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[27654] 機動戦士ガンダールヴ 00の使い魔【ネタ】
Name: 並皿王手◆16724106 ID:9639a0c5
Date: 2011/05/07 18:30
――約六千年前、『彼ら』はその原始惑星に到達した。





彼らは宇宙の流離人、故郷を失いあてどもなく銀河を巡る放浪者だった。

過去形なのは、既に彼らは第二の故郷となる星を見つけていたからだ。

――太陽系第三惑星、地球。

彼らと地球人の生物としての在り方はあまりに異なっており、それゆえそのファースト・コンタクトは幸福なものではなかった。

地球人は彼らを理解できなかったし、彼らも地球人を理解できなかった。

救い主が現れなければ、おそらく彼らは地球を滅ぼしてしまっていたろう。

だが、『イノベイター』と名付けられた新人類――脳量子波と呼ばれる特殊な脳波を操る能力に目覚めた者たちの一人が、光見えぬ荒野に道を斬り開いた。

彼は地球の命運を賭けた戦いに挑み、結果、異星からの来訪者達との対話を成功させ、人類を滅亡の危機から救ったのだ。

救われたのは、人類だけではない。

彼ら――金属生命体達もまた、永劫とも思えるほどの長き孤独から救われたのだ。

彼らは人類を親しい友人とし、共に生きる道を選んだ。

そうやって二つの種が手に手を取って歩むようになってから、長い長い時が流れたとき、彼らの一部は冒険に出ることにした。

この広大な宇宙の何処かには、まだ自分たちの発見していない生物がいるはずだと信じ、航海に出たのだ。

何千年か、何万年か。

おそらく、それを数えることに意味はないだろう。

有機生命体には到底耐えられぬ、果ての見えない旅路の末――





――彼らはその星を見つけた。










始祖暦6242年、4月

トリステイン魔法学院にて




「えー、まずは初歩の初歩から始めたいと思います」

禿頭の中年教師、ジャン・コルベールが教鞭を振るう。

教室の生徒達は彼の方を見ていないわけではないのだが、何か他の事に気を取られているような素振りだ。

「今からおよそ六千年前、『エルス』はこのハルケギニアに降り立ちました。

 えー、ミスタ・グラモン……はいないか。

 ミス・モンモランシ、彼らの特徴を簡潔に説明してください」

「……生きている金属、ですか?」

答えながらもしかし、彼女の視線は気遣わしげにさまよう。

「パーフェクトです! 

 そうです、彼らはその体を金属で構成していながら、生物体としての特徴を備えているのです!

 これがいかに特異な事実かは、ハルケギニアに土着の生物と比較すると一目瞭然であり……」

コルベールはそれから15分ほど、難解な専門用語を交えつつ滔々とまくしたててから、ようやく生徒達の視線に気づいてばつが悪そうな顔をした。

「……おほん! ええ、話を進めましょう、ね。

 私達の祖先が飛来したエルスを見た時の反応は、様々だったようですね。

 神や悪魔として崇める者、攻撃して追い払おうとする者、パニックに陥る者……

 これらの反応はつまり、私達と彼らの間の意思疎通が極めて困難であるが故に起こったものです。

 彼らは私達のように話すことが出来ませんからね!

 彼らと対話することができるのは、『イノベイター』というある特殊な因子を持つ人間のみなのです。

 さて、ミス・ツェルプストー……もいませんか? 欠席が多いですねぇ……

 ではミスタ・マリコルヌ、人類初のイノベイターにして、六千年前エルスとの対話を成功させた人物は誰ですか?」

「始祖ブリミルです」

「はい、その通り!

 始祖が彼らから伝えられたメッセージは、驚くべきものでした。

 彼らは空の彼方にある、このハルケギニアとは違う世界からやってきたというのです。

 そこには私達と極めてよく似た種族が住み、高度な文明を築いていました。
 
 始祖はその世界の知識をエルスから伝えられ、ハルケギニアの発展に大きく貢献したのです。

 さらに、エルスは言いました。

 『私達はこれからこの世界中に散る。火の中に、風の中に、水の中に、土の中に、遍在する。

  ブリミルよ、私達と契約せよ。そうすればお前達が呼びかけた時、私達はそれに応じ、望みを叶えよう。

  お前達がこの世界のために、正しく行動する限り』

 ……そう、これが魔法の誕生なのです!」

興奮したコルベールが教壇を叩くと、それに呼応するかのように地面がずしり、と揺れた。

「……む、地震ですかな?

