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[27883] 【ネタ】羽ばたけ! 教祖様(ドラクエ6風味異世界もの)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/20 12:22
「ん……っ」

 私は唐突に、目を覚ました。
 すぐそばでは小川が流れており、水の音が穏やかに聞こえている。
 私は目を擦りながら起き上り、困惑した。

「ここ……どこよ……?」

 私は眠っていたはずだ。なのに、パジャマじゃない。着ていたのは分厚い布地の服だった。そして、腰には棒。
 近くには袋が落ちてあり、私は周囲を確認しながら、その袋をそっと覗いた。
 宝石がいくつか。
 白紙の本が何冊か。数冊は表紙も白紙で、何故か私の名前だけが書いてある。一冊だけ例外があって、それは冒険の書と書かれていた。
 その他に、筆が一つ。
 後は、食器や食料といった、旅の道具? なのかなぁ? それと、神官っぽい服。
 ってわけわからないわよ!

「なんなのよ、一体!」

 私は叫ぶ。すると、頭の中で閃く物があった。

【ルイ レベル1】
力 5
素早さ 5
守備 5
賢さ 10
かっこよさ 10
HP 20
MP 5
職業 ダーマ神官 みならい
*精霊ルビスに選ばれし者なので転職は出来ません。
装備 E 布の服
装備 E ひのきの棒
冒険者モード オン
特技 ルビスの祝福 宿屋への転職の儀式★1 武器屋への転職の儀式★1 防具屋への転職の儀式★1 道具屋への転職の儀式★1 復活アイテムの作成
※商人がレベルアップするには、儀式を受ける事が必要です。
※商人はHPを持ちません。
※復活のアイテムは冒険者モードをオンにしないと作動しません。
※帰れません。ごめんなさい。
※魔物の大攻勢まで、後10年です。
 あ、あはは……これってパラメーターなの? 嘘でしょ? 神官って何よ……。精霊ルビスって、選ばれたって……転職の儀式ってなんなのよ……!
 お家に返してよぉぉぉぉぉ!
 お父さん! おかあさぁん!
 さんざん泣いた私は、お腹がすいて食料を食べた。
 硬いパンはまずかった。
 異質なパンの味に、私は理解する。もう、帰れない。
 そして、私は涙を拭って、荷物を纏めた。
 そうだ、日記を書こう。考えを纏める為に。
 白紙の本にステータスやら何やら書きつける。
 それが終わると、私は出発した。遠くの方に、街が見えていた。
 街を目指して、私は歩く。
 街までの距離は、私が迷うよりは近く、覚悟を決めるにはちょうどいい長さだった。
 門番が、声を掛けてくる。

「ようこそ、迷宮都市ディスレンジに。お前さんも、十年後の大攻勢のお告げを聞いて来たのか?」

「はい。……えっ? 他にもお告げを聞いた人がいるんですか? 私と同じ境遇の人が?あ、会いたい! 会いたいです! どこに行けば会えますか!」

 私が勢い込んで聞くと、門番は驚いた様子を見せた。

「ああ、貴方様は直接お告げを聞かれたのですね」

「え?」

「信仰する神は?」

「精霊ルビス……様、です」

 様をつけるかは迷った。多分、ルビスは私を浚った人だから。

「精霊……神ではないのですか。しかし、選ばれし者には違いありません。この紙を持って、中央の役所に向かって下さい。そこで神の祝福の確認が済めば、支度金と様々な恩恵が受けられますよ」

「ありがとうございます」

 精度がしっかりしてるって事は、神様はたくさんいるのか。
 広い道を真っ直ぐ行った所に、確かに大きな建物があった。
 私はそこに入り、紙を渡す。
 受付のお姉さんが、にっこりと笑って水晶を差し出した。

「まず、この水晶に手を翳して下さい」

 言われた通りにすると、水晶が発光し、紋章が浮かび上がった。
 紋章がひとりでに数枚の紙に印刷され、受付のお姉さんが質問を浴びせかけてくる。

「まず、貴方を守護する神のお名前は?」

「精霊ルビス様です」

「精霊ですか……。しかも、聞いた事が無いですね。ルビス様の加護は?」

「えっと……。ルビスの祝福と、防具屋、武器屋、道具屋、宿屋への転職の儀式です」

 受付のお姉さんは顔を顰める。

「……ルビスの祝福とは?」

「冒険者にする事だと思います」

「信者は? 教団の規模は」

「私一人です」

「危機に瀕しての新規参入の神のようですね。力が無いと言っているわけではないですが、私どもからの援助は、最小限からスタートとなります。力が示せれば、援助は拡大して行きますのでご安心ください。これが支度金になります。これで神殿区画に教会を用意して下さい。これはお告げを受けた者の義務となっています。その他の支度金の使い道は自由です。あちらの窓口に行って下さい。支度金からいって、貴方の場合は一から作るよりも、予め用意してある小さな神殿群を利用するといいでしょう。あちらの窓口で、初期の行動に限定すれば大抵の事は相談に乗ってくれるはずです。では、貴方に神の……いえ、精霊の祝福がありますように」

 溢れだす情報量に、目を回す。
 とにかく、私は紋章の印刷された紙を持って指示された窓口に行った。
 そこで大きな建物群に連れていかれ、急かされて一つの建物を選ぶ。
 玄関に入ってすぐの広いスペースと、奥の小さな生活空間。
 受付の人はテキパキと指示して、色々な事を決めていく。
 最後に、女の子を一人連れて来て言った。

「貴方は教祖様ですので、迷宮に自由に出入りできます。しかし、教祖様御自ら迷宮に入る事はお勧めしません。何か迷宮に御用があれば、冒険者ギルドに頼めばよいでしょう。また、これはお付きの者のアトです。アトは身の回りのお世話をしますが、迷宮には入れません。では、私はこれで行きます。一週間ほどで全ての準備が整うと思います。では、精霊の祝福を」

「あ、アト、ちゃん。よろしく」

「はい、ルイ様。よろしくお願いします」

 えーと、なんだろね、教祖様って。訳がわからない。生活の基盤がいきなり整ったのはいい事だと思うけど。とにかく、祝福を受けてくれる人を探さないと。迷宮に入るのは良くないって言ってたけど、レベル上げの為にはどうしようもないよね。
 とりあえず、この二つかな……。
 ええい。この際、教祖様に私はなる!
 面白いじゃない。国教にまでのし上がってやるわ!



