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舞鶴・女子高生殺害:京都地裁が無期判決

京都地裁に入る京都地検の係官=京都市中京区で2011年5月18日午後2時50分、森園道子撮影
京都地裁に入る京都地検の係官=京都市中京区で2011年5月18日午後2時50分、森園道子撮影

 京都府舞鶴市で08年に府立高校1年の小杉美穂さん(当時15歳)が殺害された事件で、殺人と強制わいせつ致死の罪に問われた中勝美(なかかつみ)被告(62)に対し、京都地裁は18日、無期懲役(求刑・死刑)を言い渡した。笹野明義裁判長は「被告が被害者の遺留品の特徴を知っていたことから犯人であることが強く推認される」とし、「犯行態様は冷酷残虐だが、周到に計画したり、ことさらに残忍な殺害方法を選択した事案とは異なり、死刑の選択がやむを得ないとまでは言い難い」と量刑理由を述べた。被告側は控訴する。

 公判で被告側は一貫して無罪を主張。被告と事件を結びつける直接証拠がない中、防犯ビデオの画像鑑定や目撃証言など、検察側が積み重ねた状況証拠をいかに評価するかが最大の焦点となった。

 判決は、現場に至る道路で被告と被害者を見たとする目撃者2人の証言の信用性を認め、道路沿いの3カ所にある防犯ビデオの画像も目撃証言と合わせて検討し、「映っている男は被告であり、犯行現場近くに犯行時刻に近接した時間、被害者と一緒にいた」と認定した。一方、検察側の画像鑑定は「単なる印象に基づくものが多い」として証拠能力を認めなかった。

 続いて被害者の遺留品を詳細に説明した被告の供述について検討。「自発的にされたと認められ、供述を求めた捜査官に違法なものはない」としたうえで、「非公表の特徴と合致する具体的な供述で、知る機会があるのは犯人の他にはほとんど考えられない」と検察側の立証に沿う判断をした。

 量刑について笹野裁判長は「経緯、動機に酌むべき点はない」と指弾したが、「同種前科の刑期終了後は暴力的犯罪を行っておらず、偶発的な面もある」などとして死刑回避の理由を述べた。

 事件は裁判員制度の施行約1カ月前に起訴され、裁判官3人が審理した。【古屋敷尚子】

◇状況証拠での判断 厳密な説明必要

 京都地裁は状況証拠の積み重ねによる立証を認め、無期懲役を言い渡した。和歌山毒物カレー事件(98年)や仙台・筋弛緩(しかん)剤混入点滴事件(00年)と同様、直接証拠がない中で有罪を導いた。

 状況証拠による立証について最高裁は昨年4月、「犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が必要」との基準を示した。同年12月、鹿児島夫婦殺害事件(09年)の裁判員裁判はこの基準を踏襲し、現場から被告の指紋が出ていたが無罪(求刑・死刑)を言い渡した。

 今回の判決では、防犯ビデオの画像と目撃証言を合わせ、検察側が主張する被告と被害者の事件前の足取りを認定し、被害者の遺留品に関する被告の供述調書も「自発的なもの」と認めた。しかし、ビデオ画像が不鮮明だったことには言及せず、別人物が犯行に及んだ可能性については「想像し難い」と説明しただけで、最高裁基準を厳密に検討した形跡は見られない。

 今回の公判が裁判員裁判なら裁判員は相当悩むだろう。取り調べが可視化されていない中、捜査機関と裁判所には状況証拠に基づく判断について厳密で丁寧な説明が求められる。【古屋敷尚子】

 ◇妥当な事実認定だ

 杉山治樹・京都地検次席検事の話 状況証拠の積み重ねによる立証を適切に評価した妥当な事実認定だ。死刑求刑が受け入れられなかったことは遺憾ではあるが、上級庁とも協議して適切に対応したい。

 ◇調書を重視し過ぎ

 遠山大輔・弁護団長の話 不当な判決で直ちに控訴する。裁判所は現場や目撃地点を直接、目や肌で感じて確かめていない。被告の供述調書も、取り調べの可視化がなされていないのに重視し過ぎている。

毎日新聞 2011年5月18日 21時05分(最終更新 5月19日 0時58分)

 

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