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産科婦人科学講座 片桐 由起子 准教授

不妊治療と子どもの健康の関係を新たな視点から解明!

遺伝子の配列は正常でも正しく機能しない現象とは?

近年の不妊治療の飛躍的な進歩により、日本の出生児の55人に1人が体外受精児となっています。そのような状況下で、エピジェネティクスが原因で発生する疾病が不妊治療による出生児に多く見られることが報告されています。エピジェネティクスとは染色体や遺伝子に異常はないのに、遺伝子の働き方や現れ方に変化が起こること、つまりDNA配列は正常なのに、遺伝子が正常に機能しない現象を言います。私たちのグループではこのエピジェネティクスと不妊治療との関係を解明し、生まれてくる子どもの長期的健康にも配慮した、より安全な生殖医療の提供をめざし、研究に取り組んでいます。

医療廃棄物の分析と動物実験でデータを蓄積

研究の第1段階としては、不妊治療で出産した妊婦さんの同意をいただいて、通常は医療廃棄物として処理される出産後の胎盤を1センチ四方ほど提供していただき、その組織などを分析して自然妊娠の胎盤との比較を行いました。それと並行して、マウスの受精卵を使い、体外培養の環境をさまざまに変えてエピジェネティクスがどのように変化するかを調べました。
その結果、不妊治療による出産と自然妊娠による出産ではやはり一部で明らかな違いがありましたが、自然妊娠による出生児のなかにもエピジェネティクス的な変化が現れるケースも見られました。今後は胎盤だけでなく、受精卵を培養した培養液や卵子と一緒に回収される卵胞液など他の医療廃棄物を提供していただいてさらに分析・研究を進め、エピジェネティクス的な変化は何が原因で現れるか、生まれた子どもの健康にどの段階でどう影響するのかという具体的なメカニズムを解明していくことが必要です。

不妊治療のゴールは安全な出産と子どもの健康

普段は病院での診療業務や大学での講義で忙しく、研究に取り組む時間を作り出すことはなかなか大変ですが、この研究テーマは臨床の場と直結していて、患者さんと日々向きあうなかでさまざまなヒントや課題が浮かんできます。また、体外受精などを望む患者さんの不妊治療で生まれてくる子どもの健康に関する不安を取り除くためにも、現在、さまざまな調査・研究が行われていることを伝えるようにしています。
最近の不妊治療の現場では不妊の原因に関わらず、妊娠する手段として顕微授精や体外受精を行うケースが増えていますが、不妊治療のゴールは妊娠の成立ではなく、順調に妊娠が進行し、安全な分娩・出産が行われることです。さらに、誰もが願うように生まれた子どもたちが健康に成長・発達することが何より望ましいのです。そのような観点から考えると、私たちの研究テーマは産科婦人科の領域だけでなく、小児科分野にも深く関わっており、研究結果についてもエピジェネティクス的な変化は発生するけれど、出生児にとっての危険度は低いという方向性の実験データが出てくれることを願っています。

片桐 由起子 講師

プロフィール

片桐 由起子 准教授
東邦大学医学部医学科卒業。
東邦大学大学院医学研究科修了。
東邦大学医学部助手を経て、2001年より米国に留学(Center for Reproductive Medicine and Infertility, Weil Medical College of Cornell University)、2005年に帰国。
2007年、東邦大学医学部講師。
2009年、東邦大学医学部女性医師支援室長に就任。
2010年、東邦大学医学部准教授。

研究内容

生殖医療とエピジェネティクス

大学案内2011より引用