東京電力の福島第一原子力発電所1号機では、「ベント」と呼ばれる格納容器内の圧力を下げる操作の遅れが水素爆発を招いた原因の一つと指摘されています。東京電力は、爆発の6時間半前にベントに取りかかりましたが、NHKが入手した1号機の運転手順書では、爆発の13時間前の段階でベントを行う条件を満たしていた可能性が高いことが分かり、専門家は「もっと早い段階でベントを行うべきだった」と指摘しています。
福島第一原発1号機では、津波の直後から冷却機能を失って、原子炉を覆う格納容器内の圧力が急激に上がりました。その際、格納容器が破損して大量の放射性物質が外部に漏れ出すのを防ぐため、内部の気体を外に放出して圧力を下げる操作が「ベント」です。NHKが入手した1号機の運転手順書によりますと、ベントは格納容器の圧力が使用上の上限の2倍に当たる「853キロパスカルに達すると予測される場合」に行うと定められています。1号機の格納容器の圧力は、▽水素爆発の14時間半前の3月12日の午前1時すぎに使用上の上限を超える600キロパスカル、▽13時間前の午前2時半には840キロパスカルと手順書の値に迫り、ベントを行う条件を満たしていた可能性が高いことが分かりました。これに対し、東京電力がベントに取りかかったのは爆発の6時間半前の午前9時すぎで、その後、高い放射線量に阻まれるなど、さらに作業が遅れた結果、最終的にベントが行われたのは午後2時半で、その1時間後の午後3時半すぎに水素爆発が起きています。これについて、原発メーカーで格納容器などの設計に携わった元設計士の後藤政志さんは「遅くとも格納容器の圧力が上限の2倍近くになった段階でベントを行うべきで、その時点でベントができれば、格納容器から漏れる水素の量が抑えられ、水素爆発の危険性が小さくなった可能性がある」と指摘しています。東京電力は「格納容器の圧力が600キロパスカルから840キロパスカルに上がった段階でベントを行う必要があったと考えられるが、ベントの判断については検証を行っているところなので、現段階ではコメントできない」と話しています。