[27883] 二話 壁は厚くて
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/21 05:33
 まずは情報収集である。私と同じ境遇の人がいるかもしれない。
 
「こんにちは。この近くに引っ越す事になったルイです」

 そう言って、私は近くの神殿を覗いてまわった。

「んばばんばんば、メラッサメラッサ」

「あついわっあついわっ」

 踊る子供。火あぶりにされる鯛に足のついた半漁人のオカマ。
 ……ここはパス。
 次!
 ずんどこどこどこ、ずんどこどこどこ。
 インディアンっぽい人がなんか儀式中だった。
次!
 ぴーひゃらーらー。ぴーひゃらーらー。
 半裸の親父が舞っている。
 次!
 なんかシカの頭の剥製を被った人が儀式中。
 次!
 その扉を開けると、神官らしき人が掃除をしていた。
 お、ここはまともっぽい……。

「へっくしょん、まもの」

 パス。魔物の侵攻の噂がぐっと真実味を増したわー。
 触らぬ神に祟りなし。
 教会が開けるまでの後一週間、何をしたらいいのかしら。
 当座の食料とかは運びこんでくれるみたいだし。無駄遣いしないように気をつけながら、街を見て回ろう。
 そういえば、役所に行くまでに随分神官たちの勧誘があった。神官服を着ていけば、面倒事は減るかな。
 私は着替えて、街へ出た。
 アトに案内してもらいながら、あちこち見て回る。
 街の中央には役所と並んで大きな冒険者ギルドがあり、そこでは魔物との戦いの訓練講座をやっていた。しかも、持っていくのは武器と鎧だけでいいそうだ。
 これはぜひともお願いしたい。
 二日後の予約を入れ、色々と見て回る。早速、私の神殿の情報も張り出されていた。
 一人で迷宮に行く時は護衛依頼もお願いしたいが、値段がなぁ……。
 その日は一日街を見て回って、二日目は復活アイテムの作成に挑む。
 やり方は自然と頭に浮かんできた。
 *自分の復活アイテムは作成できません。
 ……うえーん。
 仕方なく、掃除をして過ごした。
 三日目。私は張り切って出かけた。
 人数が多いなぁ……。どうやら、ひのきのぼうを装備した人は私だけみたいだ。皆が見てる……。
 ちなみに、皆の武器は、普通に金属製の剣とか槍とか。いいなぁ。
 とにかく、私は配られたリュックを担ぎ、皆に一生懸命ついていった。
 わわ、スライム!
 私はぎゅっと目を瞑って、思い切りひのきのぼうを振る!
 ひのきのぼうはぼよんと跳ね返されたが、私は何度も殴った。
 すると、スライムが小さな宝石になる。
 私は急いでそれを腰に下げた袋の中に入れる。そうしている間に、私に蝙蝠が襲いかかってくる。
 危ない! 思った時には、蝙蝠は真っ二つになって宝石となった。

「気をつけろ。……神官か」

 獣人としかいえない女の子。私は、ドキドキしながらお礼を言う。

「精霊ルビスを信仰する、ダーマ神殿の神官のルイです。あの、ありがとうございます」

「悪いが、聞いた事が無いな。……私はリュリュ。剣士だ」

 そうして、私とリュリュさんは握手した。リュリュさんは凄いなぁ。蝙蝠を一撃なんて。なんでこんな人が、初心者コースなんだろう。
 そうして、私は辺りを見回す。
 皆、当たり前のように一撃でスライムや蝙蝠を黙らせていた。
 うん、私が弱いだけだね。超弱いだけだね。がんばろっと。
 訓練は、三日ほど続き、そこで迷宮の中での野宿の仕方など、様々な事を学んだ。
 野宿の仕事とかも大事だけど、一番の収穫は自分の能力についてだった。
 攻撃は痛いけど、怪我をしない。
 その代り、HPがぐっと減る。
 眠っても、回復はしない。きっと、その為の宿屋なんだろうな。信者を早く、見つけないといけない。
 ようやく講習が終わった時には、HPは3だった。
 もう迷宮、来れないよ……。信者が現れない限り。
 重くなった足を引きずって神殿に帰り、倒れるように眠る。
 人間、ゆっくり眠ったらいい方法も見つかる物だ。
 私は名案を思いついていた。

「アトちゃん! 祝福をさせて!」

「困ります、ルイ様。私は神殿には……」

「宿屋に転職してくれるだけでいいから!」

 お願い! と私は手を合わせる。
 アトは、渋々ながら了解してくれた。

「じゃあアトちゃん、宿屋さんの気持ちになって祈って」

「はい」

 私の体を通って、大いなる力がアトへと注がれる。
 アトは、きょとんとした顔でこちらを見ていた。

「アト、何か変わった?」

「えーと、素敵なベッドメイキングの仕方がわかります……。でも、レベルによって必要なGの量が変わります。……レベルってなんですか?」

「教会制と同じ!? 世知辛い世の中……! あ、とりあえずベットメイキングして。これGね。レベル3はいくら?」

 私は宝石を投げ渡す。

「え、えと、5Gです」

 オーケーオーケー。迷宮入りは欠かせません、と。
 ちなみに今持っているGは約100位。安心した所で、神殿を整えなくては。
 明日開店日?だよ!
私はアトと共にせっせと神殿を整えた。簡易ベッドも追加で買って、夜は広いスペースで眠れるようにする。良し来い、信者共―!
 そして翌朝、なんと人が来てくれた! それもいっぱい!

「これが今日オープンの神殿か。へー」

「おお、ここの神官はめんこいのう。じゃあ、次々」

 旗を振った人が、大勢の人を引き連れ去っていく。
 え、それだけ……?
 残ってくれた人がいた。リュリュだった。リュリュは、何かショックを受けているようだった。

「ルビスは……ルビスは、獣人でも祝福してくれるだろうか?」

「え!? そんなの、もちろんだよ! 本当に、いいの!?」

 私はリュリュの様子がおかしいと思いながらも駆け寄る。
 そして、リュリュの気持ちが変わらない内に、急いで祝福を与えた。

「精霊ルビスよ、どうか我が友リュリュに祝福を……」

 ルイは、小首を傾げる。

「冒険者モード? なんだ、頭に浮かぶこれは」

「危ない時は、必ずオンにして。後、続きの儀式をします。代金10Gと100D頂きます!」

 Dはこの町の通貨だ。親しき仲にも礼儀あり。世知辛い世の中なのだ。こちらも稼がなくてはならない。

「100Dはわかるが、ゴールドとはなんだ? 金貨など持っていないぞ」

「魔物を倒した後に出てくる宝石の価値の事だよ。一番小さい宝石で10個、中くらいで1個。もう祝福の儀式は始まってるんだから、早く」

「わ、わかった」

 まんまとお金を巻き上げた私は、復活のアイテム作成の儀式をした。
 冒険の書が光り、リュリュのステータスが書き加えられていく。
 うわ、いきなり10レベル!? 凄いなぁ。凄いなぁ。っていうか、G足りない。もう10Gって言っちゃったから、こっちでつけたそう。とほほ。

