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【軍事情勢】中国空母警戒への日米温度差

2011/05/22 00:07更新

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 衛星の画像分析者には、サッカーの知識も必要なようだ。

 中国・国産空母建造拠点となる上海市の造船所内で、協力するウクライナ人技術者用サッカー場の建設が判明した。民間軍事研究機関・漢和情報センター(本部カナダ)によると、“証拠写真”は昨年8月に衛星が撮影。サッカー場近くには技術者宿舎があった。外国人用とする根拠に関し「他の技術者宿舎付近にサッカー場はなく、高齢の中国人熟練技術者層にはサッカーをする習慣がない」と指摘している。

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記事本文の続き 実は1962年のキューバ危機でも、ソ連軍進駐の端緒は、米軍偵察機が確認したサッカー場で「外国軍事顧問団潜伏を示す重要兆候」と報告された。

 ■「実戦運用」は8~10年後

 ところで、上海における空母建造より早く、中国海軍に空母が現出するだろう。米太平洋軍司令官ロバート・ウィラード海軍大将(60)は4月の上院軍事委員会で「早ければ今夏にも試験航海とその評価期間に入る」との見方を示した。司令官が言及した空母は、中国がウクライナから未完成のまま購入し、大連の造船所で10年以上の歳月をかけて修復・改装中のワリャーグ(6万7500トン)。 

 もっとも、司令官は「実戦運用能力を備えるまで長期訓練が必要」と断っている。何しろ、試験航海だけで「動力システム」「港湾内」「沿岸」「近海」「遠洋」と試験対象が多岐にわたり、すべて終えるには2年以上を要する。その後も、レーダーや艦載兵器系の各システム、戦闘機・早期警戒機といった艦載機(搭乗員は訓練中)などの試験が待っている。

 さらに米国を例に採ると、空母は乗員や航空搭乗・整備員6000人が乗り組み、コンビニエンス・ストアやクリーニング店、ジム、病院、理髪店まで完備する「動く戦略基地」。軽微でも被弾すれば米戦略が狂う。従って空母の任務・規模にもよるが、空母を守る対空・対艦・対潜の、潜水艦を含む護衛艦隊と、それを一体化する高度なシステム・ネットワーク完成が大前提、もしくは一定条件となる。こうした事情から、空母打撃群の「実戦運用」は8~10年後の可能性が高い。

 ■米経済に壊滅的影響

 だが、楽観はできない。米国防総省・国家戦略研究所は「アジアでの米国の存在と同盟国へのより大きな軍事脅威となる」とみる。ジョセフ・カロ米海軍退役少将とメルボルン大学の歴史研究家ダニエル・マンデル氏も連名で4月、米紙ニューヨーク・ポストに「中国海軍:高まる脅威」と題した、以下のような論説を寄稿した。

 《台湾有事一つ採っても、米海軍力が衰退し、中国が隆盛する中、唯一の現実的問いかけは「いつか」であり、しかも「遅い」より「早くに」起きる確率が高まっている》

 《米海運にとってのチョークポイント・パナマ運河を“中国企業”が管理し、空母打撃群の支援により、閉鎖を謀(はか)ることも考えられる。中国によるマラッカ海峡封鎖も想定される》

 こうしたシナリオから導き出された将来分析は不気味だ。 

 《そうなれば米経済・軍事に及ぼす影響は壊滅的で、世界規模のダメージを受ける。地中海・ペルシャ湾・アラビア海・インド洋に海軍力を過度に拡散させてきた米国は、中国海軍が米海軍の運用に合わせて作戦行動することにより王手詰めにされてしまうかもしれない》

 《中国海軍が7~8個の空母打撃群を保有するまで膨張するのなら、米海軍の現有11個群は将来的に恐らくは10個に減じられるだろうから、影響はさらに決定的になる》

 ■「浮沈空母」化は国益

 要するに「中国海軍が米国益に対する脅威となっていないとする見方を改めるときが来た」(ポスト紙論説)のである。ところが、米国でさえ「脅威」とみなし始めた中国に対し、日本は「無警戒」。東日本大震災によって、日本の安全保障への思考停止はさらに強まった。米有力シンクタンク・新アメリカ安全保障センターは、防衛費を自民党政権時代から実質10年間削減し続けた点に注目。復興で巨費が投じられることでさらに削減され「防衛計画大綱が規定する目標を達成できない見通しが強くなる」と予測している。その結果「中・長期的」には日米同盟の「深刻な後退」も「懸念」されると警告した。 

 総論としては正しい。ただ、センターは民主党政権の巧妙なトリックを看破していない。確かに、大綱では中国の海洋脅威を見越して潜水艦を増強。島嶼(とうしょ)防衛に向けた沿岸監視部隊や移動警戒レーダーの配備も主唱してはいる。しかし、そのための予算も人員も、大震災前でさえ減じようとしていた。

 日本列島・島嶼部に陣取る自衛隊の装備・人員拡充は、日本防衛に資するだけではない。将来、日本近海を海戦域とする空母打撃群同士の米中決戦あらば、同盟軍として米軍を援護する「浮沈空母」と化す。それは日本近海を「中国の海」にさせないわが国の国益でもある。

 センターが警鐘を鳴らすように、日本の防衛予算減は日米の共通利益を損なうことに他ならない。ただし、同盟の「深刻な後退」は「中・長期的」な「懸念」ではなく、防衛予算を減らし始めた10年前から既に始まっている、と言うべきだろう。(九州総局長 野口裕之)

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