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[27875] (習作)歌姫とノッポのプロデューサー(iDOL M@STER meets fate)
Name: たぬき◆f99c5be9 ID:aabf4d13
Date: 2011/05/19 22:05
初投稿となります。
ニコニコ動画でアイマス関連動画を見ていたらなんとなくSSを書きたくなり、書きだしました。どなたか読んで感想をいただければ望外の喜びです。
Fateと絡めたのは赤い人が好きだからで深い意味はありません。この二人は意外と気が合うのではないかな?と思っただけです。ただ、英霊にいたるまでの物語は意外に少ないので、どの様に書いていくのかは未だに悩ましいところです。
どなたか感想書いていただけてポジティブな物が多いなら続きをひねり出し、無ければ黒歴史へとなると思います。

アイマスもfateも知識不十分なので、なんじゃこりゃと思われる事や、ご都合主義に走る事もあると思いますが御容赦いただければと思います。



[27875] (習作)歌姫とノッポのプロデューサー(iDOL M@STER meets fate)
Name: たぬき◆f99c5be9 ID:aabf4d13
Date: 2011/05/21 01:37
大通りから1本外れた路地にある公園。ここは師走の喧噪から離れ、静かな面持ちを保っている。
周りは中小のオフィスビルが立ち並んでいるが、今日が土曜日で午後も8時を過ぎているからだろうか、大半の窓の明かりは消え、ひっそりとしている。
そんな公園で、一人の少女がブランコを所在なさげに揺らしていた。
彼女の年のころは15から16歳、高校生くらいだろうか。青みが掛かった美しい黒髪と、普段は凛々しいであろう黒く大きな瞳と目元が特徴的だ。
体つきは同年代と比べて少しスリムにすぎるであろうが、容姿は人並みを遥かに越えて美しかった。
彼女は、かなり前に自身の仕事場である事務所を出たはずなのだが、その後数時間を過ぎても足を家へ向けることが出来ないでいた。
家での離婚瀬戸際の両親の冷え切った会話が脳裏をよぎる。どうせ家に帰っても居心地は最悪だ。正直帰りたくない。
ここは、彼女の仕事場からそんなに遠くはない。
普段、彼女は、帰宅が遅いため仕事場から直接、自宅まで車で送ってもらっている。だからそんな思考が入り込む余地はない。
だが今日はたまたま仕事が早く終わり、自ら公共交通機関を利用して帰宅するという稀なケースであったため、出口の無い思考の罠に陥ったのだった。

「寒い・・・。」

12月の冷気が都会の公園でブランコに一人座る彼女を容赦なく包み込む。このまま外に居続ければ風邪をひてしまうかもしれない、そうなれば彼女にとって命である声 ― 歌声 ― に影響が出てしまう。
彼女もそれだけは避けなければとわかっているのだが・・・。
「しかたがない。こうしていても何も始まらない。」
彼女はうつむいた顔に垂れていた美しい黒髪をかきあげブランコから立ち上がった。

「ねぇ、君一人?ヒマなの?」

公園の端のブランコに近い路地から下卑た声が彼女にかかる。

「俺らも、ヒマなんだよね。」

「そうそう、どっか行かない?」

18歳か19歳くらいだろう、いわゆる「いかにも」な大柄の「少年」三人が彼女の前にたちはだかる。
思わず彼女は腕を抱き、後ずさる。
口ひげを生やしダウンジャケットを羽織った体重100キロに近いだろう巨漢の「少年」が言う。

「おーっ、ちょっとかわいくね?」

「もしかしてキミ「タレント」か何か?」

バサバサに立ち上がった髪をピンクにそめた、細目でやせ形の「少年」が口を開く。

「わ、わたしは、その・・・。」

彼女が、良く通る声で返すが、歯切れが悪い。

「えっ、マジ?おれファンになる。」

はっきりと否定しないことを肯定と捉えたのか、身長が185センチはある黒人とのハーフと思しき筋肉質の「少年」が調子のいい言葉を発する。
それにつられて残りの二人が弾けるように笑う。

