相で髪を逆立て、自身のグラハム専用ユニオンフラッグカスタムに猛然と走っていく。
 それに追随するように無事なカスタムフラッグへとオーバーフラッグ隊員達が走りこむが、重さを一切感じさせない、空を泳ぐようなアイガンダムの蹂躙は止まる事無く、カスタムフラッグはグラハムが乗り込んだ段階で十五機中九機が破壊されていた。
『おのれぇぇッ! 堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ! ガンダムッ!!』
 フラッグを起動させたグラハムは音声通信でそう叫びながら空母の上を距離が明らかに足りないながら緊急発進し、空母から飛び出して即座に変形、背後から迫るアイガンダムの方を向きながら飛び上がる。
「仕方ないね、僕らも少し出るよ」
 アイガンダムのコクピット内にいたQBが言うと、突如QBが空母の甲板に人間が居る数だけ出現した。
 QBの姿に混乱する甲板上の中、グラハムに続き、カスタムフラッグに乗ろうとする寸前のハワード・メイスンとダリル・ダッジはQBに目の前に現れられて洗脳攻撃を発動され、一瞬絶叫を上げたと思えば、虚ろな目でフラフラと待機室へとオーバーフラッグス隊員十四人と共に空母内の方へと戻り出した。
『どうした!? なっ、あれがQBかッ!!』
 グラハムがその光景に驚愕し、停止しているのを他所に、リボンズは更に三機のカスタムフラッグを破壊し、グラハムの機体含め、残り三機にまで減らす。
『うぉぉオォぉォォっ!!』
 我に返ったグラハムは中空から一気にスラスターを噴かせ、アイガンダムへと突撃する。
「フ」
 リボンズは余裕でそれを横に一瞬ズレるように回転しながらかわし、そのまま更にダリル機を真横に切り付け、更に飛び越えるようにしてハワード機を縦に切り裂いた。
『っく! 何たる事だっ!』
「……暑苦しいパイロットだね」
 起動させてから始終大音声で叫ぶグラハムに正直リボンズは引いていた。
「せめて彼とは相手をしてあげようか」
 言って、リボンズはグラハムが一瞬飛び出した方の海へと退避し、グラハムを誘う。
『誘っているのかッ!』
 グラハムはリボンズの狙いに気づき、直情径行そのものと言わんばかりに、そのまま、リニアガンをアイガンダムに連射しながら海上へと踊り出る。
 放たれたリニアガンをリボンズは右に左にと難なく避け、次いでグラハムはプラズマソードを抜刀し、アイガンダムへと肉薄する。
 赤色のGNビームソードと鍔迫り合いをすれば、グラハムは二度、三度と、攻撃をしかける。
「中々優秀なパイロットだね」
 対するリボンズは終始余裕そうに捌き、交戦していた所、空母から信号弾が発射される。
「何っ!?」
 グラハムが背後から上がって見えたその光に驚く。
 管制室は今この場にある最後のフラッグまで失う訳には行かず、明らかに有視界でアイガンダムにビームライフルがあるのが確認できるにも関わらず使用しない所からして、もし本気ならば既に壊滅させられている筈という事実に無条件降伏信号を上げたのであった。
 瞬間的に、リボンズはグラハムとの距離を取り、ビームサーベルもすぐに収納して対峙する。
「くっ……恨みはあるが、私も軍人。命令には従うッ……」
 ギリギリと歯ぎしりするようにグラハムはプラズマソードを納刀し、機体を翻し、空母に戻って行った。
 他二隻の空母からリアルド部隊が出撃する事も無く、UNION艦隊に対し、リボンズとQBは死傷者ゼロで、単純に先制攻撃が功を奏したとしか言えないものの、降伏宣言を引き出した。
 そして、アイガンダムはそのまま、場を後にして再び上空へと去っていった。
 

―タクラマカン砂漠―

 部隊総数52、モビルスーツ総数832機の内訳の多くは、一部の実働部隊を除き、長距離射撃や、上空からの爆撃により、そもそも、ガンダムとの直接戦闘を行わない、という予定であったが、上空から突如降下してきた六機の新たなガンダムによって、その作戦はズタズタになっていた。
 別れて行動を開始したデュナメスは、ミッションプラン通り、依然として上空を飛ぶヘリオン部隊に対し、地上からGNスナイパーライフルで狙い撃ち、無力化していた。
 一方、単独人革連部隊の方へと向かったキュリオスは途中で、セルゲイ・スミルノフ率いるソーマ・ピーリスを擁する頂武特務部隊七機のティエレンを捕捉した。
「あの機体はマリーかっ!」
 気がついたアレルヤはそちらに向けて機体を向け、接近して行く。
 砂漠上を進むスミルノフはいらついていた。
 何より、突如上空を放物線を描いてガンダム二機がいる所へ砲撃が降り注いでいた筈が、徐々にそれが止まり始め、それどころか後方部隊との通信が繋がらなくなったからである。
 一体何が起こっているというのだ。
 まだ攻撃中止時刻まで数時間はあるというのに。
 通信が繋がらないという事は……まさか!
[総員、一度駐屯基地へと帰投する!]
 そう、指示してから動き出していた矢先であった。
[中佐! 後方上空から羽付きが!]
[何だと? 離脱が目的ではないのかっ!?]
 その報告にスミルノフが見上げるようにして驚いた時、巡航形態から先に先制でキュリオスが攻撃を仕掛け、取り巻きのティエレンを一機撃ちぬき、行動不能にする。
[各機散開!]
 即座にスミルノフの指示の元、残り六機のティエレンが散開し、上空を飛ぶキュリオスに対し、射撃を開始する。
 しかし、巡航形態のキュリオスの速度に射撃が追いつく事は困難であり、再び旋回して戻ってきた時に撃ちぬかれ、更に一機、二機と数を減らされる。
「仕返しのつもりかっ!」
 この状況はマズイとスミルノフは焦る。 今回の作戦においてはティエレンは地上型装備であり、多少はスラスターで浮き上がれるとしても重力下では直接空中仕様のモビルスーツとの戦闘は圧倒的に分が悪かった。
「くぅっ!」
 残すティエレンがスミルノフとピーリスの二機のみとなった所でアレルヤは変形し、GNビームサブマシンガンを構えた状態で止まり、
『マリー! マリー・パーファシーッ!』
 そう音声で呼びかけた。
「何だ?」
「マリー?」
 スミルノフとピーリスは突然の音声通信に何事かと反応する。
『マリー! 僕だ! ホームで一緒だったアレルヤだ!』
 しかし、そのアレルヤの呼びかけに対しての反応は攻撃による物。
 滑腔砲を容赦無く、ピーリスはキュリオスに向かって放ち、宣言する。
『私は超兵! ソーマ・ピーリスだ!』
[少尉?]
 滑腔砲を受けながら、アレルヤは攻撃せずに呼びかけ続ける。
『やめてくれマリー! やめるんだ!』
 とうとう必死の呼びかけにもピーリスは答えなくなり、滑腔砲を連射し始める。
 アレルヤはそこである事に気づいた。
 ピーリスも脳量子波遮断スーツを着ているのだとすれば、僕の脳量子波が届く筈が無い。
 けど、ここで無理矢理マリーを外に連れ出して、せめてヘルメットだけでも取らせるなんて危険すぎる……。
 それに、ヴェーダからのミッション通り、このまま駐屯基地の制圧に向かわないとっ……!
 どうするか迷う中、周囲に行動不能にしたティエレンが五機存在する以上、ピーリスをここでどうにかするのは不可能と考え、また機会があると信じてやむを得ずアレルヤはそのまま、惜しそうにしながらも上空へと上がり、再び変形し、人革連タクラマカン砂漠駐屯基地へと飛翔して行った。
「一体何だったの……」
 突然キュリオスがその場を離れて行った事にピーリスは見上げるようにしながら呟いた。
 そこへスミルノフからの通信が入る。
[少尉、マリー・パーファシーという名に覚えはあるのか?]
[いえ、ありません。私は超兵、ソーマ・ピーリスです]
 それで間違いない、と自分に言い聞かせるようにピーリスは答えた。


―AEU・タクラマカン砂漠前線基地―

 エクシアとヴァーチェは途中合流したスローネツヴァイとサダルスードとは暗号通信のみでのやりとりで直接会話は行わなかったものの、その場で長距離射撃型のモビルスーツ群を戦闘不能にし、そのままカティ・マネキンが指揮するAEUのタクラマカン砂漠前線基地にスローネドライも加えての五機で向かっていた。
 既に状況は数ヶ月前のモラリアの一件の再現に限り無く酷似していた。
「有視界映像出ます! 新たに現れたガンダム三機と共に五機がこちらに向かってきます!」
 管制室ではオペレーターが慌てたように言い、モニターにガンダム五機の姿が表示される。
「くっ! 新たなガンダム……これまでの四機だけではなかったというのかっ! こんな事がぁっ」
 マネキンは強く机を握りしめた手で叩き、悔しさを顕にする。
 更に慌てたオペーレーターが振り向いて報告をする。
「が、ガンダムから暗号通信によるメッセージ届きました! ……直ちにガンダムの鹵獲作戦を中止し、降伏せよ。さもなければ、モビルスーツの破壊を続ける、との事です!」
「ガンダムの鹵獲を二度と行うなとでも言うつもりかっ。だが……このままではモラリアの二の舞になる。……やむを得ん、信号弾を上げろ」
 ギリと歯ぎしりをして、これ以上の被害を出す訳にはいかないとマネキンは指示した。
「りょ、了解!」
 そして、AEU軍はガンダム五機が基地の目前に並ぶ中、無条件降伏信号弾を放ち、降伏した。
 AEUのエース、パトリック・コーラサワー、またしてもそもそも出番無し。
 後に、マネキンの方からコーラサワーに対し「出番をやれずに済まなかったな」と軽く謝った事で、更にコーラサワーの心は釘付けにされたのは、これまた幸いか否か。


―タクラマカン砂漠某地域―

 結果として、AEU・UNION・人革連の三陣営共に降伏に追い込まれるより少し前。
 長距離射撃型ティエレンとその援護に現れたUNIONの飛行部隊を驚異的な機体の操縦センスで、一応命令通り、搭乗者を殺さないように無力化し、フォン・スパークは暴れ終えていた。
 アストレアで人革連の駐屯基地に向かっていた時、偶然フォンは一機の見覚えある武装、大型モビルアーマーと接続したモビルスーツが飛んでいるのを発見する。
「ありゃ第五次太陽光発電紛争の時のアグリッサじゃねぇか! それにあのイナクト。またサーシェスか!」
 そう言って笑い声を上げたフォンはどうせならとサーシェスの駆るモビルスーツへと向かって行った。
 フランス第四独立外人機兵連隊は、分類としてはAEU軍の中でありながらも、独立して機能している為、サーシェスはこうして単独で行動していたのである。
 フォンが捕捉したように、サーシェスもアストレアを捕捉していた。
「ぁん? おぃおぃ、新型のガンダムか? 四機だけじゃなかったって訳か。どんだけ隠し玉があるんだよ。面白れぇ、面白れぇぞ、Cなんたら!」
 聞こえはしない独り言をコクピットで前傾姿勢になって叫び、サーシェスはアストレアへと向かっていった。
『その機体、俺によこせよぉッ!! ガンダムさんよぉっ!』
 そう音声でわざわざ言いながら戦闘が開始される。
「誰がやるか!」
 馬鹿か、と言う様子でフォンはサーシェスとアストレアで互角に渡り合い、更にはアグリッサは破壊された。
 刹那よりも余程性質の悪い元テロリストガンダムマイスターと戦争が好きで好きで堪らない戦争中毒の戦い。
 潰し合って共倒れすれば余程世界は平和になりそうである。
 しかし、フォンは「サーシェスが生きてた方が面白ぇ」と思い、サーシェス自身も分が悪いと見れば撤退する為に、そうなりはしなかった。
 新たなガンダムが出現してから数時間。
 三軍合同によるガンダム鹵獲作戦は失敗どころか、降伏宣言をしなければならなくなるという、最悪の結果に終わった。
 降伏を確認したガンダム各機はGN粒子を散布したまま上空へと去っていき、姿を消した。


三つの国家群による合同軍事演習に仕掛けられた紛争。
死地へと赴くマイスターの胸に去来するものとは。
否、そもそも死地ですらなかった。
圧倒的な物量の筈が、絶え間なく続けられ無かった攻撃。
これがCBの答え、ガンダムマイスターは四人どころじゃない。


事情を遡ることしばし、アザディスタンの内紛まで。
アザディスタンでの内紛の際、国連大使アレハンドロ・コーナーが死亡し、AEUリニアトレイン公社総裁ラグナ・ハーヴェイは総裁室で困惑していた。
しかし、その困惑も束の間、彼にもそれは呆気ない死が訪れた。
リボンズ・アルマークの差し向けたMS部隊により、秘密裏に抹殺、同時にその身代わりとしてラグナの遺伝子データを元に製造された全く同じ容姿の肥満型イノベイドが送り込まれ、そのイノベイドはラグナに何食わぬ顔で成り代わった。
これにより、AEUリニアトレイン公社は乗っ取られ、AEUの軌道エレベーターは自由に使いたい放題、潤沢な資金の確保も達成される。
アレハンドロ・コーナー、ラグナ・ハーヴェイの二名の死亡により、疑似GNドライブ製造について知る者はいなくなる。
チームトリニティというリボンズの遺伝子データを大元に生み出されたデザインベイビー達は、指示を出してくるラグナの死に気づくことは無く、宇宙のトリニティ艦で自身達の出番が来るのを今か今かと待っていた。


―トリニティ艦―

「なあ兄貴、俺達の出番まだかよ?」
 トリニティ艦の中で、ミハエル・トリニティが頭の後ろで腕を組んで言う。
「ネーナ、つまんない」
 ネーナ・トリニティも文句を言う。
「指示が来るまで我慢しろ。次のCBのミッションに参加する可能性が高い」
 落ち着いた口調で弟と妹にヨハン・トリニティが諭すように言った。
「よっしゃ、それは期待するぜぇ!」
 口元をニッとつり上げ、ようやく暴れられるという様子でミハエルが喜んだ。
「ザンネンダケド、キミタチニデバンハナイヨ」
 突如、床に転がっていた紫HAROが普段とは違うとても低い声で言った。
「ハロ?」
「何だぁ?」
 ネーナとミハエルの疑問の声を上げた瞬間。
「艦のシステムが!?」
 ヨハンの驚きと共に、モニターが全て嵐がかかったかのようになり、三人の操作を一切受け付けなくなる。
「どうなってやがんだよぉっ!」
 行き場の無い怒りをミハエルが叫びに乗せる。
「ハロ! どういう事よ!」
 ネーナが紫HAROを両手で持って問いつめるが、既に紫HAROは稼働を停止していた。
「何! 何なのよ!」
 三人が焦り、何とかシステムを復旧させようとし始めた所、数分して、艦にMS部隊が乗りこんで現れる。
「一体どうやって!」
「あぁ? 何だガキ共? やんのか?」
「君たちは何者だ?」
 三人はMS部隊を見て口々に言った。
 しかしMS部隊がその質問に答える事は無く、三人を包囲するべく散開した。
「敵なら殺すしかねぇよなぁっ!」
「止むをえん!」
「殺してあげるよっ!」
 三人は背中を合わせてMS部隊を警戒し、ミハエルが超振動ナイフを、ヨハンとネーナが銃を構え、戦闘が開始される。
 ミハエルが突撃した瞬間、MS部隊の七人の黒髪の少女達は腰から取り出した銃を一斉に構え、その引き金を引く。
 ネーナとヨハンもそれぞれ銃弾を放ったが、二名のMSは驚異的な身体能力でそれを残像を残すような回避をし、ミハエルを真っ先に蜂の巣にした。
 声も出すことなく弾痕がいくつも体に空いたミハエルはそのまま勢いで力無く浮き、
「ミハエル!」「ミハ兄ィ!」
 ヨハンとネーナが叫ぶ。
 しかし、その動揺は死までの時間を更に短くしただけ。
 ミハエルを射殺した次の瞬間、MS達の構える銃口は二人に向き、一切の躊躇無く、引き金が引かれた。
「な……」「ぁ……」
 二つの体が音を立てて崩れる事はなく、宙に僅かに浮く。
 抹殺を一瞬で済ませた、MS達はトリニティ艦に乗り込む時に使用した宇宙輸送艦から大きめの袋を持ち出し、その三人の死体をしまった。
 制圧した段階でトリニティ艦のシステムが復旧し、航行が可能になる。
 MS達の目の光彩が金色に輝き、脳量子波を受信すると、トリニティ艦を操舵して、指定ポイントへと向かった。
 ポイントにて、MS(魔法少女)部隊の少女達は交代に新たに現れた三人に艦を渡し、そのまま本来いるべき地上へと再び戻っていった。
 乗り込んできた三人の一人、リヴァイヴ・リヴァイバルが意外そうに言う。
「まさか、私達が、こんな機体に乗ることになるとは」
「リボンズがこんな大胆な事するなんて思わなかったぁ」
 けらけらと笑いながら容姿はリボンズと酷似し、髪型は女性らしい人物、ヒリング・ケアが言った。
「僕は楽しみだよ」
 ティエリア・アーデと容姿が酷似し、髪型が違う人物、リジェネ・レジェッタが言った。
「リジェネ、それはティエリア・アーデに会えるから?」
 ヒリングが尋ねた。
「ああ。フフ……どんな顔するかな」
 密かに思っていた、自身もガンダムマイスターとして活動したいという願望も叶う上、同胞であるティエリアに会えるとあって、心底楽しそうな顔で、リジェネが言った。
「ところで、すぐに機体を変えるとは言え、乗るのはどれにする?」
 リヴァイブが二人に提案するように尋ねた。
「なら、あたし、ツヴァイが良い」
「僕はドライにしておくよ」
 要望が重なる事は無く、すんなりと決定する。
「ならば、僕がアインに」
 そして、スローネアイン、ツヴァイ、ドライの三機に登録されているバイオメトリクスの情報はヴェーダを介してすぐに書き換えられたのである。


新たに現れた七機のガンダムに世界は震撼し、翻弄され続けるのか。
はたまた、意外とそうでもないのか。
CBの支援組織に去来した物。
そして、CBに語られる事実とは。



[27528] 三陣営首脳「我々って、ほんとバカ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/18 23:32
―UNION・大統領官邸―

 大統領が机に両手を組んで呟く。
「まさか、新たに七機ものガンダムを投入してくるとは……いくらなんでも多すぎる」
 次の瞬間、大統領は頭を机に打ち付けた。
「大統領!」
 デイビットが焦った。


―人革連・国家主席官邸―

 国家主席が眉間にこれ以上にない程の皺を寄せて言う。
「CBは我々の作戦を読み切っていたというのかっ! 四機だけというのも見せかけだったとはっ……これでは我が党のこの先十年の安定すらも得られないではないかっ!」
 他所様の物を大義名分を掲げ、正直欲しいだけという本音を隠して奪おうと企てる者の紛れもない自業自得の姿がそこにはあった。


―AEU首脳会議室―

 首脳の一人が頭を片手で押さえて言う。
「十一機のガンダム……。三倍近い機体数とはどういう事だ……」
 実はまだガンダムには赤くなる三倍システムまでもが存在する事は彼らは知る由もない。
 しかし既に心はポッキリ折れたも同然。