「冒険の書に記録しました。これで儀式終わり! HPは0にならないようにね。0になったら、ダーマ神殿か精霊ルビスに仕える宿屋に泊まりに来て。まだそんなのないけどね! レベルが高ければ高い程、必要なGは高くなるわ。Dの方は宿屋次第。神殿では一括10Dでいいけどね」

「そ、そうか……。ならば、毎日泊まりに来ても、いいか? どうせ迷宮には毎日入るのだし」

 私は破顔した。

「もちろんよ! あ、でも、一週間だけ一緒にいて! 私もレベルを上げたいの」

 宿屋に祝福を与える神様はいないらしく、その後宿屋の経営者が何人か祝福を受けに来た。うちの神殿の紋章も飾ってくれるらしい。
 武器屋、道具屋、防具屋も来てくれたが、お金になる宝石を注ぎ込んでまでひのきのぼうや布の服を作るのは嫌がった。正直、物凄くがっかりされた。けれど、私は粘って交渉し、神殿で創造した装備を買い取ることで落ち着いた。
 後日、リュリュが悩んだ末に、旅人の服とたけのやり、お鍋のふた、皮の帽子に装備を変えた。ルビスの祝福で宝石から創造した装備以外は、どうもしっくりこないのだという。
 冒険者モードをオフにすればいいのだが、そうすると怪我をするようになってしまう。
 迷宮では一生物の怪我をする人が多くて、「捨てる神あれば拾う神ありだな。精霊の微笑ましい加護が獣人の身にはお似合いらしい」と苦笑いしていた。私の成長に期待してて! いずれ、リュリュにまた、鉄の鎧と鉄の剣を装備させてあげる!
 リュリュに鍛えてもらった一週間後、私もまたレベル10になっていた。でも熟練度は★1。どうやら、これは信者の数に影響されるらしい。道は長い。



[27883] 三話 商人と獣人の守護者(笑)と言われています
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/21 08:21
 私の神殿は、加護の拙さで有名になりつつある。第一は装備、第二は商人ネットワークからさほど加護が良くなかったと広まってしまった事だ。基本的に作った物は信者向けだし、薬草は普通の傷にも効いたけど、他の宗派のポーションの方が威力が高いのである。唯一宿屋からは、他の店より元気になると言われたと喜ばれているが、宿屋の数など知れている。
 早く熟練度を上げたいが、中々難しい。
 あ、私、ホイミ覚えたよー! えっへん!
どうやら、転職できない代わりに、私個人でも色々と呪文を覚えられるらしい。
俄然、やる気が出るというものである。最も、一日の決まった時間は神殿にいる事にしてるから、泊まりがけで迷宮に行く事は出来ない。浅い層で弱い敵を倒すしかないから、正直レベル10が打ち止めなんだけどね。
迷宮から戻り、ご飯を作っていた時だった。
リュリュが、怪我人を背負って走ってきた。

「ルイ! いるか! 怪我人だ。お前も司祭なんだろう。頼む、何とかしてくれ……!」

 獣人のおにーさんが担ぎ込まれて来て、私は急いで指示を出した。

「アト! ベッドを祝福して! レベルは二十想定! それと薬草ありったけ持って来て!」

 そして、ホイミを唱える。怖いよ、血がいっぱい出ていて気持ち悪い。ホイミもあんまり効いていない気がする。当然だ。ホイミもまた、HPを癒す為の物なのだから。
どうしよう、どうしよう……!
焦るな、何度言い聞かせても涙が出てくる。

「ホイミ、ホイミ……! 駄目だ、MPぎれ。薬草は飲める? 全部飲みなさい!」

 そしてアトが祝福したベッドへと運びこんだ。
 
「ルビス様、お願い。お願い。お願い。今度からちゃんと信仰します。だからお願い。奇跡を起こして……!」

 私はベッドの前で跪いて祈る。
 疲れて眠った時、ルビス様が微笑む姿が見えた気がした。
 翌朝、目が覚めると、獣人のおにーさんは安らかな寝息を立てていた。
 傷跡は残っちゃったけど、大丈夫。生きてる。生きてる! 怪我もちゃんと治っているし、一安心だ。ありがとうルビス様。ありがとう……!
 私が立ち上がると、その気配でおにーさんが目を覚ます。

「ここは……」

「ここはダーマ神殿だよ。もう傷は大丈夫。今、ご飯を作るから」

「ああ……リュリュが信仰している……。たけやりの……」

「い、いずれは、いずれは鉄の槍も装備できるようになるもん! そ、それより! 貴方の治療で、いっぱい薬草や祝福を使っちゃったんだからね。ちゃんと返して貰うから」

「それを換金すれば足りるか?」

 獣人のおにーさんがGの入った小袋を投げ渡したので、私はせっせとそれを数えた。
 ふふん、ちゃんと計算していたのだ。地獄の沙汰も金次第なのだ。Dが貰えないとは思わなかったけど。
 えーと、Gのレートは……。薬草の値段が8Gと5Dだから……。
 血で汚れたシーツも洗わないといけないから、ついでに追加料金貰っちゃえ。お金持ちっぽいし。

「はい、確かに貰ったわ」

 そして私はホクホク顔で袋を返す。

「……それだけでいいのか?」

「ちゃんとシーツを汚した追加料金まで貰ったわよ」

「……そっか。ありがとう。俺はカイラ」

「私はルイよ。じゃあ、食事を作りに行くわ。リュリュにも礼を言うのね」

 そして、私は食事を作る。カイラには病人食で、他の人は普通の食事を用意したのだが、カイラは普通の食事を用意した席にさっさとついてしまった。私が病人食か―。

「美味いな。宝石をぼったくるだけはある」

 カイラが美味しそうに肉を頬張る。ああ、私のお肉。

「なによう! じゃないとHPが回復しないんだから仕方ないじゃない!」

「HP?」

「お前もルビスの祝福を受ければわかるさ。ルイの祝福は驚くほど安い。一緒にたけやり仲間になろう」

 笑ってリュリュが言うのに、カイラも笑って頷いた。

「ま、一度死んだようなもんだしな」

「本当に!? ありがとう、カイラ!」

 私は嬉しくて仕方がない。食事後、さっそくカイラを祝福する。次はちゃんと適正価格を取った。18レベルだから170Gである。
 強いなー、カイラさん。
 それと、装備一式を売る。