「えーっ、じゃあさ、ファンサービスで頼むよ。」

「さんせー」

「少年」達が勝手な言葉を次々に連ねて行く。

「わ、わたしは、これから家に帰るので・・・。」

彼女が拒絶の姿勢を示すが、いかにも弱々しい。あるいは、もう恐怖で声が出ないのか。
「少年」達はかまわず、さらに言葉を並べて行く。

「へーっ、じゃあ今日はもうヒマ決定だね。」

「ラッキー」

「どこがいい?飲み?クラブ?」

「わたしは行きません!」

今度は、彼女が振り絞った勇気で発した明確な拒否の言葉。
だが、「少年」達にとってはそれも当初の予定通り。

「ファンサービス、ファンサービス」

今度は彼女の肩を掴んで強引に連れて行こうとする。

「とりあえず、クルマのせるぞ。」

「オッケー」

「イヤ、たすけ・・・むぐぅ」

「少年」達は、彼女の口を塞ぎ、体を拘束する。これは、もう犯罪だ。

だれか、助けて・・・。彼女が声にならない声を叫んだ時、

「ぐはぁ」

彼女の腕の自由を奪っていた、三人の中で一番大柄なハーフの「少年」が猛烈な勢いで5、6メートルほど地面を転がる。

「ファンサービスだと?たわけが・・・。誘拐だぞ。」

いつの間にか、三人の「少年」の後ろに立つ男が蹴り足もそのままの姿勢で警告の言葉を発する。

「てめぇ、なんだ?」

「いってーな、ケツ蹴りやがって、このクソが」

今しがた、蹴り飛ばされた「少年」もゆっくり立ち上がり、男に罵りの言葉を吐く。

「た、たすけて。」

体と口の拘束が解けた彼女が藁にも縋る思いで言葉を発する。

「おまぇは、関係ねぇだろ。すっこんでろよ。」

口ひげの「少年」がゆっくり近づき男の胸倉をつかむ、掴んだ「少年」の腕から、ちらりとバラとスケルトンをかたどったタトゥが覗く。
だが、次の瞬間「少年」は胃液を散らしながら派手に音を立てて前向きに倒れ込む。
男のヒザが口ひげ少年の分厚い腹部を打ち抜いたのだ。

「不用意に相手に掴みかかるのは感心せんな。相手を掴んで固定するという事は、相手から見れば己も固定されているという事に他ならない。」

思わぬ展開に、彼女は現れた男を見る。
服装は黒色のコートに、カーキのワークパンツ、黒の長そでシャツ。靴はワークブーツ。まるで軍人のようないでたちだ。
背丈は大柄な「少年」達よりさらに大柄で、190センチはあるだろうか?
特筆すべきは、暗闇に浮かぶオールバックに撫でつけたその髪の色と浅黒い肌の色。

「白髪に黒い肌・・・外国人?」

というわけではないようだ。その証拠に街灯に浮かぶその顔つきは、ほりが深いといっても東洋人の範疇だし、先ほど聞いた言葉のイントネーションも同様に日本人のそれだ。

「テツジ!」

口ひげが倒れ伏すのと同時に、ハーフの「少年」の鋭い声が飛ぶ。

「てめぇ、よくもテツジを・・・。」

「ふん、ありきたりのセリフだな。」

「ぅるせぇ」

男と2メーターほど離れた距離からハーフの「少年」が大柄のリーチと黒人特有のバネを生かし、鋭く踏み込み男の顔面を右のコブシで狙う。
バネの効いた一撃は、食らえばタダでは済むまい。だが男はことさら何でも無いことのように左に少し首と体をひねってそれをかわす。
「少年」が、右コブシを戻しつつ、さらに左の二打目を放とうとする。
瞬間、男が一打目の戻しに合せて狙い澄ました左の一撃 ―コブシでなく掌底― を「少年」の右あごにたたき込む。
ハーフの「少年」はゆっくりとスローモションのように膝を折り倒れ込む。
白目をむいているところを見ると完全に意識を失ったようだ。

「さてと、次はどうする?」

男は余裕を持って最後の一人、ピンク頭の「少年」に向きなおる。
「少年」は5メートルほどの距離をとりながらゆっくりと右ポケットに手を入れる。
少しやせ過ぎに見える「少年」が上着の右ポケットから何かを取りだそうとする。
ナイフ!と彼女が認識したその瞬間、ピンク頭の目が驚愕に見開かれる。彼女も同様に驚愕した。
男が、ナイフをポケットから取り出す途中だったピンク頭の右腕の手首を握っている。

「いつの間に・・・」

彼女の眼には男が踏み込む瞬間が全く見えなかった。ピンク頭も同様だろう。
その驚きようがそう物語っている

「いだああああああああああああああああっ」

ピンク頭が唐突に叫び声をあげる。

「どうだ、なかなか効くだろう?強化を用いずとも私の握力は軽く100キロを超えているのでな。」

見れば、男が皮肉げに口の端をゆがめピンク頭にささやいている。
「強化」とは何か分からないが、どうやら男が「少年」の手首を強烈な力で握り込んでいるようだ。ナイフがポロリと「少年」の手から落ちる。

