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[27903] 【習作】ISFD~俺の生きる道~ (インフィニットストラトス ※一夏改変モノ)
Name: 改太◆853c263a ID:da7e6e21
Date: 2011/05/21 07:19
 どうも、初めまして改太です。昨今の時流に乗って、ISの二次創作なんて書きました。この作品を見る上で注意事項です。

①一夏のキャラが原作とちょっと(?)違います。
②ヒロインは今のところ未定です。
③作者はダルシムのドリルキックの真似をして骨折した経験を持つバカです。
④え? そんな奴が書いてるのって大丈夫なの?
⑤多分、大丈夫です。
⑥小学校の昼休みや、掃除の時間中に、二重の極みとか牙突とか天翔龍閃とか練習してた人なら大丈夫です。根拠はありません。

 というわけで以上の事を注意して読んで下さい。ちなみに⑥に関しては作者は、中学に入学してもやってました。



[27903] 第一話 フリーダムな新入生
Name: 改太◆853c263a ID:da7e6e21
Date: 2011/05/21 07:21
 『好きなように生きろ』

 俺こと織斑一夏が尊敬する人の言葉で、最も好きな言葉だ。

 だから俺はその様に生きてきたつもりだ。中学校の時、理不尽な理由で怒られて人の話を全く聞こうとしない教師の車のボンネットに大きく十円玉で『ボケ』と書いたり――大体、怒られて1ヶ月ぐらい経った頃にするといい――、全校集会で教壇の所にエロ本を置いてみたり、卒業文集で読書感想文を書いてみたりと、俺は自分が面白いと思った事は即実行して生きてきた。

 まぁその後、何度もお姉ちゃんと妹に怒られたけどな!

 誰だって自分の好きなように生きて、人生を思いっ切り楽しむ事が出来れば世の中きっと平和になるんじゃないだろうか。

 などと殊勝な事を3年に1回ぐらい考えながら俺は今日も俺らしく1日を送る。

 とりあえず今日は高校の入学試験。

 受ける高校の名前は私立藍越学園。俺がここを受ける理由は2つ。『学費が安い』という事と『就職先が安定してる』というまぁ不景気と就職氷河期の時代において何とも素晴らしい謳い文句だった。

 ちなみに俺、学校の成績はトップを維持している。理由は一つ。『成績が良けりゃ多少のやり過ぎも教師は目を瞑ってくれる』からだ。

 たとえば『一流大学確実なぐらい成績が良いが素行の悪い生徒』と『留年ギリギリ成績下位で素行の悪い生徒』だと教師の反応はまるで違う。えてして教師の目は後者に向くのだ。

 生憎、俺は『生徒に違いなんてない!』や『懲戒免職が何だ! お前を立派に更生させてやる!』や『お前達は腐ったミカンじゃない!』とか言うような熱血教師に会った事がない。とりあえず自分の生徒から一流大学を出して株を上げようとするリーマン教師ばかりだったので、成績で上位を保てれば多少の素行の問題は軽い注意で済んだ。

 うん、大人汚い。

 とまぁ俺は俺の生き方につまらない邪魔や茶々を入れたくないので、成績は学年上位を保つ。なので高校入試はハッキリ言って楽勝である。具体的に言うと、レベル12ぐらいでカンダタに挑む感じだ。

 あれ? 具体的に言ったつもりなのに逆に解りにくいぞ。しかも楽勝かどうか微妙じゃね、これ?

 しょうがない。別の例を挙げると、ジャギがアミバと戦うようなもんだ。あれ? アミバがジャギだっけ? つか、こいつ等どっちが強いんだ?

「ジャギかアミバか・・・アミバかジャギか・・・兄か天才か・・・仮面か偽者か・・・ジャギ、アミバ、ジャギ、アミバ、ジャギ、アミバ、ジャギ、アミバ、ジャギ、アミバ・・・俺の名を言ってみろうわらば・・・・・おや?」

 『ママ~。あのお兄ちゃん、ネタキャラの名前言いながら歩いてるよ~』、『しっ! 見ちゃいけません! ちなみにお母さんはジャッカルが割と好きよ』とかお約束な台詞を言われるであろう俺は、試験会場を歩いている間に道に迷ってしまっていた。

 ちなみに入学試験は去年に発覚したカンニング対策の為にその高校で行わず、多目的ホールを使用しての事となった。他の高校の入試も同時に行われている為、かなり広い場所を使用している。

 マ、マズイ・・・このままでは俺は『世紀末的な漫画の事を考えてて入試を受けれず不合格』という史上初の中学生になってしまう。

 ・・・・・・・・・それはそれでおいしいかかも。

 いやいやいや! 流石にマズいぞ。受験失敗して、中学留年なんてしちまったらお姉ちゃんに怒られる! 後、妹にまた馬鹿にされる!

「落ち着けイッチー。俺はやれば出来る子だ。こういう時こそ第六感を働かせろ。そうだ小宇宙(コスモ)を燃やせ! 目覚めろ俺のセブンセンシズ! あ、コレ六感じゃねぇや」

 俺は額に指を当てて受験会場を探る。余談だが、このポーズで瞬間移動の練習を小三の頃までしていたのは俺と君だけの秘密だ。誰だよ、君って。

「む!」

 ビビッと俺は感じた。前方にある扉。あそここそ俺が受ける私立藍越学園の試験会場だ。俺は職員さんに怒られるなどお構いなく、試験会場の扉に向かって走り、扉を開いた。

 何か『関係者以外立ち入り禁止』とか書かれた張り紙があったような気がするけど今の俺は視覚より直感を信じる!