 いや……あれは!」

コルベールが窓に駆け寄り、外に巨大な人形の影を四つ認めた。

コルベールが目を剥く。





「――MS<マジック・サーヴァント>!?」






「もう一度言ってくれたまえ、ルイズ。

 よく聞こえなかったのでね」

金髪の少年、ギーシュ・ド・グラモンは、緑色に女性的なフォルムの愛機の中で問いかけた。

マジック・サーヴァント。

それはメイジがエルスとの契約によって与えられる、最強の盾にして最強の矛。

かつて彼らのいた宇宙の彼方で使用されていた兵器をモデルにした、総身をエルスで構成された20メイル近いサイズの人型機動兵器。

戦艦すら沈める火力と、風竜を遥かに凌駕する機動性を兼ね備える、怪物的兵器である。

「僕には君が、この『ヴェルダンデ』と更に二機を、君は一機で相手をすると言ったように聞こえたのだが……

 無論聞き間違えだろうね?」

「余り物扱い」

「心外ねぇ……」

傍らの二機のMSのパイロットが、軽口を叩きあった。

赤の機体はゲルマニアからの留学生キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの『フレイム』、凄まじい火力を誇る砲撃戦用機。

青の機体は詳細不明のガリア人タバサの『シルフィード』、機動性に特化した機体である。

対するは――





「聞き間違えじゃない。

 この模擬戦、私は三対一で勝つ」
 




涼やかな声音で告げた少女は、桃色がかったブロンドの髪のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

その機体は、頭部にある二本の突起物が特徴的な白い機体。

「ふん……外面だけ『ガンダールヴ』を真似て、いい気になっているようだね?」

――六千年前の伝説である。

始祖ブリミルがエルスより与えられたハルケギニア最古のMSは、頭に二本の角を持っていた。

エルスはその機体に、かつていた世界の言葉で『争いを根絶する者』を意味する名を与えたという。

現在の名称は『ガンダールヴ』。正式な名は、忘れられて久しい。

「わかっているのかね? 僕はトリステインのエース、ギーシュ・ド・グラモン!

 模擬戦でも負け無しの、スペシャルなのだよ!」

「……もう始めていい?」

ルイズは呆れたように溜息をつく。

「ああ――好きにしたまえ!」

ヴェルダンデが腰から抜き放った実体剣・ソニックブレイドを構え、全速力で突進する。

すれ違いざま、ルイズの白いMSを一刀両断にする心算である。

(態度は生意気とはいえ美しいレディだ、余計な怪我はさせずにさっさと終わらせよう……

 なーんて考えてあげてる僕は優しいなぁ、ふふふ――)

と、自分に酔いまくりながら突進したギーシュのヴェルダンデは――




すれ違いざまに、



「……えっ?」



ソニックブレイドを持った左腕を斬り落とされた。



(……あるぇー? おかしいなぁー?)

ギーシュは現実逃避を始めた。

(抜き身も捉えられないほど、圧倒的に僕の実力が足りてないなんて……

 そんなことあるわけ――)

そんなギーシュの思いを完全に無視しながら、ルイズは剣を振るう。

「僕は、青銅で……」

右腕が飛ぶ。

「ヘタレで……」

頭部が落ちる。

「噛ませ犬……なのかな?」

ヴェルダンデが、崩れ落ちた。





コルベールは急いでいた。

(あれほど口を酸っぱくして、校内での模擬戦は禁止だと言っておいたのに……)

どうもあの兵器には、若者の血を熱くさせる何かがあるようだ。禁止だといくら言っても、毎年模擬戦騒ぎが起こる。

まあかくいうコルベール自身も、MSという存在に心奪われた口だから偉そうなことは言えないが……

(しかし、ミス・ヴァリエールのMSへの執着ぶりには参ったものだ……)

彼女はその『特異性』ゆえ、国ぐるみで彼女のMS操縦技術の向上に努めることが決まっている。

場合によっては、現在アルビオンで進行中の事態に投入する必要が生じるかもしれないからだ。

(MSの戦線投入……始祖ゆかりの代物を、王家に楯突くために使用するとは……)

それはハルケギニアにおいては、禁忌以外の何物でもなかった。

やるからには、貴族派はもう勝ちさえすれば下馬評などどうでもいいのだろうな、と人に思われるくらいの。

(……あんな年若い少女を、戦争の道具に使おうという我々が言えた義理でもないが)

……まあ、今はそれは問題ではない。

早く模擬戦を止めに行かねば。





「……!」

やけに静かだ。MSの駆動音が聞こえない。

(終わった……のか?)