「あの二人を連れてこの場を立ち去る気はないか?もっとも、あくまで、頑張るというのならそれでも一行に構わんが。」

「わかった!わかった!立ち去る!立ち去るから!手を、手を離してくれ」

「ん?よく聞こえんのだが?」

「うああああああああああああああああああああああああああああああ お、お願いします。手を離してください!お願いします。」

ピンク頭が恥も外聞も無く懇願する。

男が、握り込んだ腕にさらに力を込めたようだ。

「ふん、ならばさっさっと消えろ。」

男が握っていた手を離したその後の5分の間に、ピンク頭は必至で口ひげとハーフを起こし、蹴飛ばし、目を覚まさせ公園から消えた。

「なんか、ああいうのを見ると切ない気持ちになるな・・・。」

「少年」三人の必死の退場シーンを見ていた男がぽつりとつぶやいた。
その言葉を合図にしたように彼女はペタンと地面に腰を下ろした。
どうやら気が抜けたようだ。そう、ともかく、彼女は救われたのだ・・・。

「久しぶりに日本帰ってみればこれか・・・。まったく・・・。」

と独り言をつぶやく男は、ようやく彼女が地面に座り込んでいたことに気づいた。
「立てるか?」男が手を差し出し、彼女は呆然としながらもその手を恐る恐る握った。
次の瞬間、ふわっと浮かぶような感覚とともに彼女の体は引き上げられ立ち姿勢をとらされた。男がそっと手を離そうとするが、まだ体がふらついてしまう。

「大丈夫か?そこのベンチまで歩けるか?」

男が彼女の手をとって支えつつ気遣わしげに彼女に声をかけてくれる。
「大丈夫です。」彼女は気丈にも回答をするが、とても言葉通りにはいかないようだ。
彼女は男の手を借りて何とかベンチにたどり着いた。
男は目の前の自動販売機から暖かい緑茶とミルクティーを買い彼女の眼の前に差し出した。

「どちらが、好みかな?」



[27875] (習作)歌姫とノッポのプロデューサー(iDOLM@STER meets fate)
Name: たぬき◆f99c5be9 ID:aabf4d13
Date: 2011/05/21 01:45
「本当にありがとうございました。」

緑茶をすすった彼女はようやく人心地ついたらしい。男に助けてもらった礼を言う。

「いや、そんな礼を言われるようなことでは無い。ともかく君が無事で何よりだ。」

男が返事をする。

「表通りを歩いていたのだが君と奴らのやり取りが聞こえたものでね。」

サラリと男がとんでも無い事を言う。

「えっ、でもここは通りから結構離れていますよね。」

彼女は、思わず振り返って距離を確認する。通りから一本入っているから30メーターはあるはずだ。

「私は割と五感が鋭くてね、視力ほどではないが聴力もそれなりに自信がある。」

「そ、そうなんですか・・・」

彼女は信じられないものを見るような目つきだ。若干顔も引きつっているかもしれない。
ところでと、男が続ける。

「君のような女性がこんな時間に一人で出歩くのは感心しないな。」

「いえ、出歩いていたわけではなくて・・・。仕事の帰りだったんです。」

「仕事?君の年頃で?ふむ・・・。先程奴らが君の事を「タレント」と言っていた
ようだが?」

男の視線が彼女に向けられる。

「ええ、「アイドル」です。まだ駆け出しですが・・・。すぐそこにプロダクションがあるんです。765プロダクションて変な名前なんですけど。聞いた事ないですよね?うちは弱小ですから。」

少し寂しげに彼女は説明を加える。

「すまない、もともと余りテレビを見ない上に、海外暮らしが長かったのでね。」

男も間接的に彼女の言葉を肯定する。

「さあ、君もそろそろ帰ったほうが良い。一日に二度も危険な目に合っては洒落にならない。ご両親も心配するだろう。」

男は缶のミルクティーを飲み干し彼女に声を掛ける。

「ええ、ありがとうございます。そうですね、これ以上ご迷惑を掛けられませんし。」

彼女の暗さを含んだ返事に男が顔をしかめる。

「家には、あまり帰りたくないのか?」

「いえ・・・、そう言う訳では・・・。」

彼女のあいまいな返事に、おそらく当たりなのだと男は推測した。だが、これ以上は初対面の行きずりで出会った男が踏み込むべき領域ではないだろう。
何か彼女の苦しみを和らげられる手段があれば良いのだが・・・。と男は考えた。