 俺は未来に続く扉を思いっ切り開いた。



「右を見ても女子。左を見ても女子。前を見ても女子。後ろを見ても女子。上を向いても・・・空しか見えねぇや」

 後、下見ると地面しか見えないので、とりあえず前後左右は俺以外は全て女子ばかりだった。

 真新しい白い制服に身を包み、俺は巨大な学園に一歩足を踏み入れた。

 未来へ続く扉を開いた結果、俺は何故か私立IS学園に入学してしまった。

 IS学園と言うのは、IS――インフィニット・ストラトスを扱う人間を養成する世界で唯一の学園だ。

 ISとは一言で言えば『現在最強の兵器』だ。

 当初は宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーマル・スーツだった。しかし、宇宙で活動きても、宇宙へ進出する方は全くもって進まない。まぁつまり『デートで着ていくブランド物の服を買ったは良いが、電車に乗れずデートに行けなかった哀れな男』という事だ。うん、いまいち解らん。

 まぁ早い話が宇宙進出計画は頓挫。しかし、スーツ自体のスペックは高く、お偉いさん達は『兵器』としての転用を考えた。が、アラスカだかマラカスで『戦争ヨクアリマセェーン。平和ニ解決シマショー!』という様な話し合いが行われたらしく、ISは現在、『スポーツ』の枠に落ち着いている。

 でも空飛んでビーム撃って剣使ってミサイル防ぐISをスポーツで括れる筈がない。そんなのはただの建前で、どの国もISの研究を日夜進めてしっかりと軍事利用してるけどな。

 でもISには実は致命的な欠陥がある。

 俺の尊敬する人――師匠と呼んでもいい人――は、かつて言った。

 この世で女しか上手く扱えないものが三つある。『夜泣きした赤ん坊』、『童貞』、『IS』の三つだ、と。そう、ISは何故か女性にしか扱えないのだ。

 そう・・・俺が間違って入った部屋に置いてあったISを起動させるまでは。

「何でこうなるかなぁ」

 女にしか動かせない試験用のISを男の俺が起動させてしまった事は世界的に話題になり、テレビの取材が来たり、変な黒い服のおっさん達が来たりして、俺はこのIS学園に入学してしまった。その時、家族として妹――モザイクかかってたけど――のコメント。

『非常識な人だと思ってましたが、ここまで非常識だとは思いませんでした』

 と、全国ネットで俺が非常識な人間だと言いやがった。

 で、現在、世界でISを動かせる男は俺一人。当然ながらこの学園にいる人間は、教師も含めて全員女である。俺の事は『世界初のISを動かせる男』として既に認知されており、道行く女子達の視線は全て俺に集まってくる。

 生憎、俺にマゾッ気は無いので、視線に晒されても興奮はしない。だが、流石にこうも見られると気分の良いものではない。

「くそ・・・いっそ俺も女子の制服を着てくれば・・・」

「アホかお前は」

「む? 誰だ、人をアホ呼ばわりするのは!?」

 いきなり後ろから無礼な言葉を述べる人物に文句言ってやろうと俺は振り返った。

「! お、お前は!?」

 そこにいたのは、学園の制服を着て、長い髪をリボンでポニーテールにした女子だった。凛とした表情と佇まいは、まるで侍を連想させる。

「ひ、久し振りだな・・・い、一夏」

 そっと視線を逸らしながら俺の名前を呼ぶこの女子・・・間違いない。コイツは、俺の幼馴染。6年前、引っ越してしまったが、間違えよう筈がない。

「お前・・・チリトリぶほっ!!」

「箒だ!!」

 幼馴染の強烈なパンチが飛んできて、地面を転がる。地面に倒れる俺に向かって、幼馴染こと篠ノ之箒は、大股で歩み寄って来て胸倉を掴む。

「貴様、その呼び方で呼ぶのはやめろと昔言っただろう?」

「わ、悪い。久し振りに会ったから忘れてて・・・えっと・・・掃除機」

「箒だと言ってるだろうが!」

「いやでも他にもモップとか雑巾とかハタキとかあるし・・・」

「わざとか!? わざとなんだな!」

「でもまぁゴミ箱とかクズ籠を言わないだけ良心的と思わないか?」

「人の名前を間違って呼んでる時点で失礼だ!!」

 む。確かに一理あるな。だがまぁ今はそれより・・・。

「おい箒。注目されてるぞ」

「え? あ・・・」

 俺が目配せして箒も気付いたようだ。そう。今、俺達は周囲の生徒達から注目の視線を浴びていた。まぁこんな往来で男女が大声を張り上げていれば注目されるだろう。大声出してんの箒だけだけど。

 箒は手を離し、咳払いをすると俺を見据えて言った。

「そ、その・・・何だ。ひ、ひひ、久し振りだな・・・」

「お~。元気そうだな、箒。会えて嬉しいぞ」

「嬉し・・・!? ば、馬鹿! こんな人の前で・・・!」

「?」

 いや、そりゃ6年ぶりに幼馴染に会えたら嬉しいだろ。何で箒の奴、慌ててんだ?

「ふ、ふん!」

 箒は鼻を鳴らし、大股で歩いて行った。俺、あいつ怒らせるような事したか?

「しっかしまぁ箒が同じ学園とはねぇ・・・」

 だがちょっと考えれば、それも当然だと思う。何せ、あいつの姉ちゃんが姉ちゃんだしなぁ。

「っと。感慨に耽ってる場合じゃないな」

 初日から遅刻なんて流石に問題だな。中学の入学式で遅刻しかけて、体育館に自転車で突っ込んだのはいい思い出だった。後でお姉ちゃんに半殺しにされたけどな!




「先生。僕、席替えがしたいです」

 教室に入って俺は入って来た小柄で眼鏡をかけた童顔先生の山田真耶先生に申し出た。

「お、織斑君。まだ自己紹介もしてないのに・・・」

「先生、僕、目が良いんで後ろの席の人と変わりたいです」

 ちなみに俺と先生の現在の距離は1mもない。そう、つまり俺の席は、ど真ん中の列の最前席。教壇の真ん前である。当然だが、この教室に男子は俺一人。そして物珍しさからか教室中の女子の視線が集まってくるのを、ひしひしと感じていた。

「で、でもクラスが決まっていきなり席替えは・・・」

「じゃあ自己紹介するんで、その代わりに席替えを要求します」

「入学早々、教師に交換条件を求めないでください!」

「先生、俺にどうしろと言うんですか?」

「とりあえず自己紹介しますので、それまで待ってください。ね?」

 人差し指を立てて微笑む山田先生。う~ん、流石にそんな笑顔で言われては、俺も折れざるを得ない。あの人が言ってた男が究極に弱いものは『女性の笑顔』、『女性の涙』、『おかんの料理』、『エロ本』と言うぐらいだからな。何か俗物的なものが混じってる気がするけど、まぁ間違ってはいない。多分・・・。