果たして、三陣営の首脳陣は立ち直ることができるのか。


―王留美邸―

 プトレマイオスクルーのいた邸宅にはヴェーダからの緊急ミッションに関する報告は入ってなどいなかった。
 離脱どころか、降伏させたとも露知らず、現地時刻で朝頃、クリスティナ・シエラが広間で端末を操作している所、嬉しそうな様子で報告する。
「ハロからの暗号通信です! ガンダム四機とも健在! 太平洋第六スポットに帰投中だそうです!」
 リヒテンダール・ツエーリが言う。
「マジかよ!」
 ラッセ・アイオンが腕を組んで言う。
「心配かけやがって」
 スメラギ・李・ノリエガはその報告にQBが出たのかと安堵していた。
 フェルト・グレイスは椅子で寝ていた所、丁度朝方という事もあり、目を擦る。
「ミッションコンプリートですわね、スメ」
「ええっ!? どういう事!?」
 王留美がスメラギに言おうとした所、クリスティナが大声を上げてそれを遮った。
「何、どうしたの? クリス」
 スメラギがクリスが操作する端末へと近づきながら言う。
「そ、それが、これを見てください」
 訳が分からないという様子で、クリスが手で示して見せる。
 スメラギがクリスティナの横からモニターを見ると、
「は? ガンダム全11機でのヴェーダからの緊急ミッションを完遂した? 第二世代のガンダムも三機有り、データに存在しない機体も三機確認って……どういう事なの……」
 スメラギも意味が分からないと呟いた。
「第二世代、ですか?」
 王留美はまさかフェレシュテが動いたのか、と思いながら声を出したが、そこへ、丁度よく端末にヴェーダから直接緊急ミッションの内容が送られて来た。
「何ていうミッションなのヴェーダ。狙いは圧倒的な力を見せつけてガンダムの鹵獲計画を完全に放棄させる事……。それにしても太陽炉は一体どこから……」
 スメラギは顎に手を当てて悩むように呟いた。


―CB支援組織フェレシュテ―

 遡ることCBのタクラマカン砂漠でのミッション当日数日前、当ミッションがほぼ確定する状態に入った頃、ある資源衛星の一つに存在するフェレシュテの基地では、世界情勢を見て、ヴェーダにCBの支援にフェレシュテのガンダムを出撃させるか伺いを立てようかという丁度その時、ヴェーダの方から指示があった。
 それはCBの四機のガンダムに三機のガンダムで加勢し、例の緊急ミッションを完遂するようにという指示であった。
 また、そのミッション自体はCBのプトレマイオスにはミッションを完遂するまではあらゆる連絡を取らないようにとも指示があった。
 しかし、そもそも三機と言われても、太陽炉が一つしかない以上、不可能ではと思った矢先、フェレシュテに着艦許可を求める小型の輸送鑑が訪れた。
[ヴェーダからの指示で、物資の輸送に来ました。着艦許可をお願いします]
 モニターに現れたのは紫色の髪にやや長いショートヘアーの人物、アニュー・リターナー。
 簡単な解析をしてみても、モビルスーツが搭載されてもいなければ、特に武装も無い事が分かる。
 それに対し、長い銀髪のポニーテールに、隠れてはいても見えてしまう左目辺りにある傷が特徴的な暗い雰囲気のフュレシュテの管理官、シャル・アクスティカが少し緊張を見せながら言う。
「分かりました。着艦を許可します」
 伝えると、衛星に隠された扉を開け、その入り口から小型輸送鑑が着艦する。
 シャルとCBの総合整備士のイアン・ヴァスティの弟子である褐色の肌のフェルトと同じ年の少女シェリリン・ハイドがHAROを抱え、それとCBの中では立場のない予備マイスター、エコ・カローネがそれを出迎える。
 降りて現れた人物はノーマルスーツを着た二名。
 アニューと赤髪の寡黙な印象が強いブリング・スタビティ。
「着艦許可、感謝します。私はアニュー・リターナーと言います」
 ハキハキとアニューは言ったが、ブリングは重く口を開き、堅そうに一言。
「ブリング・スタビティだ」
 瞬間、シェリリンの腕の中から、HAROが飛び降り、立体映像が顕現し、二人を驚いた様子で見上げ、凝視する。
 もこっとした髪型にネコ耳が付いているシェリリンよりも小さい少女、ハナヨ。
「ハナヨ?」
 シェリリンが声を掛けるが、名乗られた以上、シャルが先に挨拶を返す。
「ようこそ、フェレシュテの管理官、シャル・アクスティカです。物資の輸送という事ですが、何でしょうか?」
「太陽炉を二基、搬送しに来ました」
 アニューがあっさり答え、
「太陽炉!?」「ええ!?」「何だって?」
 シャル、シェリリン、エコがそれぞれ驚く。
「お見せした方が早いと思いますので、少々お待ちください」
 言って、アニューとブリングは再び輸送鑑に戻り、貨物用のハッチを開けて、無重力であるが故に、一基の太陽炉を引っ張って現れる。
「本当に、太陽炉だ……」
 実物を見て、シェリリンが目を丸くする。
「ど……どうして……」
 ありえない、とシャルは動揺する。
「この太陽炉はオリジナルの太陽炉とは異なる部分もありますが、機能的にはほぼ同じと考えて頂いて問題ありません。これを使用し、フェレシュテに置かれているガンダム三機での出動がヴェーダからの指示です」
 実に説明口調で太陽炉を手で示しながらアニューが解説した。
「……そう、ですか、分かりました。リターナーさん、一つ質問をしても良いでしょうか?」
 一度目を閉じながら、了解の旨を言い、シャルは目を開けてアニューに尋ねた。
「はい、何でしょうか?」
「その太陽炉は、一体どこで作られたものなのですか?」
 シャルが目を細めて言い、アニューはパカっと口を開いて説明を始める。
「地上にある施設で作られたものです」
 聞いた瞬間、シャルは驚愕する。
「地上に施設?」
 アニューが軽く頭を下げて話し始める。
「詳しい事は答えられませんのでご了承下さい。ヴェーダからのミッションですが、私とブリングの二人にはこの太陽炉を搭載した二機のガンダムで出動させて頂きます。ミッション終了後、機体は返還致しますし、太陽炉もそのまま研究・使用していただいて構いません」
 シャルが困惑しながらも尋ねる。
「お二人はガンダムマイスターなのですか?」
「一応、そういう事にはなると思います」
「一応とは?」
 要領を得ない答えにシャルが不審そうにする。
「ヴェーダからの緊急の指示という事からお察し頂ければ」
 アニューは目を閉じながら答えた。
「……分かりました」
 こうして、アニューとブリングの二名は数日間、フェレシュテで働く事になり、主にシェリリンと疑似GNドライブの調整と換装作業を行った。
 ハナヨは終始、凝視するように二人を見ていたが、フォン・スパークはブリングに対し「お前ら、人間じゃねぇな」と核心を突く発言をし、ブリングの動揺を引き起こしていた。
 結果、疑似GNドライブ以外の情報が多く明かされる事も無いまま、ドライブ二基はフェレシュテのサダルスードとアブルホールの二機に換装され、オリジナルの太陽炉を搭載したアストレアと共に出撃したのであった。
 また、本来、フェレシュテのガンダムが運用されている事がCBのプトレマイオスメンバーにすら秘匿である事は、このミッションによりそこまでとなったのは言うまでもない。


―CBS-70プトレマイオス―

 時を戻せば、プトレマイオスにいたイアン・ヴァスティの元にもヴェーダからの情報が届いており、第二世代のガンダムが出撃していた情報について、腰を抜かしかけていた。
 そこへ、支援組織フェレシュテからの通信が入り、モニターにはイアンの弟子であるシェリリンと暗い表情のシャルが映った。
[師匠、ご無沙汰です。ヴェーダから通信許可が降りたので報告します!]
 元気そのものの様子でシェリリンが言う。
[イアンさん、ご無沙汰です]
 シャルが軽く会釈をして言う。
 それを見てイアンは嬉しそうな表情で答える。
「おお! シェリリンにシャル嬢! 久しぶりだなぁ! んで、今回のヴェーダからのミッションは一体何だったんだ? フェレシュテからも出撃したのか?」
[そうです、師匠。聞いてください! 数日前突然フェレシュテにヴェーダからの指示が来て、太陽炉が二つも届いたんです!]
 目を輝かせてシェリリンが言った。
「何ぃ!? 太陽炉が二つ? どういうこった!」
 イアンは思わず身を乗り出し、モニター一杯に顔面を近づけた。
[解析してみたら炉心部にTDブランケットを使用してないんです。ドライブ自体の活動時間は有限、粒子の色も赤色なんです。だから、言ってみれば疑似GNドライブ、です!]
 自信満々の様子でシェリリンは説明をした。
「ふぅむ……しかし、そんなモン一体どっから……?」
 気にかかる事ばかりだと、イアンは唸る。
 GNドライブの設計情報はヴェーダの中にしかない。
 だとすると、その情報を盗み出した者がいたのか、いや、それとも、ヴェーダそのものがわしらの知らない所で指示を出してたのか……?
[地上にある施設で作られたものだそうです!]
 ビシっとシェリリンは言い切った。
「地上にある施設ってなぁ……」
 どこにそんなもんがあるんだ、とイアンは髪をガシガシと手で掻きながら呟き、
「ん、だが、その太陽炉を運んできたのは誰だ?」
 ふと、その問題に思い至り、イアンが怪訝な様子で尋ねた。
[アニュー・リターナーという女性とブリング・スタビティという男性でした]
 シャルに続くように、シェリリンが不思議そうに言う。
[何か、うちのガンダムマイスターのフォンが二人に対して人間じゃないだろ、って言ってましたけど]
「人間じゃない……なぁ」
 思い当たる節はあるにはあるが、と思いながら顎に手を当ててイアンは答えた。
 いずれにしても、今回フェレシュテが出撃したのもヴェーダからの指示だったという事だけははっきりとイアンに伝えられ、後でヴェーダのデータに無い三機のガンダムを使用した者達から接触があるだろうという事で通信を終えた。
「マイスター874と同じ存在がどこかで活動していたという事か……しかし、十一機という事は残り一機数が合わんが一体……」
 イアンはそう呟いて、メディカルルームにいる昔からの付き合いであるJB・モレノと話しをしに行った。


―UNION・対ガンダム調査隊(仮)改めオーバーフラッグス基地―

 両断されたカスタムフラッグ十四機の残骸を乗せたまま海上空母が再び太平洋を横断してUNION領は基地へと戻る途中、オーバーフラッグス隊員は終始全員イライラしていた。
 何より、正規軍として認められたオーバーフラッグスがまともな出撃をする事無く、機体が壊滅させられたというのは、フラッグファイターとしては無念を通り越して、何かもう訳が分からない状態にならざるを得ない。
 そしてQB人形はズタズタの状態で待機室の隅に三体程転がっていた。
 アラスカのジョシュアはグラハム・エーカーが隊長を勤めているのが気に入らないという、同僚内での妬みはどこへやら、完全に新型のガンダム、もちろん、アイガンダムへの恨みへとシフトしていた。
 そんな中、QBの精神攻撃の餌食になったダリル・ダッジは、正直十一機もガンダムがあったCBとまともに戦わなくて済んだのはある意味良かったのではないかと少し思いながらもグラハムに尋ねる。
「隊長、新型とやりあってみてどうでした?」
 瞬間、グラハムは左の拳をギリリと握りしめ、鋭い目つきで答える。
「あの新型、機体の性能は元より、パイロットも相当な手練と見た。恐らくタリビアの一件、アザディスタンの一件で戦った二機のパイロットよりも上だろう。よもやあのような隠し玉があろうとはっ。圧倒的すぎるぞ、ガンダムッ!」
 最後の方、顔を上げて空に向かって言い始めるあたり、どう考えてもいつもの独り言になっている、と思いながらもダリルは磨きあげたスルースキルを駆使して言う。
「隊長がそこまでいうのなら、いよいよCBはとんでもない組織ですね。機体もパイロットもとなると……十一機というのも、まだ機体が幾つもある可能性もあります」
「カタギリとプロフェッサーは四機しか無いと見ていたが、その予想すら凌駕するとは。CBは完全に我々の作戦を読み切っていたらしい」
 想定の範囲外、ここに極まれり、という結論であった。
 太平洋上を横断するよそで、オーバーフラッグスが基地では、早速ビリー・カタギリとレイフ・エイフマンはグラハムが僅かとはいえ交戦をしたガンダムとの戦闘データと、他の巨大航空機の部隊とAEUと人革連からも互いに情報交換する事で伝わってきた新たなガンダム各機の情報分析に追われていた。
「まさか、新たに七機ものガンダムを投入してくるとは……完全に予想が外れましたね、エイフマン教授」
 これはやられた、という様子でカタギリが言った。
「じゃが、この新たなガンダム、全てが新型という訳では無い。特にこの三機」
 エイフマンがモニターに映る、アストレア、サダルスード、アブルホールの三機を見て言った。
「ええ、いつもの三機の原型機、と言った所でしょうか。特にこの飛行型の機体はそう断言できますねぇ」
 アブルホールを見て納得するようにカタギリが頷いた。
「対して、別のもう三機、これらは全く別の流れを汲んでいる新型と見て良い」
「そのようですねぇ。そして、最後にグラハムが交戦した一機はいつものガンダム四機の特徴を廃した汎用型と言える、完全な新型と言って良いでしょう。しかし、この一機にカスタムフラッグ十四機を出撃させる暇無く、破壊されるとは……」
 苦い顔をしてカタギリが言った。
「何、パイロットは失ったらそれまでじゃが、機体はまた作れば良いだけの事。費用を度外視すれば、じゃがな」
 エイフマンはさほどフラッグが破壊された事に憤りも感じていない様子で言い、それにカタギリが苦笑して言う。
「ごもっともです。それにしても、ガンダムが七機もあるとなると、直接鹵獲に力を注ぐより、教授の研究を進めるか、諜報機関がCBの基地を見つける方が余程近道のように思えますね」
 これは流石にお手上げでは、というようなカタギリに、エイフマンはフッと笑い、カタギリに問いかける。
「ふむ……時に、この五機のガンダムと六機のガンダム、放出する粒子の色が違う事についてどう見る?」
「大部分が同じ構造をした動力機関でありながら、どこかに明確な違いがあるのでは無いでしょうか」
 カタギリが顎に手をあてながら答えた。
「やはりそう見るか。わしは緑色の粒子を放出するガンダムの動力機関は稼働が無限、赤色の粒子を放出するガンダムの動力機関は稼働が有限であると見ておる」
 だとするならば……とエイフマンは目を細め、六機の赤いGN粒子を放出するガンダムを見ながら言った。
「なるほど……その可能性は高そうですね」
 カタギリは興味深そうに再び頷いた。


―経済特区・東京―

 ルイス・ハレヴィがスペインにいるいとこの結婚式に行くために、日本を離れるという話を、サジ・クロスロードとしていた一方、JNN本社内の休憩室で絹江・クロスロードは休んでいた。
「はぁ……」
 椅子の背もたれに身体を預け、溜息をつく。
「先輩、疲れてますね」
 絹江の部下が声を掛けた。
 絹江は目を閉じたまま答える。
「取材が空振り続きでね……」
「聞きました? 各陣営の公式コメント。大破・損壊したモビルスーツは累計563機、戦死者は100名程度だそうです。公式コメントとは思えないほど、相変わらず数おかしいですよね」
 不謹慎ではあるが何か笑いすら出てくるという様子で絹江の部下が言いながら、自動販売機から缶コーヒーを取り出す。
「はぁ!? 何、その563機って?」
 知らなかった絹江が叫んだ。
「それが、どうやら新しいガンダムが何機もうじゃうじゃ現れたらしいですよ」
「新しいガンダムが何機も!?」
 更に絹江は驚く。
「ええ。この分だとCBにはまだまだ余裕で隠し玉がありそうですね」
 軍も諦めたら良いのに、と部下は言いながらコーヒーを飲む。
「一体CBにはどれだけの規模と予算があるというの……」
 呆れた様子で絹江が呟いた。
「それはそうとして、先輩、例の似顔絵の女の子ですけど、知り合いか何かですか?」
 部下が懐から、暁美ほむらの精巧な似顔絵の書かれた紙を出して言った。
「その子がね、CBとQB、特にQBについて詳しく知ってる可能性があるのよ」
「この女の子がですか?」
 それは無いだろ、という顔をして部下が言った。
「見かけたら教えてくれればいいから。それだけよ」
 絹江は手をヒラヒラさせて言い、要領を得ない様子で部下が相槌を打つ。
「はぁ……そうですか」
「付きあわせて悪いわね。私、ちょっと個人的に群馬に行くことにするから、局の仕事に戻っていいわよ」
 絹江がそろそろ行ってみるか、という様子で言った。
「それも取材ですか?」
 絹江の部下が何で群馬に、と意外そうに尋ねた。
「まあ、そんな所よ」
 あれから調べてみると、やはり、ただのオカルトとは言えない程、統計的に見て、失踪者の偏りの内訳はどうもおかしい。
 私もあの子に会わなければ、それ程惹きつけられるものでも無かったけれど、実際に見た。
 あの子は何かしら関係が必ずある筈。