「そうか・・・なら良いが。できれば、私が君を自宅にでも送っていければ良いのだが・・・。大丈夫だとは思うが、さっきの仲間や同類がうろついていると厄介だな。」

二人はゆっくりと表通りに向かって歩き始める。

「いえ!送っていただくなんて・・・。これ以上お手間をとらせられません!」

「ふむ・・・。では、これを持って行ってくれ。」

男は胸のポケットから銀に輝く親指ほどのペンダントヘッドのようなものを差し出した。
それは西洋の剣を象った物だろうか?なにか見たことの無い文字のようなものが何箇所かに掘り込んであり、紐を通せば首から掛けられるようになっている。

「えっ、それシルバーのアクセか何かじゃないですか?助けてもらった上にそんな高そうなものを受け取れません。」

彼女の言う事はもっともだろう。人は一方的に借りを作るだけでは、重荷になる。

「これは、アミュレット(護符)と言ってお守りのような物だ。君は信じないかもしれないが、とある魔術師が作成したものでね、効果は折り紙つきだ。きっと君を災厄から守ってくれるだろう。」

「はあ、魔術師・・・ですか?でも、そうだとしたら、尚更そんな大切なもの受け取れません。」

彼女の意思は固そうだ。

「では、君に貸すということでどうだ、次に私に会った時に返してもらえればいい。私としては君を連中から助けた以上、責任をもって安全な場所に送り届けたいところだが、このままでは中途半端になってしまう。私はそれが心苦しいのさ。だから私の心の重荷を減らす手助けと思って預かってほしい。」

「・・・・分かりました。そういうことでしたら。ありがたくお借りします。」

彼女としては既に身の危険を振り払ってもらった時点で自分には借りがあるはずで、その相手からさらに、貴重品と思われるものを無理矢理「借りてくれ」と言われ受け取る事に抵抗が無いわけではない。
だが相手の気持ちに応えることで少しでも借りを返すことになるのではと考え、申し出を受けることにしたのだった。

「そうしてくれると助かる。これで、私としても気が楽になった。」

男の眉宇が緩む。言葉のとおり心底そう思っているようだ。
チンピラ相手にあんな大立ち回りを演じたかと思うと、一転して彼女に対して繊細な心遣いを見せる、そのギャップを見せられて彼女はクスリと笑い思わず本音を漏らす。

「あなたは、本当に変わっていますね。って、私、恩人になんて事を!」

笑った顔をあわてて真顔に戻そうと取り繕う。

「やっと笑顔が出たようだな。やはり君はそういう表情の方が似合っている。その可愛らしさは、さすが「アイドル」といったところか。」

男の思いがけない言葉に彼女は赤面する。

「へ、変な事いわないでください。は、恥ずかしいです。」

男はそれを見て、くっくっと、忍び笑いをする。

「もう・・・。」

とうとう彼女は膨れっ面だ。
師走の街を大勢の通行人が行きかう大通りに出たところで彼女が申し出た。

「ここまで来れば大丈夫です。今日は助けていただき本当にありがとうございました。今度お会いする時まで、このアミュレットは大切にお預かりします。」

「ああ、そうしてくれると嬉しい。では、ここでお別れだな。君も今日は早く帰るんだぞ。」

「はい。」

男が踵を返して立ち去ろうとした時、また彼女が声を掛けた。

「あっ、待ってください!」

男が、立ち止まり怪訝そうに振り返る。

「どうした?」

「えっと、私は如月千早、駆け出しのFランクアイドルです。私まだ、あなたのお名前を聞いていませんでした。」

「ああ、お互いまだ自己紹介が済んでいなかったか。私の名はエミヤ、衛宮士郎だ。お互い縁があれば会えるだろう。では、またな。」

そして今度こそ、二人はそれぞれ街の灯りの輝く都会に溶け込んで行った。まるで、お互いが出会った事など幻であったかのように。
しかし、既にお互いが見えない糸で繋がれているとは、どちらもこの時はまだ気づいていなかった。



[27875] (習作)歌姫とノッポのプロデューサー(iDOL M@STER meets fate)
Name: たぬき◆f99c5be9 ID:aabf4d13
Date: 2011/05/21 21:09
引き続きアップしてみました。読んでいただければ幸いです。
ご指摘いただいたので、既に投稿した分について改行いたしました。
多少でも読みやすくなっていればいいのですが。