 とりあえず出席番号順に自己紹介が始められる中、俺は何気なく自分の右側、窓の方の席を見る。そこには、先程、再会した幼馴染の箒が座っていた。箒も俺の視線に気付いてこちらを見たが、すぐにプイッと顔を窓の方に背けてしまった。

 くそ・・・箒のクセに俺をシカトするとはいい度胸だ。後で箒絞りの刑を6年ぶりに実行してやる。ちなみに箒絞りの刑とは、箒の腕を雑巾みたいに絞る、俗に言う雑巾絞りだ。単純に箒にするから箒絞りと呼んでいるだけだ。

「・・・・・くん。織斑一夏くんっ」

「はい、何でっしゃろ?」

 山田先生に呼ばれて返事をする。

「え? な、何で関西弁?」

「?」

「いや、そんな不思議そうな顔をされても・・・あの~。つ、次、織斑君の自己紹介の番ですよ。あの、『あ』から始めて、今、『お』の織斑君なのね。だからね、ゴ、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、駄目かな?」

「駄目と言われれば駄目。いいと言われればいい。だけど僕はノーと言える日本人になりたいです」

「え?」

「すいません。自分でも何言ってるか解んないです」

 勢いで適当に言ってみたが、たまに俺は自分でも何を言ってるのか良く解らん時がある。う~ん、ちょっとは考えてモノを言うべきだろうか?

 とにかく山田先生のご指名だ。自己紹介をするか・・・・いや別に順番回って来ただけで指名でも何でもないけど。

「え~・・・織斑一夏です。好きなおでんの具は大根です。以上」

 席を立って自己紹介して再び座る。直後、クラス中の女子がざわついて近くの席の連中と話し始めた。

「何で自己紹介でわざわざ好きなおでんの話を?」

「そうよね。普通は好きなものを言うはずよね。なのに何でおでんの具に絞ったのかしら?」

「そもそもおでんの具で一番美味しいのってコンニャクよね」

「え? 違うわよ。はんぺんよ」

「玉子でしょ、どう考えても!」

「あんた素人? 厚揚げ以外にあり得ないわ」

「牛スジの良さを知らないなんて人生の半分は損してるわ」

 あちこちでおでんの好きな具の話をする女子達。

 ちなみに俺の尊敬する人は、『美女の唾液の垂らした出汁をご飯にかけて食うのが旨い』と人として最低の発現をかましたりする。いや、あんま関係ないけど。

「おかしい・・・どうしてこうなった?」

「お前の所為だろうが、どう考えても」

 不思議に思っている俺だったが、いきなり頭を後ろから叩かれた。

「い・・・・! あれ?」

 痛い、と言う前に俺はある事に気付く。この一番痛い角度と絶妙な威力を俺は知っている。うん、何つーか物心ついた時から知っているようなこの感触は・・・恐る恐る顔を上げる。

「げえっ! 華雄!?」

「微妙過ぎるわ」

 パァン! また叩かれた。好きだけどなぁ、華雄。お茶漬けの次くらいに。

 いやでも・・・俺は再び顔を上げる。スラッとしたボディに、長い黒髪。切れ長の鋭い眼光に、黒いスーツが良く似合うこの女性・・・ってゆーか、俺の姉の織斑千冬こと千冬姉だった。

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「山田君、座布団ほぐ!!」

「お前は黙ってろ」

 山田と言う名前を聞けばお約束で言わなければならない俺のボケを千冬姉が出席簿で頭を叩いてきて黙らせる。

「諸君。私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事を良く効き、良く理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は若干15歳を16歳までに鍛え上げる事だ。逆らっても良いが、私の言う事は聞け。良いな」

 それってつまり『誰も俺に逆らうな!』って言ってるようなもんじゃん。つか、明日16歳になる奴はどうすんだ? 1日で鍛えるのか? ・・・・・・やりそうだなぁ、この人なら。

 俺が怪訝な顔をしているのを他所にクラス中からは黄色い歓声が湧いた。

「キャーーー! 千冬様! 本物の千冬様よ!!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園から来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様の為なら死ねます!」

 人気者だなぁ千冬姉。でもまぁ当然か。千冬姉は、第1回ISの世界大会『モンド・グロッソ』の優勝者だ。つまり世界最強のIS使いという訳なんだな、これが。しかも知人関係で、ISの事についても、そこらの技術者より詳しいし、良く考えりゃ教師としてこれ程、適した人はいないか。人格は別問題として。

 そんな人気者の千冬姉だが、当の本人は重い溜息を吐いた。

「毎年、良くもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 隠そうともしない容赦の無いお言葉。普通なら此処で生徒は心を折られたり、暴言教師と評価を下げたりするが・・・。

「きゃあああああああ!!! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくて~!」

「そして付け上がらないように躾をして~!」

「私、鞭で叩いて欲しいです~!」

「蝋燭でも構いません~!」

「ギャグボール・・・! ギャグボールが鞄の中に・・・!」

 このクラス、何か怖い。変態のるつぼか、ここは? クラスメイトに戦慄を覚えた俺は、ここから避難すべく立ち上がった。

「先生、僕身内が危篤なんで帰って良いですか?」

「身内を目の前に堂々と解る嘘をつくな!」

 パァン! また叩かれた。

「え? 身内ってもしかして・・・」

「織斑君って、あの千冬様の弟?」

「じゃあ世界で唯一男でISを使えるっていうのも・・・」

「ああっ! いいなぁ代わって欲しいなぁ!」

「私も織斑君叩きたいなぁ」

「あ、私、鞭持ってるわよ」

「私はどっちかって言うと叩かれたい・・・」

 やっぱこのクラス怖い。俺がもしドMになったら、このクラスの女どもの仕業だ。

「で、織斑。何でお前は自己紹介に、わざわざ好きなおでんの具なんて言った?」

「千冬姉も大根好きだよな?」

「ああ。熱々でホクホクの大根に出汁が染みて、これがまた日本酒に合う・・・って何を言わせる!!」

 パァン! また叩かれた。

「学校では織斑先生と呼べ!」

「はい・・・」

 僕のお姉ちゃんは怒りんぼです。



[27903] 第二話 織斑一夏という男
Name: 改太◆853c263a ID:da7e6e21
Date: 2011/05/21 07:22
「う~む・・・」