コルベールは、拳を握り締める。

最悪の事態が想定されたからだ。

つまり、生徒の死。

(ミス・ヴァリエール……!)

彼女はその特異な才能ゆえに、自信家に過ぎるように思えた。

無礼と思い指摘はせずにきたが、今となってはそれが悔やまれてならない。

(私が忠告していれば……ッ)

三対一での戦いなど、相手が余程油断しているか弱くなければ勝てるわけがない。

(生きていてくれ……!)

祈りつつ駆け寄ったコルベールの目に飛び込んできたのは、





地面に崩れ落ちた、三機のMSだった。





(……!?)

コルベールは驚愕した。

あまりにも破壊のされ方が、パイロットを傷つけぬように神業的な技量で手加減されていたから――ではない。

破壊されている機体はどれも、ルイズのものではなかったからだ。

つまり……

次の瞬間、コルベールは捜し物を見つけた。





――無傷のルイズの機体を。





「こ……れが……」

コルベールはこの時、初めて理解した。

自分達とはあまりに隔たった、もはや天上の域にあるほどの、絶対的な力。





「これが――純粋種の力か……!」







コクピットの中で、ルイズは沈着冷静だった。

(勝つのは当たり前……)

自分は他人と違うのだから。

魚は泳げる、鳥は飛べる、ルイズは勝てる。

全て、同じ事。

(……いい感じ)

ルイズは、自分の機体の中にいるのが好きだった。

母親に抱かれているような、満ち足りて安心した気分になれる。

なぜだろう、と自問して、ふっと微笑む。





――その瞳は、金色に輝いていた。





***





続かない。マジで。



[27654] 平賀才人の災難
Name: 並皿王手◆e0675072 ID:9639a0c5
Date: 2011/05/13 22:14
ハルケギニア人たちは六千年もの間、小規模な争いこそあれ、トリステイン・アルビオン・ガリア・ロマリアの四大国家による体制をほとんど変化なく維持してきた。