千早~ タイナカサチのimitation 歌ってくれ~

*************************************
衛宮士郎はその朝、日本滞在時の定宿である都内のビジネスホテルで、いつものように朝5時過ぎに目を覚ました。
簡単に身支度を整えるとホテルの外へ出て体を動かすため公園へ向かう。
空は晴れ渡っているせいか、外へ一歩出ると刺すような冷気を感じる。

「今日はかなり冷え込んだな・・・。」

つい最近まで、暑さ厳しい国外で過ごしてきた彼には日本の冬は一段と厳しく感じる。
もっとも、そんな事で行動が制限されるほど彼は温い鍛え方をしていない。
一年で一番昼の短い12月のこの時期、この時間は未だ夜の様に暗い。
10分ほど歩くとブランコと鉄棒だけの小さな公園がある。そこでいつものように柔軟体操を始める。
足裏を伸ばし、肩の筋をのばす。同時に自らの体調を確かめつつ体の曲げ伸ばしを行う。

「トレースオン・・・」

次に彼は、自己のイメージにリアリティを与え、イメージしたそれをその手に生み出す。
現れたのは二振りの木剣。彼はそれをしっかり握り直すと、ゆっくりと左右同時に上から下へと素振りを始めた。
彼は自らの内にしみ込ませた型をなぞるようにゆっくりと振るっている。
だが、その振り一つ一つは、まるで鉄棒を振るうかのような盤石の重みを感じさせる。
30分程振るったであろうか、彼の額にはうっすらと汗が浮かぶ。

「こんなものか。」

次に、一転して実戦さながらに二刀を振るう。
目の前に見る敵の幻は、彼とは違う生き方をし、かつて戦ったもう一人の自分、自身を亡きものにしようとした赤い英霊。
二人は誰も目にすることの無い至高の剣舞を舞う。
英霊の幻が士郎の左肩を狙い袈裟切りに右の黒刀を振り下ろす。
彼は左刀で相手の刀身の反りをおさえつつ一撃をいなした。そして同時に前へ出つつ彼は右刀で、英霊の幻の伸びた右腕を切りつける。
途端に幻は左に大きく体を翻して一回転するやいなや左の白刀を立てて士郎の首筋を狙い右から切りつけた。
士郎は大きく下がりその一撃を避ける。しかし大きく開けたはずの間は、一瞬で詰められ英霊の幻が今度は右手で逆袈裟を切り上げる。
彼は両剣を胸前でクロスし必死に止める。
受けに回ってしまった彼に対して幻は左右の袈裟切りを切れ目無く打ちつける。対して士郎は受けにまわりつつも反撃の機会を待った。
しかし英霊の幻から放たれる双剣の乱れ打ちに後退を余儀なくされる。
だが彼は下がる途中で一歩の歩幅を大きく変え、幻の敵に彼との間合いを読み違わせようと試みる。
はたして試みは成功し、彼と幻の間合いは再び大きく開けられた。そこに再び、幻が神速の踏み込みを持って間を詰めに入る。
先程の再現になるかと思われたその踏み込みを士郎が、大きく飛び越してかわし、空中で前方に回転しつつ英霊の背中を切りつけるという捨て身の大技を見せ攻守を入れ替える。
だが英霊の幻は当たり前のようにその背に剣をかざし士郎の渾身の一撃を防いだ。
そこで再び互いの間は開き、今度は一転して膠着となった。

「はあっ、はあっ」

さっきの一撃は危なかった、と士郎は一人心の内でつぶやく。
全身に冷たい汗が吹き出し、脇と額を伝ってしたたりおちる。
こうして幻と対峙していると奴の人を小馬鹿にしたような笑みまで見えてくる。
だが、その幻が浮かべる皮肉げな笑みは、今の自分が浮かべるそれと、どれほど違いがあるのだろうか?
おそらく見た目に違いは分らないだろう。
ならば今の自分と奴の違いは何処にある。

かつて、士郎が赤い英霊と闘った時、英霊は彼の目指す生き方も、想いすらも偽りだと喝破した。
だが逆に彼は、例え想いや理想が偽りであろうと、ひたすら信じ、目指し続けるのならば本物であると言い切った。
ならば、今の自分は、あの時の自分に恥じぬ生き方をしているのだろうか?
しているとは言い切れない、だが、していないとは決して言ってはならない自分。
未だ彼は信念を賭けて赤い英霊と戦っている途上なのだと思い知らされる。