 高校初日の初授業を終えて休み時間。俺は何となく教室に居辛かった。
 ちなみにこの学園、ゆとり教育に真っ向から喧嘩を売ってるかの如く、入学式のある日から授業をするというスケジュールだった。
 で、休み時間だが廊下では他のクラスの女子やニ、三年の先輩がたむろっている。
 というか野次馬である。
 というか俺目当てである。
 というか世界で唯一ISを使える男の俺が物珍しいのである。
 というか、というかって言い過ぎである。
 後、であるで終わるのも多過ぎである。

「何か寂しい・・・」

 注目されているが、話し掛けて来る女子は皆無。多分、皆男子に免疫が無いんだろうな~。
 IS学園は世界でここしかない。で、ここに入学する女子は既にISの基礎知識を中学の時点で学んでいる。更にISは女しか使えないので、つまりこの学園にいる女子はまず間違いなく女子校出身だ。だって男のいる学校でISの授業なんてある筈ないじゃん。
 んでもって女の園出身の女子ばかりだから、俺みたいな男は珍しいから好奇の対象になってしまっている。
 つまりアレだ・・・珍獣扱いだ。エリマキトカゲやツチノコみたいな感じ。

「暇だな~・・・練りケシでも作るか」

 中学時代、良く退屈な授業の時は練りケシを作って遊んだものだ。いつの間にか消しゴム全部消費して、野球ボールを作ったら先生に感心された。すげー苦い顔してたけど。

「うん、何だか久し振りに燃えて来た・・・オラ、わくわくっすぞ」

 俺の芸術家魂に火がついた! 早速、作業に取り掛かろうと消しゴムを取り出そうとしたその矢先だった。

「ちょっと良いか?」
「ん? 箒か」

 いきなり話しかけられたので顔を上げると、そこには箒が仏頂面で立っていた。

「ちょっと待て」
「?」
「これから練りケシ作って遊ぶ」
「小学生かお前は!」

 失敬な。つい最近までやってたぞ、俺は。ってか今からする所だし。

「良いからついて来い」

 箒のクセに俺の遊びを邪魔するとはいい度胸だが、俺は大人でジェントルメンだ。仕方ない。ここは6年ぶりに再会した幼馴染の顔を立ててやろう。
 箒の顔を立てて、更に席を立った俺は、箒と教室の外に出る。廊下に出ると、集まっていた女子達が一斉に左右に分かれた。おお、モーゼみたいだ。
 とまぁ廊下に出て、皆が離れたのは良いが、しっかり聞き耳は立ててるなぁ。別に内緒話とかするわけじゃないけどな。

「そういや箒。お前、去年の剣道大会優勝したんだな。おめでとさん」
「・・・・・・・」

 そう言うと、箒は驚いた様子で俺を見てきた。

「・・・・・・何で知ってる?」
「妹に聞いた。あいつもまだ剣道やってるからな」
「秋七(あきな)か・・・」
「しかし箒が全国優勝な~。お前、俺に一度も勝った事ないのにな」

 箒の家は剣術道場で、俺も千冬姉も秋七も通っていた。その頃の箒は、俺に負けっ放しでしょっちゅう俺に勝負を挑んで来ていた記憶がある。

「今やったら私が勝つ」
「だろうな~。俺、剣道やめて結構経つし」

 めんどいからやらんが。
 で、俺の言った事が気に食わんのか箒はますます怖い目で睨んで来た。

「ったく。お前は折角久し振りに会ったのに、そんな顔しか出来んのか?」
「悪いか?」
「ああ、悪い。気分悪い」
「な・・・!」
「俺は久し振りにお前に会えて嬉しい。けど、ずっとお前が仏頂面だと気分が悪い。何か文句あっか?」

 別に昔みたいに仲良しこよし、一緒にお手手繋いで帰りましょうなんて展開は望んでないが、折角、再会したのに箒は、ずっと不貞腐れたままだ。気に食わない事があるなら言えば良い。まだ15年しか生きていないけど、不満を溜め込んで良い事は無いのは知っている。
 だから俺は自分のしたい事はするし、思った事は言う。だから俺は今の自分の気持ちを正直に箒にぶつけた。

「も、文句など・・・わ、私だって、その・・・う、嬉しくない事は・・・ない」

 仏頂面から一転、頬を染めて照れ臭そうに言う箒。
 何だ。嬉しいならもっと笑えば良いのに。少なくとも仏頂面よりもずっと良い。

「そか。そりゃ良かった。じゃ、そういう事で」
「って待て! も、もう戻るのか!?」

 教室に戻ろうとしたら呼び止められた。

「ああ。練りケシ作って遊ぶつもりだったし」
「お、お前は私と練りケシ、どっちが大事なのだ!?」
「そんなカツ丼とカツカレー、どっちが好きかみたいな質問すんなよ。難しいじゃねぇか」
「難しくない! 断じて難しくない!」

 すげー怒って箒は詰め寄って来た。

「じゃあ箒は、俺と期間限定海の幸盛りならどっちが大事だよ?」
「そんなのお前に決まってる!」
「は?」
「・・・・・・・」

 暫く時が止まった気がしたが、突然。箒の顔がボン、と赤くなった。すると箒は両手と首を大袈裟に振った。

「あ、い、いや! 違うぞ! た、食べ物と人を比べてはいけないという意味だ! だ、だからだな! べ、別にお前が一番大事とかそういう意味ではない! 断じて違う! いいな! 勘違いするな!」
「ああ、うん。そりゃまぁそうだ」

 確かに言われてみれば俺も箒と練りケシを比べてしまったが、こいつの言うように人と物を比べるのは良くないな。うん。
 しかし箒の奴、そこまで念押ししなくても充分解ったっちゅうに。

「どっちにしろ休み時間じゃ大した話も出来ないだろ。とっとと教室戻るぞ」
「む・・・わ、解った」

 主導権を握ってるようで何だかんだで最終的に俺の言うことを聞く箒は、やっぱり変わっていなかった。




「――――であるからして」
「すー」
「ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり」
「すかー」
「わ、枠内を逸脱したIS運用をした場合は」
「すこー」
「け、刑法によって罰せられ・・・あ、あの、織斑君」
「すひゅ~」