この地球ではちょっと信じがたいような離れ業の背景には、様々な要因が考えられる。

四つの王家は、ハルケギニア初のイノベイターである始祖ブリミルの子孫の中でも、際立って高いイノベイター適性を示した者たちによって建設された。

そして彼らは時代が下っても、脳量子波により人間の意識と接続されたエルスが契約に基づいて発動する力――つまり『魔法』を尊ぶことをやめようとはしなかった。

エルスがハルケギニアの豊かな自然環境を保全するため、機械文明の発展に消極的だったこともその傾向に拍車をかけている。

魔法を使える者は、使えない者よりも優れている――ハルケギニア人は王侯から乞食まで、六千年間そう信じて生きてきた。

魔法は医術であり、化学であり、建設技術であり、武器でもあった。

およそ物事の一切は魔法によって進められ、魔法を使えぬ者、つまり平民ができるのはおよそつまらぬことだけ――

事実はどうあれ、平民自身もそう思っていたことは確かである。

魔法が使える者が特権階級、『貴族』となったのはあまりにも当然の成り行きだった。

原始の人々が精霊に対してしたように、平民たちは貴族を畏れ、敬った。

病や傷を癒し、物質の組成を組み換え、建物を作り、争いの折には神の如き巨人を操り、平民百人で出来ないことを一人でやってのける。

そのような存在を敬わぬわけが、何処にあろうか。

貴族による支配の磐石さに加え、体制を維持する強固な力となったのは、ブリミルの教えでもあったし、各勢力同士が互いに牽制しあったからでもあるし――





――遥か天上に存在する、ハルケギニア人全てに共通の『敵』でもあった。







――西暦200X年

地球、東京、秋葉原にて





平賀才人は17歳、平凡な高校生だった。

顔立ちはハンサムと言えなくもないが、人にはどこか間が抜けた印象を与える。

成績もまあ普通、可も無く不可も無し。

趣味がネットなのも、この時代の若者としては珍しくはないだろう。出会い系サイトの利用には……まあ、目をつぶるか。

性格は多少、極端に走り過ぎるきらいがあるが、年齢を考えると異常というほどでもない。

要するに何から何まで普通なのが、今日この日までの平賀才人という少年だった。

しかし、彼は変わる。

銀色の光る鏡に触れたその瞬間から、



――彼は『普通』というには運の悪すぎる少年になる。







「――あれ?」

鏡をくぐってから、才人の耳に最初に飛び込んできたのは少女の声だった。

「フツーの蛮人……だよね?」

そう喋っている少女は、状況が違ったら見惚れていただろうな、と才人が思うほどに美しかった。

(あれ? 俺、どうなってんだ?)

しかし、今の彼にはそれほど余裕がない。

(なんか……キラキラした鏡みたいなのに触ったよな?

 で、それから……あれ、ここどこだ?)

「『コズミック・イラ』の遺伝子いじくった連中を拉致るんじゃなかったの?

 完璧にノーマルじゃん、これ」

「も、申し訳ありません、ルクシャナ様!

 どうやらマシントラブルのようで、ジャンプゲートの形成軸が五次元方向にずれまして……」

何やら少女と壮年の男が喋っているが、才人はその間、周囲をきょろきょろ見回していて気付かなかった。

(研究施設……みたいだ)

それくらいしかわからない。

(スター・トレックとかに出てきそうな……)

床も壁も、見たこともないような奇妙な光沢を放つ物質でできている。

周り中何かの機械でいっぱいだが、才人には「どれもこれも変な形だな」としか思えない。

一見しても何に使うのかわからないし、説明されても多分理解出来ないだろうな、と思った。

そこらじゅうに白衣を着た人々がいっぱいいて、こちらを無遠慮にじろじろ眺めてくる。

まるで動物園の猿でも眺めるような目だ、と才人は思った。

その比喩は、彼が思っているより遥かに核心に迫っているのだが、今はそれ以上に問題がある。



(なんでみんな……耳が尖ってんだ? コスプレ?)



才人がそこまで考えたところで、白衣に尖り耳の少女(少なくとも外見はそう見えた)が視線をこっちに戻した。

「ま……いいか。

 蛮人共が哨戒網を強化してるから、最近は普通人のサンプルも手に入りにくくなってるし。
 
 訓練用の玩具にでもすればいいでしょ」

気安げにとんでもなく物騒なことを喋った少女が、才人にずい、と近付いてきた。

(うわ、すげー美人……

 っておい、そんなこと考えてる場合じゃねーだろ)

才人はおずおずと問いかける。

「あの……状況がさっぱりわからないんですけど」

少女はしばらくうるさい羽虫でも見るような目を才人に向けてから、無情にこう言った。

「……最初からあんたらが何かを理解できるなんて思ってないから安心しなさい、蛮人」



それから少女は、電光のような素早さで才人の首に注射器を突き刺す。



(……っ!? 危ないクスリ!?)

才人が痙攣しながら床に倒れ伏すまで、十秒もかからなかった。

「じゃ、戦闘用ナノマシンの注入お願いね」

すぐ傍でそう話す声も、もはや耳が拾っても脳に届かない。

混濁する意識の中、才人が最後に見たものは、





(……月面?)





――窓の外に広がる、クレーターと岩石だらけの不毛な大地だった。







次に目を覚ましたとき、才人は暗い部屋にいた。

暗いだけではなく、一人分にしてもあまりに狭苦しい。今座っている椅子らしきものがあるだけで、足の踏み場もない。

世界一待遇の悪いネットカフェみたいだな、と才人は思った。



それから、ネットカフェってなんだっけ、とも思った。



才人は拘束されていた。

椅子にシートベルトのようなもので縛り付けられている。

体中にコードが付けられている。

頭部にも、ヘッドホンのお化けのような正体不明の機器が取り付けられていた。

しかし才人が驚いたのは、この奇妙な状況にではない。



(なんで俺……パニクらないんだ?)



こんな意味不明な状況に、何らの焦りも戸惑いも感じない自分にである。

才人という人格から、意志という意志が残らず削ぎ落とされたような感じ。

何か、強い麻薬のようなものに酔わされているような……

(あの時……注射された薬か……?)