「ならば、負けるわけには行かない。」

士郎は再び、皮肉げに笑みを浮かべる赤い英霊の幻に向かい剣を振るった・・・。

そろそろ6時半近くになる。人々が外で活動する時間帯だ。
辺りに人払いの魔術を掛けてはいるが、もう切り上げる頃合いだろう。
荒い息を落ちつけ残心をしつつ木剣を下ろし、下ろしたそれを一瞬で幻想に返す。
汗が額から滴り落ちる。
ふと、ブランコに目が行き、昨日助けた少女のことに記憶が届く。

「如月千早だったか・・・。無事に帰っているだろうか?」

多分大丈夫だろう・・・。別れ際に見せた彼女の笑顔を思い出しつつ思考を漂わせる。そして自身で彼女に言った言葉に行き着いた。

「縁があればまた会えるだろう。」

そこで、彼は思考を切り替えホテルへの帰途についた。



[27875] (習作)歌姫とノッポのプロデューサー(iDOL M@STER meets fate)
Name: たぬき◆f99c5be9 ID:aabf4d13
Date: 2011/05/21 02:35
ホテルに帰り、シャワーを浴びて服を着替える。
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出しそのまま口をつける。先週まで彼がいた場所では、その行為すら至上の贅沢であった。そこでは井戸まで数キロの道のりを歩き水を汲む。
それは年端もいかない子供の仕事であった。そしてその水は少し塩味がした。
リモコンを拾いテレビをつける。朝のワイドショーが相も変わらず芸能人の一挙手一投足について、どうでもいい事を これまたどうでもいいコメント付きで垂れ流す。

「次の話題です。昨日、アイドルの星井美希ちゃんが一日消防署長として・・」

世界のあまりの違いに、やるせない気持ちで思わずつぶやく。

「場所が変われば、色々変わるものだ。」

ひと心地ついたところで、朝食をとるためにコートを羽織り、再びホテルの外に出る。
ホテルにあるカフェで朝食をとっても良かったのだが、日本滞在での定宿となっているため、その味は正直食べ飽きていた。
少し歩いて別のホテルのカフェへ向かう。
そこはビジネスホテルでは無く、れっきとした大手鉄道会社の名前を冠したシティホテルであった。入口にはリボンをかたどったイルミネーションとクリスマスツリーが大きく飾り付けられ、クリスマス気分を盛り上げている。
玄関に入る時、ボーイからチラリと咎めるような視線を受ける。
オリーブグリーンのワークパンツとブーツを履いた士郎は、どうも客として彼のお眼鏡に適わなかったようだ。しかし、士郎はそんな事に頓着することなく中に入る。
中のロビーは吹き抜けになっており、外よりさらに巨大なクリスマスツリーとイルミネーションが設置され飾りを施されている。
周りを見渡しカフェを探す。左の少し奥まった先にカフェの一角が目に入り、そちらへ向かう。
カフェの一角は表通りより高く作られており、外には大きな樹木を何本も植えて通りからは中を見通せないつくりになっていた。そのため、店の通りに面した部分についても大きくガラス面がとってあり、店内はかなり明るい雰囲気になっていた。
店に入ると20代前半の年若い男性スタッフがすぐに彼を席に案内しようと声をかけてくる。

「Good morning,sir.」

このスタッフが士郎を外国人と思ったことは明らかだ。思わず苦笑いをする。この容姿になってからは、しばしばあることだ。

「I m Japanese. I d like to have a breakfast here.」

「た、大変失礼いたしました。」

慌てて、スタッフが頭を下げて詫びる。

「いや、かまわんよ。割とよく間違えられる。」

スタッフが恐縮しつつも彼を窓際へと案内する。その席は先程歩いてきた通りに面した明るく眺めの良い席だった。おそらく彼なりのお詫びとサービスなのだろう。

「紅茶とクラブハウスサンドを」

「かしこまりました」

士郎はメニューをほとんど見ることなく注文をする。
程無くして、注文の品が運ばれてきた。
士郎が紅茶を飲もうとカップとソーサーに手をかけた時、タイミング悪くマナーモードの彼の携帯電話が震えた。
彼にしては珍しく少し慌てて、電話を取る。
むろん着信画面を見る余裕は無い。

「もしもし」

「おはよう、衛宮くん。久しぶりね。」



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