 山田先生の授業を聞きながら心地良い睡眠を貪る俺。現在、夢の中の俺はフルー○ェ(イチゴ味)のプールをバタフライで泳いでいる。

「せ、先生、最前列の席でここまで堂々と寝ている生徒は初めて見ました」
「山田先生、変わろう」
「あ、織斑先生」
「起きろ馬鹿者」

 パン!
 お姉ちゃんのキツい目覚ましで俺はフルー○ェまみれの夢から目が覚めた。

「・・・・・・フルー○ェが食べたくなった」
「貴様、授業を何だと心得ている?」
「昼飯までの準備時間」
「歯を食い縛れ」

 クリップボードを大きく振り被る千冬姉。勢い良く振り下ろして来る姉の攻撃を、俺は咄嗟に教科書で防御する。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・しっ!」
「甘い!」

 連打でクリップボードで攻撃して来る姉の攻撃を、俺は尽く防御する。

「織斑! 教科書は防御する為のものではないぞ!」
「クリップボードだって攻撃用じゃねぇよ!」
「教師の攻撃は防御してはいけないと法律で決められている!」
「んな法律聞いた事ねぇ!」
「後、姉の攻撃を防御した弟は死刑と憲法一条で定められている!」
「一条から弟の人権無視した憲法なんざねぇよ!」
「あ、あの織斑先生、織斑君! ふ、2人ともやめてください!」

 激しい姉弟の攻防を見ていた山田先生が止めに入る。少し息を切らした千冬姉が攻撃の手を止め、俺を睨みつけて言った。

「織斑、教科書三十四ページの内容を言ってみろ」
「シールドバリアーの運用的な活用方法」
「六十七ページ」
「飛行時における慣性制御」
「二百五十四ページ」
「拡張領域に装備できるパッケージ(遠距離武器・実弾編)」

 質問にスラスラと答えると、千冬姉が苦虫を噛み潰したような顔をする。弟を何て目で見やがる。

「・・・・・・中身、全部覚えたのか?」
「はい! 授業中、堂々と寝れるように努力しました! これなら先生も安心でしょ?」
「織斑君、努力の方向性が果てしなく間違ってます!」

 おかしいな。中学の時は先生が「お前は凄い奴だなぁ。感心するぞぉ」と言っていたのに・・・明後日の方を見ながら。
 千冬姉は溜息を吐くと、背中を向けた。

「もう良い。寝たければ好きにしろ」
「ちょ、ちょっと織斑先生・・・」
「ただし、私は明日からペンチを持ってくる」
「何で?」
「・・・・・・足も合わせれば二十回か・・・」

 これからは真面目に起きて授業を受けようと俺は固く誓った。




「ちょっとよろしくて?」
「よろしくてよ!」
「は?」
「ん?」
「な、何であなたが不思議そうな顔をしますの?」
「解りません」

 ニ時間目の授業が終わって休み時間。十円玉を縦に重ねて遊んでいると、長い金髪の生徒が話し掛けて来た。何か珍しい話し方をして来たので俺もそれに乗って返したが、良く解らなくなった。
 で、俺に話し掛けて来た奴はというと、ちょっとロールした金髪に、白人特有の白い肌と青い瞳。腰に組んでいる手は実に高圧的なのだが、それが様になっている辺り、高貴な印象を窺わせる。

「アンタ誰?」
「わたくしを知らない!? それ本気で言ってますの!?」
「俺はいつだって本気だ」

 面倒な事は手を抜くが!

「わたくしはセシリア・オルコット! イギリスの代表候補生にして、入試主席ですのよ!」

 ふむふむ。代表候補生か。それなら、この偉そうな態度も頷ける。ISは女しか扱えないという事で、現代社会で女性の地位は男性よりもかなり高い。完璧な女性優遇、女尊男卑社会だ。で、女性もまた男性が自分達より下と見ている連中が多いので、この目の前の奴みたいに尊大な態度を取る奴は多い。
 で、更にISは名目上はスポーツ競技だが、その国の軍事力でもある。そんでもって、各国には、ISを使う国家代表というのがいる。まぁ要はその国で一番のISの使い手がいて、代表候補生は文字通り、その候補というわけだ。

「で。その背尻悪さんは俺に何の用だ?」
「・・・・・・・気のせいか、今、わたくしの人生において凄まじく不名誉な呼ばれ方をされた気がしますわ」
「女性の背から尻にかけてのラインは、男の夢へと続く道である、と昔どっかの偉い人が言ってたような言ってなかったような」
「あなた、わたくしをバカにしてますの!?」
「いや、たまたま昔読んだ本の一説を思い出しただけだ」
「何でこのタイミングで思い出して言うのか、本当にそんな本があるのか小一時間問い詰めてやりたいですわ」

 確か自費出版したけど、全然売れなかったと言ってたな~。
 セリシアさんとやらは、疲れた様子で髪をかきあげて言って来た。

「全く。唯一、男でISを起動させたというからどんなのかと思って来てみれば、とんだ期待外れですわ」
「一体、俺の何に期待してたんだ?」
「ふん。まぁでも、わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
「あんたの優しさで喜ぶのはマゾかMぐらいだ」
「マゾもMも一緒ですわ!」
「ちなみに俺はどっちかって言うとSなんだけど」
「聞いてませんわよ!」

 俺の発言を聞いて、クラスメイトの何人かが頬を染めて、ガッツポーズとかしてるのは何故だろう?

