ただいま温度上昇中、余震で再臨界…福島3号機は危機的状況

2011.05.17


不気味な高温が続き、再臨界の怖れも指摘される3号機(エア・フォート・サービス提供)【拡大】

 危機的状況が続く東京電力福島第1原発で、1号機のほかに2、3号機でも、空だきされた燃料が高温で溶け落ちる「メルトダウン」が起き、圧力容器の底部が損傷している可能性が高まった。そのなかで最も不安なのは、猛毒のプルトニウムを生成する3号機。一時は336度まで温度が上昇するなど、溶け落ちた燃料が圧力容器を突き破って格納容器に漏れ出した恐れもあり、最悪の場合、再臨界の可能性も取りざたされている。

 メルトダウンで真っ先に恐れるべきは、燃料棒が溶けて、圧力容器の下の格納容器からさらに建屋にまで突き抜ける「チャイナシンドローム」。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は、「チャイナシンドロームみたいな状況ではない」と否定しているが、では今後、安定化への作業はどのように進むのか。原子炉安全設計が専門の川島協・前九州東海大学長はこう語る。

 「注入した大量の冷却水が汚染水として増え続ける現状を止めるには、汚染除去装置を可動させて、注入した水の循環を一刻も早く回復する。その目標は変わりませんが、どの原子炉も水位が正確に分かっておらず、どこから水を循環させたらよいのかすら分かっていないのが現状です」

 「仮に、汚染水の循環に成功したとしても、すでに明らかになったメルトダウンによって格納容器に穴が空き、常に放射性物質が出続けている恐れがある。いまは1号機は格納容器の温度が安定していますが、注水を続けないと安定しない綱渡り状態が続きます」

 圧力容器内部の放射性物質は、内部の圧力=温度が上がれば上がるほど、漏出する量を増す。温度が上がり続けている3号機は危機的状態なのだ。

 メルトダウンが起きているのではないか、との懸念は、同原発の電源喪失が明らかになった直後から世界中が懸念していた。だが、東電と政府だけは「あり得ない」と強弁し続けてきた。原子力技術協会の石川迪夫最高顧問は「溶けた燃料棒は圧力容器の下部でラグビーボールのような形状に変形しているのではないか」と話すが、本当のところは誰も分からない。

 本来、原子炉の燃料は連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こしやすくするために棒状になっている。その隙間に中性子を吸い込みやすい物質でできた制御棒を入れることで、臨界ギリギリで原子炉を運転したり、いざという時に短時間で臨界反応を止められるように制御されている。

 その燃料棒がすべて溶けてしまったら、隙間がなくなり、制御棒の効果はゼロ。ましてや、ラグビーボール状に集まっているとしたら、冷却に失敗すれば大規模な臨界反応が起きる恐れもある。実際、3号機の圧力容器の温度は異常な高温状態が続いている。15日にホウ酸を注入したことでいったんは下がったが、本来は100度前後で推移すべきところが、16日時点でまだ269度を記録するなど、危険な兆候は続いている。

 元日本原子力研究所那珂研究所長の飯島勉・高度情報科学技術研究機構参与はこう分析する。

 「メルトダウンの直後は、炉内の構造物と混ざり合った状態で溶岩のようなドロドロの状態になっています。それを受け止める圧力容器は鋼鉄でできており、融点は1600度。2800度に達すると、溶ける核燃料を支えることができずに穴が空く。溶けた核燃料の一部が格納容器へと落ちたなら、底の溜まり水と反応して小規模な水蒸気爆発を起こしながら、外側が固体となって沈んでいるのでしょう」

 ■新工程表が判明、建屋地下にコンクリ壁

 もし溶融した核燃料が一気に格納容器に落ちていたら、チェルノブイリに匹敵する大規模な水素爆発を引き起こしていたとみられるが、3号機で今後、再臨界が起きる可能性もゼロではない。圧力容器や格納容器の底でバラバラになって固まっている核燃料が、余震や冷却水の流れなど一定の条件を受けると、再臨界が起きる可能性があるからだ。

 「それを避けるために、東電は15日、中性子を吸収するホウ酸を注入したわけで、現状では再臨界の可能性は大きく下がったといえます。もし、起きるとすれば、溶けた燃料のウラン濃度が6〜7%を維持し、その中に溜まり水がうまく入り込んで組み合わさった場合が考えられます。2カ月を経た今も、圧力容器の内部の温度が下がってこないのは、溶けた形状が底部に薄く広がるような状態で、熱源の冷却がうまくいっていないのでしょう」

 福島第1原発の収束に向け、東電は17日夕刻、新たな工程表を発表する。格納容器に水をためる「水棺作業」を断念し、新たなシステムを作ることに軸足を移す見通しだ。

 1号機では格納容器が破損していることが判明し、水棺作業を中断。2、3号機でもメドが立たない中、新たな工程表では水棺作業を断念し、汚染されたたまり水となっている格納容器や原子炉建屋地下の放射性物質を含む汚染水を冷却・浄化し、原子炉に戻す「循環注水冷却システム」を構築するという。

 また、建屋から土中への汚染水漏出を防ぐため、建屋の地下の周囲にコンクリート壁を築き、地震・津波対策のため破損した1〜4号機のすべてで、原子炉建屋を補強する見込み。

 スケジュールについては、先に菅首相が明言したとおり、9カ月以内の原子炉冷温停止という最終目標を変えないという。

 

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