「高いな! どこが安いだよ、たけやりなんかで、なんでこんなに宝石が持っていかれるんだ」

「これは宝石を煮溶かしてルビス様の加護で作ったんだ。ルイの取り分はほとんどないぞ」

「マジか。おなべの蓋がねぇ……」

「HPが0にならない様に気をつけてね。でも、危ない時は絶対に冒険者モードをオンにして」

「わかったわかった。じゃあ、行ってくる」

 私は手を振って見送る。
 アトと一緒に食事の片づけをしたら、買い物。カイラに使った分の道具を補充しなくてはならないので、今日の迷宮探索はお休みだ。
 結局、リュリュとカイラさんは三日も戻らなかった。病み上がりなのに深くまで潜って大丈夫かな。
 ……そして、戻って来た時、また獣人の怪我人が運び込まれてきた。しかも今度は複数だ。またか、またなのか。
 私はあわあわと傷の治療をした。
 翌朝、彼らはもめにもめた。

「誰がそんな恥ずかしい装備をするか!」

「お前達の戦い方はあぶなっかしすぎる。このままだとお前、死ぬぞ」

 カイラの言葉に激昂するリーダーっぽい人。

「大きなお世話だ!」

「別に、無理にルビス様を信仰してなんて言わないわ。ルビス様だって、嫌々信仰されたくないと思う。けど、治療費は払って」

 私が手を差し出すと、リーダーっぽい人が私の手にGの入った袋を叩きつけた。

「今、数えてお釣り渡すから待っててね」

 袋を返すと、彼らはずかずかと行ってしまう。
 けれど、二回目に治療をしにやって来た時には、渋々と祝福を受けてくれた。
 そして、私は熟練度★2、みならいになった。やった!

 呪文 ホイミ バギ ルカニ 
特技 ルビスの祝福 戦士への転職の儀式 ルイーダへの転職の儀式 銀行への転職の儀式 宿屋への転職の儀式★2 武器屋への転職の儀式★2 防具屋への転職の儀式★2 道具屋への転職の儀式★2 復活アイテムの作成
 技術 結界術
 
 結界術は、スライムが防げる程度の弱い結界を、大人が大の字に寝転んだ程度の大きさに張る力だ。これで休憩が可能になる。いずれは街に張れるようになるだろう。他の宗派にもあるかもしれないが、10年後、かなり役に立つんじゃないか?
 テンションアップである。
 私は、早速祝賀会の手配をした。
 信者さんに来てもらい、早速祝福の儀式を掛け直した。来てくれなかった人もいるけど、ご馳走目当てで関係のない人も来てるけど、気にしない! お祝い事だもの。
 その後、新たな装備や毒消し草を作りだして貰い、買い取る。
 ついに銅の剣が! 高いけど! 私装備出来ないけど!
 これには皆、大喜びだった。そうだよね、18レベルでたけやりは嫌だよね。
 装備を新調した後は、皆で食べて、飲んだ。
 しかもその後、獣人さんが複数祝福を受けに来てくれた。
 国教になる日も近いかもと思うと、嬉しくてしょうがない。
 商人さんも、異様なほど喜んで、初心者の冒険者にはまずここをお勧めします! と言ってくれた。
 ダーマ神殿に二人程人員が欲しいというと、獣人の孤児が紹介してもらえた。
 早速転職してもらう。ちなみにルイーダの酒場がルピちゃんで、銀行員がキュットくん。
 ルピちゃんだが、リアルタイムで仲間登録している人のレベル変動がわかり、連絡と呼び出しが出来るらしい。元いる所に送る事は出来ないけど。それと、パーティの結成と友達登録が出来る。これをすると、強くイメージしてロックオンしなくても仲間への全体呪文が掛かりやすくなり、復活するか、仲間の首に棺桶のアクセサリーとしてぶら下がるか選べるようだ。友達登録は、銀行の物を共有するかどうかが選べる。
 早速、何故か道具屋さんと宿屋さんがそれぞれの息子さんと友達登録をしていった。後、銀行への転職希望が二人の使用人から二人ずつ。
一週間後、迷宮の一階の階段前に宿屋と道具屋が出来たと大騒ぎになった。
 パーティ登録で、迷宮外から迷宮内へ物資を送っているのだ。手紙も銀行に預ければ、連絡できるしね。考えたなぁ。
 ちなみに、お店★2なら、スライム程度は防げる結界を張れるみたい。ルイーダと銀行は★がついてないって事は、結界張れないのね。
 ちなみに、銀行に物を預けた人がそのまま死ぬと、権利は私に来ます。おお、悪徳教祖っぽい。他の宗派でも復活あるし、事前にお金払うから財産返す契約結んでって話も来てるんだけどね。もちろん高値で契約するつもり。
 銀行登録もルイーダの酒場もなんらかの形でルビスの祝福を受けないと使えないって言ったら商人の信者がぽつぽつと来るようになった。
 獣人さんの信者も来るようになったし。
ふっふっふ、国教となる日は近い!



[27883] 四話 正と負
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/21 20:23
私は早速、教祖権限で出来得る限りの冒険者の信者に戦士に転職してもらった。
きあいためは、思いのほか喜ばれた。攻撃力が高いからではない。他の神がするような加護っぽいからだ。あのさ、怪我しないってだけでも凄い加護じゃん。他の神様から祝福受けられなかったの、もう忘れちゃいなよ……。
私がなんとなく落ち込んでいると、冒険者ギルドから勲章を貰えるという話が来た。
私は、意気揚々と指定された時刻にルビス様から頂いた神官っぽい服を着て、冒険者ギルドに向かう。
ギルドに入ると、様々な視線が私に刺さった。
憎しみの視線。嫉妬の視線。羨む視線。遥か高みから微笑ましく見守って来る……見下す、視線。熱のこもった視線。一番多いのは憎しみで、冒険者達からだった。

「精霊ルビスを信仰する、ダーマ神殿のルイ神官ですね」

「はい」

「お待ちしておりました。授与式はもうすぐですので、どうぞこちらでお待ち下さい」

「はい。……あの、どうして私が勲章を? それに私、憎まれるような事をしたでしょうか」

 その言葉に、受付の人が苦笑した。

「貴方のお陰で、初めにその街に辿りついてさえしまえば、物の行き来が出来るようになりました。貴方の祝福さえ受ければ、人も行き来できます。……いずれ、護衛依頼は激減するでしょう」