そこまで思い至っても、特に何をしようという気にもならない。

満ち足りて幸福な気分なのだ。

異常なほどに。



他に光源のない部屋の中で、煌々と光を放つモニターが目の前にある。



才人はなぜだか、そのモニターを見ていることこそが何より重要なのだと知っていた。

じっと見ているうちに、画面はモノクロの砂嵐から変化する。

才人をここに連れて来た、あの少女のバストアップが映った。

「はーい、対ハルケギニア用・蛮人兵製造計画被験体の皆さん、元気してるーぅ?

 えっ、故郷から拉致られた挙句洗脳されてる時点で元気な訳ないって?

 こりゃあ一本取られたなぁ、あーはははッ!」

少女は、実に楽しそうに笑う。

「じゃあ、ちょっくらこの世界の常識を講義といこうかなー?

 いやぁ、あなた達のような蛮人にも劣る最低最下のゴミクズにもこんな懇切丁寧な扱いをしてあげる私の優しさは天井知らずだねぇ!

 ま、多少の常識はないとこっちも色々面倒だしね!」

少女は語りだした。





「あなた達が今いるのは、惑星の衛星、要するに『月』。

 惑星ハルケギニアにある二つの月の一つ」

説明に合わせてモニターの画面が切り替わる。

どうやら惑星と周辺の天体の配置を示しているらしい。

「月は私達、『エルフ』の土地。大昔の遺伝子操作の影響で尖った耳をして、あなた達蛮人よりあらゆる面でほんの何万倍か優秀なのがエルフ。はいここテストに出るよー!

 惑星ハルケギニアは、『今はまだ』蛮人の土地――まあ、すぐにそうじゃなくなるけど。

 ――六千年前、金属生命体『エルス』はハルケギニアに降り立った。

 エルスについての詳しい説明は省くわ。めんどいし。

 まあ今んとこは、連中は『イノベイター』っていう特殊な蛮人としか意思疎通ができないってことだけ覚えときゃいいんじゃない?

 エルスは銀河の彼方で得た膨大な情報を蛮人に与え、文明の発展に大きく寄与した。

 惑星中に散ったエルスがナノマシンとなって、契約のもと数々の物理現象を起こす『魔法』は特に連中にとって重要ね。

 で……エルスが何よりも危惧したのが、イノベイターとそれ以外の蛮人の間の摩擦だったわけよ。

 その辺を解決し、両種族の橋渡し役、世界の調停者として作られたのが――業腹ながら――私達エルフってわけ。
 
 エルスは『イノベイド』って呼んでたらしいけど、まあそれは今となってはどうでもいいわ。

 エルフは蛮人にとっての『上位種』。知能・肉体・その他全てにおいて蛮人を凌駕する存在よ。体内のナノマシンの不老処置によって、寿命もない。羨ましい?

 私達はエルスの意思を汲み、世界を正しく導く存在だったの。



 ――なのにねぇ!



 あのクソッタレの鉄屑共は、ちょっと私達が思い上がった蛮人共への天罰として、連中の人口を七割ばかり減らしただけで、私達を見限りやがったのよ!

 何が『世界の歪み』よ、ド畜生ッ!
 
 私達はハルケギニアを追われ、月に流刑にされたわ。

 その時から私達は、築き上げてきたのよ。

 『魔法』なんて不確かな代物に頼らない、純粋科学の文明をねぇ!

 ――いつかあの星を、蛮人共から奪い返すためにッ!」

少女の憎しみに満ちた双眸に、才人は背筋が冷たくなるのを感じた。



少女が語る――詠うように、恍惚として。



「そしてこれが――我々の科学技術の結晶ッ!」



また画面が切り替わる。

映しだされたのは――





――悠然と屹立する、無数の鋼鉄の巨人達だった。





「これが私達の最新型、純機械製人型機動兵器――『アヌビス』よッ!」



***




すまん、ありゃウソだった。

『続いたら駄作になる』って散々忠告されたのにな……



[27654] オリヴァー・クロムウェルの演説
Name: 並皿王手◆e0675072 ID:9639a0c5
Date: 2011/05/21 15:58
エルフ達の多くが人間を「蛮人」と蔑視し、彼らの生命や尊厳など塵芥としか思わないのは何も今に始まったことではない。