「ISの事で解らなければ、まぁ泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートですから」
「教官なら俺も倒したぞ」
「・・・・・・・は?」

 セシリアさんが目を点にする。クラスメイト達も驚いた顔で俺を見てくる。

「いや、『アレは何だ!?』と他所に注意逸らしてる間に、一発打ち込んだら終わって・・・」
「「「「「「汚っ!!」」」」」

 失礼な。効果的な戦術と言って欲しい。まぁ俺も、あんな幼稚な手に引っ掛かるとは思わなかったが・・・キョロキョロしてた教官の山田先生がちょっと可愛かった。

「そ、それで、恥ずかしくありませんの!?」
「・・・・・・(ぽっ)」
「そこで何で頬を染めるのですか!?」

 恥ずかしくないかと聞かれて、つい昔の恥ずかしい思い出が蘇ってしまった。
 と、そんな事をしている内に休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。

「ま、また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
「・・・・・・ふ」
「な、何で意味ありげにニヤリと笑うのですか!?」
「さて、何故かな?」

 実は特に意味は無かったりするのだった。



「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 一、二時間目と違って、山田先生ではなく、千冬姉が教壇に立って授業をする。

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな」

 途中で千冬姉が思い出したように言う。

「クラス代表者とは、そのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・まぁクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」

 ふむ。つまり・・・面倒な事だと言うのは良く解った。面倒ごとに手を抜く事に関しては、神懸り的とご近所でも評判だった俺だ。こういう時は適当に誰かが決まるまで暇潰ししておくのがベストだ。
 良し、パラパラ漫画でも描いて時間を潰そう。俺はクラス代表が決まるまで、ノートの端っこにパラパラ漫画を描く事にした。

「はいっ! 織斑君がいいと思います!」
「私もそれがいいと思います!」
「織斑君に一票!」
「寧ろ織斑君に!」
「ってか織斑君しかいないと思います!」
「――――――だ、そうだが織斑?」
「へ? 何が?」
「代表者候補だ。推薦でお前が挙がってるぞ」
「へ~」
「・・・・・で? お前は何してるんだ?」
「パラパラ漫画」
「そうか。楽しいか?」
「割と」
「何を描いてるんだ?」
「犬の散歩をしてる人が、足を踏み外して崖から落ちて行くシーン」
「楽しいのか?」
「実は余り楽しくない」
「そうか」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・って俺がクラス代表!?」
「遅い!!」

 パパァン!
 ニ連続で叩かれた。超痛い。

「さて他にいないか? いないなら、このバカが無投票当選だぞ」
「ちょっと待った先生! 誰がバカだって!?」
「織斑君、そこに食いつきますか」
「お前以外に誰がいるかバカ? というか座れバカ。黙ってパラパラ漫画してろバカ。後・・・バカ」

 たまにこの人と本当に姉弟なのか疑う時がある。古今東西、ここまで弟をバカと連呼する姉はそうはいないだろう。俺のガラスのハートはもう崩壊寸前だった。

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 その時、机をバンと叩いて異議申し立てをする人物が一人。おお、セシリアさんではないか。良し、行け。俺は全力で君を支援するぞ!

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと、そう仰るのですか!?」

 あれ? 何気に俺、罵倒されてね?

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由でこんなバカ・・・いえ、バカにされては困ります! わたくしは、このような島国までIS技術の修練に来ているのであって、バカの下に立つ気は毛頭ございませんわ!」

 うん、俺のガラスのハート、完全に砕けたヨ。バカって言い直そうとして、結局バカって言ってるし。

「いいですか? クラス代表は、実力トップがなるべき・・・そしてそれはわたくしですわ!」
「なるほど。確かにオルコットの言う事は尤もだ。だが、それならこのバカが代表でも何ら問題は無いな」
「え? ど、どういう事ですの?」
「コイツの実力はクラスでトップという事だ」
「な・・・!?」
「納得出来んか?」
「出来る筈ありませんわ!」
「なら論より証拠。実戦で試してみるといい」
「望む所ですわ!」
「織斑も構わんな?」
「・・・・・・・・・」
「あ、あの織斑君?」
「ねぇねぇ。僕ってバカなのかなぁ?」
「何、子供っぽく言ってキャラ作ってるんだ。キモいぞ」

 パァン!
 千冬姉のクリップボードがまた炸裂する。恐らく、千冬姉のISはクリップボードだ。しかもメイドインジャパンと来たもんだ。

「と、いう訳で勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
「え? 何? 何なの? What?」

 一体、俺の意識が飛んでる間に何があったと言うのだ?



「良し! 放課後だ!」

 放課後、漸く授業が終わって俺は席から立ち上がる。何か知らない間に俺とセシリアさんが、クラス代表の座を懸けて争うことになったらしい。面倒なので辞退しようとしたけど、セシリアさんが怒って『逃げるなんて許しませんわ!』と言って聞かなかった。俺、何か怒らせるような事したかなぁ?
 身に覚えの無い難癖を付けられて決闘する事になってしまったが、まぁ一週間あれば向こうの怒りも収まるだろうし、適当に流せば良いだろう。

「さて帰るか」

 ちなみに放課後だと言うのに教室の周りには、相変わらず廊下には俺目当てで野次馬な生徒達で溢れ返っている。昼休みになると、食堂に全員付いて来るし、どこに行っても注目される。何つーか凄い息苦しい。

「ああ、織斑君。まだ教室にいたんですね。良かったです」
「はい?」

 呼ばれて振り返ると、山田先生が書類片手に教室に入って来た。

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 そう言って、部屋番号の書かれた紙とキーを渡す山田先生。

「Why?」

 受け取りながら思わず英語で聞き返す俺。IS学園は、その性質上、生徒の保護目的として全寮制となっている。これは、この学園があらゆる国の干渉を受けないという事から、こうして生徒の安全を確保する為の措置だ。いや、それはまぁいいんだけど・・・。

「俺、確か一週間は自宅から通うんじゃなかったっけ?」
「そうなんですけど事情が事情なので一時的な処置として、部屋割りを無理矢理変更したらしいです。織斑君、その辺りの事って政府から聞いてます?」

 最後の方は俺にだけ聞こえるよう耳打ちしてきた。
 俺が受験の日にISを起動させてしまった後、自宅にはマスコミや各国大使や遺伝子工学の研究者とか色んな連中がやって来た。すげーウザかったので、家の前にブービートラップ仕掛けて、何日かすると何か黒い服着たオッサン達が倒れてた。邪魔だったからゴミ捨て場に、燃えるゴミと一緒に置いて来たけど。あの後、千冬姉にすげー怒られた。

『お前はどこでブービートラップなんて覚えた!?』
『悪戯に使えると思って・・・』
『兄さん、そういう事覚える前に、もっと覚えないといけないのあると思うけど・・・』
『九九とか?』
『『覚えてないの!?』』