「あ……」

「しかし、便利になるのはいい事です。迷宮内で店も開けるようになりましたしね。これから成長して行けば、貴方はこの世界の守護の要となるかもしれない。憎まれるばかりでなく、期待もされているのですよ」

「は、はい」

 そして、私は一つ星を授与された。最高は五つ星らしい。
 群衆の前での授与式。
 投げられた卵。

「獣くさい精霊の犬ごときが!」

「獣人にしか相手のされない屑め!」

 次々と投げかけられる罵倒の言葉。泣いちゃ駄目だ。泣いちゃ駄目だ。
 目を潤ませて、私はふとある一点を見て笑った。
 キタキタ親父っぽい人達が、祝いの舞いを踊ってくれていた。
 帰り道、私の住んでいる区画は名物的な場所で、それぞれの神官が治安を守ってくれているのだと商人が教えてくれた。今まで私が悪意から守られてきたのは、商人たちや彼らの努力のおかげであるという。それと、馬鹿でも私が将来重要な神官となるのは理解できるため、殺される事だけはないだろうという。けれど、嫌がらせはされるかもしれないから、迷宮は気をつけなさいと言われた。
 そっか。今まで避けてたけど、今度差しいれしよう。迷宮に誘ってみるのも、どうかな。
 外見で判断しちゃ駄目だよね。魔物にだって、良い魔物はいるかもしれないんだし。
その次の日。
私が差し入れを作っていると、怪我をした商人がやってきた。

「ホイミまでならタダでしてもらえると聞きましてな」

「もう。今度からお金取っちゃいますよ? うわ、痛そう」

「今日は蝙蝠がやけに沢山いましてね。迷宮での商売はもうかりますが、危険なのがいけない」

「移動中は冒険者として行動出来ないかな。試しに、ルビスの祝福を受けてみますか? 怪我をしなくなりますよ。HPが0にならない様にしないといけないですが。あ、本当に危険な時はHPなんていくら0になってもいいですから、絶対冒険者モードをオンにしないと駄目ですよ」

「本当ですか!? ぜひ、お願いします。おお、迷宮の商売敵共にも教えてやるか」

「じゃ、早速試してみましょうか」

 結果は成功した。冒険者モードをオフにすると、宿屋としての結界が張れるようになるらしい。

「いやいや、ルビス様様ですな! これで怪我をしなくなると。初期投資としては安いものです」
 
「代わりに、HPが減って行きますが、薬草を使うか、レベル分のルビス様の祝福を受けたベッドで眠るか、私がホイミをすれば回復しますから。喜んで頂けて、良かった」

「タダなのが、何より嬉しいですな!」

「あはは。今度から金を取る」

「それは残念」

蝙蝠やスライムは、戦闘が主ではない商人には地味にきつかったらしく、二日で迷宮に潜っている商人全員が祝福を受けた。
 商人達から話を聞くに、蝙蝠とスライムが大繁殖している為、私は迷宮入りを控える事にした。
 差し入れを作ったり、信者を祝福したりとゆったりとした日々が続く。
突然冒険の書が光ったので驚いていると、リュリュ達獣人や商人が次から次へと落ちて来た。
これは私の仕事の予感!

「おお! 冒険者達よ、死んでしまうとは情けない。復活のお代を頂くから、並んで並んで」

 私が情緒たっぷりに言うと、獣人達は騒ぎ始めた。

「死ぬ!? どういう事だ! いきなり魔物の大群が押し寄せて……」

「HPが0になったのは覚えているんだが……」

「それが死ぬって事だよ。あ、初めに言っとくけど、冒険者モードオフで死んだ人は生きかえらすの無理だと思うから」

話を聞くと、元から魔物が多かったが、急に強い魔物が大挙して現れたらしい。激戦だったようだ。
ま、それはそうと、冒険の書への記載代払え。

「わかったわかった……げっGが半分になってる!」

「死んだらそりゃGは半分になるよ。それと生きかえり賃は別だから。レベルによって高くなるから。貴方の場合は、320Gに、100D貰うわ。ほら、さっさと払う」

私が手を差し出すと、獣人達はぶつぶつと文句を言う。

「生きかえれるなんて聞いていないぞ。ぼったくりも予想外過ぎる……」

「ちょっと。私の取り分、100Dしかないのよ? これでも随分……」

「どこがぼったくりなのかね。生きかえらせてもらえて、何が悪いのかね」

 あ。商人さん、切れてる?

「お前達は、商人の神、慈悲深きルビス様の事を何と心得ている! 他の宗派で生きかえらせてもらう為に、いくら必要なのかわかっているのか!? 死体の回収作業もあるんだぞ。お前達、ルビス様の偉大さが何故わからない! わしは指定額の十倍払うぞ。本来ならば、それでも安いぐらいだがな!」

 商人達はこぞって頷いた。

「あ、あの。200Gに1000Dだけど。いいの?」

「おお、レベルが低いとそんなに安いのか。桁が違うのだな。もちろん払うとも」

「ありがとうございます。商人さんから、装備の在庫仕入れないといけないし、凄く助かります」

「ルイ様は、もっと金額を高くしてもいい。あまりに安すぎると、商品までも安く見られてしまうものだ」

 私は、少し悩んで首を振った。

「貰えるなら貰うけど、私はこれでいいよ。何をするにもお金が掛かるから、あんまり高いと何かあった時にすぐ無くなっちゃう。でも、寄付は受け付ける事にするね」

「ルイ様。わしらは今日、ルイ様に命を助けられた。ならば、精一杯バックアップさせて頂きますぞ」

「うん、ありがとう」

 結局、私が祝福を与えた全員が帰って来た。中には、HPが切れそうになったら冒険者モードをオフにしてそのまま戦って、大けがをして帰って来た人もいたけど、全員、とりあえず生きてた。有難い事である。
 ……死者が、本当に沢山出たらしいから。
 魔物は、迷宮の外まで溢れ出たそうだ。迷宮の中にいた人は……。
 大抵の冒険者は異変を感じて迷宮に入るのを避けていたが、それでも多くの人が入っていたらしい。
 最終的に、熟練の冒険者達が溢れだした魔物を殲滅して、押し返した。
 獣人さん達も再度戦いに行ったし、私も薬草とホイミで手伝った。
 大変だったけど、そんなの全然問題じゃなかった。問題だったのはその後。
 戦いが落ち着いた後、私の元に、死体を抱いた人達が沢山、沢山、私を取り囲んだ。