というより、彼らは六千年前に生み出されて以来、そうでなかった時の方が少ない。

彼らは新人類『イノベイター』と旧人類との軋轢を解消し、世界に調和と安定をもたらす目的で創造された。

高い知能や不老の肉体、「地球」の科学知識はそのために与えられたものだ。

しかし彼らの創造主――『エルス』は、どうにも人間という生物についての理解が足りなかったようだ。

性別・人種・宗教・貧富――ありとあらゆる対立軸。

そこから生じる感情の摩擦に、彼らは恐ろしいほど鈍感だった。

しかし、それでエルスを責めるのは酷というものだろう。

そもそも、個体ごとに別々の意識を持つ生物という概念自体が、彼らには理解しがたいものなのだ。

人間が昆虫の思考を理解できるか? 試すまでもなく無理だろう。

それでも人間と昆虫は地球で生まれた有機生命体という点では同じだが、エルスは太陽系外で生まれた金属生命体。昆虫よりも遠い存在なのだ。

エルフが彼らの知る「歴史」のリボンズ・アルマーク達と同じ轍を踏んだのも、無理からぬ事だろう。

しかし、大規模な組織としては当然のことながら、エルフも一枚岩ではない。

彼らの最高権力機関である評議会にしても、反人間派が圧倒的多数ではあるが、そうではない者も確かに存在するのだ。



――蛮人対策委員会・委員長、ビダーシャルもその一人である。





「委員長、対ハルケギニア戦作戦計画本部から資料が届いております。本日中に閲覧していただきたいとの事です。

 こちらは統領からの会談要請です。『返答は三日以内に』とおっしゃっています。

 あとこれはルクシャナ様からの――」

「ああ……一通り自分で目を通しておくから、一人にしてくれ」

「そうですか? では失礼します」

執務室から秘書が退席すると、ビダーシャルはふわあ、と欠伸をした。

今の地位に着いてから、満足に睡眠がとれたためしがないのだ。

(貧乏籤を引かされたな……)

委員長などと銘打ってはいるが、苦労する割には大した権限もない役職だ。

(……まあ、対蛮人穏健派の議員としては十分恵まれている方なのだろうが。

 落とされた同志たちの事を考えれば、まだ議席があるだけでも儲けものか……

 しかし世論は相変わらず過激化の一方だし、次回の選挙はかなり危ないだろうな)

そんなことを思いながら、ビダーシャルは仕事を片付ける。

(こっちの報告書はエルスの現在の状態について……

 『現在のエルスは、蛮人との脳量子波による接続以外、いかなる外的刺激に対しても無反応。

  身体の構成物質をあまりに細分化しすぎたために、ほぼ休眠状態にあると想定される』……?

 ……そんな事はアイスエイジ・クライシスの時点で明白だろうが。

 止めることが出来たなら、エルスがあんな真似を許すわけがない)

月に流刑にされる以前、エルフ達がアルビオンに住んでいた頃の話だ。

アルビオンは「浮遊大陸」の名の通り、太陽炉の推力によってハルケギニア上空に浮かぶ人工島である。

エルフ達がこの大陸の建設に至った発端は、「上位種たる我々は、物理的にも蛮人の天上にあるべき」という愚にもつかぬ理屈だったことは、あまり知られていない。

かつてエルフは、この浮島から地上を俯瞰し、ハルケギニアを支配していた。その頃は人間達も、エルフを神や精霊に近い存在として崇拝していたのだ。

ある時、人間とのつまらぬいざこざに腹を立てた一部のエルフが、アルビオンの一部(といってもリーグ単位の大きさ)をパージし、ハルケギニアに落下させた。

その結果、衝撃で発生した津波は世界中の海岸を襲い、舞い上がった粉塵は空を覆い、日光を遮断し、ハルケギニアは千年単位で寒冷化した。

この惨劇による死者は、ハルケギニアの総人口の七割を超える。

これを『寒い時代』、アイスエイジ・クライシスと呼ぶ。

ハルケギニア人達がエルフに恐怖し、憎悪し、迫害するのは、この過去によるところが大きい。

(……正直この件に関しては、蛮人の方に味方したいところだが。

 というか、同胞にはあまりにも、『上位種』という生まれを傘に着て思い上がった愚か者が多すぎるぞ……)

つらつらと考えながらも、ビダーシャルは仕事をこなしていく。

(テュリュークからの会談要請だと……?