―某宙域・ランデブーポイント―

 ガンダムスローネドライに搭乗していたリジェネ・レジェッタにより、ティエリアに対して暗号通信で送られてきたポイントへとプトレマイオスが向かうよりも前。
 四人のガンダムマイスターと、王留美の手配によってプトレマイオスクルーが地上から全員プトレマイオスに戻り、イアンがある通信があった事から、スメラギの呼びかけにより、ブリーフィングルームに全員が集まっていた。
「支援組織フェレシュテ? それが前から第二世代のガンダムを改修して運用してたっていうのか?」
 ロックオン・ストラトスがそんな事知らなかったとイアンに尋ねる。
「ああ、そうだ。本当は機密だったんだが、ヴェーダからフェレシュテの存在を教えて良いって連絡が来てな。どっちにしろお前さん達気になって仕方がないだろうから言わざるをえんとは思っていたがな」
 腕を組みながらうんうん、とイアンが答えた。
 フェレシュテの存在をプトレマイオスクルーで知っているのはイアンとモレノのみであった。
 ただ、シャル本人としては、CBのプトレマイオスメンバーに自分達の存在を知られるのはできれば避けたい事であった。
 シャルは昔事故で仲間を失った過去から、また再び仲間を失って悲しみたくない、ならば、相手に知られることの無い存在ならばそもそも仲間と成立していないから、悲しむ事も無いだろう、という非常に暗い想いを抱えているから。
「知らされていない組織が存在していたというのか……」
 ティエリア・アーデが呟くように言った。
「という訳でだ、フェレシュテと通信を繋ぐぞ」
 言って、イアンがブリーフィングルームの巨大なモニターに通信先と繋ぐ。
 モニターに現れたのは、シャルとシェリリンの二名。
[……支援組織フェレシュテの管理官、シャル・アクスティカです。知っている皆さん、お久しぶりです]
[フェレシュテのメカニック、シェリリン・ハイドです]
 二人の姿、特にシェリリンを見て、フェルトがポツリと声を上げ、モニターに近づく。
「シェリリン」
 それにシェリリンも僅かに手を振って答える。
[久しぶり、フェルト]
 フェルトとシェリリンはどちらもCBで育ったが、両者共に無口であり、その会話も傍から見るとどうにも微妙なものであった。
「知り合いなの? フェルト」
 クリスティナがフェルトの後ろから声をかけると、フェルトは振り返りもせずに肯定する。
「はい」
 フェルトを見たシャルは目に動揺の色を浮かべるが、スメラギが話を進めようと口を開く。
「いいかしら、フェルト。プトレマイオスの戦況予報士、スメラギ・李・ノリエガです。イアンからある程度は聞きました。私達が活動している陰からサポートをして頂いていた事、感謝します」
 スメラギはフェレシュテの存在を知らなかったので、素直に感謝した。
[いえ、当然の事です……。それが私がヴェーダから許可を得てフェレシュテを設立した意義ですから……]
 暗く憂いを帯びたような表情で目を伏せて話すシャルの様子に、プトレマイオスのブリーフィングルームも雰囲気が心なし暗くなる。
「あー、でだ、例の疑似GNドライブを持ってきた二人はどうしたんだ?」
 完全に会話が停止した所、イアンが今回の本題について尋ねる。
 ティエリアもそれについて壁にもたれかけながらも鋭い目つきでモニターを見る。
[それが、師匠、フェレシュテにサダルスードとアブルホールで普通に帰投した後、疑似GNドライブを二基とも残したまますぐに二人はどこかに帰っていってしまったんです]
 シェリリンがどうしてか分かりませんけど、と答えた。
「何ぃ!? 止めなかったのか?」
 イアンが声を裏返して言った。
[ヴェーダからの指示だそうです。その代わりCBには別の仲間が改めて話をする予定ですので、と言ってました]
 シェリリンが、アニューから言われた事をそのまま伝えた。
「ティエリアに暗号通信を送ってきたのはそれか……。疑似GNドライブを置いていった事には何と言ってた?」
[最初に来た時に研究・使用しても構わない、と言っていた通りだと思います]
 今度はシャルが答え、イアンが考えるように唸り、ティエリアが壁から背を離して一つ尋ねる。
「シャル・アクスティカ管理官、その二人はガンダムマイスターなのですか?」
「一応、そういう事にはなる、と言っていました。ヴェーダからの緊急の指示という事から、恐らく一時的にマイスターの権限を持っているものと考えられます。詳しい情報は聞けませんでした」
「……そうですか」
 短くティエリアは答え、これから合流する事になる人物を待つ事にした。
 そのまま、その後少しのやりとりの後、通信は終了、一旦解散となり……そして、時は現在、場所はランデブーポイント。
「光学カメラが接近する物体を捕捉」
 フェルトが報告し、スメラギが指示する。
「メインモニターに出して」
「了解」
 メインモニターに映ったのは小型の輸送鑑にコンテナを取り付けたような物。
「あれが……」
 スメラギが呟き、リヒテンダールが拍子抜けして言う。
「随分小さいすね」
 しかし、スメラギは表情を強ばらせ、更に指示を出す。
「フェルト、エクシアの出撃準備を。クリスはあの船をスキャンして」
「了解です」
 しばらくすると、そのまま小型輸送艦はプトレマイオスにどんどん近づいてくる。
「コンテナの中にモビルスーツを確認しました」
 フェルトが報告し、
「コンテナの中に……?」
 ラッセが呟いた所、小型輸送艦から光通信が発信される。
「輸送艦からの、光通信を確認」
「トレミーへの着艦許可を求めています」
 フェルトとクリスティナがそれぞれスメラギに端末を操作しながら告げる。
「許可すると返信して。それから、エクシアの待機を解除。刹那をブリーフィングルームへ」
 スメラギが素早く指示を出し、腕を組む。
「了解です」
 輸送艦が丁度の距離に入った所、輸送艦から一人だけ飛び出し、ハッチから入ってくる。 
 隔壁が開き、廊下に入ってきたのは紫色のCBのガンダムマイスターと同じパイロットスーツの姿。
 それにガンダムマイスター三人とスメラギが驚く。
 その人物が頭に両手を当ててヘルメットを取って姿を現すと。
「なっ!?」「ティエリア!?」「そんな」「ティエリアが二人?」
 一番最初に絶句したのはティエリア本人。
 残りは皆、一度自分達の側にいるティエリアを思わず確認する。
「着艦許可ありがとうございます。リジェネ・レジェッタです」
 リジェネはティエリアよりはウェーブのかかった髪型であるが、完璧に容姿は同じであり、顔は微笑んでいるものの、ティエリアをじっと見て言った。
「な、何故だ? 何故、僕と同じ容姿をしているっ!?」
 ティエリアは動揺を隠す事無く、その場で叫んだ。
《それはDNAが同じだからさ。塩基配列パターン0988タイプ》
 脳量子波の通信により、ティエリアにリジェネの声が伝わり、ティエリアは一歩二歩と下がる。
「頭に声が!?」
《GN粒子を触媒とした脳量子波での感応能力。それを使ってのヴェーダとの直接リンク。遺伝子操作とナノマシンによる老化抑制。……ティエリア、君にはヴェーダによる情報規制がかかっていて自分に同類がいる事を知らなかったんだったね》
「そんな……」
 筈は……と更に後ろに下がるティエリアを見かねて、
「おぃお前、ティエリアに何かしてんのか?」
 ロックオンが顔を顰めてリジェネの前に立ち入った。
「人前では言えない話をしていただけです」
 そこへ、刹那がエクシアから降りてやってくる。
「な、ティエリアが二人?」
「僕はリジェネ・レジェッタ」
 リジェネは即座にもう一度自己紹介をした。
「と……とにかく、ここじゃ何だから、部屋で話しましょうか」
 スメラギが我に帰って提案し、
「お願いします」
 リジェネが軽く頭を下げた。
 一方、ブリッジ内も騒然としていた。
 フェルトはぱっくりと口を開けたまま完全停止し、ラッセのモニターで映像を見ていたクリスティナが適当に言う。
「まさか、ティエリアの生き別れの双子……とか?」
 リヒテンダールが引きつった顔で言う。
「そ、そうかもしれないすね」
 ラッセが唸る。
「うぅん……」
 そして、場所はブリーフィングルームに移る。
 リジェネ一人に対し、向かい合うように五人が並ぶ。
「何故、あなた……あなた達はガンダムを所有しているの?」
 容姿の事はティエリアが依然動揺して、一人奥の方に離れているので触れないとして、スメラギは一人しかいないものの、一応訂正して尋ねた。
「ある施設で建造していたからです。擬似GNドライブも同じように建造しました。場所は答えられません」
 あっさりリジェネは口を開いて、GNドライブについても言及する。
 ロックオンとアレルヤもその言葉には目を見開く。
「そ、そう……。では、ヴェーダのデータバンクにタクラマカン砂漠での三機と、あなたが乗ってきた……スキャンさせて貰ったけれど小型輸送艦のコンテナに入っているガンダムが無いのは何故かしら?」
 スメラギは小型端末を見て、次の質問を投げかける。
「ヴェーダのデータバンクにはきちんと存在しています。ただ、普通にはデータバンクには無いように処理されていて、アクセスできないだけです。それと、タクラマカン砂漠での三機は現在既に解体中です」
 その言葉にロックオンが意外そうに声を上げる。
「解体? どうしてだ?」
「必要無いからです。仮に搭乗するとしても、我々には適していないので」
 リジェネは正直スローネ三機には全く興味がない様子で答えた。
 リジェネの言い方に眉をひそめてスメラギが尋ねる。
「その事だけど……あなた達はガンダムマイスターとしてこれからも行動するのかしら?」
「必要がある時には。タクラマカン砂漠での物量で押して、こちらにあるオリジナルの太陽炉を搭載したガンダムを鹵獲するような作戦の際には必ず。迷惑ですか?」
 微笑を浮かべて、リジェネが言った。
「いえ……そういう訳では無いのだけど。実際あなた達が来なければ鹵獲されていた可能性も高い訳だし」
 スメラギが表情を緩め、首を一度振って答えた。
 そう言われると、とアレルヤ、ロックオン、刹那も否定はできなかった。
「質問ばかりですが、僕からもそろそろ話をしても良いですか?」
 リジェネの方から話をする気がある様子にスメラギは一瞬驚く。
「え、ええ、勿論よ。色々質問責めにしてごめんなさい」
 リジェネは一度目を閉じ、再び開けて両手を広げながら言う。
「CBの武力介入による計画の第一段階は三陣営に軍事同盟を結ばせるなどして、世界を一つにする足がかりを作らせる事ですが、その後CBはヴェーダの計画ではどうなる予定になっていると思いますか?」
 ロックオンが怪訝な顔で言う。
「紛争根絶を達成するまで武力介入を続けるんじゃないのか?」
 ハッとした顔でスメラギが恐る恐る口にする。
「……ま……まさか。……CBは滅びる事になっているとでも言うの?」
「スメラギさん、そんな」
 筈はないでしょう、とアレルヤが言う前に、リジェネが肯定する。
「そのまさかですよ。CBはヴェーダの計画では元々数百日の活動の後、滅びる運命にあります」
「な!」「馬鹿な」「ヴェーダ……」
 ロックオン、アレルヤ、ティエリアが同時に声を出して停止し、スメラギは口を手で抑え、刹那が怒ったような顔で言う。
「CBは、ガンダムは戦争を根絶する為に存在する。戦争根絶を達成する事無く滅びると決まっているならCBは、ガンダムは何の為にある?」
 リジェネが目を閉じて答える。
「ヴェーダにとっては、計画の為のステップにしかすぎません。必要がなくなったと判断されれば処分されるだけです。その昔、オリジナルの太陽炉五基が完成した際、木星で開発を行った科学者達が全員処分されたように」
 そこでリジェネは目を開け、それに動揺したスメラギが尋ねる。
「そ……それは事故だという話では無かったの?」
 フッと笑い、リジェネが言う。
「ヴェーダに、事故、などという計画の失敗を意味するような現象が、ましてやそんな重大な案件に偶然起きると思いますか? ヴェーダは常に完全であり、根幹を為すシステムです」
 ヴェーダの決定は絶対、というのがCBのルールであったが、このリジェネの言葉は重かった。
 五人は完全に停止する。
「……声も出ないようですね。因みに、これだけ話してしまっている僕も、そろそろヴェーダから必要ないと判断されて処分が決定される一歩手前になりかねないんですよ?」
 自嘲染みてリジェネが肩をすくめて言った。
「っ……」
 その発言にロックオンが舌打ちをする。
 首を振り、アレルヤが両手を前に出しながらリジェネに確認する。
「ヴェーダは必要ないからという理由だけで、簡単に人の命を奪うというのか?」
 リジェネが頷く。
「その通りです。また、計画にとって障害になると判断される人物に関しても同様です。……例えば、スメラギ・李・ノリエガ、あなたの恩師、レイフ・エイフマン教授はこのままだとそろそろ抹殺対象に入る可能性が高いですよ」
 リジェネはスメラギを見て言い、スメラギが声を上げる。
「教授がっ! どうして!?」
 即座にリジェネが説明を始める。
「彼の研究がGN粒子と太陽炉の本質に迫って来ているからです。そんな事を知られては、当然、CBの障害になりますよね?」
 スメラギも一歩下がる。
「なんてこと……」
「おぃおぃ、それが本当ならヴェーダはとんでもねぇな」
 ロックオンは頭を掻いて言った。
「CBにスカウトされた僕たちは……騙されていたというのか?」
 アレルヤが手に汗を握って言った。
「ヴェーダはシステムです。善悪という概念は存在しません。常に計画に則って必要か、不必要か、有益か、そうでないか、それを判断し、決定するだけです」
 スメラギがここに来て、リジェネの行動に疑問を呈す。
「……なら、あなたはどうしてわざわざここに来たの? あなたの命の危険になるような事を話すのもヴェーダの計画の一部だというの?」
 リジェネはここで、微笑み、事情を明かす。
「……ヴェーダの計画、いや、イオリア計画は最終段階の半分が既に達成されてしまった。その為、ヴェーダの計画には変化が起きて来ているんです」
 ロックオンが何のことか分からないと尋ねる。
「最終段階? どういう事だ?」
「QB。彼らが何か知っていますよね?」
「異星生命体……」
 スメラギが呟いた。
「イオリア計画の途中の段階は省きますが、最終段階は人類の外宇宙への進出と、それに伴う未知との来るべき対話に備え、それを達成する事です。QBはその未知であり、我々が来るべき対話を行うべき存在です」
 壮大な話である筈が、QBがここに絡んできた途端、場の空気が急速にげんなりする。
 散々これまでQBに振り回されているだけに、尚更。
「QBとの対話がイオリア計画の最終段階ですって……」
 呆れた顔でスメラギが言った。
「あー、散々ぶん殴ってるんだが、大丈夫なのか……」
 ロックオンは俺やっちまったぞ、という顔でやれやれ、と言った。
「ロックオン……」
 アレルヤがロックオンに呆れるように言った。
「QBとの対話の結果、CBは数百日で滅ぶ事無く、可能な限り超長期的に活動する事になりました。これが僕がここに来て、これだけ話す事ができる理由です」
 緊張の抜けた顔で、リジェネは、最後に息を付いて言った。
 イノベイドも正直溜息を付きたい状況である。
「ここに来てQBに結び付くというのが、何とも言い難い気分なのだけど……つまり私たちはこれからもCBとして活動をすれば良いのかしら?」
 スメラギは額を手で抑えながら尋ねた。
「そうです。ヴェーダもCBの武力介入行為で本当に世界から紛争を根絶できるかまでは測りかねています。ですが、仮にできないとしても、CBは世界の抑止力となって存在し続けることに意義があるでしょう」
 刹那がその言葉を復唱する。
「存在し続ける事に意義がある……」
「はっ……良く言う」
 ロックオンが背中を壁から離して言った。
「それに当たって、ティエリア、君に新しい機体を持ってきたよ」
 突如、リジェネは後ろの方にいるティエリアの方をしっかり見て言った。
「僕の……新しい、機体?」
 未だ混乱が収まらない中、ティエリアが呟いた。
「コンテナに積んできた0ガンダムの後継機、アイガンダム。時と場合によって太陽炉を換装して使い分けて使用すると良いさ。あれならヴァーチェと違って気をつければパイロットを殺さなくて済むからね」
 くすくす、と笑いながらリジェネが言った。
「勿体無いとかいうQBの差し金か?」
 ロックオンが目を細めて尋ねた。
「僕も人間の死を勿体無いというQBの表現、そのもの、には若干の嫌悪を覚えます。ですが、QBにとって理由がどうあれ、殺さない事は悪くは無い筈。ティエリアも結構気にしてるだろう?」
 リジェネは首を傾げた。
「くっ……」
 思考を読まれている……とティエリアは苦虫を噛み潰したような顔をした。
 そこで、スメラギが腕を組んで尋ねる。
「……そろそろ、あなたが一体何者なのか、話しては貰えないかしら?」
「良いでしょう。では、イアン・ヴァスティとJB・モレノも呼んで貰えますか?」
 リジェネの提案にスメラギはどうして、と思いながらも、
「イアンさんとモレノさんを……? 分かったわ」
 言って、スメラギはイアンとモレノを通信で呼び出した。
 間もなく、ブリーフィングルームにイアンとモレノが到着し、リジェネの姿を直接見て驚く。
「モレノ医師、ヴェーダのデータバンクの中の医療系に関する情報、ナノマシンなどについて閲覧を許可されていますね?」
 リジェネがモレノに尋ね、モレノが肯定する。
「あ、ああ。そうだが」
 情報を引き出すように、リジェネが問いかける。
「僕たちが何者か、分かりますか?」
「……ヴェーダによって人工的に作り出された存在……と言った所だろうか」
 サングラスで目が隠れ、表情ははっきりとは分からないが、尻すぼみに答えた。
「という事です。まだ質問はありますか?」
 言って、リジェネはスメラギを見た。
「……いいえ、十分よ」
 スメラギが首を振る。
 イアンが眉間に皺を寄せて尋ねる。
「わしはお前さんに聞きたい事があるんだが良いか?」
「どうぞ」
 リジェネが頷く。
「すまんが通信で聞かせて貰っていた。ヴェーダに事故は無いと言っていたが、プ……いや、あの事件も、ヴェーダによって計画された事なのか?」
 プルトーネの惨劇、フェルト・グレイスの両親が、シャル・アクスティカを助ける為に死亡する事となった事件。
「あの事件というのが同じ物を想定しているかは分からないですが、心当たりがあるとすれば、それは僕たちの中にいた裏切り者がヴェーダにも気づかれずに勝手に仕組んだ事で、あれは確かにヴェーダの中では残念ながら事故と言えるものですね」
 リジェネは淡々と答えた。
「裏切り者だって? そいつは今どうしてる!?」
 イアンが鬼気迫るように尋ねた。
「つい先日、しぶとく生き残っていた所を発見し完全に処分しました。それ以外でCB内でイアン・ヴァスティに心当たりある事件も大体全てその裏切り者のせいです。詳しい事はヴェーダ本体内部での情報機密ですので」
 それを聞き、イアンは勢いを失うが、もう一つだけと口を開く。
「何……そうか……。だが、これだけは聞かせてくれ。何故お前さん達の中から裏切り者が出たんだ?」
 リジェネはティエリアを示しながら答える。
「見ての通り、僕たちはそれぞれ異なる人格があり全て別人です。当然考えも異なります。思想の違いですよ」
「そういう事か……分かった」
 イアンは溜息を付き、納得した。
「では、機体も搬送しましたので、今回はこの辺りで失礼しますが、宜しいでしょうか?」
 リジェネが大体話した所で、帰還する事を申し出る。
 そこで慌ててスメラギが待ったを掛ける。
「ちょっと、私も一つだけ良いかしら。エイフマン教授を」
 リジェネが即座に言葉を重ねる。
「助ける方法は無いか、ですか。安心して下さいとは言えませんが、僕たちはこれからあるプランをヴェーダに進言する予定ですので、抹殺対象から外れる可能性は高いですよ。スメラギ・李・ノリエガ、あなたもヴェーダにプランを提示し、レイフ・エイフマンが生きている事が、計画にとって有益である事を示せば、あるいは……」
 言って、リジェネは僅かに口元を吊り上げ、ブリーフィングルームから出て行った。
 そのまま、ハッチを開けて貰い、出るか、という所でティエリアが急いで追いかける。
「待て!」
 リジェネが笑いながら振り返る。
「フフ、どうしたんだい、ティエリア? 一緒に僕と来るかい?」
「違う!」
 ティエリアが怒鳴り気味に否定した。
「その割には何を言ったら良いか分からないみたいだね。何か言いたい事があったら、脳量子波でメッセージを送れば良いさ。またね、ティエリア」
 リジェネは頭を指で示しながら言って、実際ティエリアは何を言ったら良いのか分からず拳を握り締めたまま、リジェネがそのままハッチから出て行くのを見送った。
 リジェネはそのままパイロットスーツの姿勢制御スラスターを噴かせて輸送艇に戻り、コンテナを切り離して、一方的に機体を残し、その場から去っていった。
 ヴェーダの中では元々CBは数百日のうちに滅びる予定だったという事にブリーフィングルームでのリジェネの話を聞いていた、ブリッジクルー達含め、プトレマイオスの者は皆、しばらくの間、沈黙していた。
 しかし、スメラギが、CBが超長期に渡り、武力介入行為を続ける事になった以上、これまでと何も変わらないという結論を出して、解散となった。
 スメラギの指示により、イアン達はプトレマイオスのすぐ傍に放置されてしまったコンテナを開けて、アイガンダムを、プトレマイオスの格納コンテナを詰めて収納した。
 一応怪しいから、という事でイアンはアイガンダムを調べ始める。
 しばらくして、スメラギがやってきて、調査状況を尋ねる。
「イアンさん、その機体はどう?」
 端末を手に、イアンが顔は向けずに答える。
「ああ、特にシステムトラップは無いぞ。これが例の十一機目だろう。機体自体は第二世代のアストレア系列のデータが反映されている汎用機のようだ。しかも、0ガンダムに搭載していたGNフェザーまで使えると来た。ご丁寧に擬似GNドライブまで付いているが、太っ腹だよ、全く。バイオメトリクスも恐らくティエリア用に設定されているだろうさ」
 メカニックとしては、完璧にガンダムタイプとあって調べずにはいられないという様子で、イアンは情報に次々と目を通していく。
「大丈夫そうなのね。問題はティエリア自身だけど……。ところで、擬似GNドライブについてどう思います?」
 スメラギは不安気な顔でイアンに尋ねた。
「んぁ? そうだな、フェレシュテからシェリリンが解析したデータを既に受け取って見たが、TDブランケットを使用しないという構造上、量産化が可能だ。恐らくだが……わしらは命が助かったんだろう。QBが奴さん達と対話とやらをしたお陰で」
 イアンは苦笑し、続けて言う。
「間違いなく擬似GNドライブは既にどこに大量にあるんだろう。ヴェーダの計画の中で元々わしらは数百日のうちに壊滅する事になっていたのだとすると、その擬似GNドライブを三陣営に回して、軍事同盟を締結、わしらを叩かせるというのが筋書きだったんだろうさ」
 端末を操作し、目線を素早く動かしながら話すイアンの何気ない言い方にスメラギは更に暗い顔をする。
「やっぱりそう……ですよね……」
 流石にイアンはふとスメラギの方を向き、溜息を一つ付き、元気づけるように言う。
「そんな暗い顔するなぁ。わしらはこれからも活動を続けていけば良い。それが例え矛盾を孕んでいようともな。それより、ヴェーダからのミッションが来るまで、恩師を助けるプランでも考えたらどうだ?」
 スメラギはそれを聞き、少し困ったような様子で答える。
「そうですね。ありがとうございます、イアンさん」
 そのままスメラギは格納庫を後にして、自室へと戻っていった。
 その背中を見ながら、ふとイアンは思った。
 一体QBにはCBが武力介入を続ける事に何の利益があるんだ。
 そもそも、QBが死者の数を極限まで減らして、ましてや「勿体無いじゃないか」というなら、そもそも武力介入そのものを起こしているCB自体が無い方が良さそうなものだが。
 「CBが壊滅すると困る」というのはCBが形式として存在していることに重要性があるのか、とまで考えた所で、それでもさっぱり分からない。
 感情エネルギーの回収などという訳の分からない理由があるなど、イアン達には到底思いも寄らないのは無理もない。
 かくして、最も得をしているのはQBに他ならないようであるが、壊滅する筈だったCBメンバーにとっては期せずして救い手のようなものであり、イノベイド達が裏から世界を操って世界を強引に統一させようとする事で起こりえる、情報統制で伏せられる非道な虐殺も起きそうにないと、色々良いのか……どうなのか。