 冗談のつもりだったのに、何故か姉と妹は本気で驚いていた。俺の学校の成績は良かったの知ってる筈なんだけどなぁ。あ、でもたまに七の段で詰まる時があるなぁ。

「そう言う訳で政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。一ヶ月もすれば、個室の方が用意できますから、暫くは相部屋で我慢してください」
「はぁ・・・まぁそれは良いんですけど、荷物取りに帰らないといけないんで今日は帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら・・・」
「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 いつの間にか来ていた千冬姉が凄く恩着せがましそうな顔で言って来た。

「まぁ生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」
「え? 机の引き出しに入れておいたワイヤーと十得ナイフとコショウ爆弾と改造エアガンと、天井裏に隠しておいたエロ本は?」
「お前どんな生活を送る気だ? あ、ちなみに天井裏にあった本は全てゴミに出した」

 な!? ひ、酷い・・・思春期真っ盛りの男の子の性書・・・じゃなくて聖書を燃やすなんて! ・・・・・・まぁいいや。殆ど弾から借りパクしてたヤツだし。俺の本命は壁紙で偽装して、壁に縫い付けた一級品だ。そうそう見つかりは・・・。

「ああ、それと壁に偽装してあった本は燃やしておいたぞ」

 俺の姉は悪魔だ。

「じゃ、じゃあ時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど、えっと、その・・・織斑君は今のところ使えません」
「え、何でですか?」
「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
「あー・・・そっか」

 そういやここって俺以外に女子しかいないんだった。

「流石にまた女装して風呂入るのも難しいしな・・・」
「え? あの、それってどういう・・・」
「いえね。中学時代、修学旅行で男子どもが女子風呂覗きに行こうとしたんですけど、それじゃあ時代遅れだと思って、女装して堂々と女風呂入ったんですよ。いや、意外と気付かれないもんですね。あはははは」
「ほお?」
「・・・・・・・あ、ヤベ」

 千冬姉にもバレてない数少ない俺の戦績をつい口走ってしまった。ひい! 怒ってる! 千冬姉、物凄い怒ってる!

「聞いた?」
「ええ、織斑君、女装して堂々と女子とお風呂に入ったそうよ」
「も、もしもの事を考えて、ちゃんと体を綺麗に洗わないと」
「そうね。後、防水カメラも用意しないといけないわ」

 何かちらほら聞こえるクラスメイトの発言が妙に怖い。

「織斑・・・その話、詳しく聞かせて貰おうか?」
「ゴ、ゴメンなさい・・・わ、私、一人でお風呂に入るの寂しくて(超裏声)」
「わ、織斑君、女の子の声みたいです」
「初めまして。織斑一夏子です。よろしくお願いします(超裏声)」
「ふん!」
「あべし!」

 千冬姉の黄金の右ストレートは健在で、正確に俺の顎を狙って来た。



「えーとここか。1025号室」

 砕けたのかと錯覚してしまうぐらい痛い顎を擦りながらメモに書かれた部屋の扉の前に立ち、鍵を差し込む。
 ガチャ。

「あれ? 開いてる」

 もう誰か入ってるのかな?
 中に入ると、まず目に入ったのは大き目の二つ並んだベッド。そこらのホテルのものより大きい。これが税金で作った力か。とりあえず荷物を床に置いて、ベッドに腰掛ける。あ、意外とフカフカだ。

「誰かいるのか?」

 突然、奥の方から声が聞こえた。妙に反響した声だ・・・そう。まるで風呂場のドアの向こうからの声みたいだ。

「・・・・・あれ?」
「ああ、同室になった者か。これから一年、よろしく頼むぞ」

 声がクリアになる。どうやらドアの向こうから出て来たらしい。

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之・・・」
「箒」

 シャワー室から出て来たのは、今日再会した幼馴染だった。シャワーを浴びていた箒は、俺が女だと思ってたのか、バスタオル一枚を巻いた姿だった。うわ、箒の奴、暫く見ない間に成長したな・・・主に胸が。千冬姉よりデカくね、アレ?

「・・・・・・・一夏?」

 キョトンとした様子から俺の名前を言う箒。マズい。ここは何とかして誤魔化さねば。誤魔化すことにかけては天才的だと、近所の園児達から尊敬の眼差しを受ける俺だ。これぐらい容易い。

「コホン。初めまして。同室になった織斑一夏子です(超裏声)
「チェストオオオオオオオオ!!!!!!!」

 ニコリと笑いかける俺に箒は、自分の鞄から伸びていた木刀を掴んで斬りかかってきた。って、危ね!
 紙一重で避ける俺。

「お、落ち着け箒! そうだ! 掌に人の字を書いて飲んで・・・」
「こっちを見るなああああああああ!!!」
「見てなきゃ何されるか解んねぇだろ!!」

 今度は突きを放ってきた木刀を、顔を横に逸らして避ける。こ、こいつ今、正確に眼球狙ってなかったか!?

「な、何でお前がここにいるんだ!?」

 ブン!

「そりゃ俺もこの部屋だからだよ!!」

 ヒュッ!

「何でだ!?」

 ブン!

「先生が言ったからだ!!」

 ヒュッ!
 箒の剣戟を避け続ける俺だが、マズい。このままだと箒の激しい動きで、バスタオルが肌蹴る。それだけは阻止しないと。俺は、箒が木刀を振り上げた瞬間、箒の手首を掴んでそのまま捻って、木刀を落とさせる。更に背後に回り込んで、箒の片腕を捻って、片手で口を塞ぐ。

「むぐ!?」
「落ち着け箒。まずは落ち着いて話をしよう」

 ガチャ。

「篠ノ之さ~ん。何か今大声聞こえたけど何かあ・・・」

 さっきの箒の大声を聞いたんだろう。女子が一人、扉を開けて固まった。
 ちなみに現在、この部屋の光景は・・・。
 裸にバスタオルを巻いただけの箒。
 その箒の腕を背中で捻り、後ろから口を塞いでいる俺。
 あれ? 何か俺、犯罪者っぽくね?