 一体今年に入ってから何度目だ?

 統領の椅子に座っているだけの毎日が不安で、何か仕事をしてるというパフォーマンスがしたいだけだろう?

 何せ、部下の出してくる書類に判子を押すだけが仕事のようなものだからな……)

ぱらり、と資料をめくる。

(これはルクシャナから……

 我が姪ながら人格に問題がありすぎるな、あの娘……まあ、優秀なのは認めるが……

 さて、内容は……)

読み進むにつれて、ビダーシャルの表情は厳しくなっていった。

読み終えた書類をデスクに放り出すと、ビダーシャルは難しい顔で独りごちた。



「――アルビオン貴族派の支援に、最新型を投入だと……?」







――アルビオン大陸、ハヴィランド宮殿にて



「ですからして――」

レコンキスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルは論壇で、聴衆の貴族達に熱弁を振るっていた。

「私とて、率直に言えば戦争などしたくはありません。

 ただ平和に、静かに暮らしたい……それだけが願いだというのは、私も皆さんも同じだと思っています。

 しかし……そんな我々を今まで、蔑み、虐げ、搾取してきたのは誰です?

 ――そう、あの腐敗したハルケギニア連邦です!」

トリステイン・アルビオン・ロマリア・ガリアの四大王国による国家群を、「ハルケギニア連邦」と呼ぶ。

このうちアルビオンのみが、エルフが月に追放されてから生まれた国である。

かつてエルフが住んでいた頃も、アルビオンにハルケギニア人がいなかったわけではない。

ただ、彼らはそれぞれ職業こそ違えども、「エルフの為に働いていた」という点では一致していた。そのための移民だったのだ。

エルフが去り、トリステイン王室の一員がアルビオン王家を設立した後、彼らが辿った道程は過酷なものだった。

アイスエイジ・クライシスにより高まったハルケギニア人の反エルフ感情は、彼らの召使であったアルビオン人達にも向けられたのだ。

連邦加盟諸国や、その傀儡政権であるアルビオン王家は、アルビオンの民を「エルフの狗」と侮蔑し、重税を課し、不当に虐げてきた。

そのような経緯によって溜まりに溜まった鬱憤が暴発した結果が、今回の内乱である。

「もはや我々が人としての尊厳を勝ち得、平和に暮らすには、王家を倒し、我等の手で新たな体制を作るしかないのです……

 ――戦うしかないのですッ!」

同意を示すどよめきが上がる。

しかしここで、一人の貴族が異を唱えた。

「確かに、おっしゃることはいちいちもっともです……

 だが、率直に聞かせていただくが――勝てるのですかな、この戦?

 王家を倒せば、他の連邦諸国も黙ってはいないのは自明の理です。

 ――最悪の場合、我々はハルケギニア全土を敵に回すことになりますぞ!」

クロムウェルは「よくぞ言ってくれた」という表情をして、頷いた。

「そう、まさにそれを説明しようとしていたのです!

 しかしその前に、一人のご婦人を紹介させていただく必要がありますな。

 

 ご紹介の光栄にあずかりましょう、我らが姫君――ティファニア様の!」

聴衆が一気に静まりかえった。

それはクロムウェルの傍らに立った、おどおどとした少女の美貌ゆえではない。



――その『尖った耳』ゆえである。



「皆様、モード大公を覚えておいでですな?

 あの、最後まで罪状すらわからぬままの無念の死を?」

クロムウェルは滔々と語る。

「彼女こそがその理由です!

 大公の罪状は、『エルフを妾とし、娘までもうけたこと』!

 国王は、それを理由として実の弟を処刑されたのです!」

クロムウェルはそこで一度言葉を切った。

貴族達の間でざわざわと喧騒があってから、そのうちの一人が明らかに狼狽した様子で問いかけた。

「閣下……確かに王家のご落胤を保護なされたのは、我々としては大きな成果だと思います……

 しかし……その、エルフというのは……」

そこでクロムウェルは、驚いたように目を瞬かせてから、芝居気たっぷりにこう言った。





「――エルフではいけませんかな?」





聴衆は絶句した。怒りや憤りというより、驚きのあまりである。

彼らの思考が状況に追いつく前に、クロムウェルは畳みかける。

「確かにかつて我々の間に、不幸な出来事があったのは事実です……

 しかし、今の我らにその責を問う権利がありましょうか?