―UNION・オーバーフラッグス基地―

 エイフマンは基地の自室でパソコンのキーボードを叩きながら考えていた。
 私の仮説通り、ガンダムのエネルギー発生機関がトポロジカルディフェクトを利用しているなら、全ての辻褄が合う。
 ガンダムの機体数が少ない理由……いや、新たに現れた機体に搭載されているものはまた違うが……200年以上もの時間を必要としたことも……。
 あのエネルギー発生機関を造れる環境は木星。
「っは」
 エイフマンは思わず息を飲む。
 120年前にあった有人木星探査計画。
 あの計画がガンダムの開発に関わっておったのか。
 だとすれば、やはりイオリア・シュヘンベルグの真の目的は、戦争根絶ではなく……。
 それを踏まえた上での、
「人類の外宇宙への進出」
 エイフマンはそう呟いた。
 あのエネルギー発生機関ならばそれが可能の筈。
 しかし、これを発表したとて、木星に行くだけでも膨大な時間が掛かるというに……。
 そこへ、カタギリから通信が入る。
[教授! ニュースを見てください! 大変ですよ!]
「何?」
 エイフマンは疑問の声を出しながら、ニュースを付ける。
 そこに映ったのは例の四足動物の顔面アップ。
[三陣営の偉い人達、合同軍事演習なんて言いながら実はガンダムが目的で、わざとテロを見逃してまで捕まえようとしたのに、残念だったね。命を落とすのは三陣営の偉い人達じゃなくて、駆りだされる兵士達。勿体無いよね。これ以上無意味な事はしないよう、仕方がないから君たちにCBから余っているガンダムの動力機関を近いうちに上げる事にしたらしいよ。期待すると良いんじゃないかな?]
 最後にズームが解かれ、QBが首を傾げて言った。
「何を考えているQB!? いや、CB!?」
 レイフマンはそのニュースに叫び声を上げ、ガタリと椅子から立ち上がった。



[27528] スメラギ「死相が見えるようだわ……」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/21 16:01
―月・裏面極秘施設―

 JNNには政府関係からメッセージ放送を止めるように要請が入ったが時既に遅し。
 QBの煽り声明文は三陣営の首脳陣の顔にこれでもかという程泥を塗った。
 CBの方から動力機関を譲渡するというのも、信じ難い事ではあったが、受け取るとしたら、三陣営はCBに敗北し、完全に屈服した事を認めるも同義。
 しかし、それよりも重要なのは、このメッセージが世界に流れた事で、三陣営に対する世論の風当たりが強くなった事であった。
 故に、情報規制を敷いたとしても、ガンダムの鹵獲作戦を続けるのは悪手であった。
 最早三陣営に残された道は、甘んじて怪しげな動力機関譲渡を受けるか、断固辞退してやせ我慢するしかない……。
「これで良かったのかい?」
「ああ。愚かな人間は期待した分だけ絶望するものだよ。そして人間は我慢弱いからね」
 このQBのメッセージはリボンズ・アルマークが「感情エネルギーを集めたいならどうだい?」と勧めた案であった。
 QBは未だに「僕らQBはCBの仲間だよ」などとCBの一員である事を公表した事は無く、あくまでもQBはQB。
 そのQBが「近いうちに渡すつもりがあるらしいよ」と伝聞調で言うのはCBが絶対に渡すと言っている訳では無いのだと三陣営にとって取れる事が重要。
 自称異星生命体で世界に知れ渡っているQBにとっての近いうちとは人類に換算してどれほどの期間なのかも具体的に図る術はない。
 要するに、煽るだけ煽り、妙に期待させるだけ期待させて、放置し、絶望に代わるのを一度待つという作戦である。
 QBは感情が理解できないので、この作戦に効果がどれほどあるかは不明であったが、CBというインパクトの強さを利用して、簡単に感情を喚起させられるならとQBは素で煽っただけ。
 CBとしても、QBが勝手に言った事でありながらも、非常に効果的な牽制ができたのは間違いない。
 とはいえ、ヴェーダの計画の中では、依然、イオリア計画は進める事にも変わりは無い。
 近いうちが数日、数週間という筈もないが、ヴェーダが世界情勢を観測し、三陣営の勢力が衰退する兆しを見せる前に、疑似GNドライブを流すのは確定している。
 疑似GNドライブを譲渡する事はCBの優位性を失う事、ひいてはCBが壊滅する可能性を孕んでいるが、その可能性は低い。
 QBというモビルスーツのパイロットに精神干渉をする生物兵器がいれば、驚異的な情報操作も可能なヴェーダも依然としてCBの手中。
 CBのガンダムマイスターもそれこそ四人どころではない。
 渡すつもりの疑似GNドライブも本当にドライブの必要最低限の部分だけであり、結果、CBとの技術格差は30年以上開いている事になる。
 コーン型スラスター、GNコンデンサー、GN粒子の制御を行うクラビカルアンテナ、OS、各種武装そのものなど、見える部分に関してはCBのガンダムの映像を参考にすれば少しはマシとしても、その隔たりは厚い。
 しかも、ヴェーダからのバックアップなど受けられないが、擬似GNドライブ稼動時には発せられるGN粒子のシグナルで、ヴェーダから位置が全て特定できる。
 その上、蓄積された研究データはその努力も空しく、ヴェーダを通してCBには筒抜け。
 どこまでも掌の上。
 そして、CBはQBがヴェーダからちょろまかしたデータにより早くも新たな力へ繋がるデータを手に入れていた。
「これは凄いね。オリジナルの太陽炉の全製造情報にトランザムシステムのデータとツインドライブシステムの理論……。トランザムがあれば木星への行き来も数ヶ月単位に短縮でき、オリジナルの太陽炉も製造しやすくなる。ツインドライブシステムを完成させれば、第四世代のガンダムもできそうだ。……この情報は、イアン・ヴァスティにも送るとしようか」
 言って、イアンらが研究・開発してくれればその情報もヴェーダから入ってくるし、とリボンズは即座に動き始めた。
 本来ドライブの全製造情報の引き出しなど確実にヴェーダに拒否される筈であるが、ヴェーダは残念ながらQBには逆らえないという致命的な弱点を抱えていた。
 一方、当のプトレマイオスはQBの爆弾発言に皆腰を抜かしかけていたが、ヴェーダからCBの技術水準と三陣営のソレとの差と、世界情勢の観測によって、当分適切な時機が来るまでは擬似GNドライブの放出はしない旨が伝わり、スメラギ・李・ノリエガが、その場を纏めた。
 そんな中、格好良くないメカは勝てないという持論を持つイアンは大体解析し終えたアイガンダムの見た目にうんうんと感心して唸り声を上げていた。
「このデザイン、実にガンダムだなぁ」
[イアンさん、ヴェーダから何か凄い情報が送られてきました!]
 そこへクリスティナ・シエラが驚きの様子でイアンに通信を行った。
「んん?」
 その後、イアンがプトレマイオスの中で狂喜乱舞した姿が普通に鬱陶しかったという。
 かくして、第四世代ガンダム、この際全部ツインドライブ化計画が始動してしまう。
 インフレが止まる気配が無い。


―日本・群馬県見滝原市―

 発達した交通機関によって東京と群馬の間にかかる時間も僅か。
 絹江・クロスロードは電車に乗っていたが、ニュースで流れた例のQBの声明に思い切りむせていた。
「けほっ、けほっ! ……何よこれ」
 どういう事なの……。
 QBは嘘をつかないのだとしても、ならこの「らしい」という言い方はどう見るべきなのかしら。
 CBが動力機関を渡すかもしれないと、そう言った事をそのまま言う分には嘘にはならない……か。
 それにこの煽り方……前からそう、まるでわざと敵意を向けて欲しいと言っているようだわ。
 CBにとってもQBが予想外だと言う説でそのまま考えると……。
 QBは世界にCBに敵意を向けて欲しい、けれど、あの様子からすると壊滅させて欲しいというつもりもない。
 このまま素直に考えると、異星生命体QBにとって、CBに世界の敵意を向ける事には何か利益があるという事に……。
 そしてそこに失踪者、十代の少女が関連してくる……?
「何の利益があるのよ……」
 絹江はそこまで考えてため息を吐いた。
 架空の生物のバクじゃないけど人間の夢でも食べるみたいな事でもしてると言うの……?
 絹江はそこまでで思考を停止させ、電車が目的地についた所で降車した。
「見滝原……」
 21世紀、あの子の情報がある年代だと世界的に有名になったヴァイオリニスト上条恭介の生誕の地でもある場所。
 彼が有名になってからの対談やインタビュー記録で残っていたものを遡ると、当時の医療技術では回復の見込みは無い筈の症状が奇跡的に治ったとか、同時期に幼なじみが失踪……して、しばらくは落ち込んでいた時期もあったが、今の妻に支えられて……とか。
 奇跡的に治った、だけを見れば、良く聞くような話ではあるけど、今の私にはこの幼なじみの失踪が気になる……。
 もう殆ど情報は得られないだろうけど。
 そう考えながら絹江はソフトで作成した暁美ほむらの精巧な似顔絵の載った写真を手に、聞き込みを始めた。
「この女の子を見かけた事ありませんか?」
 と、道行く人や、店の人に聞くも、当然ながら、空振り続き。
 一旦聞き込みは中止し、見滝原の地元にしか無い資料館で上条恭介関連の紙媒体の情報を調べたりもした。
 そこで初めて、上条恭介の幼なじみの名前が美樹さやかという少女である事が分かり、確かに失踪者年鑑にも該当人物名があった事までは分かった。
 そして午後に入り、偶然中学を見かけた所で、駄目もとでもと、下校する生徒にも聞き込みをした。
「ごめんなさい、この女の子を見かけた事ないかしら?」
 と、三人組の女子生徒に尋ねると、
「知りませーん」「知らないです」
 二人は首を振ったが、一人だけはその絵を凝視していた。
「えっと、もしかして、知ってる?」
 絹江は期待を込めて聞いた。
「い、いえ、知らないです。全然」
 その女子生徒は片手をブンブン振って否定し、三人でそのまま帰っていった。
 夕方、公園のベンチで絹江は腰掛けた。
「はぁ……」
 上条恭介関連の情報は詳しく分かったものの、流石に無茶あったかな……。
 溜息をつきながら、丁度携帯に連絡が入ったのに気づき、絹江はソレを取り出して、部下からかと思いながら確認する。
「え?」
 写真付きのメールであり、そこには暁美ほむらと瓜二つの人物が端に斜めを向いてはいるが偶然映っているものであった。
 髪型はショートカットであり、リボンもしていない。
 メール本文によれば、通常の仕事に戻って、各地の特派員から送られてくる写真の中のどれを記事に載せるかという作業を行っていた所、偶然端に映っているのを見つけたというのが、発見の経緯。
 他人の空似かもしれませんけど、先輩、気にするかと思ったので送ります、と括られて終わっていた。
 場所はアメリカ。
「髪を切った……のかしら。それにしても、あの年で国を飛ぶなんて……」
 意外とお金持ちなのかしら……と絹江は見当違いの方向へと思考が進み始めだしていた。
 そのまま、日も落ち、夜になった所で、仕事を終えた者達が帰宅の途につき始めた所、あの子に会ったのは深夜だったし、と聞き込みを始めた。
 殆どが空振りであったが、とある女性が見た所、
「あぁ……何ヶ月か前だったか、深夜、帰りに見たのは、多分この子だったと思います」
 思い出すように言った。
「本当ですか?」
「え、ええ。でも、私も帰りで、この子とはすぐに違う方向に曲がったので……それだけですけど」
 絹江の期待するような言葉に、女性は何なんだろうと思いながら答えた。
「この見滝原で見たんですよね?」
「はい」
 そこまで確認が取れた所で、絹江は礼を言った。
 確かにこの街にあの子はいた。
 少なくともここに来たのは無駄足では無かったという事で、絹江は大分気分が良くなっていた。
 夜遅くまで粘った所で、絹江はホテルへと向かっていったが、その絹江をとあるビルの屋上から遥か遠目に捉えた少女の存在に気づく事は無かった。
「暁美ほむら、一日中あの記者は君の事を探し回っていたようだけど、放っておくのかい?」
 少女の肩に乗るQBが尋ねた。
「……わざと深夜一人になろうとする程なら重症ね。少し迂闊だったわ。わざわざ私を探し始めるなんて」
 少女は髪を掻き上げながら至って冷静な口調で言い、QBの方に顔を向ける。
「QB。機会がある時に、情報をくれたあの子に一応お礼を伝えておいて貰えるかしら?」
「構わないよ」
 QBはそうあっさり了承の旨を伝えた。
 少女は、絹江が自身の事を聞きまわっている事を、絹江が偶然にも聞き込みをした、同業者である女子生徒の一人からQBを介して、伝えられた事で知ったのだった。
 今回群馬に一人来た絹江が、暁美ほむらに直接会う事は、無かった。
 少女にしてみれば、次会えば必ず、一から質問を受ける事間違いなしであり、今自分から会いに行くなどあり得なかった。
 その当の絹江はと言えば、イオリアの追跡取材も兼ねて、暁美ほむらの写真が撮影されたばかりと思われるアメリカにも出張しようか、と次の事も考えていたのだったが、そこまでは少女が知る由もない。


―UNION・レイフ・エイフマン邸―

 QBからの声明が流れたその夜、オーバーフラッグス基地から軍関係者に車で送迎され帰路についたレイフ・エイフマンは玄関の戸を開け、中に入る。
 親類はいるものの特に問題なく一人で生活しているエイフマンであるが、リビングの明かりを点けると腰を抜かしかけた。
「これは一体」
 エイフマンが目を向けたソファーには、銀色に近い髪、もこっとした丸い髪型の子どもがすやすやと寝ていた。
 これが、大人であれば、明らかに侵入者扱いする所だが、子供となると警戒心が薄れるのが人間。
 更には、夜も遅いという事で、どこかに連絡するという訳にも行かない。
「どうしたものか……」
 エイフマンは唸りながらも、とりあえず、翌日は休日である事もあり、子供には毛布を上から掛け、自身も寝ることにした。
 ただ、その際髪の毛は一本だけ採取した。
 そして翌朝。
 エイフマンが起床して、何か音がすると思いながらそちらに向かうと、テーブルに既に朝食が並んでいた。
「おはようございます、プロフェッサー!」
 満面の笑顔で十代に入ったばかりかという年頃の少女が振り返り、先制で挨拶を仕掛けた。
「お……おはよう」
 何とか搾り出して返した答えも微妙な言い方になってしまうが、少女は気にせず、最後に飲み物をトレーに乗せて机へと運んだ。
「朝食できました」
 ニコニコしながら言い、どうぞ食べてくださいと言わんばかりの様子に、エイフマンは考えを整理しがてら、仕度をして、席についた。
 非常に上手な料理であったのだが、エイフマンは味を感じている余裕もなく、とにかく食べ終えた。
「して……お嬢さんは、どなたかな?」
 ようやく、落ち着いた所でエイフマンが問いかけた。
「ハナミです!」
 右手を勢い良く上げて宣誓した。
「……ハナミ君か」
「はい!」
 エイフマンは難しい表情をして復唱し、元気な返事に対し、続けて一番の問題について尋ねた。
「この家にどうやって入った?」
「玄関を開けて入りました」
「……そうか」
 エイフマンは訳が分からなかった。
 通報するのは全く正しい筈であるが、何か違うと思わざるを得ず、更に質問を重ねる。
「何をしに来たのかな?」
 瞬間的に返答が来る。
「プロフェッサーの研究を手伝いに来ました!」
「わしの研究を?」
 どうして、とエイフマンが尋ねる。
「はい! こう見えてわたし凄いですよ。じゃーん! これを見て下さい」
 すかさず、ハナミは紙を取り出して見せた。
 自然な動作で受け取ってしまったエイフマンはそれに目を通し、
「っは……これは」
 驚きに息を飲んだ。
「昨日帰りの遅いプロフェッサーの書斎で見つけた手書きの理論をわたしなりに考えてみました!」
 ハナミが明るくそう解説した。
「……ふむ」
 エイフマンは適当に反応し、先に紙に書かれている内容にスラスラと目を通していく。
 その目の動きが止まった所、顔を上げて、ハナミに尋ねた。
「本当に、君は何者だ?」
「プロフェッサーの助手です!」
 噛み合わない会話にエイフマンは真剣な表情から一転、再び微妙な表情をする。
「……いつなった?」
「今です!」
 不審すぎるものの、見た目が可愛らしい子供であるだけに、エイフマンは困った。
 しかし、試しに色々問題を出してみると、自称凄いというだけあって、口を開いて出てくる各分野に関する専門知識と、それを十二分に駆使して回答する様はエイフマンの国際大学院の教え子の一般的水準を遙かに凌駕していた。
 つい勢いで、エイフマンは先の手書きの資料についても深く尋ねたが最後、不審すぎる問題はどこか彼方へ吹き飛び、とりあえず無理矢理追い出すという選択肢はエイフマンの頭の中から完全消滅した。
 その後、調べ物をすると言って、エイフマンは自室の研究室で髪の毛から抽出したハナミのバイオメトリクスを元に、該当データを探した所、有り得ない情報を見た。
 UNIONの国際大学の宇宙物理学科を卒業済みになっている事から始まり、住所はエイフマンの自宅、続柄はエイフマンの養子と設定されていたのである。
「何が起きておるというのだ……」
 エイフマンはこれを知った時、余りの気味の悪さに愕然とした。
 その情報には一切何らかのデータの改竄を行った痕跡の欠片すら残っておらず、まるで元からそうであったかのようであった。
 極めつけは、更にその後すぐ、エイフマンが操作していた端末のモニターに勝手にメッセージが表示されだした事であった。
 内容は「ハナミをお願いします。必ずお役に立つでしょう。ハナミは我々についての記憶は存在しません。最後に、くれぐれも早まった行動に出ないようお気をつけて……」と。
 このメッセージを目で追いかけたエイフマンはごくりと唾を飲み込んだ。
「まさか……あの特殊粒子に詳しすぎる事を考えると、メッセージを送ってきおったのは恐らくCB……。これはわしに対する牽制と監視」
 一発で、ハナミを送り出してきたのがCBだとエイフマンは見抜いたが、既にもう詰んでいるのだろうと思わずにはいられなかった。
 恐らく何か不用意な事をすれば、始末されるのだろう、と。
 そこへ、何の裏も無い表情でハナミが部屋の扉を開けて入ってくる。
「失礼します、プロフェッサー。お茶をお持ちしました。浮かない顔ですが、どうかなされましたか?」
 心配そうに首を傾げるハナミにエイフマンは複雑な感情を抱きながら口を開いた。
「少し考え事をしていただけじゃ。ありがとう」
「何か悩み事があったらわたしに遠慮無く言ってください!」
 ハナミはコップをエイフマンの机に乗せ、そのまま両手を胸元に構えて、応援するようなポーズを取った。
「その時は、そうさせてもらうとしよう」
 そこでエイフマンは表情を緩めて言った。
 かくして、無自覚な監視者に纏わりつかれるエイフマンの生活が始まる。


