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特集:7月の第4日曜日は親子の日 親子インタビュー 工藤公康×工藤遥加

 親子の距離は、環境の変化で近くにも遠くにもなる。父はプロ野球のエースとして1年の半分は家を空けていた。そんな父との会話を増やそうと、長女はゴルフを始めた。そして今は父がプロゴルファーを目指す娘を支えている。互いにその距離を埋めようと思う強いきずなが、工藤公康さん、遥加さん親子にはある。

 ◆野球選手・工藤公康(親)×ゴルファー・工藤遥加(子)

 ◇「信念を貫く」アスリートの魂、受け継ぎ

 父親の冗談にツッコミを入れたり、写真撮影時には笑顔で肩を組んだりと、友達のような2人。最近は遥加さんのゴルフの練習にも付き合っている公康さんだが、ここまで子どもに時間を割けるようになったのは、“就職浪人”となったためでもある。来季のプロ復帰を目指しているが、「いつもなら家にいないはずのこの時期にいるから、子どもたちに多少戸惑いはあるんだろうけど、僕にも戸惑いがある」と笑う。

 遥加さんが生まれた1992年、公康さんはプロ野球生活11年目。西武黄金期の左のエースとして活躍中だった。自主トレーニングに始まり、春季キャンプ、そしてシーズン中は遠征と、1年の半分は家にいない。ホームゲームの時も、ナイターを終えて帰宅するころには、子どもたちはすでに寝たあと。逆に朝、子どもたちが学校に行く時には、公康さんは、まだベッドの中だった。特に巨人にフリーエージェント(FA)で移籍した2000年などは、絶対に成績を上げなければならないとの重圧で野球に集中したため、子どもたちと「ほぼ会話がない状態」(公康さん)だったという。

 すれ違いの生活続きに、娘が父親嫌いになっても不思議ではない。しかし遥加さんは、むしろ父親との距離を縮めようと思った。会話を増やす役に立てばと、公康さんの好きなゴルフを始めたのだ。「お父さんがいつも家にいれば、『一人にして』と思ったかもしれない。けれど、いないので話す時間が欲しかった」

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 始めた動機が公康さんなら、ゴルフに夢中になったきっかけを与えたのも公康さんだった。中学2年の冬、米国・アリゾナ州で自主トレを行った公康さんに同行したのだ。自主トレの休日、一緒にゴルフコースを回った時、遥加さんは飛距離こそ260~270ヤードと飛ばすものの、コントロールが悪く、池やバンカーに何度もはまった。結果は公康さんの圧勝。「悔しくて泣きました」と遥加さん。「打倒、お父さん」を目標に、本格的にゴルフに打ち込むようになった。

 ゴルフの名門、宮城・東北高に進学したが、「もっとたくさんコースを回りたい」との思いから、通信制の学校に転校。一人でゴルフバッグをかついで電車に乗り、練習場へ通う日々を送った。ゴルフだけの生活に絞った理由は「迷っているより、一本に決めた方が早いから」。一度、決めた信念を貫く考え方は、48歳になっても自分自身の可能性を信じ、現役続行を目指す父の姿とダブる。

 そう言うと、公康さんもうなずいた。「似てますね。5人兄妹のうち、上2人の長男と遥加は厳しく育てた。その影響か、一度決めたらテコでも動かない」

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 公康さんも「70台後半から80台前半で回れる」とゴルフの腕には覚えがある。最近は遥加さんにコース上では勝てないが、遥加さんの好きな選手を見て研究したり、ゴルフのテレビ中継を一緒に見て、時にはスイング時の体の使い方をトップアスリートならではの視点で解説してみせる。「技術的な面がわかっても体の動き方はわからない。勉強になりますね」と遥加さん。

 その言葉を、隣でうれしそうに聞いていた公康さん。「今度は自分が手伝わなきゃいけないですから」。福岡、東京、横浜と移籍のたびに引っ越ししながら、文句も言わずについてきてくれた家族へ恩返しの思い、そして同じアスリートとして頑張る娘を応援したい気持ちは強い。

 そんな気持ちを察してか、遥加さんは来季以降の海外挑戦を視野に入れている父に、笑顔でお願いをした。「自分も将来的には外国で活躍したいと思っているので、コンディションの調整をどうすればいいかとか、お父さんに経験してもらって、あとから教わりたいですね」。実験台みたいですね、と公康さんに言うと、「全然かまわない。むしろ、そうしたいぐらい。自分の経験を生かしてくれるなら、それにこしたことはない」。声を弾ませて、うれしそうに答えた。【安田光高】

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 ■親子の日2011

主催   親子の日普及推進委員会

特別協賛 オリンパス

     そごう・西武

     第一生命

     オーティコン

協賛   東京都民銀行

     キョーリン製薬ホールディングス

     ドクタープログラム

特別協力 毎日新聞社

協力   オリンパスイメージング

     エプソン販売

後援   J-WAVE

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 ■ことば

 ◇親子の日

 写真家ブルース・オズボーン氏の呼びかけで03年にスタート。7月第4日曜日を「親子の日」と定め、「親と子」の関係を見つめながら、家族、地域、社会の平和を願うきっかけづくりを提案している。

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 ■人物略歴

 ◇くどう・きみやす

 1963年5月5日、愛知県生まれ。名古屋電気高校(現愛知工業大名電高校)からドラフト6位で82年に西武に入団。先発として西武黄金期を支え、8度の日本一を経験。その後、ダイエー(現ソフトバンク)、巨人でも日本一に輝く。プロ実働29年はプロ野球記録。昨季限りで西武を戦力外となったが、現役続行を希望し、現在もトレーニングを続ける。

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 ■人物略歴

 ◇くどう・はるか

 1992年11月18日、埼玉県出身。5人兄妹の2番目。15歳から本格的にゴルフを始める。昨年9月30日から10月3日まで行われた日本女子オープンゴルフ選手権ではアマチュアながら予選を通過し33位タイ。現在はプロを目指し、5月から始まったプロテストの2次予選会に臨んでいる。

毎日新聞 2011年5月22日 東京朝刊

 
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