「お願いだ、仲間を生きかえらせてくれ」

「頼む……」

「あんた、司祭だろう。タダみたいな値段で生きかえらせると聞いた。宝石ならいくらでもくれてやる」

「全財産をあげたっていい」

「なんで人間様が死んで、獣人どもは生き残ってるんだよ」

 私は、じりじりと後ずさる。

「駄目なの。生きかえらせるには、予めルビス様の祝福を受けないと駄目なの」

「じゃあ、今から改宗するから、生きかえらせてくれよ!」

「無理だよ! わかってるでしょ!? 私の祝福した人は、怪我をしないって! 予めそういう祝福を受けてたの。ルビス様に普通に死んだ人を生きかえらせる力はないの……!」

「役立たず!」

「嘘つきめ!」

「いいから、生きかえらせろ!」

 振りあげられる腕。

「きゃ……」

 それを止めたのはリュリュだった。

「……お前達の仲間が死んだのはルイのせいではないし、縋る相手を間違ってないか?」

「なんだてめえ、獣人の癖に!」

 リュリュは殴られる。なんで反撃しないの。

「……。好きなだけ殴ればいい。けれど、ルイはやらせない」

「駄目だよ、リュリュ……!」

「私は自分がどれだけ恵まれてるか理解せず、今まで散々ルビス様を貶めて来た。これはいい贖罪の機会だ。……今の彼らには、悲しみをぶつける事が必要なんだ」

「リュリュ……!」

 私は泣いた。沢山泣いた。でも、泣いたのは私だけじゃない。皆が、悲しみに打ちのめされていた。
 一応、迷宮にいて、耐えきって生き延びた人もいるのだが、ほんのわずかだったようだ。
 次の日には、私の所には新米冒険者達やわずかなベテランが押し寄せ、そしていくつもの神殿の連名で復活の呪文を途方もない高額にするよう強制する手紙が届いた。
 死体を持った人もまだ並んでいる。
考える事が多すぎて、なのに誰もかれも、待ってはくれないのだ。



[27883] 五話 便利すぎる力
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/22 16:54
私は、とりあえずGを10倍に値上げして、DもGと同じ値段を要求する事に決めた。これ以上高くは出来ない。低レベル者は死ぬものだ。彼らが払える金額でないと意味が無い、というのが私の考えだ。でなくば、冒険者にする時に黙って復活の準備の儀式を行いはしない。事前に復活の準備の儀式……冒険の書に記載してしまえば、その時点のレベルと死んだとき持っていたGの半分でワープ付きで復活できる。もしもそれをしていなかったら、恐らく死体を持って来て、死んだときのレベルの代金を貰わねばならないのだろう。それに、どの程度から生きかえらせられるのかもわからない。他の宗派では、時間を置くと復活は厳しいという。
私だって同じだろう。
私は人の死を背負える程、強くはない。死体を持って来られるなんて、絶対に嫌だ。
私は、更にいくつも張り紙をする事にした。

「復活の条件。下記の全ての条件を満たさないと、復活は出来ません。また、強い人程、何をするにも高いGとDが必要になりますので、ご注意ください。また、値上げさせて頂きました。・料金をきちんと払う・ルビス様の加護を受けている・死んだ時に冒険者モードがオンになっている・パーティの場合、仲間がきちんと棺桶を持ってくる」

 そして、死体を持って縋って来る人に謝り倒し、新米冒険者さんやベテラン冒険者さんに祝福をした。
 ベテラン冒険者さんは、私の提示した金額に目を剥いた。

「高いな。前の人と値段が十倍は軽く違っているじゃないか」

「すみません。神殿の連名で、料金の値上げをお願いされまして。それに、ルビス様の加護を受けるには、強い人程たくさんGを払わなければならないんです。宿と復活がレベルで変動します。レベルに見合ったものでないと加護が受けられないので、お願いします」

「ギルドでは逆に強いものほど優遇されるのだがな。しかし、復活の値段と考えれば、それでも安いか。払おう」

「ありがとうございます」

 そう話していると、ベテラン冒険者さん達の一人がこんな事を言い出した。

「じゃあさ、せーので掛かった金額見せあおーぜ。強い程高いんだろ?」

 これはもめごとの予感!

「あ、あの、同じレベルでもですね。その人の素質によって強さが違うというか! レベルはその人の成長具合を示すといいますか!」

「つまり同レベルで強さが違うって事は、才能から違うってことな。了解了解」

 そして、ベテランさん達は金額を見せあったり、レベルを見せあったりする。
 初心者さん達も、真似をし始めた。

「お前、俺と同じ強さなのに何そんなに支払っちゃってるんだよ。よわっ」

「なんだと!?」

「なんで貴方がレベル1ですの……!」

「あ、あはは……」

 もめもめもめもめもめもめもめ。

 揉み合いまで初めてしまったので、外に出て行ってもらう。
 なんだか育ちの良さそうな人が、子供を連れて来た。

「実は、この子を祝福して欲しいのです。この子は大事な跡取り。もしも何かあればと思いまして……」

「もうしわけありませんが、改宗を認めない宗派もあると聞きます。ご自分の意志で加護を決められたのでなくば、お断りさせて頂きます。子供の未来が制限される事はあってはなりません。この子が自分の未来を決めるにしても、まだ早いのでは」

「我が家は商人の家系です、神官様。ぼくも将来、商人になります。商人にとって、精霊ルビス様よりすぐれた神がおりましょうか。いたとしても、僕はルビス様を選んだ事を決して後悔しません。弱い魔物をふせぐ結界、怪我や死から守る加護、様々なお店の守護……これだけあれば、十分です」

「そっか。ありがとう。なら、君を祝福するよ。私がもうちょっと信者を増やしたら、また来てね。まだ私の力が弱くて今は転職出来ないけど、冒険者にも、商人って職業があるんだ。インパスを覚えるだけでも、大分役に立つはずだよ。とりあえず、今は戦士の気持ちで祈ってね」

 私は心をこめて祈り、少年はレベル1になった。
 一週間ほど、忙しい日々が続いた。主だった神殿の会議がその時あったらしいと商人伝いに聞いた。★を貰っているのに呼ばれないのは異例らしいが、私、負けないから!
そして、気がつけば熟練度が★3になっていた。しんかん! しんかんである。
 
