青森県大間町に電源開発(Jパワー)が建設中の大間原発の建設差し止めなどを住民が求めている訴訟の第2回口頭弁論が19日、函館地裁(蓮井俊治裁判長)であった。東日本大震災の発生後、初めての弁論で、原告側は福島第1原発事故を引き合いに、大間原発の危険性を訴えた。過去、国や電力会社の計画に“お墨付き”を与えてきた司法。「あり得ない」とされた大事故発生を受け、今後の国の主張や裁判所の判断が注目される。
北海道とは津軽海峡を挟んだ対岸にある大間原発だが、函館市との距離は最も近い場所で約18キロ。福島と同様の事故が起きれば道民も避難対象になる。
この日の弁論で、原告側は与えられた約1時間半の大半を大震災関連に費やした。準備書面の中で広島工業大の中田高教授(地形学)らは、大間原発の耐震性について「国の設置許可後に付近に活断層が発見され、直下でマグニチュード7超の地震が起きる可能性がある」と指摘。原告側はさらに津波対策を新たな論点に挙げ「想定が最大4・4メートルと低い。5・7メートルを想定しながら約15メートルの津波が襲った福島と同じような事故が起きる可能性がある」と主張した。
これに対し、被告の国と電力会社側は答弁書で「調査やシミュレーションから、耐震性や津波対策に問題はない」と震災前と同様の主張を展開。原告側が指摘する活断層の存在を否定し、設計上考慮した活断層についても「極めてまれに地震が起きる可能性があるものの、安全性は損なわれない」とした。
また七飯町と大間町の住民がそれぞれ意見陳述し「我々はありもしないことを言っていると嘲笑(ちょうしょう)され、オオカミ少年呼ばわりされた。福島の事故を見ればそうではないことが分かってもらえる」と訴えた。【佐藤心哉】
震災前まで国内で稼働していた原発は、点検中を含め54基ある。住民が設置許可の取り消しや運転差し止めを求める訴訟は約40年前から全国で起こされてきたが、請求が認められたのは、もんじゅ訴訟の2審判決(03年1月、名古屋高裁金沢支部)と、志賀原発2号機訴訟の1審判決(06年3月、金沢地裁)の2件だけだ。いずれも上級審で判決は覆り、住民の訴えで原発の建設や運転が止まったケースは一度もない。
震災後に菅直人首相の「東海地震に耐えられる防災体制が必要」との要請で全面停止した浜岡原発(静岡県)を巡る訴訟でも、1審の静岡地裁は07年10月、「国の安全基準を満たせば重要設備が同時故障することは考えられない」として住民側の請求を棄却した。だが、非常用発電機の同時故障に起因する放射能漏れ事故が、実際に福島第1原発で発生。これまで全原発を容認してきた司法の姿勢も問われている。
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■大間原発訴訟の主な争点
◆耐震設計
設置許可後に新たな活断層が近くで発見されたにもかかわらず、耐震設計を変えず建設している
原発付近に原告側が主張する巨大な活断層は存在しないことを確認した。耐震設計に問題はない
◆噴火の想定
建設地は火山帯の上にあるが、国の安全審査基準がないため噴火被害が想定されていない
原告が主張する火山が噴火したとしても溶岩流などが原発に及ぼす影響は小さく、考慮の必要はない
◆津波対策
大間原発は震災後も津波の想定を変えておらず、福島第1原発と同様の事故が起きる可能性がある
最大4.4メートルの津波を想定しているが、原子炉建屋の標高は12メートルで影響を受けることはない
毎日新聞 2011年5月20日 地方版