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2011年5月23日(月)付

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日中韓協力―震災での絆を土台に

領土問題や歴史認識をめぐって、きしみがちな関係も、東日本大震災で改めて気づかされた「隣国の絆」を土台にすれば、豊かな協力の実りにつながる。こんな思いを、東京で開かれた日[記事全文]

青森知事選―原発論議を深めよう

原子力発電と、これからどう向き合っていくのか。福島第一原発の事故で「安全神話」が崩れ去ったいま、われわれに突きつけられた重い問いだ。この問いに、青森県民が選挙を通して向[記事全文]

日中韓協力―震災での絆を土台に

 領土問題や歴史認識をめぐって、きしみがちな関係も、東日本大震災で改めて気づかされた「隣国の絆」を土台にすれば、豊かな協力の実りにつながる。

 こんな思いを、東京で開かれた日中韓サミットで強くした。

 4回目の今回は、日本の復興を支援し、防災や原子力安全の分野で協力を強めることをうたう首脳宣言を発表した。

 中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は会議に先立ち、菅直人首相とともに福島市の避難所で被災者を見舞った。風評被害に悩む福島県産の農産物を笑顔で頬張っても見せた。

 原発事故はいまだ収束せず、余震が続く中での訪問である。日本の安全性を世界に訴えたい首相の強い働きかけがあったにせよ、両首脳とも危機に立つ日本との関係を重視した判断だったに違いない。

 両国は震災の発生直後から、日本に救援チームを送り、毛布や食料、ガソリンなどの物資を提供した。支援の輪は市民レベルにも広がり、募金活動やチャリティーコンサートなどが各地で催され、日本の人々を励ましてくれた。

 日本は戦後、両国に対し、経済支援や災害時の救援活動を重ねてきた。今度は「日本が助けられる」番だった。こうした経験を通じて、3国は隣国として「お互いさまの関係」を一歩深化させたといえる。

 新たな協力分野として、原子力の安全対策はとくに重要だ。いま韓国は21基、中国は13基の原発を運転している。両国ともさらに、電力に占める原発の比率を高めていく計画だ。

 原発事故による放射能汚染の被害は、1国だけにとどまらない。一衣帯水の隣国同士であれば、なおさらである。

 福島の事故の教訓をしっかりと共有し、それぞれが安全対策に万全を期すことが肝心だ。同時に、緊急時の相互通報の仕組みも整えておく必要がある。

 広大な国土を持つ中国には、太陽光や風力発電の巨大な潜在力がある。今後は日本が韓国とともに、中国での自然エネルギー開発を進める技術支援をする道もあろう。

 菅政権の成長戦略の柱だった外国人観光客の誘致や農産物の輸出は、原発事故で強い逆風にさらされている。

 温首相が今回、日本からの食品輸入規制の一部緩和や日本への観光ミッション派遣を発表したとはいえ、前途は険しい。

 日本の復興にとって、成長するアジアの需要を取り込むことは不可欠だ。日中韓の協力関係をそのテコにしよう。

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青森知事選―原発論議を深めよう

 原子力発電と、これからどう向き合っていくのか。福島第一原発の事故で「安全神話」が崩れ去ったいま、われわれに突きつけられた重い問いだ。

 この問いに、青森県民が選挙を通して向き合っている。先週から始まった県知事選で、原発が大事な争点のひとつになっているのだ。

 青森県で運転中の原発は1基だけだが、建設・計画中は4基あり、国内で最も多い。それに六ケ所村に核燃料サイクル施設を抱え、国の原子力政策に深く組み込まれている。

 知事選で示される民意は、これから本格化する国のエネルギー政策論議にも何らかの影響を与えずにはいないだろう。

 選挙戦は自民、公明両党推薦の現職三村申吾氏に、民主、国民新党推薦の山内崇、共産党公認の吉俣洋の両氏が挑む「与野党対決」の構図となっている。

 三村氏は2期8年の在任中、国の原子力施策を積極的に支えてきた。「安全なくして原子力なし」をスローガンに、専門家による県独自の検証委員会の設置を公約するが、建設・計画中の原発に対する態度は明らかにしていない。

 これに対し、山内氏は原発の新設凍結を掲げ、安全基準の強化などを再開の条件に挙げる。吉俣氏は、新規建設の中止だけでなく、運転中の原発の段階的廃止も主張している。

 青森県、とりわけ原子力施設が集中する下北半島では、自治体の財政も、地域の雇用も経済も、原子力に大きく依存している。「脱原発」などと簡単に割り切れない現実がある。

 一方、今回の大震災は、ひとたび原発で深刻な事故が起きれば、途方もない被害が降りかかる現実もあらわにした。

 二つの現実のもとで、ふるさとの将来や未来の世代のことを考えなければならない。

 原子力産業への依存を続けるのなら、危機への備えを具体的にどう強化するのか。依存を減らす方向にかじを切るなら、原子力に代わる地域の青写真をどう描くのか。知事選を機に、県民一人ひとりが真剣に考え、見極めてほしい。

 菅直人首相は、原発の増設が盛り込まれたエネルギー基本計画を白紙に戻して再検討する方針を明らかにしている。核燃料サイクル政策も既に破綻(はたん)していると指摘されており、見直しは当然のことだ。

 これからのエネルギー政策は専門家任せにせずに、国民的議論と幅広い合意形成が絶対に欠かせない。青森県民の熟考が、その第一歩になる。

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