―アフリカ・紛争地帯―

 QBによる声明から数日。
 ヴェーダからまた再び、変わらずミッションが届くようになり、ガンダム各機は武力介入を行っていた。
「デュナメス、目標を狙い撃つ」
 三陣営による手出しも無く、アンフ同士の戦闘に対し、武力介入ミッションを続けていたロックオン。
 ミッション終了と共に、去ろうとしたその時。
「コドモセッキン! コドモセッキン!」
 HAROが回転しながら伝える。
「何?」
 ロックオンが生体反応がある方向へとデュナメスを向ける。
 するとモニターには場違いに派手なフリフリの服を纏った一人の少女が信じられない速度で走ってくるのが映る。
「ありゃ、何だぁ?」
 ロックオンは訳がわからないと目を丸くした。
 薄緑色の髪をした、少女は突如、虚空から等身大の槌を取り出して更に急加速する。
「ガンダムーッ!!」
 少女が叫んでいる言葉を集音してロックオンは聞き取ったが、冷静に対応する。
「どういう事か知らねぇが、長居する事は無い」
 言って、機体を離陸させ、上昇させる。
 しかし、
「なぁ!?」
 少女が構えていた合金性に見える槌を振りかぶった瞬間、突如ソレが巨大化しながら柄も伸び、デュナメスの側面にクリーンヒットする。
「くぁっ」
 衝撃でコクピット内ごと揺れ、機体も体勢が崩れ、仰向けに地に叩きつけられる。
 瞬時に槌は縮小し、依然100m以上離れているものの、間髪置かず、少女はそのまま高く跳躍し、槌を両手で頭の後ろに振りかぶる。
「でぇぇぇアァ!!」
 瞬間、槌の先端がドリルに変形、超巨大化し、柄も一気に伸びながら、そのまま振り下ろされる。
「しま」
「シールド制御! シールド制御!」
 瞬間、HAROがGNフルシールドを前面に展開し、直撃を防ぐ。
「うぉァっ」
 100m以上から振り落とされた槌の運動量によって、デュナメスの機体が地面に沈み込む衝撃でロックオンがコックピット内で揺すられる。
 ドリルはキィィンという音を立て、右側のフルシールドを急速に削って行く。
「っァ! 仕方ねぇ!」
 エマージェンシー音が鳴り響く中、ロックオンは舌打ちしながら、左のフルシールドをズラし、膝部からGNミサイルを四基射出する。
 攻撃を仕掛けている少女の方も、振り降ろしている最中は動く事ができず、飛来するGNミサイルを視認して、槌を一瞬で元に戻し、前方に走りこむ。
 間もなくGNミサイルが着弾し、その爆発で地面が抉られる。
 発生した爆風によって少女は背後から押されて飛ばされ、地面に前のめりの体勢からゴロゴロと転がる。
「っ、くぅ」
 デュナメスが立ち上がるのと同時に、少女も両手両膝を地面についた状態から立ち上がろうとする。
 その距離依然、数十m。
「何なんだあの子供は? 離脱するぞハロ!」
 ロックオンは大分焦りながら言い、そのままもう一度上昇する。
 しかし、息を切らせながら立ち上がった少女もそれをタダでは見逃さず、
「当たれぇっ!!」
 再び槌を一気に伸ばし、デュナメスの機体に向けて巨大化したソレを振り抜く。
 二度も同じ手を喰うか、とロックオンは機体を逸らし、猛烈な風切音を発生させるその攻撃を避ける。
「このしつこさ尋常じゃねぇぞ!」
 言ってる傍から、再び槌が逆方向から伸びながら迫る。
「チッ!」
 舌打ちしてそれを避けるが、少女は辛そうな表情を浮かべながらも、今度は元に戻した槌を地面に向け、そのまま柄のみ伸ばし、デュナメス目がけて上空へと昇る。
「何処の如意棒だよ!」
 ロックオンは急接近する少女をかわす為に、軌道を変更させる。
 瞬間、少女を先端に乗せた柄が過ぎ去るのがデュナメスのモニターに映る。
 デュナメスは空域を去ろうとそのまま後退する形で機体を操作するが、少女の追撃は終わらない。
 空中に滞空した状態で少女は槌の状態を元に戻し、その場でもう一度槌を巨大化させて位置的に下方前方にいるデュナメスに振りかぶる。
「アぁぁあァアッ!!」
「またっ」
 ロックオンは機体を斜めに傾け、その直撃を逸らす。
 槌は左のフルシールドを掠りながら、そのまますり抜けて行く。
 そこまでで、消耗が激しすぎた少女は地面に墜落していき始めるが、落ちる前に、また槌の柄を伸ばし、難を逃れた。
 モニターでそれを捉えていたロックオンはほっと溜息をついた。
「……今のは夢か? あれが本当の超兵とか無しだぞ、おぃ」
 言って、デュナメスはそのまま太平洋にある基地へと帰還して行った。
 一方、少女は地面に仰向けになり、槌も仕舞い、服装も普通の状態に戻って息を切らせていた。
 少女は右手首のブレスレットについている六角形の薄緑色の宝石を見る。
 六割を超える部分が暗く濁った色になっていた。
「っ……消耗が。はァっ……ミサイルさえなければ絶対仕留められたのにっ……うぅっ……」
 苦悶の表情を浮かべる少女はCBに対する反抗テロの一つで、両親を失った少女。
 QBに命を対価に願ったのは「ガンダムを破壊できる力」。
 最初はCBを今すぐ消滅させて欲しいと言ったが、それは希望の願いではなく復讐心という負の感情による願いであり、エントロピーを凌駕できなかった。
 結果、魔力を使わない素の状態で少女は壮絶な身体能力を獲得し、魔法少女として使う武器も破壊という願いを表すように巨大化すると十数トンの質量に膨れ上がる槌となった。
 再び、帰投したロックオンはコンテナに格納したデュナメスを見るとGNフルシールドがごっそり削れていてあと僅かで貫通寸前、機体の左側は装甲が凹んでいる事に驚愕した。
「こいつは酷ぇ……」
 夢だと思いたいが、現実。
 生身の少女が振り回す如意ハンマーに襲われた事はミッションレコーダーの映像にも記録されている。
「おかえり、ロックオン。 ええっ!? どこのモビルスーツにやられたんだい?」
 そこへアレルヤ・ハプティズムが労いの声をかけに来たが、デュナメスの損傷を見て目を丸くする。 
「コドモ! コドモ!」
 HAROが答えた。
「子供?」
「あー、言っても信じられないだろ。今からブリーフィング開いてそこで見せるさ」
 ロックオンはアレルヤの肩を叩いて、移動を促した。
 そして、ブリーフィングを開き、スメラギと通信を繋いだ。
 刹那・F・セイエイは別の場所で依然ミッション中。
 ティエリア・アーデはイアンと共に、ラグランジュ3のCBのドッグでアイガンダムの性能実験中で不在。
[何かあったの、ロックオン?]
「あったも何も、とりえあえずこれを見てくれ」
 言って、ロックオンは大問題の映像を再生した。
 生身の少女と機動兵器の戦い。
「なんだい、これ」
「ロックオン、もう一度。もう一度、再生してもらえるかしら?」
 アレルヤは率直に言い、スメラギは目を擦ってリプレイを要求した。
「おぉ、何度でも?」
 投げやりにロックオンは再生した。
 すると、スメラギは更にもう一度再生を要求し、結局三回見た。
[ロックオン、いつこんな映像加工したの?]
「……エイプリルフールには季節はずれだと思うよ」
 信じる気は皆無。
「いやいや、本当にこの子供にやられてデュナメスは損傷したんだって。アレルヤはデュナメス見たろ?」
 ロックオンは両手を広げて言った。
「……あんなフリフリの服を着た女の子が?」
[巨大なハンマーを振り回す?]
 言外に、それは無い、という雰囲気が漂った。
「まぁ、無いよな……」
 ロックオンも遠い目をして呟いた。
[い、一応クリスとフェルトにこの子の顔を照合させるよう頼むわ]
 その後、ヴェーダを使って照合は、済んだ。
 映像を初めて見たフェルト・グレイスの感想は「ロックオン……大丈夫?」という心優しい心配の言葉であった筈だが、大丈夫の前に「頭」という単語が聞こえたような気がするとクリスティナ・シエラは後にロックオンに言ったという。


―UNION領・某酒場―

 戦術予想では予想しきれないような訳の分からない事ばかりが起き、スメラギはストレスが溜まっていた。
 ヴェーダからのミッションもまだ数日は届かないという事で、単身スメラギは地上に降り、ビリー・カタギリと連絡を取り、前回とはまた違う酒場に来ていた。
「やあ、また連絡をこうしてくれるなんて嬉しいよ」
 丁度、カタギリがやってくる。
 カタギリも酒を頼み、軽く挨拶を交わした所、スメラギが先に口を開く。
「あの、エイフマン教授は元気?」
「ん? 気になるなら今度会いに来ると良いよ。そうだ、最近教授、個人的な友人の紹介で凄い女の子を預かっててね」
 カタギリが楽しそうに言った。
「凄い女の子!?」
 スメラギの脳裏に思わず、ある意味凄すぎる女の子が頭に浮かび、つい叫び声を上げてしまう。
「ど、どうしたんだい? 君がそんなリアクションをするなんて」
 若干カタギリは引き気味。
「う、ううん、気にしないで……。それで、どんな凄い子か聞いても良い?」
 しまった、という顔をしてスメラギは恥ずかしそうにしたが、エイフマンの元に現れた子という話に心配が募る。
「宇宙物理工学、モビルスーツ工学に精通している上に、礼儀正しい子でね。オーバーフラッグスに興味を持ってくれたみたいで、エイフマン教授が一昨日連れて来た時、僕も驚いたよ」
 対照的にカタギリは楽しそうにペラペラと話をする。
「その子が何かしたの?」
「そうだね、エイフマン教授が研究している、例の特殊粒子に関してのデータを見て色々興味深い事を言ったり、フラッグの設計図を見て、端末でそれに設計図を加え始めたと思ったら、巡航形態時にディフェンスロッドを後方に向きを変えて射撃できる機構を考えたりアイデアが良いんだよ」
「へぇ、それは凄いわね」
 スメラギはここまで来て、もしかして、と子供の正体に目星をつけていた。
「どんな子か、写真は無い?」
「ああ、あるよ。グラハムが肩車してるのだけどね」
 カタギリが思いだし笑いをしながら見せた端末の写真にはグラハム・エーカーが真剣な顔でハナミを肩車してカスタム・フラッグの巡航形態を上から見られるようにしている所であった。
「何か、変ね」
 思わず、スメラギはグラハムの表情と、満面の笑みのハナミのギャップに笑うが、内心冷や汗を大量にかいていた。
 フェルトがタクラマカン砂漠の一件以降、存在を知ることとなったフェレシュテのシェリリン・ハイドとプトレマイオスのブリッジで通信し、ぎこちない会話をしているのを微笑ましく見ていた時に一緒に映っていた、ハナヨというハロから出現する少女に酷似していたからである。
 その後、スメラギは表情には出さないよう努めて話を続けていた所、カタギリの一つ開けた隣のカウンター席に茶髪のショートカットに青を基調にした服装を着た女性がため息を付きながら着いたのに気づかず、カタギリがタクラマカン砂漠の件を話し始める。
「いやぁ、君の言ったとおり、ガンダムは四機だけとは限らなかったよ」
 ははは、と諦めにも近い笑い声をカタギリが上げた。
「何機も出たって噂は耳にしたわ」
「合計で十一機。うちのオーバーフラッグスに現れた白と紫色の新型は性能は勿論、隊長、さっきの写真のグラハムが言うにはパイロットも相当な手練だったらしいよ」
 スメラギはすぐに、ティエリア用に持ってこられたあの機体か、と思いながら相づちを打つ。
「そんなに?」
「ああ。QBにも出られた上に、この前のあの声明。あれだけ直球だと悔しいが、動力機関はかなり魅力的に思うよ。嘘かもしれないけどね」
 振り回されてばかりで大変だよ、とカタギリは言った。
「QBは真実を言いはしないけれど、嘘はつかない、そうですよ」
 そう、カタギリとスメラギははっきり聞こえた声に振り返る。
「え?」「え?」
「お二人の所すいません。CBとQBの話が聞こえたのでつい」
 絹江は同時に二人が声を上げた事で、申し訳なさそうにしながらも会釈をした。
「あの、今の言葉、どういう事か聞かせて貰えませんか?」
 カタギリがスメラギがいる状況に微妙な顔をした所、スメラギが先手を打って尋ねた。
「クジョウ君?」
「ビリーは興味無いの? 席移動させて貰うわね」
 言って、スメラギはカタギリと絹江の間の席に移動した。
 カタギリはスメラギのその行動に少し驚きつつも、内心興味はあったので助かっていた。
「申し遅れました、JNN記者の絹江・クロスロードです」
 絹江は名刺を取り出して二人に渡す。
「リーサ・クジョウです」
「ビリー・カタギリです」
 二人もそれぞれ自己紹介をした。
「それで、さっきの話は……?」
「ええ、QBについて何か知っている様子の……こういう容姿の女の子に偶然会って、その時去り際に言われた言葉なんです」
 言いながら、絹江は暁美ほむらの似顔絵を見せた。
 スメラギはまた少女が出てきた事に考える様子を見せる一方、カタギリが尋ねる。
「それは意味深な言葉ですねぇ。絹江さんは何を専門にされているんですか?」
「ここ数ヶ月はイオリア・シュヘンベルグとQBの追跡です。両者共に戦争根絶とは別の真の目的があるように思えて……」
 でも、なかなか上手くいかないんですけどね、と絹江が答えた。
「ほぉ、教授と似たような事を考えている方がいるとは」
 感心したようにカタギリが言った。
「失礼ですが教授というのは?」
「レイフ・エイフマン教授です」
「あの有名な」
 絹江が驚いた。
「ビリー、教授はどんな事を?」
 スメラギはエイフマンがカタギリの口から出てきた事で尋ねた。
「ああ、例えば、CBは紛争の火種を抱えたまま宇宙に進出する人類への警告と見ていると言っていたよ」
「流石、エイフマン教授ね……」
 スメラギはリジェネ・レジェッタから聞いた事が脳裏に蘇り、確かに、教授が抹殺対象になるのも仕方ない、と思った。
「僕も最近は実際これが殆どの答えなんじゃないかと考えていてね。どうもガンダムに搭載されている動力機関は本来宇宙へ進出する為のものの可能性が高いんじゃないかって」
 スメラギが感心するように言った事で、ついカタギリも自分も、と口を開いた。
「それは、永久機関という事でしょうか?」
 真剣に聞いていた絹江が食いつくように尋ねる。
「あぁ、すいません、僕はこういう者で、はっきりとは答えられないですが、そう考えるのが妥当だとは思いますよ」
 カタギリは苦い表情をして、身分証を見せ、自分がUNION軍関係者である事を示して答えた。
「な……なるほど」
 絹江もそれを見て、少し焦り気味に答えた。
「どうしたんだい、固まってるけど」
 スメラギが完全停止しているのに気が付いて、カタギリが声をかけた。
「い、いえ、大丈夫よ。ビリーの言う話、凄くありそう、って思って」
 焦るスメラギの口から取り繕う言葉が漏れる。
「それでも、推測の域を出ないけどね」
 カタギリは満更でも無さそうながら苦笑して言ったが、スメラギは今ここで思い至っていた。
 イオリア計画の最終段階の残り半分が外宇宙進出だとすると、辻褄が合うと。
 そして、咄嗟にこのままCBの話をするのはマズイと思ったスメラギは話を振る。
「絹江さん、QBについては他にどのような事を? 勿論、話せないのであれば」
「いえ、特にはっきりした事は分かっていないんですが……。異星生命体QBにとって、CBに世界の『敵意』……のような、注目を集めさせる事それ自体に何か利益があるのではないか、と思います。そして、もしかしたら十代の少女の失踪者達もそこに何か関連している……。でも、結局は先程の似顔絵の子にもう一度会うぐらいしか情報を得る方法は今のところ無さそうなんですけどね」
 絹江は困った様子で自身の憶測ばかりの考えを述べた。
「敵意を集める事それ自体に利益がある……ですか。オカルトみたいですねぇ」
 カタギリは率直な感想を言った。
「私も正直、オカルトみたいな話だとは思います」
「その、十代の少女の失踪者達というのは?」
 スメラギが絹江の気になる発言に質問をする。
「ええ、報道関係の資料に失踪者年鑑というものがあるのですが、過去300年、十代女性の失踪者の割合を調べてみると常に他の年代、他の性別よりも統計的に見て、頭一つ出た明らかな偏りがあるんです。これも定期的にオカルト界隈では話題になるそうなのですが、今まで明確な理由が出たことも無く、表立って取り上げ難い話なんだそうです」
 私もオカルトには興味なかったんですが、実際に調べてみて初めて分かりました、と絹江は言った。
「そうなんですか、初めて知りましたよ」
「私も、初めて聞きました」
 スメラギはカタギリと同じように興味深そうに反応して見せたが、思い当たる例の件が急速に肥大化していくのを感じた。
 その後もQBについての会話を適当に交わした所で、絹江は「お邪魔してすいません、貴重なお話ありがとうございました」と言って、先に席を立とうと腰をあげかけた所、スメラギが引き止める。
「イオリアの追跡はまだ続けられるんですか?」
 振り向いて、キョトンとした顔で絹江は答える。
「え? はい、そのつもりですが」
「……でしたら、深みに嵌らないよう気をつけた方が良いですよ」
 スメラギは絹江に真剣な表情で忠告した。
「そうだね。CBの組織は各国の諜報機関でも掴めていない。抹殺はまず行っていると考えた方が良いでしょう」
 カタギリから絹江を見ているスメラギの表情は見えないものの、確かにクジョウの言うとおりだと、忠告をする。
「ま、抹殺……ですか」
 絹江は全く笑えないですねと、顔を引きつらせたが、
「お二人共、ご忠告ありがとうございます、それでは失礼します」
 言って、絹江は頭を下げて、場を後にした。
 残ったスメラギとカタギリもしばらく会話を交わした所で、また会おうと言った所で別れた。
 ホテルへと戻ったスメラギは、酒を飲んでストレスを誤魔化す筈が、更に抹殺対象に入りそうな人物を二人目にした上、エイフマンの元に既にハナミというどう考えても怪しさ限界突破のティエリアとリジェネの関係と同様と覚しき少女が現れている事、更にはQBに対する疑惑が急速に込み上げてくると、余計に悩みの種が増えただけだった。
「胃が、痛い……」
 スメラギの翌朝の呟きは単純に飲み過ぎが原因なのか。


