2011年3月27日 12時59分 更新:3月27日 17時51分
東日本大震災後に出された緊急地震速報で、地震の規模や震源地を誤るケースが多発している。原因の一つは、震災で使えなくなった地震計があることだ。使えない津波計も多く、今、大きな地震や津波があっても、震度や津波の高さが分からない地点もある。観測網の崩壊を防ぐ手だてはなかったのか。【飯田和樹】
「停電、通信回線途絶、物理的なダメージの3通りが考えられる」。気象庁地震火山部管理課は被災地の地震計や震度計、津波計からのデータが途絶えた理由を説明する。
データダウンした地点数が最大だったのは大震災から約24時間後の12日午後2時ごろ。震度だけでなく地震波形なども観測して緊急地震速報の発表に活用する「地震計」は東北26地点中19地点、「震度計」は同88地点中48地点がダウンした。津波計は全国183地点中31地点のデータが入手できなくなった。
26日午前9時現在でも、地震計2地点、震度計8地点、津波計19地点が復旧していない。「いまだに復旧の見通しが立たないものもある」という。
気象庁が現地を調査すると、青森県八戸市や岩手県宮古市の津波観測点は建物や装置ごと津波に破壊されていた。大震災時に震度5強を観測した千葉県香取市の震度観測点は、震度計を設置した小屋が地盤の変形で大きく傾き、正確なデータが取れなくなっていた。
データダウンの弊害は少なくない。大震災後、緊急地震速報の発表基準となる最大震度5弱以上の揺れ(速報値)を観測したにもかかわらず、緊急地震速報が発表されなかったケースが5回あった。一方で、速報を42回出したのに震度3以下だったケースが17回あり、うち2回は揺れが観測されなかった。
同庁の内藤宏人・即時地震情報調整官は「データダウンの影響で、被害が出るレベルの地震が起こりやすい地域ほど、速報が出せなくなった」という。震源の位置や地震の規模を間違え、出さなくてもいい地域に出すケースも多く、内藤調整官は「『速報が出たのに揺れないのはなぜだ』などの問い合わせの電話が1日数十件あった」と話す。
現地の被害状況を正確に把握できない状況にも陥った。津波の最大波のデータはいまだに得られない。地震から3日後には、津波発生の虚報が流れたことがあったが、同庁は潮位確認を外部に頼るほかなかった。
今回の事態は、マグニチュード(M)9という想定外の地震が引き起こした。だが、震度計については想定外とばかりはいえない。95年の阪神大震災だけでなく、04年の新潟県中越地震でも、停電や通信回線の途絶を理由に震度データが伝送できない事案が複数発生し、問題化していたためだ。
総務省消防庁は中越地震後、「次世代震度情報ネットワークのあり方検討会」の最終報告書をまとめた。報告書には、震度計に望まれる機能とともに新潟県中越地震などの反省を踏まえ▽大規模地震時に震度データ伝送の確実性向上のため、衛星系回線と地上系回線による多重化の速やかな実施▽全ての設備・機器において停電時における電源確保を確実なものにする--ことなどが盛り込まれた。
しかし、気象庁は阪神大震災直後に衛星系回線との多重化を進めたが、実施したのは都市部を中心とした284地点のみ。非常用バッテリーは全地点で整備済みだが、機能するのは停電後わずか1日程度だ。
同庁管理課の橋本勲調査官は「理想は全地点の回線多重化だが、これまで優先度が低く、予算要望もしなかった。バッテリーの問題も、ここまでの停電長期化は考えなかった」と話す。
津波計や地震計も、技術的には回線の多重化は難しくない。橋本調査官は「どのデータも現地の状況を知ったり、2次被害を防ぐため重要。今回は最初に各地の震度の情報を出せたという点は、阪神や(震度7の発表が遅れた)中越の教訓を生かせた部分。ただ、現状ではいけないと考えている」と説明する。観測データを気象庁に送る回線の多重化や、観測機器の非常用バッテリーの容量強化を検討するという。
防災システム研究所の山村武彦所長は「観測機器のバックアップ体制を敷くのに、それほど費用がかかるとは思えない。今回のことを想定外という言葉でごまかしてはいけない。防災に関する予算の優先順位を見直すべきだ」と話している。