★3しんかん
特技 ルビスの祝福 戦士への転職の儀式 武道家への転職の儀式 僧侶への転職の儀式 ルイーダへの転職の儀式 銀行への転職の儀式 宿屋への転職の儀式★3 武器屋への転職の儀式★3 防具屋への転職の儀式★3 道具屋への転職の儀式★3 結界師への転職の儀式★3 復活アイテムの作成 解呪の儀式 
 技術 結界術 魔力弾

 僧侶が出来る! これは素晴らしい事である。それに、結界師。これは要するに、10年後、魔物が溢れた時にそこで街を作る技術だ。あんまり大群で結界を攻撃されると破れちゃうけど、侵攻が無い限りは大丈夫。すごいぞー!
早速、私は周囲の教祖達も招いてパーティーを開く事にする。
あ、でも、まだ結界師は必要ないよね。へっくしょん、まものさんも呼ぶし、これは黙っておこう。
魔力弾も嬉しい。レベルがあんまり上がっていないから。そうだ、そろそろダンジョンも落ち着いたようだし、皆を誘ってダンジョンに行こう。パプワくんがいるから、きっと大丈夫。あそこの信者さんちょっと怖いけど、まあ大丈夫大丈夫!

 私が開いたパーティには、沢山の信者さんが来てくれた。特に商人さんは、商売のチャンスと張り切って来てくれた。
 早速転職の儀式を行う。
 だが、ここで予期せぬ事が起こった。新人商人さんへの商人★3への転職の儀式が失敗したのだ。普通の商人さんは問題なく転職できた。
 どうやら、隠しパラメーターのような物があるらしい。今はいいけど、熟練度が上がってきたらきついな……。

「先輩は転職できたのですし、私の腕が足りないのでしょう。修行して出直してまいります。今の私は、つかいっぱしりで十分という事です」

「ごめんなさい。私達の装備は商人さん頼りですから、期待しています」

 私はぺこりと頭を下げる。けど、てつのつえを得たよー! ひのきのぼうからクラスチェンジで来て本当に嬉しい。
 皮のドレスと共に私が見せびらかすと、皆微笑ましくお祝いしてくれた。
 リュリュは予備の武器としてブーメランを買っていた。あれは複数に攻撃できるからいい物だ。
道具屋では、満月草が出た。これで、怪我、毒、マヒ、全てをカバーする事になる。

「まだ一週間だが、ルビス様の武器は壊れないのが良いな。割と乱暴に使っているんだが。ルビス様を一旦信仰すると、他の神への改宗はできなかろうな。勝手が違って戦場ですぐに死ぬのがオチだ」

「えへへ。ルビス様は本当に偉大なんだから!」

「私どもとしては、武器は壊れてもらった方がいいのですがね。その分高くしましょうか」

「げぇっやめてくれ! 俺はただでさえレベル高くて余裕が無いんだから」

「ダンジョンに泊まり込みで稼げばいいでしょう、稼げば。これで今までよりもさらに奥で宿を開設できるようになりますし」

「そこもどうせ高いんだろ」

「ばれましたか」

 笑い声で満ちる。
 私は、更に場を明るくするべく言う。

「職業増えたよー。武道家と僧侶になりたい人は並んで―」

「武道家はわかるが、僧侶?」

「ホイミが使える人の事。ちょっと弱くなるけどね! ★8になれば、仲間とパーティ登録して、仲間のHPが0になった時にザオラルで生きかえらせることも出来るよ。半分の確率だけど、何度も掛ければ大丈夫。これだとタダ!」

「それは誰でも転職できるのか!?」

 リュリュが、勢い込んで聞いた。

「えっもちろん適性はあるけど、大丈夫だと思う。MPがちゃんとあれば、ね」

 なんか大騒ぎになりました。

「★はどうやったら8になるんだ!?」

「戦っている最中に増えたが」

 わあわあと話しあう冒険者達。

「ああ、自分と同格以上の敵をいっぱい倒したら増えるよ! 頑張って戦ってね。僧侶は戦士と組むといいと思うよ。僧侶は回復を使える分弱くなるし、戦士は丈夫だから、守ってもらうの。喜んでもらえて、良かったぁ。ルビス様、将来国教になれるかな?」

 照れながら私が言うと、商人さんは真剣な顔をして言った。

「いずれは……潰されなければ、必ず台頭するでしょう。しかし、貴方の力は、あまりにも便利すぎて、複数の勢力に喧嘩を売るものです。私達商人ですら、武器が不滅というのは非常に痛い。これからは、身辺の護衛をつけた方がいいでしょう。それと、他の神殿に寄付をしなさい。とにかく、敵を作らない努力をすべきです。……この国の国教と戦って勝つという事は、決して楽な道でも、綺麗事でもない」

 な……なに。どういう事? そんな真剣な顔をして言う事なの? 怖いよ……。



[27883] 六話 ゆるゆる同盟、結成
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/22 19:21
 なんとなく沈んだ気持ちを復活させる為に、迷宮へ出かける事にした。
 寄付をしたり、差し入れをしたりしてから、迷宮に行く準備を整える。
その後、張り紙をして、一週間ほど留守にするのだ。
他の教祖様も来てくれる事になり、私達はのんびりと出かけた。護衛にはリュリュが来てくれる。
ま、パプワさんに勝てる人はいないでしょ。
ちなみに、リュリュは早速僧侶となっていた。獣人って、なんていうか……うん、即物的だと思う。
反面、ベテランの人達は凄く悩んでいた。
そう、ダーマ神殿に帰依するなら、早い方が……いや、弱いうちの方がいい。そして、出来るだけ目的の職業を早く学んだ方がいいのだ。何故なら、熟練度が上がる為には強敵と戦わなくてはならず、強くなればなるほど難易度が上がるからである。
結局、とにかく強くなる事を主眼に入れるなら、武道家で便利な特技を覚えつつ、本当に大事な旅の時は戦士の方がいいですよ、ただ、僧侶は本当に役立つ呪文が多いので、パーティを組めるなら一人くらい入れておくといいです。適性は、パラメーターのMPと賢さを見て下さい。MPが多いなら、一回護衛を雇ってでも僧侶になってキアリーまで覚えておいた方が絶対にいいです、と説明しておいた。
キアリーが解毒と知ると、皆さんは大きく頷いた。

