22日の日中韓首脳会談では、福島第1原発事故を受けた日本産品への輸入規制について、首脳宣言に規制の歯止めにつながる文言が盛り込まれ、中国の温家宝首相が一部緩和を表明するなど、一定の前進がみられた。しかし、首脳宣言の案文調整は特に中国が抵抗して直前まで難航した。規制の一部緩和についても「緩和の対象や時期が明白でなく、安心できない」(日本政府高官)との指摘もある。【犬飼直幸、北京・成沢健一、ソウル西脇真一】
輸入規制に関し、首脳宣言に盛り込まれたのは「科学的証拠に基づき必要な対応を慎重に取ることが重要」との見解を共有するとの文言。案文調整について、日本外務省幹部は「韓国はそれほど抵抗しなかったが、中国は厳しかった」と明かす。
韓国は福島など5県の葉菜類などの輸入を禁止した。欧州連合(EU)など各国の規制と比べても「常識的な範囲」(日本政府関係者)という。しかし、中国は福島など12都県の全食品の輸入を禁止するなど「過剰規制」が指摘されていた。中国では生活水準の向上につれて食品の安全性への目が厳しくなり、日本政府関係者は「13億の人口を抱える中国としては国内向けに厳しい姿勢を示さざるを得ないのだろう」とみる。
日本側は、輸入規制緩和の足がかりを得るため、4月の日中韓経済貿易担当相会合などで「科学的根拠に基づく規制」を求めてきたが、特に中国が反論し平行線をたどってきた。しかし、温首相が来日の際に福島県などを訪問し、地元の農産物を試食することが固まってから、中国事務当局も軟化し、会談前日の21日になって首脳宣言に盛り込むことが決まった。「中韓とも日本の復興支援の一環で最後は合意してくれた」(外務省幹部)という。
温首相は22日の日中首脳会談で、規制を10都県に緩和すると表明したが、日本政府関係者は「10都県は全面輸入禁止で国際的にも厳しい規制のままだ」と指摘する。
22日採択された日中韓首脳宣言は、原発事故を受けて中韓両国が実施している日本産品の輸入規制の緩和や、日本向け観光の復活につながる3カ国間の協力促進を明記。経済産業省や経済界は、中韓両国が対日規制の緩和に動くことで、原発事故後に世界的に広がった日本とのヒトやモノの交流制限に歯止めがかかることを期待する。ただ、原発事故が収束しない中、政府レベルの合意が実際の日本製品の輸出や対日観光の回復にどこまでつながるか不透明だ。
「日本製品は安全で高い品質を保持している。安心して買っていただき、観光に来てもらうことも期待する」。菅直人首相は22日、中国の温家宝首相、韓国の李明博大統領とともに臨んだ3カ国経済団体との昼食会で、中韓両国の経済人に原発事故に伴う日本の“風評被害”解消への協力を熱心に呼びかけた。
放射性物質の拡散を理由に日本からの輸入を制限している国・地域は60以上。中でも中国の措置は厳格で、農産品などの輸入禁止対象地域は、12都県にも及んでいる。また、訪日外国人旅行者数が大震災発生直後の3月12日から同月末までで前年同期比7割以上減、4月も6割以上減と大幅に落ち込んだことには近年、需要を高めていた中国人観光客が日本行きを一斉に敬遠したことが影響している。
日本経済に深刻な打撃を与えている風評被害の解決には、米国を抜いて最大の貿易相手国となった中国の協力が不可欠だ。首脳宣言を受けて、温首相が食品の輸入禁止措置から山梨、山形県を除外する方針を表明。中国からの訪日観光客の回復に向けて、中国国家観光局長を団長とする100人規模の視察団を派遣するとともに、外資規制を緩和し、日本の大手旅行会社1社に中国人向け海外旅行業務のライセンスを付与する方針も示した。
中国が即座に具体的な措置を打ち出したことに、日本側は「予想以上」(外務省幹部)と歓迎する。ただ、首脳が合意しても「現場レベルでは中国側が『国民の健康と安全の確保は怠れない』と輸入元の日本企業などに安全対策の徹底を求めてくるのは確実」(大手商社幹部)。観光客も震災以前のレベルに戻るには相当の時間がかかりそうで、経産省内にも「会談の成果への過剰な期待は禁物。まずは原発事故を収束させることだ」とのクールな見方もある。【和田憲二】
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菅首相 中韓両首脳の被災地訪問に感謝申し上げる。日本の安全性を最も効果的に示すことができた。お二人の行動こそが復興支援の最大の効果を上げている。
私から北朝鮮のウラン濃縮に対する懸念を表明した。具体的行動を北朝鮮から引き出すべく3カ国で連携していくことを確認した。
温首相 3年前の(四川)大地震で、日韓両政府は真っ先に重要な援助をした。被災地の再建と経済の復興は、アジアと世界の経済成長にもかかわる。さらに積極的な措置を取り、日本側の震災復興を支持していきたい。
朝鮮半島の対話の基盤は依然脆弱(ぜいじゃく)だ。最も重要なのは、対話を通じて6カ国協議再開の条件を作ることだ。
李大統領 韓国国民は前例がないほど日本国民の方々に温かく協力する気持ちだということを、伝えたい。原子力の安全は科学的な備えも必要だが、情報を伝えて国民を安心させるべきだ。
朝鮮半島の非核化については3カ国が同じ見解を持っている。3国の協力が必要だ。
毎日新聞 2011年5月23日 東京朝刊