東京電力が福島第1原子力発電所の冷却方法を修正した。5月17日に改定した事故収束に向けた工程表では、原子炉を水で満たす「冠水」と呼ぶ冷却方式から、汚染水を浄化して冷却水に再利用する「循環注水冷却」に大きくかじを切った。新方式を説明した武藤栄副社長は記者会見で「炉を冷やす行為自体は何も変わっていない」と強調し、炉に水がたまらないから計画を変更することを認めたくないのかと、記者から批判を受けた。ただ、改訂前の工程表を子細に分析すると、循環注水は1カ月前から準備されてきた既定路線だったようにみえる。
「冠水」では原子炉圧力容器に大量の水を入れ、漏れてきた水を格納容器にためる。水が数千トン入ると圧力容器が水没。余熱を発する燃料が入った圧力容器を丸ごと冷やす計画だった。
しかし13日に作業員が1号機の原子炉建屋に入ったところ、地下に大量の汚染水が漏れ出ているのを発見。格納容器の圧力抑制室などが破損し、水が漏れ出していたようだ。これでは冠水しようにも水が格納容器にたまらず、汚染水として外部に流出する恐れがあることが判明した。
このため17日、東電は冠水に替えて「循環注水冷却」を優先すると発表した。循環注水は水漏れの場所を修理せず、わざと漏れたままにする大胆な方法だ。水漏れは圧力容器、格納容器、原子炉建屋などで起きているとみられる。詳しい破損箇所は分かっていないが、あえて損傷を放置し、漏れ出た汚染水をポンプでくみ出して集中廃棄物処理施設に移送。水処理装置で浄化し、原子炉の冷却水に再利用する。
一見すると大幅な工程変更にも思えるが、東電に焦りは感じられない。それもそのはず。作業自体に大きな変更はないからだ。
実は、循環注水の手法は4月17日に示した最初の工程表に書いてある。汚染水処理の項目にある対策30「滞留水を保管可能な施設に移動」、対策38「水処理施設を設置、高レベルの汚染水を除染/塩分処理し、タンクに保管」、対策45「処理された水を原子炉冷却水として再利用」――などがそれだ。
事実、東電は循環注水に向けてこれまで準備を進めてきた。4月19日から集中廃棄物処理施設への汚染水の移送を開始。水処理装置も仏原子力大手アレバ社と米キュリオン社に発注し、6月の稼働を目指して搬入作業を進めている。稼働後は対策45で示す通り、処理した水を圧力容器に戻せば、循環注水は実現する。つまり循環注水は新たに出てきた方法ではなく、1カ月前に発表した方法の看板をかけ替えたに過ぎない。
冠水は以前から「水漏れが予想されるため実現性が薄い」「循環注水を先に手がけるべきだ」などと複数の専門家が指摘していた。ある専門家は「東電にも直接提言していた」と打ち明ける。
なぜ旧工程表では冠水にこだわったのか。「冠水は米政府から要請されたのではないか」と見る向きがある。冠水は米スリーマイル島原発事故以降、事故時に原子炉を冷やす方式として米国で検討されていた案だからだ。
東電は冠水を表向きは進めつつも、実際には炉心溶融(メルトダウン)や水漏れを想定し、代替手段の循環注水を準備していたのではないか――。そんな疑問もわく。
実際、東電関係者は「複数の方法を検討しながら作業を進めている」と明かす。工程表では明記していない選択肢が存在し、その1つが循環注水だったとすれば、計画通りだと強調した武藤副社長の発言もつじつまは合う。
ただ、「東電は最善のシナリオしか示していない」と危機管理の専門家は批判する。実際には複数のシナリオを想定して周到に準備していたのかもしれないが、それを伏せたままでは、行き当たりばったりの計画変更と区別できない。情報公開のあり方を再考しなければ、国民の不信はぬぐえない。
(科学技術部 川合智之)
東京電力、循環注水、アレバ、原子力発電所
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