「え~と・・・うん。そういうプレイもありかな・・・み、皆にも言っておくわ」

 バタン。
 微妙な理解のされ方をして、扉が閉められる。

「ま、待て待て待て待て!! 違う! これは違うぞ!!」
「ってうぉい箒! お前、服着ろ服ーーー!!」
「来るなーーー!!」
「げはっ!」

 箒を追いかけようとした所で彼女の強烈なローリングソバットが炸裂する。微妙に見えそうで見えなかったのが悔やまれた・・・。



 その後、何とかさっきの女生徒の誤解を解き、箒は寝巻き――浴衣――に着替えて俺と反対側のベッドに腰掛けている。

「お前が私の同居人だと?」
「そうみたいだな」
「ど、どういうつもりだ?」
「は? 何が?」
「だ、男女七歳にして同衾せずという言葉を知らんのか!? 常識だぞ!」

 それいつの時代の常識?
 だがまぁ十五歳の男女が一緒の部屋で住むのは問題かなぁ。

「お、お、お・・・」
「お?」
「お前から希望したのか・・・・? 私の部屋にしろと・・・」
「いや、先生から言われたからこの部屋に来ただけだ。さっき言っただろ?」

 まぁ混乱してて聞いてなかったと思うが・・・。
 俺が答えると、箒は何故か渋面を浮かべた。

「そうか・・・」

 何でか落ち込む箒。怒ったり、しょんぼりしたりと良く解らん奴だ。

「だが決まってしまったものは仕方が無い。その・・・い、一緒に暮らす上でのだな・・・き、決まりとかあるだろう・・・」
「ああ、そうだな。とりあえず俺のことは気軽にイッチーと呼んでくれ。俺もお前のことを箒と呼ぶからさ!」
「そんなのよりもっと優先すべき事があるだろう! 後、お前は普通に箒と呼んでるだろうが!」

 おお、これは盲点だった。箒は疲れた顔で溜息を吐く。

「まずはシャワー室の使用時間だ。私は七時から八時。一夏は八時から九時だ」
「え? 俺早い方がいいんだけどなー」
「わ、私に部活後そのままでいろと言うのか!?」
「部活? ああ、剣道部か」
「そ、そうだ」
「でも部室棟にシャワーぐらいあるだろ」
「わ、私は自分の部屋で無いと落ち着かないのだ!」

 むう。譲らんな箒の奴。だが俺も風呂好きじゃそこらの素人には負けないぜ。俺だって早い時間にシャワーがしたい。出来れば箒と同じ七時から八時・・・・お、そうだ。

「素晴らしい名案があるぞ、箒!」
「何だ?」
「俺が夜の七時から八時に使って、お前が朝の七時から八時にシャワーを使えば万事解決じゃないか、うん!」
「アホか!!」

 ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見したぐらいの俺の偉大な閃きをコイツはアホの一言で済ませやがった。

「ん? そういえば箒。ちょっと気になったんだが・・・」
「今度は何だ?」
「いやな。この部屋ってトイレないよな?」
「ああ。各階の両端に二ヶ所あるだけだな」
「当たり前だけど、全部女子トイレだよな?」
「ああ・・・・・・そうだな」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・(ちらっ)」
「何故、ベランダを見る?」
「いや、立ちション・・・」
「死ねぇ!!」
「うお!?」

 いきなり木刀を振り下ろして来た箒の攻撃を回避する。

「ま、待て! 女子トイレでするより良いだろうが!」
「当たり前だ! だが、乙女の部屋のベランダでするなどどういう神経してるんだ!」

 普通、乙女は『死ね』と言いながら木刀は振り回さないと思う。

「じゃ、じゃあお前は俺が膀胱炎になってもいいと言うのか!?」
「・・・・・・・」
「否定しろよ!」

 俺の幼馴染は暫く会わない間に冷たくなってしまった。
 だが俺もこのまま何度もどつかれて終わる訳にはいかん。丁度、箒の鞄から竹刀が見えたので、対抗する為にソレを引き抜く。

「あ・・・!」
「さあ来い!!」

 片手に竹刀を持って構える俺。が、箒は何故か固まって顔を赤くし、口を金魚みたいにパクパクさせていた。

「ん?」

 そこで俺も竹刀の先端にあるものが引っ掛かっていることに気が付いて、手に取ってみる。大きな穴が一つに、小さな穴が一つ。小さなリボンの飾りが付いている純白のコレは・・・。

「か、か、か、返せーーー!!!」

 顔を真っ赤にしたまま、箒は木刀をベッドに投げ捨てて竹刀の先端のモノを奪い取る。アレってまさか・・・。

「箒・・・」
「な、何だ?」
「・・・・・・パンツ、するようになったんだな」
「ずっと昔からしとるわーーーーーー!!!!!!!!!」

 どごすっ!
 女の子から踵落としを受けたのは初めてだった。




「と、いう訳なんだ」
≪兄さん、それ普通に兄さんが悪いから≫

 俺は携帯で妹の秋七に今日の事を話していた。今日は普通に家に帰る予定だったが、いきなり寮で生活することになったからな。まぁその辺の連絡は千冬姉が既にしてたみたいだから驚いてないけど。

「けどビックリするよなぁ。千冬姉が先生だし、箒と一緒の部屋だし・・・」
≪箒ちゃんは私も驚いたけど、姉さんのことは知ってたから別に驚かないよ≫
「・・・・・・は?」

 おい、ちょっと待て。今、この妹は何て言った?

「おい、秋七。お前、千冬姉がここで教師してたの知ってたのか?」
≪うん≫
「何で!?」
≪姉さんに聞いたから。『何の仕事してるの?』って。そしたら普通にIS学園で教師って言ってたよ≫
「な、何で教えてくれなかったんだよ!?」
≪だって姉さんに口止めされてたんだもの。兄さんには絶対に教えるなって≫
「あ、あの鬼姉・・・」

 以前、俺が質問したら『金を稼ぐ仕事だ』とかいう小学生みたいな答え方しやがったくせに・・・やっぱり一度、DNA鑑定をしっかりして貰うべきだろうか。

≪にしても女だらけの学校に入学して、幼馴染と再会かぁ・・・兄さん、何のギャルゲーの主人公してるの?≫
「違うからね。お兄ちゃん、一日目にして何度か死にそうな目にあったからね。ギャルゲーの主人公だったら、もっと美味しいシーンがあってもいいと思うんだよ」

 何せ今も死にそうな目にあってる最中だし。

≪ところで兄さん。箒ちゃん怒らせて、ちゃんと謝ったの?≫
「ああ・・・部屋に入れて貰えたら謝ろうと思う」

 その日、ベランダから見える星空は綺麗だった・・・・寒かったけど。


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