最早武力介入に障害無しのCB。
そんなガンダムマイスターの前に姿を見せた華やかなるMS。
表と裏が交錯した時、その先に何があるのか。
オーバーフラッグスに送り込まれた無自覚な監視者は何を及ぼすのか。



[27528] 紅龍「浴室は無かった事にしよう」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/21 17:01
―CBS-70プトレマイオス―

 スメラギ・李・ノリエガは王留美に連絡を取り、デュナメスに襲撃を仕掛けた少女の捜索を依頼してから、再び宇宙に戻った。
「王留美、例の捜索はどうかしら?」
 スメラギが自室で通信を繋いで言った。
[AEUイタリア出身、リリアーナ・ラヴィーニャ、14歳。半年前の爆破テロによって両親が死亡。弁護士が後見人の元、自宅で一人で生活。エージェントの調査によると、十日程前から学校を病気で休業。家宅の調査を行った所、本人の物と思われる端末から、ガンダムの出現情報を個人で収集し、地域別に出現頻度などを纏めたデータが見つかりましたわ。行方は現在捜索中ですが、同じく十日程前、イタリアからアフリカの建設途上の軌道エレベーター、ラ・トゥールへ旅客機で飛んだ事が判明しています。依然アフリカ圏にいる可能性は高いと思われますので、近日中には報告が入るかと]
 王留美が淡々と報告する。
「分かったわ。助かります、王留美」
[それが私達の仕事ですので。ですが、スメラギさん、一体何があったのですか?]
 突然調べて欲しい人物がいるとだけ言われた王留美としては、何故CBがテロの一被害者でしかない少女について調査をする必要があるのか疑問であった。
「突然だけど……オカルトは信じるかしら?」
[いえ]
 王留美は簡潔に否定した。
「そう。考えが纏まってからでも、事情説明は良いかしら?」
 スメラギは訳ありの表情で頼んだ。
[ええ、別に構いませんわ]
 不思議そうな表情ながら王留美は了承した。
 通信を終えてブリッジへとスメラギは向かう。
「あ、スメラギさん!」
 扉の開く音で気付いたクリスティナ・シエラが振り向いた。
「クリス、失踪者の統計調査はどう?」
 言いながら、スメラギはクリスティナの席に近づき、モニターを見る。
「確かにスメラギさんが言った通り、十代女性の失踪者数は過去200年を遡ってみた所、常に一定の割合を占めています」
「やっぱり……」
「……でも、女の子が狙われるのって別におかしくないっていうか、そんなに変な事ですか?」
 そういう被害に遭うのってそもそも、女性が多いのは普通じゃないですか、と若干不快な様子でクリスティナが疑問の声を上げた。
「そう言われるとそうだけど、どうもそれだけではなさそうなのよ」
 スメラギは悩むような様子で一つ息を吐いた。
「例の謎の女の子ですか」
 察したようにクリスティナが言い、スメラギが頷く。
「……そういう事よ」
「まだ信じられないですけど、Eカーボンの装甲を抉る事ができる以上、放置はできないですよねー」
 呆れ半分な様子でクリスティナは少々投げやり気味に言った。
 そこへ、リヒテンダール・ツエーリが操舵席から振り向く。
「それにしても、ティエリア全然信じる気無かったすよね。ロックオン・ストラトス、ふざけた冗談はやめて欲しい。不愉快です。とか」
 そのまま、フイっと部屋に籠もっちゃうし、と物真似をして言った。
「おやっさんも、大概だったけどな」
 ラッセ・アイオンが思い出しながら言う……。

「おぃおぃ、冗談言うならもう少しマシな冗談にしろぉ。そんなに機体を痛めおって。フルシールドが台無しだろうに。……んで、本当はどこの機体にやられたんだ? まさか、疑似GNドライブ搭載型か?」
 畳みかけるようにイアン・ヴァスティが不審感丸だしで尋ねた。
[いや、だから。おやっさん、本当なんだって]
 うんざりしたロックオンがモニター越しに肩をすくめて言った。
「あぁ? フェルトぐらいの年の子がそんな巨大なハンマー振り回す訳ないだろう」
 良い年して何言っとるんだ、とイアンは腕を組んで言った。
[ミス・スメラギ。……後は任せた]
 もう俺知らないと、ロックオン・ストラトスはスメラギに全て丸投げした。
[ドンマイ、ロックオン]
 同席していたアレルヤ・ハプティズムが最後にそう言うのが聞こえ、通信は終了した。

 ……そのやりとりを同じように思い出したリヒテンダールが苦笑して同意する。
「そうすね」
 スメラギが遠い目をする。
「説明する私の身にもなって欲しいわ……」
「大丈夫ですか、スメラギさん」
 フェルト・グレイスが振り向いてスメラギを無表情ながら一心に見て言った。
「……ありがとう、フェルト」
 助かるわ、とスメラギはフェルトを見てふっと笑顔を見せて答えた。
「ねえ、フェルト、今度あの映像の女の子みたいな洋服買いにいこっか?」
 そこへ思いついたようにクリスティナが言う。
 すかさずフェルトはブンブン首を振って声は出さない。
「えー、何で? 可愛いのに!」
 不満そうなクリスティナをよそに、スメラギが呟く。
「若いって、良いわね……」


―CB所有・南国島―

 ミッションから帰還した刹那・F・セイエイも関係はあるからという事で例の映像記録を見せられていた。
 デュナメスの損傷を目にした刹那は、原因が映像の中に映る少女だという事に、心底真剣な様子でロックオンとアレルヤに言う。
「……本当なのか」
「ああ、本当だ。信じ難いがな。できれば幻であって欲しいぐらいだよ」
 壁にもたれたロックオンが両手を広げて言った。
「余り驚いてないみたいだけど、刹那はどう思う?」
 アレルヤが刹那のリアクションの少なさに試しに尋ねた。
 すると刹那は一瞬間を置いて、口を開き、
「……その少女兵はガンダムに戦争行為を仕掛けた。ならば、その行為に武力で対応するのが俺達ガンダムマイスター。この少女兵が俺達によって歪められた存在なら、その歪みを断ち切る」
 真顔で言い切った。
「さ……さすがは刹那だね、という所なのかな」
 アレルヤは正直聞かなければ良かったと思いながら引き気味に言った。
 しかも刹那には少女兵で確定なのかい、他に突っ込む所はないのかい、とまで突っ込む気もアレルヤにはもう無かった。
「っは、刹那の言うことも一理あるな。ありゃどう見てもガンダムを恨んでいる様子だった」
 刹那の言葉に考えるのもアホらしくなったロックオンは、それでもできれば二度と出てこないと良いと思いながら、その場を後にした。


―アフリカ・軌道エレベーター・ラ・トゥール付近―

 軌道エレベーターが聳える場を中心として、一方向に向けてベルトのように農地が広がる中、点々と存在する巨大な円形都市群の一つ。
 深夜、色彩が通常とは違う道路にて。
 薄緑色の髪、口はきつく結び、目には必死さの色が見える少女が槌を構えていた所、それを降ろして緊張を解いた。
 服装は同じく薄緑色を基調とし、上は半袖、そして肘近くまでの白い手袋に、下は膝丈のスカートに白色のレースが目立っていた。
「QB、魔獣これだけしかいないの?」
 肩に乗るQBにそう言いながら、辺りに散らばった黒い結晶を素早く拾い集めていく。
「そうだよ」
 そう聞いて、少女は文句を言う。
「これだけじゃ、ソウルジェムまだ全然完全に浄化できないよ」
「そう言うけど、リリアーナは普通の魔法少女よりも今日だけでも随分倒している方だよ。他の場所も回ってるしね」
 QBが淡々と説明した。
「何で私のソウルジェムはこんなに消耗激しいかなぁ」
 集めてもキリが無い、と言いながら集め終わり、立ち上がる。
「魔獣を倒すのに不必要な威力の攻撃をしているからだろうね」
 QBはそう原因を言ったが、お陰で普通の魔法少女だと梃子摺るような強い魔獣の所に案内しても問題無く倒してくれるから助かるんだけどね、とまでは言わなかった。
「つまり、無駄遣いか」
 ため息をつき、周囲の色彩も元に戻った所で、少女はビルとビルの間に入り交互に足場として屋上に上っていく。
「魔力の調整がうまくなれば、消耗も抑えられるよ」
「それができれば、苦労しない」
 そして、着地音と共に、ビルの屋上へ。
 丁度良い所に腰掛け、六角形の結晶の周りに収集した黒い結晶を置き、浄化作業を行う。
 少女はぼーっとして空を見上げ、待つことしばし。
「まだ六割、か」
 自身の結晶を掲げて言い、
「ほら行くよ」
 黒い結晶を纏めて放り投げる。
 QBは器用に身体を動かし、それを全て背中に回収する。
「じゃあ、これで僕は帰るね」
 QBは言って、そのまま姿を消した。
 そして少女は、ついこの前ガンダムに攻撃を仕掛け、消耗に耐えながら町に戻り、落ち着いた所でストックしておいた黒い結晶を使用した時にしたQBとのやりとりを思い出す。

「ガンダムに攻撃をした時……消耗が魔獣と戦う時よりも、っ……早かったのは、何でよ」
 仰向けの状態で尋ね、QBは首を傾げながら答える。
「それは君がその時強い負の感情を抱いたからだろうね。怒りや憎悪、最初に説明したけど、魔法少女は希望の存在だ。反対の感情を抱けばソウルジェムは濁るのは当然だよ」
 自覚があった少女は目を閉じて更に尋ねる。
「……そぅ、そういう事。……後、もう一つ。本当にQBは、私が復讐するのをっ……っは、止めないのね?」
 苦しそうな様子に心配する様子も無く、QBは言う。
「それも一番最初に説明した通りだよ。僕らは君のその行動に対して協力もしないし、邪魔もしない」
「なら、いい」
 分かったと、言うと、QBも去った。

「今度こそ……やってやる」
 そう少女は闇の中呟き、ソウルジェムの全浄化まで時間が掛かる為、一度イタリアに戻り体勢を整えて次の機会に備える事に決めた。
 この魔法少女の目的はQBにとって決して好ましくは無いものの、魔獣討伐と結晶回収の効率性では非常に都合が良かった。
 普通の魔法少女は必要分の魔獣を狩れば充分だが、この魔法少女は目的の為にできるだけ結晶のストックが必要であり、加えて極めて魔法使用の燃費が悪い。
 故に自然と魔獣を大量に狩る事にならざるを得ないのである。
 しかし、QBはこの少女がガンダムを破壊できる力は得たものの、実際に破壊するのはまず不可能と見ている事を少女が知る事は無い。


―UNION・オーバーフラッグス基地―

「平行してフラッグを土台とした更なる新鋭機の開発ですか? しかし、フラッグは教授自らが設計された我が軍でも依然製造も配備も進んでいない新型ではないですか。オーバーフラッグスの為に新たに十四機配備されるのがようやく決定したぐらいで……」
 研究室にてレイフ・エイフマンに対して困った様子で言ったのはビリー・カタギリ。
「分かっておる。だが、フラッグを現行の最高の装備で固め、装甲を極限まで落とし軽量化した機体にチューンする事はガンダムの鹵獲のみが目的にすぎない。その機体は治安、国防という本来あるべき任務に適してはいない」
 杖を両手でつき、目を閉じてエイフマンが答えた。
 カスタム・フラッグの対ガンダム用の改良も限界が来ている自覚があるカタギリは苦い顔をして言う。
「それは分かっていますが……。もしや、教授はCBの動力機関の運用を想定した機体を?」
 エイフマンが頷く。
「その通り」
「教授はQBの声明が本当だと?」
 カタギリは自分も信じたい所ではあるが、と思いながら尋ねた。
「……CBの狙いに世界を一つにする事も入っておるのなら、恐らくはそうじゃろうて」
「世界を一つに……ですか」
「CBが動力機関を渡すとして、どこに渡すと考えるかな」
 すぐにハッとした顔をして納得したようにカタギリが唸る。
「……なるほど、国連、ですか」
「その可能性は高いじゃろう。それがいつになるかは分からぬがな」
 そこまでで、考える様子のカタギリが改めて口を開く。
「……そうですね。教授の考えには賛成です。ガンダムの鹵獲を公に続けるのは世論の反発も強く、そもそも部隊を出撃させられもしない現状、上層部に新鋭機の開発を進言して却下される事は無いでしょう」
 そして、オーバーフラッグスの技術部ではフラッグの後継機開発プロジェクトが始動した。
 オーバーフラッグス内には、この情報は瞬く間に伝わり、各パイロットはそれぞれの反応を見せた。
 ダリル・ダッジはCBの動力機関の運用を想定したフラッグの後継機開発には肯定的。
 対して、ハワード・メイスンは「フラッグは我が軍の最新鋭機だじ。フラッグファイターとしての矜持というものが……」とやや否定的。
 いずれにせよ、そもそもグラハム・エーカー以外、自身の乗る新たなフラッグが届くまでは何もできなかった。
 そして二、三日。
 研究室でエイフマン、カタギリは端末を操作し、設計図をあれこれ試行錯誤している所へグラハムが訪れる。
「丁度良い所に来たね、グラハム。パイロットの君に意見を聞こうと思っていた所だよ」
 カタギリが振り返って言う。
「元々この時間に呼んだのはカタギリだろう」
「ははは、そうだったね」
 言い方が悪かったとカタギリが苦笑した。
 そのままグラハムはカタギリ達に基本的に質問される側として、新型についての案について検討を行った。
「一応参考までに聞かせてもらいたいんだが、君はフラッグの後継機についてはどう思っているんだい?」
 不意にカタギリがグラハムに尋ねた。
「ガンダムの捕獲作戦の一方で、後継機の開発を進める事には賛成だ」
 特に否定する様子もなく、グラハムは答えた。
「そうかい。隊員の中には今のフラッグに拘りを持っている人もいると聞いているけど」
「元々私はフラッグの性能が一番高いと確信したからテストパイロットを引き受けたにすぎない」
 ハワードの事かと思いながらも、グラハムは主任開発者のエイフマンがいる前で堂々とした発言をし、続けてエイフマンの方を向く。
「ですが、プロフェッサーはどう考えているのですか。以前、ガンダムという機体を捕獲したいと言っていましたが」
 エイフマンが重く口を開く。
「本音は捕獲したい事に代わりはせんが、今は、仮にガンダムが手に入った場合どうなるかを考えれば、手に入らぬ方が良いとも思える」
「何故です?」
 若干不満そうにグラハムが尋ねた。
「仮に一機ガンダムが儂らの手に入った場合、即座にCBは技術漏洩を防ぐべく、鹵獲したガンダムに関するあらゆる情報の消滅を物理的・電子的問わず必ず図ってくるじゃろうて。基地ごとという事も充分あり得る」
 そう言ったエイフマンは既に常時イエローカード状態。
「何と」
 グラハムが声を上げるが、カタギリが頷いて同意する。
「確かに、CBがいつ強硬手段に出ないとも限りませんね。十一機のガンダム、実際にはもっとあるかもしれない」
「CBが世界を混乱させたのは事実じゃが、今後三陣営の足並みを揃えさせるつもりがあると見て間違いない。CBの描くシナリオ通りになっておるのが素直には納得し難い部分ではあるがな」
 しかし、その方が世界が更に無用な混乱に陥るよりはマシというのもまた然りという様子でエイフマンは言った。
「全く、その点については同感です。しかし、プロフェッサーの言うとおりであれば、このオーバーフラッグスのフラッグファイター達の存在意義は……」
 鹵獲すれば自滅すら招く事態になるというのなら、ガンダムの鹵獲を目的として設立されているこの部隊の存在意義自体が揺らいでしまう。
 グラハムの中に言葉にし難い葛藤が渦巻く。
「そこは技術屋に任せて欲しいね。少し時間はかかるけど、君の心をガンダムから取り戻せるような機体を設計してみせるよ」
 心中を察したかのように、カタギリが左手を広げてみせながら、声を掛けた。
「フ、それは期待させて貰おう」
 その言葉を聞き、グラハムはやや明るい様子になる。
 それを見て、カタギリが面白そうに別の話を始める。
「それにしても、この前ハナミ君のグラハムに対する意見は中々というか、相当核心をついていて、君も思わず乗せられそうだったけど、まだ動揺していたりするかい?」
 エイフマンも思い出すような表情をして微妙な顔をする。
「……あの子供、とんでも無いことを言ってくれた。だが、敢えて言おう。私はあくまで軍人であると!」
 強い語調でグラハムは宣誓した。

 ハナミがエイフマンに連れられてオーバーフラッグスにやってきた時。
 カタギリはハナミに対して、グラハムを紹介する折に、グラハムがガンダムにメロメロである事を教えた。
 すると何を思ったかハナミが口を開く。
「上級大尉はガンダムが好きなんですか?」
 子供の質問に対しても、グラハムは紳士に答える。
「ああ。ガンダムというあの圧倒的な性能に私は心奪われた存在だ」
 そこでハナミは目を輝かせ始め、一歩近づいて尋ねる。
「では、もしガンダムが朝起きて基地にこれ見よがしに置かれていたらどうしたいですか!?」
 質問の出方が分からない、という様子でエイフマンとカタギリは生暖かく見ていたが、グラハムは気にせず両の拳を握りしめる。
「抱きしめたいな!」
 ハナミも両の手を身体の前で構えて言う。
「まるで愛ですね!」
 一瞬グラハムは呆然とするが、
「何、愛だと? ……なるほど、この気持ち、まさしく愛だッ!」
 悟ったように叫んだ。
 エイフマンとカタギリとの温度差は更に上昇。
「そんな上級大尉に、わたし、手っ取り早くガンダムに近づく方法を考えました!」
 ハナミが右手をピッと上げた。
 その発言にまさかそんな案があるのかと、三人共興味を示す。
「何、聞かせてもらおうか」
「上級大尉がCBに参加すれば良いんです!」
「なんとっ!?」
 気がつかなかったという様子でグラハムは叫んだが、エイフマンとカタギリは頭を抑えた。
「なんと、じゃないよ、グラハム」


―UNION領・某ホテル―

 絹江・クロスロードは問題の写真を手がかりに暁美ほむらを追っていたが、平行して空振り続きであったイオリア・シュヘンベルグの追跡取材に疲れ、寄った店で非常に貴重な意見を得た。
「紛争の火種を抱えたまま宇宙に進出する人類への警告、そして永久機関での人類の外宇宙への進出……」
 その段階まで世界を到達させ、誘導させる為の武力介入だとしたら、CBはまさに天上人と言った所ね……。
 でも、まさか偶然に、あんな話が聞けるとは思わなかった。
 これが真実かどうか、確認するにはもうCBに直接確認するぐらいしか方法が無い気がするけど……流石に無理ね。
 レイフ・エイフマン教授にイオリア・シュヘンベルグについてどう思うか考えを聞かせて欲しいと取材の為のアポを取ろうと連絡をしてみたけれど、やんわり断られた上に、真理の探求は重要な事だが、CBについて調査する貴女の行為はその過程で貴女が関わった人間も危険に晒しかねないなんて指摘されて……お手上げ。
 これまで無理を言ってCBに関連しそうな科学者の失踪者が出た家庭の人達に取材をして来た。
 けれど、真実を求める余り、まだ大丈夫、まだ大丈夫と勝手に考えて、取材に答えてくれた人達の事は考えていなかったかもしれない。
 そもそも、いつ危険な所に踏み込んだかなんて自分では判断できないのよね……。
 そう思いながら、絹江はキーボードに走らせていた手を止め、ファイルをいつも通り、端末に保存、続けて部下に四日後飛行機で東京に戻る旨のメールを送った。
「このアメリカに来ていた筈の暁美ほむら。また深夜、外を歩いていればもしかしたら……」
 そして、絹江は夜の町に出ることを決め、仮眠を取り、そして、23時。
「探してみないと始まらない、ものね」
 呟いて、絹江は外へと。
 夜と言えど、都心は明るい所は明るく、人がいる所は人がいる。
 絹江は暁美ほむらに会った時は周りに人がいなかった事を思い、躊躇いもかすかに、敢えて人気の無く、電灯が僅かに灯る所へと向かう。
 人気の無いオフィスビル街へと来てみたものの、
「特に、人がいないってだけね……」
 時間を確認すれば日付が変わって少し。
 そう簡単に見つかる訳ないか、と絹江は心の底では諦めつつももう一息粘ったが、残念ながら一切出会いは無かった。
 だが、出会わなかった事自体は幸運でもある事を絹江が知る由も無い。
 そこが世界の変わり目。
 だが、しかし。