 あれから何千年たったとお思いです? 世代が何度移り変わったとお思いです?

 今の我々に対して、エルフが何をしたでしょうか?

 月に追放され、ハルケギニアに降りることすらままならぬ彼らが?



 ――率直に申し上げて、我々が今まで抱いてきたエルフに対する悪感情は、およそお門違いのものではありませんか?」



クロムウェルは時折大仰なジェスチャーを交えながら、ひたすらまくし立てる。

その様を冷たい視線で眺める妙齢の女性――マチルダ・オブ・サウスゴータは、心中でこう呟く。

(はん……流石、腹芸は坊主のお家芸だねぇ?

 もうこの場は完璧に奴のペースだ……阿呆な貴族連中が煙に巻かれて丸め込まれるのは、目に見えてる)

マチルダはふっ、と微笑する。

(まあいいけどね、こっちはエルフに恨みなんかないし……

 何にせよ、あの王家を潰す手伝いをしてくれんならこっちとしちゃありがたい)




――アルビオン上空

戦艦「ネフテス」内格納庫にて

「あ? まだ降りんなって……何でだ?

 ……太陽を背にして登場しろって? 演出過剰じゃねぇのか、あの坊主」

最新鋭機「アヌビス」の中で、エルフ・騎士(ファーリス)のアリィーはブリッジと通信していた。

まだ若いがエリートとして研鑽を積んでおり、今回の派兵では現場の最高責任者を任されている。

特にMSの操縦技能においては、月においては並ぶ者のない凄腕だ。

(最新鋭の機体を駆って、とうとう地上の蛮人共と戦争をおっ始める……

 くく、ぞくぞくするねぇ)

アリィーは唇を愉悦に歪ませると、部下に通信で声をかける。

「おい、ヒラガ! わかってんだろうな?

 お前は東方の出身で、連邦の専横に義憤を感じて義勇兵として志願したんだ」

「あー……わかってます」

部下――才人は生返事をした。

眼下の光景に目を奪われていたのだ。

(すげぇ……マジに大陸が浮いてる)

部下の態度に、アリィーは若干の苛立ちを覚える。

(コイツ……戦闘用ナノマシンが体によく馴染んだのか、蛮人としちゃ抜きん出たパイロットらしいが……

 量産試作機を与えるに足るほどの奴なのか……? 抜けた野郎にしか見えねぇが……)

そこまで考えたところで、ブリッジから通信が入った。

『時間です』

格納庫のハッチが開く。

「よし……『アヌビス』出るぜぇ!」

その言葉と共に、ジャッカルのような頭部と背に六枚の翼を持つ黒いMS――「アヌビス」が降下を開始する。

一拍遅れて、才人もそれに続いた。



「――平賀才人、『アヌビス・ゼロ』出ます!」





――再びハヴィランド宮殿



「――さらに彼らは、我々にあらゆる面での支援を約束してくれました……

 これもその一つです!」

クロムウェルは演説を中断して、天を仰いだ。

聴衆の視線も、つられて宙に泳ぐ。



――そこで注文通りに、太陽を背にした二機のMSが現れた。



機体の発する異教の神のような独特のオーラに、聴衆がどよめく。

「月で生産された最新型、純機械製MSです!

 たった二機とお思いかもしれませんが、一騎当千の機体です! その上状況に応じ、増援も既に視野に入っています!

 そう……エルフの科学力を味方につけた我々は、アルビオンはおろか――



 ――ハルケギニア全土を掌握することすら、可能ッ!」



クロムウェルの言葉に酔わされた貴族達が、恍惚とした表情を浮かべていた。

クロムウェルは続ける――



「私は今ここに、連邦に替わる新たな世界秩序として――



 ――『アルビオン公国』の設立を宣言しますッ!」



そこで一度言葉を切り、聴衆の興奮をしかと見定めてから、クロムウェルは重々しくこう告げた。





「――ジーク・アルビオン!」



***



なんか色々酷いね。ごめん。

ちなみに、アヌビスはあのゲームの通りなのは見た目だけです。
 


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