「ルビス様の加護は、一つだけ欠点がある。毒に弱いという事だ。毒消し草を切らせば、どうにもならない」

「HP制だからな。少しずつ削って来る敵も怖い」

「持ち回りで僧侶に転職してみるか」

 そんな会話を思い出す。
 商人さんは、もっと私の能力の探索に余念がない。武器防具、道具をGに戻す方法も見つけたし、どうやら品ぞろえの数に限度があって、一定以上の種類の物は作れなく、商人によって装備を作る時間も変わる。それぞれ早く作れる装備、なかなか作れない装備が存在するらしい。
 商人達がスロットと呼ぶ、作れる物の枠は、リセットには一か月ほどの休養が必要だそうだ。私は商人ではないから、試行錯誤する事もステータスもわからないから、良く理解は出来なかったのだが。
 だがしかし、商人達はこの事を逆に喜んでいた。装備は費用も効能も変わらないから、他の店との差をつけるのに困っていたらしい。これなら、売り物の住み分けが出来る。
 隣町との銀行とルイーダの酒場を使った交流も始まったし、商人さんは本当に凄いと思う。
 迷宮内で考え事ばかりは命取りだ。私は首を振って、他の宗派の教祖様達と共にダンジョンに入った。
 久々のダンジョンだ。足を引っ張らないよう、一生懸命戦う。
 どろにんぎょうやスライムナイトなど、私には強い敵ばかりだったが、MPを駆使して頑張って戦った。そして、遅くまで戦ったら迷宮内の宿屋で一休み。
 キタキタ親父さんは、防御力と攻撃のかわし方が凄くうまい。
 パプワさんは凄い力だし、他の教祖さん達は……うん、個性豊かです、としか言いようがない。最初に私が挨拶をした教祖様以外の教祖様も来ていて、その人は普通っぽくて安心してしまう。
 あ、なんかモンスターに変身した。
 うん、やっぱり普通なのは私だけなのか。孤独だ……。

「しかしルイ殿。ルイ殿は今回、色々な呪文を覚えましたな!」

 キタキタ親父さんに褒められ、私は頭を掻いた。

「うん、皆のお陰だよ。ありがとう」

「いえいえ、いいのですよ。ルイ殿には日ごろから差し入れでお世話になっていますからな。先日は寄付も頂いて」

「ルイの作る飯は美味いぞ」

 パプワさんの言葉に、私はますますにやけてしまう。褒められるのは、凄く嬉しい。

「えへへ。ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しい」

「そういえば、気付いておりましたかな? 私の神聖なるキタキタ踊りを学びつつ、ルイ殿のルビス様の加護を得ている者がいる事に」

「え、そうなの?」

 キタキタ親父さんはこっくりと頷く。

「そうですぞ。神の中には、複数の神を崇める事を許す寛大な神がおります。組み合わせにもよるかと思いますが……。まあ、これは信者が探索すべき事ですな」

「じゃあ、同盟作ろうよ! 皆仲良しの、ゆるゆる同盟! 冒険者ギルドって、有料で本も置かせてもらえるでしょ? 私達の宗教の紹介書、作ろうよ!」

「いいですな!」

「ゆるゆる同盟とは、いかにも頭の悪い女の子の考えたっぽい名前だな……。もちろん我も入れるのだろうな。へっくしょん、まもの」

「スモラバさん……。だって私、馬鹿な女の子だもん。悪い? ねえ、皆、どう? 他宗教を容認できるなら、誰でも歓迎! 複数の神を信仰、どんと来い! ね、そうしよ!」

 でもごめん、ゆるゆる同盟ってとりあえずなの。ゆるーく仲良くするだけの同盟なの。それで様子見して、後で立派な同盟を別に作ろうと思うの。だって、スモラバさんてバラモスさん? って疑っちゃうんだもん。狡猾な私を許してね。
 話は盛り上がり、言い出しっぺの私が紹介書を作ってお金を出す事になった。
 もちろん、構わない。この中ではダーマ神殿が多分一番余裕のある神殿だとわかるからだ。
 実は私、絵も結構得意なのだ。わくわくして来て、堪らなく嬉しい。
 今の私、無敵だよ!
 そして、楽しすぎる一週間は終わった。
 帰った私達は、まずそれぞれの信者の用事を済ませ、紙に色々原案を書く。
 
「おお、何やらいい感じですな! いかにもゆるゆる同盟といった感じで、楽しげですぞ!」

「ありがとう、キタキタ親父さん!」

「ついでに、我が宗派の説明会をしたいので、それも載せてもらえますか」

「おーけーおーけー。まっかせて! 説明会のページも別に用意するから!」

 そうやってわいわいしていると、商人さん達が興味を持って聞いてきた。

「なるほど、早速パンチをかますつもりですな。我らにお任せ下さい。一週間程お待ちを」

 そう言って、商人さんは出ていった。
 その後、次々とゆるゆる同盟の協賛者がやって来てくれた! 新興宗教がほとんどだが、他の宗派を容認するって決まりさえ守られれば良し!
 話を聞くと、お金が無いという宗派も多いらしいので、ゆるゆる同盟の冊子にページを提供してくれて、お告げを受けている教祖様には100Dを提供する事にした。
 うちにも大きな出費だけど、商人さん達の言う助けあいってこういう事だと思うよ!
 ついでに、ゆるゆる評議会のルールも決める事にする。
 一か月に一回、持ち回りで司会をやって、話し合いをするのだ。
 順番はくじで決めた。ゆるゆる同盟は、平等なのだ!
 それからさらに二週間かけて書きあがったゆるゆる同盟の冊子を、冒険者ギルドに置きに行った。
 凄く立派な装丁の、いくつもの神殿について説明する冊子がいくつか置いてあった。
 
「へえ、こんなのあったんだ」

 前に来た時は気付かなかった。パラパラと見る。あれ? 同じ構成で、こっちの方が格段にいいような……。
……。
 ……。
 考える事は皆同じね!

「よしっ」

 受付の人に許可を得て、本を設置する。紙に穴を開けて紐で綴っただけのそれは、立派な装丁の本よりも質も内容も中身の文も絵柄も全て大分見劣りしていたが、私達、新興宗教だもん。これで十分。
 
「皆! 本が出来たお祝いしよ!」

 何故か心配そうに見ていた教祖様達が、笑った。

「そうですね。今日はぱーっとやりましょう」

「飲みましょう、飲みましょう! 説明会には、ルイ殿も応援に来てくれるのでしょうな」

「一緒に踊ってあげるよ!」

「それは有難い!」

「いや、ルイ、それは辞めた方が……」

 リュリュの言葉に、私はにっこりと首を振る。

「キタキタ親父さんは、一番大切なお友達だもん。ね?」

「はっはっは。照れますな!」

 最初はめちゃくちゃ引いたけど、あの時、庇ってもらえて嬉しかったよ。ゆるゆる同盟、一番に賛同してくれてありがと。


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