―AEUイタリア・王留美別荘―

 広間で寛いでいる王留美の元に紅龍が来て報告する。
「お嬢様、目標が今帰宅したとの情報が入りました」
 王留美は顔を上げ、椅子から立ち上がって言う。
「なら手筈通り、監視カメラの映像を回して頂戴」
「承知致しました」
 紅龍は頭を下げ、先にCB用の機材が配備されている部屋へと向かう。
 巨大なモニターに次々とリリアーナの家に仕掛けられた監視カメラの映像が映し出される。
「死角は無いようね」
 遅れてやってきた王留美が腕を組んで言った。
「しかし、あの映像、お嬢様は信じられるのですか?」
 紅龍はスメラギから送られてきたデュナメスのミッションレコーダーの記録を思いだした。
「本当かどうかを確かめる為にも、こうして監視するのよ」
 王留美は言って、興味深そうに椅子に座り、モニターを見上げる。
 モニターに映るリリアーナは夜帰宅してすぐに、旅行鞄の中の服の洗濯を始めた。
 但し、非常に静穏。
 一方、本人はシャワーを浴びる様子も無く、端末を操作し、ガンダムの出現情報の収集を始めた。
「この子の手首のブレスレット、拡大して頂戴」
 王留美がリリアーナの手首に気がついて言った。
「分かりました」
 端末を操作中の手首に映像が拡大される。
 薄緑色の六角形の宝石、しかし一部黒く濁っていて、全体的に水面が揺れるような淡い輝きを見せる。
「どこの宝石かしら。少なくとも安物では無いようだけれど」
 王留美は装飾品には詳しい方であるが、見たことの無い宝石に顎に手を当てて考える。
「黒くなっているというのも変わっていますね」
「それで台無しね」
 その後二時間近くリリアーナは動く気配を見せず、王留美は何かあったら呼ぶようにと途中で部屋から出ていった。
 そして、23時過ぎ。
 紅龍は驚き、王留美に端末で呼びかける。
「何があったの」
[映像には映っていませんが、目標がQBと会話をしているようです]
「QBと?」
 王留美は確認した方が早いと急いで部屋に向かう。
[どの辺?]
 王留美が部屋に入った所、モニターに映るリリアーナが独り言を丁度呟きながら自室から移動し始め、すぐに、
[結構遠いね]
 と更に言う。
 そして肩に顔を向けて、
[まぁね]
 と、リリアーナは仕方ないという表情をして一言。
 玄関へとつき、着のみ着のまま出て行く。
「外に待機しているエージェントの状況は?」
 独り言をブツブツ言う奇妙な少女にしか見えない映像を見ながら王留美が尋ねる。
「六名が……今、追跡を開始するとの事です」
 紅龍がモニターの端に丁度表示されたメッセージを見て言った。
 それを聞いて、王留美は指示を出す。
「最初に独り言を言い始めた所から再生を」
 即座に紅龍は監視カメラの映像を呼び出した。
 リリアーナは直前まで端末を操作していた所、何もいない後ろを振り返って言い、
[QB。……時間ね]
 端末の電源を切り始める。
[量は?]
 少しして、
[そ。ま、すぐ終わらせるよ]
 端末を閉じて椅子から立ち上がる。
 そして、王留美が見た所へと繋がる。
「映像に映らないQBに話しかける……幻覚を見ている訳では無さそうね。量、というのが何についてなのか……」
 面白くなってきたという様子で王留美が考えるように言った。
「な、目標を見失った?」
 そこへ、エージェントからのメッセージを見て紅龍が驚く。
「何をやっているの……」
 王留美がため息を付き、呆れる。
「目標が家に戻るまで元の持ち場で待機させておきなさい」
 すぐ終わらせるという言葉から、王留美はそう指示した。
 待つこと一時間としばし。
 再びエージェントから連絡があってすぐ、リリアーナは家を出る時と同じ服装で玄関から戻った。
 カーテンを締め切ってあるリビングの明かりを付け、少女はテーブルに懐から袋を取り出して置く。
「何かしら」
 王留美が言うと、リリアーナは袋の口を開け、逆さにして中身を出す。
 コロコロと幾つも転がって出てきたのは黒い小さな結晶。
 続けて、手首のブレスレットから六角形の宝石を取り外し、テーブルに置いた。
「先程よりも濁っている部分が増えていますね」
 紅龍がそう言うと、リリアーナはその周りに、黒い結晶を並べ、六角形の宝石を撫でて手を離す。
 特に変化は無いかと思われた矢先、
「宝石の濁りが減っていく……」
 王留美が目を見開いて呟いた。
 一方で、逆に黒い結晶はより黒くなっていく。
 映像には六角形の宝石と黒い結晶の間には何も見えないが、リリアーナの肉眼には、それらを繋ぐラインのような物が見えていた。
[ん。明日には七割はいけそう。……一週間で元通りかな。教訓を生かして次はもっとストックしとかないと]
 リリアーナはそう言って、黒い結晶を手で纏め、
[それじゃQB、あげる]
 後ろを振り向き、軽く投げてソレをばらまいた所、次々にその黒い結晶が床に落ちる前に虚空へと消える。
「え?」
「消えた……」
 王留美と紅龍はそれぞれ呆気に取られた。
 リリアーナはようやくそこでシャワーを浴び、乾燥まで終了した服を運び、自室のベッドに横になった。
 王留美と紅龍もリリアーナが寝る体勢に入ったと見て、解散する前に王留美が考えて言った。
「どうやら、QBの本来の目的はこちらのようね……。問題はどうして、CBに関わる必要があるのか、だけれど。紅龍、エージェントに目標の靴の中にも発信器を入れておくように指示を出しておいて」
 そのまま王留美は振り返って部屋から出ようとし、
「承知致しました」
 紅龍がすぐに返答した。
 翌日、リリアーナは休んでいた学校に向かった為、エージェントは昨日の夜履いていた外出用の靴の中に発信器を仕掛けた。
 その夜も再び、リリアーナは夜、玄関から出た。
 その発信器の反応の出る位置と移動速度を目にして王留美と紅龍は驚いた。
「通っている場所は途中から道路ではなく、構造物上。恐らくビルの屋上と思われます」
「それに人間の移動速度でも無いわ」
 紅龍も人間離れした速度で走れるが、ここまでおかしくはないと王留美は顎に手を当てながら、モニター一杯に表示されたリリアーナの住宅周辺の地図と発信器の移動を追跡した。
 しかし、
「反応がロストしました!」
「どうして!」
 しばらくして突然発信器の反応が地図上から消失。
 王留美はモニターに近づき、その場に手を置いて確認する。
「気づかれたにしては変……」
 二人は昨日と同じように少女が再び家に戻るのは間違いない事から、待っていた所、すぐにほぼ同じポイントに反応が復活する。
「故障……?」
「そんな筈は……」
 すると再び発信器の反応が急速に移動を始め、そして再び消失する。
 不可解な現象に、二人は言葉が出ず、今度は長めの消失。
 反応が再出現した所は、消失した所からそれなりに距離が離れていた。
「一体どういう事……」
 王留美が呟くと、発信器の反応は急速にリリアーナの家の方へと進行し始めた。
 二人は困惑していたが、原因は魔法少女への変身。
 変身すると、靴から場合によっては頭まで全て換装され、結果として靴に仕掛けている発信器も一時的に消失する。
 リリアーナは願いによって、変身しなくとも超人的身体能力を獲得している為、ただでさえ多い魔力消費を抑えるために、移動先に距離がある場合には変身を解除し、元の服装に戻していた。
 新米魔法少女は最初は普通の状態で夜道を歩いて魔獣の出現場所に向かう事が多いが、新米を卒業し、魔力による身体強化に慣れてくると常に変身した状態で目的地まで一気に行くようになるのが一般的であった。
 リリアーナが家に戻った所、王留美はエージェントに指示を出し、発信器の反応が消失、出現した場所を調べさせた。
「人一人として見あたらず、本当に特に変哲も無いようですね」
 紅龍がそう言った所、王留美は分かったわ、と口元をつりあげる。
「それが重要なのよ」
「どういう事ですか?」
 紅龍が腑に落ちない様子で尋ねた。
「紅龍、昔からある都市伝説を思いだしてみなさい」
 試すように王留美が言い、気がついた様子で紅龍が答える。
「深夜、人気の無い場所を一人で歩くと危険な目に遭う事があるという話ですか」
「そう。そして、スメラギさんから送られてきた十代女性の失踪者数の率と映像に映っていた謎の能力。これらは恐らく全てQBへと繋がっているのよ」
 ふふふ、と王留美が笑みを浮かべた。
「紅龍、引き続き対象の家での独り言を収集して頂戴」
 心なしか普段よりも余程楽しそうな様子で王留美は、きびすを返した。
「承知、致しました」
 紅龍はその背中を見送った。
 その後、一週間も経たずして数日のうちに収集されたリリアーナの独り言には関係ない物も多かったが「魔法少女」「魔獣」「結界」「コア」「ソウルジェム」「魔力」「浄化」「濁る」「やっぱり消耗が激しい」「他の魔法少女は?」「願いを叶える」「契約だから」「感情のコントロールが必要って事ね」「まだ消える訳にはいかない」「CB」「ガンダム」「緑色とデカいのより、白青と羽付きオレンジを狙った方が良さそう」「新しく紫白が出た?」「白紫も潰せそう」と言った物が得られた。
 これらの情報を統合して、王留美はある仮説を構築していた。
「……まるで架空の話のようだけど、話を繋ぎ合わせてみれば、QBと契約というものをすると魔法少女となる代わりに願いを叶える事ができる。そして、魔法少女は魔獣と呼ばれる存在を魔法を使って倒し、コアを使って宝石、ソウルジェムの濁りを浄化する。そして監視映像の通り、使い終わったコアはQBが回収する。消耗しすぎると消える、というのは……恐らく言葉通りなのかもしれないわね。そして失踪者入りする……と言った所かしら」
 そして飲み物を優雅に飲む。
「けれど、魔獣の発生条件は一体……?」
 グラスを傾けて、考える。
 QBにとって利益足り得るのはコアの回収しか考えられない。
 そして人間が死ぬのは勿体無いという発言。
 QBがCBの武力介入に介入して死者を減らす事は間接的にコアの回収、つまり魔獣の発生に何らかのメリットがあるから。
 突飛な考えだけれど、人間が生きている事自体が魔獣の発生に影響するのだとしたら……いえ、それではQBの行動に辻褄が合わない部分がある。
 CBの武力介入そのもの、そしてその反発で起こったテロによって人は確実に死んでいる。
 それにQBはテロそのものは一切止めていない。
 勝手に声明を出す度に、わざと挑発するような言い方。
 まだ何かが足りないようね。
 それよりも、私は願いを叶えるという事に興味があるのだけど。
 王留美の口元が僅かに歪む。
 もし、この灰色の世界が変わるというのなら……。
「スメラギさんに何となくこの件は報告したくない気がするけれど、再びリリアーナ・ラヴィーニャがガンダムに攻撃を仕掛けるのはそう遠く無い。そして私自身はQBに出会った事は無いとなれば、会ったことのあるあちらへ報告すべきなのでしょうね」
 そう長々と呟いて、王留美は端末で紅龍に繋ぐ。
「紅龍、スメラギさんに現段階の調査情報を送って頂戴」
[承知致しました]
 そして通信を切った。
 直接本人に接触したい所だけど……人外染みた身体能力に、ガンダムのEカーボンを削るような攻撃ができると来て、私達はCBの支援者。
 最悪命の危険があるのが残念ね。
 他の魔法少女もいるようだけど、探せば見つけられるかしら。
 そして、王留美は窓の外にゆっくりと目を移した。


―UNION領・経済特区・東京―

 刹那は次のミッションの為、夜闇の中、南国島から東京へと、海中に隠してあるコンテナにエクシアを移動させ、隠れ家であるマンションへと一路向かっていた。
 公園の外を通り、マンションが見えて来た所で刹那は、
「ッ」
 ピタリと足を止めた。
 普通に歩いていけば、道路に面している為、そのまま問題なく上がれる一階の自室と隣室の玄関扉の丁度間に、何者かが背中を壁に預け、立っていたから。
 電灯の灯りで僅かに容姿が見える。
 長い黒髪に赤いリボン。
 顔立ちは恐らく東洋系、そして背格好からして少女。
 それだけであれば普通の人間は一瞬見ることはあれ、素通りして大して気にしなかったかもしれないが、刹那は戦う者、つまり戦士であった。
 彼の少女の雰囲気が熟練の戦士であると刹那は見て直感的に理解した。
 ……何者だ。
「く」
 すると、刹那は後方からも人の来る気配を感じ取った。
 反射的に、素早くかつ音を立てずにその場を離れ迂回するようにして、少女を視界に捉えられる位置かつ、向こうからは見えないマンションの植え込みの陰へと刹那は移動した。
 そこへやってきたのは、アメリカから戻ってきた絹江であった。
 肩掛けの鞄にトランクをゴロゴロ引いて来た。
 刹那も見覚えがあった。
 サジ・クロスロードの姉、確か名前は絹江・クロスロードだったか、と。
 絹江は重そうにトランクを引き、視線は地面を見ていたが、後一つ道路を跨げばマンションという程に近づいた所で、顔を上げると、ピタリと足を止めた。
 瞬間、刹那は動揺する。
 気づかれた、のか?
 偶然にも絹江から刹那の潜伏する植え込みから見える虞があった。
 それでも刹那は呼吸を最新の注意を払って押し留める。
「暁美、ほむら……」
 絹江がそう呟く。
 刹那はそれにピクリと反応する。
 あの少女兵の名前か。
 絹江がゆっくり一歩一歩道路を横断し始める。
 と同時に、カッカッと音を立てて、マンションの方からもゆっくりと少女が閉じていた目を開いて歩き出す。
 周囲には他に人はおらず、一名隠れているが合わせて三人。
 マンションの敷地と歩道を区切る所を少し過ぎた所で、絹江と少女とが対峙する距離はおよそ3m。
「こんばんは、絹江さん」
 少女が先に口を開いた。
 電灯が仄かに入り口付近を照らす中、凛とした声が響く。
「こ……こんばんは。まさかまた」
「私を探していたのは絹江さんでしょう」
 絹江が少し震え気味の声の所、ピシャリと遮るように言葉を少女が重ねる。
「え……あ……」
 知っていたのか、と絹江は目の前の少女が醸し出す雰囲気に気圧され、上手く言葉が出ない。
 刹那も突如少女の全身から吹き出すようなプレッシャーに驚く。
 そして、ここで狙いは自分で無かった事を悟るが、今更この状況で身動きが取れない。
 カッとブーツが一歩前に出る音が響き、少女がきつい表情で口を開く。
「単刀直入に言います。貴女はもう、手遅れです」
「なっ、ど」
 絹江が慌て、トランクから手を離す。
 刹那は少女の発言に目を見開く。
 まさか、暗殺者か?
 刹那は懐の銃に右手を自然に伸ばす。
「QBだけを追い続ければ良かったのだけれど、CBについて貴女は知りすぎたそうです」
 更に一歩、カッと少女は前進する。
 距離2m。
 刹那はここで更に緊張を高める。
 CBについてサジ・クロスロードの姉が知りすぎた。
 まさか、俺の事を……。
 あの少女兵、CBのエージェント、なのか?
「正直、あの時迂闊だったと後悔しています。関わらなければ私は貴女の結末がどうなろうと気にする事も無かった。ですが、このままでは後味が悪い」
 少女は言葉とは裏腹に一切の申し訳なさも感じさせず、先程よりも小さい声で畳みかけた。
 僅かに指先の震える絹江は蒼白な顔。
 そして少女は絹江に指を二本突きつける。
「貴女に残る選択肢は一応二つです」
 選択肢? と刹那は疑問を浮かべる。
「自分を愚かだと呪って死ぬか」
 刹那の緊張が最高に張りつめ、絹江は完全停止。
「CBに参加するか、です」
「っ……え?」
 絹江が間抜けな声を出す。
 は?
 と、刹那も声を出すのは堪えたが、呆気に取られた。
 少女はここで、植え込みの方に視線を移す。
「幸い、そこに何故か隠れている人も丁度います」
 今度は刹那が完全停止。
「え?」
 要領の得ない声を上げ、絹江も視線を移すが、少女が更に暗がりに向けて声を掛ける。
「貴方の部屋に上がらせて貰えるかしら?」
 即座に刹那は立ち上がり、
「貴様まさか、機関のエージェントゥッ!」
 否、
「貴様。何者だ」
 銃を真っ直ぐ少女に向けて構え、低い声で言った。
「暁美ほむら。通りすがりの魔法少女よ」
 掻き上げられた少女の黒髪が、艶やかに舞う。



[27528] 刹那「戦っているのか」 MS「戦っているわ」
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/05/23 21:11
「暁美ほむら。通りすがりの魔法少女よ」
 掻き上げられた髪が元に戻る。
「魔法少女!」
「魔法……少女?」
 刹那・F・セイエイはその単語は少し前聞いたばかりだと目を見開き、絹江・クロスロードは何の事かと疑問の声を上げる。
「それに、あなた隣の!」
 銃口を向けられていながらも微動だにしない少女に、絹江は感覚が麻痺しかかるが、暗がりで良く見えなかった刹那に見覚えがある事に声を上げた。
「事情を話すにしても、ここでは不都合。もう一度頼むわ。貴方の部屋に上がらせて貰えるかしら?」
 少女の一切揺らがないその目に刹那は一瞬動揺し、銃を構えるその手が震える。
 刹那は思考を回転させる。
 暁美ほむらは魔法少女。
 スメラギ・李・ノリエガから聞かされた、デュナメスに攻撃を仕掛けた少女兵の呼称。
 そして絹江・クロスロードに今この状況を見られ、顔も知られている。
 そこまで考えて、刹那は鋭い目つきで警戒は緩めないが、ゆっくりと銃を懐にしまい、
「分かった」
 低い声で一言。
 少女は変わらぬ様子だが、絹江は緊張にゴクリと喉を鳴らす。
 刹那はスタスタ歩き、植え込みをサッと飛び越え、自室の玄関へ向かう途中、
「入れ」
 僅かに顔を後ろの二人に向けて言った。
 少女は無言で頷き、そちらに足を向けるが、
「絹江さん、歩けますか?」
 そう、振り返って声を掛けた。
「え……ええ。だ、大丈夫よ」
 絹江は震える声を出した。
 すると、少女はすぐに絹江に近づき、トランクを勝手に持ち、玄関の扉の前で既に待っている刹那の方へと向かう。
 引き寄せられるように絹江もようやく足が動く。
 刹那はそれを見て部屋に先に入り、少女は絹江が到着するまで待った。
 追いついた所で、無言で少女は絹江のトランクを地面から僅かに持ち上げ、ドアノブに手を掛けて、玄関の中へと入る。
 絹江は一瞬待ってと声が出そうになったが、その機は逃し、吸い込まれるように中へと入ってしまい、背後の扉が閉まった。
 部屋の中は既に刹那が電気をつけており、部屋奥の広めの窓はカーテンで完全に塞がれていた。
 絹江のトランクは玄関に置かれ、少女は黒いブーツを脱ぎ、絹江も靴を脱いで上がった。
 家具らしい家具と言えば、ベッドのみ。
 他は空のミネラルウォーターのペットボトルが一つと新聞が一つ置いてある程度。
 生活感が感じられない。
 絹江はそう思ったものの、とても今言える雰囲気ではなく沈黙した。
 少女は刹那が部屋の手前に立ったまま二人がどうするのか見ているのを気にせず素通りして部屋の中程まで進んでいき、
「座らせて貰うわ」
 ごく自然にスッと何も無い床に正座した。
 退路を断たれる位置取りに堂々と座る少女の様子を見て、絹江も恐る恐る歩みを進める。
「そ、それじゃあ、私も失礼するわ」
 言って、絹江もゆっくり腰を降ろして床に座り、肩掛け鞄も床に置く。
 刹那はそこで、位置的に三角形の頂点を描く最後の位置で無言で腰を降ろし、片足を立てた状態で座った。
 一瞬の静寂の後、様子を伺う刹那に先んじて口を最初に開いたのは少女。
「まずは上がらせてくれたこと、礼を言います」
 刹那の方を向いて軽く目を伏せ、刹那はごく僅かに頷いた。
「用件は一つ。貴方に絹江さんをCBの構成員になる事を取り図らえる人物との取り次ぎをお願いしたい」
 刹那はそう自身に向かって言った少女を見る。
 そこへ絹江が何で話が勝手にと口を開く。
「ちょっと、あの、私まだそんな」
「絹江さん、CBに参加しないなら今ここで終わりですよ」
 しかし、絹江の言葉を少女は冷淡に遮った。
「っ」
 絹江の体がビクリと震えた。
「どこまで知っている」
 そこへ刹那が怖い顔で少女に問いかけた。
「私が知っているのは絹江さんがCBについて何かを知りすぎ、抹殺が決定された事。そして、貴方がCBの構成員である事。それだけよ」
 視線と視線が容赦なく衝突する。
 少女も詳しい事情は知らない。
 否、少女にとって詳しく知る必要など無い。
「どこでそれを知った」
 尚も刹那の質問が続く。
「QB」
「QB?」
 刹那が眉をひそめた。
「出てきなさい、QB」
 少女が目を閉じ通る声で言った。
 すると、音もなく白い生物が少女と刹那の間に忽然と四足で立って現れ、その場に座る。
「QB」
 気がついた刹那は低い声で言い、絹江は自分の座る目の前の生物に恐る恐る声を出す。
「Q……B……?」
「暁美ほむら、こんな事になるなんてね」
 少し意外だったよ、とQBは言った。
 少女はQBが伝えてきた時の事を思い返す。

 少女はQBに群馬県見滝原にて自身を探している事が分かった絹江について、その際「一応何かあったら知らせて貰えるかしら」と頼んでいた。
 そして三日前の夜。
「君を探していた記者、勿体無いけど死ぬ事になったよ」
 少女の肩に乗ったQBが唐突に言った。
 僅かに反応した少女が足を止めて尋ねる。
「何故か聞かせて貰えるかしら」
「相変わらず君を探していたみたいだけど、その途中でCBについて知りすぎたからさ」
 絹江がネットワークに繋がれているのが標準の端末で、いつも通り、とある文面が書かれたファイルを保存した所、それをヴェーダが感知。
 絹江がJNN記者である素性を計算に入れ、抹殺対象に追加されたのであった。
「もう、死んだの?」
「まだだよ」
 簡潔なやりとりが続く。
 そこで少女は少し逡巡し、口を開く。
「……東京に、いえ、絹江・クロスロードの身辺の付近にCBのメンバーはいるかしら?」
 まだ、というQBの発言に少女は、ならばいつでも都合良く殺せる人物がいるのかもしれないと思い尋ねた。
「偶然だけど、記者の隣室に一人いるよ」
 それがよりにもよってCBのガンダムマイスターで殆ど関わりも無いんだけどね、とまではQBは言わなかった。
 少女はそれには流石に驚いた様子を見せたが、
「そう。場所、教えて貰えるかしら?」
 と最後にそう尋ね、今に至る。

「僕が伝えたのは今話していた通りの事だけだよ」
 QBは刹那に向かって少女の証言が真実である事を示す。
 刹那はそれを聞いて黙る。
 少女の頼みを受けなければならない訳ではない。
 だが、断る場合、この場で刹那自身が絹江にCBのメンバーである事を知られた上、何よりCBについて何かを知りすぎたというからには、放置できず、それこそ口封じする必要がある。
 そしてもう一つ。
 魔法少女と名乗り、QBと知り合いのようであり、出てきなさいとまで言える暁美ほむら。
 情報を聞き出す必要がある、と刹那は思った。
 スメラギ・李・ノリエガに戦術を求める。
「……分かった。連絡をする。そこを動くな」
 刹那は立ち上がり、端末を持って奥の部屋に行った。
「絹江・クロスロード、まだ決まった訳ではないけどほむらに感謝すると良いよ。ほむらがこうして動かなければ君は何も気づかずに明日には確実に死んでいただろうからね」
 刹那が壁を挟んで移動した所で、QBは厳然たる事実を淡々と可愛らしい声で絹江に述べた。
「そ……んな。でも、どうして私が……」
 死ぬことになるのか、と絹江は愕然とする。
 少女は目を閉じたまま微動だにせず、QBが首を傾げて言う。
「君は何か問題のあるデータを保存したようだよ」
「っは! まさかっアレが」
 絹江はハッと心当たりのあるデータを思いだし、声を上げた。
 あれだけ探していた少女と更にはQBまでもがいるものの、絹江には到底本来聞きたい事を尋ねる余裕などなかった。
 一方、壁を挟んだ反対側で刹那はプトレマイオスに暗号通信を送っていた。


―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―

 クリスティナ・シエラがブリッジでオペレート席にいつも通り着いていた所、メッセージの受信を確認する。
「刹那から……? え、何これ」
 間の抜けた声をクリスティナが上げ、操舵席のリヒテンダール・ツエーリが振り返る。
「どうしたんすか?」
 クリスティナが一瞥し、
「うん、ちょっと。スメラギさん、ブリッジに来てください」
 スメラギ・李・ノリエガを呼び出した。
[どうしたの、クリス]
 スメラギの顔がモニターに映る。
「刹那からスメラギさん宛に暗号通信です。ただ、すぐ返答を求めているみたいです」
[刹那から? 分かった、今行くわ]
 通信が切られ、モニターからスメラギの顔が消える。
 そしてすぐにスメラギがブリッジの扉を開けて入ってくる。
「見せて」
 そのまま、スメラギはクリスティナの席の背もたれに左手を置き、モニターを見る。
「えっ、絹江・クロスロード!?」
 スメラギは驚きの声を上げた。
「知ってるんですか?」
 クリスティナが尋ねた。
「偶然、この前にね」
 暗号通信の内容を読んだスメラギは顎を右手で触れ、更に言う。
「クリス、刹那に私との映像通信を繋いで」
「良いんですか?」
 その場にいるみたいなんですよ? とクリスは思った。
「良いわ」
 刹那に交渉させるのも心配よ、とスメラギは思った。
「了解です」


―UNION領・経済特区・東京・刹那の隠れ家―

「映像通信?」
 刹那が疑問の声を上げた瞬間、端末のモニターにスメラギの顔が映る。
[刹那、そこに魔法少女らしき子と絹江・クロスロードさんがいるのね?]
 刹那は音量を絞り、自分も小さな声で答える。
「ああ、そうだ」
[端末を介して、私に二人と話をさせて貰えるかしら?]
 スメラギがそう頼み、刹那は小さく頷く。
「了解」
 刹那は端末を持ったまま元の部屋に戻る。
 既にQBはいなくなっており、二人は刹那に気づいて顔を上げるが、気にせず刹那は元の位置に座り、床に端末を二人に向けて置いた。
「あ、あなたは!」
 先に声を出した絹江に対して、スメラギは微妙な表情をして、
[つい先日以来ですね、絹江・クロスロードさん。改めました、スメラギ・李・ノリエガです。それで……そちらの子が……]
 少女を見て停止した。
「暁美ほむらです。何か?」
 軽く少女は礼をしたが、スメラギの様子に疑問を浮かべる。
「暁美……さんのモンタージュ写真を見せた事があるの」
 絹江は隣の少女をもうほむらちゃんなどと呼べず、ばつが悪そうに言った。
「そうですか」
 特に気にもせずに少女は言った。
[では、本題に入らせて貰います。クロスロードさん、先に申し上げますが、CBは機密の関係で部署間の情報伝達は必要な分だけに限られます。その為、私達はあなたがCB内で抹殺対象に入った事は今知りました]
 スメラギが話し始めた所で絹江はこくりと頷き、スメラギが申し訳なさそうな顔で続ける。
[クロスロードさんが抹殺対象に入っている事を撤回する権限は私達にはありません。ただ一つ、それを撤回する方法は確かにクロスロードさんがCBに参加する以外には無いでしょう。事実上選択肢は一つ……しかないですが、どう、されますか?]
 聞いて、絹江は正座していた状態から脱力してペタリと床に座る。
 CBの活動にはっきりと賛同も否定もしない立場でただ真実を求めようとしてきた……。
 けれど、生き残る道が奇跡的にあるのに、サジを残してここで死ぬ訳には、いかない。
 絹江は膝に乗せた拳をギュっと握り締め、再び正座し直し、勇気を振り絞って言う。
「……分かりました。CBに、参加させて下さい」
[分かりました。では、その件についてはこちらからエージェントに連絡します]
 スメラギが再度意志確認をする事は無かった。
[そして、暁美ほむらさん。あなたは魔法少女と言う事だけれど、その事について詳しい話を聞かせて貰いたいのだけど良いかしら?]
 スメラギは今度は少女に質問を移したが、
「それはCBにとって知る必要がありますか?」
 少女は閉じていた目を開けてそう淡泊に返した。
 スメラギはソレに遅れを取らないよう答える。
[あるわ。私達はまず間違いなく魔法少女と思われる人物に襲撃を受けました。関係が深そうなQBに直接聞ければ良いのだけど……]
 スメラギが間を開けた所で、聞いて僅かに眉を寄せた少女が口を開く。
「そういう事であれば、分かりました。私が最初に頼んだ事でもあります」
[ありがとう。そ]
 スメラギが早速聞こうとした所、少女が遮る。
「待って下さい」
 スメラギが口を閉じる。
「説明するのは絹江さんの安全の確保が確認できてからにして貰えませんか?」
 少女は絹江が抹殺されるのを防ぐ為には、安全が確保されるまで絹江から離れる訳にはいかなかった。
 ここまで絹江の件に関与しておいて、途中で後は任せましたでは済まないから。
 絹江はそう言った少女に目を向け、
[ええ、構わないわ]
 意図を察したスメラギはすぐに了承した。
「ありがとうございます」
 その後、しばしの交渉が行われ……。
 絹江は隣の自宅に一旦戻ってサジが寝ているのをよそに荷物を置き、少女と監視役の刹那と同行の元、一方でスメラギが王留美に通信し、僅か一時間程度でマンションの近場に迎えに現れた車に乗り、東京圏にある別荘へと向かった。


―UNION領・経済特区・東京・王留美の別荘―

 全く外は依然として暗い未明に車で到着し、別荘の者の案内に従い三人は広間で待たされた。
 刹那は大きな円形を描く椅子に座ったまま一切動かず、少女は刹那とはまた別の円形を描く椅子に、目は閉じ、足は揃えて座る。
 絹江はあれよあれよという間に連れてこられた屋敷が一体どこの誰が所有しているのかも分からず、自身の生活ではまず縁の無い場所に無駄に緊張し、一応は少女から少し間を置いて座っていた。
 全然、眠気がしない……。
 と絹江は新たな悩みが増えていた。
 少女の方に目を向けると、目を閉じているが寝ているのか寝ていないのか分からないので、声が掛け辛い。
 とりあえず、部下にまだ少し寄るところができた、と言う内容のメールとサジにも大体似たような内容のメールを作成し、刹那の所へ向かい、
「このメール、予約送信で出しても良いかしら?」
 と怯え気味ながら携帯を渡して尋ねた。
「……構わない」
 内容を見た刹那は簡潔に答え、すぐに携帯を絹江に返した。
「どうも、ありがとう」
 絹江はかなり微妙な表情をし、刹那がボソッと言う。
「まさかこうなるとは思わなかった」
「そ、そうね……」
 そして刹那が脈絡も無く、絹江に言う。
「眠くなったら眠れば良い」
 絹江は一つ頷いて答えた。
「そう、させて貰うわね」
 歩いて元の席に戻って座り、
「ふぅ……」
 溜め息を付く。
 絹江は少し冷静になって考え始める。
 まさか、数ヶ月前から隣に住んでいるあの子がCBのメンバーだったなんて。
 サジ、普通に話した事あるなんて言ってたけど……。
 せめて、サジだけは巻き込まないようにしないと。
 自然と絹江は手に力を込める。
 そう心に決めて、ふと絹江は広間を見渡す。
 ……この屋敷、どこの資産家の物かしら。
 考えてみれば、CBにはこういう強力なバックがついているのは当然よね……。
 今まで取材蹴られたことは多かったけれど、その中にCBの関係者はいたのかもしれない。
 そう考えると、絹江は今まで無事であった事に若干の安堵と、すぐに薄ら寒さを感じた。
 絹江は足に右肘をつけ、体を少し前に傾け、手を頭に当てる。
 これから、どうなるのかしら。
 CBに参加させて下さいとはお願いしたけれど、私はJNNの記者であって、どこかの機関の諜報員のような事ができる訳でもない。
 今ここで待っている人が来れば、その時に分かるのでしょうけど。
 それにしても、リーサ・クジョウ、コードネームでスメラギ・李・ノリエガ、あの人もCBの人だったなんて……。
 私の抹殺が決定されたと思われるデータは、まず間違いなくあの時ビリー・カタギリ氏が話していた事を仮説に纏めたアレ。
 だとすると、彼も抹殺対象に入っていてもおかしくない。
 そして、レイフ・エイフマン教授も……。
 まさか、二人もCBの……?
 いや、それはない。
 CBだったら他人にあんな事を漏らしたりはしない。
 あ、エイフマン教授からの返信のメール……もしかして、教授は既にCBに目を付けられているのかも……。
 今頃になってCBに近づこうとするのがどれだけ危険か分かる……というか、もう手遅れよ……。
 絹江の脳裏に部長が真剣な顔で忠告した時の事が再生される。
(但し、無理はするな絹江。深みに嵌ったら抜け出せなくなる)
 部長……完全に深みに嵌って抜け出せなくなりました。
 絹江は左手も頭に当て、両手で頭を抱える。
(自分を愚かだと呪って死ぬか)
 更に隣の少女が指を突きつけて言った言葉も再生される。
 衝撃的な言葉だったけれど、ホント、私って愚かね……。
(ほむらがこうして動かなければ君は何も気づかずに明日には確実に死んでいただろう)
 QBの可愛らしい声も再生される。
 ほむらちゃんが来てくれなかったら、明日には私は死んでいた……。
 絹江は隣の少女の方を向き声を絞り出す。
「暁美、さん、起きているかしら」
 少女は目を開ける。
「はい」
 少女の人を寄せ付けない雰囲気に気圧されるものの、絹江は自然に頭を下げて言う。
「あの……何て言ったら良いか、本当にありがとう」
「その言葉、受け取っておきます」
 少女は、そう返した。
 わざわざ、貴女の為ではなく、私の行為が間接的に貴女の死に繋がる結果を招いたと感じる私の為にした事だとは言わなかった。
 絹江はそこで少しだけホッとした表情をし、緊張が解けたのか、しばらくすると遅れて睡魔が襲い、そのままコクリコクリと頭が揺らぎ始め、そのまま眠りについた。

 それを他所に 刹那は、目を瞑ってはいるが、寝てはいない少女を警戒し、ひたすら見張り続けていた。
 自然に少女は座っているが、刹那には全く隙が感じられなかった。
 刹那は目の前の少女が魔法少女というものであると聞いたが、その詳しいことは知らない。
 ただ、この少女が自身と同じく戦っている者だという事は分かっていた。
 不意に刹那は椅子から立ち上がり、真っ直ぐ少女へと近づき、言った。
 距離5m。
「戦っているのか」
 広間に声が響く。
 少女は静かに目を開ける。
「戦っているのか」
 刹那はもう一度言った。
 一瞬の間。
 少女が顔を上げて口を動かす。
「戦っているわ」
 すぐに刹那も言う。
「俺も戦っている」
 少女は刹那の発言に対し、
「そう」
 と。
 刹那の問いかけは続く。
「何と戦っている」
 少女はスッと立ち上がり、
「人の世の呪い」
 ポツリと言った。
 刹那は少女の言葉を復唱し、解釈する。
「人の世の呪い。……それは、世界の歪みか」
 真顔の刹那に対し、少女も視線を直にぶつけ、頷く。
「……そうよ。闇の底から人々を狙う世界の歪み」
 刹那はごくりと喉を鳴らし、更に言う。
「何故、この世界は歪んでいる」
 少女は一歩足を前に出し、答える。
「人は、生きている」
 聞いて、刹那は目に動揺の色を浮かべ、僅かに見開く。
「人のせいなのか?」
 少女は首を横に振って更に一歩。 
「人は悲しみ、憎しむ」
 刹那は両の拳をきつく握り締め始める。
「人と人が分かり合える道は無いのか」
 少女は目を閉じて更に首を振り、
「その答えは私も分からない。けれど、希望はいつだってある」
 刹那を見据えて言った。
「希望は……ある」
 刹那は僅かに震える声で呟いた。
 そして、刹那は拳を緩め、後ろを振り向き踏み出した。
 しかし、すぐに再び振り返り、
「何故、お前は戦っている」
 と、眼の奥に僅かに輝きを宿して尋ねた。
 後一つ、と。
 少女は目を閉じて、ゆっくりと口を開き、
「かつてこの世界を守ろうとした者がいた。私はそれを、決して忘れたりしない。だから私は、戦い続ける」
 目を開けた。 
 刹那はそれを聞いて鼓動が早まる。
 この世界に神はいない。
「それは誰だ? 神か?」
 少女はその問いには首を一度振り、そっと空を見上げ呟く。
「いつでもどこにでもいる。今も私の傍にいる」
 あの子は神様でも何でもいいと言ったけれど。
 ガラス張りの向こうには完全な闇が広がり、穏やかな色合いの光が広間を優しく照らす。
 刹那は対峙する少女に神秘的な何かを幻視し、その瞳が揺らいだ。
 まさか、神が視えているのか、と。





前本話後書き・重大ながら結構どうでも良い矛盾点

刹那とクロスロード姉弟の家は高層マンションのエレベーターを上がった中でした。
一階から普通に上がれません。
柵はありますが植え込みはありませんでした。
しかしアニメ本編、3話変わる世界と6話セブンソードを確認すると3話と6話で玄関付近の構造が明らかに変化(玄関と玄関の間の距離がやたら伸びている)しているという事にも気づきました。
一体僅かな月日の間に何があったのか。
一応修正版も用意しましたが、突っ込みがなければこのままで良いかなと言い訳を一つ。


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